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異世界詐欺師のなんちゃって経営術  作者: 宮地拓海
誕生

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誕生4話 お見送りのその後に

 往復の時間、込みで、三十分。


「出来たさね!」


 ノーマが一人で戻ってきた。

 きっと、一緒に出ていった乙女たちは、今頃鍛冶場の床に転がっているのだろう。

 合掌。

 安らかに眠って間違っても化けて出るな。


「ほらご覧な。これでどうさね?」


 ノーマが依頼品を持ってくる。

 見た目をもっと華やかにしてもいいかもな。


「ベッコ。着色」

「合点でござる!」

「大小さまざまな丸で、躍動感とぷかぷか浮いてそうな浮遊感を表現しといてくれ」

「さらっと高難易度の要求でござるな!?」


 んだよ。

 出来んだろ?

 やれよ。


「このような感じでいかがでござるか?」

「ん、上出来」


 ほらみろ、やっぱ出来んじゃねぇか。

 出し惜しみしやがって。


「ヤシロ氏、こっちは毎回ギリギリのラインで死ぬほど緊張してるということを理解してござらぬのであろうな、あのお顔を見るに」


 死ぬほど緊張しても死んでないなら問題ない。

 緊張で死ぬヤツなんかいないからな。

 知らんけど。


「それで、ヤシロさん。それはなんなんですか?」


 新たに登場した謎の道具を見て、ジネットがわくわくした表情で尋ねてくる。

 ウェンディたちも期待に満ちた顔をこちらに向けている。


「これはな、こうして振ると――」



 からころから、がらがら、かららん♪



「わぁ! きれいな音ですね」


 赤ちゃんには必須の、いわゆる『ガラガラ』というヤツだ。


『ラトル』というのが正式名称らしいが、ラトルにはいろいろな形状があるので、この円筒形に持ち手がついたような、いかにもな形状のものは『ガラガラ』でいいと思う。


「俺の故郷ではガラガラって呼んでたな」

「あはは、そのまんまだね。分かりやすくて、ボクは好きだな、その名前」


 エステラが興味を持ち、「貸して」と手を伸ばしてくる。

 ノーマが二個作ってきてくれたので、一つをエステラに渡す。


「ほら、ヒカリ~、ガラガラだよ~」

「あっ、あぁ~」

「興味を示しましたね」


 音に反応して手を伸ばすヒカリ。

 その反応に、ウェンディとセロンもほっと安堵の表情を見せる。


 ウェンディに渡してやると、ガラガラと音をさせながら、赤ん坊をあやし始める。


「中に鈴でも入っているんですか?」

「まぁ、似たようなもんかな」


 ガラガラの構造は案外単純なのだが、初めて見た時は「なるほどなぁ~」と感心したものだ。


 ガラガラの本体、円筒形の筒の中には、長さの異なる鉄の棒が円を描くかの如く筒に沿うように立っている。

 その中央に鉄の棒を叩く円盤状の(ハンマー)がぶら下がっており、本体を振ることで中央の槌がぶらぶら揺れて鉄の棒を叩く。それによりがらがらと音が鳴るのだ。


 ドアベルのような構造だな。

 ほら、おしゃれな喫茶店や理容室で、「しゃらら~ん♪」ってきれいな音が鳴るドアベル。

 長さの異なる鉄の棒がぶら下がっていて、それが揺れてぶつかり合うことで音が鳴る。


 それに似た感じで、鉄同士のぶつかりによって音を鳴らすのだ。

 こっちは、中央の槌が鉄の棒を打っているわけだけれども。


 円形の鉄琴みたいなもんか。


「一応、木製のラトルもある」

「あるんッスか!?」

「ただ、結構技術がいる」

「オイラが作るッス!」

「いや、どっちかって言うと、ゼルマル案件なんだが」

「オイラが作るッス!」


 なんでそんなムキになってんだよ。

 張り合うなよ、同族で。


 木製のラトルは、木で作った檻の中に木のボールを閉じ込めて、振ればかちゃかちゃ音が鳴るものや、木の棒に木のリングを通し、リングが抜けないように上下にストッパーを付け、振るとカチャカチャ音が鳴るようなものがある。

 他にも、いろんな形状がある。

 要は、振って音が鳴ればいいのだ。


「ぬいぐるみのお腹に鈴を入れて、振ると音が鳴るタイプもあるな」

「それでしたら、わたしでも作れそうです」

「店長さん、鈴が必要ならいつでも言っておくれよ。こういうのは、母性あふれる女の方が得意だからねぇ」

「そうは決まってないッスよ! オイラだって、子供が喜ぶオモチャオを作ってみせるッス!」

「おもちゃは金物ギルドに任せなね!」

「大工が作るッス!」


 お前らはどっちもおもちゃ屋じゃねぇからな?

 ちゃんと仕事しろよ?


「そういや、揺り籠ってあるよな? どこぞの高級宿(笑)の名前にもなってるんだし」

「あるッスよ。オイラでも作れるッス」

「そうか。教会で見たことなかったから、ないのかと思った」

「はっ!? それは気が付かなかったッス! シスターに、すぐにでも作って寄付するッスとお伝えくださいッス!」

「いえ、ウーマロさん、そこまでお気遣いいただかなくても構いませんよ」

「いえ、あの、そんな、あの、はぶ、へぶ、へぶんっ」


 ウーマロが、ベルティーナに話しかけられて、緊張のあまりヘブンへ旅立った。

 へぇ~、緊張で死ぬんだぁ、人って。


「じゃあ、揺り籠のついでに、庭にハンモック作っといてくれ」

「なんです、お兄ちゃん、それ?」

「……マグダは知っている。森の中の監視小屋に設置されている、乗ると楽しい寝具」

「どのようなものなのか、興味があります。お高いのでしょうか?」

「大丈夫だ、テレサがいないいないばぁすればウーマロが作ってくれる。あぁ、いや、ハビエルが金を出して、ウーマロが作ってくれる」

「とーりょーしゃ、ないない、ばっ! はびえぅしゃ、なーいない、ばぁ~」

「よし、今すぐ作れトルベック! 金なら言い値を出してやる!」

「圧がすごいッスよ、ハビエル!」


 オッサンの圧で現世に舞い戻ったウーマロ。

 庭にハンモックとか出来たら、天気のいい日に日向ぼっこしたいんだよなぁ。

 ハンモックチェアとかどうだろう?

 ぶら下がってぷらぷら揺れる、ブランコみたいな椅子。

 自分の家にはいらないけど、出先で見かけたら一回は座ってみたくなるヤツ。


「棟梁さん。その揺り籠、二つ作ってセロンさんのお家へ届けてくださる? 私から、お二人のお子さんへのプレゼントにしたいわ」


 と、マーゥルが申し出る。


「へぅ、ぁ、いぁ、あの、わかっ、わかか……ッス!」

「あら、こんなオバサンでも緊張してくれるのね。うふふ、なんだか少し嬉しいわ」

「主様も私も、まだまだイケますわね。ね、ヤシぴっぴ☆」

「ハビエルバリアー」

「やめろぉ!」


 シンディから飛んできた投げキッスを、ハビエルの巨体で受け止める。

 危なかった。

 ハビエルの防御力がなければ貫通していたかもしれん。


「ダーリンに投げキッスするなんて、とんでもないバーさんだね。ダーリン、アタシからも――☆」

「ハビエルバリアー!」

「無理無理無理! あいつのは無理――ごぅっふぅ!」


 あっぶねぇ……ぎり貫通は免れたが、バリアーが砕け散った。

 九死に一生を得た……


「あ、あの、マーゥル様。そのように高価なものを……」

「大丈夫よ、セロンさん。それくらいはさせて頂戴。お子さんの誕生、私も本当に喜んでいるのだから。ね、ウェンディさん」

「ありがとうございます。体調が戻りましたら、改めてお礼に伺わせてください」

「そんなことは気にしなくていいのよ。それよりも、お家に招待してほしいわ。またこの子たちに会いたいもの」

「はい。是非」


 ホント、マーゥルはセロンを気にかけてるよな。

 親戚のおばちゃんポジションでも狙ってんじゃないか?


「それじゃ、ガラガラも出来たし、今度こそ帰れるな」

「「あ゛ぁぁああ!」」

「わがまま抜かすな、ガキども!」


「あ゛ぁぁ」じゃねぇーんだよ!

 もう帰れ!

 遊び道具作ってやったんだから!


「なんとか、これでなだめてあやして帰りたいと思います」

「まぁ、頑張れ」

「はい。それから、英雄様」


 セロンが背を伸ばし、俺に向かって頭を下げる。


「本日はいただいてばかりで感謝しかございません。ですが、僕たちからもお祝いの言葉を贈らせてください。お誕生日、おめでとうございます」

「あぁ。そっちもな」

「はい!」


 いい笑顔で言って、セロンたちは陽だまり亭を出ていった。

 盛大な見送りを引き連れて、庭に停めた荷車に乗り込むウェンディ。


 というか、どいつもこいつも赤ん坊を見送ってんだな。


「あ゛ー! あ゛ー!」


 相変わらずのギャン泣きが聞こえるが……慣れろ。

 それが親になった者への最初の試練だ。


 バレリアが荷車を曳き、セロンたちは帰っていった。

 そうか。

 セロン、あのサイズの荷車曳けるほど力ないもんな。

 バレリアが曳いてきてたのか。


 頑張ってるなぁ、お祖母ちゃん。

 よっぽど孫が可愛いと見える。

 こりゃ、しばらく四十二区に滞在するかもな。





 おぎゃおぎゃおーぎゃー、おーぎゃー。

 赤子を乗ーせーてー。

 おぎゃおぎゃおーぎゃー、おーぎゃー。

 荷車揺ーれーるー。


「やかましい泣き声だな。まだ聞こえてやがる」


 火をつけたように大泣きしている赤ん坊の声は、荷車が小さくなってもまだ風に乗って聞こえてきていた。


「よっぽど、てんとうむしさんと離れたくなかったんだね」


 ミリィが俺を見てくすくす笑う。


「え、まさか俺もう、オモチャをくれる知り合いのオジサン認定されてんの?」


 ガキが無条件で懐く他人の男なんて、それくらいのもんだしな。


「あながち間違ってないんじゃないのかい? 次から次へと面白いものを生み出してくれるお兄ちゃんなんだからさ」

「あのなエステラ。別に俺が――」

「生み出してるわけじゃないんでしょ。分かってる、分かってるって」


 お前、絶対分かってないだろう。

 めくるぞ、その短いスカート。


「エステラを見て思いついたんだが、太ももの見た目と柔らかさを完全再現して、その間に腕を突っ込んで出し入れする二の腕マッサージャーとか作れないかな?」

「ボクのどこを見て、何を思いついてるのさ!?」


 ばばっと、太ももを腕で隠すエステラ。

 腰が引けて前かがみになっても太ももすべては隠せない。


「やりましょう、親方!」

「ヤシロさん発案の新商品です!」

「今こそトルベック工務店、いや、トルベック連合の総力を結集するときです!」

「勝手に盛り上がるなッス! あと連合じゃないッス!」


 大工どもの大工魂に火がついた。

 そうか、太もも型腕マッサージャーは大工案件なのか。


「……まったく、ウーマロがいるから暴走はしないと思うけど、ウチの大工たちときたら……」


 真っ赤な顔で恨みがましそうに大工どもを睨みつけるエステラ。

 愛されてていいじゃねぇか、領主様よ。


「というわけで、完全再現のために、領主様っ! 是非ご協力を――」

「「「おねがいしゃっす!」」」

「ナタリア、排除!」

「はっ!」

「「「「ごめんなさい、冗談です!」」」」


 ごめんで済めば給仕長はいらないってな。


 悪ふざけが過ぎた大工たちは、きっちりとナタリアにお仕置きされていた。

 あいつら、ついさっきベルティーナの説教を聞いて「俺は真実の愛に目覚めた」とかなんとか抜かしてなかったか?

 ついさっき覚めた目、もう眠っちゃったっぽいな、どうやら。


「ベッコ~」

「なんでござるか?」

「アレのメンコよろしく」

「照れエステラ氏でござるな。心得た!」

「心得なくていいよ、ベッコ! もうボクのメンコは十分だから!」

「「「いえ、全力で買い支えます!」」」

「君たちは反省という言葉を知らないのかい、大工諸君!?」


 叱られてもなお懲りない大工たち。

 ナタリアはと言うと――


「この、ぎりぎりの角度から『煽り』の構図でお願いします。パンツが見えないギリギリのラインで、もっと下から、もっと、そう、そこです!」

「そこですじゃないよ、ナタリア! ベッコも床に寝転んで見上げないように!」


 んばっと、飛び退いて距離を取るエステラ。

 そんな機敏な動きをしても、スカートの裾はギリギリのラインでパンチラを許さなかった。

 この世界、何か規制入ってないか?

 普通見えるだろう、あんだけジャンプしたら!


「……おのれ、精霊神め」

「見当違いな怒り向けられとんなぁ、精霊神はん。気の毒やなぁ」


 見当違いなものか。

 これは正当な怒りだ。


「ヤシロさん」

「わ、懺悔させられる」


 ジネットに声をかけられたので、自然と肩が跳ねる。

 そんな俺を、ジネットは――


「その自覚があるのなら、少しは反省してください。……もぅ」


 と、ため息を吐いて叱る。

 だが、俺を呼んだのはお説教が目的ではなかったようで。


「金物ギルドのみなさんにケーキを焼いたんですが、みなさん来られないようなので、これから届けてこようかと思っているんです」

「もうすぐ暗くなるぞ?」

「でも、すぐそこですから」

「……マグダが行く」

「ならあたしが行くですよ。あたし、足速いですし」

「ロレッタが走ったらケーキがぐちゃぐちゃになるでしょ。あたしが持ってってあげるよ。あたしたち、ぼちぼち帰るから」

「そうね。今日はとっても楽しかった。おめでとう、ヤシロ。なんか、私たちの方が楽しんじゃってたけど。すごく楽しかったよ、ありがとうね」


 ネフェリーがそんな礼を寄越してくる。

 そうだな。明日の早朝から仕事があるネフェリーと、今夜このあと仕事があるパウラはぼちぼち帰らなきゃな。


「じゃあ、この辺でお開きにするか。あとは二次会っちゅーことで」

「そうですね。シスター、子供たちをよろしくお願いしますね」


 今日は、ガキどもが結構遅くまで陽だまり亭にとどまっていた。

 夕飯もここで食ったしな。

 だが、そろそろ帰らないと、テンション上がって夜寝なくなるな。


 空は赤色が薄らぎ始めている。

 赤ん坊を見てはしゃいでいたガキどもはまだわーきゃー騒いでいる。

 帰ったら、ベルティーナと寮母のオバサンたちにたらいで揉み洗いされて、布団に叩き込まれるのだろう。


「お前ら、らくがきありがとな」

「うん!」

「かざってね!」

「やだよ」

「なんでー!?」


 なんでもなにも、どこに飾るんだよ?

 寝室?

 ふざけんな。


「しばらくの間、陽だまり亭に掲示しておきましょうか?」


 ここは小学校か。

 教室の後ろに張り出しとくのか?


「客は、俺の顔に囲まれながら飯を食うのか?」

「食欲落ちそうだな、そりゃあ」


 とか、失敬なことを抜かしたモーマットの口にキャベツを咥えさせて、ナタリアにナイフを手渡す。


「のぉぉおおおおお!」


 と、モーマットが叫んでいる間に、ナタリアが投擲したナイフがモーマットの咥えるキャベルの芯に突き刺さる。


 貫通せず、且つしっかりと根本まで突き刺さる絶妙な力加減で。

 言うまでもなく、狙いは正確無比。

 1mmもズレずにど真ん中に的中していた。


 やっぱ、ダーツでこいつに勝つのは不可能だな。


「俺の顔が並んでるのはちょっとアレだから、文字の方を並べとくか。たしか『おい、しろウンチや、いつもありがとにゃ!』だっけ?」

「『やしろおにいちゃんいつもありがとう!』ですよ!? なんで白いウンチにネコ萌え語尾で感謝してるですか!? しかも、ちょっと上から!」

「……これがネコ語萌えのツンデレ萌え」

「萌え要素が渋滞を起こしている、という状況ですね」


 こら、誰だ?

 カンパニュラに余計な言葉教えたの?

 くっそ、容疑者が多過ぎて絞りきれない。


 だが、確実にこれだけは言える。


「犯人はこの中にいます!」

「ボクに言わせれば、カンパニュラに悪影響を与えている犯人は君だという説が有力なんだけどね」


 バカモノ。

 俺ほど情操教育に優しい男はそうそういないぞ?


 ただ、陽だまり亭は客の質が悪いから、あまり未就学児は近寄らない方がいいかもしれん。


 ルシアやハビエルがしょっちゅう居座ってるし、大工や乙女は見てるだけで教育に悪い。

 さらに稀にレジーナまで出没する。


 なんて魔窟だ!


「陽だまり亭にドレスコードでも設けてやろうかな」

「なるほど。ほなら今後は、おしゃれした変態の巣窟になるんやね」


 変態紳士の社交場……なにそれ、怖い!?


「エステラ……お前んとこの領民さぁ……」

「君の友人たちだよ、極一部の困った者たちはね」


 それらはもれなくお前の領地の領民か、お前の知人友人だろうが。


「あ、エステラ・クレアモナ様の幼馴染のリカルド・シーゲンターラー様だ」

「やめてよ、ヤシロ! 外聞が悪い!」

「悪いことあるか! 事実だろうが!」


 エステラが珍しく外聞の悪さを気にしたな。

 さすが幼馴染。

 エステラの危機感を、うまく刺激してくれる。


「ではパウラさん、ネフェリーさん。お手間を取らせてしまいますが」


 こっちの騒動をさておいて、ジネットがパウラとネフェリーに大量のケーキを託している。


「気にしないで。帰りにちょっと寄るだけだから」

「そうそう。ちょっと回り道するだけだし」

「あぁ……けど、工房の方には行かない方がいいかもしれないさねぇ……女子には見せられない惨状になってっからさぁ」


 と、その惨状を作り上げた張本人(ノーマ)が忠告する。

 で、ノーマは乙女たちのために二次会を蹴って一足先に帰ろうなんて気はさらさらないようで、二次会でハビエルたちと軽く酒を嗜むつもりのようだ。

 持ち込んでんじゃねぇーよ。

 つーか、おすすめの銘酒を持ち寄ってんじゃねぇーよ。


「女子寮の方にルアンナってウチの若いのがいるから、そいつに渡しておくれな」

「それすると、乙女さんたちの分、残らなくない?」

「そん時ゃそん時さね。パウラが気にすることじゃないさよ」


 からからと笑うノーマ。

 それぞれの場所に、それぞれの人間関係があるんだなぁ。


 本人たちが納得してその人間関係を維持してるなら、部外者が口を挟むことではないだろう。うん。


「で、ルシア。酒を飲むつもりらしいが、……今日、帰るんだろうな?」

「むろん、泊まる!」


 さっき話してた、お前はぐずる前に泊まってくって話、そのまんまじゃねぇか!

 帰れよ!


「いいのかよ、領主様?」

「大丈夫だ。今からイメルダ先生の許可をもぎ取ってくる!」


 そこじゃねぇんだわ、俺が危惧してんの!


「平気と答える、私は。万全にしてきた、今日のために、準備は」

「ギルベルタ。つらくなったら、いつでもアホ主を見捨てて四十二区に来いよ」

「嬉しいお誘い、それは」

「勝手に引き抜くな! ギルベルタは私が領主をやめても一生そばにいてもらう予定だ!」


 なんて可哀想な!

 お前、ギルベルタに恨みでもあるのか!?


「店長さん」

「なんですか、イメルダさん?」

「我が館は、本日魔窟になる予感ですので、客間をお借りしたいですわ」


 おぉーっと、イメルダが館を放棄して敵前逃亡だぁー!

 ハビエルにマーシャにルシアが泊まる気満々のようだから、それも致し方なしか!


 ……イメルダんとこの給仕長、頑張れ。マジ頑張れ。





 大工たちはカンタルチカやトムソン厨房で飲むのだと店を出ていった。


 ウーマロ曰く、人数が多過ぎるから二次会は遠慮したのだとか。

 身内だけでどうぞ、ということらしい。


 変な気ぃ遣いやがって。

 まぁ、店内がスッキリしていいけども。


「私たちも、今日はお暇するわね」


 と、マーゥルがシンディを連れて挨拶に来る。

 二次会で夜遅くまで飲んでいる……ってのは、貴族として外聞が悪いのだろう。

 だってよ。

 聞いてるか、ルシア?


「さぁ、ゲラーシー、帰りましょう」

「いえ、姉上。私はまだもう少し――」

「その場合、お説教が延びることになるのだけれど、いいのかしら?」

「オオバヤシロ、今日は馳走になった。近いうちに話をしに来るので、その時にな!」


 なんか涙目でゲラーシーが自分の意見を翻した。

 バカだなぁ、ゲラーシー。

「近いうちに」とか……お前に未来なんてないのにさ。


「イネスはもう少しお邪魔させてもらいなさい。あなた、今日はゲラーシーのお守りばかりで、あまり楽しめていないでしょう?」

「ですが、主様」

「いいのよ。こんなおめでたい日だもの。それに、あなたが個人的にここの人たちと親交を深めることが、ゆくゆく二十九区のためになるわ、きっと。――ねぇ?」


「ねぇ?」と俺に問いかけてくるマーゥル。

 知らんがな、そんなもん。


「では、お言葉に甘えさせていただきます」

「そうなさい。あなたはいつもよく働いてくれているもの」

「もったいないお言葉です。私の時間は、すべて主様のために」

「あのな、イネス。黙って聞いておれば……貴様の主は私だぞ。姉上ではない!」

「え、なんですか、変顔の人?」

「姉上を敬うのは大目に見るが、私を蔑ろにするのはやめろ!」

「領主がそのような大きな声を上げるものではないわ。あなたには、もっと基礎的なところからきっちりと再教育が必要なようね。……まったく、お父様は何を教えておいでだったのかしら」


 マーゥルがぽんぽんっと手を叩くと、バルバラと楽しそうに話していたモコカがしゅばっとやって来て、ゲラーシーの腕を掴んで捻り上げる。


「いたたたた! 加減を知らぬのか、姉上の給仕!」

「知ってるけど、気にしなくていいって大将に言われてんだぜですよ」

「姉上ーっ!」

「さぁ、帰りましょう」


 優雅な足取りで、下手人を連れて行くマーゥル。

 なんか、いろいろ溜まってたんだろうなぁ、バザーのこととか、いろいろ。

 いい機会だから、たっぷりと説教されてくるといい。


「では、ルシルシ。私も飲み会に参加いたします」

「うむ、歓迎するぞイネイネ」

「待て待て! いつから、そんなあだ名で呼び合う仲になったんだ、お前らは!?」

「つい先程です」


 あんま染まるなよ、ルシアに。

 なんかルシアのヤツ、着実に飲み仲間増やしてて、じんわりと四十二区に侵略してきてんのが怖いんだよなぁ……


「ヤーくん」

「今日は楽しかったぞ」


 ルピナスとタイタがほんのりと赤い顔でやって来る。


「飲んでんのか?」

「えぇ、少しだけ」


 ハビエルの持ち込んだ酒を軽く飲んできたらしい。

 先に帰るから、その挨拶だとかなんだとか。

 どんな挨拶だ。

 駆けつけ三杯ってのは聞いたことあるけど、先に帰るから三杯ほど飲んで帰るわ~って? 聞いたことねぇよ。


「今日、カンパニュラとデリアも泊めてあげてくれるかしら? きっと、今日は最後までヤーくんをお祝いしたいだろうから」

「そりゃ構わんが……いいよな、ジネット?」

「はい。ベッドは、誰かと一緒になるかもしれませんが」

「明日の仕事はオレとオメロでやっとくから、デリアには朝寝坊してもいいって言っといてくれ」


 デリアは明日、休みになるらしい。

 カンパニュラも、別に遅くまで寝ていても問題ない。


「じゃあ、今日は特別に夜ふかしをしてもいい日ということにしましょうか」

「出来るならな」


 ジネットを始め、マグダもカンパニュラも、ある程度の時間になったら眠たくなるだろう。

 そうしたら、全員まとめてジネットのベッドで眠ればいい。

 デリアやノーマは、徹夜しても大丈夫だろうけど。


「大丈夫だとは思うけど、カンパニュラが寂しがったら、ヤーくんが慰めてあげてね」

「カンパニュラより、お前らの方が寂しがるんじゃないのか?」


 カンパニュラは夜泣きとかしないし。

 お前らはしそうだけど。


「けど、今日は…………ね」

「お、……おぅ」


 ……ん?

 なんだ。


「あんな可愛らしい赤ちゃんをを見ちゃうと……ね」


 と、頬に手を添えてしなを作るルピナス。


「次は男の子がいいかしら」

「やめろ。そーゆー情報寄越してくるな!」


 いろいろ考えちゃって、なんかヤだから!

 俺の預かり知らないところで勝手にやってろ。


「オメロに言って、明日の朝一でタイタを川に沈めてもらおう」

「がっはっはっはっ! 負けねぇぞぉ」


 そーゆーこっちゃねぇんだよ。

 つーか負けとけよ。

 大人しく制裁を受けとけ。


「私たちも、次はヤーくんから一文字もらっちゃおうかしら?」

「やめて、そっちの勢力圏に強引に取り込もうとするの」


 お前らに子供が出来たとして、俺、なんんんんんんんんにも関係ないから!


「ヤピタ?」

「安直に一文字目二文字目三文字目取った結果、奇跡的な間抜けさ加減の名前になったな!?」

「じゃあ、タピロ」


 タピってんじゃねぇよ。


「じゃあね、ヤーくん。カンパニュラのこと、くれぐれも、よろしくね」


 物凄い目力で見つめられた。

 あれもう、脅迫だろう。

 ……変なところに影響出ちゃったなぁ、ウェンディたちの赤ん坊。


 ベビーブームとか、来なきゃいいけど。

 いや、来たら来たでベビー用品で荒稼ぎするけども。


「カンパニュラ。今日はジネットにたんと甘えるといい」

「へ?」


 事情を知らないカンパニュラ。

 哀れなものだな。実父実母に「帰ってくるな」とか言われてさ……よよよ…………とか、あいつらの前で言ったら慌てふためくだろうなぁ……けっけっけっけっ。


「はい。では、今日がお誕生日のヤーくんは、私にたんと甘えるといいですよ」


 と、両腕を広げて迎え入れ態勢を取ってくれる。

 いや、カンパニュラに甘えるって……さすがに、なぁ?

 ほら、ジネットにもくすくす笑われてるし。


 エステラとジネットにチクってやろうかな、あの両親の悪行。


「あのな、エステラ。実はルピナスとタイタが――」

「あぁ、うん。なんとなく察したから、それ以上言わないように」


 ちぃ!

 察したなら厳しく追求してやれよ!

 甘やかすんじゃねぇよ、領民をよぉ!


「カンパニュラが泊まっていくなら、テレサも泊まっていくか?」

「あーしも? いぃの?」

「家族がいいって言ったらな」

「ちぃてくゅ!」


 だっと駆け出すテレサ。

 おーおー、速い速い。

 まぁ、なんとなく、一緒に遊べる同年代がいた方が楽しいんじゃないかと思って。


「おねーしゃ! おかーしゃ! こんばん、ぉとまぃ、いい?」


 はっはーっ、ヤップロック。家長なのに許可をもらうべき相手から除外されてるぞ。

 きっと、家での立場が弱いんだろうなぁ。

 案外恐妻家なのか、ウェラー?


「もちろん、いいわよ。英雄様やみなさんにご迷惑をかけない、いい子でいられるかしら?」

「あーし、いいこ!」

「そうね、テレサちゃんはいい子だものね。じゃあ、お母さんからもお願いしておくわね」

「ありまと、おかーしゃ!」


 ウェラーが許可を出し、テレサの宿泊も決まった。


「英雄様。一晩とはいえ、ウチの娘がお世話をおかけいたします。至らない点がございましたら、それらはみな、保護者である我々の責任。何なりとお申し付け――」

「重い、重い。テレサなら大丈夫だから、そこまで心配すんな」

「はい。英雄様にそのように言っていただける子なのでしたら、どこに出しても恥ずかしくはありませんね」

「姉の方は、どこに出しても恥ずかしいけどな」

「そんなことありませんよ。バルバラちゃんも、自慢の娘です」


 結局、何がどう転んでも恥ずかしくないんじゃねぇか。

 バルバラで恥ずかしくないなら、よっぽどのことがあっても恥ずかしくないだろ、お前ら。


「じゃ、一晩預かるな」

「はい。そのまま、いつも通りお手伝いをさせてあげてください」

「分かった。寂しくなったら、明日の朝か昼に飯でも食いに来い」

「そうですね。そうさせていただきます」


 深々と頭を下げて、ウェラーはヤップロックのもとへと戻る。

 入れ替わるように、バルバラが俺の前にやって来る。


「どうした、バルバラ? お前も泊まりたいのか?」

「いや、アーシは明日の朝から仕事があるし帰るけどさ」


 まともだ!?

 なんか、物凄くまともな人間に見える!?

 大丈夫か、おい?

 ルシアとかパーシーとか、バルバラ以下だぞ!

 それでいいのか、お前ら!?


「あのさぁ。もし、アーシに赤ちゃんが出来たらさ……英雄から名前取ってもいい?」


 なんでだよ?

 俺、お前の赤ん坊に一切関係ないじゃねぇか。

 パーシーだかゴロッツだか、どっちとの未来を妄想してんのか知らんけどさ。


「却下だ」

「いいのか!? やった!」

「まず、『却下』って言葉の意味を勉強してこい、お前!」


 勉強サボってやがるな、こいつ!?


「ダメだっつってんだよ」

「なんでだよぉ~! 息子に『えいゆう』って名前付けたかったのにぃ!」

「俺から名前取ってねぇじゃねぇか!?」


 え、なに?

 お前、俺の名前『英雄』だと思ってんの!?

 日本だと『ひでお』だな、それ!


「好きな男の名前から取れよ」

「え…………じゃ、じゃあ…………『ぱいゆう』?」


『えいゆう』の影響色濃く残ってんじゃねぇか!?


「ヤシロの影響力が色濃い名前だね……懺悔したまえ」

「謂れのねぇ懺悔は御免だよ」


『ぱい』になったのはバルバラとパーシーのせいだろうが。


「つーか、やっぱ好きなのはパーシーなのか?」

「ふぇぇえっ!? な、なんだよ、急に!?」


 いや、好きな男から取れって言ったら『パ』って言ったからさ。


「いや、あの……違うんだ…………ゴロッツは、一緒にいるとすごく落ち着いて……なんか、最近すごくさ、いいなぁ~って思うんだけどさ…………ドキドキするのは、やっぱりパーシーさんで…………なぁ、ゴロッツと結婚して、パーシーさんが恋人とか、ダメかな!?」

「どうしよう、初恋こじらせ女が物凄い悪女になったぞ、エステラ!?」

「バルバラ……よぉ~く考えて、その発想は改めるんだよ、早急に!」

「でもさぁ……決められないしさぁ……」

「バルバラさん、今すぐ決めようとせず、ゆっくりと、自分の心と向き合ってみてはいかがですか」

「ん……店長がそう言うなら、そうする」


 人騒がせなバルバラがとりあえず事態を保留したことで、悪女の誕生は未然に防がれた。

 ……にしても、どっちも好きで決められないから両方とか……まっすぐ過ぎてバカ丸出しだな。


 どうか、テレサはバルバラとは似ても似つかない、真っ当な大人になりますように。


 ちなみに、「こんな話をパーシーに聞かれたら……」なんて心配は一切必要ない。

 あのストーカータヌキは、ネフェリーが帰ると同時にフロアから姿を消していたからな。

 きっと、四十二区の別荘(養鶏場近くの草むら)にでも帰ったのだろう。



 度し難いな。




「あぁ……真実を伝えてあげたい。兄ちゃんは、そんな悩んであげるような相手じゃないって」


 物凄く悩みながら、ヤップロックたちと一緒にフロアを出ていったバルバラの背を見つめながら、モリーが実の兄の不甲斐なさを嘆いている。

 というか、モリーってなんだかんだ言う割には案外ブラコンの気があるからなぁ。

 パーシーに近付く女の影には過敏に反応するんだよな。


「というかモリー、バカ兄貴いなくなったけど、一人で帰れるのか?」

「はい、大丈夫です。領主様にお気遣いいただいて、馬車に乗せていただくことになっていますので」


 モリーの言う領主様とは、モリーの住む四十区の領主、デミリーのことなのだが――


「でみりぃ~、あんたまた今日も帰るなんて言う気じゃないだろぅねぇ? 付き合い悪いんさよ! ハビエルからもなんとか言っておやりな!」

「今日は付き合え、アンブローズ! めでたい日だぞぉ!」

「最初から飛ばし過ぎだよ、スチュアート。そのペースに付き合う自信はないよ、私は」

「なんさねー! アタシの酒が飲めないんかぃね!?」

「レディが男に、そんなに密着しちゃダメだよ、ノーマ嬢! 外聞がね――!」

「そんなものは、とうに捨てておるわ、なぁ、ノーマたん!?」

「そうさね! ルシアの言うとおりさねー!」

「捨てちゃダメだよ、二人とも! ルシア嬢は特にね!」


 なんか、向こうでめっちゃ絡まれてるんだよなぁ……

 え、助けに?

 あはは、無理無理~☆


「たぶんだけど、馬車、出ないぞ?」

「え~っと……」


 開始数分で悪性絡み酒に進化した酔っぱらい美女に取り囲まれては、並の男では逃げ切ることは不可能だ。


 あ~ぁ、デミリー。

 またあらぬ噂が加速しちゃうなぁ~。

 四十二区にいい人がいるって噂。


「でもたぶん、大丈夫だと思います。何度も通っている道ですし、街道は光るレンガのおかげで夜でも明るいですし」


 とはいえ、ここから四十区は遠い。

 明るいのも街道の一部だけで、モリーの家のそばは暗いだろう。

 うん、危険だな。


「ジネット」

「はい。お布団、ご用意しますね」

「……すみません。なんか、途中からそう言っていただけるだろうなと、薄々気付いていましたが……なんだか言わせてしまったみたいで」

「いいえ。わたしもヤシロさんも、そうしてもらった方が安心ですし、嬉しいですよ。ね?」


「ね?」と言われてもな。


「モリーが救われた分、パーシーに災いが降りかかればいいと思う」

「そうですね。そういうことであれば、存分に救っていただきたいと思います」

「ふふ、ご冗談が過ぎますよ、モリーさん」


 いやいや、ジネット。

 今のは、冗談じゃないって。


「といっても、人数が増えたんでザコ寝か、ぎゅうぎゅう詰めベッドになるけどな」

「私、好きですよ、陽だまり亭さんのお泊まり会」


 ぎゅうぎゅう詰めベッド、経験したことあったっけな?

 まぁでも、ロレッタのところよりはマシなはず。

 あっちのぎゅうぎゅう詰めは、本気のぎゅうぎゅう詰めだから。


「なんだか、久しぶりで嬉しいです。今日、店長さんのお隣は予約が埋まってますか?」

「いいえ。今のところは何も」

「では、予約をお願いします」

「はい、承りました」


 顔を見合わせて笑い合う二人。

 けど、すぐ埋まりそうだぞジネットの隣。

 マグダにギルベルタにカンパニュラにテレサ。

 立候補しそうなヤツがいっぱいいる。


「ハロウィンの時ぶりですね」

「はい。その節はお世話になりました」

「いいえ。同じ目標に向かって努力できて、わたしも楽しかったですよ」

「う………………もしかしたら、近々、また合宿をお願いすることになるかも……しれません」


 本日、ケーキバイキングで羽目を外しまくっていたモリーが、自身のお腹をぷにっと摘まみながら自己嫌悪に陥っている。

 本当に自制心の弱い娘……


「同じぷにぷにでも、赤ちゃんのようなぷにぷになら可愛いんですけどね」


 腹とほっぺたを比べるな、モリー。

 現実逃避、下手過ぎるから。

「もしこのぷにぷにが赤ちゃんのほっぺなら、許容できるかも~」って、許容できないだろ? な?


「モリーはまだまだ先だろうけど、赤ちゃんの名前はこんなのがいいとか、考えたりするのか?」

「確かに、まだ予定はありませんが、まだまだ先ということはないと思いますよ。私も、今年で成人ですし」


 成人しても、障害が多いから、お宅の家は。

 兄貴の妨害とか、跡取り問題とか。

 まぁ、どっちも、あの兄貴がいなくなれば万事解決なんだけども。


「モリーさんも、ご結婚相手の方のお名前から何文字か取りたいとか、あるんですか?」


 何気に恋バナの好きなジネット。

 わくわくした目でモリーに問いかける。


「そうですね……あくまで理想ですけども、自分と相手の方の名前から取れればいいな……って」


 ほうほう。

 自分と相手の名前からねぇ……


「で、『ネ』と『チ』と、どっちを取るんだ?」


 モリーの想い人。

 砂糖大根農家のネックとチック。

 モリーは、どういうわけかあの二人に惹かれており、どちらか一人に決められないでいる。


 さて、どっちの名前から取るのかな?


「えっと…………モック、とか?」


 わぁ、ここにも悪女候補がいたわぁ。

 物凄くグレーな回答を寄越された。


 まぁ、追々決めてけばいいんじゃねぇーの。

 どーせ、あいつらどっちも相手いないんだし。


「て、店長さんはどうなんですか?」


 あ、話を逸らしたなモリー。

 そして、反撃されたジネットは。


「わたしは、アルヴィスタンですから」


 余裕の笑みでそれをかわす。

 今日、何回か同じ質問されたろ、お前?

 かわし方が妙にこなれてる。


「でも、そうですね。もし、素敵なめぐり合わせがあり、そのような時が来たら……自分の名前とか、相手の方の名前とかにはこだわらずに、その子のためだけの名前を付けてあげたいと思います」


 そう言って――


「ヒカリさんやマモルさんのような、素敵名前がいいですね」


 ――と、微笑む。


 ……あんま褒めんな。

 まだ、自分の中で腑に落ちてない部分残ってるんだから。

 あわよくば、ワンチャン改名の機会がないかとか考えてるのに。


「そうですか。それも素敵ですね」


 モリーも、「そういうのもいいですね」と思案顔をしている。

 この街では、誰かから何文字か取るのが主流なんだろうか。

 カロリーネのところも、親の名前を取って、ロリーネ、リーネだし。……まぁ、取り方は間違っているわけだが。


「私なんかじゃ、どんな名前にすればいいのか、悩んで悩んで、結局決められそうにないですけど、ヤシロさんなら素敵な名前がたくさん思いつきそうですね」

「んなことねぇよ」


 なんか、モリーが物凄いデカい期待を背負わせようとしてくる。

 俺だって、名付けなんか得意じゃねぇよ。


「ヤシロさんの故郷の言葉は響きが可愛いですから、どんな名前でも可愛くなりそうですね」


 と、ジネットがくすくす笑う。

 そう感じてるのはお前くらいなんじゃねぇのか。


「この街で生きるなら、この街に沿った名前の方がいいだろう」

「そうでしょうか? ヒカリさんもマモルさんも、可愛いですよ」

「本人がどう思うかが大事だろうが」


 自分だけが周りと名前の語感が違うとか、もしかしたら悩むかもしれない。

 いじめられたらどうする?


「俺としては、エステラやイネスなんて名前はいい名前だと思うんだ」

「えっ!? ホントに!?」

「そうなのですか!?」


 名を呼ばれた二人が、驚いた表情で微かに頬を染める。

 名前を褒められるのはやはり嬉しいようだ。


 ほらな?

 名前って大事なんだよ。

 こうやって、自分の名前には愛着と誇りを持つものなんだから。


「もし俺が名前をつけるなら、()ステラや()ネス、()ボラのように『名は体を表す』ような名前がいいと思う!」

「名が体を表してるわけじゃないよ!?」

「私のイニシャルは『E』ではなく『I』です!」

「ボクだって『A』じゃなくて『E』だよ!」

「「「イニシャルがね!」」」

「話の流れ的に分かることをいちいち強調しなくてもいいよ、ナタリア、イメルダ、レジーナ!」


 名前を見れば何カップかが一目瞭然な、『名はパイを表す』名前が素敵だと思う!

 だからこそ、俺が推す名前は――


「ジェニファー、ケリー、リリア!」

「お兄ちゃんが、店長さん超えを目論んでるです!?」

「……J、K、Lとは……ヤシロの野望は果てしない」

「そして、()リィ!」

「みりぃ、そんなに大きくなぃもんっ!」


 いや、流れ的に。

 Mって言ったらミリィかなぁって。


「もう、ヤシロさん。お風呂の前に懺悔してください」


 ……くっ。

 たぶんだけど、やらなくてよかった懺悔だったんじゃないかなぁ、今の。

 ……こういうのを『ヤブヘビ』――『ヤブを突っつくくらいならおっぱいを突っつきたい』っていうんだろうなぁ。


 ……あれ? 蛇出てこないな、この慣用句。

 あれぇ?







あとがき




どうも、一万年と二千年前から、宮地です☆



「おい、昭和の名曲どうした!?」

と思われたそこのあなた!


そーゆーこともありますって☆



さて、私のi-pod

『しょーわ』という名前のプレイリストを作成してあるのですが、

先日それを聞いていたところ



「入ってる曲、全部平成じゃねぇか!?」



ということに気が付きまして……


一番古い曲が、

1989年の歌でした。



平成!Σ(゜Д゜ノ)ノ



このプレイリスト作った時の私は

一体何を考えていたのでしょうか…………



まぁ、十中八九おっぱいのことを考えていたとは思うのですが。

そこはブレずに。



ブレませんねぇ〜

(*´▽`*)


というわけで、

次回もよろしくお願いいたしま――




あ、早いですか?


いえ、実はですね、

今ちょこっと、

「私が書いたお話って世界で一番つまんないんじゃないか?病」を患っておりまして


もう、何を書いても面白くないんですよ。


えぇ、これ、定期的に患う職業病なんですけども

書いても書いても納得できないという恐ろしい病なんです


……いやぁ、本編書き終わったあとでよかった(^^;



主な症状は、

・目先の小ネタに走る

・パロディネタに頼る

・身内の話でお茶を濁す

・過去受けたネタをもう一回こすってみる



このあたりが、自覚しやすい症状ですかね

お好きな作家さんの作品で、

「あれ? この辺内輪ネタ多くね?」とか

「小さい笑いの乱獲始めたなぁ」とか感じることがあれば、

もしかしたら、その作家先生、

患ってらっしゃるかもしれません!


そんな時は

「大丈夫ですよ! ちゃんと面白いですよ!」と優しい声をかけてあげるか、

そっと『押し当てて』あげましょう



あ、私の場合は後者でお願いします

『挟んで』いただくのでも構いませんが!


一回くらい、アニメのようなシチュエーションを体験してみたいものですよねぇ……



「あの、あたってんだけど?」

「あててんのよ!」



とか!(≧▽≦)



…………ちょっと試してみましょうか?



おじぃ「寄〜付したバ〜イクが動かない〜♪」



(;゜Д゜)「前回、さほどウケなかったヤツをこすり出したぞ!?」

(゜Д゜;)「誰か! 早くあててあげて!」

(;゜Д゜)「手遅れになっても知らんぞー!」


( ゜Д゜)

(゜Д゜ )

( ゜ー゜)

(゜ー゜ )


( 。_。)



今のところ、ノーヒットです

でもめげずに待ち続けたいと思います!



さて、

本編では、双子ちゃんの可愛さにノックアウトされたノーマさんが

人智と常識を超える速度でガラガラを作成してくれました

母性爆発です!


伊達に母性の象徴を揺らしておりません!



( ̄▽ ̄)「伊達に谷間は見てないぜ!」



『ガラガラ』

構造を調べてびっくりしました

とても単純で、すごく理にかなった構造で

「なるほどなぁ〜」って目からうろっこがぽろぽろです



うろっこ「なるほどなぁー」

うろっこ「そいつは盲点だったなー」

うろっこ「こいつぁ一本取られたなー」

うろっこ「「「なー」」」



……可愛い(*´ω`*)



あのガラガラって、不協和音にならないように調整してあるんですかねぇ?

不協和音聞かされたら、赤ちゃん泣きますよね?



ガラガラ「がらごろぎぃぃーん……」

赤ちゃん「あ、『ラ』がフラットしたね」

母「ウチの子、天才だわ!?」




みたいなことに?


あぁ、そういえば、

ドコサヘキサエン酸、通称DHA

コレを接種すると頭がよくなると昔からよく言われておりまして


小魚なんかに多く含まれる成分なんですけどね、DHA


けど赤ちゃんに小魚食わせるわけにはいかないじゃないですか?

そこで私は考えた!

赤ちゃんに、無理なくDHAを接種させ、

「ウチの子天才!」を本当の意味で天才に育てる方法を!



友人「どうやるの?」

宮地「おっぱいにふりかけをふりかけるのだ!」

友人「うっわ、頭悪い発想!?」

宮地「これで、赤ちゃんは天才に!」

友人「両親が残念すぎて、遺伝子レベルでマイナスのスタートっぽいけどね!?」

宮地「で、問題はどのふりかけが一番おっぱいに合うか、だが……」

友人「一番はそこじゃない。もっと根本的な大問題があるはずだ」

宮地「やっぱ『のりたま』だよな☆」

友人「永谷園さんへの絶大なる信頼感!?」

宮地「コラボ、おまちしてまーす♪」

友人「ねぇよ!?」



というわけで、

おっぱいに『のりたま』をふりかけさせてくださる方、大募集!

\(≧▽≦)/


いえ、違いますよ?

子供たちのため、

ひいては、

我が国の未来のためですよ?


知的な子供が増えるということは、

天才エリート若者が増え

そしてゆくゆく有能管理職を経て

絶体無敵経営者になるわけで

そうすれば世界の舞台で我が国の競争力が上がり

日本は世界の頂点に立つことだって出来るのです!



ですから



おっぱいに『のりたま』をふりかけさせてください!

\(≧▽≦)/



……いえ、ですから、

これは未来のために!

ちょっと!

人の話聞いてました!?

さっき説明しましたよね?

おっぱいに『のりたま』をふりかけることが、如何に有意義であり効果的なのか!


子供は天才になるし

未来は輝かしくなるし

私はとっても嬉し楽し大好き!

\(≧▽≦)/



まぁ問題は、

『のりたま』には小魚が含まれていないことくらいですが

些末なことです、そんなものは


DHA?

知らん知らん!

味で勝負しろ、味で!


というわけで、

おっぱいにはきっと『のりたま』が一番合うのではないかという考察でした




……はて?

どこからそんな話に……




あぁ、そうそう。

ノーマさんの母性がたわわで「ぷるるるるはぁ!」って話でしたっけね。


赤ちゃんには優しいノーマさん。

でも、後半は盛大に酔っ払ってデミリーに絡むノーマさん


同一人物です!

( ̄▽ ̄)



というわけで、

モリーも巻き込んでお泊まり会です☆


楽しんでいただけると、いいな☆

(*´ω`*)



次回もよろしくお願いいたします。

宮地(患い中)拓海

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