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異世界詐欺師のなんちゃって経営術  作者: 宮地拓海
報労記

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報労記90話 帰りは船で

「本日、ただいまの時刻より、この噴水は常時解放される。いつでも好きな時に見に来るとよい。ただし、これは我々と人魚、共に生きる仲間たちの絆を象徴するものだ。くれぐれも敬意を持ち大切にするように」


 興奮冷めやらぬ中、そんなルシアの挨拶で除幕式は終了した。

 振り返れば、空が真っ赤に染まっていた。

 結局、たっぷりと一日がかりになっちまったなぁ。

 さっさと行って、さっさと帰るつもりだったのによぉ。


「エステラ」


 締めの挨拶を終え、ルシアが俺たちのもとへとやって来る。


「慌ただしくて申し訳ない。しかし、来てくれて嬉しかった。みなも、今日はありがとう」

「こちらこそ、お招きいただきありがとうございます。短い時間でしたが、この場に来られてよかったです」

「そう言ってもらえると嬉しい」


 噴水の前で領主二人が向かい合う。


「マーシャ」


 そして、エステラがマーシャを呼ぶ。


「ルシアさんが言ったように、これはボクたちと君たちを結ぶ絆の象徴だよ。今日という日を境に、これまで以上に仲良くしようね」

「うん。ルシア姉も、エステラも、それからみんなのことも、大好き!」


 ざばっと飛び上がり、エステラとルシアに向かって飛びつくマーシャ。

 高そうなドレスが濡れることも厭わず、ルシアはマーシャを受け止める。

 エステラとルシアに支えられるような形で、三人が抱き合うと、船の上から大きな声が飛んできた。


「「「みんな大好きー!」」」


 人魚からのラブコールに、港にいたすべての者たちが熱狂する。


「せーのっ!」

「「「こちらこそ大好きー!」」」


 陸からも、きゃぴきゃぴした女子たちが返事をする。

 よかったよかった。

 人魚のラブコールを真に受けたオッサンどもが、野太い声で「ワシも好きじゃぁああ!」とか言い出さなくて。

 下手したら、港の地面が穴だらけになりかねないからな。


「それじゃあ、ボクたちはそろそろ戻ろうか」


 エステラが言い、四十二区の面々が気持ちを切り替える。

 本当に、噴水を見に来ただけなんだな。


「本来であれば、もっとゆっくりとしていってもらいたいところだがな」

「それは、またの機会にお願いします」

「うむ。ここの他にも、面白くなりそうな場所があるのだ。この次は、是非そちらを案内させてくれ」


 駄菓子屋横丁とノスタルジック街道は、まだまだ計画段階だ。

 もうちょっと整ってから見に来ればいい。


「カタクチイワシ様! 是非またお越しください! この次は進化したワタシの芝居をご堪能いただきたい!」

「待つのだ、パキス。当主を差し置いて勝手を言うのではない」


 除幕式を見に来ていたイーガレス親子に捕まる。

 当主ヨルゴスがずずいっと俺の前に進み出てくる。

 もう帰るっつってんだろうが。絡んでくんな。


「この次は、是非一本、お手合わせ願いたい!」

「お前は真面目に仕事しろ」


 マジで、劇場と駄菓子屋ちゃんとやれよ?

 メンコばっかやってっと、メンコの聖地コロッセオでトラウマになるくらいボッコボコに叩きのめすからな?


「店長さん。また、お料理習いに行ってもいいのわ?」

「はい。いつでも歓迎いたします。ですが、明日からお忙しくなるでしょうから、落ち着いてからお越しください」

「いろんな人に喜んでもらえるように、いっぱいがんばるのわ!」


 エカテリーニは、完全にジネットに懐いたな。

 あれは、ある意味餌付け……なのだろうか。


「アルシノエとタキスも、しっかり頼むぞ」

「任せてのわ! 今度ロリーネ様と合宿する約束したのわ!」

「我々の演技で民衆が号泣する日も近いですよ。乞うご期待!」


 なんか、こいつらも明るくなったな。

 出所不明な謎のポジティブさではなく、積み重ねた努力の先にある自信みたいなものが生まれつつあるのかもしれない。


「それから、カタクチイワシ様」


 と、珍しくタキスが俺に話しかけてくる。

 こいつは兄貴や姉貴ほど、俺に声をかけてくることはなかったのに。


「兄上が戦いから降りた今、ワタシとあなたの一騎打ちになりましたね」

「…………なにが?」

「ルシア様のお婿さん候補です!」

「十年早ぇよ、生ガキ」


 生意気なクソガキ=生ガキにデコピンを喰らわせて黙らせる。


 お前が十年後に、すべての面でグレードアップして、三十五区を背負うのに相応しい男になっていたら、その時改めて立候補しろ。

 早く大人になれよ、クソボーズ。

 まずは、稼ぐってのがどういうことか、認められるってのがどういうことか、それをよく学ぶんだな。


 まぁ、お前がスタートラインに立った時、ルシアにその気があるなら、今みたいな生意気な口を利くことを許してやろう。


「ルシアほどのいい女を口説くなら、ここに集まった女子数十人からきゃーきゃー言われるくらいいい男にならないとな」

「それでしたら、もうすでに『可愛い、可愛い』と話題沸騰です」


 そうかぁ?

 お前を見ても、だ~っれも反応してねぇじゃねぇか。

 知り合いの女性に、「かわいいわねぇ」とか言われてるのを真に受けてるだけなんじゃねぇの?

 いいか、きゃーきゃーってのはだな――


「ナタリア」

「お任せください。――『ボクたちと人魚の絆は永遠さ! ボクと人魚姫の愛が永遠なように!』」

「きゃー!」

「王子様ー!」

「再演、期待してまぁーす!」


 海から陸から、一斉に飛んでくる黄色い歓声。


「きゃーきゃーってのは、こういうのだ」

「す……すごい敗北感……」


 タキスが、ようやく現実を目の当たりにしたようだ。

 なぁに、まだ十一歳だ。

 ……勘違いしたまま運命の相手を見つけちまったお前の兄貴よりはマシな大人になるはず! きっとまだ間に合う! というか、間に合って! お願い!


「分かりました……今はまだ、研鑽を積む時だということですね」


 幼いおかげか、物分かりがいいタキス。

 よし、まだセーフ! まだセーフ!


「ワタシが大人になり、いい男に成長するまで、ルシア様のことはあなたに預けます」


 ……ん?


「それでも、いつか必ず奪い返しに行きますから、それまでの間、ルシア様のことをよろしくお願いしますね」


 ……なんか、話の焦点、ズレてない?

 あと、観衆。ざわざわすんな!


「「「ざわわっ! ざわわっ!」」」

「うるせぇよ!」


 サトウキビ畑か!?


 まったく。

 領民のしつけはしっかりしといてもらいたいもんだぜ。

 領主の怠慢だな。

 クレームを入れてやろう…………あれ? ルシアは?


「ルシア姉ならねぇ~、あっちでまぁ~るくなってるよ~☆」


 マーシャの指さす先、港の片隅で蹲って悶えているルシア。

 なにやってんの、あいつ?


「そこらの男じゃ口説けないようないい女だって言われて、嬉しかったみたいだよ~☆」

「うれっ、うりぇしくなんぞにゃいわ! えぇい、こっちをみるなカタクチイワシ!」


 あいつ、モテそうな空気になるとポンコツ化するの、なんなんだろうねぇ……まったく。


「さっさと帰るぞ。ここは空気が悪い!」

「お兄ちゃんは、身内にちょっかい出されると、ちょっとムキになっちゃうですね」

「……相手を黙らせることに意識が向き過ぎて、自分の発言を見落としがち」

「それだけ、本心で大切にしてくださっているということですよ。私も、ヤーくんの身内に入っているなら、嬉しいのですが」

「カンパニュラさんなら絶対に入っていますよ、もちろん、マグダさんやロレッタさんも」

「店長さんもです!」

「……店長はもはや家族」

「では、陽だまり亭一家ですね、ジネット姉様」

「うふふ、楽しそうな家族ですね」


 なんか向こうで勝手に盛り上がってるなぁ!

 さっさと帰ろうって言ってるんだよ、俺は!

 もう帰ろうって言ってるよ!? ねぇ、気付いて! 気にかけて!


「ウーマロ」

「なんッスか?」

「――ちゅっ」

「やめてッス!? なんか微妙な空気になってるからって、最後それでオトそうとするの! こっちに甚大な被害が出るッスから!」


 投げキッスをしたら、「ワイヤーアクションか!?」みたいな体捌きで避けられた。

 ……ちっ!

 後ろにいたノートンに被弾して「ぎゃぁああ!」とか言われちまったじゃねぇか。


「しょうがない。折角マーシャが用意してくれた超特急船にパウラが乗らないらしいから、代わりにグーズーヤを簀巻きにして載せといてくれ」

「何がしょうがないんですか!? っていうか、簀巻きにする必要ありますかね、ヤシロさん!?」

「分かったッス」

「分かっちゃったよ、棟梁!? ヤダなー、この二人のこーゆー感じ! 嫌いだなー!」


 グーズーヤが一人で騒いでいるので、ムキムキ系のメンズを駆使して黙らせ、縛り上げ、担ぎ込む。


「身動き取れないトルベック工務店の出世頭と船上のランデブーしたい乙女~?」

「「「「は~い!」」」


 ほほぅ、なかなか人気があるじゃねぇか、グーズーヤ。

 金物ギルドの乙女も、やっぱ出世頭が好きなのかねぇ。


 まぁ、最近任される仕事が増えているとはいえ、出世するかどうかはウーマロと俺の胸先三寸だけどな☆




 そんなわけで二隻の船に分乗して、俺たちは三十五区の港を出発した。



 ルシアは……最後まで「むきゅむきゅ」言ってまともに見送りしやがらなかった。





 今回の船は、前回ほどデカくないため階段が緩やかだ。

 十段もないくらい。


 ……なら、港とフラットになるように調整して、スロープ状のタラップにしてくれればいいものを。


「今回は、とても楽に乗船できましたね」

「陽だまり亭の二階に上がる方が段数多いくらいだな」

「はい。日ごろの鍛錬が功を奏しましたね」


 嬉しそうに言うジネットだが、自宅の階段の上り下りは鍛錬とは言わないんだぞ。

 まぁ、レジーナなら、段差があるだけで文句言いそうだけども。


 あぁ、そうそう。


「マーシャ~!」

「はいは~い☆」


 呼べば、マーシャが甲板のプールから顔を出す。

 構造は似た感じになっているようだ。

 豪華客船よりも小ぶりなプールだけど。


「横になれるような客室ってあるか?」


 今回の船は、客船というよりも遊覧船のような造りになっている。

 甲板がそれなりに広く作られ、船尾の方に屋根付きのスペースがあるが、そこには椅子とテーブルが並んでいる。

 観光地の遊覧船のように、観光客を少しでも多く乗せようってコンセプトではないようだが、個室でゆったりと~って感じでもない。

 せいぜい、ちょっとした休憩スペースがあるからくつろいでってね、くらいの感じだ。


 操舵室は二階にあるようで、そこだけは完全に個室になっているっぽい。

 操舵室の後ろは、たぶんそこも一階と似た感じの客席になっているのだろう。


「客室じゃないけど、医務室が地階にあるよ~☆」


 やはり、一階にも二階にも個室はないようで、横になるスペースは地階にあるらしい。

 医務室と、雑魚寝が出来る大きめの休憩フロアがあるのだとか。


 おぉ、昔親方たちと四国旅行に行った時に乗った宇高連絡船を思い出すな。

 あんな感じか。

 規模は全然違って、こっちはもっとこぢんまりとしているけども。


「じゃ、個室の方を借りてもいいか?」

「うん。毛布はロッカーに入ってるから、必要なら使ってね☆」

「勝手に入っていいのか?」

「いいよ~☆ 中にサリサがいるから」


 サリサ……あぁ、豪華客船の時にいろいろ世話してくれた、海漁ギルドの陸っ娘添乗員か。


「ただし、サリサは医療関連の知識がないから、そこは期待しないでね☆」


 まだまだ観光船という意識は育っていないようで、医務室もただ休憩できる場所以上の機能はないようだ。

 ぼちぼち、医療知識のある人間を採用した方がいいぞ。

 観光客が利用するようになったら、思わぬトラブルが起こるだろうから。


 ……育てるの、大変だけどな。


「じゃ、レジーナ。ちょっと来い」

「えっ、なんやろ?」


 なんのことか分かりませ~ん、みたいな顔して誤魔化しているけれど、バレバレだっつーの。


「医務室に行くぞ」

「いややわぁ、まだ日も沈まんウチから密室に連れ込む気ぃかいな~。ウチ、何されるんやろ?」


 とかなんとか、おどけてみせるレジーナの頬に手を添える。


「ひゅむ……っ!?」


 やっぱりな。


「熱が上がってるな」

「い、いややわぁ。ウチかて乙女やもん。こんなんされたら照れてまぅわ。せやからほっぺたもあっちっちやねんって」

「はいはい」

「流されたわぁ……」


 わたわたしていたレジーナだが、ようやく観念したようで、声のトーンと肩を落とす。


「……なんでバレたんやろ?」


 必死に隠していたようだが、体調の悪さは隠しきれてなかった。


「ウーマロと投げキッスで遊んでた時に、一切反応してなかったしな」

「……そんなんでバレたんかいな?」

「微妙な気持ちになるなら、今後はもうちょっと普段の行動を自重しろ」

「そら無理やさかい、しんどい時もハッスル出来るように基礎体力つけとくわ」


 努力の方向性、間違い過ぎだろうが。


「レジーナさん、こちらを」


 ジネットが、着ていた黒い外套をレジーナの肩にかける。

 しっかりと前を留め、温もりが脱げないように着せてやる。


「もしかして、ジネットはんにもバレとった?」

「ふふっ。なんだか、少し元気がないな~とは、思っていましたよ」

「さよか。……難しいなぁ、隠し事するのんって」

「そうですね。わたしも苦手なので、なるべく隠し事はしないようにしています」


 言ってから、ジネットははっとしたような顔で俺を見て――


「なるべくは、ですけどね」


 ――と、付け足した。


 ……なんか、隠し事されてるっぽいな、俺。

 ま、ジネットのことだから、数日もしないうちにぼろを出すだろうし、そもそもその隠し事の内容自体、しょーもないもんだろうしな。

 ジネット自身は大事のように捉えていても、傍から見たら可愛らしいもんなんだよ、大抵。

 俺用の新品のパンツを常備してる、とかな。


「ナタリア」

「はい」


 呼べばすぐ来るナタリア。

 おでこに手を添える。……うん、平熱だ。


「私は大丈夫です。レジーナさんが気遣ってくださり、湯船を早く空けてくださいましたので」


 そうそう。

 レジーナを優先して風呂を譲ったナタリアを気にして、レジーナはろくに温まる前に湯船から出たんだよな。

 お互いに気を遣い合って、全然休まらなかっただろうに。


「ナタリアも、帰るまでは安静にしとけ。船の上で何か起こることもないだろうし、仮に何かあってもここには頼れる仲間が大勢いるからな」


 俺がそう言うと、デリアやマグダが頼もしい笑みを浮かべて胸を張る。

 中でも、ノーマが物凄く張り切っている。


「何があろうと、アタシが守り切ってみせるさね!」


 それが、ノーマなりの責任の取り方なんだろう。

 ……何かあるとすれば、船に慣れてないお前んとこの乙女が騒ぎ出すか、大工や木こりが船酔いで大変なことになるってのが確率高そうなんだけどな。


「ナタリア」


 いつもよりも静かな笑みで、エステラがナタリアの名を呼ぶ。


「みんながこう言ってくれてるんだから、厚意に甘えなよ。幸せなことだよ、これは」


 エステラに言われ、ようやく、ナタリアは観念したように肩の力を抜いた。


「分かりました。それではお言葉に甘えまして、四十二区へ戻るまでの間、休ませていただきます」

「今日はもう休んでいいよ。明日の朝、元気なようだったら、またよろしくね」

「……はい」


 まぁ、ナタリアは大丈夫だろう。

 おそらく、川に落ちたくらいで寝込むようなやわなヤツじゃない。

 病は気からというが、ナタリアなら気合いで病を封じ込めてしまいそうだ。


 それでも、ナタリアは人間だ。不死身でも無敵でもない。

 こういう時くらい、甘えたっていい。いや、甘えるべきだ。


「温かくして休むんだよ」

「いえ、寝る時は全裸でないと落ち着きませんので」

「温かくしてて!」

「いいえ、お気遣いなく」

「君が気を遣って! ヤシロたちも出入りするから、医務室!」


 ……うん。アレはアレで甘えてるんだろうけど、その甘え方はどうなんだ、給仕長?


「ねぇねぇ。そろそろ、出港しちゃってい~い?」


 こちらの話が終るのを待ってくれていたようで、マーシャが確認を取る。

 さっさと医務室へ連れて行ってやりたいところだが……


「出港だけでも、見てくか?」

「せやね」

「では、私も」


 折角なので、出港するまでは海を見せておいてやろう。


「ベルティーナも、こっち来てみろよ。出港する時は、結構感動するもんだぞ」

「そうなのですか? では、お隣失礼しますね」


 呼べば、素直に俺の隣にやって来るベルティーナ。

 うっすらと緊張している雰囲気が出てたからな。

 反対隣りはジネットに立ってもらおう。

 俺とジネットに挟まれていれば、多少は緊張も和らぐだろう。


「じゃあ、マーシャ。頼む」

「は~い☆」


 マーシャが大きく手を振れば、ゆっくりと船が動き始める。

 この静かな動き出し……動力は海中の人魚だな。


「わぁ……っ!」


 ゆっくりと陸地から離れていく船の上で、ベルティーナが声を漏らす。


「動きましたよ、ジネット」

「はい。思っていたよりも静かですよね」

「そうですね。波がぶわ~としていたので、もっと揺れるものかと思っていました」


 港に出入りする船を見た時のことだろう。

 船が進むと結構波が立つからな。

 船の上では、さほど揺れは感じない。


「怖くないか?」

「はい。ジネットとヤシロさんのおかげで、とても落ち着いていられます」


 そういうベルティーナの手に、ジネットがそっと手を重ねる。


「見てください、シスター。みなさんが手を振ってくださっていますよ」

「本当ですね」

「手を振り返してあげませんか?」

「では、そうしましょう」


 遠慮がちに手を振り返す母娘。

 こちらから手を振り返せば、見送りの者たちからわっと声が上がる。

 それを見て、こちらも笑みをこぼす。


 こういう送り迎えって、なんか特別感があって、記憶に残るんだよな。


 ふと顔を上げると、大きな噴水が勢いよく水を噴き上げていた。

 これが、三十五区の景色になるのか。


 なんとも言えないゆったりとした気持ちの中、船が旋回して舳先の向きを変える。

 その時――



「ぃぃいいっやぁぁぁあぁあああああああ!」



 なんか、えげつない悲鳴を轟かせて、超高速船がえげつないスピードで海の上を猛進していった。

 わぁ、速ぁ~い。

 えげつなぁ~い。


 ……よかった、乗らなくて。


 グーズーヤと金物ギルドの乙女たちが数名、星になりそうな勢いで四十二区へ向かい、俺たちはその後を比較的速い速度で追いかけた。

 ノートンたちは陸路を行き、そのまま四十区に帰るそうだ。

 カワヤ工務店の連中は三十五区に残って、ノスタルジック街道について話し合いをするのだとか。


 テーマパークの方は大丈夫なのかとウーマロに尋ねたら――


「あっちには、頼りになる連中がまだまだいるッスから」


 ――と、信頼して任せているんだか、有無を言わせず仕事を押し付けてんだか分からない発言をしていたので、まぁきっと大丈夫なのだろう。


 何かあっても大工だし。

 うん、大丈夫大丈夫。


「では、医務室へ向かいましょうね、レジーナさん、ナタリアさん」


 ジネットに促され、風邪っぴき二人が船内へと向かった。




「海が綺麗ですね」


 沈みかけの太陽が最後の力で空を赤く染めていたが、ぼちぼち空の上の方は紫を過ぎて群青から黒に染まりつつある。


 ベルティーナは海風に踊る髪を手で押さえながら、変わりゆく空と海の色を眺めていた。


 現在、女子たちによってレジーナとナタリアが医務室で寝かされている。

 ジネットに言われ、ロレッタが二人の寝間着を持ってきたらしい。

 新品なのかね、もしかして。


 着替えなどが必要なため、俺はしばらく甲板から動かないようにと申し付けられている。

 お目付け役として、ベルティーナがここに残っている――ってことだけど、おそらく率先して世話を焼きたがるであろうベルティーナを甲板に残して、海上の日没を見せてやりたかったんだろうな。


「もう少し早ければ、真っ赤な夕焼けを見せてやれたのにな」

「これで十分ですよ。……ですが、そうですね。では、それはまた今度のお楽しみにしておきます」

「次はガキどもと一緒に来るか」

「そうですね。帰りが遅くなるのは、ちょっと不安ですけれど」

「区民運動会ほど遅くはならねぇよ」

「……ふふ。あの日の子供たちは、教会へ戻るなりみんな寝てしまったんですよ。泥だらけなのに体も拭かずに……、寮母さんたちと大わらわでした」


 思い出し笑いをして、とても楽しそうに話すベルティーナ。

 ガキどもの面倒を見るのが、好きで好きでたまらないようだ。


「デッカいタライに全員放り込んで、ぐるぐるかき回してやればよかったのに」

「ヤシロさんが子供だった頃は、そんなことをされていたんですか?」


 されてねーわ。

「とんだいたずらっ子だったんですね」じゃねーっつの。


「太陽が沈んでしまいましたね」


 ぽつりと、海へ落とすように呟かれた言葉。

 まだ薄っすらと深い藍色が残っているが、じきに真っ暗になるだろう。


「そろそろ、レジーナさんのところへ向かいましょうか」

「俺が行ってもいいもんかね」

「ヤシロさんでなければ、正確に病状を把握できないでしょう?」


「レジーナさんは、隠し事がお上手ですから」と、ベルティーナは言う。

 まぁ、レジーナなら、まったく大丈夫じゃなくても「大丈夫」と言うだろうしな。


 レジーナが診察できない以上、俺しかいないわけだ。


「ナタリアが服着てなかったら、なんでか俺が怒られそうなんだよなぁ」

「紳士らしく振る舞っていただければ、叱ったりはしませんよ」

「よし、紳士的に触診しよう!」

「背を向けるのが正解です」


 ぎゅっと、耳たぶを摘ままれる。

 ほら、結構厳しいんだよ、ベルティーナは。

 全然痛くないとはいえ。


「あ、ヤシロ君、シスタ~☆ 海はどうだった?」


 地階へ降り、医務室の前へやって来たところで、ざばっと、マーシャがプールから現れた。


「はい。とても素敵でした」

「ならよかった~☆ 今度は子供たちと一緒に日の出を見に行こうね☆」

「では、みんなに早起きの練習をさせないといけませんね」


 前回、俺らが船に乗った時はかなり早い時間だったからな。

 教会のガキどもは朝飯が早いから比較的早起きしてるとはいえ、ちょっと大変か。


「寝ぼけて海に落ちなきゃいいけどな」

「落ちても大丈夫だよ~☆ 私たちがいるし☆」


 あのな、マーシャ。

「死ななきゃセーフ」じゃないんだ。

 船から落ちるなんて体験したら、心にめっちゃ恐怖心植え付けられるから。

 特に、あの巨大な豪華客船だったら、なおさらな。


「中に入っても大丈夫かな?」

「大丈夫だと思うよ~。着替えは終わったし、体も拭いたしね~☆


 熱が上がると汗をかく。

 拭いてもらったなら、すっきりしているだろう。


 着替えが終わっているなら問題ないだろうが……


「ベルティーナ、念のために確認してきてくれるか?」

「はい。任せてください」


 寝てるところを見られたくないと思うかもしれないので、念のためにな。

「紳士だねぇ~☆」と、マーシャにからかわれる。

 紳士でいなきゃ叱られるらしいんでな。


「ヤシロさん」


 後ろから名を呼ばれ振り返ると、お盆を持ったジネットがいた。

 デッカい土鍋と、小さな器が二つ載っている。


「厨房をお借りして、雑炊を作ってきました」


 土鍋の蓋を開けると、ふわっと出汁の香りが立ち上る。

 うっわ、美味そう!


「……中にベルティーナがいるんだが」

「シスターは、他人の物を奪ったりはされませんよ」

「えっ!? 何回か奪われた記憶があるんだが?」

「それは……、きっと、ヤシロさんが甘やかしてくださる方だと分かっているからではないでしょうか?」


 甘やかした記憶などないのだが?

 何をもってそんな認識を持ったんだ、あの食いしん坊シスターは。


「七草がゆじゃないんだな」

「朝も夜もでは、食べ飽きてしまうかと思いまして」


 そういや、朝食った弁当は、お重の一段が全部七草がゆだったっけな。


「あのおかゆなら、数日続いても飽きることはねぇよ。レジーナも好きな味だって言ってたぞ」

「そう……なんですか。……えへへ」


 褒められて、嬉しそうにはにかむ。

 こういう顔を、たくさん見てきたんだろうな、ジネットの祖父さんは。


「では、また今度作りますね、七草がゆ」

「おう。期待しとく」


 にまにまと、嬉しそうに体を揺するジネット。

 たぶんだけど、褒めた後にこういう状況になって、結構はらはらしてたんじゃないかな、ジネットの祖父さん。

 いいから、落ち着きなさい、ジネット。

 雑炊、零れるから!


「ねぇねぇ、店長さん。その雑炊って、中身はなんなの?」

「はい。ネフェリーさんが持ってきてくださった卵と、厨房の人魚さんにいただいたカニを入れてみました」

「カニ雑炊か。それは美味そうだ」


 ベルティーナ以上に、ノーマが羨ましがりそうだ。


「あぁ、そうだった。ノーマがカニ鍋を食いたいって言ってたぞ」

「わぁ、美味しそうですね。帰ったら作ってみましょうか」

「じゃあ、私がとっておきのカニを用意してあげる~☆」

「本当ですか?」

「うん☆ だから、食べさせてね☆」

「はい。もちろんです」


 これは、ノーマとナタリアが荒ぶるな。


「美味しそうな匂いがしますね」


 ゆっくりと医務室のドアが開き、中からベルティーナが顔を覗かせる。

 匂いにつられてんじゃねぇか。

 取るんじゃね? 他人のご飯。


「シスター。帰ったらカニ鍋ですよ」

「それは美味しそうですね。……でも、子供たちのことが心配ですので、今日は帰ります」

「あの……シスター。物凄く泣きそうな顔になっていますよ?」


 めっちゃ悲しいらしい。


「じゃあ、カニ鍋は明日の夕方だな」

「待っていただけるのですか?」


 物凄く嬉しそうにベルティーナが俺を見る。


「レジーナは明日一日、陽だまり亭で療養が決まっているからな」


 風邪で倒れたら俺がつきっきりで看病すると、事前に告知してある。

 まぁ、言ったのはナタリアにだが、対象を限定した覚えはないのでレジーナも含まれる。


「あいつを一人残して、みんなで鍋なんて出来ないだろ?」

「そうですね。では、たっぷりと療養していただいて、明日の夕食はレジーナさんもご一緒にカニ鍋ですね」

「じゃ~ねぇ、い~っぱいカニ持ってきてあげるね☆ またたくさん集まりそうだし☆」


 はは……ホント、そうなりそうだ。


「カニ鍋は夕飯ですか?」

「はい。教会の子供たちも連れてきてあげてくださいね。……それとも、教会でお鍋をしますか?」

「いや、陽だまり亭に来てもらおう」


 明日一日で治すつもりだが、病み上がりのレジーナをあまり連れ回したくはない。

 最悪、容体が落ち着かなければ、レジーナは部屋で鍋を食うことになる。

 その間全員が出払うようなことは避けたい。


「では、明日の夕飯は陽だまり亭でカニ鍋フェアです」


 なんか、しれっと客にも振る舞う感じになったな、今。

 金は取ろう。

 取れるだけ取ってやろう。

 きっと取ろう。


 カニ鍋の日程が決まると、ベルティーナは嬉しそうな顔でぱしっと手を合わせて、極上のスマイルを浮かべた。


「では、ケーキ食べ放題は、お昼ですね」


 ……そうだな。

 その約束もあったっけな。



 ……え、どんだけ食うの?

 つか、ベルティーナが他人の物を取らないってさぁ……そんだけ食ってりゃ当然なんじゃね?


「さぁ、中へ。レジーナさんとナタリアさんがお腹を空かせてしまいますよ」


 と、小さく「くるっ」っとお腹を鳴らしたベルティーナに誘われ、俺とジネットは苦笑を漏らしながら医務室へ入った。




「エステラ~」

「大丈夫、着せたから」


 医務室に入って、最初にエステラに声をかければ、最大の懸案事項がクリアされたことを教えてくれた。

 それはそれで寂しいものがあるけどな。


「逆にレジーナがすっぽんぽんってことは?」

「ないよ」

「甘いで、エステラはん」

「あんたは大人しく寝てるさよ!」

「れじーなさん、脱ごうとしちゃ、だめぇ!」


 なんか、パーテーションの向こうが騒がしい。


 医務室は、そこはかとなく広く、ベッドが六床並んでおり、それぞれがパーテーションで区切られているようだ。

 なんとなく、企業の面談室みたいだな。


 派遣会社の登録会とか、保険の面談とか、常時持ち込みOKの出版社編集部みたいな、不特定多数の部外者が訪れて個々に面談するスペースみたいな造りだ。

 半個室だな。


 レジーナとナタリアは、区切られたスペースのお隣さん同士に寝かされているらしい。


「仕切り取っ払っちまえよ、メンドクサイ」

「中の衝立は撤去したよ。みんな、どっちのお見舞いもしたいみたいだったから」

「普通、こういうの、患者の意見が優先されるもんなんちゃうやろか?」


 パーテーションの向こうから、弱々しい抗議が飛んでくる。

 レジーナとしては、個室に籠ってやり過ごしたいだろうな。

 まぁ、お前の抵抗力が低かったせいだ。

 甘んじて甘やかされてろ。


「入るぞ」


 一声かけてから、パーテーションの内側へ入る。

 間隔を空けて並んだベッドに、レジーナとナタリアが寝かされている。

 ナタリアは体を起こして座っているが、レジーナは寝転んで肩まで布団にくるまっている。


「なぁ、自分からも言ぅたってやぁ。ただの風邪やさかいに、こんな厳戒態勢やのぅてもかまへんで~って」

「風邪は引き始めが肝心なんさよ。拗らせないために、しっかりあったまっておきなね」


 どうやら、ノーマがレジーナに寝ておくように言ったらしい。

 どれどれ――


「……扁桃腺が腫れてるな」

「よぅもまぁ、許可もなくこんな美少女の首に触れたもんやなぁ。『きゃ~』言ぅて悲鳴上げたら、自分懺悔室直行やで」

「お前なら、どーせ『きゃ~』じゃなくて『お~ぅ、えくすたしぃ~』だろうが」

「どっちでも結果は一緒や」

「いや、後者だったらあんたも懺悔室直行さね」


 ノーマ的ジャッジでは、一緒ではなかったようだぞ。

 いいから大人しく寝てろ。


「……けほっ、けほっ」

「のどが痛いのに、無理してしゃべるからだ」

「せやかて……けほっ。……しゃべらな、心配するやん?」


 口元まで布団で隠して、熱に潤んだ瞳で見上げてくるレジーナ。

 風邪のせいか、妙に可愛らしいじゃねぇか。


「どっちにしても心配されるんだ。おとなしく完治させる方に集中しとけ」

「ほな、ちゅーちゅーするもん貸して、ノーマはん」

「『集中』さよ! しょーもないこと言ってないで横になってなね!」

「なぁ、レジーナ。二つあるみたいだから半分こしねぇ?」

「しょーもないこと言うなって言ったとこさよ、アタシは!」


 こつんと、煙管でデコを突かれ、よろめいたところをベルティーナに拘束される。


「ヤシロさんは、あとで懺悔です」


 えぇ……流れ弾じゃね、今の?


「それはそうと、レジーナ」

「なんやろか、エステラはん?」

「えへへ~」


 エステラが嬉しそうにしている。

 あ、ここにいるヤツら全員気付いてるっぽいな。

 気付いてないのはレジーナだけか。


「エステラ、待て待て」


 エステラに待ったをかけて、ベルティーナの背を押す。


「ベルティーナも随分心配してたんだぞ。な?」

「はい。ですので、これ以上心配しなくてもいいように、早く元気になってくださいね」

「おおきにな、ベルティーナはん」

「きゃぅっ!?」


 はい、ベルティーナ、被弾。


「え? なに? なんなん?」


 ここにきて、ようやくレジーナが周りの異変に気が付く。

 デリアやマグダがにこにこしてるってことは、あいつらも呼ばれたのだろうな、名前。


「今回も、船の上では名前を呼んでくださるんですね、レジーナさん」

「はっ!? しもた!」


 そうなんだよ。

 甲板でジネットのこと普通に名前で呼んでたから「あれ?」っと思ったんだよな。

 風邪でもうろうとしてるのと、前回の船の上では名前呼びってルールがそんな勘違いを生み出したのだろう。


「なんだか、レジーナさんに名前を呼んでいただけると、くすぐったいですね」

「なんでなん? みんなかて『シスター』て呼んではるやん。ウチだけ特別ちゃうて!」

「いえ、レジーナさんは誰かのお名前を呼ぶことに照れてらっしゃるようなので……頑張ってくださったんだなと思うと、他の方よりちょっと嬉しさが大きい気がします」

「気のせいやって! ちゅーか、気付いてたんやったら早よ言ぅてや!」

「いや~、だってさぁ、自然に『エステラはん、エステラはん』って呼んでくれるからさぁ」

「あたしも『ロレッタはん』って言ってもらえて、ちょっと嬉しかったです!」

「ほんで、ここにこんな仰山おるんかいな!?」


 エステラとロレッタが、同じような顔で頬っぺたに真ん丸の赤丸を浮かべる。


「アカン、なんや寒気してきたわ……寝よ」


 がばっと、布団を頭からかぶるレジーナ。

 まぁ~、どいつもこいつもにやにやしちゃって。


「レジーナさん、おやすみになる前に軽く食べましょう。お昼は、あまり食べられなかったと、ルシアさんのところの給仕の方に聞きました」


 いつの間にそんな情報収集をしてたんだ、ジネット。

 ジネットによれば、給仕によってパンとスープを提供されたらしいが、レジーナもナタリアも、スープを一口二口飲んだだけだったそうだ。

 食欲がなかったんだろうな。


「食べないと、病気には勝てませんよ」

「……まぁ、せやな」


 緩慢な動きで、レジーナがのそりと起き上がる。

 すかさずノーマが支えてやる。

 最強の介護士になれるな、ノーマは。


「ナタリアさんも、食べられそうですか?」

「いただきます。先ほどから、とてもいい匂いがしていましたので」


 ナタリアがにこりと微笑み、口を開く。


「先程までのくっだらないやり取り、『早く終わればいいのになぁ~』と思っておりました」

「ナタリア、言葉選んで!?」


 猛毒吐きやがったな!?

 結構お腹が空いていたようだ。


 ま、腹が減るってのは健康な証拠。

 ナタリアの風邪は、もう大丈夫そうだな。


「ウチのせいちゃうからな?」

「分かっています。ただ、今回も私だけ呼んでいただけていませんので」

「なんで拗ねてんねんな、…………ナタリアはん」

「むふふん」


 嬉しそうな顔してんなぁ、ナタリア。

 風邪だから甘えん坊になってんのかね?


「ナタリア。ジネットが準備する間に、お前の診察もさせてくれ」

「ふふ……なんだか懐かしいですね」


 ナタリアの前に立つと、ナタリアが目を細めて俺を見上げてくる。


「以前もこうして、私の具合を診てくださいましたよね」


 あれはまだナタリアにバッリバリ警戒されてた時だったな。

 貧血の確認をしようと頬に手を触れたら、「キスをされるのかと思いました」とか言いやがったんだよな。


 そんなことを思いながら、あの時と同じように下瞼を押し下げて貧血の確認をする。

 ……うん。問題なし。


「頬に触れたりなどするから、キスをされるのかと思いました」

「言うと思ったよ」


 記憶力いいもんな、お前は。


「首も触っていいか?」


 聞いておかないと、レジーナみたいに悪乗りされる。


「私には、四種類の首がございまして――」

「首だよ、ナタリア! 顔の下の! 手首でも足首でもその他の首でもなくね!」


 すかさず、エステラが突っ込む。


「え? 『その他の首』とは?」

「言わないよ!」

「乳首やね」

「ボクがわざわざ言わないでおいたことを言わなくていいよ、レジーナ!」


 うわぁ……こいつらの間に挟まれたら、ツッコミが過労死しかねないな。


「レジーナさん……?」

「こほっ、こほっ、ジネットは~ん、ご飯食べて早よ寝た~い」

「うふふ。シスター、今日だけは大目に見てあげてくださいね」

「もう、ジネットは人を甘やかし過ぎですよ」


 呆れ顔で言って、ベルティーナはレジーナのほっぺたをむにっと摘まんだ。

 あれで懺悔が免除されるなら、ずっとあれがいいな、俺も。


「うん。扁桃腺も腫れてないし、熱も出てないようだな」

「大丈夫なつもりでも、ヤシロ様にそう言っていただけると安心しますね」

「でも、念のため今日一日は安静にして、レジーナの薬も飲んどけよ」

「レジーナさんのようになる薬、ですか?」

「それは飲むな」


 つーか、そんな恐ろしい薬、発見し次第焼却処分してくれ。


「さぁ、お二人とも召し上がってください」


 小鉢に取り分けられたカニ雑炊を受け取り、レジーナとナタリアが同時に口を付ける。


「わぁ……優しい味やなぁ」

「体の奥から温まってくるようです」

「お口には合いましたか?」

「はい、とても美味しいです」

「ウチ、こんなん食べさしてもらえるんやったら、もうちょっと病人でいたわ」

「ダメですよ。元気になってもらうためのお料理なんですから」


 そんな話をしている間にも、レジーナは小鉢一杯分の雑炊を平らげた。

 うん。食欲があるなら、じきに治るだろう。







あとがき




どうも、あとがき王子こと、宮地です。

気軽にガッキーと呼んでください☆


え~っと、今回の更新日が3月28日ということで、


()()(ぱい)


本日は、ミニぱい記念日

ちっ\(≧▽≦)/ぱい


小さな失敗=ちっぱいにくよくよしちゃう、そこのあなた!

ちっぱいは素晴らしいものです!

むしろ胸を張りましょう!



世界中のちっぱいよ、胸を張れ!

\(≧▽≦)/



ふむ、またいいことを言ってしまいました。



というわけで、

本日はミニぱい記念日に相応しいあの方のSSを!



――領主の館


ルシア「邪魔をするぞ、エステラ……どうした? なにか不機嫌そうだな」

エステラ「いや、なんだか、物凄く不敬なことを言われたような気がしまして」

ルシア「領主などをしておると、いろいろ言ってくる輩はいるものだ。小さいことなど気にするな」

エステラ「別に、『小さいこと』を気にしてるわけじゃないですけど!?」

ルシア「落ち着くのだ、エステラ。誰も胸の話はしておらぬ。……で、そなたは確実に小さいことを気にしておるので、迂闊な発言はするな」

エステラ「すみません、どうにも周りの者が胸の話ばかりするので、過敏になっているようで」

マグダ「……エステラは、胸が敏感」

エステラ「そんなことは言ってないよ!? 過敏だよ、過敏! で、いつ入ってきたのさ、ボクの書斎に!」

マグダ「……かれこれ三日ほど前」

エステラ「だとしたら潜み過ぎだよ!? もっと早く声かけて!」

マグダ「……きゅるきゅるきゅるっ!」

エステラ「めっちゃ早口!? って、そうじゃないから! 『はやく』の意味が違うから!」

マグダ「……お気に召さない感じ? 本編ではここぞというシーンでしか使用しない『!』まで使ったというのに」

エステラ「そのこだわりを、こんなしょーもないSSで消耗しないでよ……」

ミリィ「ぁのぉ……ぉじゃましま、す?」

ルシア「むはぁ! なぜか疑問形で入ってきたミリィたんもマジ天使!」

エステラ「ルシアさん、ウーマロみたいになってますよ」

ルシア「はむまろ?」

エステラ「違います。都合のいいように脳内変換しないでください」

ミリィ「ぇっと、ぁのぅ……?」

マグダ「……ごめんね、ミリィ。こっちの『乳のないこと山の如し~ず』がはしゃいでしまって」

ミリィ「ぇっと、それに関しては……みりぃも、似たようなものだから……」

マグダ「……なるほど。ミリィはあと少しでも育ったら、エステラとルシアの無い乳を弄り倒そうという腹づもり」

ミリィ「そんなことなぃょ!?」

エステラ「ミリィ。ボクは君のことが大好きだけど、念の為に、我が家に伝わる呪いの子守唄を聞かせてあげるね」

ミリィ「ぴぃっ!?」

ルシア「そんなものが伝承されておるのか、クレアモナ家では」

エステラ「ボクも、気付いたのは最近なんですが……先日、一人で我が館のお風呂に入っていた時、ふと母上のことを思い出しまして、『そういえば、子守唄をよく歌ってくれていたな』と懐かしくなりましてね、それで口ずさんでいたんですよ、浴室は声が反響して歌うと心地よいですから、そしたら、お風呂上がりにナタリアが『改めて聞くと、それは呪いの歌だったようですね』って……」

ルシア「どのような歌なのだ?」

エステラ「意味のない言葉を、リズムに乗せて歌っているだけだと思っていたんですが……」

ルシア「聞かせてくれるか?」

マグダ「……待って、マグダは耳を塞ぐ」

ミリィ「ぇっと……みりぃも、念の為、ふさいどく、ね?」

ルシア「では私も」

エステラ「じゃあ歌う意味ないじゃないですか!? 全員聞いて! ほら、耳塞いでる手は膝の上! マグダ、耳ぺたんてしないの!」

ルシア「仕方ない」

マグダ「……まったくエステラは、わがままちゃんなんだから」

エステラ「ボクのわがままじゃないよ……まったく」

ルシア「では、歌ってみよ」

エステラ「えっと――」



 ♪んせうこいへがかなせとかなお

 らいたっま からめな からだな

 い~ぱいぱっちもてっなになとお

 いぱいぱっちなつだそいたっぜ♪



エステラ「――という歌なんですが」

ミリィ「……不思議な歌、だけど……これが呪い、なの?」

エステラ「ナタリアが気付いたんだけどね……逆から歌うと……」

ルシア「ひぃっ!?」

マグダ「……エステラ母の呪い……」

ミリィ「ぇっと……えすてらさん、ぁの……が、がんばって!」

エステラ「どんなに抗っても、この呪いが強くてねぇ……」

ルシア「では、逆の歌を作ってみてはどうだ?」

エステラ「逆、ですか?」

ルシア「『ぜったいそだつぞでかぱいぱい』と」

エステラ「それはいいですね!」

マグダ「……果たして、いいだろうか?」

ミリィ「ぁの、落ち着いて、ね、えすてらさん?」

エステラ「『おとなになったらでかぱいぱい』! その次は……なだらか、なめらかは……そうだ! 『ぼぃんで、ばぃんで、ぷるんぷるん』にしよう!」

マグダ「……語彙が、ヤシロそのもの」

ミリィ「落ち着こう、ねっ、えすてらさんっ!」

エステラ「おなかとせなかがへいこうせんは、『おなかとせなかが垂直だ!』にしよう!」

マグダ「……店長でさえも、垂直にはなっていない」

ルシア「エステラよ……よい歌だな」

ミリィ「ぇっ!?」

マグダ「……まさかの、感染者がここに」

エステラ「では、共にこの歌を歌い広めましょう!」

ルシア「うむ! 四十二区にとどまらず、外周区、『BU』にも轟くヒットソングにするのだ!」

エステラ「まずはマーシャに覚えてもらって歌ってもらいましょう!」

ルシア「うむ。それは宣伝効果が高そうだ! そうと決まれば、善は急げだ。行くぞ、エステラ!」

エステラ「はい!」(てってりーぷっぷー)

ミリィ「ぁ…………行っちゃった、ね」

マグダ「……止める暇もなく」

ミリィ「ぇっと……どう、しようか?」

マグダ「……とりあえず、歌う?」

ミリィ「ぃや……みりぃは、いいゃ……」



その後、奇妙な歌を歌い歩く領主二人がヤシロに捕まり、速やかにベルティーナに引き渡されることになるのだが……それは、また別のお話




……あれっ!?

ミニぱい記念日だから、

ちっぱいはこんなにも素晴らしいんだよ☆

というお話にするつもりが……


ついついいつものクセでちっぱいいじりを……


まぁ、それもエステラさんのちっぱいが魅力的だから、というわけですね☆



うむ、うまくまとまった(はず)


次回もよろしくお願いいたします。

宮地拓海

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[良い点] なんだかんだルシアが可愛い。 [気になる点] アルシノエ……( ゜д゜)ハッ! わーたしの記憶が確かならば〜、たぬっ娘が可愛い!とハネる可能性を感じていたのは娘の方だったはず……なのにい…
[良い点] >レジーナさんのようになる薬 砂糖黍畑もヤバいネタだったけど、コレは凄い というか酷い(汗 でもレジーナなら作りそうなんだよなぁ 何せお腹から「すいっちょん」て音出す薬とか作る女だから・…
[一言] SSだー! これで心肺停止状態のSS置き場も息を吹き返しますね!
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