報労記85話 旧シラハ邸改築計画
街門をくぐり、「通行税の請求はルシアまで☆」と門兵に伝え、ギルベルタと一緒に大通りへと向かう。
大通りを歩いていても、水路の工事の影響はあまり感じない。
なんら変わりない日常風景がそこにあった。
ただまぁ、若干「なんか工事してたよ」「見た見た!」的な、ちょっとそわそわした噂話は耳に入ってきたけども。
噴水の工事を行うという告知だけは事前にされているようで、「えっ、アレってもう始まったの?」みたいな話をしている者もいた。
中には、ばっちり見学に行って騒いでいるヤツもいたけれど。
「ねぇ、見た? 工事!」
「うん、見た! すっごく長い溝が出来たね」
「そうじゃなくて! その溝を掘ってる子たち!」
「……子? 土木ギルドの人が掘ってるんじゃないの?」
「あっ、私も見たよ! モグラ人族の子供たちでしょ!」
「違う! ハムスター人族! 駄菓子あげたらね、『うゎ~い!』って、めっちゃ可愛かったの~!」
「うっそ! 私もあげに行きたい!」
駄菓子もらってんじゃねぇよ、ハムっ子。
「人気、みんな。分かる、その気持ち、私も」
「ギルベルタも、ハムっ子を見て可愛いとか思うのか?」
「ぎるべるた?」
「そんなとこは真似しなくてよろしい」
何気に気に入ってるらしいな、ギルベルタも。
ギルベルタから見ても、ハムっ子は可愛いもんなのか。
「いやぁ、でもオレも最初は驚いたぜ。あんな小さい子供がバリバリ働いててよぉ。トルベック工務店ってのは容赦ないところだと思ったもんだ」
何かと四十二区と関りを持つようになったカブリエルが肩をすくめて言う。
「今ではどうだ?」
「よくあのパワーを制御できてるなって、感心しかねぇよ。大したもんだよ、トルベック工務店は」
むしろハムっ子連中は止める方が大変だと、カブリエルも気が付いたらしい。
ハムっ子をうまく操れるようになって、初めて一人前みたいなところもあるしな。
なにせ、言ったことを物凄い速度で完遂しちまうから、指示が間違っているととんでもない大失敗に繋がる。
「とりあえずここまでやらせてみて、状況を見ながら微調整を~」とか出来ないからな。
「とりあえずここまで――」
「出来たー!」
みたいな速度だからなぁ、あいつらの仕事って。
作業を始める前から、明確にビジョンを描いて、状況を把握して、的確に、過不足なく、分かりやすい指示を明確に出さなければいけない。
そして、それはプロでもなかなか難しいものだ。
「以前、花火の手伝いに二人だけ来てくれたんだがな……二人を操るので精一杯だったよ」
有能過ぎるのも、なかなか大変だろ?
攻略法は、ハムっ子の性格を正確に把握することなんだが、他所様にはそれがなかなか難しいんだよな。
なので、ハムっ子は四十二区内でこそ最大限に輝ける存在なのだ。
四十二区の連中は、ハムっ子のことよく分かってるしな。
モーマットですら、常時二十人程度のハムっ子を預かってるわけで。
コツが分かると、本当に使いやすいんだけどなぁ、ハムっ子は。
「給仕に欲しい、十人ほど」
「そしたら、ルシアが三十五区から出てこなくなるんだが……ちょっと許可は出せないなぁ」
イケニエになっちまうからなぁ、その十人が。
ま、やりたいってヤツがいるならやらせてもいいが……姉弟と離れて暮らそうなんてハムっ子がいるとは思えないんだよなぁ。
あいつら、姉弟仲よすぎるから。
「成人するヤツが増えてきたら、ロレッタに相談してみるといい」
「そうする。私は」
ロレッタがいいと言うならいいだろう。
……いいって言わなそうだけども。
あいつ、長男次男がトルベック工務店の寮に引っ越しただけで号泣してたしなぁ。
その寮、実家のお隣さんなのに。
……ロレッタって、恋人が出来たら束縛系になるかもしれないな。
今のうちから言い含めておいてやろう。
「あんまり重いと、ノーm……とある女性みたいになるぞ」って。
なんて話をしている間に、花園へとたどり着く。
相変わらず、花の香りに溢れて、目にも鼻にも華やかな場所だ。
「あっ! カタクチイワシ様!」
俺らが花園に踏み込むと、数名の虫人族が反応を見せる。
にこやかに手を振ってくる者が数名。
適当に振り返しておいてやる。
「きゃ~! やったぁ!」
ぴょんぴょん跳ねて喜びを顕わにするショウリョウバッタ人族の女子。
そんなに嬉しかったのか?
なんか、来日したハリウッドスターにでもなった気分だ。
「私、情報紙に『ラッキーアイテムはオオバヤシロ』って書かれてたの~!」
何書いてんだ、情報紙!?
アイテムて!?
今度、責任者のタートリオに抗議を入れつつ使用料を請求しなければいかんな。
「私は、ラッキーカラーはオオバヤシロって書かれてた」
何色だ!?
「俺色に染めてやるぜ」って?
やかましいわ!
「私、ラッキー食材に冷凍ヤシロって書かれてたんだよねぇ」
タートリオだな、そのふざけた占い書いたの!
あいつだけだもん、俺のこと冷凍ヤシロって呼ぶの!
あと、こっち見て「甘噛みくらいなら……OK?」とか呟かないでくれるかな、コガネムシ人族の女子!
食材じゃないから!
「人気、とても、友達のヤシロも」
「素直に喜べねぇ情報だなぁ、それは」
どうにも「きゃーきゃー」の種類が違うんだよなぁ、この街。
相変わらず、しょーもない噂がなくなってないみたいだし。
そんな、噂の原因となっている三十五区の領主様が、旧シラハ邸の前で俺を待ち受けていた。
「遅いぞ、カタクチイワシ」
「お前は、ラッキーファッションにカタクチイワシとでも書かれてたのか?」
「誰がファッションにカタクチイワシなど取り入れるか」
いや、なんか流れ的にな。
「そういや、ウーマロはまだ来てないのか?」
あいつの見立てでは、このくらいの時間には現場を離れられそうだからと、この場所に集合することになっていたのだが。
「ヤシロさ~ん!」
そんなことを思っていると、ウーマロが走ってやって来る。
ウーマロが遅刻とは珍しい……とか思って視線を向けると、ウーマロの後ろに暑苦しい大工の群れが追従してきていた。
「ウーマロ、後ろ! 後ろ!」
「いや、気付いてるッスよ!?」
知らないうちに暑苦しい大工の霊に取り憑かれた――というわけではないらしい。
子供のころ、よくあーゆーの見たんだけどなぁ。
舞台上のコメディアンが、背後のお化けに気付かなくて、観客席の小学生が「うしろー!」って教えてあげるパターン。
そのパターンでは、ないらしい。
「大通りでは、ハムっ子が可愛いって噂でもちきりだったのに、その好感度を帳消しにしそうな暑苦しい絵面だな、ウーマロ」
「オイラのせいじゃないッスよ……」
ウーマロの背後に控えるのは、もうすっかり見知った顔のオマール・カワヤ率いるカワヤ工務店の大工と、顔見知りになったばかりのドノバン・ノートン率いるノートン工務店の大工たち。
「何しに来たんだよ、お前ら?」
カワヤ工務店は三十一区のテーマパークとか、やることいっぱい抱えてるだろうし、ノートン工務店の連中はとりあえずトルベック工務店のもとで修行のし直しをするんじゃなかったっけ?
「ヤシロさんが、海漁のギルド長に言ったんですよね? 水槽タクシーの荷車はトルベックに作らせるって」
オマールが俺を見て言う。
はて?
そうだっけ?
よく覚えてないが、ウーマロに作らせれば間違いないものが出来るし、いいんじゃねぇの?
「人魚の乗り物は、俺たちカワヤ工務店の十八番ですよ!? 一言あってもよくないですかねぇ!?」
「いや、お前ら、仕事いっぱい抱えてんじゃん」
「ウーマロほどじゃないっすよ!」
「いや、ウーマロは捌ききるし」
「俺らだって捌ききれますぅー! なぁ!?」
「「「そーだそーだ!」」」
なんか、人魚の乗り物は当然自分たちが作ると思っていたらしく、不満を感じているようだ。
「ウーマロ、どう思う?」
「そこは任せて大丈夫だと思うッスよ。ただまぁ、オイラもいくつか思いついたことがあるッスから口は出させてもらうッスけど」
まぁ、その辺の采配もウーマロに任せておくか。
「けど、俺がマーシャに言ったからって、そんな全員で乗り込んでこなくても……」
「いやいや、そこは大事なところですから!」
なんか、譲れないものがあるらしい。
「で、ノートン一同はどうしたんだ?」
「師匠のいるところに弟子が集うのは当然だろう? さぁ、今日もじゃんじゃんしごいてくれ!」
「なんか、現場にいてこそ大工は成長できるって、聞かないんッスよ……まぁ、その意見にはオイラも賛成ッスから、言ってることは分からなくないんッスけど」
つまり、めちゃくちゃ懐かれたと。
「師匠のそばにいれば、俺らの技術は上がっていく!」
「ヤシロさんのそばにいれば、どんどん新しい仕事がもらえる!」
「ノートン工務店一同」
「カワヤ工務店一同」
「「絶対そばを離れませんから!」」
「「いや、怖い怖い怖い」ッス」
勢いと熱量が怖ぇよ、お前ら。
なんか、変なのに懐かれちゃったなぁ。
全部ウーマロに擦り付けたい衝動が止まらない。
とりあえず、こいつら帰りそうもないので、この辺の道の補修とか建物の修繕とか、出来そうなところは片っ端からやっていくことにする。
もう、どうにでもなれだ。
現場検証も兼ね、旧シラハ邸に招かれる。
「ようこそおいでくださいました、ルシア様、大工の皆様」
出迎えてくれたアゲハチョウ人族の女性が、俺たちに頭を下げる。
「そして、ヤシロちゃん様」
「その下げた頭、一回上げてこっち見てくれるか?」
どんな敬称だ。
アレか?
シラハが「ヤシロちゃん」って呼んでるから、それに倣ってか?
素直なのか単純なのかバカなのか、一体どれなの?
「私、シラハ様よりこの屋敷の管理を任された、アゲハチョウ人族のイロハと申します。以後、お見知りおきを」
「イロハって、なんかシラハと似た名前だな」
「そーでしょー!」
なんかめっちゃ食いついてきた!?
「も~ぅ、シラハ様の名前が決まった時に『やだ、似てるわ!』って嬉しくって嬉しくって! お生まれになった時から、それはそれはお美しくてねぇ」
ヒジを固定し手首から先だけをスイングする『おばちゃんスナップ』をぱたぱたと繰り出しつつ、背中の翅も同時にぱたぱた。
テンション上がってんのは分かったから、鱗粉をまき散らすな!
燃えちゃうよ、この辺!
どーせよく燃えるんだろ、お前らの鱗粉も!
「俺の知ってる蝶々は、はがれた鱗粉が再生したりはしないんだがなぁ」
「虫人族の特性であろうな」
傷付いた肉体も瞬時に回復って?
無駄に使うなよ、そんなすごい特殊能力。
「アゲハチョウ人族は、虫人族の中でも由緒ある古い家柄でな。本家筋のシラハは、アゲハチョウ人族のみでなく、近隣の虫人族たちからも好かれておったのだ」
「それで、こんなでっかい屋敷に住んでたのか」
「この屋敷は、シラハがここに戻った折、彼女ら虫人族たちが寄付をして建設しシラハに贈ったものだと以前説明したであろう」
あれ?
そうだったっけ?
「なので、周りの家屋に比べ、この屋敷だけは比較的新しいものなのです」
と、イロハがもとのテンションに戻って説明をしてくれる。
立派な門と塀に守られた、日本家屋を思わせる大きな屋敷。
平屋ではあるが、縦横に広くかなり立派な屋敷だ。
だが。
「宿屋にするには狭いな」
「そうッスね。これを元に二階を増築できれば、ある程度収容人数も増えると思うッスけど」
今のままじゃ、呼べる客は三組が限度だ。
それも、プライベート空間はかなり限られてしまう。
「それでしたら、増改築の許可はシラハ様からもいただいております。ヤシロちゃん様とウーマロちゃん様のお好きなようにさせてあげてねとの伝言も」
「ウーマロちゃん様……ッスか」
ウーマロも、奇怪な敬称に苦笑を漏らす。
イロハに対する緊張よりも苦笑が勝ってるな、今は。
「けど、シラハが帰ってきた時にほっとできるような面影も残しておきたいだろ?」
「そうですね。そうであれば、嬉しいです」
門と庭は、ちょっと小奇麗にするくらいに留めるとして……、二階建てにすると外観は大きく変わっちまうからなぁ。
「シラハ様は、中庭が大層お好きでした」
「中庭?」
見たことねぇな。
「シラハ様の寝室からご覧いただけるお庭で、オルキオ様のお好きだった樹木を植えてあるのですよ」
「へぇ、そいつは興味深いな」
「シラハ様の寝室はお見せするわけにはいきませんでしたので、ご来客の方にお見せできなかったのですが、見事なものなのですよ」
寝室から中庭が見えるってことは、中庭から寝室が見えるってことだ。
シラハが住居を移し、もう寝室として使われることがなくなったので、見せてくれるという。
板張りの廊下を進み、屋敷の奥まった場所にある木戸を潜り抜けると――
「へぇ、こりゃ大したもんだ」
そこには、日本庭園風の中庭が広がっていた。
屋敷の中心からは若干奥へとずれているだろうが、それなりの広さがある。
広いくせに、妙に薄暗くて狭い印象を受けていたのは、この中庭があったせいか。
外観から受ける印象よりも部屋数が少ないんだな。
「ん~……惜しいなぁ」
池があり、紅葉とは違うが赤い葉を付ける樹木が佇む中庭は、物凄く日本庭園っぽくもあり、微妙に違うから絶妙に気持ちが悪い。
なんというか、こう、チグハグした感じがする。
「とはいえ、俺の好みで作り変えるわけにもいかないしなぁ」
「いえいえ。ヤシロちゃん様のセンスで綺麗にしてくださって結構です。むしろ、シラハ様はそれを望んでおられますよ」
「けど、この景色が好きだったんだろ?」
「それは、オルキオ様との思い出に浸る一助に、この風景がなっていたからですわ」
この中庭は、オルキオが好きだった、または好きそうな植物を集めて作られたのだそうだが、作ったのが造園の技術も知識も持たない素人集団。
だから、もっと美しくなるのならその方がいいと、イロハは言う。
そんなもんかねぇ。
「下手くそでも、自分を思って作ってもらった風景ってのは、やっぱ思い入れが生まれてんじゃないか?」
ここで数十年という時を過ごしたわけだしな、シラハは。
「きっと、シラハ様ならそうおっしゃってくださると思います。ですが……」
ふと、イロハが寂しそうに目を伏せる。
「ヤシロちゃん様。この屋敷の庭が寂れたまま放置されているのは、なぜだと思いますか?」
この屋敷の庭は、イロハの言う通り寂れている。
初めて訪れた時も、もっとちゃんと手入れすればいいのにと思ったものだ。
「造園に精通した者がいなかったからじゃないのか?」
「それもございます。ですが……一番は、シラハ様が興味を惹かれないように、なのです」
庭に綺麗な花が咲けば、シラハはそれを見たいと思うかもしれない。
そうすれば、シラハは庭に出て花を愛で……人の目についてしまうかもしれない。
「この屋敷も、この中庭も、すべて、シラハ様を外の世界へと向かわせないために用意されたものなのです」
それは、俺も感じていた。
初めてこの屋敷を見て、この屋敷が出来た経緯を聞いた時。
ルシアは「傷付いたシラハを癒すため」と言ったが、俺には、シラハを閉じ込めておくために作られたように思えたのだ。
「我々は人間を恐れ、憎んでいました。それ以上に、シラハ様にはこれ以上苦しんでほしくないと思っていました」
だから、シラハを外界から隔離した。
「結果として、それは誤りであったわけですが……」
「間違いだったかどうかは分からねぇぞ」
シラハのために。
そう思ってこいつらはシラハに尽くしてきた。
シラハがここに閉じ込められたのと同じだけの時間を、こいつらはシラハに捧げて生きてきたのだ。
その時間のすべてを無駄だったとか邪魔だったとか、そんな風には言ってやりたくない。
「きっと、シラハは楽しかったと思うしな、お前らに慕われ、守られながらここで暮らしていた時間が」
寂しくはあっただろう。
だが、外に出たからといってオルキオに会えたわけではない。
ならば、こいつらがここで、シラハと共に過ごしたことは、きっとシラハの助けになっていたはずだ。
「だからまぁ、あんま自分たちを責めてやるな。なかなか出来ることじゃない。それをやり遂げたんだから、もっと誇れ」
「……ですが」
「それに、感謝しているからこそ、シラハはお前たちにこの屋敷を託したんだろう」
そうでなきゃ、さっさと取り壊すさ。
忌まわしい場所だったならば。
「ここで宿屋をやるんだって、うきうきしてたんだぞ、シラハのヤツ。きっと、またお前たちと一緒に新しいことが出来るのが、嬉しいんだよ」
「…………っ」
イロハが目頭を押さえ、顔を背ける。
「……シラハ様のおっしゃる通りでした」
目尻と口元にシワを刻み込んで、イロハは泣きながら微笑む。
「ヤシロちゃん様といると、自分を許してあげられそうです」
シラハも、実は自分を責めていたんだろうな。
自分のせいで、アゲハチョウ人族の自分と結婚したせいで、オルキオは家を追われたのだと。
……そっか。
自分を許せそうだって、こいつらに言ってたのか。
なら、よかった。
「そんなヤシロちゃん様だからこそ、改めてお願い申し上げます。この場所を、素敵な宿屋にしてくださいまし。当時を知る者が懐かしみ、未来ある若者たちが新たな出会いに恵まれるような、そんな宿に」
そりゃとんでもない注文だ。
けどまぁ、そこまで言ってくれるなら、中庭もちょっといじらせてもらおうかな。
風情と情緒、趣のある、眺めているだけで癒されるような落ち着いた空間に。
ちょっと、俺の趣味が色濃く反映されると思うけど。
「改造したら、オルキオを呼んで仲間に引き込まなきゃな」
「そうッスね。最後の微調整はオルキオさんに任せて、完璧完全に完成した後で、シラハさんに見てもらいたいッス」
「まぁ、なんて素敵なサプライズなのでしょう。きっとシラハ様もお喜びになるわ」
濡れた目尻を指で拭い、イロハは俺たちに向かって深く頭を下げる。
「よろしくお願いしますね、ヤシロちゃん様、ウーマロちゃん様」
相変わらずけったいな呼ばれ方ではあるが、俺とウーマロはお互いに笑みを交わしていた。
改めて、旧シラハ邸の中庭を眺める。
外から覗けないように、シラハの寝室だった場所以外はすべて壁で塞がれている。
折角中庭があるのに、こんなに閉め切ってたら、室内が暗くなるのも仕方ないよな。
「池があるんだな」
「はい。ルシア様に許可をいただいて、小さいですが水路を引かせていただいているのです」
イロハが指さす先には、ちょろちょろと水を吐き出す細い竹の管があった。
この池の水は循環してるのか。
「水路を引ける地形なのか、ここ?」
「うむ。ちょうど、この地域の北側を川が通っておってな。そこから大きく曲がって、今そなたらが水路を作ろうとしておる場所へ流れておるのだ」
じゃあ、こっち側の方が上流なのか。
「水量は?」
「豊富だぞ。この先で川は三つに分かれておるが、どの川も水量は多い」
なら、多少水を拝借しても問題はないか。
「だったら、このそばに大衆浴場を作るか」
「あぁ、いいッスね。お風呂に入って、この宿に泊まるって、すごく贅沢ッス」
「噴水用の水路を作ってる付近にも一個作っておけば、いろいろとトラブルも減るだろう?」
今は緩和されたとはいえ、花園はもともと虫人族たちにとって特別な場所だった。
その花園からこちらへ来る時は、領主のルシアであっても気を遣って馬車ではなく徒歩で来ていたほどだ。
大衆浴場をこちら側に作ったせいで、多くの者が無遠慮に花園を踏み越えてくるような状況はあまり歓迎できるものじゃない。
「花園を荒らされないためにも、一本新しい通りを作りたいところだな」
「そうであるな。イロハよ。すまぬが虫人族たちの取りまとめを頼めぬか?」
新しく通りを作るとなれば、そこに住む虫人族に立ち退いてもらわなければいけなくなる。
だが、話を聞く限りではこの辺の虫人族は街の改革に前向きらしいので、話し合いで折り合いがつくなら協力もしてくれるだろう。
「必要なら、この近辺の家を、趣を残したまま改築するお手伝いもするッスよ」
この雰囲気を残したまま、住居を新しいものへ。
確かに、周りの家は古いんだよな。
古臭いとか以前に、倒壊の恐れもある。
ウーマロ的には、その辺もなんとかしておきたいのだろう。
「では、その辺りは改めて皆で話し合ってみますね」
「よろしく頼む。もし住居を移転してくれるというのであれば、費用は領主である私が持つと伝えておいてくれ」
今の古い家から最新の家屋へ無償で引っ越し。
それなら、食いつくヤツもいるかもしれない。
「ただし、決して強制にならぬよう、細心の注意を払ってほしい」
「大丈夫でございますよ、ルシア様」
イロハは、幼い少女に語り聞かせるように、優しく微笑んで言う。
「私たちは皆、あなた様のお心遣いに感謝しておりますもの。以前からずっと、あなた様がどれだけ私たちに寄り添い、心を砕いてくださっていたか、よく存じ上げております。強要されたと思う者など、ただの一人だって居りはしませんよ」
「……そうか」
ぐ……っと、ルシアがノドを鳴らす。
ずっと頑張って、それでもどうにも出来なくて、こいつもヤキモキしていた時期が長った。
その努力が、ちゃんと届いていたと言われて、ちょっとうるっと来ちゃったのだろう。
「ルシア、泣いてもいいよ? ぷぷっ」
「やかましいぞ、カタクチイワシ」
軽いネコなでパンチ。
今ので涙も引っ込んだだろう。
人前で、おいそれと泣くわけにいかないもんな、領主なんて存在は。
感謝、してもいいのよ? ほらほら。さぁ、どうぞ。
「あのぉ、ヤシロさん。出来るかどうか分かんないんッスけど……」
と、ウーマロが近隣の地図を見せながらこんな提案を寄越してくる。
「この館の両サイドに大衆浴場を作って、雰囲気を合わせる感じでこの宿屋を大きくするなら、三階建てでも大丈夫……というか、それくらいしないと見劣りしてしまいそうなんでやってみたいんッスけど」
「出来んのかよ、増築で三階建てとか」
「基礎からやり直す必要はあるッスから、一回取り壊すことになるんッスけど……」
ちらりと、イロハとルシアを見るウーマロ。
気になって仕方ない、みたいな目で見ている。
……やれやれ。
「ウーマロ。両方Bだ」
「そこじゃないッス、オイラが今見たところは!?」
えっ!?
おっぱい以外にチラ見する場所なんてあるの!?
「アホのカタクチイワシは無視するとして」
とか言いながら、俺のミゾオチに拳を「ぐりん!」としてくるルシア。
……無視してねぇじゃねぇか。
「出来るというのであれば、立派にしてやってほしい」
「はい。私も、その方がシラハ様もお喜びになると思います。それに、我々この付近に住まう者たちも嬉しいです」
シラハだけでなく、近隣の虫人族たちも嬉しいと言われて、ウーマロがほっと息を漏らす。
「ただ、そうなるとかなり時間かかるよな?」
「まぁ……でも、急いで中途半端なものにするより、断然いい結果になるはずッス」
まぁ、未来を見据えりゃそうだろうけど。
「それに、人手も増えたッスし、……なんだかんだ、今後も増えそうッスし」
因縁のノートン工務店がトルベック工務店から仕事をもらったと知れれば、「じゃあ俺たちも!」って追従する大工たちは出てきそうだな。
「よっ! 頼れるね、総帥!」
「やめてほしいッスけど……ちょっと、笑い事じゃ済まなくなりそうッスね、あんまり羽目を外し過ぎてると……」
それでも、いいと思ったことはやらずにいられない。
それが、ウーマロ・トルベックという職人だ。
もう、さっさと総帥になっちゃえよ☆
「ちなみに、ルシア。その川の水、大量に引き込むことは可能か?」
「大量に? ……何をするつもりだ?」
「ちょっと表に出ろ」
中庭で話していてもイメージは湧かないだろうから、一度表へと連れ出す。
館の前を通る道は、そこそこ広く、それでいて建物が密集しているせいで薄暗い。
昭和の、車が滅多に通らない田舎の路地みたいな風景だ。
「この辺の家を全体的に後ろにずらして道を広くして、道の真ん中に水路を作れないか?」
「道の真ん中にッスか?」
「おう。人工的な川を作る感じで」
「あ、今度は埋めないんッスね」
つい今し方、地中に埋める水路を掘ってきたところなので、あらかじめ「川のように」と説明しておく。
目指すは、城崎温泉のような、川を挟んだ両側に店が並ぶ風情ある風景だ。
「真ん中にデカい川があってな、川沿いには樹木を植えるんだ」
柳でもいいし、桜でもいいな。
等間隔に並ぶ樹木はそれだけで美しいし、川と合わさると絶景にすらなり得る。
「ところどころに朱塗りの橋を架けて、対岸への行き来をしやすくしておく。観光客は川を眺めて歩き、店を覗いて歩き、反対側も見学するためにまた歩く」
この虫人族のエリア、通りの距離はさほどないのだ。
なので、何往復も出来るような造りにしておかないと、あっという間に全部を見終わってしまう。
「燈篭とか置いといて、夜には炎の灯りを眺めて歩くのもいい。対岸の灯篭を見れば、川面に反射してまた美しい景色になるだろう」
ここでは、敢えて光のレンガを使用しないのがいいかもしれないな。
「そして、何より――」
三十五区にそういう場所を作れば――
「人魚が喜んで遊びに来ると思うぞ」
川の両側に店が並べば、人形は川を泳いで好きな店を見に行ける。
そうだな。川と店を繋ぐ水路を地中に埋めておけばいい。
海漁ギルドの船みたいにトンネルを使って好きな場所に泳いでいけるようにしておけば、人魚が気軽に買い物をすることが出来るだろう。
「ここまでは、水槽タクシーで来て、ここにいる間は自由に動き回ってもらえばいい」
人魚と虫人族。
ルシアが大切にしたいと言っていた者たちが心から楽しめる場所にしてやればいい。
「それは、素晴らしいな。だが……」
呟いて、ルシアは「はぁ……」と髪を掻き上げる。
「相当の無理を押し通さなければいけなくなったではないか。厄介ごとを次々と持ち込むのではないわ、カタクチイワシ」
悪態をつくにしては、顔が嬉しそうだぞ。
面倒ならやらなきゃいいだけなのに。
やらないなんて選択肢は、もうルシアの中にはないらしい。
「ここより低い位置にある区に影響がないか、即座に調べさせ、同時に近隣の区へ理解を求めるよう説得に向かう。ギルベルタ、諸々の手配を頼む」
「承知した、私は。頑張る、全身全霊で。その素晴らしい未来を実現させるために!」
ノスタルジック……とは、ちょっとかけ離れちまうかもしれないけれど、種族を超えて、この場に集う者を大切にしたいと願い続けてきたルシアの区にはお似合いの場所になるだろう。
「というわけで、ウーマロ、カワヤ、諸々の計算よろしく☆」
「むぁぁああ! オイラ、屋敷の大改築しか想定してなかったッス! まだまだ甘かったッスねぇ!」
「えっと、諸々ってなんだ!? 川の幅とか深さとか、流れる水の量とか、そういうのか!?」
「そのために必要な道幅と、それを確保するために現在ある家屋をどれだけ動かすのか、川から店の軒先までトンネルを掘るなら地盤の調査も必要ッスよ!」
「お、おいおい、そんないっぺんに出来るのかよ!?」
「出来ようが出来まいが、やるんッスよ!」
「ホンット、鬼のようなスケールだよな、トルベック経由の仕事は、毎度毎度!」
「お前が自分からしゃしゃり出てきてんッスから、自業自得ッス!」
「ちきしょう! こうなりゃノートン! お前らも徹底的に使い倒してやるからな! 覚悟しとけ!」
「お、おう! ドンとこいだ!」
「あぁ……、いいッスねぇ。まだまだ、そんな軽い気持ちで安請け合いできる段階で」
「……これがそのうち、『下手に頷いたら死ぬ』って実感するようになるんだよなぁ……」
ぶつぶつと文句を言いながらも、一斉に動き出した大工たち。
さすがに今日着手ってわけにはいかないだろうが、今日中に調べておいた方がいいことは山ほどある。
うん、走りなさい走りなさい。
俺は……そうだな。
中庭のデザインでも、してようかな~っと。
「これは残す。これも、取り外して綺麗にして再利用だな」
「ヤシロちゃん様、一体何をなさっているのですか?」
ウーマロたちが方々に飛び出していったので、俺は一人屋敷に戻って建物のチェックを行っている。
メモを取る俺の手元を、イロハが覗き込んでくる。
「まだ比較的新しい建物だからな、使えるものはなるべく使い回すんだ」
とはいえ、もう築数十年ではあるが。
「馴染みのあるものが一個あるだけで、当時を思い出せるもんだろ?」
シラハはきっと、この建物を残したいのではないかと思う。
宿屋として改築して、多くの者をもてなしたいという気持ちもあるだろうが、それでもやっぱり当時の面影が残っている方が嬉しいものだろう。
劇的にビフォーをアフターしちゃう番組でも、思い出の品はうまく再利用するのがセオリーだったしな。
「こういうドアとか建具を残しておくと思い出は残るし、何より使い慣れた感じがいいだろ?」
なんだかんだ、愛着が湧くもんだ。毎日触れていたものってのにはな。
「シラハだけじゃなく、ここで長い時間を過ごしていたお前たちにも、いろんな思い出があるだろうしな」
「ヤシロちゃん様…………」
口元を押さえ、しばし言葉をなくすイロハ。
一度俯き、目元を押さえた後、嬉しそうに口元を緩ませる。
「では、お勝手に出るところの床は残してもらえませんか? 私たちお手伝いは、あの場所に腰掛けてよくおしゃべりをしたんですよ」
この屋敷のお勝手――台所は、土間のようになっているようで、台所と室内の間に段差があるらしい。
その段差に腰をかけて、手伝いに来ていた者たちで雑談混じりに休憩などをしていたのだろう。
料理が出来るまでの間とか、そういう隙間の時間にな。
「宿にするなら、厨房に段差はない方がいいから、そうだな……その床の部分を使ってベンチでも作るか」
「まぁ、素敵。またあの床に腰掛けておしゃべりが出来るんですね」
「厨房に置くベンチなら、座面が開いて収納になるようにしておけばいいな」
「そうですね。収納は、いくらあっても困りませんからね」
なんだか、ここに来てようやくイロハが改築に前向きになったような気がした。
改築が必要とは思いつつも、やはりこの場所がなくなることへのちょっとした抵抗があったのだろう。
まぁ、そりゃそうだ。
古くなろうが、不便だろうが、長く過ごした居場所がなくなるのは寂しいものだ。
「やってよかったって思えるような完成品を見せてやるよ」
「はい。楽しみにしていますね」
ま、作るの、俺じゃねぇけど。
「カタクチイワシよ」
表でギルベルタに何かと指示を出していたルシアが戻ってくる。
今日はあいつもバタバタ走り回ってるな。結構結構。
「通りに人工の川を作る案だがな、なんとかなりそうだぞ」
「そうなのか?」
「うむ、これを見よ」
ルシアが差し出してきたのは、手書きの地図だった。
この描き方は、ギルベルタが描いた地図だな。ちゃんと北が上になっていて、どの方角に何があるのか、簡単に記されているので非常に見やすい。
この街では、地図は北を上にって認識が一般化してないからなぁ。
「私の認識が少々違っておってな」
ルシアが指さす先には、大きな川がうねりながら流れている。
ルシアが言ったように、大きな川は細い支流へと、三つに分かれている。
その分かれた支流の一つが、この地域の北側を通っている。
本流じゃなくて支流から水を引いてたのか、この辺。
「随分と細いけど、平気なのか?」
「地図で見れば細いが、実物はなかなか見事な川だ。水を大量に引き込んだところで干上がるような規模ではない」
そりゃそうだろうけど。
それでも、下流には影響が出るだろう。
「そして、この川はここで向きを変えそのまま三十四区へと流れておる」
「ほぅ」
「つまり、説明すら必要がない」
「いや、説明くらいはしてやれよ」
お前、三十四区には何してもOKとか思ってるだろ?
領主はあのブーちゃんだからどうでもいいけど、三十四区にも人は住んでるんだからな?
「三十四区の川漁ギルドとか、文句言ってこないのか?」
「三十四区に川漁ギルドは存在しておらぬ」
「ないのかよ!?」
「それほど魚が捕れる川ではないのであろう。それに、三十五区の川漁ギルドが張りきって魚を捕るのでな。近隣の区には行商ギルド経由で安く出回っておる」
あぁ、供給過多なのか、この辺の川魚。
安く手に入るなら、わざわざギルドを作って漁をする必要もないか。
「それともう一つ。三十四区には水嫌いが多くてな」
「水嫌い?」
カナヅチが大量に集まってでもいるのか?
「かつて、人魚誘拐で領主が追放されたという話をしたであろう?」
たしか、海水を固める薬を使って人魚を誘拐しまくっていた領主が三十四区の領主で、それが明るみに出てお家取り潰しのあと国外追放されたんだっけな。
「その事実が知れ渡った折、怒り狂った人魚の群れが海から川を逆流して三十四区になだれ込み、関係者を引き渡せと大暴れをしてな……」
うわぁ……怖ぁ…………
「関係者ではなかった者たちまでもが、『川に近寄ると人魚に攫われる』と恐怖心を植え付けられてな……」
うわぁ……怖っ、怖ぁ…………
「三十四区には、鱗を見るだけで泣き叫び取り乱す者も多いと聞く」
「うん、川、最悪干からびても問題なさそうだな」
三十四区と人魚の確執、思ってた以上だったわぁ……
つーか、三十五区の川って、確かに海に繋がってるけど、結構な高低差あるよね?
場所によっては滝だよね?
それ遡ってったの?
登竜門をくぐる鯉かよ。
その光景を見た三十五区の人間が、よく人魚恐怖症に陥らなかったこと。
俺なら三日三晩夢にうなされそうだ。
「とはいえ、生活用水にはなっておるので、水量のチェックは厳重に行うつもりだがな」
「相手がダックなら、連携も取りやすいか」
「あぁ。人魚が喜ぶことへ協力したと宣伝してやれば、連合騎士団への風当たりも多少は和らぐかもしれん」
ダックに骨を折らせて、それをルシアが人魚に宣伝する。
そういう小さいことの積み重ねで、過去の因縁を少しでも緩和していこうということか。
「じゃ、三十四区にもちょっと金を出させるか?」
「いや」
しかし、そこはきっぱりと否定するルシア。
「ここは、私が長年夢に見ていた場所になるかもしれぬ。いや、きっとそうなる。こればかりは、他の誰にも譲れぬ。私が全責任を持って完遂させる」
そう宣言したルシアは、実にきらきらとした瞳をしていた。
長年の夢。
ルシアは心底、人種を超えた共存共栄を望んでいたのだ。
一番の望みは、やっぱ譲れないか。
「心配せずとも、ダックは違うところで使い倒してやるわ」
くつくつと笑うルシアは、なんだか険が取れて丸みがあり、すごく魅力的な女性に見えた。
「いい顔してんな」
「んむ?」
「うっかりときめきそうになったぞ」
「ふぁっ!?」
「踏みとどまったけどな」
「と、とどまるな! ……あぁ、いや、違う! それじゃないな、指摘するのは……えっと、あの……えぇい、くだらぬことをほざくな、カタクチイワシ!」
赤い顔をして睨んでくるルシアは、見慣れた感じで、なかなかよかった。
「ほんと、睦まじいわ」
イロハがくすくすと笑い、ルシアが「うぐっ」っと言葉に詰まる。
「貴様のせいだぞ、カタクチイワシ」とか憎まれ口を叩くが、イロハには強く言えないようで、俺の肩に八つ当たりの一発を食らわせてくる。
「宿と中庭の内装を完璧にデザインせよ。……それで、此度の不敬は大目に見てやる」
とか言いながら、デカい紙を押しつけてくる。
今描けってのかよ。
さすがに無理だから持ち帰らせてもらうぞ。
「ルシア。バザーでマーゥルが出品していた盆栽を見たか?」
「あぁ、あの小さな植栽か。あれは見事であった」
マーゥルの作った小さな日本庭園風の盆栽を、ルシアが見事というのであれば、こっちの人間にも日本庭園の良さは伝わると見ていいだろう。
「あんな感じの中庭にすれば、見ていて飽きが来ないと思わないか」
「ふむ。確かに、マーゥルの作った盆栽はしばし魅入ってしまう美しさであったな」
マーゥルが作った盆栽は、枯山水風の箱庭型盆栽だったが、この屋敷には池があり水を引き込むことが出来る。
ならば、本格的な日本庭園だって作れる。
苔がいい味を出すまでには少々時間を要するが……まぁ、草花でなんとかなるだろう。
「ミリィの協力が必要だな」
「ふむ、私の癒やし係だな」
「違ぇーよ」
「確かに必須だ」
「聞けよ、違うっつってんだよ」
貴様のために貸し出すミリィはありません!
「中庭に庭園を造り、全室中庭に面した窓を作る」
どの部屋からも、中庭が見下ろせるように。
旅館にある広縁のようなものを設けておくと、向かいの部屋から室内を覗かれる心配も減るだろう。
広縁っていうのは、ほら、部屋と窓の間にあるちょっとしたスペースで、椅子とかテーブルが置いてあるあのチル空間だ。
椅子に腰掛けて、のんびりと日本庭園を眺めるのは、かなり贅沢な時間となるだろう。
三階からだと、かなり覗き込むような形になるだろうけど。
でもまぁ、庭園は上から見ても綺麗だし、それはそれとしていいものになるだろう。
「で、建物左奥の最上階にだけ、外側に向けた窓をつけておく」
立地的に、建物の周りに自然はなく景色がいいわけではない。
何より虫人族の住宅地だから、宿泊客に見せるなら建物の外ではなく中庭の方がいい。
「なぜ左の最上階だけは窓の向きを変えるのだ? 何か意味があるのか?」
ウーマロが言っていただろう?
「この屋敷の両サイドには大衆浴場が建つ。そして、人の流れ的に女風呂は通行量が多少なりとも少ない左側になるだろう。つまり、女風呂側の最上階に窓を作っておけば――っ!」
「よし分かった。ジネぷーに手紙をしたためておくので、持って帰ってしっかりと手渡すように」
えー、やだ、そんな懺悔確定な危険物。
誰の目にも付かない場所で焼却処分してやる。
あとがき
やっほい♪
宮地です。
ちょうど、この85話を書いていた時、東京では雪が降って、
ちょこっと風邪ひいちゃったんですよね~
それで、人の優しさに触れたくて――なんか、全体的にいいこと書こうとしてますね、この時の私(笑)
ほのかにいい話テイストに!!
風邪の時はよくあることです(*´ω`*)
今は元気ですけども
無駄に元気ですけども!
意味もなく「おっぱいカーニバ~ル!」と叫びたくなるくらいに元気ですけども!
おっぱい\(≧▽≦)/フェスティバ~ル!
はい、というわけで、
ビフォーアフター回です(笑)
匠が劇的にビフォーアフターしちゃいます。
後ほどね☆
祖母の家が土間のある古いお家でして、
今は取り壊されてマンション建ってるらしいんですけども、
私が二歳だった頃は、お祖母ちゃんっ子過ぎてそこに住み付いていたくらいなんです
あ、ウチの実家とお祖母ちゃんのお家、子供の足で徒歩五分だったんですよ
たぶん直線距離で500mくらいでしょうか。
行くには、ちょっとぐるっと回らなきゃいけないんですけどね
物凄くご近所
母方のお祖母ちゃんのお家です
そこが土間で、
二歳の私は上れないんですよ。
デッカい石が踏み台として横たわってるんですが、それでも上れなくて
玄関で「ばーちゃーん!」って呼んで家にあげてもらってたんですよねぇ
お風呂が外にあって、そっちは土間よりもさらに段差が高かったんですけども!
しかも、二歳の私よりデカいワンコがおりまして、
母屋で服を脱いで、全裸で風呂まで行く途中、絶対に尻を舐められるという
100%発動する生態トラップが設置されておりまして
尻舐めんな!(;゜Д゜)
上れない私を、そのワンコが助けようとしてくれるんですが、
ワンコなので、子供を「ひょい」っと持ち上げることは出来ず
せいぜいが、お尻に鼻先押し付けて、ちょっと持ち上げるのを手助けしてくれるくらいで
全然上れなくて、ワンコがお尻をすんすんして、ぺろっと舐めるという
尻舐めんな!(# ゜Д゜)
で、そんな様が可愛かったようで、
お祖父ちゃんもお祖母ちゃんも、ひとしきり私がわたわたしてぺろぺろされるまで
にこにこしてそれを眺めてたんですよね
いや、助けて!(;゜Д゜)
お祖母ちゃん家のワンコ、かわいかったなぁ(*´ω`*)
で、
昔の家って、とにかく段差ありましたよね。
50cmくらいですかね?
テーブルと一体型になってる昔のミシンの椅子に上れた私が上れなかったんですから。
結構な高さだったと思います
私をお風呂に入れるのはお祖父ちゃんの役割だったんですよ
そういえば、お祖母ちゃんとお風呂に入った記憶がないな……
他は全部お祖母ちゃんがやってくれていたのに
……え、私のおっぱいセンサーを警戒して?
Σ(゜Д゜;)
出してないよ、お祖母ちゃん!?
(;゜Д゜)
それ出し始めたの、中学生になってからだから!
(>△<;)
まぁ、幼いころに亡くなったので記憶があいまいな部分はありますが
今回シラハ邸を書くにあたり、お祖母ちゃんのお家をいろいろ思い出しました。
飴色の床とか、ふすまみたいな感じで室内に取り付けられていた木の扉とか。
段差に腰かけて、庭先で遊ぶ私を見ていたお祖母ちゃんとか。
土間に置いてあった漬物のツボとか。
きっと、シラハさんやお手伝いの虫人族の人にも、そういう思い出が詰まっているのでしょうねぇ
(*´ω`*)/みたいな感じ、伝われ~☆
父方のお祖母ちゃんの家も、物凄く古いお家で、
トイレが外にあるタイプでした
しかもドアが胴体(太ももから上、胸から下)のところしかないタイプの
足と顔丸見えの、スライドさせる木の取っ手で鍵するタイプの
分かりますかね?
昔はそーゆー感じだったんですよ。
あ、男子用小便器ですけどね
男子用小便器が、もはやご家庭にはないですよね(^^;
昔はご家庭でも、小便器があって、その奥に大便器の個室があったんですよ。
そしてお風呂が五右衛門風呂!
浴槽が石で出来ていて、かまどで下からじゃんじゃん沸かすという……
木の蓋を底に沈めて、その上に乗っかって湯に浸かるんですが、ま~ぁ、熱い!
浴槽にもたれると熱いんですよ!
暑い風呂が苦手な子供には酷なお風呂でした。
――が、
このお風呂も異世界詐欺師を書く上でとっても参考になりましたっけねぇ~
ありがたいですね、経験できるって(*´ω`*)
私が小学生になるころには、普通のお風呂になってましたけどね
改築されて、めっちゃ広くなっててね
私と兄貴と親戚の子と、4~5人で「うしゃ~い!」って入ってましたっけ
まるでハムっ子たちのように(笑)
幼いころは、よく親戚の家に集まって、親戚の子と遊んでもらってました。
父方のお祖母ちゃんのお家にも、ワンコがおりまして
こちらは中型犬なので、さほど威圧感はないんですが、とにかく元気で
私が近付くと物凄い勢いで「わ~ふわふわふわふ!」って寄ってくるんです
何がしたいのか、突進してきて「わふわふ!」ってしてくるんです
しかも、父方のお祖母ちゃんの家は田舎なので、裏庭が広いんですよ。
で、その裏庭に杭が打ってあって、杭と杭の間にロープが張られていましてね
そのロープに、ワンコのリードが取り付けてあるんです
昭和だったので、ワンコは外飼いが当たり前の時代だったんですけども、
そのロープが張られている範囲であれば、そのワンコはどこにでも自由に走り回れるという仕様だったんです。
裏庭なら、ほぼどこにでも行ける感じでしたね
たまに、一番端っこまで全速力で駆けてきて、リードが「ピーン!」ってなって「げふっ!」ってなってましたけども(^^;
で、ですね、
そのワンコが裏庭におりまして、
外トイレも裏庭にありまして、
お風呂がその裏庭に面しておりまして
お風呂に入っている時に尿意を催すと、
「トイレ行っといで」って言われるんです
ご家庭によっては洗い場で~、なんて話も聞きますが、ウチでは絶対NGだったので
素っ裸で外に出て、つっかけ履いて、裏庭の外トイレに行くんです
まぁ、当時は二歳とか三歳だったので
素っ裸で外に出ることに抵抗なんてなかったんですけども――
いえ、なんなら今でも別に抵抗はないんですが、法がね?
お国が許可さえ出すのであれば、私としては全然!
いつでも準備できてますけれども!
まぁ、子供の頃なので、素っ裸で外に出てトイレに向かうわけですよ。
そしたら、
お祖母ちゃん家のワンコ
裏庭ならどこにでも行ける移動範囲と、見つけ次第跳びかかってくる機動力を兼ね備えておりますから、
私がつっかけ履いて裏庭に下りた瞬間、突っ込んできて「わ~ふわふわふわふ!」してきて
尻をすんすん嗅いで、ぺろっと!
尻舐めんな!(# ゜Д゜)
なんで、昭和の犬って
二歳児のお尻舐めるのが好きだったんですかねぇ?
私も、舐める側に立てばその理由が分かるのでしょうか…………ちなみに、お尻に自信のある美少女で立候補者は……いえ、なんでもないです。
まだ85話なんで。
途中で打ち切られるわけにはいきませんので!
今回は、幼い少年とワンコが戯れるお話でしたので!
(;>△<)
そうして、健全に、あとがきは終わっていくのであった。
次回もよろしくお願いいたします。
宮地拓海




