報労記52話 残り僅かの航海
「ヤシロ、美味しい!」
試食会開始とともに物凄い食いつきを見せたエステラが満面の笑顔で言う。
揚げたてってこともあるだろうが、物凄く好みに合致したらしいな、白子の天ぷら。
白子は好みがはっきり二分した。
物凄く好きという面々と、そうでもない、むしろエビとかの方が美味しいという面々だ。
「みりぃは、エビの方が好き、かな」
「私はサツマイモが好きです。とても甘くて、幸せの味がします」
ミリィとカンパニュラ、お子様二人が熱々の天ぷらをサクサク言わせて食べている。
「ヤシロさん! この白子っていうの、ヤバいッスね!? 陸に持ち帰らない方がいいかもしれないくらいにヤバいッス!」
「然り、然り! これが上陸すれば、この生き物は絶滅危惧種になるでござるぞ、きっと!」
ウーマロとベッコは物凄く気に入ったようだ、白子。
ハビエルに勧められて酒を飲んでいる。
こいつら、四十二区に戻るころには酔い潰れてんじゃねぇか?
「白子も美味しいですが、私はこちらの天ぷらが好みです。これは非常に素晴らしいです」
と、上品な箸使いで、ナタリアがモリモリ食べているのはカサゴの天ぷら。
美味いだろ~、カサゴ。美味いんだよ、カサゴ。
「ギルベルタさんにも、食べさせてあげたかったですね」
この後のことを考えてか、ナタリアは酒ではなく水を飲んでいる。
だが、そんな風に素直な気持ちを吐露していると、酔っているのかと錯覚してしまうな。
随分と気にかけてやってるじゃないか。給仕長仲間は特別なのかねぇ。
「ギルベっちゃんも、きっと白子は嫌いだと思うです。きっとクリームコロッケの方が好きです」
「いや、ギルベルタって、案外こういうの好きじゃない?」
ロレッタとパウラの意見が分かれている。
というか、お互いに「ギルベルタはあたしと一緒のはず!」って言い合ってるだけだな、ありゃ。
「白子もそうだけど、こんなに美味しい天ぷらなら、きっと喜んだよね、ギルベルタ。食べさせてあげたかったなぁ」
ネフェリーがキス天を食いながら呟く。
先ほどまで一緒にいて、今はもういない友人。
一晩ずっと一緒に遊んだ相手がいなくなって、物悲しい気持ちになっているようだ。
もしギルベルタがいれば、あの辺に座っていただろうなぁ、なんて場所に、自然と視線が向いている。
「ねぇ、みんな」
しんみりとした空気の中、エステラが真剣な顔で言う。
「嘘でもいいから、ルシアさんにも食べさせてあげたいって言ってあげてよ」
全員で「ギルベルタに」って空気だったもんな、今。
つーか、そんな配慮、いる?
言わなくても食いに来るだろう、ルシアなら。
「でもまぁ、確かに。食わせないと『なぜ秘密にしていたのだ!?』ってうるさそうだな、あいつ」
「そういうことじゃないよ、ヤシロ!? もっとこう、ギルベルタみたいに、ちょっと寂しいよね~みたいな感じで!」
一応、友人らしいからな、エステラとルシアは。
「では、ルシアさんがお越しになった時には、美味しい天ぷらをご馳走しましょうね」
「なら、その時は特別に『人魚の度胸試し』を差し入れしてあげるね☆」
「フグだ、フグ」
いい加減マーシャに名前を覚えさせる。
つーか、もちろん知ってるだろうけど。ただ、普段使いの方を優先させてるだけで。
そんな物騒な名前で呼ぶな。
客が離れる…………まさか、それが狙いか!?
マーシャ、なんてしたたかな!?
「……店長」
きゃっきゃと、天ぷらを堪能する一同。
そんな中、マグダがジネットのエプロンをつんつんっと引っ張る。
「……海老が真っ二つ」
「マグダさん。海老の切り込みは、三分の一くらいでいいんですよ」
天ぷらにする海老が曲がらないように、身に切れ込みを入れるのだが、切り過ぎたようだ。
「ゆっくりで構いませんので、慎重にやってみましょうね」
「……がんばる」
「切れちまった海老はこっちに回してくれ。かき揚げに入れる」
マグダとロレッタ、そしてカンパニュラは、天ぷら試食会の最中もジネットを手伝いたいとカウンターの中にいる。
あ、言い忘れてた。
食堂の配置を変えて、簡易的なカウンターを作ってある。
ウーマロもナタリアも慣れたもんで、あっという間にレイアウト変更してくれた。
陽だまり亭チームは、適当に天ぷらを摘まみながら天ぷらの下拵えを行っている。
この後、陽だまり亭本店でフェアだからなぁ。
……本店ってことは、ここは分店か?
「店長さん、店長さん!」
「なんですか、ロレッタさん」
「エビが開きになったです!」
「背ワタを取る時は、そこまで切り込みを入れなくても大丈夫ですよ」
ざっくりと背中から開かれた海老を摘まんで、ロレッタが慌てている。
腹から開いてりゃ、寿司にでも出来たかもしれんがなぁ。
「ジネット姉様」
「なんですか?」
「包丁の使用許可をいただきたいです」
「それは、お店に戻ってからにしましょうね」
カンパニュラは、まだ包丁実習の途中だ。
こんな、いつ揺れるとも知れない船の上で刃物を扱わせるのは危険と判断して、今回は刃物なしで出来るお手伝いに限定されている。
というか、揺れる船の上で初めてのフグ捌きに挑戦しているジネットがとんでもないな。
フグは歯が発達していて、下手をすれば怪我をする危険もある。
ちなみに、フグの歯はピラニアより危険だという者もいるほどだ。
なので、口周りを捌く時は注意が必要だ。慎重に、落ち着いて……
それを、涼しい顔でさら~っとやっちまうんだもんなぁ、ジネットは。それも、不定期に揺れる船の上で。
で、見てて危なげがないんだから、もう感嘆の息すら漏らし忘れるくらいだ。
「……店長、今度は綺麗に出来た」
「本当に綺麗に出来ましたね。……あ、一つ忘れていますよ、マグダさん。尻尾をカットしてください」
「……おっと失念。やってくる」
身に切り込みを入れることに集中し過ぎて、尻尾の処理を忘れていたマグダ。
そっちは危なげなく処理できているので、問題はなさそうだ。
「ねぇヤシロ。なんでエビの尻尾を切っちゃうの? サクサクで美味しいから、大きい方がお得なのに」
「発想がしみったれだな、この貴族令嬢は」
エビの尻尾まできっちり食べ尽くす派のエステラが、尻尾の処理をするマグダを見ながら聞いてくる。
「エビの尻尾には空洞があってな。そこに水が溜まっちまうんだよ」
海老の尻尾の先の方、羽のように広がる部分には水が溜まっていることがある。
それも、あまり綺麗ではない水だ。
その尻尾の根元から尻尾の先に向かってこそぐように包丁の刃で水を絞り出してやる。
そうしないと、油が跳ねてしまって危険なんだ。
「それから、エビの尻尾は尖っていますから、カットしておかないとお口の中を怪我してしまう危険があるんです」
「へぇ~、そうなんだ」
ジネットからの追加情報に目を丸くするエステラ。
そういう細かい気遣いがあればこそ、お前らは何の気兼ねもなく美味い飯が食えてるんだぞ?
料理人に感謝しろ。
感謝して、チップでも弾むといい。
「ヤシロ。ボク、料理人にはなれないかも」
「心配するな。誰も望んでねぇし、なれるなんて思ってるヤツもいねぇよ」
おにぎりすら、十個中三個ほど失敗するような腕前じゃ、他人に食わせるものなど作れようはずもない。
失敗しても「ごめんね~、あはは~」で済ませられるヤツ以外には提供させない。
まぁ、四十二区の連中は、誰でも笑って許しそうだけどな。
むしろ、エステラの手料理なら、失敗作でも真っ黒コゲでも喜んで食いますってヤツもちらほらいるだろうよ。
カワヤ工務店の連中とか。
「……店長」
「はい。終わりましたか?」
「……尻尾が行方不明に」
「まぁ! ……ふふ、それは大変ですね」
「どんだけ力入れてこそげ落としたんだよ、お前は」
マグダの持つエビは、尻尾から先が完全にちょん切れていた。
きっと、尻尾をカットしようとした時に船が揺れたのだろう。さっきの揺れは、結構デカかったからな。
「では、それもかき揚げへ回してください」
「贅沢なかき揚げだな」
「……マグダの功績」
「あーそーだなー」
功績なのかなんなのか分からんが、マグダとロレッタが失敗する度に、立派なエビが増えていく。
車エビ満載のかき揚げなんて見たことねぇよ。とんでもなく贅沢な逸品だ。
「私、今回の船旅はとても楽しくて、素敵な思い出がたくさん出来ましたが……なんだか早く帰ってお仕事がしたくなりました」
包丁が使えないカンパニュラが、羨ましそうにマグダとロレッタを見ている。
見てるとやきもきしそうだよな。
「自分ならうまく出来るのに」とか「こうしてみたらどうだろう?」とか、そんなことを考えて、考えついてるのに実践できないもどかしさがあるのだろう。
実際、マグダとロレッタはほとんど失敗してるしな。
食べ放題なんだから、多少クオリティが下がってもいいだろう。
文句など言わせない。
こっちが赤字覚悟の出血大サービスをするんだ。
なら客側も協力して、マグダとロレッタに「自分が下拵えした料理が提供された」って充実感と達成感を与える一助となりやがれ。
客は安くて美味いものが食える。
こっちは得難い経験を得られる。
そうでも思ってなきゃ、やってられないっつーの。
「ギルド長!」
試食会をしていると、プールからクルーが顔を出した。
「ぁはぁ~……いいニオイ~」
そして、すぐ仕事を忘れる。
おい、クルー。
「食べる? はい、あ~ん☆」
「ありがとうございまふっ!」
マーシャに差し出された白子の天ぷらにぱくっと食いつき、人魚クルーは瞳をきらっきらと輝かせる。
「もいひぃ~れふ!」
「でしょ~? これ、人魚の度胸試しの内蔵だよ~?」
「えっ!? あの、一番デンジャラスな部分ですか!?」
「そう! あそこのあの二人はね~、この魚を安全に、且つす~っごく美味しく料理できちゃうんだよ~!」
と、俺とジネットを指さすマーシャ。
テンション高ぇなぁ。
「ギルド長! これはもう、感動なんて言葉では言い表せません! 革命です! 今、歴史が始まったようなものです!」
クルーも、ものすっげぇテンション高いなぁ。
何か言いに来たんじゃねぇのかよ。
いいのか、業務連絡怠って。
にしても、マーシャって案外面倒見いいんだな。
さっきから、やって来るクルーにあぁやってフグを食わせてやってるし。
「あれね、『おいし~』って言われることで、自分がちょっと優越感に浸れるんだよ。ボクもたまにやられるもん。『そっかそっか、美味しいか~☆ じゃあい~っぱい食べるんだよ~☆』っていいこいいこされるの」
そんなエステラの説明を聞いているまさにその時、マーシャがエステラの言ったとおりのセリフを口にして人魚クルーの頭をいいこいいこしていた。
自分で料理は出来ないけど、「料理できるあの人、自分の知り合いなんだよ☆」って感じか。
芸能人の友達の友達の後輩が前の職場にいた――みたいなもんでも、ちょっとした優越感に浸れちゃうのが人間だものな。
「それにしても、美味し過ぎます!」
両腕をぶんぶん、ホタテでこそないにせよ、たわわに実った大きな双丘をぶるんぶるん揺らして、人魚クルーは全力の笑みを浮かべている。
相当気に入ったようだ、白子の天ぷら。
「こんなに美味しく料理してくれる人になら、私、なにされたって構いません!」
「そんなこと言うと、おっぱいつんつんされちゃうよ~☆」
「その程度で恩返しが出来るのでしたら、いくらでも!」
「あざーっす!」
「残念だけど、今の白子はジネットちゃんが捌いて、ジネットちゃんが揚げたものだから、君には権利ないよ。さぁ、ジネットちゃん、その気があるなら突っついてもいいって」
「折角ですが、お気持ちだけいただいておきますね」
「もったいなーい!」
じゃあ、その権利を譲渡してはくれないだろうか!?
ねぇ、どうかな!?
うわ~、目が「懺悔してください」って物語ってるわー。
はっきり分かんだね、こーゆーの。
「よし分かった! 今からもう一匹捌いて白子の天ぷらを――!」
「は~い、サービスタイム終~了~☆」
「早くない!?」
制限時間があるなら、先に言っといてよ、もう!
「それで~? 何か用だったのかな~☆」
「はっ!? そうでした! ギルド長、間もなく女神の瞬きです」
「あ、もうそんな時間なんだ~」
海の上で『強制翻訳魔法』が途切れる区間。
精霊神が目を瞑り、言葉が通じなくなる海域――というか、領域外というか。
その間は、たとえ大嘘を吐こうがカエルにされることはないし、何を口にしても誰にも気付かれない。知られない。悟られない。
なので、普段言えないようなことを言っちゃおう~、みたいな遊びが出来る場所でもあるんだよな。
あれって、初日の結構前半戦だったと思うけど、帰りはかなりの速度で航行してたんだな。
「それじゃ、みんな甲板にダッシュだよ~☆」
「待ってください、油を火から下ろしますね」
急いで、でも安全に調理場を片付けて、俺たちも甲板へと向かう。
下拵えは、まぁほぼ出来ているし、この先は陽だまり亭に戻ってからでいいだろう。
どうせ、途中で足りなくなって追加することになる。
「マーシャ、氷を譲ってくれないか」
「いいよ~☆ この船にはいっぱい積み込んであるから~」
天ぷらの衣は、冷たい水と冷たい卵を使用する。なんなら、小麦粉も冷やしておくといい。
温度が低いとグルテンが発生しにくくなって粘り気が抑えられる。
つまり、カラッと揚がるのだ。
氷があれば、いい衣が作れる。
ただ、海の氷なので、その氷で氷水を作ることは出来ないけどな。
氷をボウルの周りに置いて中の水を冷やすのがせいぜいだ。
……やっぱ、氷室が欲しいな。綺麗な氷がいつでも使えるのって、すげぇメリットデカいよ。
あぁ、そういえば、以前アッスントがプレゼントしてくれるって言ってたっけ。
「よし、アッスントに氷室を急がせよう」
「お忙しいようですし、余裕のある時にお願いしましょうね」
アッスントがくれると言った氷室だったが、ジネットがすでにいくらか金を出しちゃったんだよなぁ。
しかも、金までもらっておいて、工事は後回しときた。
材料がまだ揃ってないとか、大工が確保できないとか、そんなもんが理由になると思うのか、アッスント! ブタのくせに! いや、アッスントのくせに!
「よぉし、誰にも分らない言葉でアッスントに呪詛の念を送っておこう」
「そんな時間はないと思いますよ。みなさん、名前を呼ばれるのを楽しみにされてますから」
俺の背を押して、甲板へと促すジネット。
そういえば、名前を呼ぶ約束してたんだっけなぁ。
名前は言葉じゃないから普通に伝わるだろうに。
伝わらない可能性があるとすれば、ウッセ・ダマレくらいか。
あいつの名前は、どうやら意味の方で翻訳されてたっぽいし。
「ウッセの名前がどう聞こえるのかは、ちょっと興味あるな」
「……ただ、そんなくだらないことの調査に、貴重な時間を割くのが惜しい」
「確かに」
「……ウッセがもう少し興味をそそる人物であればよかったものを」
「しょーもないからなぁ、あいつ」
「……しょーもない代表に代わって、マグダが謝罪する」
「もう、ダメですよ、お二人とも」
すすっと俺の隣に寄ってきて謝罪するマグダともども、ジネットに叱られる。
だって、なぁ?
マグダと視線を交わし、お互いが同じ気持ちであることを確認し合い、頷きを交わす。
うん。ウッセが悪い。
帰ったら、「マリン主任がホタテデビューした」って話を聞いてクルージングを蹴って港の警備に意気込んでいたウッセに「マリン主任、船に乗ってたけど?」って言ってやろう、そうしよう。
「……マグダは、港の警備をサボろうとしたウッセに、『マリンがホタテデビューした』と事実を伝えただけ」
「そうだな。そのホタテが港に留まるとは一言も言ってないよな」
マグダは何も悪くない。
下心満載の勘違いをしたウッセが悪い。
というか、ウッセが悪い。何があろうがウッセが悪い。うん、世の真理だ。
甲板に出ると、もうすでに全員揃っていた。
最後のイベントだな。
「お兄ちゃん、こっちです、こっち!」
カンパニュラを連れて先に出ていたロレッタが手招きをする。
その隣には、ズラリと女子たちが並んでいる。
「こっちから順番に名前呼んでいってです!」
「卒業式か」
え、なに?
点呼取るの、俺?
何の式典?
「今回は、名前を呼ぶだけで終わりそうだな」
「少し速度を落としてもらいましょうか?」
「いや、そのままでいいよ」
別に、何がしたいわけじゃない。
言葉が通じないくらい、別に珍しくもなんともないし、結局伝わらないんだし。
「それじゃ~、みんな準備して~☆」
前回同様、マーシャがプールの中から俺たちに呼びかける。
海の向こうに、『女神の瞬き』始まりの目印である風車が見えてきた。
そんじゃ、開幕一発、ぶちかましてやるか!
「それじゃ、準備はいいかなぁ~? よ~い、スタート~☆」
「おっぱいが、だいすきだぁぁあああ!」
「――って言ったら始まりね~☆」
「フェイントも甚だしいぞ、マーシャ!」
「君には学習能力がないのかい?」
「お兄ちゃん、前とまったく同じことやってるです」
「……ヤシロだから仕方ない」
「もう、懺悔してください」
いや、一応やっておかなきゃいけないのかと思って。
そーゆーの、必要かと思って。
へいへい。懺悔懺悔。
「それじゃ、今度こそ本当に~……スタート☆」
「どうだ? 俺の言葉分かるか?」
「あがろまてぃあ、はっぺりまと!」
うん、ロレッタがなんか分からんことを言い出した。
ちゃんと『強制翻訳魔法』の範囲外に出たらしい。
じゃあ、やるか。
約束だしな。
嘘吐くとカエルだし。
……めんどうだけど。
「ロレッタ」
「みゅっ!? …………えへへ~」
口から漏れる音は、いつも通りか。
「ぁ、ぁう、ぁぉ…………や、やしろ?」
そんで、盛大に照れて、俺の名を呼び返してくる。
ロレッタはいつも『お兄ちゃん』だから、名前を呼ぶのが恥ずかしいらしい。
なら、やらなきゃいいのに。
ロレッタを見ていると照れが伝染るから、カンパニュラに視線を移す。
「カンパニュラ」
「しょう・ヤー」
ジネットの時より気持ち軽めな敬称だな。
たぶんあれで「ヤーくん」なんだろう。
「パウラ」
「ヤシロ~」
「ネフェリー」
「ヤシロっ」
「デリア」
「ヤシロ!」
……と、名前を呼んで呼び返されるという、謎の時間が続く。
これは一体何の時間なんだ?
揃いも揃って嬉しそうな顔しやがって。
気持ちゆっくりと進んでいるような気がする船の上で、全員の名前を呼び終わる。
セロンとウェンディが俺を呼ぶ時、若干言葉が違っていたが、あれがオールブルーム語と虫人族の言葉の違いなんだろうな。
あいつらはどっちも「英雄様」って呼んでるし、意味は一緒のはずだから。
なんてことを考えている間も、名前を呼ばれた者たちはにまにまと頬を緩めて物思いに耽っている。
だ~れも、なん~にもしゃべらない。
しゃべれよ、折角なのに。
ただ、なんだろうな。
こうやって一列に並んだみんなの名前を順番に呼んだからか、その全員に名を呼ばれたからか、俺もちょっと気分が高揚している。
普段しないことをしたから、だろうか。
なんというか、こう……ちょっと先生になったような、担任が生徒を見るような、そんな気持ちになっている。
なので、ほんの少しだけ、先生ぶったことを口にしてしまった。
「お前らと船旅が出来て、本当によかった。みんながいたから楽しかったよ。ありがとな」
らしくもなく、素直に口からこぼれて言った言葉。
ま、どーせ誰にも伝わりはしない。終わりの目印である風車は、まだ随分と先の方だし――
「あたしもとっても楽しかったです、お兄ちゃん!」
ん!?
「やだ、もう。ヤシロがそんな素直なこと言うと、ちょっと泣いちゃいそう」
「そうだね。私も、もう船旅終わっちゃうな~ってちょっとセンチメンタルになってたから、余計に」
「なんだ、パウラとネフェリーもか。あたいも、なんか寂しくてさぁ」
「そんだけ充実してたってことさね」
「そうだね~☆ ヤシロ君と同じで、ね☆」
「って、ちょっと待て!?」
風車、まだもうちょい先じゃねぇか!
なんで言葉通じてんだよ!?
「あれ、そういえば不思議ですね。私にも、皆様の言葉が理解できます。マグダ姉様はどうですか?」
「……マグダにも分かる。カンパニュラの言葉も、みんなの言葉も」
獣人族のマグダと人間のカンパニュラの言葉が通じてるってことは、『強制翻訳魔法』が復活しているということだ。
「きっと、ヤシロさんの素直な気持ちが届くようにと、精霊神様がお気遣いくださったんですよ」
なんてことを、それはもう嬉しそうな顔で言うジネット。
なるほど……そうか、そういうことか。
「精霊神、ぬさぁぁあああん!」
「だから、よく分からない言葉で精霊神様を非難しないように!」
エステラに首根っこを掴まれようが言ってやる!
本当にお前はしょーもないことしかしないな、精霊神!
「おいしい」とか思わないから! マジだからな!?
次こんなことしやがったら、マジでぶっ飛ばすからな!?
マジだからな!?
むきー!
船が四十二区を目指す。
「お前、いい隠れ場所知ってんなぁ」
「せやろ? ここ、誰にも見つからへんねん」
暗く、じめっとした物陰に身を潜め、三角座りを決め込む俺とレジーナ。
……もう、誰にも会いたくない。
「おにーちゃーん! どこですかー!? おかしいですね、こっちの方にいそうな気がしたですのに」
俺を探しに来たらしいロレッタが、俺のすぐそばできょろきょろと辺りを見渡している。
「まさか、このなんだかよく分からない棚の裏に!? ……な~んて、こんな狭い隙間にお兄ちゃんが隠れられるわけないですよね~」
しかし残念!
隠れられるのだよ!
外から見るとわずかな隙間にしか見えなかった空間が、内側に入ってみると結構大きいのだ。
壁が生み出す死角と、棚が引き起こさせる「たぶんこの棚、あの辺まであるんだろうな」って錯覚が見事にマッチして、この空間を生み出しているのだ!
壁かと思いきやくぼんでいる壁面と、ことのほか奥行の浅い棚のコラボレーションだな。
「ここ、クルーがサボるためにわざと作ったスペースなんじゃねぇの?」
「そうかもしれへんなぁ。一人やったら、ごろっと寝っ転がれるさかいな」
「そりゃあいい。じゃレジーナ、ちょっと外出ててくれ」
「残念やなぁ。ウチの方が奥におるさかい、自分からお先にどーぞ」
「膝枕させんぞ」
「お好きにどーぞ」
え、そんな簡単にOK出るもんなの?
じゃあ――
「乳枕させんぞ」
「悲鳴上げるで?」
「おいバカやめろ洒落じゃなくなる」
100%有罪になる冤罪だぞ、それ。
乳枕する前に悲鳴上げられたら、死んでも死に切れん。
「も~ぅ、ヤシロってば、どこに行っちゃったんだろ?」
「照れてんさね、きっと」
呆れた感じでため息を吐くパウラと、くつくつと楽しそうに喉を鳴らすノーマが通っていく。
二人して尻尾がゆっさゆさだ。
「なぁ、自分。あの尻尾に『もふっ』って顔をうずめた時、お日様のニオイと、女の子の甘いニオイと、メスの卑猥なニオイと、どのニオイがえぇ?」
「え、俺答えなきゃいけないの、その何の生産性もないくだらない質問に?」
ただまぁ、ホットケーキのニオイがしたら、噛みつくかもしれない。
美味そうで。
「分かった。質問変えるわ。誰の谷間が一番えぇニオイしそう?」
「質問の内容が変わっても、くだらなさは据え置きだな」
お前は頑張る老舗か。
お値段据え置きで頑張らせていただきます、か。
「ただまぁ、こうやって一人きりになると、たまに考えちまうんだよな……」
「ほほぅ。ウチはおらんへんことになっとるんやね」
「もし、いつか俺が死ぬ時は、みんなに見守られてなくても構わないから――みんなに押し当ててほしいなって」
「え、待って、ウチこの人に『くだらへん』とか言われたん? 心外通り越して憤慨やわ」
「おれ、死因は『圧死』か『窒息死』がいい」
「まだ続いてたんかいな、乳の話」
「待てよ……もし生まれ変わったら、再び年中無休おっぱいタイムの到来か」
「赤ちゃんのご飯を、そんな言い方するん、たぶん歴史上自分だけやで」
「転生したら二秒でおっぱい」
「神はん、頼んます。この人の記憶だけは毎回きれいさっぱりフォーマットしてから来世へ送り出したってや。新しいママはんが気の毒やさかいに」
バオクリエア語の『フォーマット』がどんなもんなのか、聞かせてもらいたいもんだな。
『強制翻訳魔法』は融通利き過ぎだ。
「くすくす」
棚の向こうから、小さな笑い声が聞こえた。
誰だろうかと視線を向けると、棚と壁の隙間からジネットがこちらを覗き込んでいた。
「なんてお話をされているんですか。懺悔してください、お二人とも」
「えぇ~、ウチとばっちりやん」
文句を言いながら、レジーナが俺の尻を足で押す。
出ろということらしい。
「今、尻を蹴られた。懺悔追加しといてくれ」
「自分、さっきウチの乳を枕にしようとしとったやん」
「未遂だからセーフだ」
「お二人とも、懺悔追加です」
「「えぇ~、とばっちり~」や~」
「うふふっ」
声が揃った俺たちを見て、ジネットが笑う。
「あ、ヤーくんがおられましたよ。マグダ姉様のおっしゃったとおりですね」
「……やはり、思った通り。でも、店長には一歩届かなかった模様」
マグダとカンパニュラがとことことこちらへ歩いてくる。
この辺、クルー専用の通路だから、乗客がやって来るような場所じゃないのに。
「よく見つけられたな、お前ら」
「……気配がした」
気配、ねぇ。
「マグダは、ニオイを辿ったりできるのか?」
「……それは犬がすること」
言って、俺の腰にしがみつく。
「……けど、こうすると染みついたニオイはよく分かる」
物に付いたニオイは分かるが、空気中に漂うニオイを辿るのは犬のすることらしい。
言われてみれば、マグダはニオイより音や気配を察知している方が多いかもしれない。
まぁ、マグダのことだから、やってやれないことはないのだろうが、あんまやってるところを見ないあたり、さほど得意ではないのだろう。
もっとも、マグダの得手不得手って、メドラレベルを基準にしてるから、あんまあてにならないけど。
レジーナに染みついたママ親の匂いには、一瞬で反応を示してたし。
まぁ。プライドかなんかなんだろう。犬とは違う~的な?
……犬といえば、さっきパウラがこの辺歩いてたのは、ニオイを辿ったのかな?
「ロレッタ姉様とマグダ姉様は、なんとなくヤーくんの行方が分かっていたようでした」
「自分、行動パターン読まれとるんとちゃうか?」
「……違う。なんとなく、『あっちにいそう』って分かる」
「え、なに? 俺、なんか出てるの?」
「……だから、お風呂を覗こうと立ち上がった瞬間、察知できる」
「うわ~、その第六感、封印してほしいわぁ~」
そういや、ロレッタもさっき惜しいところまで迫っていたっけな。
え、俺、こいつらに読まれてるの? なんか癪。
「……けど、一番は店長」
「あ、それはそうですね」
マグダとカンパニュラがジネットを見る。
「今回も一番でしたし、普段でもジネット姉様は、ヤーくんがお出掛けから戻られる際、いち早くそれを察知されてます」
「それは、たまたまですよ。なんとなく、帰ってきそうだな~って。本当に、たまたまです」
「ほな、今日のはどないなん?」
普通にしていれば絶対に見つからないような隠れ場所を特定してみせたジネット。
大声で呼びかけるようなこともなく、しれ~っと、自然な様子で俺を見つけていた。
「今回もたまたまです。『あ、なんだかこっちにいそうだな~』って。本当にヤシロさんたちがいて、びっくりしました」
いやいや。
それが事実ならびっくりするのはこっちだから。
霊視とかじゃないよな?
身に付けるなよ、そんな怖いスキル。
「ぬわぁ~! お兄ちゃんやっぱりここにいたですか!? あたし、惜しいところまでは迫ってたんですよ!」
一度通り過ぎたはずのロレッタが一人で戻ってくる。
一回見て『いない』と判断したところに、なんで戻ってきてんだか。
「なんかこの辺怪しいと思ってたです。でもいないかったですし……って思ってたら、パウラさんがこっちにはいなかったよ~とか言ってて、それを見てな~んかピーンと来ちゃったですよ。あ、絶対あそこにいるですって!」
「自分、陽だまり亭メンバーにニオイ覚えられてんちゃうん?」
「に、ニオイじゃないですよ!? なんというか、こう、『いそうだなぁ~』感です!」
だから、そんなもん発してねぇってのに。
「まぁ、要するにアレやね。ノーマはんらぁは『人がおらんそうなところ』を探しとったけど、陽だまり亭のみんなは『自分がおりそうなところ』を探しとったわけや」
確かに、エステラやノーマなら、俺の考えを読んで『人が寄り付かないであろう場所』を重点的に探したことだろう。
けど、こいつらは…………はぁ、まったく。
「俺の知らない、『俺のやりそう』なことを、あんま見つけるな」
自覚がないから始末に負えねぇんだよ。
「うふふ。ヤシロさんは、とっても分かりやすい方ですから」
「……見ていれば気付く」
「ですね! あたしたち、お兄ちゃんのことよ~っく見てるですから」
「では、私も姉様方に負けないくらいにヤーくんを見つめますね」
「見るなっつってんだよ」
まったく反省していない面々を見て、思わずため息が漏れる。
これ、逆だったらストーカーとかいって投獄されるんだろ、どうせ?
「ふふ、でもよかったです」
「『俺が見つかって』か?」
「いえ。期せずして、中止にしたことが体験できましたから」
「中止にしたこと?」
何の話だ?
「ヤシロさんの言っていたとおり、船の中でのかくれんぼは、とても楽しかったですね」
あぁ、そういえば、船上かくれんぼでもするかって言ってたな。
やることが多くて却下したんだっけ?
確かに、これはかくれんぼっちゃ、かくれんぼか。
「じゃあ次は俺が鬼――と言いたいところだが、ぼちぼち着くか?」
「はい。そろそろ下船の準備をしましょう」
「土産が多くて、大変そうだ」
「そうですね。きっと子供たちも喜んでくれますよ」
「天ぷらに喜ぶのはベルティーナだと思うけどな」
船は四十二区を目指して進む。
もう間もなく、四十二区に到着だ。
四十二区へと繋がる洞窟へ入る際、言い知れぬわくわく感があったのだが――
「昼間に見ると普通だな」
「むっ★ これはこれで綺麗でしょ」
朝焼けに反射して万華鏡のようになっていた洞窟の入口は、今は穏やかに波音を立てている。
まぁ、ボートとかでこの辺まで来れば感動する大きさかもしれんが、このデカい船だとなぁ。
まぁ、綺麗なんだけどさ、他にすごいのをもっと見ちゃったからなぁ。
「けれど、なんだか不思議ですね」
俺の隣に立ち、洞窟の中を見つめてジネットが言う。
「ここを通るのはまだ二度目のはずなのに、なんだかとても懐かしく感じます」
「あれだけ感動させられた場所だからな」
「そうですね。……ふふ、きっとわたし、お婆ちゃんになっても今回の船旅のお話をしている気がします」
「うんうん☆ と~っても楽しかったよね☆」
俺とジネットの間に割って入り、マーシャが嬉しそうにジネットに飛びつく。
プールから出て、手すりに腰かけて強引に移動している。
俺の感動が足りなかったことへの制裁らしい。……ちょっと袖が濡れたわ。
「あっ! なんだか四十二区の匂いがするです!」
「……確かに」
手すりから身を乗り出し、鼻をすんすんさせるロレッタとマグダ。
匂いって……磯の匂いしかしないけどな。
「なんだか、無性に『ただいま』と言いたくなる気分ですね」
にこにこと、穏やかに微笑んでカンパニュラが言う。
なんかもう、子を持つ親のような穏やかさだな。もっとはしゃいでもいいのに。
「船旅が終わっちゃうのはすっごく寂しいけど、でもなんか、みんなにも早く会いたいよね!」
「うん、分かる! 私もウチの子に会いたくなっちゃった」
「あ、でもネフェリー! 今日はウチのお手伝いだからね!」
「分かってるって。どーんと任せなさい」
非日常から日常への回帰は、興奮と引き換えに安心を与えてくれる。
どっちがいいかなんて分からない。
どっちもあるから楽しいのだろうし。
「なぁ、カンパニュラ。オッカサンたち迎えに来てるかな?」
「さぁ、どうでしょうか? 帰りの時刻を正確にお伝えしたわけではありませんし、父様も母様もお忙しい方ですから」
物分かりの良い子っぽく笑みを作るカンパニュラだが、その笑みにはどこか寂しさや諦めのようなものが見て取れた。
お前がそういう顔をするなら、きっと来てるだろうよ。
愛する我が娘より大切なモノなんか、あの夫婦には存在しないだろうからな。
「……ゴンスケたち、迎えに来てなきゃ、土産は無しさね」
すぱぁー……っと、細い煙を吐き出してノーマが空気をピリつかせている。
え、なに? お前の舎弟なの、あのヒゲ筋肉たち。なら、ちゃんと躾けといて、保護者として。
「我が家の給仕たちは、当然勢揃いしていますでしょうね?」
「来てないんじゃないの、休みなんだし」
「エステラさんのところの給仕と一緒にしないでくださいまし! 主愛がありますのよ、ウチの給仕たちには!」
「ボクのとこの給仕にもあるさ! この前だってね、シェイラたちが自発的に――」
「それでしたらウチの給仕長は毎日のように――」
家が近くなり、ちょっと寂しさが込み上げてきたらしい。
エステラとイメルダが身内自慢合戦を始めた。
……あ、ナタリアがちょっと照れて、微かに距離を取った。
目の前であんな風に自慢されるのは、ちょっと恥ずかしいらしい。
「陸に下りたら、美味い酒が飲みてぇなぁ」
「ハビエル君、船の上でも飲んでたじゃな~い☆」
「海には海の、陸には陸の美味い酒があるんだよ」
つまり、どこで飲んでも美味いんじゃねぇか。
いいな、単純なヤツは。どんなことでも楽しめて。
「はぁ~、やっと終わるわぁ……」
「ぅふふ、ぉ疲れ様、れじーなさん」
「まぁ、せやね。確かに疲れたけど……存外悪くなかったかもしれへんなぁ」
「それじゃあ、またみんなと一緒に、どこかお出掛けしよう、ね?」
「それはどーやろか?」
しろや。
折角のミリィのお誘いなのに。
「英雄様、マーシャギルド長、そして皆様。この度は素敵な船旅へご招待いただき、誠にありがとうございました」
「すべての時間が夢のようで、なんだか、まだ少し信じられないくらいです」
「大丈夫よ、ウェンディ。もしこれが夢で、今ウェンディがお家のベッドで眠っているなら、ウェンディはもっと発光してるはずだから」
「まぁ、ネフェリー! 言ったわね?」
「うふふ」
「もう! くすくす」
あの辺、昭和だなぁ……
「ウェンディの作業服、帰ったら試作してみるよ」
「そんな、お疲れでしょうから私の作業服などは後回しで構いませんよ、英雄様」
「いや、そろそろ対策してやらないと、セロンが死にかねないしな」
「あはは……二日目の船では、不甲斐ない姿をお見せしてしまいました」
薬が効き過ぎて寝入ってしまったことだろうか?
別にお前の姿なんか見てなかったけどな。
倒れられると光るレンガがなくなって、そうなったら夜が真っ暗になる。
そうならないためにも、セロンは適度に労わってやらなければ。あくまで適度に。
嫁のいる男は多少苦労するのが世の理だというし。
「あ、誰かいるよ」
船の舳先を眺めていたエステラが、洞窟の中を指さす。
その先にいた人物は、俺たちの乗る豪華客船に向かって、大きく両腕を振っていた。
「おかえりなさいませ、みなさ~ん! 旅の思い出に、新しいお土産などいかがでしょうか~!?」
「なんでアッスントがもういるの!? えっ、三十五区で船を見送ってたよね!?」
「特別料金で、特急馬車に乗りました~!」
「僭越ながら、エステラ様。おそらく彼は、クルージングの帰りには、このようにお土産を売るのだというデモンストレーションを我々に見せたかったのでしょう」
なるほど。
ナタリアの読みは当たっているだろう。
もし、四十二区発のクルージングが実行されると仮定してみると――
わくわくしながら四十二区を出て、洞窟の向こうの大海原に感動して、船上のランチやディナーを堪能して、帰ってくる時にはここで土産物を売る。
豪華な食事の後なら、気も大きくなって財布の紐も緩んでいるだろう。
おまけに、特別な日の思い出ともなれば、こりゃあバカスカ売れまくりそうだ。
さすがアッスント。
人の購買意欲の着火点をよく心得てやがる。
そんなアッスントに、素直な感想を告げておく。
「その顔、見飽きた」
「辛辣ですね!?」
「頑張って早く帰ってきたのに!?」とかなんとか言ってるけどな、こっちはだ~っれも望んでなかったからな?
毎度毎度、港に顔を出しやがって。
「まぁ、今回はまだ商品が揃っておりませんので、あくまで『このような雰囲気になります』ということだけ分かっていただこうと思って――あの、船止まりませんか? 並走するのしんどいんですよ、ここ斜面なので、ねぇ、みなさん!?」
「マーシャ、全速前進~」
「よ~そろ~☆」
「ちょっと!? みなさ……もう!」
アッスントを置き去りに、船は洞窟を突っ切る。
……って、あれ?
なんか、さ、ちょっと、速くない?
「ちょっと待て……止まれるよな、この速度!?」
「それは、海神のみぞ知る~☆」
「止まれぇ~!」
マジで全速出すヤツがあるかよ!?
洞窟を抜けたら、もう港だぞ!?
「みんな~、急停止~☆」
キキィーッ! ――と、ありもしないタイヤがアスファルトにこすれるような音を幻聴するほどの急停止が行われ、船の上にいた者は総じて前につんのめり、港には大きな波が「どざばぁーん!」っと打ち寄せ、際々まで詰めかけていた者たちが「きゃー!?」と楽しげに波から逃げていった。
とんでもない接岸だな!?
「あっ!」
そんな中、カンパニュラが嬉しそうな声を発し、らしくもなく一目散に船首へと駆けて行った。
「父様! 母様!」
「おかえりなさ~い、カンパニュラ~!」
「さみしかったぞぉぉー!」
身を乗り出して大きく手を振るカンパニュラ。
やっぱ来てたか。
よかったな。
すげぇ嬉しそうな顔してるぞ。
『らしくなく』っていうより、『子供らしく』って方が的確か。
「わぁ、物凄いお出迎えの数です!?」
「……四十二区、総出」
「あっ、ほらごらんよ、イメルダ! ウチの給仕たちが勢揃いしているじゃないか!」
「一人二人欠けてますわよ、きっと。それよりも壮観なのがウチの給仕たちですわ! 華がありますこと」
「よしよし。ちゃ~んと出迎えに来たようさね。なら、美味い酒でもご馳走してやるかぃね……くふっ」
出迎えの心配をしていた連中が、軒並み嬉しそうにしている。
これきっと、アッスントが集めたんだろうな。
港を見れば、食い物の屋台も出てるし。きっと、お出迎えをイベントにしちまったんだ。
「せーの」
「「「おかえりなさーい!」」」
ガキどもの声が響き、そちらを見たジネットが顔を輝かせる。
「見てください、ヤシロさん! 教会の子供たちです! シスターも!」
「この後、教会に行くのに」
「じゃあ、教会まで一緒にお散歩できますね」
にこっと笑って、急ぎ足で手を振りに向かうジネット。
やっぱ、出迎えられるって嬉しいんだろうな。
なんにせよ――
「帰ってきたな、四十二区」
長いようであっという間だった船旅が終った。
あとがき
もーいーくつねーるーと~
はーぁーろーぉーうぃ~~ん♪
幼女にいたずら☆宮地です!
……ただいま、不適切な発言がございました。
お詫びして訂正させていただきます。
申し訳ございません。度が過ぎました。
いえ、面白いかと思いまして……出来心で、ついつい……
あぁ、ヤバい!
これで、今後一切不埒な理由で逮捕されるわけにはいかなくなりました。
絶対ここ引用されるじゃないですか!?
薄暗い画面で、
『幼女にいたずら☆宮地です!』
のところにだけライト当てて!
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幼女にいたずら☆宮地です!
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って、こんな感じで!
それで、
ちょっとふざけた感じの男性ナレーターが、視聴者さんの不快感を増幅させるようなしゃべり方で朗読しちゃうじゃないですか!
で、その直後に真面目なトーンで「逮捕されたのは、東京都在住、自称12歳の宮地拓海(仮名)1ダース」とかナレーション入って、その落差でキモ差が際立つ演出されちゃうじゃないでs……1ダース!?Σ(゜Д゜;)
まさか、自分の単位が『ダース』だったとは……知りませんでした。
いや~、ハロウィンなので、少しくらい羽目を外してもお目こぼしあるかな~とか思ったのですが、
令和――
甘くないようです!(`・ω・)キリッ
さて、本編ではようやく四十二区にたどり着きまして
港にはお出迎えの皆様がわんさか集まっております。
まぁ、その前に、
精霊神様からのちょっとしたヤシロ弄りがありましたけれども( *´艸`)
精霊神様、これはもう完全に分かってやっておられますな!
ヤシロさん、顔真っ赤です( *´艸`)
乳首はピンクなのに!
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乳首はピンクなのに!
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ナレーション「乳首は、ピンクなのに」
まだニュースでよく見る薄暗い画面で問題の一文にだけ光あたって
意図的なナレーションついちゃうヤツ続いてる!?
Σ(゜Д゜;)コワー
健全な話しましょ、そーしましょ!
お出迎えって、嬉しいですよね
なんというか、こう、
自分の無事を喜んでくれているというか
何気ない言葉なんですけれども「おかえり」ってすごく素敵な言葉だと思います
つらい現実と向き合って、
歯を食いしばって戦って、
ふらふらになりながらも、心安らげる場所に帰る
そうしたら、優しい笑顔で出迎えてくれる存在がいる――
なんて素敵なんでしょう
生きている喜びを、感じずにはいられませんよね
さぁ、帰宅しましょう
「おかえりなさいませ、ご主人様☆」
メイド喫茶!?Σ(゜Д゜;)
(;゜Д゜)うわ~、生きる喜び、有料だったわぁ~
世知辛い世の中だねぇ……
「俺の友人に、とびっきりの辛党がいるんだ。ヤツは10倍カレーも、スープが真っ赤な担々麺も、汗一つかかずに平気な顔をして食っちまうのさ。そいつは生まれて一度も『辛い』って言ったことがないし、これからもたぶん言わないだろうって自信たっぷりだった。だから俺が、とっておきの料理をご馳走してやることにしたんだ。なんだと思う? そいつは、寿司だ。え、『わさびを山盛り入れるのか?』って? そんなことはしない。『じゃあカラシを入れるのか?』って? 冗談はよしてくれよ、寿司にカラシなんてナンセンスだぜ。俺が握る寿司はシャリのみ。わさびも海苔も、ネタすら載ってない寿司なんだ。それを友人の前に置いてこう言ってやったのさ。『今月の給料をはたいて、寿司を用意してやったぜ』ってな。友人はそのシャリだけの寿司を食ってこう言ってたぜ。『……世知辛い』ってね☆」
( ・_・)
(・_・ )
( 。_。)
Σ(゜Д゜;) はっ!?
(;゜Д゜) 今なんの時間だったんですか!?
(;゜‐゜) 何読まされてたんでしょう、今?
すみません
あとがきが、予告もなくジョークアベニューになってしまいました。
変な電波を傍受してしまったようです。
ちなみに私は、辛いのがダメです
赤いスープは基本的に避けます
おっと、ミネストローネやトマトソースは別ですよ!
トマトは人類の主食ですからね☆(←極度のトマト好き)
カレー屋さんに行って、
「辛さを何倍にしますか?」って聞かれまして
「普通は?」って聞いたら、
「普通ですと、1.5倍くらいですかね? 2倍でちょっと辛いくらいです」って言われたので
「じゃあ、1.5倍で」って注文して出てきたカレーが
ま~ぁ、辛い!
(# ゜Д゜)「ちょっと店員さん、来てくれるー!?」
水の減りが早い早い!
ラッシー「ちゅぞぞぞぞ!」でしたよ!
ちなみに、ツレは3倍を「わ、辛っ」くらいの地味ぃ~な反応で食ってましたけどね!
ためしに一口もらったら、舌を剣山でサンドイッチされたかのような痛さに悶絶しました。
アレは『辛い』じゃなく、『痛い』です!
私は今後、かぼちゃの煮つけとか食べて生きていきます。
いくつになっても、頑なに『中辛』しか買いませんからね、スーパーとかで
『辛口』には手を出しません
怖い怖い……
けど、タバスコは好きなんですよね(*´▽`*)
なんなんでしょうね? この体?
あと、お刺身にもたっぷりわさび使うんですよ。
刺身にわさびを一つまみ載せて、
それが醤油に触れないようにちょんっとつけて
ぱくー!
鼻にわさび「つーん!」
美味い!(≧▽≦)/
……自分でもよく分からないんですが
辛い物好きなのか嫌いなのか、まったく分かりません
でも、アジア系の辛そうな料理はことごとくダメだと思います。
本気のタンドリーチキンも、
本気の四川風麻婆豆腐も、
泣くほど辛かったんですもの!( ノД`)シクシク…
やはり、和食が一番ですね☆
日本人ですもの。
和食さえあれば、それでいいのです。
美味しいですよね、思い出の味……
カレー、ハンバーグ、ナポリタン、エビピラフ、オムライス、ラーメン――
和食とは!?Σ(゜Д゜;)
子供のころに食べた洋食って、もう和食だと思ってます
だって、生まれた時からあったもん!
うそじゃないもん!
トトロいたもん!
ということはですよ、
ヤシロさんが持ち込んだ料理たちが、
四十二区の子供たちにとっては『故郷の味』になるんだろうなぁ~
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四十二区の子供たちにとっては『故郷の味』になるんだろうなぁ~
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ナレーション「乳首は、ピンクなのに」
(;゜Д゜) いや、そこはいいだろ!?
Σ(゜Д゜;) って、ナレーション違う! それ一個前の原稿!
なんか今日、特番っぽいのでこの辺でやめときます
宮地さんの不埒な過去特集っぽいので!
【壁】ω<) あんまり探っちゃ、イヤン☆
次回もよろしくお願いいたします。
宮地拓海




