報労記51話 船が出る
船が出る。
「またいらしてくださーい!」
三十五区の港から、見送りの者たちの声が飛んでくる。
「必ずまた来まーすですよー!」
「……しーゆーれいたー」
感動の別れを演出しているとこ悪いけどな、ロレッタ。……どうせまたすぐ来るから。たぶん今度は陸路で。
でまぁ、マグダは……まぁいいか、マグダだし。「またあとで」じゃねぇから。
徐々に遠ざかる港をキラキラした目で見つめるカンパニュラも、控え目に手を振っている。
地元をこんな風に海から離れるのは初めての経験だろう。
「帰ったら大忙しだ。今からか覚悟しとけよ」
「大丈夫です。むしろ、待ち遠しいくらいですから」
声をかければ、力強い笑みをこちらへ向ける。
わぁ、第二のジネットがここに。
「ジネット、ほどほどにな」
「へ? なんですか?」
社畜ウィルスの発生源に声をかけるが、まるで自覚がないようだ。
「今夜のただいまフェアのことでしょうか?」
そんな名前になったのか。
「大丈夫ですよ。みなさんは船旅でお疲れでしょうから、わたしがなるべくフロアへ出られる献立にしようと思ってます」
いやいや、そうじゃなくて……
やっぱり、人一倍社畜スピリットを燃え滾らせてるなこの店長様は。
「ちなみに、メニューは何にするつもりだ?」
「そうですね……手巻き寿司なんてどうでしょうか?」
また寿司かぁ……
「あんまり食い過ぎると飽きるんだよなぁ、寿司」
「お兄ちゃんが、なんか贅沢なこと言ってるです!?」
「……寿司とは、飽きることのない至高の料理」
いや、飽きるだろう。さすがにこれだけ続くと。
いくら間に海鮮バーベキューを挟もうが、もうぼちぼちうんざりだ。
「とはいえ、船旅に行ってきたって情報は出回ってるだろうから、店に来る連中は海鮮を期待してるだろうな」
「恐らくそうだと思いますよ。昨日今日と、港のお寿司屋さんもお休みでしたし」
寿司人魚を四人とも連れてきたから、港の寿司屋も休みだった。
じゃあ、寿司を食いたがるか。
「で、なんで手巻き寿司なんだ?」
「普通のお寿司にすると、ヤシロさんがお休みできませんから」
寿司を握るなら、俺とジネットがカウンターに立つことになる。
それじゃ、俺がゆっくり出来ないから……と。
「お前を休ませるには、一体どうすればいいんだろうなぁ」
俺には見当もつかねぇよ。
「わたしは、お料理をしていると元気が出てきますよ」
心が元気になっても体力は有限だっつーのに。
「じゃあ、材料だけ揃えて、あとは客に自由に手巻きさせるか」
「はい。……ふふ。きっとみなさん楽しんでくださいますよ」
そういや、手巻き寿司って店で出すのは初めてか?
海魚を揃える大変さと、調理の仕方から、アレは仲間内でわいわいやるものって位置付けだったからなぁ。
作り置きすると、海苔のパリっと感がなくなるし。
「じゃ、ビュッフェだな」
「はい。餃子フェアを思い出しますね」
前金で金を払わせて、あとは好きなだけ食えって感じか。
……これは、盛大な赤字だな。
海魚、ほんの少し前まで、四十二区じゃ手に入らないくらいに高価なものだったんだぞ?
それを食べ放題って……
「なんとかして、領主の経費に紛れ込ませられないものか……」
「悪だくみなら、聞こえないようにやるべきだよ」
「おぉ、いいところに来たな、エステラ。とっても美味しい手巻き寿司を食べないか?」
「君はブレないよね、まったく……少しは寄付するから、盛大にやりなよ。その代わり、明日一日、ボクの面倒をよろしくね」
明日は、ナタリアが演技指導を行うために一日休暇を取っている。
エステラは一日陽だまり亭で過ごすつもりのようだ。
「それでは、ワタクシも少し寄付いたしますわ」
今日から陽だまり亭に居座るつもり満々のイメルダも、多少寄付してくれるらしい。
「ただし、条件がありますわ」
「お前の面倒を見るって条件をすでに飲んでるだろうが」
「それは、すでに了承を得ているものですもの。これから新たに結ぶ契約には、新たな条件を提示させていただきますわ」
契約って……大袈裟な。
「で、何をしろって?」
「生もの以外が食べたいですわ。あと、焼いただけではないものも」
船の上で散々食ったもんな、焼いた海産物。
さすがにちょっと飽きてきたか。
「じゃあ、フライにでもするか?」
「カキフライなら、飽きるほどつまみ食いいたしましたわ」
「自慢すんなよ、そんな意地汚いこと」
そういえば、ロレッタがカキフライの軍艦を握ってたな。
「んじゃあ、エビフライでもするか?」
「あ、でもヤシロさん。エビが手に入れば出来ますが、急ですので数が揃わないかもしれませんよ?」
「マーシャ、どうかな?」
「エビフライのエビなら用意できるよ~☆」
「ですが、いただいてばかりでは、さすがに……とはいえ、代金を支払うわけにも……いきませんよね?」
行商ギルドを挟まず海漁ギルドと直接売買は出来ない。
……ルール上は。
「別にいいんじゃね?」
「一応、やめておいてもらおうかな」
アッスントを黙らせれば済む話なので強行しようとしたら、エステラに止められた。
後からなんとでも理由付けできるだろうに。
ほら、『リボーン』の代理購入とかもOKなわけだし。
「買ってきて」って金を渡して、「たまたまウチに同じのあるし、これを先に渡しとくね」って商品を渡して、あとで販売店の在庫から一部もらって自分の手元に返却する。
どっからどう見ても、許可されていない場所での売買なのだが、あくまで「代理購入」と言い張ればルール上セーフになるのだ。
な?
ルールなんてあってないようなもんなんだから。
「ボクの寄付は食材ですることにするよ。だからマーシャ、用意してあげてくれるかい?」
ジネットが購入するのではなく、領主が海漁ギルドと取引をし、手に入れた海産物を陽だまり亭へ『寄付』という形でプレゼントしてくれるらしい。
……それもかなりグレーだろうに。
商売の許可を出すのが領主だから、問題ないんだろうけど。
「いいのいいの☆ 今回、ウチの娘たちにお寿司を教えてくれたお礼だから」
今回、かなりの量をもらってるけどな。
「それに、クルージングやアクアステーション、人魚カフェが実現したら、私たちにとってもメリットがあるからね☆」
今回の船旅、マーシャ的には大変満足いく内容だったようだ。
豪快なまでに大盤振る舞いしてくれようとしている。
「んじゃ、アイデア料ってことで」
「うんうん☆ もらっておいて☆」
「ありがとうございます。では、せめて、マーシャさんも夕飯を食べに来てくださいますか? 腕によりをかけてお作りします」
「うん、行く行く~☆ なんなら、お泊まりする~☆」
「いいのか、エステラ?」
「いいんじゃない? 責任者がそう言ってるなら」
とりあえず、領主と海漁ギルドで何かすることがあるわけではないらしい。
「では、簡単なものだけではなく、何か手の込んだものを作りたいですね」
忘れてるかもしれないけどな、ジネット。
エビフライも寿司も、十分手が込んでるんだぞ?
え、もう慣れちゃった?
「それじゃ、天ぷらでもするか?」
「それはいいですね! エビやイカの天ぷらは子供たちも大好きだと言っていましたし」
なかなかやる機会がないのだが、天ぷらもたま~にやっている。
記憶に新しいのは、ラーメン講習の時に作った山菜天ぷらラーメンだな。
ロレッタの弟たちがめちゃハマりして、アホほど食いに来てたっけ。
「よし、それじゃキッチンを借りて仕込みを済ませておくか」
「そうですね。帰りに教会へ寄っていると、仕込みの時間は取れませんから」
「……帰りに寄るのかよ、教会」
「なるべく早く顔を見せてほしいと、シスターに言われていますので」
それはそうなんだが……時間食うぞ、教会。
丸一日会えなかったわけだし、それに宿題もあるし。
陽だまり亭の営業、深夜まで続きそうだな……よし、客を分散させよう。
「パウラ。カンタルチカでも、ただいまフェアやれば?」
「そうだね。ウチも負けてられないし、ネフェリー、やるよ!」
「うん、今晩までは付き合ってあげる」
ネフェリーは明日の朝、早朝から養鶏場の仕事なのに、よく手伝う気になれるな。
獣人族の体力って、底なしなんじゃねぇの?
「あたいは一度家に戻って、オッカサンたちに顔見せてくるよ。カンパニュラもな」
「はい。父様と母様に無事を報告してから、陽だまり亭へ向かいますね」
「一度戻る」ってことは、デリアも手伝ってくれるつもりらしい。
「アタシも、今から帰って鉄が打てるわけじゃなし、手伝ってやるさね」
ノーマの申し出はありがたいんだが、お前らは旅行明けに家でのんびり休息するってことを知らんのか?
なんでみんなして帰宅後即仕事って発想になってんだよ。
「ぁの、みりぃも、ぉ手伝い、行ってぃい? ぁの、ね。このまま帰るのと、なんか、寂しい、から」
「じゃあ、無理して手伝わなくていいから、気楽に遊びに来い」
「ぅん。そうする」
ミリィは今朝、ちょっと薬の影響が出ちゃってたからな。
陸に戻ったからといって、無茶はさせられない。
「あの、英雄様。私たちは――」
「お前らは帰って休め。セロンはまだ少し、顔色悪いぞ」
「お気遣いいただき、ありがとうございます」
「セロンはそうさせていただくとしても、英雄様、私はまだ元気なのですが」
「元気でも、ウェンディは料理できないし」
「はぅっ!?」
俺、思うんだ。
ウェンディを厨房に近付けちゃいけないって。
「セロンのそばにいてやれ。そうすりゃ、セロンの回復も早くなる」
「はい。では、そうさせていただきます」
暗過ぎて逆に眠れないなんて、変な睡眠障害が出てる可能性もあるかなぁ、セロンの場合。
休める時にゆっくり休んでおくといい。
「レジーナも、飯だけでも食いに来るか?」
「せやなぁ……」
客が大勢押し寄せてくることは想像に難くないが――
「ほなら、お夕飯よばれに行こかな」
――船旅を乗り越えたレジーナは、一回り大きく成長したみたいだ。
慣れた、ってだけかもしれないけどな。
「ジネットはんのお料理、美味しいさかいな」
「きゅんっ!」
ジネットが胸を射抜かれて蹲った。
大変だ! おっぱいが落ちた!? 拾わなきゃな!
「どないしたん? 変質者に狙われるさかい、おっぱい落としたらアカンで?」
「……名前」
顔を上げたジネットは、ほっぺたが真っ赤に染まって、美味しそうに熟れていた。
「嬉しいです! わたし、今晩のお料理は、盛大に腕を振るいます!」
「いや、そんな……大袈裟やわ。そういうルールやん?」
「でも、初めて名前で呼んでくださいましたし」
そういや、ジネットのことは。船の上でもずっと「店長はん」だったもんな。
こりゃ、相当喜ばれてるな。
「では、下拵えをしてきます! 楽しみにしていてくださいね、レジーナさん! みなさんも!」
「ふんす!」と腕を曲げて厨房へ向かうジネット。
今夜のフェアは、大変なことになりそうだ。
「パウラたちも、海鮮持って帰ってね☆」
マーシャがプールから網を引き揚げる。
そこには、大量のエビや貝が詰まっていた。
なんて豪華な海鮮福袋。
日本で買おうとすれば二十~三十万くらいしそうな豪華さだ。
「あたしたちもいいの?」
「うん☆ ウチの娘たちがね~、『人魚姫と海の魔女さんに是非』って☆」
人魚姫の人形劇で、ネフェリーが演じた人魚姫も、パウラが演じた海の魔女も、どっちも海の生き物だから共感でも覚えたのだろうか。
なんかやたらと人魚からの人気が高いんだよな、この二人。
「けどこれ、どうやって料理しよう?」
「普通にソーセージのグリルで焼けばいい。酒飲み共が飛びついてくるぞ」
「そうだね。あたしたちはいっぱい食べたけど、お客さんたちは初めてかもしれないもんね」
散々食いまくったから、自分はもういらないんだな。
本気で食いまくったからな。
「セロンのとこで七輪を買ってさ、テーブルで網焼きとかさせれば、客は喜ぶんじゃないか? 牡蠣とハマグリは絶対外さない酒のアテだしな」
「お客さんに焼いてもらうの?」
「焼きたての貝を酒で流し込むなんて、最強の贅沢だろ?」
「まったくだな! ワシは自宅用に七輪を購入するぞ。あの快感は、一度味わっちまったら、もうなくてはならないものになるからな」
ハビエルも太鼓判の美味さだ。
酒飲み共はこぞって食いつくだろう。
カンタルチカはテーブルもデカいし、そういうのをやっても問題ないだろう。
「自分の焼き加減で食べるって、楽しいもんね」
かくいうパウラも、甲板での二次会の時に、ハマグリを自分で焼いて食っていた。
貝が開く瞬間、実に楽しそうな笑顔を見せていたっけな。
「ねぇ、セロン。すぐじゃなくてもいいんだけど、なるべく急ぎで七輪用意できないかな?」
「もちろん、ご用意させてもらうよ。ボクの大切なウェンディの、大切な友人の頼みだからね」
「やだ、セロンったら」
「爆発しろ」
「ヤシロ、ハウス」
エステラに首根っこを掴まれる。
酷い言われようだ。
「セロン。従来の丸い七輪じゃなくて、背の低い長方形にして、貝を並べやすい形状にすると使いやすくなるぞ」
「なるほど。カンタルチカさんのテーブルで使用するなら、従来の七輪では確かに高くて焼きにくいかもしれませんね。さすが英雄様です」
持ち上げなくていいから。
あと、長方形の炭火七輪って普通にあるから。
構造も大して変わらんし、セロンなら簡単に作れるだろうと思って言っただけだから。
「あぁ、それとな、パウラ。木炭はイメルダに相談すればいいものを用意してくれると思うぞ」
「そうだね。よろしくねイメルダ」
と、イメルダを見たパウラの前に、ハビエルが割って入ってきた。
「まぁ、待て! ワシが最上の木炭を用意しようじゃないか!」
「えっ、ハビエルさん直々に用意してくれるんですか!? それはさすがに……」
「気にするな、カンタルチカの嬢ちゃん! これでまた美味い酒が飲めるんだ、お安い御用だ!」
支部長を飛び越えてギルド長が出張ってきた。
これで、いい木炭が手に入るだろう。
「それじゃ、パウラ~☆ 海漁ギルドとも提携して、安定供給しようね☆」
「ちょっと待って、なんか話がどんどん大きくなってるんだけど!?」
父親のいないところで、大ギルドと話がまとまっていくことに戸惑うパウラ。
まぁ、大丈夫だ。
店長はお前の父親だが、実権を握ってるのはパウラだろ、どうせ?
決めちまえ決めちまえ。
「これかぁ……ウーマロさんたちがよく言ってるヤツ……心臓に悪いよ」
胸を押さえてパウラが青い顔をしている。
ベッコが訳知り顔で「そのうち慣れるでござるよ」とか声をかけている。
「メドラママに教えたら、自分も~って押しかけてくるかもね☆」
「メドラさんなら、運動会以降、とっても、懇意にしてくれてるから……」
パウラが遠い目をする。
そうかそうか、気に入られちまったか。
残念だな、パウラ。アレ、ラスボスだから、絶対逃げられない仕様になってんだぞ。
ちなみに、提携といってもちゃんと行商ギルドを介しているので直接売買には当たらない。
陽だまり亭は面倒なんで全部アッスントに持って来させてるし、カンタルチカもきっとそうしてるだろう。
法外な仲介手数料を排し、アッスントは行商ギルド単体の儲けよりも区内での商売のしやすさを優先させている。
その方が、結果的に利益が上がると踏んだのだろう。
まっ、四十二区で何かやる度に「ちょっとアッスント」ってお呼びがかかるようになったんだから、効果は出てるってことだろうな。
「それじゃ~、エビやハマグリ、牡蠣やアワビなんて分かりやすいのはパウラにあげるとして~☆」
どっさりと、貝やエビの詰まった網の袋をパウラの足元に置いて、マーシャが再びプールへと姿を消す。
……分かりやすいって、その辺、四十二区ではまだメジャーになってないからな?
パウラたちだって、貝類を食べる時ちょっと躊躇してたろ?
まぁ、食えば一撃で轟沈する美味さだけどな。
「は~い☆ ヤシロ君には、こっちのお魚を進呈しま~す☆」
びっちびっちと元気に跳ねる魚が詰まった網が甲板に水揚げされる。
……いや、なんかもう、漁港で見る水揚げのシーンまんまだったんで、思わず水揚げって言っちまったけども。
巨大な網からどざーって魚が落ち広がっていくシーン。あれだよ。
「お、アマダイにメバルか」
マーシャが持ってきてたのは、さまざまな種類の魚が入り混じった網だったが、その中には天ぷらにするとめちゃくちゃ美味い魚がいくつも混ざっていた。
「キスに、カサゴに、カワハギ……おぉっ!? ギンポじゃねぇか!? 美味いぞぉ、ギンポの天ぷらは!」
海ドジョウとも呼ばれるギンポは、スズキ科の魚で、江戸時代から愛され喰われ続けてきた天ぷらの定番だ。
最近じゃもっぱら高級魚扱いされてるけどな。
ぬめぬめした体は捌くのが大変だが、その先に待つ至高の美味さを思えば、そんな苦労は屁でもない! ――と、親方がうっきうきで捌いていたのをよく覚えている。
カサゴも親方の好きな魚だった。
煮つけも美味いが、こいつの天ぷらがまた絶品なんだ。
ゴリに次いで、親方の好きな魚に挙げられる。あぁ、いや、カワハギといい勝負だったかな?
とにかく、親方はキスとかタラとかタイなんて定番よりも、そういうのが好きだったんだよな。
そういや、俺は小学生の頃、アホほどイカ天食ってたな。
なんであんなに好きだったんだろ?
かぼちゃとサツマイモが美味いのはもはや常識だが、イカ天の美味さは大正義だと言えよう。
日本国憲法に『イカ天は美味いものとする』って明記されていても、俺は驚かないね。
「よし、この辺は煮つけにしよう」
「ねぇねぇ、ヤシロ君。天ぷらに合う魚とか合わない魚ってあるの?」
「基本的に、白身で淡白な魚の方が天ぷらには向いてるな」
カツオみたいな赤身は高温で揚げると身が固くなるし、アジやサンマみたいな脂の多い魚だと味がくどくなるし、鍋の中の油に魚の脂がしみだしてニオイや味が移ってしまうこともある。
天ぷらは、揚げる油の香りも美味さの要因だからな。
「じゃあじゃあ~、アナゴとかは?」
「めっちゃ美味いぞ! 今あるのか?」
「あるある~☆」
アナゴの天ぷらなんか、食ったらその日一日パラダイスだっつーの。
「ついでに、アオヤギとか芝海老もあれば頼む」
「え、芝海老って小さくない? もっと大きい海老でしょ、天ぷらにするのは?」
「美味い食い方があるんだよ」
かき揚げという、最強の食い方がな!
「じゃあ、持ってくるね~☆」
喜び勇んでプールへもぐるマーシャ。
なんでも揃ってるな、この船。
アオヤギの貝柱は小柱といって、天ぷらの定番なのだ。
俺は子供の頃、小柱を小さいホタテだと思っていた。まさかアオヤギだったとは。
「くぉおおお! ヤバいぞ、ヤシロ! よだれが止まらん!」
「絵面が酷いぞ、ハビエル」
真夏のセントバーナードか、お前は。
口の周りベッタベタじゃねぇか。
「本当に、ヤシロさんはどんな食材でもご存じですのね。このギンポとかいう魚、初めて見ましたわ」
「俺も知らねぇ魚はいるさ」
こっちの魚で、日本にはいなかった魚も多く存在している。
そういうのは、一度食ってみてどんな味かを確かめ、調理法を模索している。
まぁ、結局、日本にもいる魚の方が馴染みもあるし調理法も確立されてるしで、そっちばっかり使っちまうんだけどな。
ちなみに、同じ名前だか微妙に違う魚も、数種類いる。
このメバル。確かにメバルではあるが、見た目が日本のものとは若干違う。おそらく、身の付き方や骨の形状も多少は異なるだろう。
もしかしたら味や匂いもまったく同じではないかもしれない。
だが、『強制翻訳魔法』がこの魚を『メバル』と翻訳した以上、そいつはもうほぼメバルであると思って間違いないのだ。
以前、物凄くムロアジに似た魚を見かけたのだが、何度名前を聞いても『ムロアジ』とは翻訳されなかった。
試しに捌いて食ってみたら、味がまるで違う、完全なる別物だったのだ。
『強制翻訳魔法』の判断は、そう言った面でかなり信用できるものであると、俺は考えている。
多少の差異はあれど、コレはもうほとんどソレであると断言して支障ない、そんなものだけを的確に翻訳している。――と、俺はそう思っている。
ネーブルやデコポンを『オレンジ』と翻訳するような、かなりアバウトな時もあるにはあるけどな。
だが魚に関しては、見た目も味も似ていて翻訳もされているが、実際食べてみたら毒があった――なんて悲劇は起きないと信じている。
俺の信用を裏切りやがったらその時は……精霊神、覚悟しとけよ?
「ちなみにヤシロ君!」
ざばぁっと、マーシャが勢いよくプールから飛び出してきて、ギラつく瞳で俺を見る。
「『人魚の度胸試し』って呼ばれる魚があるんだけど……ヤシロ君なら調理できる?」
こっちの世界特有の魚は手に余る可能性も高いし、何より『人魚の度胸試し』なんて禍々しい呼び名の魚には手を出したくないんだが……
「物凄く美味しいんだけど、たまに、食べるととんでもなく苦しくなるハズレが混ざってるの! でも、物凄く美味しいから定期的に食べたくなるの!」
物凄い熱量のマーシャ。
その後ろに並ぶ人魚クルーたちも、真剣な眼差しだ。
一体どんな魚なのかと思ったら――
「フグ、だな」
――トラフグだった。
「こいつ、毒持ってるから下手に食うと死ぬぞ?」
「けど、海で最強の人魚は負けるわけにいかないの!」
いや、捕食してる時点で圧勝してるだろうに。
「じゃあ、こいつも天ぷらにしてやるか」
「ホント!? やったぁ!」
「「「わ~い! ご相伴に預かります!」」」
クルーを含め、人魚が大喜びだ。
ただし、美味いからって素人が勝手に手を出さないように、テトロドトキシンの危険性を周知しないとな。
密漁者が死ぬことになりかねない。
また、とんでもない食材に出会っちまったなぁ。
ちなみに俺は、資格持ってるから余裕で捌けるけどな。
「見たことのないお魚がいっぱいです!」
厨房へと魚を持ち込むと、野菜の下準備をしていたジネットが包丁を置いて駆け寄ってきた。
どう捌こうかと、キラキラした目で魚たちを見ている。
「デカいのは三枚におろして切り身に、キスは頭を落として開いてくれ」
「分かりました。……それで、ヤシロさん。その隔離されている丸いお魚はなんですか?」
見間違えるはずもないが、万が一があると困るので別のカゴに入れておいたトラフグを見つけ、好奇心に満ち満ちた瞳をきらめかせるジネット。
食いついちゃったかぁ。
「こいつばかりは、ジネットでもそうやすやすと捌かせるわけにはいかねぇんだ」
「そ、それは、なぜでしょうか!?」
「この魚には毒があるからな」
「早く捨てです、お兄ちゃん!?」
「……危険物の持ち込みは厳禁」
「誤って口にしてしまうと恐ろしいですね」
ロレッタ、マグダ、カンパニュラ――ロレマニュラが身を寄せ合って怯えている。
「まぁ、落ち着けロレマニュラ」
「混ぜないでです!?」
「……マグダ成分が少ない。マグダニュラにするべき」
「あたしの成分なくなっちゃったですよ!?」
「……マグダニュラ(うすしお)」
「誰がうすしお味ですか!? あたしはもっとガツンと濃い味ですよ、きっと!」
お前の味とか、どーでもいいんだよ。
で、たぶんうすしおが一番似合ってるよ。
のりしおでも、ちょっと違和感覚えそうだし。
「こいつは、内臓にテトロドトキシンという神経毒を持っていて、それを口にするとニ十分~三時間以内に体が痺れ出し、横隔膜までもが痙攣して、呼吸困難に陥って、最悪命を落とすんだ」
「めっちゃ怖いですね、その魚!?」
日本でも死亡事例が報告されてるしなぁ。
医療の発達により、死亡件数はぐっと減ったが、治療法が確立されていない時代には、多くの者がフグの毒にやられたもんだ。
「なので、俺の故郷では数年修業して、試験に合格した資格持ちしか捌いてはいけないことになっている」
「なんでそうまでして捌きたいですか? そんな怖いの、食べない方がいいですよ」
「んふふ~、分かってないねぇ、ロレッタは☆」
ちっちっちっと、マーシャが指を横に振る。
――すると、乳っ乳っ乳っと、お乳も横に揺れる。わは~い。
「ヤシロ君、このフグ踊り食っちゃう?★」
「やめろ。冗談じゃなく死ぬ」
フグを武器にするんじゃない。
「このお魚はね、命を懸けても食べたいほど、美味しいんだよ!」
「そんなにですか!?」
「そして、ヤシロ君はその毒を完全に無効化することが出来る――はず!」
「お兄ちゃんすごいです! あたしにも教えてです!」
「いや、ロレッタには無理だ」
「どーしてですか!?」
だって、お前、「これくらい、ま、いっかです☆」って、ズボラかましそうだもん。
「ジネットなら、ある程度練習すれば捌けると思うが、それ以外のヤツには教えられない。……ちょっとの気の弛みで人が死ぬような事故は、起こしたくないだろう?」
「た、確かに……です」
「だから、マーシャ。資格を持ってないヤツには捌かせないってルールを厳守するなら、今回は捌いてやるぞ」
「その資格って、どうすれば取れるようにするの?」
「的確に捌けること、有毒箇所を正確に把握できること、処理を滞りなく確実に実行できること。以上が確約された者になら、資格を与えてもいいな」
「ヤシロさん、わたし、頑張ります!」
そういう高難易度な挑戦、意外と好きだよな、ジネットは。
「最初は俺が講師と試験官をやってやるから、海漁ギルドから数名候補生を出してくれ」
ゆくゆくは、技術を磨いた候補生が試験官となり、厳重な管理体制のもと、フグが日常で食べられるようになればいい。
「ちなみに、その毒っていうんは、テトロドトキシンで間違いないんやね?」
なぜ厨房にいるのか、レジーナがにょきっと生えてきて会話に加わった。
「あぁ、テトロドトキシンで間違いない――あ、マグダ、レジーナが生えてきたその辺ちゃんと消毒しといてくれ」
「……任せて」
「失敬やな、人をばばちぃ菌みたいに」
「……大変、消毒液が、負けた」
「うわぁ~、勝ってもぅたかぁ、ウチのばばちぃ菌!?」
嬉しそうに乗っかるなよ。
マグダも楽しそうだな、おい。
「テトロドトキシンやったら、万が一にも食中毒が発生しても問題あらへんわ。ウチが特効薬作れるさかいに」
「マジか!? お前、すごいな!?」
「バオクリエアにな、テトロドトキシンを持っとる果物があるねん」
「怖っ!? テトロドトキシンって、食物連鎖で濃縮されて危険度を増すんじゃねぇの!? 何食って生きてんの、その果物!?」
「いや、その果物の皮にテトロドトキシンの層があってな? 日に当て過ぎるとそれが仰山でてきてしまうねん」
「ジャガイモのソラニンやチャコニンみたいだな……」
なんにせよ、解毒薬があるなら、死亡事故の危険は減るか。
とはいえ、技術と知識はあった方がいい。
「じゃあ、ジネット、いっちょ捌いてみるか?」
「はい! ご指導、よろしくお願いします!」
気合い十分なジネット。
一方、とぼけた顔のフグ。
こいつは、今から捌かれるのが分かって、こんなのんきな顔をしているのかねぇ。
「まずは一撃でフグを昏倒させる」
包丁の峰でフグの眉間を強打し、フグを昏倒させる。
ここからは一気に捌く。
ジネットにはしっかりと捌き方をレクチャーしていく。
カンパニュラも真剣に話を聞いているが、あいつの包丁捌きじゃまだまだフグはムリだろうな。
最初はアジで練習させよう。
「ここが毒だ」
「結構多いんですね」
肝臓、腎臓、脾臓、心臓、胃袋、胆嚢、卵巣。
目玉やエラも避けておく。
「あとは丹念に、それはもう丹念に水洗いをする」
「水洗いですね。こうでしょうか?」
「プロ並みにうまいな!? なにその熟練の手つき!?」
「いえ、ヤシロさんの見様見真似です」
見様見真似で出来るレベルじゃないだろう。
わ~ぉ、そんな細かいところもしっかりと。
へ~、その辺って、そうすれば洗いやすいんだぁ~。
……教わっちゃったよ!?
「そしたら、食べやすいサイズにカットするんだが…………獲れたてのフグなんか滅多に食えないから刺身にしてしまおう!」
「わ~い! 覗きに来ておいてよかった~☆」
「やったです! つまみ食いですよ、店長さん!」
「……店長の真骨頂」
「こっそりいただきましょうね、ジネット姉様」
「あ、あの、みなさん……わたし、そんなにつまみ食いばかりしているわけでは……」
完全につまみ食いキャラが定着してるな。
「母親に似たんだろうなぁ」
「それは……否定できませんが」
照れ照れと、顔を俯けてそっぽを向くジネット。
料理中でなければ、盛大に前髪を触っていたことだろう。
「フグは身が引き締まっていて、かなり固い。なので、これくらい薄く切るんだ」
「薄っすいですね!?」
「……向こうが透けて見える」
「相変わらず、ヤーくんの技術は素晴らしいです」
「こうですか?」
「あっさりやってのけたです!? さすが店長さんです!」
「……包丁を持った店長は無敵」
「それだけでなく、一枚切った時に何かコツを掴まれたと、そのようなお顔をなさっていますね」
「えっと……こうすれば、綺麗に身が引けるのではないかと」
「おぉ、正解正解。さすがだなジネット」
コツを教える前に自分で見つけ出したようだ。
さすが、その道を究めた者は吸収も早い。
「あとはこれを、紅葉おろしとポン酢で……と言いたいところだが、さすがにポン酢は用意してないか」
「ありますよ」
「あるのかよ!?」
「お刺身をたくさん食べるかと思いまして、用意してきたんです」
そういや、宴会の席で見かけたような……
俺は作る方に集中してたからなぁ。
ポン酢持ってきてたか。
「はい、紅葉おろしポン酢です」
そして手際がいい。
もう準備されてる。
……では。
薄く切ったフグの刺身、『てっさ』を一切れ…………
「美味い!」
「こんなに薄いのにコリコリして、今までにない食感です!」
「……味の向こう側に、ほのかな甘み」
「淡白なのに印象深い味わいで、とても美味しいお魚ですね」
ロレマニュラも一切れずつ食って、満足そうに咀嚼している。
「やっぱり美味しいよねぇ~、人魚の度胸試し☆」
「そんな恐ろしいあだ名付いてるですか、この魚!?」
「……人魚が恐れるとは、かなりのもの」
「でも、危険を冒しても食べたくなる気持ちは分かりますね」
分かるなよ、カンパニュラ。
危険なものは食わなくていいからな?
「……なるほど」
一人、静かにふぐ刺しを食っていたジネット。
納得したようにこくりと頷き、大きな瞳をきらめかせる。
「これは、天ぷらや空揚げにしても、絶対美味しくなりますね」
「あぁ。火を通すと、また違った美味さがある」
「試してみたいですが……時間がありませんね」
「ちょっと待ってて☆ 船の進行遅らせてくるから☆」
「いやいや、早く帰って陽だまり亭で作ればいいだろうが」
「その前に教会に寄るんでしょ? 残念だけど、私はそんなに待てないっぽい☆」
『っぽい』って……
お前の匙加減一つだろうが、そんなもん。
「ヤシロさん。いくつか天ぷらにして、試食してみませんか?」
「分かったよ。クルーが全員陽だまり亭に来られるわけじゃないしな」
「そうですね。今回の船旅でお世話になったみなさんへ、感謝の気持ちを込めて振る舞いましょう」
「やったです! 天ぷらパーティーですね!」
「……従業員は、仕事に従事する前に商品を深く理解しておく必要がある」
「はい。では皆様とご一緒に、盛大なつまみ食い、ですね」
カンパニュラ。それもうつまみ食いと違う。
「じゃ、俺はフグを捌くから、ジネットは他の魚を頼む。マグダたちは手分けして天ぷらの衣と大根おろし、エビの皮むきを頼む」
「……了解。では、担当を振り分けるから、陽だまりウェイトレス~可愛いの乱~は集合」
「いつの間にそんなサブタイトルついたです!?」
「~可愛いの乱~に姉様たちとご一緒できるのは光栄です」
意気込む~可愛いの乱~一同。
だが、ちょっと不安だな。
「ノーマ、ナタリア~! ちょっとヘルプ~!」
というわけで、帰る前に陽だまり亭ただいまフェアで出す料理の試食会が行われることになった。
「わっ……わっしょいわっしょいです!」
ただいまフェア試食会の準備中、ジネットが衝撃を受けたような顔で菜箸を取り落としそうになり、マグダがすかさずキャッチした。
「ヤシロさん、これはすごいです! こんなお料理、食べたことがありません!」
と、ジネットが感動しているもの。
それは、白子の天ぷらだ。
「ふわっとしていて、とろっとしていて、濃厚なうま味が口中に広がっていって、心の奥底からわっしょいわっしょいしてきます!」
着地点ブレないな!?
今、お前の心の奥底で何が起こってるんだよ?
「はぁ……ショックだよぉ……☆」
白子の天ぷらを食べたマーシャが、ちょっと泣きそうになっている。
「こんなに美味しいところ、今まで見落としてたなんて……くすん☆」
泣きながらも、幸せそうにほっぺたを押さえて味を堪能している。
白子は好き嫌いが分かれるが、好きなヤツはめっちゃ好きだからな。
モツが受け入れられたこの街なら、絶対受け入れられると思ったんだ。
統計も取っていない俺の勝手な感覚なのだが、フグの白子好きは女性の方が多いような気がしている。
男は、部位的に食いたくないってヤツもいるからな。
気持ちは分からんでもないが、……もったいない。
「ん~……あたしは、ちょっと、イマイチかもです」
「……ない」
「そうですか? 私はとても美味しくいただいていますよ」
ロレッタとマグダはイマイチ口に合わなかったようだ。
ニオイとか、独特だしな。まぁ、しゃあない。
カンパニュラは好きなのか。川漁ギルド長の娘だけに、水の中の生き物の匂いには強いとかあるのかね?
「マグダとロレッタなら、クリームコロッケの方が好きだろうな」
「いいですね、クリームコロッケ! 食べたくなってきたです!」
「……カニクリームコロッケが、今のマグダにはお勧め」
自分へのお勧めを自分で言うのかよ。
そういうのはお勧めじゃなくて、催促っていうんだよ。
「あ、確かに、クリームコロッケのような食感かもしれませんね。サクッとした衣の中に、とろっとした白子が入っていて」
だったらクリームコロッケがいいってヤツもいるだろうな。
「ヤシロ――」
急に頼んだ手伝いも、イヤな顔せず引き受けてくれているノーマが、真剣な瞳で言う。
「じゃんっじゃんっ作るっさね!」
強い強い!
語気が力強い!
「希少部位なんだから、そうそう作れねぇよ」
「乱獲すりゃあいいじゃないかさ!」
「生態系を壊す気か!?」
「よし、乱獲しよう☆」
「すんな!」
「それでこそマーシャさね!」
「煽んな!」
このように、ハマるヤツはとことんハマる。
「これは、ルシアもハビエルも、絶対好きさね」
くつくつと、確信を持って喉を鳴らすノーマ。
もうすっかり、「様」とか「さん」とか付かなくなったんだなぁ。
権力者なんだけど、それ以上に飲み仲間って認定されてんだろうなぁ。
一方、ノーマほどの熱量はないが、一口食べた瞬間に「あ、気に入ったな」と分かりやすく瞳をきらめかせたナタリアが、静かに箸を置く。
「ワインをいただきたくなりますね」
「清酒も合うぞ」
「なるほど……それもよさそうです」
ナタリアも、白子がお気に召したようだ。
カニほどのフィーバーは見られないが。
「クルー! 人魚の度胸試しのオス、ありったけ持って厨房へ集合~☆」
マーシャがドはまりしてしまった。
こりゃあ、陸には持ち帰れないな、白子。
「ちなみに、タラの白子も美味いぞ」
「タラならたくさんいるよ☆」
「食べ比べてみるのもいいかもしれませんね」
「それはいいさね! 店長さん、よろしく頼むさよ!」
というわけで運ばれてくるフグとタラのオス。
女子たちの目が怖い……
「じゃあ、俺とジネットで捌くから、ノーマとナタリアでじゃんじゃん揚げていってくれ」
「お手伝いしま~す☆」
――と、寿司人魚の一人、……名前こそ思い出せないが、魚の捌き方を教わった人魚が手伝いに来てくれた。
「お前はフグ以外の魚を頼む」
「人魚の度胸試しも捌いてみたいです☆」
「責任を持って、自分で食うならいいぞ」
「美味しくて安全なのが食べたいです☆」
じゃあ、おとなしくタラでも捌いてろ。
そうして、フグを中心に、タラやタイ、キスや海老、野菜の天ぷらを作っていく。
「おっ、美味そうだな、レンコン」
「うふふ。絶対ヤシロさんがお好きだと思って、用意しておきました」
ジネットがしてやったりと笑みを浮かべる。
そうやって見透かすのやめてくれる?
確かに根菜好きだけどさ。
「……サツマイモが正義」
「カボチャも美味しいですよ!」
「どちらも甘いので、私も大好きです」
お子様たちは、やっぱりサツマイモとカボチャだよな。
フグを捌き終え、ナタリアに場所を退いてもらって、かき揚げを作る。
芝海老に小柱、アサリも入った豪華な海鮮かき揚げだ。
千切りにした人参とごぼう、薄くスライスした玉ねぎとまとめて油へ落とす。
じゅわっといい音がして、しばらくの後にからからと軽やかな音を立て始める。
一度ひっくり返して……うわぁ、めっちゃ美味そう。絶対美味い。
「ほい、海鮮かき揚げの完成だ」
「切り分けて、みなさんで味見してみましょう」
つまみ食いクイーンがいの一番に動き出した。
もう、作ってる時から期待に満ちた目を向けてたからな。
「母親に似てきたなぁ」
「そ、そんなことは……あんまりありませんもん」
ジネットはベルティーナのつまみ食いを指摘する方だったからなぁ。
自分が同じ注意をされるのは、ちょっと恥ずかしいのだろう。
サクッ――っと、ジネットが包丁を入れるとかき揚げが耳に心地のいい音を鳴らす。
「はわぁあ! もう、音だけで美味しそうです!」
「……見た目ですでに美味しい」
「料理は五感でいただくものというのが、よく分かるお料理ですね」
かき揚げ自体はジネットも作れるが、これだけ豪華な海鮮かき揚げは初めてだ。
……あ、というか、カンパニュラはかき揚げ始めてか?
細かく切り分けられたかき揚げを、その場にいる者たちで摘まむ。
「ん~! 美味しいです! 異なる食感が一気に押し寄せてきて、口の中がお祭り騒ぎです! そのうえ、魚介の旨味がぎゅぎゅっと詰まっていて、それがじゅわっと口の中に広がって……これは、美味しい以外に言葉がないです!」
「……よき」
「小柱というものは、こんなにも旨味を含んでいるのですね。小さなものが集まって、こんなにも素晴らしい一つの料理へと昇華される。私たち人間も、そのような生き方をしていきたいものですね」
大体いつも通りの反応だが、カンパニュラがかき揚げごときで人生を悟ろうとしている。
大袈裟だよ。
「ヤシロさん、わっしょいです! これも、とってもわっしょいです!」
「『強制翻訳魔法』のバグかな? 『おいしい』が『わっしょい』に聞こえる」
白子の時よりも瞳を輝かせて、ジネットがまな板へと向かう。
あぁ、なるほど。一回食ってみて、野菜の切り方とかまとめ方を工夫したら、もうワンランク上に行けると確信したのね。
で、ちょっと手を加えてやろうと意欲がむくむく燃え上がってきてるのね。
好きにしてくれ。
「ジネット。美味いかき揚げを頼む」
「はい。おまかせください」
驕るでなく、謙遜するでなく。
自分の仕事に全力で取り組む。そんないつものジネットの雰囲気で包丁を握る。
おぉ~、鼻歌が始まった。相当楽しいみたいだな、今。
……なんでだろう。
初めて聞くメロディーなのに、「今、音外したよね?」ってはっきりと分かる。
「ナタリア。船にいる連中に伝えてきてくれるか? 食堂で試食会するから、食いたいヤツは集まれって。クルーも含めてな」
「かしこまりました」
慇懃に礼をし、スキップで出ていくナタリア。楽しそうで何よりだ。
ジネットがかき揚げを楽しんでいる間に、俺はフグを捌き、天ぷらにしていく。
白子もたっぷりと。
こっちがフグで、こっちがタラ。
サツマイモやカボチャはノーマに任せて、手の空いた面々には食堂の準備をしてもらおう。
そうこうしながら三十分ちょい。
天ぷら試食会が始まった。
あとがき
ライオン王「なーんくーる、ないさー!」
おっと、沖縄バージョンになってしまいました。
劇団四季んちゅ、ですね。
※本当は「しーんぱーい、ないさー!」です。 ←知らない人用
というわけで、劇団宮地です。
あ、未成年の方と学生さんはごめんなさい。
大人になってから出直してきてください。
今回は、天ぷらが食べたくなる呪いをまき散らすお話でした☆
くそぅ、天ぷらが食べたいっ!
今夜の夕飯、パスタで決定なのに!
……まって、天ぷらパスタとか、ありじゃない?
天ざるとか、あるわけですし!
では、エビの天ぷらと、エビとホタテのペスカトーレを!
エビ、多い!?Σ(゜Д゜;)
さてさて、皆様、
ふぐはお好きでしょうか?
実は私、ふぐは一度しか食べたことがありませんで、
以前和食屋さんで、そこそこのお値段のふぐをいただいたのですが…………うぅむ
なんといいますか、こう、
よく分からなかったというのが正直なところですね。
ふぐのから揚げと、白子の入ったお吸い物をいただいたんですが……割と苦手な味でした
たぶん、あのお店が悪かったのだろうとは思うのですが
なにせ、ふぐの割にそこそこのお値段でしたし
いえね、
昔、牡蠣が苦手だったんですよ。
大手居酒屋チェーンで、初めてカキフライと生牡蠣をいただきまして
「なんじゃこりゃ!?」(# ゜Д゜)
と、衝撃を受けまして
以降十数年、一切食べなかったんですが
広島と宮城でいただいた牡蠣が、めちゃくちゃ美味しかった(*´▽`*)
アレ以降、牡蠣大好きです☆
なので、きっと、
ふぐもちゃんと美味しいところのを食べれば美味しいんだろうな~とは思いつつ
ちゃんとしたところのふぐって、お値段が…………
((((;゜Д゜))))キァァアア!?
まぁ、私個人では行けませんよね……
てっさとてっちりはまだいただいたことがないので、
いつか機会があれば、チャレンジしてみたいと思います!
ただ、白子はたぶんダメっぽいです……私は、カニクリームコロッケの方が好きな派です
マグダたんと一緒です\(*´▽`*)/
ふぐ好きの皆様、
ふぐ食べたくな~れ~
(/≧▽≦)/====☆
というわけで、ぼちぼち鍋物が恋しくなる季節、秋! 10月!
10月といえば、そうハロウィンです!
宮地「ハロウィンの曲、とりあえず先に作詞してみた」
Pさん「まさか、前回からの続き!?」
いや、だって、
ハロウィンですし(≧▽≦)お寿司☆
作曲は面倒なので、とりあえず詞だけ先に作っておこうと思いまして
ほら、言葉があると、そこに節がついて、やがてメロディーになるかもしれないじゃないですか。
音楽って、天から降ってくるらしいですし(≧▽≦)お寿司☆
Pさん「ハロウィンの歌、なんだね?」
宮地「そうそう。『うっかり成仏』ってタイトルなんだけど――」
Pさん「とりあえず、その曲はやめようか」
宮地「なぜ!?」
Pさん「100%『和』だよね!?」
宮地「確かに住職は出てくるけども、住職なんてヨーロッパにもたくさんいるし!」
Pさん「聞いたことないなぁ、ヨーロッパの住職!?」
宮地「では、聞いてください、『うっかり成仏』」
Pさん「曲ないから、朗読だよね!? まぁ、聞こうじゃないか」
電柱そばの地縛霊
あなたの背中に背後霊
ふよふよ漂う浮遊霊
新居にいるぜ、満員怨霊!
夜中になったらラップ音(♪クレラップ派)
寝てると突然シャワーがジャー!(♪温度設定42℃)
毎晩決まって金縛り(♪それより怖いね、こむら返り)
押し入れの中に住んでる住職(♪たまに肉じゃが作ってくれる)
毎日がオバケ☆パラダイス
Tokkuri or Turtle もらったおやつは塩大福
Tokkuri or Turtle お塩入ってるからうっかり成仏
Tokkuri or Turtle ららるら ふんふん ふんがーふんがー
Tokkuri or Turtle そんなハロウィン~
宮地「という歌です!」
Pさん「住職が一番怖ぇよ!?」
宮地「えっ、いっぱいオバケ出てきたのに!?」
Pさん「押し入れに住職住んでるのが一番怖いから!」
宮地「でも、肉じゃがは美味しい」
Pさん「その程度で賄いきれる負の要素じゃない!」
宮地「ちなみに、『満員怨霊』は『満員御礼』を文字って――」
Pさん「それは分かってる。けど、ルビが『まいいん』になってるのが気になる!」
宮地「え、『まいいん』『たいくかん』『うんでぇーじょー』でしょ?」
Pさん「最後、悟空か!? その並びだと、『グラウンド』を『グランド』って間違ってるヤツだろう!?」
宮地「そんなヤツおらへんやろぉ~」
Pさん「『うんでぇーじょー』の方がいないわ! あと、風呂の温度設定とかクソどーでもいい!」
宮地「幽霊なのに適温なのって、怖くない?」
Pさん「いいや、全然。……あと、よく見たらサビのところトリックorトリートじゃないな!?」
宮地「うん。トックリorタートル」
Pさん「ハイネックの呼び方!?」
宮地「どっち派かな、って?」
Pさん「どーでもいいな!? とっくりセーターもタートルネックも、どっちも昭和の呼び名だし!」
宮地「ちなみに私はハイネック派!」
Pさん「なら選択肢に入れろよ! あと、ららるらふんふん、ってなに!?」
宮地「歌詞が……思いつきませんでした……」
Pさん「未完成だね、じゃあ!? 出来てから見せようか!?」
宮地「けどまぁ、全体的にハロウィンでまとまった感じはあるよね?」
Pさん「微塵もないけど!?」
痛烈なダメ出しを喰らい、ハロウィンソングは頓挫しました。
折角、塩大福でちょっと成仏しかかったのに……
宮地「そもそも、トリックorトリートってなんだ!?」
Pさん「おやつくれないといたずらするぞって意味だよ」
宮地「……ネットに、個人情報をばら撒いたり?」
Pさん「いたずらの域を超え過ぎてる! もっと可愛い感じだよ!」
宮地「ネットに個人情報ばら撒いちゃうんだじょ☆」
Pさん「言い方じゃなくて! 可愛い子供がいたずらするの」
宮地「おやつをあげて、可愛い子供にいたずらをするのか!」
Pさん「違う!」
宮地「任せて、得意!」
Pさん「得意なのはヤバい!」
というわけで、今からハロウィンが待ち遠しいです♪
わく( ̄▽ ̄)わく♪
いや~それにしても危ないところでした。
実は今回のコレ……前回入りきらないって諦めたヤツなんですよね……
いや、諦めてないじゃん!?
Σ(゜Д゜;)書いたじゃん!?
前回書いてたらあとがき5000文字になってるところでした。
いや~、怖い怖い(*´ω`*)>
おやつくれないと、あとがき書いちゃうぞ☆
もう間もなくハロウィン
皆様に素敵なハロウィンが訪れますよ~に♪
次回もよろしくお願いいたします。
宮地拓海




