報労記22話 大きな海原の上で
「じゃ、ちょっとイラストを変更するか」
「あの、ヤシロさん」
紙芝居を小脇に抱えて席を立つと、ジネットに呼び止められた。
「ヤシロさんは、先ほどからずっと自室で作業ばかりされていますから、少しは船の旅を堪能してみませんか?」
と、甲板を指さして誘ってくれる。
そういや、俺ずっと食堂と自室の往復しかしてないな。
「お前らは海を堪能してるか?」
「うん! すごいんだよ、スイートルーム! ねっ、ネフェリー!?」
「そうなの! 窓がいっぱいあってね、そこから海がばーんって見えるの!」
そういや、ルームツアーもやってねぇな、俺。
「ハビエル。スイート行ったか?」
「ん? いや、そういやまだだな」
「じゃ、あとで一緒に見に行くか」
「おう」
「あぁ、それならもう少し待ってほしいッス! 紙芝居の枠を完成させたらオイラもお供したいッス」
「拙者は、いつでもお供できるでござるよ」
「ヤシロはその頼もしいお供たちを、何をあげて仲間にしたんだい?」
こいつらをお供にした覚えはねぇよ。
「そらもちろん、腰からぶら下がっとるアレ団子やんなぁ?」
「団子なんぞぶら下げてねぇわ」
おーい、海への不法投棄って、このサイズはOK?
「じゃあ、ウーマロを待っている間、俺は少し海でも見に行くかな」
「はい。お供します」
「……マグダも」
「あたしも行くです!」
「あ、私もご一緒させてください」
カンパニュラがノーマのもとからこちらへ駆けてくる。
あれ、そういえばノーマが随分と大人しかったな。
子供向き過ぎて、あんまり楽しめなかったのか?
「ノーマ姉様は、静かに感動に浸りたいでしょうから、そっとしておいてあげてください」
「え……泣いてんの?」
「とても綺麗な涙でしたよ」
見れば、窓から外を眺めるような格好で顔を背けている。
うん、泣いてるな、あれは。
どこが琴線に触れたんだろう?
もしかしてお婆ちゃんになっても桃から子供が――
「すぱぁー」
――うん。なんでもない☆
何も思ってない、な~んにも考えてない☆
「じゃ、じゃあ、甲板に行ってみるかぁー」
ノーマの灰から逃れるために食堂を離脱する。
「あ、ヤシロ! あたしたちちょっとここで配役決めとくね!」
「ちょっとセリフとか足してもいいかな?」
「みなさんで話し合い、後ほどヤシロ様に添削していただくということでどうでしょうか?」
「がぉーと賛同する、ナタリアさんに」
いや、それは好きにすればいいけど、ギルベルタ……鬼、やりたいの?
「それじゃ~、私が人魚的目線で追加のシーンを監修してあげるね~☆」
俺とエステラたちの会話が聞こえていたのであろうマーシャが、追加シーン作成に名乗りを上げる。
一応、絵はないがさっきの紙芝居でも人魚を登場させた。
鬼のかけた魔法により、荒れ狂った海の波を沈めてくれる協力者として。
人間と人魚が協力して海の平和を乱す悪を討つ。
それは、三十年前に実際あった海の魔獣討伐とリンクする部分がある。
だからなのか、紙芝居を見ていた人魚たちが大いに盛り上がっていた。
なんかきゃーきゃー言って嬉しそうだった。
まぁ、喜んでもらえたならいいか。
「ヤシロさん☆」
「すっごく面白かった!」
「また聞かせてね~☆」
「人魚って役に立つでしょ~? もっと頼ってもいいからね~☆」
食堂を出る直前、人魚のクルーたちに取り囲まれて矢継ぎ早に感想をもらった。
……うん。楽しみ過ぎだろ、ほんのワンシーン追加しただけなのに。
「とても嬉しかったんでしょうね」
「……ルシアの案だからな?」
「でもそれを素敵な仕上がりに……いえ、そうですね。ルシアさんの優しさが嬉しかったんでしょうね」
そう思うなら、前半部分は完全に飲み込んで口にしなければよかったのに。
……顔が「そんなことない」って言ってんぞ。……ったく。
「ヤシロ~! 釣りするか?」
デリアと日傘を差したイメルダが俺たちのあとを追ってくる。
「釣果はどんなもんだ?」
「ばっちりだ! 海の魚っておっきいんだなぁ! 上げるのが大変なんだ」
「まったく、それでワタクシまで駆り出されているのですから、堪ったものではありませんわ」
「なに言ってんだよ、イメルダ。お前が一番きゃーきゃー楽しんでるじゃねぇかよ。魚が釣れる度に『ワタクシの顔より大きいザマス!』って」
「いや、デリア。声とかしゃべり方はもうこの際いいけど、せめて口調!」
『ザマス』は言わない! 言ったの聞いたことない!
「ワタクシが掬い上げた魚ですもの、喜ぶのは当然ですわ」
「あたいが釣ったんだぞ!?」
「ワタクシがいなければ一匹たりとて釣り上げられてはおりませんでしたわ」
「では、お二人のご協力あってこその釣果ということですね。お二人ともすごいです!」
「う……ん、まぁ、そっかな」
「そうですわね。デリアさんも、よく頑張っていらっしゃると思いますわ」
「イメルダも、服が汚れるの気にしなくなったもんな」
「服など、洗えばいいだけですわ」
それを、そう言えないのが貴族のお嬢様だろうに。
なんだかんだ、イメルダも楽しんでるんだな。
仲がよさそうで何よりだ。
「じゃあ、大物を期待してるぞ」
「おう! 任せとけ! 行くぞ、イメルダ!」
「お待ちなさいまし! ワタクシがいなくてはこの海の主は釣り上げられませんわよ!?」
何狙ってんだよ、お前ら……
海の主なんて、それこそリヴァイアサンとかウロボロスとかじゃねぇのか?
絶対船に上がらないから釣るなよ、そんなおっかないもん。
「ヤシロさん、こちらへ」
ジネットが俺の手を引っ張って甲板へ向かう。
少し走るような速度で引っ張られる。
こんなにはしゃいでいるジネットも珍しい。
普通に手をつないできてるし。……指摘したら照れて固まるだろうから、ここはスルーしておくか。
……スルーしようと思えば思うほど、意識が手に向かってしまうのはなぜなのか……
そして、意識が向かえば、人体というのは反応を示すもので……
「ひゃぅ!?」
ついつい、指先でジネットの手をぷにぷにしてしまった。
「あぅっ、す、すみません、いきなり手をつないでしまって……っ!」
「いや、いいんだ。意識しないようにしたら逆に意識しちゃってついぷにぷに……って、何言ってんの俺!? 今のなし!」
「は、はい! なしですね! 分かりました!」
あぁ、結局手は離されてしまう。
……ちぇ~。
「私とも手をつないでくださいますか。ヤーくん?」
「もちろん、喜んで」
気を利かせてくれたのか、カンパニュラが可愛らしいおねだりを。
ジネットも、照れ顔から微笑みへと表情を変える。
「……ロレッタ、手をつないで」
「むはぁ! マグダっちょからのおねだりには逆らえる気がしないです! 喜んでつなぐです!」
「……では、反対の手を、ヤシロ」
「むはぁああ!? なんかさりげにお兄ちゃんの空いてる手を掻っ攫われたです!? マグダっちょ、さらっと狡賢いです!?」
……で、俺はまた両手が塞がると。
手つなぎ鬼か。
はないちもんめでもやるのか、このあと?
「ヤシロさん、見てください」
潮風に靡く髪を押さえ、ジネットが進行方向左手を指さす。
そこそこ離れたところに、岩山が連なっている。
絶壁だな。
「あれが、オールブルームだそうですよ」
ジネットにしてみれば、初めて外から見るオールブルームってところか。
街門の外に出たことはあっても、こうして離れた場所から街を眺めることはなかっただろう。
残念なのは、見えるのが岩壁ばかりで、街の様子がまったく見えないというところか。
「三十五区のそばまで来れば、街の様子を外から見られるかもな」
「そうですね。楽しみです」
「ヤーくんは、他所の国からこの街へおいでになったんですよね? 外から見たオールブルームはどうでしたか?」
「俺は気を失っている間にこの近くまで運んでもらったからなぁ」
近付いてくる大きな街に感動した、みたいな記憶はないんだよな。
「幌から顔を出したら、信じられないくらいデカい壁がどこまでも続いていてびっくりしたよ」
ここまで圧迫感を与えるような外壁の作りは、テーマパークでもなかなかお目にかかれない。
そりゃ当然で、テーマパークは圧迫感を与えないように設計されているからな。
近いのは、ダムを見た時かな。
あの巨大さに圧倒される感じは、すこし似ているかもしれない。
「三十区の街門を外から見た時は、王城の尖塔がチラッと見えてな、『なんかデカい街に来たんだなぁ~』って思ったもんだ」
「そうなのですか。では、今度一度三十区の街門の外へ行ってみませんか?」
「オルキオの奢りでならな」
「はい。私の方からお願いしてみます」
可愛いカンパニュラとジネットの頼みなら、通行税くらい大目に見てくれるだろう。
それに、将来自分が守ることになる街門を外から見ておくことも、カンパニュラの糧となるだろう。
「けど、今は海から見える街を見ておくといい」
「はい」
それからしばらく、雄大にそびえ連なる岩壁や岩山を船の上から眺めた。
「不思議ですね。海も山も、いくら見ていてもまったく飽きないんです。……ですから、何か用事がないとやめ時が難しいなって」
ジネットがへにょっとした笑みを浮かべてこちらを見る。
まぁ、圧倒されるような景色は、どれだけ見ていても飽きないからな。
「俺も、一度海を見つめているうちに日が暮れちまったことがあるな」
あれはいつだったか……
ガキのころに親方たちと行った海へ、偶然訪れたことがあった。
まったくそんなつもりもなく、その場所だと気付いてもいなかったのに、海を見た瞬間、鮮明に頭の中に昔の記憶が蘇ったんだ。
目の前の景色が、記憶の中の景色と完全に一致して、どんよりと薄汚れて見えていた目の前の風景が一瞬で鮮やかな美しさを取り戻した。
それから、その場所でただじっと、日が暮れるまで海だけを見つめていた。
脳内に蘇ってきていた親方や女将さんの「綺麗ねぇ」なんて声も聞こえなくなるくらい長い時間。何もせず、じっと海を見ていた。
「今、目の前にあるこの景色は、何十年経っても、きっと記憶に残り続けるんだろうな」
「そうですね。……きっと、そうなんだと思います」
髪を押さえて、岩山を見上げるジネット。
それに倣って、マグダとロレッタも巨大な絶壁を見上げる。
カンパニュラは、ジネットと似たような手つきで髪を押さえて、同じ山を見上げている。……そんなところまで似るんだな。
「こんなにすごい景色ですから、きっと、ずっと忘れないと思います」
「あぁ……」
それに――
「それに」
ふいにこちらを向いたジネットは、まさに今俺が思ったのと同じ言葉を口にした。
「みなさんと一緒に見られた景色ですから、わたし、絶対忘れません」
……そうだな。
この景色を見ていたお前らの顔ごと全部、きっと忘れない。
「あたしも、ぜ~ったい忘れないです!」
「……海を見る度に思い出し、海を見なくても思い出す」
「そんな素敵な思い出を、ヤーくんや姉様たちと共有できたことを、幸せに思います」
何があるわけでもない景色。
海と、山と、空がある。
それしかないからこそ、圧倒されるほどのスケールを感じる。
人ってのは、ちっぽけなもんだと、まざまざと見せつけられる。
「船首に立って、鳥の目線は体験したか?」
「鳥の目線、ですか?」
「してないなら、行ってみるか」
鳥は空を飛ぶ。
その目に映るのは空と海のみ。
青と青が混ざり合う、その狭間だけを見て飛んでいるんだ。
「空と海以外の何も見えない視線。きっと、鳥ってのはこういう世界を見ながら空を飛んでるんだぜ」
「わぁ、……それは、考えたことがありませんでした」
「こっち来てみろ」
「はい」
「……店長、足下、気を付けて」
「はい。ありがとうございます」
「ロレッタ、後ろから腕を回して支えてやっててくれ」
「はいです!」
「マグダとカンパニュラはロレッタを」
「……分かった」
「任せてください」
ジネットが船首に立ち、その体をロレッタが後ろから抱き留める。
で、そのロレッタが落ちないようにマグダとカンパニュラに押さえていてもらう。
……いや、ほら。
俺がジネットを後ろから抱きしめて体を支えるとか……ちょっと、無理じゃん?
「じゃあ、ジネット。両腕を横に大きく広げてみろ。鳥の翼のように」
「翼のように…………あっ」
両腕を広げた瞬間、ジネットが声を漏らした。
「どうした?」
「いえ、あの……」
まっすぐに前を向いたまま、ジネットは言葉を探すように少し黙る。
「……分からないんですけど……なんだか……景色の一部になれたというか……世界に包み込まれたような気がしました」
「んじゃ、鳥はそんな感じで空を飛んでるのかもな」
「はい。そうかもしれませんね」
とは、こちらを振り返りながら。
頬が薄紅色に染まっている。少しの興奮状態にあるようだ。
「代わります。ロレッタさんもやってみますか?」
「やりたいです!」
「でもあの、腕を広げるのは、ちょっと怖いですから、気を付けてくださいね。なんというか、掴まるところがない不安感みたいなものが」
「分かったです!」
「では、わたしがロレッタさんを支えて――」
「……マグダが支える。店長はカンパニュラとマグダを掴まえていて」
だよな。
ジネットが支える役なんて、二次災害で被害が拡大する未来しか見えない。
なんなら、ロレッタは無事なのにジネットだけが海に落ちることだってありそうだ。
「なんでそっちが!?」っていう、面白いハプニングに襲われて。いや、笑えないけども。
「ふゎぁああ!? これはすごい景色です!」
「いや、お前は出港の時にパウラと先を競い合うように船首の景色を見てたろうに」
「アレとは全然違うですよ! 青いです! 上も下も、視界の全部が青一色で、本当に飛んでるような気分になれるです!」
「……では、鳴くべき」
「へ? え? なんでです!?」
「……鳥の気分になったのなら、鳥に敬意を払って鳴くべき。鳥のようにっ」
「え、そ、そうかも、しれないです……いや、そうに違いないです! では…………え~っと…………こ、コケー!」
残念。
その鳥、飛ばない。
「ロレッタ。俺の故郷には『飛ばない鳥はただのブタだ』って言葉があってな」
「それどういう意味です!? 飛ばなくても鳥は鳥ですよ!?」
ま、そりゃそうか。
「じゃあ、次はマグダっちょです」
「……マグダに支えは不要」
「ダメです! あたしの支える権利は剥奪させないです!」
「……ロレッタがそうしたいなら、許可する」
「やったです!」
喜んでみせるロレッタだが、一応マグダを心配しているのだろう。
マグダの身体能力ならサポートなど必要はない。
必要はないが、だからといってやらないという選択肢はロレッタの中にはない。
みんな平等に。
甘やかし、甘やかされ。それが、あいつらの付き合い方だからな。
「……………………よき」
「マグダっちょも思いっきり鳴くです!」
「……いや、マグダは大丈夫」
「なんでです!?」
「……間に合ってますので」
「ここに来て急な他人行儀!?」
マグダは滅多に大声を出さないからなぁ。
俺も二回か三回くらいしか聞いたことがない。
「…………マグダは、ちゃんと待ってるから、ね」
潮風が、そんなマグダの声を運んでいく。
俺たちの進行方向とは逆の方へ。
「あっちには、きっとバオクリエアがあるんだろうな」
地図を見たわけじゃないから、正確な位置は分からんが……まぁ、風は変幻自在だ。どこにだって飛んでいってくれるだろう。
「では、きっと伝わりますね」
何をとか、どこにとか、そんなことは言わずに、ジネットは結論だけを口にしてにこりと笑う。
「……だな」
こんだけ遮蔽物のない空間だ。
これだけ強い思いを乗せた言葉なら、きっと届くさ。
「……カンパニュラ。おいで」
「はい!」
マグダが手を差し出し、カンパニュラがその手を取る。
マグダは、カンパニュラには他の誰とも違う接し方をしているように思う。
ロレッタやジネットとも、テレサや教会のガキどもとも違う、少しだけ特別な感情が見える距離感で。
もしマグダに妹がいたら、こんな風に構ってやるのではないかと思えるような、優しくも厳しい、そんな接し方だ。
「……海を見つめて、心が動いた時に思い浮かんだ言葉を叫ぶのは気持ちがいい」
「そうなのですか?」
「……そう。実証済み」
「いや、マグダっちょは叫んでなかったですよね!?」
「……ロレッタも実証済み」
「あたしのは心に思い浮かんだ言葉じゃなかったですよ!? むしろ、海を見て心動かされて『コケー!』って浮かんでくるのだとしたら、あたしは自分の心がちょっと心配になっちゃうです!」
「……このように」
「まるで届いてないです、あたしの否定の言葉の数々!?」
騒ぐロレッタをスルーして、マグダがカンパニュラを船首へと誘う。
騒ぎつつも、ロレッタがカンパニュラのサポートをしている。
面倒見いいな、ウチの先輩従業員たち。
「あぁ……これが、世界の本当の姿なのですね」
船首に立ったカンパニュラが、眼前に広がる景色を見て言葉を零す。
そうだな。
きっと、世界が生まれた瞬間は、空と海だけの、そんな景色だったんだろうよ。
船首に立ち、海を見つめるカンパニュラ。
しばらく黙って海を見つめ、そして細い肩が微かに持ち上がり、大きく息を吸い込む。
「ありがとうございまぁーす!」
手すりを握り、大きな声で感謝の言葉を述べるカンパニュラ。
こちらを振り返り、その言葉の真意を教えてくれる。
「こんなにも素敵な世界に生まれることが出来て、私はとても幸せですから。だから」
世界を作ってくれた創造神へか、巡り合わせた運命の神か、もしくは自分を生んでくれた両親へか。
カンパニュラの感謝はきっと届くべき者へと過不足なく届くだろう。
「店長さんも叫んでみるですか?」
「いえ、わたしは大丈夫です」
ジネットも、あまり大きな声を出す方じゃないからな。
それに、この流れだと「なんて言うんだろう?」って変な期待かけられるのは目に見えてるし、回避するのが得策だ。
「ヤシロさんは、叫ばれますか?」
自分は回避したジネットが俺にキラーパスを寄越してくる。
なので、こんな言葉で回避しておく。
「だって、叫んだら懺悔させるだろ?」
「むぅ。変なことは叫んじゃダメですよ!」
素直に感謝や感動の気持ちを表明するには、俺はいささか大人になり過ぎちまったんでな。
「ヤシロ~!」
パウラの声が聞こえ、振り返るとナタリアたち一団がこちらへ向かってきていた。
手に紙の束を持っているところから考えて、セリフの改稿でもしたのだろう。
大まかなストーリーは伝わっているはずだし、そこから逸脱し過ぎたものでもなければ多少のアレンジは大目に見るつもりだ。
ただ、あまりに長くなり過ぎるようでは困るけどな。
「みんなで話してね、結構いい感じにまとまったと思うんだけど」
「ヤシロ、チェックしてみて。それで、もしどこか変なところがあったら遠慮なく指摘してね。私たちの気持ちとか考慮しなくていいから」
「そうさね。アタシらが一番望んでいるのは、桃太郎の素晴らしさを見る者へ正確に伝えられること、なんさよ」
ノーマも参加したのか。
「んじゃ、見せてくれるか?」
「こちらです。みなさんの意見を書き出し、修正して、清書したものになります」
「じゃあ、拝見」
割と厚みのあるテキストの束を受け取る。
どれどれ……
――その者は、自身の中に流れる鬼の血に苦しんでいた。
世を儚み、その身を滅しようと思った時、一人の女性と出会い、そして恋に落ちた。
これは、そんな男が辿った数奇な運命である。
……うん。
この流れ、たぶんだけど、ジジイの中に鬼の血、流れてるよね?
気を取り直して、先を読み進める。
読み……
進め…………
「……って、おい!? キジ死んじゃったけど!?」
「そうなの! でもね、この別れが桃太郎を本当の勇者に覚醒させるの!」
「最期のシーンがまた泣けるんだよ!」
「男と男の熱い友情が、無情なる死を一層美しく彩っているんさね!」
ま、まぁ、若干盛り上がり過ぎて、変な方向に向かったんだろうが……
「あのさ、気のせいかもしれないけど……ラスボス、お婆さんになってない?」
「そうなの! 実は、最初の出会いからすべて仕組まれていたことなの!」
「そしてお爺さんはショックを受けるの。『何十年も共に暮らした日々は、愛を囁き合ったアノ夜は、すべて嘘だったのか!?』って!」
「けどね、すべてが偽りだったはずなのに、お婆さんの頬には熱い涙が流れるんさよ!」
「そう! お婆さんは、知らないうちにお爺さんを愛してしまっていたの! 心の底から!」
「憎むべき仇だった鬼の血を引くお爺さん……だけど、本気で愛したたった一人の男性……その狭間でお婆さんは苦悩するの!」
「そして、感動のラストシーン! グランドフィナーレさよ!」
「よし、没!」
「「「えぇー!?」」」
桃太郎の存在、完全にかき消えてんじゃねぇか!?
ジジイとババアの時を超えたラブストーリーとか、誰得なんだっつーの!?
「あと、この展開だとキジの死が埋もれちゃうね!? キジ、犬死にだね! キジなのにね!?」
真の勇者に覚醒した桃太郎、ラストシーンのジジババラブストーリーの間、ず~っと傍観者だしね!
じゃあ居んなよ! 見切れるな! 邪魔になるから!
「もう、全部俺が書く」
「待って待って! せめてイヌ人族の『生きろ、そなたは美しい!』だけは残して!」
「それだったら、キジの遺言の、『あぁ……腹ぁ、減ったなぁ』は残そう! ね! ここ、意思を受け継ぐ大切なシーンだから!」
「待つさね! だったらお爺さんのラストシーン、『お前の頬に刻まれているのが、俺が世界でただ一つ愛した笑いジワだ』こそが演劇史に遺すべき名文句じゃないかぃね!?」
「残念だが、最初に変なところは遠慮なく切っていいと言われたんでな」
「「「えぇ~、意地悪ぅ~!」」さね!」
なんかもうさ、お前らはゼロからオリジナルを作ればいいと思うぞ。
「桃太郎が普及した後で、アナザーストーリーとして作ってみたらどうだ? 似た感性を持ってるヤツには刺さるんじゃないか?」
「そうね! あたし、ネフェリーの発想、割と好きだし」
「私も! パウラの意見はすんなり理解できるの!」
「まぁ、二人のやりたい方向性は理解できるからねぇ。これからもっと勉強すりゃあ、いつかきっと名作が生み出せるはずさね!」
「うん!」
「やってみよう!」
とりあえず、ミリィがここにいない理由が分かった。
このテンションについていけなかったんだろうなぁ……
二次創作のスメルがぷんぷんするっつーの。
「あの、どうしてサル人族さんと桃太郎さんはことあるごとに抱擁されているのでしょうか?」
「あ、その辺はレジーナが追加したんだけど……ん~……なんというか、削除する正当な理由がない、っていう感じ?」
「マーシャー! 防腐剤ー! 大至急ぅう!」
ヤバイヤバイ!
レジーナの腐敗がパウラやネフェリーに感染しかけている!
よく見れば桃太郎の服、しょっちゅう上半身破れとるなぁ!?
『ここで頬にキズ、流血! マスト!』って丸でぐるぐる囲われてる一文、無視して読み進めたけど……マストじゃねぇよ。
いないよね?
この街には、少年誌に少年以上に熱中しちゃう大きいお姉さんとか、いないよね!?
「こちらのお話も、ハラハラドキドキですごいとは思いますけれど、わたしは最初の桃太郎さんが好きかもしれません」
「……初めて見るなら、ヤシロの原作が分かりやすい」
「そうですね。これは、原作ありきで、原作を知っている人が見ると楽しめるかもしれないという作りになっちゃってるです」
「……くっ。確かに、言われてみればその通りさね」
「ホントだね。ちょっと内輪で盛り上がり過ぎちゃったかもね、私たち」
「そうだね……ジネットとマグダの言う通りね」
「なんであたしだけ省いたですか、パウラさん!? あたしの意見がぶっすーって胸に突き刺さったはずですよ!?」
「うっさい、ロレッタ!」
まぁ、二次創作は好きにすればいい。
「ナタリアとギルベルタは、何か提案したのか?」
「特に変わったものは……強いて言えば、桃太郎を暗殺の達人ということにしました」
「おい、正義の主人公」
主人公が暗殺者って……ガキにはハードルが高ぇよ。
「私は変えた、鬼のセリフを、少し」
「どこだ?」
「ここ」
ギルベルタが該当ページを示す。
そこには――
「がおー! 子供とお年寄り、女性以外は容赦しないぞー!」
わぁ、男だけ狙い撃ち☆
「自信がある、鬼は。だから受けて立つ、桃太郎の挑戦を、正々堂々」
「そして桃太郎は、その鬼を背後からさっくりと暗殺します」
「おいこら、主人公!?」
完全に悪者ムーブだな!?
悪党が過ぎるぞ、桃太郎!
「その辺も元に戻すぞ」
「はい。私は桃太郎さえ演じさせていただければ」
「エステラがやりたいって言ったら、どうする?」
「大丈夫です。この辺なら、まだ泳いで帰ることは可能でしょう」
「突き落とそうとしてんじゃねぇよ……」
やりゃあいいよ、桃太郎役。
好きなだけ。
「じゃあ、海も見たし、ちょっと部屋に戻って修正してくるよ」
「お手伝いできることはありますか?」
「じゃあ、脚本の作成を手伝ってくれるか? 人数分用意するとなるとちょっとキツい」
「畏まりました」
「手伝う、私も、友達のヤシロを」
文章をちょっと修正したら、ナタリアとギルベルタに書き写してもらってる間に俺は絵を何枚か追加するか。
まぁ、さほど時間もかからんだろう。
「じゃあ、三十五区へ着く前に練習して、人に見せられるレベルになってもらうぞ」
「うん! そこは任せて!」
「私、そういうの結構好きだから!」
「アタシも、参加してやるさね」
「お兄ちゃん! あたしたち陽だまり亭ガールズもお手伝いするですよ!」
「ん。そのもっさい呼び名は絶対採用しないけど、お前らには別の仕事を頼みたい」
「なんでです!? 可愛くないですか、陽だまり亭ガールズ!?」
カッコいいとかカッコよくないとかじゃなく、もっさいんだよ。
「わたしたちはお芝居以外でお手伝い、ということですか?」
「あぁ。悪いがお前らには裏方をやってもらいたい」
「悪いだなんて。なんでも言ってくださいね」
「じゃあ、ビキニを着て――」
「なんでも言ってくださいとは言いましたが、なんでもするとは言ってませんよ」
「それさっき聞いた!」
「なら、そんな何度も同じこと言わなきゃいいのに」
ネフェリーが呆れた顔でため息を漏らす。
くぅ、お前がジネットに余計な知恵を与えたんだな、ネフェリー!?
俺のビキニを……ビキニカーニバルをぅぉぅおう!?
「時間があれば、厨房を使って飴を作らせてもらって、それを、観客のガキどもに配る仕事をしてほしいんだ」
「紙芝居を見ながらおやつを食べるんですか? ますますハロウィンのようですね」
お菓子、イラスト、お話。……確かにハロウィンだな。
まさか、紙芝居でハロウィンを連想されるとは。
この街だけで起こる現象だろうな、きっと。
「飴を作るのでしたら、ミリィさんに協力してもらいましょう」
「あぁ。だから、ジネットたちは練習している時間がないと思う」
「そうですね。では、朗読はみなさんにお任せしますね」
……ということにして、ジネットをキャストから外しておこう。
ジネットの演技は、酷いからなぁ……
貴族に見せて納得させなきゃいけないわけで……不安要素は出来る限り隠しておかないと、な。
散々な改変がなされた桃太郎の紙芝居を持って、自室へと向かう。
お供はナタリアとギルベルタのみ。
部屋にこもって修正をして、終わったら食堂で説明を――
「あっ、ヤシロさん! ちょっと枠のサイズと使用感を試してみてほしいッス」
「拙者、木枠が映えるように少々彫刻を施したいでござる! 釣り中のイメルダ氏と相談してデザインもこれこの通り決まっているでござる故、確認をお願いしたいでござる」
「ねぇヤシロ。セリフの練習に付き合ってよ。あたしたちだけじゃ、うまく出来てるか分かんないからさ」
「気になるところを指摘してくれると嬉しいな。ね、お願い」
「ぁの、ね、てんとうむしさん。手が空いたらで、ぃいんだけど、ね、飴ってどんなのを作ったらいいか、相談させてほしぃ、な」
「ヤシロさん、そろそろお昼の準備をしようかと思うのですが、タイの炊き込みご飯の作り方を――」
「あぁ、もう分かった! 食堂でやるから、全員ついてこい!」
ものっすごい詰めかけてきた!?
二人部屋を一人で使っているとはいえ、さすがにこんだけ来られると狭いわ!
「あ、それならさ~、ヤシロ君。スイートルーム、使ってみたら?」
鉄格子がはめられて侵入できないはずの俺の寝室のプールから、マーシャが顔を出す。
おい、こら。鉄格子、外せんじゃねぇかよ。
う~っわ、手首になんかカギぶら下げてるわぁ~。
銭湯のロッカーキーみたいな感じになってるわぁ~。
「スイートルームは、貴族様の御利用を想定して作らせていただいたから、執務机も完備させていただいてもらってるしね~☆」
うん。
とりあえず、マーシャが人間の貴族を敬っていないことがよく分かった。
寒々しいんだよ、敬い方が。
「ハビエルは?」
「デリアさんと海釣りをしてたですよ」
「イメルダのそばにいたかったのか」
ハビエルとスイートを見に行くって約束だったからなぁ。
一応声掛けてみるか。
「ヤシロ、見てくれ! 鮭じゃないデカい魚が釣れた!」
人でごった返す俺の寝室にデリアが飛び込んでくる。
括りがデカいよ。
鮭か、鮭以外かって?
大物だな、鮭。
「ん? それはクロダイだな」
「あ、やっぱそうか。前にマーシャが美味いって言ってたヤツに似てたから持ってきたんだ。お昼、これ使うだろ?」
「お昼のタイは一応用意させたけど……折角デリアちゃんが釣り上げてくれたんだし、それも使っちゃおうか☆」
「よし! 店長、頼めるか?」
「はい。美味しく料理しますね」
クロダイかぁ。
……刺身で食いたいなぁ。炊き込み用のタイがすでにあるならさ。
「刺身、煮つけ、ムニエル……美味そうだなぁ、クロダイ」
「ヤ、ヤシロさん! どうしましょう、どう料理するか、楽しみ過ぎて決まりません!」
「ルシアとハビエルは酒飲むかな?」
「飲むぞー!」
「マーたんが三十三区の清酒を用意してくれておるからな」
どこで話を聞いていたのか、いいタイミングでハビエルとルシアが入ってくる。
三十五区到着は明日だから、盛大に酒盛りすればいいだろう。
「じゃあ、全部やっちまうか」
「はい! ……ふふ、シスターに話したら、きっと羨ましがりますね」
「じゃあ、デリアに頼んでいっぱい釣ってもらえ。そうしたら土産に持って帰れる」
「おう、任しとけ! なんかコツ掴んだんだ、あたい!」
「イメルダは?」
「それがよぉ、釣りにハマったみたいでな。……くくっ、ワシやクマの嬢ちゃんがバカスカ釣り上げるから、意地になってんだよ。可愛いよなぁ、ワシの娘!」
じゃあ、釣りはこの三人に任せておくか。
「釣った魚はどうしてんだ?」
「プールを一つ使って、生け簀代わりにしてるんだよ☆」
「じゃあ、あとでジネットはその生け簀で釣りをさせてもらうといい。川でやった時よりいっぱい釣れるぞ」
「釣り堀、というヤツですね。では、後程挑戦してみます」
生け簀なら、大物に引き摺り込まれる心配もないだろう。
……この世界の海、とんでもないのが潜んでそうで怖いからなぁ。
「たま~に人魚が釣れちゃうけどね☆」
「生け簀に入ってんじゃねぇよ」
そういえば、こいつは以前精霊神の祭りの時に人魚釣りで荒稼ぎしてたっけなぁ。
ジネットたちは自分の仕事に忙しくてアレを見てないんだろうなぁ。見てればよかったのに。で、マーシャと釣り客に懺悔させてやればよかったのに。
「マーシャは前から釣り堀を知ってんだな」
「うん☆ 海漁ギルドでは、前からこういう釣り堀があるんだよ。若い娘たちに道具の使い方を教えるためにね。人魚って、水掻きがあるから道具の扱いが下手なんだよねぇ。でも、一応使えなきゃダメだからさ☆」
確かに、人魚は道具の手入れが苦手で、海藻だらけの網の修繕を外注してんだよな。
ハムっ子年少組のいい小遣い稼ぎになっている。
言われてみれば、網もあっちこっち穴だらけにしてるな。
「結局、手で捕まえるのが一番楽なんだけどね☆」
そーゆー発想だから道具の扱いがうまくならないんだよ。
「釣り堀、デリアに教えてやらなかったんだな」
「だって、聞かれなかったし☆」
確かに、聞かれもしないのにわざわざ教えるようなもんでもないか。
デリアが釣りをするなら川でやるって分かりきってることだし。
「それにな、ヤシロ。新人の教育方法とか、組織の生み出した技術とか、普通はそうそう他人に教えないものなんだぞ。ワシら木こりギルドも、組織としての知識は外部に漏らさないようにしているからな。お前みたいに気前のいい大物はそうそういないってことだ、がはは!」
「うっせぇ」
俺が大盤振る舞いしてんじゃなくて、お前らが根掘り葉掘り聞いてくるんだろうが。
「別に大盤振る舞いしてるわけじゃねぇよ。広めた方が、後々俺にとって有利になると判断したからこそ、俺はだな――」
「ヤシロよぉ、『言い訳してる顔』になってるぞ」
「うふふ。照れてるようでとても可愛いですよね」
うるさいよ、ハビエル。にやにやすんな。
あと、ジネットは余計なこと言わんでよろしい。照れてないから。
「ハビエル。このあとスイートに行くんだが、お前も付き合うか?」
「そういや、約束してたな。んじゃ、ワシもちょっくら付き合うか。なぁに、まだまだ一日は長い。釣りはその後でも十分楽しめる」
「おっちゃん、酒飲みながらやってるから、全然見てないんだぞ! ヤシロからも言ってやれよ~、浮きをもっとちゃんと見てろって!」
どうやらハビエルは、すでに酒が入っているようだ。
そうなると、釣れようが釣れまいがどうでもいいんだよ。
糸を垂らして外で酒を飲む。それが目的なんだから。
「それでも、イメルダよりは釣ってるけどさ」
「がはは! 才能だな、きっと」
その身一つで木こりギルドのギルド長に上り詰めた男は、やっぱり野生の勘的な第六感が優れているのだろう。
頑張れ二世。
とはいえ、イメルダには、ハビエルみたいな人間の領域を逸脱した存在にはなってほしくないけどな。
というわけで、画材道具と工具一式を持って部屋を移動する。
「ベッコ、彫刻刀は持ってきてるのか?」
「愛用のノミを持ってきているでござる! 彫刻家の誇りでござるからな」
「ベッコでさえこうだというのに、ウーマロときたら……」
「やはは……オイラ、今日は仕事を忘れて遊ぶ気満々だったッスから」
「作りかけの家の一つでも持ってこいよ」
「それやってたら、確実に大迷惑だったッスよね!?」
まぁ、港で追い返してたかな。
「船、沈むわ!」って。
「ミリィとジネットには先にレシピを渡しておくな。そこから、好きなように改良してみてくれ」
「はい。……炊き込みご飯、楽しみです」
「みりぃ、工場以外で飴作るの、ちょっと久しぶり……ふふ、楽しみ、かも」
紙芝居で販売する飴と言えば、安価な水飴だったのだろうが、こっちはもうちょっと見栄えを重視してみる。
「飴を練って、こう、くるくる巻いてみてくれるか?」
「わぁ、かゎぃい」
ぺろぺろキャンディとか、ぺろちゃんキャンディと呼ばれる、渦巻き状の平べったい飴を作ってもらう。
食紅でカラフルにして、見た目重視、味は二の次! ……いや、まぁ、普通に甘くて美味いんだが、カラフルなくせに味は一緒っていうがっかり感がなんともなぁ……
「ぁ、でも、食紅なんて、ある、かな?」
「ん~、この船にはないかもね~☆」
「だったら、この船のどっかにレジーナが生えてるはずだから、探しだしてもらってきてくれ」
あいつは、万端過ぎるほど備えをしているタイプだからな。
きっと、船上で何か料理に使うもしれないと、いろいろ持ってきてくれていることだろう。
「あぁ、アレがないからソレが出来ない」っていう状況が嫌いなヤツだしな。
「てんとうむしさん。生えてるって……レジーナさん、キノコじゃないょぅ?」
「いやいや。なるべく暗くてジメジメしたところを探してみ? きっとそこにいるから」
ミリィは知らないかもしれないが、あいつは菌類だ。
それも、かなり頑固で根強いヤツだな。
「そういや、エステラは?」
「イメルダと張り合って釣りを始めたぞ。なんでも、勝った方が奥のベッドを使えるらしいぜ」
わははと、ハビエルが娘とその友人の状況を教えてくれる。
すっかり仲良しだな、あいつらも。数少ない貴族友達だし。
「予言しておこう。エステラは、勝負に負けたら自室に帰らずスイートルームで寝る」
「あり得そうさね」
「エステラって、負けず嫌いなのに意固地なところあるしね」
ノーマとパウラは苦笑いだ。
そのくせ、ここ一番で負けるからなぁ、あいつは。
で、勝った方が気を利かせて譲ろうとしても「いいもん!」って突っぱねるんだ。
ははっ、パウラの言うとおりだ。
「でも、そういうエステラっぽいところ、私は好きだなぁ」
「それがエステラだもんね」
「なら、スイートルームではせいぜい甘やかしてやりゃあいいさね」
「「賛成」」
くすくすと笑って、女子たちがエステラを慰める算段を立てる。
よかったなぁ、エステラ。
お前、確実に負けると信じられてるぞ。
「イメルダさんが負けた時はイメルダさんを甘やかしてあげましょうね」
「あぁ、大丈夫だよ、ジネット。ね、パウラ?」
「そうそう。イメルダは、こういう時は絶対勝つから」
「エステラと張り合った時のイメルダは、通常の三倍くらい強くなるんさよねぇ、なんでかさ」
みんな、よくご存じで。
俺もそうなると思うよ。
「んじゃあ、あたいはイメルダたちんとこ戻って釣りしてくるな!」
意気揚々と出ていくデリア。
その後ろ姿を見て、パウラたちはもう一つの結末を予測する。
「デリアが規格外の強さを見せつけて、エステラとイメルダがそろってやる気なくすのに一票」
「あぁ、それが一番ありそうかもね」
「デリアは配慮とか空気を読むってこと知らないからねぇ。……なら、アタシもパウラの意見に一票入れるさね」
こりゃ、スイートルームで慰めるのは二人ともになりそうだな。
まぁ、がんばれ、同室の女子たち。
あとがき
最近、食が細くなりつつある宮地です。
なんだか、夕飯の量が減っております。
宮地「先生、私、死ぬんでしょうか……」
医師「おやつをやめなさい」
宮地「私に死ねというんですか!?」
医師「死なないために、お菓子をやめてちゃんとした料理を食べろと言ってるんです!」
宮地「でも、ピザ・ポテトですよ!? ピザもポテトも健康食でしょうが!」
医師「ピザもポテトも健康食ではないですよ!」
宮地「黙れ小僧! ピザは主食だぞ!?」
医師「主食を名乗っていいのは、カレーに合うヤツ限定です!」
宮地「……カレーまんも?」
医師「もう主食でいいです!」
というわけで、おやつをやめてカレーまんを食べることにしました。
ちなみに、わさビーフはお肉なのでお菓子ではなくおかずのカテゴリーでいいですよね?
あれでなら、ご飯も食べられそうです!
というわけで、前回お話した初心者でも漫才にしやすい設定でご機嫌を伺ったわけですが……
医者と患者って、前回言ってない!?
Σ(゜Д゜;)
こんなに初心者向けの設定、そうそうないぞってくらい作りやすいのに!
本編の方でも、桃太郎が魔改造されておりました。
元ネタが知れ渡っていて、
ちょこっと改変すると面白い
そういうのが漫才になりやすいんですね~
あと、流行モノとは違って風化しにくいのもいいですね
きっともうそろそろ、
アクセルホッパーをパロっても、伝わらない世代が台頭してきていることでしょう……間違いないっ!(あ、この決めセリフは違う芸人さんだ!?)
さて、前回のあとがきと同じ日に今回のあとがきを書いておるわけですが、
きっと
「ショートコント、おっぱい」が見たかった!
というご意見を山のようにいただいていることでしょう。
もう、私くらいになると分かるのです、そーゆーことが! えっへん!
というわけで、
ショートコント・おっぱい
\(*´▽`*)/
ヤシロ「お~い、エステラ~! あっちにおっぱい落ちてたぞ」
エステラ「落ちてないよ!? 落ちてるわけないよね!?」
ヤシロ「あれ? お前、どこで落としてきたんだよ!?」
エステラ「だからおっぱいは落ちないから!」
ヤシロ「堕ちた天使が堕天使なら、堕ちたおっぱいは堕おっぱい……」
エステラ「堕ちないし落ちない!」
ヤシロ「そしてこのコントはオチがない!」
エステラ「もういいよ!」
おぉっ!?
割と短めにまとまりましたね!
やれば出来るもんです。
なせばなる!
というわけで、続きまして――
ショートコント・お巡りさん
\(*´▽`*)/
ヤシロ「お巡りさん(エステラ)! 落ちてたおっぱいを拾いました」
エステラ「おっぱいは落ちないし、さっきとまったく一緒じゃないか!?」
とまぁ、こーゆー天丼的なこともやりつつ、
たまにこーゆーのが書きたくなるんですよねぇ~
なんでしょう?
病気なんでしょうか?
関西生まれの呪い、とか?
私の故郷、京都でもこの呪い、結構かかってる人多いですからね
大阪、兵庫辺りは、きっと酷いことになっているのでしょう
二十代の最初の方、ちょこっとだけ大阪に住んでいたんですけど
店のおばちゃん「はい、おつり~、三百万円」
宮地「……三百円やん」
店のおばちゃん「いやっ、おもんな!? 返し、おもんな!?」
いや、返しの前に、ネタふりがおもんないっすよ!?
たぶんそのボケは、触るモノ皆、傷付けますよ!?
ギザギザハートもいいとこですよ!?
なんでしょう、あそこは……修羅の国ですか?
冬場に、道路がちょっと凍結してたんでしょうね
自転車に乗ってた女子高生が滑って転倒したんですよ
目の前で転んだから、私は慌てちゃって「大丈夫ですか!?」って声をかけたんです
そしたらその女子高生
女子高生「アカン! 今ので昨日覚えた英単語、みんな零れてもたわ!?」
そこらのおっちゃんたち「そらエライこっちゃやな!」
そこらの兄ちゃん「あ、こっちに『ドッグ』落ちてたわ」
そこらの店員「こっちは『バーゲン』落ちてましたわ」
そこらの八百屋さん「ほいよ、『トメィトゥ』」
一同「「「どっ!(笑)」」」
いや、仲良しか!?
Σ(゜Д゜;)
女子高生を心配して集まってきた人たち、
一応辺りを探し回るジェスチャーしてましたからね!?
義務教育か何かで習うんですか!?
まぁ、女子高生が無事そうでよかったですけども。
あ、これ、
日本一長い商店街のそばでの出来事です。
で、この話をバイト先の大阪女性に話したところ、
「あぁ、それは照れ隠しやね!」
だそうです。
曰く、
大阪女子「そんな派手に転んだら恥ずかしいやん? でもそこでな、『いや、コケてもた、めっちゃ恥ずかし~!』とか言うたら『はぁ!? なにかわい子ぶっとんねん!?』ってなるやん?」
宮地「……なるかな?」
大阪女子「なるねん! せやから、ちょっと小粋なボケでもかまして笑いに変えたったら、恥ずかしさもなくなるやん」
大阪女子たち「「「「分かるわぁ~」」」」
宮地「分かるんだ!?」
だ、そうですよ。
なので、大阪で誰かが急にボケ始めたら、
とりあえずノッてあげてください。
それで救われる人が、いるのですから。
あ、ちなみに東京でこういうことすると
通行人「お……おぉぅ……(ヤバ、関わらないでおこう)」
みたいなことになるので、ご注意を!
あぁ、今回は本編でみんなが海を見ていたから
初めて見た海の話をしようと思っていたのにぃ~!
(>へ<;)
ま、大した話じゃないのでよしとしましょう。
「初めて見た海は瀬戸内海だったな~」みたいな、大して面白くもない話ですよ
オチもないし、小賢しい天丼を仕込んで強引に小さい笑いを一個二個作るのが関の山だったことでしょう。
うん、見送って正解…………はっ!?
オチや小ボケがないと話は成立しないって思っちゃうのも
関西の呪いでしょうか!?
Σ(゜Д゜;)
この前、オフラインの知人に
「普段のおしゃべりに、オチとか、いらないんだよ?」
って、優し目に指摘されましたっけ!?
オチがないお話して、皆様、不安にならないんでしょうか?
ちょっとその辺、お話を伺ってきましょうかね――いい話のオチが、思いついたら。
次回もよろしくお願いいたします。
宮地拓海




