報労記1話 ヤシロの思案
ウィシャートの脅威も去り、四十二区の港も完成し、それに関わるあれやこれやで四十二区や俺たち個人をちまちまねちねち攻撃してきていた小悪党どももすっきりさっぱりいなくなり、なんだかんだとあっという間にいつもの日常を取り戻した陽だまり亭。
その店内は、本日異様なまでの盛り上がりを見せている。
「「「カンパニュラちゃん、正式雇用おめでとう~!」」」
「大歓迎!」
「ウェルカム・トゥ・四十二区!」
「もう一生ここに居てくれていいからね!」
「ありがとうございます、皆様」
「ごちゅーもんは、おきまりれしゅか!」
「「「ご祝儀懐石で!」」」
「ありがとうございます」
「ひままり亭かいしぇき、みっちゅー!」
懐石が、飛ぶように売れる。
なんかもう、嬉しいことがあると懐石。
おめでたいことがあると懐石。
応援の気持ちを込めて懐石。――という習慣が出来つつあるな。
二番目に高い『陽だまり亭御膳』の影が薄い薄い。
まぁ、御膳は懐石をより高級に見せるための『引き立て役』だからしょうがないんだけれども。
しかし、こうも『陽だまり亭懐石~彩り~』が出るようになると、そろそろもうワンランク上の強者を投入しなければいけない気がしてくる。
ほら、今までの最強が手も足も出ないような『超最強』ってヤツ? 燃えるじゃん?
でも懐石を超えるとなると……陽だまり亭フルコース? それとも陽だまり亭満漢全席?
いやいや、おフランスや中華に和食が劣っているなんて、そんなことは決してない!
高級フランス料理店と高級中華料理店、そして高級料亭だったら、たぶん料亭が一番入りにくい!
ま、個人の感想だけど。
そういう高級感や特別感が大好きなお偉い『先生』様方の懐に潜り込む際にはよく活用したっけなぁ。
あの連中、面白いように踊ってくれて、おかげでいろいろと裏で暗躍……まぁいいじゃないか、過去のことは。
それよりも今だよ、今!
「陽だまり亭懐石、お先四名様、お待たせしたです!」
「……次の二名様は間もなく」
陽だまり亭懐石が飛ぶように売れる。
そんな中、もうワングレード上の料理があったら?
「それを頼んじゃう俺、どう?」みたいなドヤ顔をさらせるのだとしたら?
あの連中バカだから、きっとほいほい注文してくれるぞ。
とはいえ、御膳よりも手間のかかる懐石の上となると、どんだけ手間かけなきゃイケないんだってことになって、結局これまで実装できてないんだよな。
……いっそのこと、ただの卵かけご飯を『究極のTKG』とかなんとか言って、「え、たったこれだけなのにそんなに高いの!? ……一体、どれだけ高級な食材を使ってるんだ……ごくり」みたいな路線でうまいこと騙くらかしてやろうか? 引っかかりそうなんだよなぁ、あの辺のヤツら。バカだから。
「聞いたよ、カンパニュラちゃん! 陽だまり亭、正式採用だって!?」
「はい。昨日より、正規従業員にしていただきました。本日が初出勤です」
「おめでとう! よ~し、今日は奮発して、陽だまり亭懐石頼んじゃう!」
「俺も!」
「ありがとうございます」
「ひままり亭かいしぇき、ふたちゅ~!」
カンパニュラ目当てに店へやって来る連中、みんなが懐石を頼む。
まったく、ジネットの読み通りだ。
おそらくこういう事態になるだろうからと、ジネットは今朝も早くから懐石の下拵えをしてたんだよな。
おかげで、俺まで厨房に駆り出されることはなく、ジネットとマグダとロレッタとノーマでなんとか回っている。
……うん、手伝いに来てくれてるんだ。ノーマ。
あと、デリアもな。
「焼き鮭定食食えよ」
いいんだよ、懐石で!
そっちの方が高いんだから!
鮭が全然出ないからって拗ねるなよ、デリア。
あらかじめ「たぶん今日はこうなるぞ」って教えておいただろうが。
「では、私のまかないは焼き鮭にしてもらいますね、デリア姉様」
「お、じゃああたいも一緒に食うよ。あたいが焼いてやるからな」
「それは美味しそうです」
「あーしも、ごぃっしょ、しゅゆー!」
「おう、いいぞ、テレサも一緒に鮭食おうな~」
と、フロア組三人が楽しそうに笑い合う様を眺めて懐石を掻き込む大工たちオッサンども。
別料金払え。
本日はカンパニュラが正規従業員になって初めての出勤日。
一昨日まで続いた狂乱のイベントや、翌日敢行された素敵やんアベニュー練り歩きからデリアの家へのお泊まり強行軍の疲れなど微塵も見せない女子たちの体力に脱帽だ。
俺は、若干体がだるい。
動き過ぎだな。
まぁ、厨房もフロアも回っているので、俺はいつもの席で座って考え事をしていてもいいだろう。
ジネットもマグダも厨房だしな。
特にこだわって決めたというわけではないのだが、陽だまり亭ではジネット・俺・マグダの誰かが厨房もしくはフロア全体の監視役となるように人員配置されるようになっている。
ジネットと俺が厨房に籠もればマグダがフロアを見て、今日みたいにマグダが厨房に入る時は俺がフロアにいる。
俺とマグダが一緒に行動する時はジネットがフロアを見ていることもある。
マグダが出かけた時は、俺とジネットで厨房とフロアを見ている。
絶対ではないのだが、可能な限りは誰かがその場所全体を取り仕切る現場監督的ポジションにつくことが多い。
俺もジネットも、マグダに頼って任せることが多くなってきたな――と、昨日の夜飯を食いながら話してたんだよな。
……昨晩は、ちょっと、二人きりだったもんでな。
いや、それで意識し過ぎて寝不足でだるいわけじゃないぞ?
いやいや、マジでマジで。
ただまぁ、眠れない夜って、長いよね。
部屋も外も真っ暗だから、寝る以外にすることがないんだよなぁ。
ベッドの中でごろごろしながらだらだらとやるようなこともないし。
娯楽小説もほとんど出回ってないし、部屋で一人で時間つぶしをするものがほとんどない。
……裁縫? 疲れてるのに?
だったら金物細工の方が楽しいな。ただし、やり始めると確実に徹夜になるけれども。凝り過ぎるのは目に見えてるし。
そういうものではなく、もっとこう、単純に、遊びやゲームとして娯楽に特化したものがもっとあってもいいんじゃないか、と、そんなことを考えていたのだ。
何より、こっちが眠いのに俺以外の連中はみんな早朝から元気があり余ったようなフルパワーでやって来るのが腹立つ。
どうなってんだ、お前らのバイタリティ。
朝なんだから、もうちょっとだるそうにしてろよ。
月曜の朝のジャパニーズサラリーマンを見習え!
……いや、あれは見習っちゃいけないヤツだな。
あっちは、もうちょっと活き活きしろよ。こっちの連中の元気を半分くらい分けてやりたいよ。
とにかく!
こっちの連中の元気があり余り過ぎてるのは、夜に寝る以外にすることがないからだと思うんだ。
だから、俺はこう思ったわけだ――
「もっと夜遊びできる場所があればいいのに!」
「よし、ヤシロ。領主の館で申し開きと遺言を聞いてあげようじゃないか。ナタリア」
「はっ。しょっ引きます」
「待て、そこの早とちり主従」
突如現れて、俺を拘束するエステラとナタリア。
夜遊びって、バカ、そーゆーんじゃねーよ。
「頭の中桃色タイフーンか!?」
「それは君だろうに……。今度はどんなくだらないことを企んでいるんだい?」
「もしやヤシロ様は、今朝申請があった、女性従業員が上半身ビキニで麺の湯切りパフォーマンスを行う『揺れる☆豚骨亭』のお話をもう耳にされたのでは?」
「えっ、なにそのパラダイス!? どこのお店!?」
「当然却下の上、店主を厳重注意しておいたよ」
のぉぉおお!
めっちゃ興味深いお店だったのに!
「そういうのが徐々に増えてきた段階でノーパンしゃぶしゃぶを提案しようと思っていたのに……っ!」
「なるほど。そんな目論見をしてたのか。あらかじめ却下しておくのでそれ以上考えないように」
くそぉおお!
日本にあったヤツにも行ったことないのにっ!
大人になったら行こうと思っていたのにっ!
行政めっ!
「そういうくだらない計画なら、今すぐ白紙にするように」
「違ぇよ」
エロいのは大歓迎だが、この街にそーゆー店を増やすつもりはない。
そーゆーのは俺一人で楽しめれば十分だからだ。
――ではなくて。
「この街には娯楽が少ないと思ってな」
そんな俺の言葉を聞いて、エステラは目を丸くし、俺の顔をまじまじと見つめ、ゆっくり、はっきりとした声で尋ねてきた。
「一昨日まで十日間もぶっ続けでアトラクションとラーメンのお披露目イベントをやって、昨日丸一日素敵やんアベニューで遊び尽くして……まだ娯楽が足りないって?」
うっわ、めっちゃ「お前、バカなの?」みたいな目で見られてる。
そーじゃねぇーんだよ!
「常設の娯楽施設というか、もっと手軽にいつでもどこでも誰とでも出来るお手軽な遊びが少ないだろうって話だよ」
「…………いや?」
「私も、四十二区には割と遊ぶものは多いと思いますが?」
エステラもナタリアも、四十二区には娯楽が足りているという認識らしい。
「もしかしたら……」
大きな認識の隔たりがある俺とエステラたちの間に、カンパニュラがやって来る。
「ヤーくんがもたらしたイベントやアトラクションは、私たちには目新しく新鮮でとても満足いくものであるのですが、ヤーくんにとっては既知のものであるがために満足度というか、刺激が少なく感じているのかもしれませんね」
あぁ……言われてみれば、確かにそういうところはあるかな。
四十二区に新しく誕生したラーメンやビックリハウスなんかを、ここの連中は大はしゃぎで楽しんでいた。
だが、俺にとっては見たことのある――言ってしまえば日本で見ていたものよりも数段落ちる物足りないものだ。
だから、エステラたちが新しいものに出会って感じた感動や興奮とは温度差があるのかもしれない。
……だから次々持ち込んでしまうのか、俺?
うわ、指摘されて初めて気付いたかも。
「ですので、ヤーくんがやったことがなくて、私たちがよく知るものを紹介して差し上げるのはどうでしょうか?」
「ボクたちがよく知っていて、ヤシロが知らない、遊び? ……あるの、そんなの?」
「いや、俺に聞かれても知らねぇよ」
「俺、これとこれは知らないぞ」とか言えるわけねぇだろ。知らないんだから。
「我々給仕の間で流行っている遊びでよろしければ、ご紹介できますけれど」
ナタリアが控えめに手を上げる。
「楽しいかどうかは、保証しかねますが」と、消極的なセリフを添えて。
「どんな遊びなんだ?」
「エステラ様の下着の色当てクイズです」
「何してるの、給仕たち!?」
「分かった! 透明!」
「それは色じゃないよ、ヤシロ!」
「惜しい!」
「惜しくないよね、ナタリア!? そもそも持ってないし、そんなの!」
「じゃあ、黒い紐!」
「下着のカテゴリーを逸脱するな!」
「惜しい!」
「だから、全然惜しくないから!」
「じゃあ何色なんだよ!?」
「だから今日は――って、言うわけないだろう!?」
と、危うく言いかけたエステラがすんでのところで思い留まる。
フロアにいた大工や狩人が物凄い勢いでエステラの方を見たからな。そりゃ気付くっつの。
もうちょい平静を装ってろよなぁ。
「あの……そのような遊びではなく、もっと普通のものがいいのではないかと」
カンパニュラが物凄く困ったような顔で言う。
まったくナタリアは、困ったもんだよなぁ、俺でなく。
「誰か、健全な遊びを知っている人はいるかい?」
というエステラの問いかけに、フロアを埋め尽くすオッサンたちは一斉に目を逸らす。
知らんのかい。
「では、健全ではない遊びをご存じの方は?」
というナタリアの言葉に、フロアを埋め尽くすオッサンたちは口元を緩めて照れ笑いを浮かべる。
知っとんのんかい。
「まったく……君たちは……」
領民のあまりにがっかりな実情に領主が頭を抱える中、デリアが心持ちきらきらした顔で俺の前に立つ。
「じゃあさ、夜釣りはどうだ?」
「夜釣り?」
「あぁ。昼間と違って川の音がさ、こう、澄んでてさ、釣り針を垂らしてるだけでなんか楽しいんだぞ」
というデリアの物凄くピュアな回答に、フロアを埋め尽くすオッサンたちはなけなしの罪悪感を打ち抜かれおのれの穢れ切った心を恥じ始めた。
えぇい、鬱陶しい。悶えるな、オッサンども。
「そういや、前に約束してたよな」
「覚えててくれたのか?」
デリアとは、今度夜釣りをしようと約束をしていた。
あれは、いつのことだっけな……
まぁ、俺が思っていた娯楽とは少し異なるが――
「じゃあ、今度一緒にやるか」
「うん!」
すごく嬉しそうにデリアが頷き、心の穢れたオッサンたちがその無垢な輝きに当てられて浄化、成仏させられそうになっていた。
成仏、すればよかったのに。
「んじゃ、いつにするか」
「あたいはいつでもいいぞ。今日でもいいし」
今日か……昨日、素敵やんアベニューを歩き倒したばっかりなんだが……
しかし、前も予定を決めなかったせいで今日まで先延ばしになったんだよな。
予定立てないと、デリアが遠慮しちまうかもしれないな。
デリアは「あの約束どうなった?」って催促を滅多にしてこないから。
甘い物以外では。
で、こっちが覚えてると「覚えててくれたのか!?」って、すっごい嬉しそうな顔するんだよなぁ。
言えばいいのに、「あの約束、早く履行しろ」って。言わないんだよなぁ。
「じゃあ、今夜行くか?」
「やったぁ!」
「待ってデリア!」
喜ぶデリアの肩に、エステラが手を乗せる。
「二人だと危険じゃないかな?」
「大丈夫だぞ。クマが出てもあたいがヤシロを守るから!」
「いや、そうじゃなくて、君が危険なんだよ」
「あの辺、そんなおっかない魔獣とか出ないぞ?」
「いや、魔獣じゃなくて、ヤシロが……」
「ヤシロはあの辺に住んでないぞ?」
「いや、だから…………ヤシロ、君から説明してあげて」
「お断りだよ」
なんで「俺がお前を襲っちゃうかもしれないから、キ・ケ・ン、だゾ☆」なんて言わなきゃいけないんだよ。
つか、襲うか!
「念のためにボクが一緒に……いや、でも……前からの約束なんだよね? じゃあ、お邪魔するわけには……いや、でもノーパンしゃぶしゃぶとか言う男と二人きりとか……もう! ヤシロがノーパンなのが悪い!」
「ちゃんと穿いとるわ」
ノーパンを連呼するな、この残念貴族。
「なんだ、エステラも一緒に夜釣りしたいのか?」
「え、いや、ボクは――」
「いいぞ。一緒に行こう! な、いいよな、ヤシロ?」
「俺は別に構わんが」
「やったな、エステラ。ヤシロもいいって!」
「えっと……」
デリアを心配しただけなのに、なんだか盛大に空振りしてしまったエステラ。
この状況、なんかエステラが必要以上にヤキモチ焼いて一人相撲してたみたいな感じになっちまったな。
「いや、大丈夫。ヤシロがデリアに酷いことするわけないし、二人で行っておいでよ」
「えぇ~! なんでだよぉ~、一緒に行こうよぉ~!」
遠慮したら逆に寂しがられるエステラの図。
まぁ、エステラの反応が一般的で、デリアの方が変わってるんだが、デリアの性格を考えればデリアの行動はなんらおかしくはない。
要するに、デリアはみんなで一緒に賑やかに楽しいことをするのが好きなのだ。
「エステラ」
「ヤシロ……」
エステラが困ったような顔でこちらを見る。
俺を危険人物扱いした点に関しては、ちょっと一言物申したくもあるが、まぁ、夜中に友人である女性が男と二人きり、人気のない河原で夜釣りをすると聞けば心配にもなるだろう。
だから、お前はそのまま心配してお節介を焼いてやればいい。
「俺がデリアに悪さをしないのと同じくらいに、――俺とデリアが二人きりでどうこうなるようなムードになるわけないだろう」
心配が空振りした今のエステラは、「どうしよう。二人のデートを邪魔しちゃった」という焦りでいっぱいなのだ。
もしかしたらデートだったのかもしれんが、俺とデリアが静かな川辺で二人肩を抱き合い「静かな夜だね」なんてロマンチックを醸し出すようなことはあり得ない。
「それに、デリアはお前とも夜釣りがしてみたいんだよ」
「おう! 教えてやるぞ、エステラ」
「ん~……じゃあ、教わろう、かな?」
と、ナタリアへ視線を向ける。
きっと仕事が残っているのだろう。
が、贖罪――っていうと大袈裟だが、勝手に空回ったことに対する罪滅ぼしくらいはしたいという表情だろう、あの顔は。
「いいのではありませんか。ただし、夜は冷えますので暴漢対策だけではなく、防寒対策もしっかりとしてくださいね」
わぉ、給仕長ギャグ。
で、なにかね、その「いかがです?」みたいなドヤ顔は。
俺の感想は「ナタリアの使ってる言語でも『暴漢』と『防寒』って同じ発音なのかなぁ~?」くらいだっつの。
「なぁなぁ、ナタリアはどうする?」
「私は、エステラ様に代わってしなければいけない仕事がありますので」
「……そっかぁ」
「…………デリアさん。その表情は『卑怯』というのですよ」
あからさまにがっかりした表情を見せるデリア。
丸い耳がぺったりと寝ている。
「……分かりました。夕方までに目処を付けてまいります」
「え? じゃあ、夜はヒマになるのか?」
「ヒマにしてきます。というわけですので、私はこれで失礼します」
エステラに頭を下げて、足早にナタリアがフロアを出て行く。
マジで、そこそこ仕事が溜まっていそうな感じだな。
「お前も戻るか?」
「そうだね。それじゃあ、陽だまり亭の閉店時間くらいに来ればいいかな?」
「その少し前だな。今日は陽だまり亭を早めに閉める」
言って、そばにいるカンパニュラの頭に手を乗せる。
「カンパニュラも行きたいだろ、デリア姉様との夜釣り」
「はい! お許しがいただけるのでしたら」
「もちろんいいぞ! あ、でもテレサは遅くなるとバルバラが心配するから、また今度な」
「あーし、おねーしゃとおとーしゃに、言って、くる!」
テレサがだっと駆け出し、厨房へと向かう。
「てんちょーしゃー!」
あ、抜ける前に店長の許可取りに行ったのか。
律儀だな。
「大所帯になるぞ、デリア」
「じゃあ、竿や仕掛けの準備が大変だな……どーすっかなぁ」
「ピークも過ぎたし、一度家に戻って準備してきてくれるか?」
「いいのか?」
「俺ら、全員竿とか何も持ってないしな」
「分かった。悪いな、カンパニュラ。今日はずっと一緒にウェイトレスする約束だったのに」
「いいえ。デリア姉様との楽しい予定が増えたのですから、私は嬉しいですよ」
「そっか。じゃ、準備が終わったら、また手伝いに来るから、カンパニュラをよろしくな、ヤシロ」
「おう。ルピナスにも言っといてくれ」
「分かったー!」
エプロンを外して、デリアがフロアを出て行く。
「それじゃ、ボクも一度戻るよ。夕暮れ時までに仕事を片付けてくる」
少し先行したナタリアが、エステラの仕事がスムーズに進むように手配しているだろう。
……はは。イベント明けで、ぼちぼち日常に戻ろうかって思ってたらまたイベントが入っちまったな。
「じゃ、フロアの人数が減ったから、気合い入れて接客するぞ」
「はい。ヤーくんがいれば百人力ですね」
そいつはどうか知らんがな。
「お兄ちゃん、懐石、三人前と、お次の二人前です」
「お、悪いな」
「それから、店長さんが今夜の詳細を聞いてきてほしいって言ってたです」
厨房までデリアの嬉しそうな声が聞こえていたらしい。
「とりあえず、温かい格好をしてこいって言っといてくれ」
「いや、詳細ですよ!? こっちはまだ何が行われるのか分かってないですから!」
「大丈夫大丈夫。温かい格好さえしてれば問題ないから」
「なんでちょっと不安を煽る言い方するですか!? 内容教えてです!」
「ロレッタ姉様。とりあえず、先にご注文のお品をお届け致しましょう」
「カニぱーにゃ、ちょっと面白がってないです? 若干お兄ちゃんの影響受け始めてないです? あたし、ちょっとその辺心配ですよ!」
「ほら、お早く」
「内容知ってるです、カニぱーにゃ? なら教えて――」
「お待たせしました~」
「カニぱーにゃがお兄ちゃんに感染してるです!?」
失敬この上もないな、お前は。
「ロレッタちゃん、こっち二人前~」
「はい、お待たせです。ところで、お兄ちゃんたちのお話聞いてたです? 知ってたら内容を――」
「「いやぁ、そいつは、俺たちの口からはちょっと……」」
「なんでみんなしてお兄ちゃん発症してるですか!?」
そうやってムキになるから面白がられてんだよ、お前は。
「店長さ~ん! 詳細が分からないです! ただ、温かい格好をしてこいって言われただけです!」
泣き言を漏らしながら厨房へ駆け込んでいったロレッタ。
厨房でジネットが笑っている顔が容易に思い浮かぶ。
「「「いやぁ~……やっぱ、ロレッタちゃん、いいなぁ」」」
どんなことにも常に全力のロレッタ。
そーゆーところが、大工たちオッサンの心を離さないんだろうなぁ、ロレッタは。
「ヤーくん。今日は早めに閉店なのですか?」
「あぁ。イベントが終わって昨日丸一日研究した飲食店が、新商品を一斉に売り出すはずだからな。今日からしばらく、客は目新しい方に奪われるって予想なんだ」
「なるほど。特に夜はお酒が飲めるお店にお客さんは集まりそうですね」
「そ。なので、陽だまり亭はしばらくのんびりと営業する予定だ。今日は、カンパニュラのお祝いで例外だな」
「うふふ。とても幸せな例外ですね」
ジネットの予想はそういうことになっている。
で、ジネットの予想は毎度毎度、そう大きくハズレはしない。
恐ろしいのが、「あと三日後から五日後にかけて、朝も夜もお客さんがほとんど来られないかもしれません」という昨夜のジネットの予言だ。
昨日一日研究した新メニューが今日お披露目され、それを食った者たちが職場や街で「アレ食ったか?」「え、お前アレまだ知らないの!?」と情報交換を行い「そんなに言うなら食ってみるか!」とそれぞれの店へ分散して、変わらずいつもの味を提供する陽だまり亭に来る客は極端に減るだろう――と、そういう予想なのだそうだ。
……ホント、当たりそうで怖いわ。
ま、新しいものを大量に持ち込んだ弊害だと思って諦めるか。
昨晩の話で三日後って言ってたから、客足が途絶えるのは明後日からか。
旅行でも行くかなぁ、この隙に。
とか思っていると、『暇な時間』をトラブルで埋め尽くしそうな面々が揃って陽だまり亭へとやって来た。
「やっほ~☆ ヤシロく~ん、ちょっとお願いがあるんだけど~☆」
「よしカタクチイワシ、マーたんのお願いに便乗して私の願いも叶えるのだ」
「こんにちわと挨拶する、私は、マーシャ様の水槽を押しながら」
ギルベルタに水槽を押してもらっているマーシャの隣で偉そうに胸を張るルシア。
よし、お前らまとめてみんな帰れ。
……なんか、面倒なことが転がり込んできそうな予感しかしねぇよ、その顔ぶれ。
昨日、早朝に押しかけてきて一緒に素敵やんアベニューへと赴いたルシア。
デリアの家に一泊して、今朝陽だまり亭でスダチおろしうどんをかっ喰らって帰っていったのでてっきり三十五区へと戻ったと思っていたのだが……なんでまだ四十二区にいるんだよ?
「お前、三十四区の領主と会う約束があるんじゃなかったのか?」
「大丈夫だ。会談はきちんと行われる」
用件を済ませて馬車を飛ばせば間に合うって?
お前な……ギリギリ間に合えばいいってもんじゃないだろうが。
「淑女なんだから、準備にいろいろと時間をかけろよな」
「無論そのつもりだ。たとえ相手があのダック・ボックであろうと、最低限の身だしなみは整えるし、そのためには相応の時間を要する」
だったらさっさと帰れよ。
「なので、イメルダ先生の家を貸してもらえるよう交渉してきた」
「はぁ?」
「そして、ダックをこちらに呼んでおいた」
「はぁ!?」
「四十二区の美味いものを食わせてやると書き添えたら最速達便で了承の返事が来たぞ」
フットワーク軽いなぁ、この街の貴族どもは!
「というわけで、カタクチイワシ、ダックが好む美味いものを頼むぞ」
「気安く使うんじゃねぇよ」
「なに、マーたんの願いとダックのエサは一度の労力で事足りる」
「いや、エサって、お前……」
隣区の領主への対応があんまりなルシアに嘆息していると、マーシャが嬉しそうに挙手をして話に割り込んできた。
「というわけで~、港のお寿司屋さんに行こ~☆」
「寿司?」
四十二区の港がつい先日開港し、そこには海産物を美味しくいただける飲食店や、港で働く者たちへ向けた雑貨を取り扱う商店などの店がいくつかオープンしている。
まぁ、寿司のレベルはまだまだだけどな。
……ん、まさか。
「握り寿司のレベルが低いから、俺に握らせようってのか?」
「それもなんだけど~、教えてあげてほしいんだよね~☆」
「いや、教えたじゃん」
「基礎を学んである程度経験した今だからこそ、教わって身になることがあると思うの☆」
まぁ、確かに、実際やってみて初めて見えてくることってのは多い。
やる前にあれこれ言われたとしても話の半分も理解できていないことがほとんどだが、やり始めてから同じことを聞くと「あ、なるほど、そういうことだったのか」と理解できることのなんと多いことか。
「ラーメンも一段落したし、そろそろお寿司に戻ってきてほしいなぁ~って☆」
戻るって……俺は別に寿司職人ではないんだが?
「今のお寿司はねぇ、ネタとシャリを別に食べた方が美味しいってレベルなんだよねぇ、なんでか」
「それは、お前が魚に対する妥協を出来ない性格だからだろう」
「うん、それもあるかも☆」
どんなに下手くそでも、それなりに食える味にはなっているはずだ。
かなり高い期待を寄せていない限りはな。
「それでな、カタクチイワシ」
「断る」
「まだ何も言っておらんだろうが!」
「お願いは一人一個まで!」
「では、こちらはギルベルタの願いだ」
「部下の名前を勝手に使ってやるなよ」
お一人様一個までの商品で乳飲み子まで引っ張り出してくる節約ママさんか、お前は。
「お願いしたい思う、私も。助けてほしい、友達のヤシロ。する、なんでも、私に出来ることならば」
「……え。そんな切羽詰まった感じなのか?」
ギルベルタが眉を曲げて俺を見つめてくる。
その瞳は真剣で、ルシアの持ち出すお願いというものが三十五区にとって必要なことなのだと物語っている。
「実はな……」
ルシアも表情を引き締め、空気をがらりと変えて言う。
「三十五区の港にも寿司屋を作りたいので、教えに来てほしいのだ」
「海漁ギルドに頼め!」
寿司職人育成は海漁ギルドに一任したんだよ!
店を出したきゃ海漁ギルドに教えを乞え。
一軒一軒俺が教えて回れるか!
「その海漁ギルドの職人のレベルが低いから、そなたに頼んでおるのではないか」
「四十二区の飲食ギルドの人間と海漁ギルドの人間で練習、研究、修行するって話だったろうが」
「でも、どうにもならなかったら教えてくれるって話でもあったよね~☆」
まぁ、行き詰まったら教えてやるつもりではいたけども。
「そんなにダメダメなのか?」
「うんうん☆ 残念ながら、現在は網焼きに惨敗してる状態だよ~」
網焼きは美味いからなぁ。
水揚げされたハマグリやサザエを網にのっけて七輪とかで焼いてさ、焼けたそばから掻っ食らって……うぉおお、食いてぇ!
「よし、網焼きを食いに行こう!」
「お寿司、だよ☆」
つってもなぁ、あれは一朝一夕でどうこうなるもんじゃないんだけどなぁ。
「実は、高い、期待値が、海漁ギルドの人魚たちの」
「寿司に対する期待度がか?」
「そう。仲良くなった、四十二区の港の開港イベントで」
「あのねあのね~☆」
深刻そうに語るギルベルタの言葉を、陽気な声でマーシャが引き継ぐ。
「今、海漁ギルドではちょっとした世代交代が起こっててね」
「世代交代はちょっとしたもんじゃないだろうが」
「トップの座は揺るぎないからね☆」
トップのマーシャは変わらないが、その下の方でちょっとごたごたしていたらしい。
現在進行形か?
「これまでは、昔ながらの慣習っていうか、ん~……ぶっちゃけ、陸の人間にあんまりいい印象を持っていなかった年嵩の人魚たちが幅を利かせてたんだけどね、その下の世代から優秀な子たちがどんどん育ってきて、ポジションをどんどん食っちゃってるの☆」
いつだったか聞いたっけなぁ。
マーシャが幼かったころは、人間を見下している人魚が幅を利かせて、人間と『取引をしてやっている』って態度を崩さず、交渉は人間を自分たちの船に呼びつけて、かなり高圧的にやってたって。
「その年嵩の人魚を、マーシャが追い落としていったのか?」
「まさかぁ~☆ ただちょっと、老体に鞭打って仕事させるのは気の毒かな~って、お休みをいっぱい取れるようにしてあげただけだよ☆」
ん~、追い出してるなぁ、これは。確実に
日本じゃパワハラだって騒がれる案件かもしれない。
が、どこの企業でもやってることだ。
自分の理想を貫くために、反対派を追い落とし自派の勢力を拡大させるなんてことは。
マーシャはずっと人間差別をする人魚を苦々しく思っていたようだしな。
陸に来るのはいっつも一人で、お忍びで、なのにこっちのわがままを結構聞いてくれて。
相当風当たりが強かったはずなのに、それをおくびにも見せないでな。
「ヤシロ君と四十二区のおかげなんだよ☆」
曰く、俺たちと協力していろいろと活動したおかげで、海漁ギルドの業績は爆上がりしているらしい。
海産物が以前の十倍近く売れるようになり、新規ルートの開拓によって商売の間口が広がった。
さらに、人魚キラーの解毒薬の入手が容易になったことが大きいらしい。
「人魚キラー?」
「ほら、いつかのイベントの時に、どっかのゴロツキ君が私の水槽に投げ入れようとしてた、海水を固めちゃう嫌な薬」
「あぁ、あれか」
海水を瞬時に固め、人魚の動きを封じ拘束する薬が存在する。
それ自体は毒物ではないが、人魚にとっては迷惑極まりない薬なのだろう。
ウィシャートがゴロツキにその薬と毒薬を混ぜた劇物を使わせて、マーシャを排除しようとしてたんだよな。四十二区の港で海漁ギルドのギルド長が一生癒えない大怪我を負えば関係が悪化して、四十二区の港に海漁ギルドが寄り付かなくなる。そんな状況を狙ったのだろう。
「ニッカちゃんがウチに来てくれて、陸での面白い話を若い娘たちにいっぱいしてくれたのもいい影響があったんだよ☆」
「それは、俺ら関係ないだろ」
「ううん。ヤシロ君たちが結婚式やってくれたから出会えたんだし」
セロンとウェンディの結婚式をやろうってことでウェンディの両親に会いに行こうって軽い気持ちで動き出したら、亜人差別なんてでっかい問題にぶち当たったんだっけなぁ、たしか。
『人間と虫人族の結婚は歓迎されない』
そんな空気をぶち壊して結婚式を大成功させ、その時にいろんな出会いがあってアゲハ蝶人族のニッカが海漁ギルドに、その旦那のカールが花火師を目指して引っ越しギルドに入ったんだったか。
……花火師になりたいヤツは引っ越しギルドへってのがこの街のスタンダードなんだよ。
「で、今は陸に興味を持ってる若い世代が私の船にたくさん乗ってるんだよ☆」
「へぇ。で、あのヌメっとした副ギルド長はちゃんと解雇したのか?」
「キャルビン? 残念ながら、まだ副ギルド長やってるよ~☆」
「そっか残念だ。つくづく残念だ」
「キャルビンはね、当時からいた数少ない陸への理解者だったから」
マーシャの表情が、少しだけ寂しそうに見えた。
陸への理解者ってことは、それはそのままマーシャの理解者ってことなんだろう。
そっか、あいつは昔からずっとマーシャの味方だったのか。
「今は、若い男の子たちを集めて『生足部』って部活動を始めたんだよ☆」
「やめさせろ、ろくでもねぇ」
味方だとしても、どうしようもない気持ち悪さが拭い切れないな、あいつは。
「でね、でね☆ 今、若い人魚たちの間では、お魚を使った陸の料理が大注目なの!」
「それで、寿司か」
「うん☆ 網焼きは海上でもやるからね」
魚介類を使った新しい料理に、次代を担う若い人魚が注目してるわけだ。
「だ・か・ら☆」
「対処しないと起こる、若い人魚の港離れが。お寿司を持たない港では」
あぁ……なるほど。
四十二区の港が新しいことを次々始めると、三十五区の港より四十二区の港へ行きたいってなっちまうのか。
「何より、マーたん自身が四十二区贔屓なのでな。……まったく」
「えへへ~☆」
ずっと以前からつながりを持っていた三十五区の領主としては、苦い思いをしているのかもしれない。
「貴様と私では、私の方が好かれているけどな!」
「さぁ、それはど~かな~☆」
「自惚れるな、カタクチイワシ!」
「俺なんも言ってねぇよ」
やっかむなっつーの。
「お願いしたい、友達のヤシロに。捧げてもいい、すべてを、この私の」
ギルベルタがマジだ。
……つか、捧げられても困るんだが。
「魚をさばけるヤツはいるんだろうな?」
「無論だ」
「んじゃ、ちょっとコツを教えに行ってやるよ」
「感謝する、私は! 贈る、最大限の感謝を、友達のヤシロに!」
「ふん。よい心がけだな、カタクチイワシ」
ぽんっと、俺の肩を叩き、ルシアが耳元で囁く。
「……助かる」
えっ、と振り返ると、いつもの不遜な顔がそこにあり――
「その際は、特別に私がそばにいてやろう。僥倖であろう?」
――そんな言葉を口にする。
もしかして、三十五区の港、結構やばい状況なのか?
ちらっとマーシャを窺えば、「ん?」なんて、全部を覆い隠すような営業スマイルで小首を傾げられた。
どうやら、陸に興味がなさ過ぎるのもあり過ぎるのも問題らしい。
改革の入り口に立つと、そういうことも往々にして出てくるもんだよな。
やれやれだ。
「ふむ。そうと決まれば今から三十五区へ向かうとしよう」
などと、意味の分からないことを言い出すルシア。
「待て待て。お前は四十二区で三十四区領主と会談するんだろうが」
「ふん。ダックなど、三十五区へ呼べばよい。その方が近いのだから文句もあるまい」
「やめたげて! さすがに可哀そう!」
たぶん、向こうはぼちぼち準備してるからね!?
いやもう出発してるかもしれない!
会談場所、そうちょこちょこ変えられたら、どんなお人好しでもブチ切れるぞ。
しかも、オールブルームの対角線上にある最も遠い区なのに。
「貴様は、ほとほと変わり者の男領主が好きなのだな?」
「待てこら。いつ俺がそんな世迷いごとをお前に言ったよ?」
「DDやシーゲンターラー、エーリンと仲がよいではないか」
「おい、この世界には名誉棄損って概念がないのか? 告訴するぞこのやろう」
誰が仲良しか。
ドニスもリカルドもゲラーシーもただの知り合い、いや、顔見知りだ。
特に後ろ二人はなるべく遭遇しないように避けてるっつーの。
「貴様がダックごときに気を遣うのでな、気に入ったのかと思ったぞ」
「気に入るほど、まだ何もしてもらってねぇよ」
そういうのは、もっと俺の利益になるようなことをしてから言ってもらおうか。
「まぁいい。四十二区の港で寿司でも振る舞ってやれば、アレはそなたに懐くと思うぞ」
「寿司なら、前に来た時も食ってたろうが。同じもんでいいのかよ」
「また食べてみたいと申しておったぞ」
「まぁ、本人がそれでいいならいいか」
俺としては、来るたびに寿司ばかりじゃ飽きそうだと思っちまうんだが……
というか、四十二区にはそれしかないのかとか思われるとかなり癪なのだが……
「よし、ここは少し変わり種を――」
「お兄ちゃん、また新しいもの発表したい病が発症しちゃってるですよ!?」
ぽんっと打ちかけた俺の手を、ロレッタが止める。
「一回食べて、『あぁ、また食べたいなぁ~』って料理、割とあるですから! それ目当てに遠出したい気持ちってあるですからね!?」
ん~……そんなもんか?
素人寿司だぞ?
「……やはり、ヤシロは自分が発信したものへの満足度が低い模様」
「なんの話だ、マグダたん?」
「……実は、かくかくしかじか……あ、間違えた、ぷるぷるゆさゆさ」
「合ってたですよ!? なんで訂正しちゃったですか!?」
マグダが、俺がこの街の娯楽に満足していないという話をルシアたちにする。
「あれだけやって、まだ満足しておらぬのか、貴様は」
あきれ顔でルシアがため息をつく。
「でもでも、だったらもっともっといろんな新しいものが誕生しそうで、私はわくわくしちゃうけどな☆」
マーシャは歓迎のようだ。
「とりあえず、この後港まで来られるかな?」
「かな?」っと、物凄くあざといおねだりポーズで俺を見つめるマーシャ。
だがなぁ……
「ご覧の通り、フロアの人数が少ないんでな。習いたければお前が来いと伝えてきてくれ」
「分かった~☆ ロレッタちゃん、お願いできるかなぁ?」
「任せてです。そこらへん歩いてる弟妹に言って伝言お願いするです」
ぱっと店を飛び出していくロレッタ。
「マグダ。厨房はどうだ?」
「……今、店長とノーマが夕方の仕込みを始めている」
「夕方の仕込み?」
はて?
ジネットの予想では夜は客足が途絶えると言っていたはずだが。
「……温かいスープ。この後行われる『何か』に向けて」
「あぁ、なるほどね」
「温かくしろ」としか情報が伝えられてないが、何かするんだろうなってことは空気で分かってるから、温まる料理をってことか。
「この後何かするの~?」
「デリアと夜釣りにな」
「わぁ☆ 私も行きた~い☆」
「川に落ちるなよ?」
「落ちてもへ~き☆」
ま、デリアならマーシャを拒否することはないだろう。
「ギルベルタ。明日の予定は?」
「帰れよ、お前は」
なんで参加しようとしてんだよ、ルシア。
「明日は丸一日マーシャ様と過ごす予定になっている」
「では問題ないな。仕方ない、私も付き合ってやろう。僥倖であろう、カタクチイワシ?」
「なぁ、三十五区の領民は不安がらないのか? 領主がずっと不在で」
「大丈夫だ。我が館には頼れる者たちが多くいるのでな」
そりゃよかったな。
領主が頼れないからな。存分に辣腕を振るってもらうといい。
そしていつか下克上されろ。
……いや、待て。そんなことになったら、四十二区へ引っ越してきやがるな、こいつ。
「お前は、いつまでも三十五区の領主でいてくれよな☆」
「そうか。そんなに私に引っ越してきてほしいのか。前向きに検討しておいてやろう」
引っ越してくんなつってんだよ!
「ギルベルタは、釣りをしたことはあるか?」
「ある。海釣りなら、三十五区の港で」
「そっか」
「そう」
なら、ルシアを任せても大丈夫か。
「妹を捕まえて伝言頼んできたですよー!」
「あ、ロレッタ。デリアに『三人追加』って伝えてきてくれ」
「またですか!? じゃあ、もう一回行ってくるです!」
入ってきてすぐ、ロレッタが再び飛び出していく。
「……次は、誰に伝言を頼むべきか……」
「マグダ姉様は、本当にロレッタ姉様が大好きなのですね」
ロレッタいじりに脳みそフル回転のマグダを見て、カンパニュラが小さく笑う。
「すぐ近くに弟がいたので伝言頼んできたです」
「……ロレッタ、至急マグダの可愛さを伝えてきて」
「誰にです!?」
「……世界に」
「それはウチの弟妹だけじゃ、ちょっと荷が重い規模ですね、さすがに!?」
「……世界をまたにかけるヒューイット姉弟なのに?」
「むむむ、そこまで期待されてるなら、やらないわけにはいかないです! ちょっと本腰入れて行ってくるです!」
「行かなくていいから、ジネットに『今晩釣りに行く』って伝えてこい」
「夜釣りですか!? めっちゃ楽しみです! あたしも行くです!」
「だから、ジネットに準備してもらってこい」
「はいです! すぐ行ってくるです! 店長さ~ん!」
フロアを突っ切って厨房へと突入していくロレッタ。
「「「やっぱ、ロレッタちゃんはいいなぁ~……懐石、おかわりいけそう」」」
なんでお前らは可愛い女子を見ると食欲が増すんだよ?
どーゆーメカニズムだ。
「じゃあ、マグダ。悪いが店内のレイアウト変更を手伝ってくれるか?」
「……任された」
「私もお手伝いいたします! 正規従業員ですから、力仕事もどんどん振ってください」
これまで、荷物運びやレイアウト変更などは俺やマグダで行ってきた。
カンパニュラはお手伝いだったし、まだ小さいし、何よりウィシャートの毒薬で体力が落ちていたし。
そうやって避けていたことを、カンパニュラは気付いていたのか。
で、今後は分け隔てなく仕事を振ってほしい、と。
「分かった。じゃあ、あっちの邪魔な客を退かせてきてくれるか?」
「「「へいへーい、ヤシロさん! その指、こっち向いてる気がするぜーい!?」」」
うっせぇな。
他区の領主様がいらっしゃるんだぞ? お前ら、そーゆーのに全力でへりくだるタイプだろ?
懐石食ってようが、金を落としていようが、お前らは端っこで遠慮気味に生息してりゃいいんだよ。
「ヤーくん。皆様大切なお客様ですよ。もっと優しく接してあげましょうね」
「「「カンパニュラちゃん、マジ天使! 懐石のおかわりを――いや、この後ヤシロさんが握るお寿司をください!」」」
「あんな気味が悪いほどに声を揃えられるオッサンどもに優しくしろと?」
「皆様、とっても仲良しさんなんですよ」
仲が良過ぎて気持ち悪いんだっつーの。
つーか、あいつら、寿司を食う気かよ。さすがに腹いっぱいだろ、もう。
陽だまり亭懐石って、結構量あるぞ?
「「「ヤシロさんの手料理って聞くと、お腹の余裕が出来るんだよなぁ、俺たち」」」
「うふふ。ヤーくんは人気者ですね」
「あいつらの胃袋がおかしいだけだよ」
美少女に萌えては減り、美味いものの話を聞けば減り。
摂取したカロリーどこ行ってんだよ、まったく。
「……カンパニュラ。おしゃべりはその辺で、机を運んで」
「はい! 今行きます、マグダ姉様」
マグダも、カンパニュラへの特別扱いをやめたようだ。
きっと喜ぶだろう、カンパニュラも。
「じゃ、ちょっとジネットに寿司をやるって言ってくる」
と、俺がフロアを離れようとした時、陽だまり亭のドアがノックされた。
陽だまり亭のドアは、閉じていても施錠はされていない。
虫の侵入を防ぐために開けっ放しにはしていないのだが、客たちは普通にドアを開けて入ってくる。ノックなどするヤツはいない。
あのドアをノックするのは、飯以外の用事でここを訪れる者――アッスントがよくノックしてる――か、もしくは、招待された者、くらいだろう。
「来たようだな、ダックのヤツが」
「ううん、ウチの寿司職人見習いかもよ~?」
ルシアとマーシャが互いに招いた人物であろうと当たりを付けてドアへ視線を向ける。
客たちも、マグダやカンパニュラも、釣られるように視線を入り口のドアへと向ける。
ガチャっと、ドアが開き、おずおずと、その前に立つ人物が店内へと入ってくる。
その人物は――
「あの、ご無沙汰している…………というか、なぜまたしてもこのような格好をさせられているのだろうか、自分は!?」
おっぱいたすきこと、三十四区の貴族トト・フレキシリス。
再びおっぱいにタスキをかけての登場であるっ!
「ようこそおいでくださいました! どうぞこちらへ!」
「勢いっ! 勢いが怖いぞ、ヤシロ君!?」
おっぱいたすきトトの後ろでは、にっこにこ顔の小太り領主、ダック・ボックが満足そうに手を振っていた。
「サプライズプレゼントだよ」
「再びお目にかかれて光栄です、ダック・ボック様。ささ、店内へ。あ、お足元にお気を付けくださいませ」
「あらら~☆ 物凄く懐いちゃったねぇ~、ヤシロ君☆」
「まったく、貴様は進歩のない男だな、カタクチイワシ!」
やかましい!
俺にとって物凄く利益のある人物は優遇する。それは当然のことだろうが!
ま、おっぱいたすきを個人的に手懐ければ、こんな小太り即座に切り捨ててくれるけどな! けっけっけっけー!
というわけで、何の因果か、またしても陽だまり亭に複数の領主とギルド長が集まってしまったのだった。
……娯楽は欲しいが、トラブルはノーサンキューだからな?
履き違えるなよ、精霊神。
分かってるよな?
つか、分かれ。
あとがき
皆様、ご無沙汰しております!
いやもう、ご無沙汰過ぎてもはやごん太です!
ごんぶと~!(≧▽≦)/
宮地です。
(゜∀゜)o彡°
長らくお待たせいたしましたが、
本日より『異世界詐欺師のなんちゃって経営術』再開です!
(゜∀゜)o彡°
今回は、サブタイトル? 副題? シリーズ名? 源氏名?
まぁとにかく、
『報労記』
と題して、まったりとしたシリーズをお送りいたしたいと思います!
(゜∀゜)o彡°
放浪記ではなく、報労記です!
(゜∀゜)o彡°
報労とは、ご褒美とか、苦労に報いることなんて意味があります。
(゜∀゜)o彡°
三幕では結構重たい話が続き(゜∀゜)o彡°
登場人物も(゜∀゜)o彡°
書いてる私も(゜∀゜)o彡°
読んでくださっていた読者の皆様も(゜∀゜)o彡°
しんどい思いをしたじゃないですか!(゜∀゜)o彡°
ですから――(゜∀゜)o彡°
え?
あぁ、
(゜∀゜)o彡°←これですか?
サブリミナル効果を狙ったマインドコントロールです!
こうやって
(゜∀゜)o彡°
文章の端々に
(゜∀゜)o彡°
この顔文字を
(゜∀゜)o彡°
挟み込む
(゜∀゜)o彡°
ことによって
(゜∀゜)o彡°
皆様の心の奥底、深層心理に
(゜∀゜)o彡°
おっぱい(゜∀゜)o彡°おっぱい
が、刻み込まれ
すんなりと『異世界詐欺師』の世界に舞い戻ってこられる仕様になっております!
(゜∀゜)o彡°わっしょいわっしょい!
熱帯魚を水槽に移す時に水合わせをするようなものです。
プールに入る前に胸元……もとい、おっぱいに水をかけるようなものです。
インフルエンザの予防接種の前に「どんくらい痛かった?」って爪で肩の皮膚をつねってみるようなものです。
こうしておくと、すんなりと体が受け入れてくれるのです。
急に美少女に話しかけられたらドギマギしてしまいますが、
それに備えて頭の中でとても口には出来ないような卑猥な妄想を巡らせておけば、
急に美少女に声をかけられても…………死にますね?
ドキィッ!? とし過ぎて死にますね、それ!?(;゜Д゜)
何事もほどほどがよい、ということでしょうか?
……むむむ、ちょっとおっぱい成分添加し過ぎましたか?
皆様、おっぱい過多ですか?
これはマズい……では!
【壁】_・)すーん
【壁】_・)すーん
【壁】_・)すーん
【壁】Д<)クワッ!
これくらいで大丈夫でしょうか。
薄まりましたか?
では、そろそろ話を戻しましょう。
皆様のおっしゃる通り、
新卒の着慣れてない感満載の女子のスーツって、胸元結構強調されてて
春、最高!(≧▽≦)b
ってなりますよね☆
そもそもリクルートスーツって、清潔感を強調するために結構体に添うような造りなので体のラインが出がちなんですよねぇ~
春、最高!(≧▽≦)b
というわけで、報労記、よろしくです!
……あぁっ!?Σ(゜Д゜;)
報労記の説明してなかった!
一体、いつの間に春最高の話に……
こ、これが、サブリミナルの効果か……ごくり
とりあえず、
三幕は大変でしたので
その苦労に報いるような、
楽しい出来事が盛りだくさんになるシリーズにしたいと思います。
しんどい三幕を乗り切ったご褒美です!
私への!(* ̄▽ ̄*)
……しんどかったんですもの、悪者書くの……報われたいんですもの……
というわけで、
もしかしたら、書いている宮地さんしか楽しくないような内容になっちゃうかも☆
そしたら、メンゴ☆
でもゆるっとシクヨロちゃん☆
(・ω<)☆
テーマパークや港関連でドドドっと、怒涛のように登場したあんな料理やこんな新技術。
そこら辺を踏まえて、もっといろいろ遊びたいな~と
まぁ、つまり、『無添加』系のシリーズです!
ブルマでパン食い競争!(゜∀゜)o彡°懐かすぃ
まぁ、登場人物たちも頑張っていますので、ちょっと楽しい思いをさせてあげようかと
ついでに、お待ちいただいた読者の皆様にも笑っていただければいいな~っと。
本編では割とあっさり省かれているヒロインズたちとも
もうちょっとイチャコラ絡んでみたいな~っと
そんな目論見でございます。
貴族からの圧力?
事件?
海外の脅威?
そんなもの、このシリーズには必要ないのです!
必要なのは、パイ圧によってブラのホックが壊れるような事件です!
規格外の胸囲!
それこそが報労!
(」≧□≦)」< ほーろーMeー!
ブラ緩く、乳揺れるラッキー!
――という言葉もありますように、
……え? 天高く馬肥ゆる秋?
聞いたことないですね。
ちょっとよく分からないです。
とにかく、この春、我々の熱い思いを令和の世界へ放出し、
今年の夏こそ、
90年代後期の、
名探偵コ○ンの第3~4シーズン頃の蘭姉ちゃんのような、
キャミソールファッションの復活を!!
キャミソールでへそ出しでホットパンツとか
それもう水着じゃないか!?
どーした、90年代後期!?
でも、それがいい!
令和ちゃんももう5歳!
そろそろ、大人の階段を上がってもいい年ごろじゃないのかい?
あ~はん?
それにしても、毎度毎度、第一話のあとがきを書く時は緊張します。
今までどうやって書いていたのか、すっかり忘れてしまって、
ともすれば真面目な感じになってしまいがちでしてねぇ……
今回も、ちょっと固かったでしょうか?
あとで読み直してみますけども、ちゃんと書けているかなぁ~……ドキドキ
本当は去年末とか年明け早々再開するつもりだったんですが~みたいな話を書こうかと思ったんですけども、なんか暗い話になりそうなのでやめまして、
かいつまんで言い訳しますと、関連会社の倒産、自社の吸収合併、それに伴い見たことない上司や部下が一気に増えたり、今までの仕事に倒産した会社の仕事量がそのまま上乗せされて二倍以上の負荷をかけられたりで……一月の仕事始めから二月末くらいまでの記憶がほとんどなかったり………………私は何をしていたんでしょう?(・_・;
で、気付けばここまで遅くなりまして
お待たせした皆様には心よりお詫び申し上げるとともに、
待っていてくれてありがとうと伝えたい!
異世界詐欺師、はーじまーるよー!
またしばらくの間、一緒に楽しんでいただけると嬉しいです。
最後に、つい最近リメイクされて劇場版が話題になったあのアニメの初代主題歌が、
今の私の心情と見事に合致しておりますので、大きな声で歌ってあとがきを締めたいと思います。
では……こほん
♪乳が好きだーと、叫びーたい!
うむ、いい歌!
相も変わらずこんな感じですが、今後ともよろしくお願いいたします。
宮地拓海




