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異世界詐欺師のなんちゃって経営術  作者: 宮地拓海
第一幕

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35話 意外な落とし穴?

 ワ~カメ好き好きぃ~。


 なんて浮かれていられたのは最初だけだった。

 網に絡まりまくった海藻を除去するのは地味に手間のかかる作業だったからだ。

 おまけに、ところどころほつれている網目の修繕まで請け負ってしまったために、負担が結構大きいのだ。

 一日かければ終わらないこともないのだが、俺は今、この作業に一日かけることが出来ない身である。


「にゃー! にゃー!」

「なんだ、マグダ。飯ならさっき食ったろ」

「にゃ~にゃ~」

「遊んでほしいのか? 悪いが今は忙しいんだ。また後に……」

「にゃっ!」

「痛ぇーっ!? こら、飛びつくな! 噛むな噛むな!」


 現在の俺の抱えている業務――網の修繕・マグダの看病……という名の遊び相手。


「すみません、ヤシロさん! 少しの間、接客をお願いします! 揚げ物から離れられませんので!」

「……えぇ……」


 追加業務――接客。


「じゃあ、マグダ。俺、店に出るから部屋に戻ってろ」

「にゃっ!」

「『にゃっ』じゃねぇよ。ほら、離れろ」

「にゃっ!」


 マグダは俺の背中にしがみつき離れようとしない。……どうすっかなぁ。


「ヤシロさん! お客さんがお待ちですっ!」

「あぁ、はいはい!」


 しょうがない。連れて行くか。


「ほらマグダ。首輪つけろ。あと、尻尾上げるなよ。お尻見られるからな」

「にゃ」


 ここ最近、マグダの活動が活発になっている。怪我ももう治りかけなのだと、レジーナは言っていた。それはいいことなのだが……動き回るようになって手が付けられないのだ。

 部屋に閉じ込めておいても勝手に出てきてしまう。

 一人で外に出て行くことはなくなったが、他人の前に出ると少し興奮状態になり危険だったりする。

 そこで仕方なく、首輪にリードをつけるようにした。

 文字通り、俺がしっかりと手綱を握っていなければいけないのだ。

 ……幼女に首輪とか…………イケナイことをしているようだ。


 なんて言ってる場合じゃない。

 俺は急いで店へと出る。


「あぁー! マグダたんじゃないッスか!?」


 待っていたのはウーマロたちトルベック工務店の面々だった。


「なんだ、お前らか……注文くらい自分で言いに来いよ」

「オイラたちお客ッスからね!?」

「分かった分かった。とりあえず、そこの皿を下げて、テーブルを綺麗にしといてくれ」

「分かってないッスよね!?」


 ゴロゴロと遠くで雷が鳴る。

 マグダがビクッと体を震わせて俺の足にしがみつく。


「むふぁ~っ! 怖がるマグダたん、可愛い~ッス~っ!」

「キモイ。罰として皿を片付けろ」

「だから、なんでッスか!?」

「にゃ~」

「ほら、マグダも『片付けろ』と言っているぞ」

「片付けさせてもらうッスっ!」


 客のいないテーブルに残されていた皿を重ねて、ウーマロが厨房へと運んでいく。


「ふぇぇえっ!? ウーマロさんが、なんでっ!?」

「あ、気にしないでくださいッス。ここ、置いとくッスね」


 そんな会話が厨房から聞こえてくる。


 四十二区に、また雨雲が迫ってきていた。

 デリアは、今日は川漁ギルドの仕事に出ていた。漁ではなく、再びやって来そうな大雨に備えて、川沿いの堤防を強化するのだそうだ。

 川の付近の整備や管理も川漁ギルドの仕事の範疇なのだとか。


 エステラはエステラで、何やら忙しくしている様子で、ついには朝食にも姿を現さなくなっていた。

 そういや、ベルティーナに教会の補強を頼まれていたんだっけなぁ……雨が来る前に窓に板を打ちつけてほしいとか。そんな時間はないんだが…………ジネットがいる限り、結局はやる羽目になるんだろうなぁ。



 レジーナは「雨の強い日と風の強い日、あと暑い日と寒い日は外に出ぇへんって決めてんねん」と、社会人失格な発言を恥ずかしげもなく堂々と宣言して家に閉じこもっている。

 マグダの容体が安定したこともあり、「薬は自分で取りに来てな」……だ、そうだ。

 ……人手が足りないのに、取りに来させるとか……サービス悪いんじゃねぇーのー!? むしろ率先して薬を届けて、ついでに店の手伝いくらいしていくのが客商売として正しい姿勢なんじゃないのかなぁ!?


 そんなわけで、ウーマロの手を借りたいほどに忙しいのだ。

 立っている者はウーマロでも使え。

 ウーマロ暇なし。

 ウーマロの席が温まる暇もない。

 そんな状況だ。だから頑張れウーマロ。


 首輪に繋いだリードを柱に括りつけ、マグダを食堂の隅で遊ばせておく。

 空の小さな樽を転がして遊ぶマグダに観客が和んでいる間に注文を聞き、出来た料理を運び、空いた皿を下げ、テーブルを綺麗にする。


「ヤシロさん、手際いいッスねぇ」

「時間が無いんだ。要領よくやるしかないだろう。お前も俺を見習って、早く一人前のウェイターになるんだ」

「いや、ならないッスよ!? オイラ客ッスからね!」


 客でもなんでもいい。忙しいから手伝え。

 あとでハニーポップコーンでもサービスしてやる。二粒ほど。


 あ、そういえば。デリアが「今日は手伝えないから、仕事が終わったらお金を出して買いに来るよ、ポップコーン!」と言っていたっけな……くそ、ハニーポップコーンも作らなきゃいけないのかよ……


 ポップコーンはマグダが担当していたのだが……


「にゃ~! にゃにゃにゃっ! にゃー!」

「「「はぁぁぁ…………かわぇえ~なぁ~……」」」


 と、こんな有り様なので現在は朝に一度作るだけになっている。

 マグダが逃げた時用のポップコーンだ。あと、デリアに渡す分と……よく考えたら、最近ハニーポップコーンを食べているのは店の関係者だけな気がする。

 折角、発案した売れ筋商品なのだが、如何せん知名度が低い。

 もっと大々的に宣伝しないと売れてはくれないだろう。そもそも、ポップコーンというものに馴染みがないのだから、買いに来ようという客がいないのも仕方のないことだ。

 しかし、今は宣伝に割ける人員も、ポップコーンを作っている暇もない。

 くそ、なんてもったいない……っ!


 さらに言うなら、次の大雨が過ぎれば雨季が終わるらしく、そうなればデリアは川漁ギルドの仕事に戻ってしまう。陽だまり亭の手伝いをしてくれるのは、もうあと何日もないのだ。

 エステラやレジーナも頼りに出来ないし……マグダが元に戻ったとしても、やはり少し厳しいか……

 理想を言えば、俺はゴミ回収ギルドの仕事に、ジネットは調理と家事に専念出来る環境が欲しい。マグダは元に戻っても出来ることが限られている。マグダは『出来ない』ことが魅力なのだ。そこを気に入っている客層がいる以上、テキパキ働かせるわけにはいかない。ちょっとした接客とポップコーン担当くらいが関の山だ。というか、マグダの本業は狩りなので、ずっと店にいてもらうことは出来ない。


 やっぱり、もう一人くらいは専属のウェイトレスが必要だな。

 それから、ハニーポップコーンの販売促進と、新規顧客の開拓…………つっても、それをするにもまた人手が必要になるのか……だが、この店にはそんな何人も従業員を雇う余裕はないし…………あぁ、体が二つ欲しい。


「俺がもう一人いればいいのに……」

「ちょっ!? ヤシロさん、なに縁起でもないこと言ってんッスか!? 勘弁してくださいッスよ!」


 誰が縁起でもないだ、このヤロウ。


「ウーマロ。今日は野菜の煮込み定食がおすすめだ」

「たまには自分で選ばせてほしいッス!」


 そんなこんなで、さほど客が来ているわけでもないくせにやたらとバタバタしていたランチタイムは終了した。

 少し時間が出来、本来なら網の修繕をしたいところなのだが、マグダの薬をもらいに行かなければいけない。出かける用事は、雨が降る前に済ませてしまいたいからな。

 最悪、網の修繕は俺の部屋でも出来るし、夜中になっても問題ない。……俺が寝不足になるだけで。


 そんなわけで、俺はマグダをジネットに託し、レジーナの店へと向かった。


「おぉ~、よぅ来たなぁ、自分! ちょうどえぇとこに来てくれたわぁ。ウチな、この有り余る暇な時間を活用して創作活動に勤しもう思ぅてるんやけど、自分どないや、主人公モデルになってっみぃひんか? 悪いようにはせぇへんって。隣国の王子とか、屈強な傭兵とか、怪しいイケメン魔術師なんかが自分のことを取り合ぅてやな……」


 ――と、聞きもしないことをベラベラとしゃべっていたレジーナだったが、ろくでもない話だったので省略する。

 とりあえず、腐敗臭の出どころはきっちり潰しておいた。


 ……この街で最初のBL作家になったりしねぇだろうな、あいつ。

 ………………この街って、もしかして既にそういう作品あんのかな?

 ……………………考えるの、よそう。益無いことだ。



 レジーナの店を後にして、俺は大通りをプラプラと歩いていた。

 時刻は夕方。『終わりの鐘』が結構前になっていたから、今は夕方の六時前くらいだろう。

 仕事終わりらしき者たちがやり遂げた達成感に似た、満足げな表情で行き交っている。

 大通りには酒場が何軒か並んでいる。そこを目指しているのだろう。


「出てけー! 二度と来んなっ!」


 そんな怒声が聞こえてきたのは、大通りのほぼ中央、とある酒場の前からだった。

 その酒場は、以前俺が立ち寄った、イヌ耳ウェイトレスが可愛い店だ。


「待ってくださいですよぉ! あたし、ここを追い出されたら、ホント、困っちゃうんですってばぁ!」

「うるさいうるさい! あんたみたいなヤツ、ウチの店には置いとけないんだよ! さっさと帰れ!」

「じゃあ、せめて働いた分だけでもお給金を……」

「帰れぇー!」


 言い争っていたのは、どちらもエプロン姿の少女で、片方は以前見かけたこの店のイヌ耳ウェイトレスだ。

 もう片方は、見たこともない少女だ。だが同じ服を着ているということはこの店の従業員なのだろう。……間もなく辞めさせられそうではあるが。


「ん? あっ、あんた、あの時の人じゃん!」


 言い争いを遠巻きに眺めていた俺を、イヌ耳店員は目敏く見つけ、声をかけてきた。

 ……放っといてくれればいいのに。


「よく覚えてたな。一回来ただけの客を」

「そりゃ、あんなことしたの、あんたしかいないもん。記憶に残るよ」


『あんなこと』というのは、ゴッフレードを殴ったことだろう。

 そうか、記憶に残っていたか……ゴッフレードは忘れていますように……


「今日は随分とみすぼらしい服だね。前のはどうしたの?」


 前のというのは、高校のブレザーのことだろう。この街では貴族の服に見えるようだが。


「身の丈に合った服に着替えただけだよ」

「あっはっはっ! 分かる分かる。初めて街に出る時って、必要以上に気合い入れてオシャレしちゃうよね。そっかそっか、頑張った結果の服だったんだね」


 なんだか勘違いされているが、まぁそのままにしておいて問題ないだろう。

 金持ちが貧乏人に身をやつして……と思われるより、貧乏人が無理して高い服を着ていたと思われる方が都合がいい。


「お兄さん、なんか有名な人なんですか? 言われてみれば確かにちょっと華があるかもしれないですねぇ」


 イヌ耳店員に怒られ、さっきまで丸くなっていた少女が、俺の顔を覗き込んでくる。

 ……ふむ。華がある、か…………なかなか見る目があるじゃないか。


「ほらここに……『鼻』があるです! なんちゃってっ☆」


 イラッ……


 俺の鼻を指さしながら、女店員(間もなく解雇予定)は満面のドヤ顔を炸裂させている。


「お前、まだいたのかぁ!」

「うひゃぁ~!」


 イヌ耳店員が牙を剥くと、女店員(もう既に解雇済みっぽい)は俺の背中に身を隠す。


「こいつ、ずっっっっっっっっっっっとこんな調子でおしゃべりばっかりしてるんだよねっ! 仕事の邪魔んなるったらないよ、ホントッ!」

「違うです、違うんですよ! あたしはただ、お客様と仲良く、フレンドリーな関係を築き上げてお得意様になってもらえればと……良かれと思ってやったことなんですよ!」

「じゃあ、さっきのは何!? お客さんのソーセージを横取りして! あれも良かれと思っての行動!?」

「いやぁ~、アレは、お客様が『ロレッタちゃんに食べさせたいなぁ~』っておっしゃったですから、サービスの一環として『あ~ん』をされて差し上げたまでで……」

「物欲しそうな目で見てるからそういうことになるんでしょ!?」

「だってだって、ここのお料理美味しいんですもん! よっ! オールブルームナンバーワン名コック!」


 ロレッタという名前らしい少女( ぺらぺらとよくしゃべる )は、店の入り口から様子を窺っていたイヌ耳オーナーを目敏く見つけ、そちらに向かって声を飛ばす。


「父ちゃんにおべっか使ったって、もうウチには置かないから! 帰れ! 客としても来るな!」

「そんなぁ~……あたし、ここのソーセージ大好きでしたですのにぃ~……明日から何を楽しみに生きていけば……」

「知らないわよ!」

「ここのソーセージは天下逸品なんですよ! 一口齧った時のパリッとした弾けるような皮の食感と、その後にやってくる香り高く濃厚な味わいの肉汁がじゅわっと口いっぱいに広がって、鼻を抜けていく香りはこの世の楽園を思わせるような芳しさで食欲をそそるんです。でも、それをあえてこらえて二口目を食べる前にビールをゴクリッ! ――と、盛大に喉へと流し込むと、一日の疲れが一気に吹き飛んで、この世界に生まれてきたことを精霊神様に感謝せずにはいられない幸福感に包み込まれるんですっ! 喉の奥をシュワシュワ弾ける炭酸が駆け抜けていった後は、またソーセージにかぶりつくわけですが、ここで注目してほしいのは先程噛み切った断面図! そこには、この数十秒の間にソーセージの奥底からじわ~っと溢れ出てきた肉汁がまるで宝石のようにキラキラと輝いていて……もっと眺めていたいけれどお腹がグーグーなるので、辛抱堪らずにガブリッ! ――と齧りつくと、さっきとはまた違う感動が……っ!」

「うるさいっ!」


 イヌ耳店員が怒鳴ると、ロレッタ(よく噛まずにしゃべり続けられるもんだ、これは一種の才能だな……ちょっと欲しいかもしれないな)はビクッと肩をすくませる。


「そんなおしゃべりばっかりしてるから全然仕事が出来ないんだよっ! あんたが来てからあたしの仕事すっごく増えたんだからね!」

「それ、あたしのせいですかねぇ?」

「あんたがおしゃべりばっかして働かないからでしょう!」

「でも、お客様はみんな楽しそうにしてましたですよぉ?」

「お客さんが楽しくても、あたしたちが我慢ならないの! とにかく、もうウチでは雇えないから! どこか他所を当たるんだね! ふんっ!」


 イヌ耳店員は、イヌ耳をふわりとはためかせて回れ右をする。


「ぅわぁっ!? お客さんが凄いことになってる!?」


 振り返って初めて気が付いたのだろう、イヌ耳店員は店から溢れ出さんばかりに詰めかけている客を見て悲鳴を上げた。


「父ちゃん、ごめ~ん! すぐ戻るから!」

「おい、イヌ耳店員」


 走り出そうとするイヌ耳店員を呼び止める。

 こちらを振り向いたイヌ耳店員は焦った表情ながらも、ムッとした口調で言い返してくる。


「あたしにはパウラって名前があるんだけど?」

「じゃあパウラ。本当にこいつはクビなのか?」

「はぅっ!? なんで聞くんですか!? うやむや~にして明日また働きに来ようとしてたですのに!」


 いや、それは無理だろう。


「ホンットにクビ! 二度と来るな!」

「ぅう……お兄さんのせいですよぉ……恨みますですよぉ……」


 いやいや。俺のせいじゃねぇだろ。


「パウラが決めていいのか? オーナーの意思は?」

「いいの! ウチの父ちゃん、女の子には甘いからあたしが厳しくしなきゃいけないんだよね。オーナーの娘権限で、そいつはクビなの!」

「そうか……お気の毒様だな」

「そんな……人ごとみたいに…………お兄さん、ドSですか?」


 バカ野郎。俺ほど優しい紳士はそうそういねぇぞ。


「あ、そうだ! 制服返して!」

「いやぁ~! こんなところで服を脱いだらお嫁に行けなくなるですよぉ! あ、そうしたらここで一生養ってくれるですか?」

「イラ……ッ!」


 あ~あ、地雷踏んだ。


「その服、お給金代わりにくれてやるから、二度と顔を見せるなぁ!」


 牙を剥くイヌ耳店員ことパウラ。

 その怒声が通り過ぎていくのをロレッタは身を縮めてジッと耐えていた。


 パタパタと足音を鳴らしてパウラが店へと戻っていく。

 本当に客が店から溢れ返っている。


「はぁうう……あたし、お手伝い出来るですのにぃ……」


 地面にへたりこみ、がくりと肩を落とすロレッタ。

 見事なまでにしょげ返っている。さっきまで陽気にぺらぺらとしゃべっていた時とは雲泥の差だ。


「ホント、お気の毒様だよなぁ……」

「むむっ……あたしを憐れむなら何かお仕事紹介してくださいです! ウチにはお腹を空かせた弟たちがわんさかいて、お金がたくさん必要なんですよ」

「誰がお前を憐れんでるんだよ」

「え? だって、お兄さん『お気の毒様』って……」


 確かに言ったよ。『お気の毒様』って。

 でもな。


「俺が憐れんでるのはあのイヌ耳店員だよ」

「パウラさんを、ですか?」


 あいつは気が付いていないのだ。

 今現在、溢れ返るほど店に詰めかけた客が、『何を聞いて来店したのか』ということに。


 まぁ、立地がいいからな。これまで、特に何もしなくても客が入っていたんだろう。

 俺がふらっと立ち寄ったのも、たまたまいい場所に店があったからだ。

 この店だからと選んだわけではない。


 だが、今店に詰めかけている連中は『この店に行きたい』と思ったヤツらばかりだ。

 宣伝につられたのさ。


 そう。

 このロレッタが店の真ん前で盛大に展開した、盛大なコマーシャルを聞いてな。


「お前、働き口を探してるんだな?」

「おっ!? おぉっとぉっ!? その言い草は……どこかお仕事紹介してくれるですか!?」


 うむ。勘もいい。


 パウラとの会話を聞いていただけで、このロレッタの長所がいくつか発見出来た。

 まずは口が上手い。

 ただのビールとソーセージをあそこまで表現豊かに語れるのは一種の才能だ。しかも、こいつはそれを素でやってのけた。カンペや脚本なしでだ。

 そして、よく声が通るのも利点だ。

 こいつの声はやたらと耳に付く。通りすがりの人間が何人も振り返っていたし、パウラが「いっつもしゃべっている」なんて言っていたのも、ロレッタの声がよく耳に付いたからだろう。

 鼓膜に届き、記憶に残る声。これは得ようとして得られるものではない。

 そして、この人懐っこさと勘の良さだ。

 相手が何を望み、何をしようとしているのかを、こいつは感覚で理解しているのだ。

 客が自分のソーセージを「食べさせたい」だなんて、普通ならあり得ない。けれど、ロレッタ相手にならやってみたくなる。ロレッタがそうさせているのだ。自覚の有無はともかくな。

 甘え上手と言ってもいいだろう。


 そして、その甘え上手が、宣伝においてかなり重要になってくる。


 ただ「ここの飯は美味い!」と言ったところで宣伝効果としてはたかが知れている。

 けれど、「こいつが言うなら食べてみようかな」と思わせることが出来れば、その効果は何倍にも膨れ上がる。


 テレビCMに好感度の高いタレントが使われるのはそのためだ。


 ここにいて、またはたまたま通りかかって、先ほどの騒動を耳にした者たちは思ったことだろう。

「こんなアホな子が夢中になるほど美味いソーセージ。そいつはきっと、掛け値なしに美味いに違いない。理屈や理論ではなく、このアホの子が絶賛するのは、単純に美味いからだ」と


 グルメリポートというのは、理知的なインテリがうんちくを交えつつ論理的になぜこの料理が美味いのかを解説するよりも、笑顔が似合うちょっと抜けているイメージのタレントが少々大袈裟にはしゃいで見せる方が、美味しそうに見えるものなのだ。


 本当に気の毒だな……こんな使える人材をみすみす手放すだなんて。


「ロレッタ」

「はいですっ!」

「給金や労働条件云々はまた後で説明ということになるが……」


 と、前置きをして、俺はロレッタに手を差し伸べて言う。


「ウチで働いてみるか?」


 俺を見上げるロレッタの瞳がみるみる大きくなっていく。

 キラキラと星をばら撒くように輝いて、そして一瞬ウルっと揺らぐ。

 大きく息をのんだ後、すがりつくように、取り逃がさないように、両手で俺の手をガシッと掴み、よく通る声で言う。


「はいっ! よろしくお願いしますですっ!」


 デリアに続き、またしても俺の独断で勧誘してしまったが……

 ジネットはきっとノーとは言わないだろう。

 ただ、勝手なことをしたことは謝っておくべきだろうな。一言あるとないとじゃ大違いだ。

 まぁ、そこら辺は帰ってから話をするとして……


「ロレッタ、お前には期待しているぞ」

「は、はいですっ! ドーンとお任せあれですっ!」


 ぐっと胸を張るロレッタ。

 まだ何をするかも知らないくせに物凄い自信の有り様だ。

 しかし、実際上手くやってくれるだろう。

 なにせ、こいつが語った接客方法は、俺が理想とする接客に酷似しているのだから。

 顧客満足度を上げてリピーターを増やす。客には「自分は特別なのかも」という『勘違い』を起こしてもらうのが理想だ。

 こいつの持つ、相手が望むものを探り当てる嗅覚と、人懐っこい甘え上手は最強の武器になる。

 そして、何より……



 陽だまり亭の店員は、これくらいバカなくらいでちょうどいい。






いつもありがとうございます。



人手が足りないっ!

というお話を書きつつ、私自身も「もう一人私がいればなぁ」と思わされたりしました。


もう一人自分がいたら……


なんてことはよく考えます。

もう一人と言わず、四人くらい欲しいですね、自分。


そうしたら、「焼き肉食べたいけど一人で行くのは……」という悩みも解消され……いえ、そんな話ではなく、

もっとたくさんお話を書けるのになぁ……と。



私A「じゃあ、『詐欺師』書いとくね~」

私B「その間に、新しい話始めちゃうね」

私C「おっ、どんな話書くの?」

私B「チート持ちの貧乳ヒロインに振り回されるツクシ系男子の話」

私D「ツクシ系?」

私B「ヒロインにベタ惚れで尽くしまくる男子」

私C「あぁ、介護系ラブコメね」

私D「飼育系じゃない?」

私B「ツクシ系だよ!」

私A「何系でもいいから、早く貧乳書いちゃいなよ」

私C「じゃあ、巨乳系ヒロイン書きたい!」

私A「『詐欺師』が巨乳系でしょ?」

私C「ジネットは若干巨乳押しが弱いでありますっ!」

私D「いまだ乳首の色すら判明してないであります!」

私A「どの作品もヒロインの乳首の色には言及してないよっ!?」

私B「あぁ……書き始めで詰まっちゃった……」

私A「どうしたの?」

私B「主人公とヒロインの出会いのシーンなんだけどね」

私A「はいはい」

私B「名前を聞かれたヒロインが、間違って自分の乳首の色を教えちゃうのね」

私A「そのヒロインはアホの子なのっ!?」

私C「興味深ぁ!」

私D「興味深ぁ!」

私A「食いついたねぇ!?」

私B「その後の主人公の反応で悩んでて……」

私A「そんな場面に遭遇した主人公も、相当悩んでると思うよ」

私B「案1が、『うっひょ~、こりゃたまりませんなぁ~』って言ってヒロインに襲いかかる」

私A「犯罪者だね」

私C「主人公の気持ち、分かる!」

私D「分かる!」

私A「私の分身の半数が犯罪者に共感しちゃってる、この現実!?」

私B「案2が、主人公がちょっと照れちゃって、顔真っ赤にしちゃってね」

私A「ツクシ系ってくらいだから、純情なんだろうね。そんな感じがいいんじゃない?」

私B「で、『……一緒だね』って」

私A「そこの共感必要かなっ!?」

私B「そして二人は結ばれましたとさ……めでたしめでたし」

私A「待って! その話、いきなり現れたヒロインが自分の乳首の色教えただけだよね!? それで結ばれちゃうの!?」

私C「…………うん! 分かる!」

私D「……分かるっ!」

私A「なんでも分かるな、あんたらは!?」

私B「そんな感じの話を、150話くらいでまとめようかと」

私A「薄い薄い! 内容が無さ過ぎるよっ!?」

私B「じゃあ、いい感じに書き直しておいて」

私C「巨乳も出して」

私D「巨乳をぽろりさせといて」

私C「ちょっ、その『出す』じゃないし! マジウケるし!」

私D「え、そうなの? いや~勘違い勘違い、てへへ(棒)」

私A「CとDがとにかくウザい!」

私B「ほらほら、遊んでる暇ないよ。書いて書いて! あと『詐欺師』遅れないようにね」

私A「結局、私が書くことになるじゃないかぁ!?」





……みたいな、楽しいことになるのになぁ…………なんて、思ったりもしつつ、

そんなことしてる暇があったら続きを書こうかと反省しつつ、

「つか、あとがき長ぇよ」という幻聴を聞きつつ、

「きっとどこかに需要ある!」と自分で自分に言い聞かせつつ――


今日も頑張って執筆させていただきます。



次回もよろしくお願いいたします。


宮地拓海

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― 新着の感想 ―
TKBの色で共感して結ばれるのはさすがに草 そのアイデア貰い受ける!、、、かもしれない?
自分がもう一人いたら? 働きたくなーい。 私もー。 駄目だな。
[一言] 本編とあとがきで二度美味しい! あとがき面白いですよ〜
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