168話 商談と報告
「これは非常に興味深い調味料ですね!」
「調味料というか、バターみたいなもんだけどな」
ピーナッツバターとは、果たして何に分類されるのか。
「いやはや、こんな物が発見されずにいたなんて……実にもったいないことです」
アッスントが真珠のように瞳をきらきらさせている。豚の真珠だ。
俺が昨晩作製したピーナッツバターを、焼きたてのクレープにたっぷりと塗って美味そうに頬張るアッスント。
本当ならパンにでも塗って食いたいところだが……ここのパンはパンじゃない。鈍器だ。
パンのポテンシャルが低過ぎてピーナッツバターの足を引っ張りかねないから、クレープをわざわざ焼いたのだ。
「本当に、もっと早くに出会えていれば、素敵な思い出が今の三倍は増えていたでしょうに、惜しいですね……もきゅもきゅ」
そして、当然のように試食会に参加しているベルティーナ。
……教会への寄付は、このあと行く予定なんだが。
「店長さん、すごいです! どうやったらこんなに薄く焼けるですか!?」
「……ロレッタのは、ホットケーキ」
「クレープですよ!?」
どう見てもホットケーキな物体を手にロレッタが吠える。……が、ホットケーキだな、それは。まぁ、ピーナッツバターで食っても美味いけどさ。
「教会の寄付が終わったら、ハムっ子年少組を集めてくれ。落花生を剥かせたい」
「年少組でいいですか!?」
幼く、まだ仕事を任せてもらえない年少組。ロレッタはいつも「働きたい働きたい」とせっつかれているらしく、宥めるのが大変なようだ。
なので、こういう『お手伝い』をさせて不満を解消させてやればいい。単純作業は地味に時間と体力と心の朗らかさを消費してしまうから、手伝ってもらえればこっちも助かる。
何より! ――年少組には報酬はいらない。
仕事を与えてやることがもう既に報酬みたいなものなのだ。……活用しない手はない。ふふふ……
「はっ!? お兄ちゃんが、なんだかあくどい顔をしているです!?」
「いいえ。あの顔は、誰かのために何かを考えている時の顔ですよ」
「……ロレッタはまだまだ甘い」
「えっ!? そうなんですか!?」
「私の目にも、物凄くあくどい顔にしか見えませんがねぇ……」
ジネットとマグダの言葉に、ロレッタとアッスントが俺の顔を凝視してくる。
やめろ。拝観料を取るぞ。
だいたい、俺がいつ誰かのために何かをしたってんだよ。
買い被り過ぎだ。
「でだ。ここ最近、甘い物の話題が多い陽だまり亭だが……」
「はいはい。ケーキに続き、このピーナッツバターもきっと大ヒットするでしょうね」
アッスントのにこにこ顔が留まるところを知らない。
こいつ、そのうちえびす顔になるんじゃないか? 出会った頃の悪人顔は、今や見る影もないな。
「実は、新しい調味料を作りたくてな」
「詳しくお聞かせ願えますか!?」
えびす顔が一瞬で捕食者のようなギラついた表情に変貌する。
思いのほか食いついてきたな!?
ピーナッツバターの効果、覿面だな。
最初に未知の美味いものを食わせておいて、さらに新たな未知のものを提案すれば、「次はどんな凄いものなのだろうか」という期待が膨らむ。
こうなれば、商談はスムーズに運ぶ。多少の無理も聞き入れてもらえることだろう。
「麹を取り扱っているヤツを紹介してくれないか?」
「麹……ですか?」
「あぁ。これから作る物には不可欠なんだ」
「麹でしたら、味噌を作っている者たちに話をすればいろいろ手に入ると思いますよ」
「いろいろ?」
「えぇ。塩麹に米麹、種麹なんかもあります」
さすがアッスントだ。俺が欲しいと思ったものをきちんと押さえてやがる。
「お作りになろうとしている物は、味噌、ですか?」
「まぁ、味噌というか……豆板醤ってやつなんだが」
「とうばんじゃん……聞いたことのない名ですね。翻訳もされませんでした」
アッスントは、『強制翻訳魔法』の聞こえ方の違いにも気を遣って会話をしているのか。
やっぱりこいつは他のヤツとは少し脳の使い方が違うよな。
よく味方になってくれたもんだぜ。ずっと敵のままだったら、きっと厄介な相手になってたろう。
金儲けって偉大だなぁ。
金によって繋がった絆は何よりも強固なのだ。
やっぱり、金儲けはこの世界唯一にして最大のジャスティスだよな。
――と、そんなことを再確認している場合じゃない。
「ピリ辛の調味料でな、これを使えば単純な野菜炒めが飛躍的に美味くなり、また、これを使うことで生み出せるとある料理は絶対にヒット間違いなしという優れものだ」
「ほほぅ……そんなに凄い調味料なんですか。ヒット間違いなしとは……しかし、ヤシロさんがそこまできっぱり言い切るということは、きっと凄い料理が作れるのでしょうね」
おうよ。
豆板醤を使った代表的な料理といえば、麻婆豆腐だ。あれは外れがない。
「麹を使うということは、発酵させる必要があるのですよね?」
「あぁ。常温で半年くらいな」
「随分かかりますね」
「辛いんだよ、とにかく。丸みを帯びた美味さを引き出すには時間がかかる」
だが、今回は小分けにして熟成時間を短縮しようとしている。
「それでしたら、発酵も任せられる味噌職人をご紹介しましょう。彼に任せておけば、間違いなく完璧な発酵をしてくれるでしょう」
そうか。何も俺が作らなくても、プロに任せれば麹の管理もしっかり出来るか。
「ですが、その場合は、その……作り方の方を教えていただくことになりますが……ふふふ」
「分かってるって。成功したら一枚かませてやるから」
「でしたら、是が非でも成功させましょう!」
アッスントが乗り気だ。
もう確信しているらしい。「これは儲かる」と。
「あの、ヤシロさんに作っていただいた『豆板醤もどき』で野菜を炒めてみたんですが、おひとついかがですか?」
小皿に載った野菜炒めを、ジネットがそっと差し出してくる。
こいつは、味噌とラー油、あとは塩と醤油で味を調えたなんちゃって豆板醤、いわゆる『豆板醤もどき』だ。
ちなみに、ラー油も自家製だ。レジーナのところに唐辛子と八角があったので以前作ってみたのだが、こんなところで役立ってくれるとは。なんでも試してみるものだな。
「んんっ!? これが豆板醤の味ですか!?」
「『もどき』だけどな」
「ピリッと辛くて、食欲をそそりますね!」
「いつも味付けに使う調味料をこれに変えただけですので、どなたでも簡単にこの味が出せると思いますよ」
「なるほど。ジネットさんほどの腕前がなくともこの味が出せるとなれば…………」
アッスントの頭蓋骨の中からそろばんを弾く音が聞こえてくる……気がするくらい、分かりやすく脳内で銭勘定をしてやがる。
「少し手強いかもしれませんが、プロ中のプロをご紹介しましょう! 味噌職人界のレジェンドをなんとか口説き落としてみます!」
先ほど紹介すると言っていた人物よりもワンランク上の人物へ切り替えたようだ。
味を見て、本格的に成功させにかかったのだろう。
しかし、味噌職人界のレジェンドって……いるもんだなぁ、どこにでもそういう有名人って。
「こうしてはいられません! すぐに話をつけてまいります! あの、その『豆板醤もどき』という物を少し拝借しても? 説得する際の武器になると思いますので、是非!」
「は、はい! お持ちください。セロリなどにつけて食べても美味しいですので、試してみてください」
「助かります!」
ばたばたと、準備が進む。
交渉はアッスントに丸投げしても問題ないだろう。ということで、俺は豆板醤のレシピを口頭で伝えておく。
仕事を任せるなら、それが可能かどうかまで検討してもらいたい。まぁ、味噌作りよりも簡単なはずだからそこは問題ないだろうが、正体の知れない物の作製に応じる人は少ないからな。
「ソラマメを使うんですか……そんな発想はありませんでしたね」
アッスントが感心したような目で俺を見る。
やめろ。俺が考えたんじゃない。昔の料理上手か誰かが編み出した物を、ウチの女将さんがアレンジしてお手軽にしたレシピだ。
俺はその情報を知っていただけだよ。
「実は、ソラマメは需要に対し供給過多でして……どうにも捌き切れなくて困っていたところなんですよ」
「だろうな……」
なにせ、名産地でこんなにも押しつけられるような代物だからな。
余るなら生産量をセーブしろっての。ノルマとか言ってないでさ。
「とにかく、必ず色よい返事をいただいてきますので、期待していてください」
「おいおい。俺に『必ず』なんて言っていいのか?」
上手くいかなければカエルにされちまうかもしれないぞ?
「ほっほっほっ。ヤシロさんは信用に値する方ですので平気です」
「ほぅ。それはいいことを聞いた。利用しやすそうで助かるよ」
「んふふ……それに。ヤシロさんとしても、私をカエルに変えてしまうより、生かし続けて利用する方がうま味があるでしょう?」
まぁ、それはそうだな。
アッスントをカエルに変えてもなんらメリットがない。
「これくらいの刺激があった方が、良好な関係が長続きしますからね。友人関係というのは」
「えぇ……いつから友人になったの、俺ら……」
「気が付いた頃には……ですよ。んふふふ」
嬉しそうな顔すんじゃねぇよ、気持ちの悪い。
新たな商売に胸を膨らませ、上機嫌でアッスントは帰っていった。
「……ったく。あいつに頼みごとをするのは骨が折れるよ」
盛大に息を吐くと、隣でジネットがくすくすと肩を揺らす。
「でも、とても楽しそうな顔をされていましたよ。お二人とも」
「どっちも金儲けが大好きだからな」
「仲良しさんなんですね」
やめてくれ。寒気が悪化して寝込みそうだ。
くすくすと笑うジネットの後ろで、ロレッタがホットケーキを量産し、ベルティーナがそれを食べていた。……お前ら、この後朝飯食うんだぞ? いい加減にしとけって。
「ベルティーナ。それくらいにしとけ。朝飯食えなくなるぞ」
「平気ですよ。甘い物は別腹ですので」
「……別腹って、先に満たしてもいけるもんなの?」
あれって、腹いっぱいでもまだ食えるってヤツじゃなかったっけ?
「とにかく、もうダメです。没収します」
「あぁ~っ!」
手を止めようとしないベルティーナの前からホットケーキを没収するジネット。
こういうところでは厳しさを発揮出来るんだなジネットは。激アマではあるが、一応躾とかは出来るのか。……立場が逆だけどな。しっかりしろよ、母親代わり。
「このピーナッツバターというのは凄いですね。いくらでも食べられそうです」
「食べ過ぎると太りますけどね」
「飢えるよりもずっといいことではないですか」
この世界の、特に貧困にあえいでいた四十二区ではそうなのかもしれない。
……だが、ベルティーナレベルで食い続ければ、教会のガキどもがみんな肥満児になってしまう。それは看過出来ない。
「使用量の制限が必要だな」
「そうですね。食べ過ぎはよくないですからね」
その言葉、もっと早くお前の母親代わりに教え込んでおいてほしかったよ。
まぁ、そう思えるのも、四十二区の食事事情が充実してきたって証拠かな。
喜んでいいのやら、嘆くべきなのか、複雑だ。
「では、そろそろ教会に向かいましょう」
下ごしらえをした食材を台車に積み込み、豆板醤もどきとピーナッツバターもしっかりと持って、俺たちは教会へと向かった。
「ヤシロ、待ってたぞ!」
「ヤシロ、待ってたさね!」
陽だまり亭を出ると、そこにデリアとノーマが待ち構えていた。
「今すぐ川に来てくれ! 見せたいものがあるんだ!」
「今すぐ川に来ておくれな! 見せたいものがあるんさね!」
右と左で、同時に同じ内容の言葉を浴びせかけられる。
なんだよ、お前ら二人して。
「店長、ちょっとヤシロ借りてくぞ!」
「店長さん、ちょぃとヤシロを借りていくさね!」
両腕をがっしりと掴まれ、俺は巨乳美女獣人二人に担ぎ上げられるように連行されていった。
遠ざかっていくジネットから、「では、教会でお待ちしてますね~!」という見当違いな言葉が飛んでくる。いやいや、とりあえず止めろよ、こいつらの暴走を。
カップルのように腕を絡ませてくるデリアとノーマ。
カップルのようではないことといえば、デリアとノーマの顔がすげぇ必死だってことと、腕が物凄い力で拘束されているってこと、あと、体の向きが逆で俺が後ろ向きに進んでいるってことくらいか。
「つか、速い! 怖い! ちょっと落ち着け! 俺、足ついてないから! ずっと浮きっぱなしだから!」
まさに、抱え上げられて、俺は川へと連行されていく。
「見てくれ、ヤシロ! 川の流れが戻ったんだ! さすがヤシロだ! ちゃんと水門を開けてきてくれたんだな!」
物の数分でたどり着いた河原で、大はしゃぎするデリアをよそに俺は河原に四肢をついて蹲っていた。
……怖かった。安全バーのないジェットコースターって、全然楽しめない。
「昨日の昼くらいから水の流れが元に戻ったんだよ! ニュータウンを見てきたけど、ちゃんと滝もあったし、その下でロレッタの妹たちがわらわら水浴びしてたぞ! 裸で!」
いや、「裸で!」って情報はいらねぇな……俺はそこに興味を示すような性癖は持ち合わせてないんでな。
なんとか気を持ち直して顔を上げると、確かに川に勢いが戻っていた。
まだまだ水量は少ないが、きちんと流れている。これだけ水があれば、足漕ぎ水車を使わなくても水路にも水が流れていくだろう。
「そっちが終わったんなら、次はアタシの番さね!」
閉じられていた水門が開き、嬉しさのあまり暴走してしまったのであろうデリアはなんとなく分かるのだが、なぜノーマまでもが俺を強引に引っ張ってきたのか。
一体、河原で俺に見せたい物ってのはなんだ?
…………はっ!? まさか!
「新作のビキニか!?」
「違うさね!? 水着なんか持ってきてないさよ!」
「じゃあ何着て泳ぐんだよ!?」
「泳がないさね!」
別に、シャツのまま水に入ったっていいんだよ!
それはそれで、なんだかとっても青春だから!
「子供たちが水車で遊んでるって聞いてねぇ」
得意げに煙管を取り出し、煙をくゆらせるノーマ。
水車の前まで移動して、この前まではなかった『ある物』にぽんっと手をかける。
「アタシが手すりを作ってやったさよ! これで、転落する危険はなくなったさね! 子供らも存分に遊べるさよ!」
水車の周りには、金属製の柵と手すりが取り付けられていた。
……どうしても一枚噛みたかったのか。仲間外れが嫌だったのか。
「イカリ作ってやれよ……」
「そ、それは鋭意作製中さね! だ、だいたい、あんなでかいもんは一日やそこらで出来るもんじゃないから、合間に別のことしたって平気なんさよ!」
「っていうか、ガキどもは自分から飛び込んだりしてんぞ?」
「と、飛び込みと転落は違うんさよ!」
ノーマが必死だ。
こいつも若干イメルダと近いもんがあるな……ウーマロに対するライバル心とか。
まったく……
「イカリを早く終わらせてくれないと困るんだよなぁ」
「なんでヤシロが困るんさね? マーシャが、『次の航海は一ヶ月先なの~☆』って言ってたから、それまでに納品出来れば問題ないんさよ」
「え、なに、今のマーシャの真似? もう一回やって!」
「い、嫌さね!? 別に真似するつもりなんかなかったさよ!」
「いやぁ、ちょっと可愛かったんだが。もう一回見たいなぁ~……ちらっ」
「かっ…………可愛いとか、言ったって…………そんなことで……」
じぃ~っと見つめると、ノーマの手が次第にわさわさと忙しなく動き出し、煙管を握ったり回したりしまったり出したりし始める。
でも、まだ、じぃ~……
「ちゃっ、ちゃんと練習……してから、さね」
ノーマが折れた。
というか、練習するのか、マーシャのモノマネを。……その練習が見てみたいな。
「と、とにかく! イカリに関してはちゃんと計画立てて作ってるから心配いらないんさよ」
「いや、そうじゃなくてだな」
別に俺はイカリの完成をせっつきたいわけではない。
こいつにも適度な仕事を与えておかないと、「子供のため」とか言って河原全体に安全バーとか付けかねないからな。
ちょうど欲しい物も出来たし、それを依頼しておこう。
「ちょっと頼みたい物があるんだよ」
「作るさねっ!」
おぉう……ウーマロ並みの即決力。
あれ? 四十二区って、今仕事ないの? あるよな? むしろ前より忙しくなってるはずだよな?
ノーマんとこは、街門の補強部品とか、兵士の武具とか、いろいろ手がけているはずなんだけどなぁ……
「それで、何を作りゃあいいんさね?」
物凄くぐいぐい来る。その勢いでおっぱいを押しつけてくれればいいのに、その寸前で止まる。
くぅ……ままならないっ!
「前にミルを作ってもらったろ?」
「ミル……あぁ、コーヒー豆を粉々にするヤツさね」
「あれをちょっと改良して、別の物を潰せるようにしてほしいんだ。出来れば、粗さを調節出来ると嬉しい」
「ベースがミルなら、割と簡単に作れるとは思うけど……今度は何を作るつもりさね?」
折角ピーナッツが腐るほど手に入ったからな。
俺が日本で好きだった物を再現してみたくなっただけだ。
「ドーナツを作ろうかと思ってな」
パンが作れないということで、俺の意識は小麦から離れトウモロコシ粉や米に向いていたのだが、今朝ロレッタがホットケーキを作っていたのを見て、ピンと来たのだ。
ドーナツなら、石窯で焼かないからパンには該当しない。
作るのもさほど難しくもないし、腹もちもいい。
あれなら、陽だまり亭でも出せるじゃないか、とな。
中でも俺は、表面にチョコをコーティングして砕いたピーナッツをまぶしたドーナツがお気に入りだったのだ。
プレーンと、何種類かの味を用意すれば、また女子たちが食いつくだろう。
「それは、どんな料理なんだ!? お菓子か!?」
「道具を作ったら、また試食させてくれるんかい!?」
……このように。
なんだろう。この街の人間は、俺が何かを作るとテンションが上がるような催眠にでもかかってるのか? パブロフの犬じゃあるまいし……条件反射って怖ぇ。
「甘いお菓子だ。なかなか美味いぞ」
「ノーマ! あたいも手伝うからすぐ作ってやれ!」
「あんたに手伝いなんかされたら余計時間かかっちまうさね! 徹夜で完成させてやるさよ……っ!」
いや、ノーマ……燃えているところ悪いんだが。
「イカリは、ちゃんと作ってやれよ?」
「大丈夫さね! 期限はばっちり守る、それがアタシのポリシーさよ!」
「そうだぞ、ヤシロ! まだ一ヶ月もあるんだ! ノーマならきっと間に合わせる! だからドーナツが先だ!」
デリアは、ノーマを応援しているのか、酷使しようとしているのかどっちなんだろうな。
「イカリは後回しでいいのか?」
「問題ないさね! 必ず間に合わせるさよ!」
「で、マーシャはなんて言ってたんだっけ?」
「『次の航海は一ヶ月先なの~☆』……って、言わせんじゃないさよ!」
「なぁ、ノーマ……全っ然マーシャに似てねぇぞ?」
「うっさいさね! まだ練習中なんさよ!」
マスターする気なんだ、ノーマ。
「はぁぁ……川は元通りになるし、ドーナツは食べられるし……いい日だなぁ、今日は」
「まてまて。今日はドーナツしないからな?」
「なんでだよ!?」
「まだなんの準備もしてねぇんだよ!」
一日にそう何個も作れるか。
まだまだ豆が余ってるんだ。今はそっちをどうにかしないとな。
「ピーナッツバターも作んなきゃいけないし、今日はそっち優先なんだよ」
「「ピーナッツバター!?」」
物凄い食いついてきた!?
「手伝う! 川漁はしばらく休みだし! あたい手伝ってやるよ!」
「アタシも手伝うさね!」
「ノーマはミルとイカリ作れよ!」
「はっ!? もしかして、今教会に行ったら……!?」
「それさね、デリア! 今頃シスターのところで試食会してるに違いないさね!」
「よし! 行こう!」
「行かいでかぃな!」
「おい、お前ら!?」
俺を強引にここまで連行してきた二人が、今度は俺を置いてけぼりにして物凄い速度で河原を出ていく。
くっそ!
ベルティーナに加えてデリアなんて……世の中の甘い物が枯渇しちまうぞ!
……ノーマは、まぁ、普通に食べるだけだろうし、気にしなくてもいいか。割と少食だし。
とにかく、これ以上広まると厄介だ。まだピーナッツバターも全然作ってないのに。
ハムっ子たちとのんびり殻剥きして、まったりと作るつもりが……すげぇせっつかれそうだ……
「阻止せねばっ!」
右足に渾身の力を入れて大きく踏み出す。
全力で地面を蹴りつけ爆走する二人を追いかけ…………って、もう見えない!? あいつら、そんなに足速かったっけ!?
大急ぎで教会へと引き返すが、俺がたどり着いた時にはもうデリアたちは談話室へと上がり込んだ後だったようだ。……物凄い盛り上がってる。
「ガキ共も、大騒ぎだな……ったく」
半ば諦めの境地で、俺は教会に入っていった。
玄関先で俺を出迎えてくれたのは……
「遅かったな、カタクチイワシ」
「早ぇよ、来んのが!」
ルシアとギルベルタだった。
……こいつらが来るのは昼過ぎだと思っていたのに。どんだけ楽しみにしてたんだよ。
「さぁ、出すもの出してもらおうか!」
「借金取りかっ」
今言われてもすぐには出ねぇよ。
「あ、ヤシロさん! 大変です、ピーナッツバターが底をついてしまいました!」
「……早急に追加が必要」
「今、手の空いているウチの弟妹を呼び集めてるです! もうすぐやって来ると思うです!」
厨房から陽だまり亭の三人娘が顔を出し、その後ろからほくほく顔のデリアとノーマが現れる。
「一口だけもらったけど、美味いなぁ、ピーナッツバター! あたい、アレ大好きだ!」
「子供たちの分を取るのは悪いから遠慮したけんど……もうちょっと食べたいさねぇ」
それに続いて、わらわらと教会のガキ共とハムっ子が現れる。
「おにーちゃん! おいしかったよー!」
「おかわりー!」
「やちろー! もっとー!」
「おねだりー!」
俺を取り囲み群がってくる。
アリか、お前らは!? 甘い物に群がる習性でもあるのか!?
「あ、あの、ヤシロさん……どうしましょうか?」
「どうしましょうって…………」
ガキどもを一発ずつ殴って黙らせるか?
……いや、デリアとノーマには勝てない。あいつらがガキどもについているうちは返り討ちに遭うのが関の山だ。……どうにかして大人しくさせたいのだが…………
「ちゃんとご飯を食べない子は、甘い物は抜きですよ」
パンパンと手を打ち鳴らし、ガキどもを沈めたのは、意外にもベルティーナだった。
「うふふ。甘い物は魅力的ではありますが、栄養面を考えると、やはりきちんとした食事が一番ですので」
そうだった。
この人は躾には厳しい母親代わりなんだったな。
ご飯よりおやつを優先すれば、どこの親だって子を叱る。
……ただ、なぜそれを自分に言い聞かせられないのか…………あ、この人は『ご飯も』しっかりと食べるからか。ガキどもと違って「おやつでお腹いっぱ~い、ご飯いらな~い」とは、ならないもんな。
「私はまだ食べていないので、早急に作るのだぞ、カタクチイワシよ」
「わくわくしている、私も、昨日から」
そして、大の大人からの圧力……分かったよ。
「飯食ったら、作業に取りかかるぞ」
「はい!」
「……腕が鳴る」
「我が家の弟妹大集結です!」
朝っぱらから全力モードの陽だまり亭。
ただのピーナッツバターなんだけどなぁ…………でもまぁ、この感じから言えば、流通させさえすれば物凄く売れそうだ。
それがせめてもの救い、かもな。
御来訪ありがとうございます。
諸事情により、更新速度がまた一段階遅くなっております。
お待ちくださっている皆様にはご迷惑をおかけし、
残暑厳しい街の中で薄着にパイスラの巨乳美少女には感謝をしております。
皆様、どうもありがとうございます。
……おや。謝るつもりだったのですが……?
現在、『異世界詐欺師のなんちゃって経営術』三巻を鋭意制作中です。
制作状況を逐一お伝えしたいところですが、いろいろと言えないこともございますので、
言えない箇所は『 【おっぱい】 』で隠し、極秘扱いとしてご報告させていただきます。『 【ピー】 』みたいなものだと認識の上お読みください。
それはそうと、『逐一』って、一文字変えると『乳首っち』になりますねっ☆(小さい『っ』はサービスです)
さて、三巻の進捗状況ですが、現在【おっぱい】に関するお話を書いております。
…………ん? 隠せて、ない? いやいや、おっぱいに関するお話を書いているわけではないですよ? あくまで【おっぱい】に関する話であって…………おかしい。まぁ、気にせず続けます。
今回は、【おっぱい】付近から【おっぱい】辺りのお話になるかと思います。
メインはやっぱり【おっぱい】の話になるんでしょうけど、【おっぱい】や【おっぱい】も出てくるんじゃないかな~、と予想しています。
やってみないと分からないんですけどね、いつも。ほら、【おっぱい】って生きてますから。
私もよく言うことですが、【おっぱい】が勝手に動き出すんですよね。
きっと、今回も【おっぱい】が盛大に大暴れしてくれることでしょう。
ただ、一つ不安なのが【おっぱい】なんですが……果たして【おっぱい】は【おっぱい】のままでいいのか、それとも新しい【おっぱい】の方がいいのか……悩みます。
もしかしたら、大きな【おっぱい】というより、細々とした【おっぱい】が散りばめられるかもしれません。あっちに【おっぱい】こっちも【おっぱい】――みたいな。
ただ、新キャラの【おっぱい】には、期待していただいていいのではないかとっ!
この【おっぱい】は、これまでの【おっぱい】と違って、【おっぱい】ですので!
――とある【おっぱい】な日
編集様「もしもし、編集部の【おっぱい】(仮名)です」
私「お世話になっております」
編集様「三巻に関してですが、【おっぱい】月までに【おっぱい】を提出していただけると助かります」
私「【おっぱい】に関しては問題ないと思います。ただ、今ちょっと【おっぱい】で悩んでまして」
編集様「【おっぱい】……ですか?」
私「はい。【おっぱい】です」
編集様「悩ましいですよね、【おっぱい】」
私「今回はメインを【おっぱい】にして、徹底的に【おっぱい】を『【おっぱい】ー!』ってしたいんです」
編集様「【おっぱい】ですか! いいですね、【おっぱい】! ……あ、ですが、そうなると新キャラの【おっぱい】はどうなるのでしょうか?」
私「新キャラの【おっぱい】は、インパクトのある【おっぱい】にしたいと思ってますので、初っ端からドーンと【おっぱい】とかどうかなと」
編集様「インパクトのある【おっぱい】はいいですね。では、【おっぱい】はそれで行きましょう」
私「あ、そういえば。この前【おっぱい】を専門的に取り扱うお店を見つけまして、取材をしてきましたので、三巻ではリアルな【おっぱい】をお届け出来ると思いますっ!」
編集様「そうですか。では、リアルな【おっぱい】を期待しています」
私「はい! 私の本気の【おっぱい】、見ていてください!」
――というわけで、ただいま全力で【おっぱい】中です!
皆様、もうしばらく【おっぱい】でお待ちくださいっ!
※あくまで【ピー】の代わりですので、熱烈におっぱいの話をしていたわけではありませんのであしからず!
それはそうと、編集様の名前を勝手に(こんなことに)使用して…………いつか怒られる気がしてきました…………よし、謝ろう! ごめんなさい!
そんなわけでして、
現在真面目に三巻書いております!
もちろん、おっぱい以外もちょこちょこ出てきますよっ!(ちょこちょこだけ!?)
感想返しは、しばしお待ちください。
あれは始めると、私、仕事そっちのけで「ぅわ~い!」しちゃうので。自制です自制!
――ネフェリーの部屋
ネフェリー「はぁ……自制しなきゃなぁ」
――部屋にはオシャレな服がズラリ
ネフェリー「だって、ウクリネスさん、やたらと私に服勧めてくるんだもんなぁ……つい買っちゃうよねぇ、可愛いし…………見せる相手、いないんだけど。……いや、いないということはない、かも、だけど………………見せに、行っちゃおうかな? なんていうかな……ヤシ……」
ネフェリー母(遠くから)「ネフェリー! お友達がいらしたわよー」
ネフェリー「えっ!? まさか!?」
――ネフェリー慌てて玄関へ向かう
ネフェリー「(まさか、まさかまさか、こんな絶妙のタイミングで……会いに来てくれたの!?)ヤシ……っ!」
ミリィ「ぅえ~ん……ねふぇりーさん、助けてぇ~……」
ネフェリー「ミ、ミリィ……?」
ミリィ「ぅん。みりぃ…………」
ネフェリー「……だよねぇ。来ないよね、そうそう都合よくは」
ミリィ「ぇ? なぁに? みりぃ、タイミング悪い時にきちゃった、かな?」
ネフェリー「ううん! 平気! 気にしないで」
ミリィ「ぅん……急に来て、ごめん、ね?」
ネフェリー「でも、どうしたの? さっき『助けて』って」
ミリィ「ぅう…………(しくしく)」
ネフェリー「ちょっと、どうしたのミリィ!? 何があったの?」
ミリィ「…………ねぐせ……」
ネフェリー「ねぐせ?」
ミリィ「……直んないのぉ……」
――ミリィの髪が「ぴよんっ」と跳ねている
ネフェリー「なんだ、ねぐせかぁ……」
ミリィ「なんだじゃないよぅ……全然直らなくて困ってるんだよぅ……」
ネフェリー「じゃあ、上がって。私が直してあげる」
ミリィ「ぅん……ねふぇりーさん、オシャレ得意だから、お願いしたくて……」
ネフェリー「はいはい。おいで」
――ネフェリーの部屋へ移動する二人
ネフェリー「むむむ……手強いわね……」
ミリィ「朝からずっとやってるのに、ずっとこうなの……」
ネフェリー「変な格好で寝たの?」
ミリィ「普通だよ。ただ、昨日は森の視察に行ってて、雨が降ってきて、洞の中で雨宿りして、そこで寝ちゃって……」
ネフェリー「寝相の前に、寝た場所が悪かったのね……」
ミリィ「……樹液で固まっちゃったのかな?」
ネフェリー「ベタベタはしてないけどね。…………ん~、これはちょっと直らないかなぁ」
ミリィ「そんな…………この後、陽だまり亭に行くのに……」
ネフェリー「そっかぁ……あっ! だったらいいもの貸してあげる!」
ミリィ「いい、もの?」
――ネフェリー、衣服入れから大きくてふっくらした帽子を出してきてミリィに被せる
ネフェリー「うん。似合う」
ミリィ「……帽子? これ、かわいい……」
ネフェリー「あ、でも、これじゃあ折角のテントウムシが見えないか……ねぇ、ちょっと外していい?」
ミリィ「ぇ? ぅん。いいよ」
――ネフェリー、ミリィの髪留めを外し、帽子にピンを刺して取り付ける
ネフェリー「はい、これでよし」
ミリィ「ぅぇええ!? ぁ、あの、ねふぇりーさん!?」
ネフェリー「ん? なに?」
ミリィ「ぁ、あな! 穴、あいちゃった、ょ? ……こんな、かわいい帽子なのに……」
ネフェリー「あぁ、いいのいいの」
ミリィ「でも……」
――ネフェリー、ミリィの頭をそっと撫でる
ネフェリー「帽子がどんなに可愛くったって、女の子のオシャレの方が大切に決まってるじゃない。だから、いいの」
ミリィ「ねふぇりーさん…………ありがと。やさしい、ね」
ネフェリー「ふふ。やっと笑ったね。陽だまり亭では、その笑顔を心がけるんだよ」
ミリィ「ぅん。そうだ、ねふぇりーさん。一緒に行かない? ケーキ、ご馳走させてほしい、な」
ネフェリー「いいの? じゃあ、遠慮なくご馳走になろうかなぁ」
ミリィ「ぅん!」
――陽だまり亭
ミリィ「こ、こんにち、はぁ……」
ネフェリー「遊びに来たよ~」
ヤシロ「おぅ! いらっしゃい」
ミリィ「ぁ、あの、ね。てんとうむしさん、ケーキを……」
ヤシロ「おっ。ミリィ、今日はオシャレしてるな。似合ってるぞ」
ミリィ「ぴっ!? …………もきゅ~…………」(思考停止)
ネフェリー「ちょっと、ミリィ!? 大丈夫?」
ミリィ「……みゅぅ……」
ネフェリー「あ~ぁ……じゃあ、ヤシロ、ケーキを二つ。とびっきり美味しいやつね」
ヤシロ「へいへい。そっちの席座ってろ」
――席に座る二人。ミリィ、テーブルに突っ伏し身悶える
ミリィ「……似合うって……言ってくれた…………っ!」
ネフェリー「よかったね、ミリィ」
――ほんの少しだけ、寂しそうな表情を見せるネフェリー
ネフェリー「……(ま、さすがに覚えてないよねぇ……)」
ヤシロ「へい、お待ち~」
ネフェリー「あ、もう来たの。……あれ? 一個多くない?」
――ミリィの前に一つ、ネフェリーの前に二つのケーキが置かれる
ヤシロ「俺からのサービスだ」
ネフェリー「え、なんで私だけ?」
ヤシロ(ネフェリーの耳元でこそっと)「(あれ、お前が気に入ってた帽子だろ?)」
ネフェリー「……へっ?」
ヤシロ「(前に見せてくれたろ? 買ってすぐに)」
ネフェリー「え……覚えて……?」
ヤシロ「(すげぇ気に入ってたっぽいのに、ミリィのために穴まであけてやったんだろ)」
――ヤシロ、ネフェリーの頭をぽんと叩いて
ヤシロ「相変わらず優しいネフェリーに、俺からささやかな贈り物だ」
ネフェリー「――っ!?」
ヤシロ「じゃ、ゆっくりしていけよ。今日は珍しく忙しいからあんま構えないけどな」
――ヤシロ、仕事に戻る
――途端にネフェリーも机に突っ伏し身悶え始める
ネフェリー「…………優しいに、『相変わらず』って……付いてた…………付いてたぁー!」
――陽だまり亭の一角で、向かい合って突っ伏してもにもに身悶える二人の少女
――それを遠くから眺めるパーシー。「はぁぁ、身悶えるネフェリーさん、可愛いっ!」とか呟いている。そんなパーシーをストーカーとして捕まえようとするマグダ。と、それを止めようとするエステラ。あと、そこら辺で普通に働いてるロレッタ。「普通じゃないですよっ!」とか怒るロレッタ。ロレッタ普通。超普通。
というわけで、最近出てきていないネフェリーとミリィのSSでした!
ヤシロ…………絶対ワザとやってるだろう、それ。イケメンぶりやがって!
といったところで、今回はこの辺で!
次回もよろしくお願いいたしますっ!
宮地拓海




