164話 二十九区を歩く
「狭っ!」
馬車を領主所有の厩に預け、二十九区を歩く。
道が、狭い!
「こちらの道へは、馬車で来られないようになっているのだ」
「馬車が通れるのは限られた大通り数本だけなんだよ」
「関税をかけるための措置ですね。商人の多くは馬車で大量の荷を運びますから」
「理解したか、友達のヤシロ?」
「順番に説明してんじゃねぇよ、バカにしてんのか」
持ち回りでドヤ顔をさらす一同を睨みつける。
だいたい分かるわ、そんくらい。
午前の早いうちに二十九区の領主の館へとたどり着いた俺たちは、そこで想像通りの出迎えを受け――具体的には「こんなに早く来るとは常識がないのではないか」とか、「外の貴族は時間の概念が我々とは異なるのかもしれないな」とか、「田舎者の朝は早いという噂は真実であったか」とか、そんな通り一遍なイヤミのオンパレードだったわけで、特筆することもなくただムカついたなぁ、という程度のことだったのでスルーすることにした――そして、当初の予定通り街の視察に出向いているというわけだ。
領主の心根は薄汚いくせに、街並みはこぢんまりとしつつも綺麗なものだった。
二十九区は、三十区から続く大通りが最も大きく、それ以外にも馬車が通行可能な通りが数本ある。
ただし、それ以外の通りは極端に狭く、馬車はおろか荷車すら通るのが困難な造りになっている。
ワザとなのだろうが、やたらと段差を設けてありアップダウンが激しい。……歩くのが面倒くさいったらないな。
街の中心部付近だってのに、大通りを一本入るだけで全体的に『路地裏』感満載の入り組んだ道になるのだ。
頭の高さを優に超える塀や、近接した建造物、大通りの喧騒を掻き消すかのように密集した建物の壁――それらが陽の光さえも遮り、圧迫感が途方もない。
街規模の巨大迷路のようだ。
「居住区と商業区は概ねこのような構造になっているのだ。もう少し奥へ行けば農業区へ出て道も広くなるがな」
東側を指さし、そんな説明をくれるルシア。
要するに、大通りの周りをこういう道にしておけば、馬車や荷車は大通りを通行するしか出来ないってわけだ。外部の商人はそのほとんどが馬車移動だから、裏道を通って関税逃れが出来ないようになっているんだな。
だが、ここに住む連中だって荷車くらい使う。だから、街の奥へ行けば道が広くなり、荷車も使用出来るような造りになっているらしい。
つまり、二十九区は外部から来る『お客様』が見る街と、そこに住む『住民』が見る街の二面性を持っているわけだ。
舞台と舞台裏。そんな異なる世界がこの街の中で隣り合わせになっているわけか。
「けど、荷物を背負えば持ち運びも通り抜けも出来そうだな」
区の間に壁があるわけでもないし、人目を盗んで通り抜けることは可能だろう。
「通り抜けられそうなところは監視されているぞ」
「マジでか!?」
「無論だ。収入のほとんどが通行税のような街だぞ? そこに力を入れないでどうする」
「おびき寄せて網にかける……いやらしいやり方だな」
この街に来たばかりの人間なら、そうとは知らずに引っかかりそうだ。
いや、最初は正規のルートを通りつつも、どこかに抜け道がないかと悪知恵を働かすような小悪党がカモってわけだ。
俺、ターゲットドンピシャだな。
妙な寒気が背筋を撫でる。
けどまぁ、大荷物をぶら下げていたわけでもないし、目を付けられていたなんてことはないだろう。うん、大丈夫大丈夫。
「ちなみに、ここで税を払うと許可証がもらえるんだけど、ここより内側で商売するにはその許可証が必要不可欠なんだよね」
「……え?」
不意に、エステラが不穏な話を始める。
「だって、外からの商人は絶対『BU』を通過するわけだから、許可証は確実に持っているはずだろう? そうじゃない場合は、この街のギルドに所属しているか領主からの勅令を受けた者か……とにかく、『BU』の内側で商売するのはかなり制約があるんだよ。外周区ではあまりその辺こだわってはいないけどね」
……そういえば、ギルドの証明やら領主の許可証の提示をやたらと求められたような気がする。
「脱法者を領主に突き出すと報奨金がもらえるから、売買をするフリをして通報する商人も多いみたいだよ。まぁ、悪事を働いた者の末路なんてろくなものにならないってことだよね」
エステラからの小憎たらしいウィンクに、乾いた笑いしか出てこない。
こいつは全部知っていて言っているんだからな、嫌なヤツだ。
「外周区はあまり気にしないってことは、内側から『BU』を通って外へと商売へ行くヤツは脱税し放題ってわけか? 不公平なんじゃねーのー?」
せめてもの腹いせに、そんな難癖をつけてみる。……が。
「もちろん不公平だよ。当然でしょ?」
「まぁ……そうだよなぁ」
内側から外に行く連中ってのは、『BU』の貴族よりも位の高い貴族たちか、その関係者だもんな。贔屓くらいいくらでもするだろうよ。
まったく、これだから貴族って連中は……
「いわゆる、『貴族砂糖』ってのは、『BU』の内側で作られてるんだな?」
「そうだよ。精製に関しては、権力誇示のために外周区に『恵んであげている』みたいだけどね」
大貴族様からお仕事をいただける誉れか? けっ、いるか、そんなもん。気分の悪い。
「この地より内側は、貴様には息苦しい場所になるだろうな、カタクチイワシよ。どうだ? ちゃんと呼吸は出来ているか?」
「吸う度に胸やけしそうな空気だが、なんとかな」
心なしか、酸素までもがぼったくられている気分になる。あとで請求とかされないだろうな。
「皆様、足元にお気を付け下さい」
先頭を歩くナタリアが、こちらを振り返らずに言う。
そのまま、聳え立つデカい建物の壁と一体になっている細く長い階段を登り始める。
レンガを積み上げて作られた階段は、地上から2メートル程度のところで水平になり、細長い橋へと変わる。
橋の下には、細い水路が通っており、そこを清らかな水が流れていた。
「水、あんじゃねぇか」
「そうだね。この勢いなら、この先の農業区でも水が不足してるってことはないんじゃないかな」
橋の上から水路を見下ろし、俺とエステラはほぼ同じ感想を抱いた。
分かっちゃいたが、「二十九区は水不足のためやむなく水門を閉じた」なんてことは、間違ってもなさそうだ。
「どうされますか? このまま農業区へ向かいますか? それとも、すぐそこにあるカフェで一息入れますか?」
「カフェ!」
エステラが即答した。
……お前な。
「だってさぁ、アップダウンの激しい道をずっと歩いていたんだよ? 喉だって渇くよ、そりゃあ」
「まぁ、確かにな」
かくいう俺も汗だくだ。
雨の後ということもあり、この路地裏のように狭く空気が淀みやすい密閉された通路には酷い湿気が充満していた。
汗で水分が取られてノドがカラカラだ。
カフェがあるなら、冷たい紅茶でももらいたいものだな。
「でもまぁ……飲み物以外は期待出来ないけどね」
エステラの頬がぴくぴくと引き攣る。
ここの飯は相当不味いらしいな。エステラの表情を見るに、かなりのダメっぷりなんだろう。
俺も期待しないでおこう。
「ところで、カタクチイワシ。貴様は何を飲むつもりなのだ?」
歩きながらルシアがそんな問いを投げかけてくる。
なんでお前に、それも店にたどり着いてすらいない状況でそんなことを教えてやらねばいかんのか。着いてから決めると言いたいところだが……
「まぁ、アイスティーかな」
ノドが渇いたし、少し蒸し暑いからな。
「ヤシロ……陽だまり亭以外ではアイスティーは出てこないよ」
「あ……そうか」
この世界には氷がないのだ。
あるところにはあるのだが、結構な高級品扱いだ。
陽だまり亭では、紅茶を淹れた瓶を井戸に入れて冷やしている。
アイスティーという発想は、この街の人間には馴染みがない。『冷めた紅茶』扱いだ。
紅茶とは、ホットで嗜むものというのが一般的らしい。
「んじゃあ、フルーツ系のソフトドリンクにするか」
「ボクもそうしようかな」
「私は紅茶をいただきます」
「ナタリアさんと同じにする、私も」
「ふむ……なら、問題はないか」
一同の答えを聞き、ルシアが小さく首肯した。
問題?
なんだ、酒類は禁止とか、そういうルールでもあるのか?
「ルシアさんは何にするんですか?」
「私はリンゴのエールをもらう」
酒、OKなのかよ!?
つか、カフェじゃねぇのか、これから行くとこは。
酒が出てくるとなると、カンタルチカみたいな店なのかもしれないな。
「こうやってわざわざ答えさせたってことは、もしかして、領主様がご馳走してくださるという前振りなのかな? ん?」
さり気なくスマートなおねだりをすると、ルシアが歩みを止め、ものすご~く面倒くさそうな顔で振り向いた。
「もう少しまともな催促が出来んのか、カタクチイワシよ。そんな物言いでは、奢ってやる気をなくすぞ」
「もっと吐息交じりに、セクシーにおねだりしてほしいのか? こんな風にっふ~ん」
「やめろ……吐くぞ」
ルシアが真っ青な顔をしてこめかみを押さえる。
吐きそうな時は口を押さえるものなのだが……お前は気持ち悪いとこめかみから何か漏れてくるのか? 何それ、気持ち悪いっ。
「三遍回って『ルシア様はちょー美人』と言えば奢ってやらなくもないぞ?」
にやにやと、高圧的な視線を向けてくるルシア。
口角を持ち上げ「どうした? やってみろ、ほれほれ」的な顔で俺を見つめる。
ふ……舐めんじゃねぇぞ。
俺は、右足を軸にして、天才バレリーナも真っ青な美しいターンを高速で三回決め、水路に向かって大声で叫んだ。
「ルシア様はちょー美人っ!」
「……貴様、プライドはないのか……っ?」
「躊躇いを感じられなかった、友達のヤシロの行動には……潔い」
ルシアとギルベルタが困惑の表情を浮かべている。
ルシアよ……お前は俺を甘く見ている。
「奢ってもらえるなら、尻尾くらいいくらでも振ってやるっ! それが、俺だ!」
「あいつはあれでいいのか、エステラ!?」
「ボクに聞かれても困りますけど、ヤシロという男は、あぁいう人間ですよ」
それに、ルシアが美人だというのは事実だから嘘にもならないしな。
『精霊の審判』に引っかかりそうな発言なら、奢りを蹴ってでも拒否したが、事実であるなら褒めてやるくらいお安いものだ。
「逆に、ルシアの外見を貶すような言葉なら、絶対口にしなかったけどな」
「――っ!?」
ルシアの目が開かれる。
ふふん。作戦ミスを今になって痛感したんだろう。
だが、もう遅いぞ。奢りは確定だ! 翻すことは出来んぞ!
「……き、貴様に……っ」
キッと俺を睨み、食いしばった歯の隙間から絞り出すような声を漏らす。
「貴様に『ブスだ』『醜い』などと言われたところで……私は傷付きはせんぞ!」
「ふん!」と、ルシアはそっぽを向いて歩き出す。
俺たちを置いて、先々と一人で歩いていってしまう。
気のせいか……耳が少し赤かったような……?
「ヤシロ…………ルシアさんにまで粉をかける気かい?」
「待て待て! 誤解だ誤解!」
別に俺は、「ルシアのことを大切に思っているから、たとえ嘘でも『ブスだ』なんて言いたくないんだぜ(白い歯『きらーん』)」とかって意味で言ったんじゃねぇぞ!?
『精霊の審判』に引っかかるような発言は、後々関係が悪化した際に足枷になり得るから用心したって話であって…………えぇい、そんな遊び人を見るようなジト目を俺に向けるな!
「由々しき事態ですね……」
ナタリアが、静かな声で言う。
「ヤシロ様のストライクゾーンがBカップにまで下がってきているとは……」
「下げてねぇわ!」
「なんで下げてないのかな!? そういう線引きは差別を生むからよくないと、ボクは思うな!」
「なんでお前が怒ってんだよ!?」
「全然怒ってなんかないけれど!?」
「どちらにしてもエステラ様は範囲外ですので、気にされる必要はありませんよ」
「うるさいよ、ナタリア!」
仲がいいのか悪いのか、ピタリと息の合った口ゲンカを披露するエステラとナタリア。
つか、別にルシアを口説こうとか考えてないから! あいつの勘違いだから!
「申し訳ない思う、私は」
騒がしいエステラたちの声を遮るように、ギルベルタがすっと手を上げる。
「注目してほしい、私に。早く追いかけてあげてほしい思う、ルシア様を。ずっと見ている、こちらを、ルシア様が、ちょっと向こうの方から」
ギルベルタの指さす先、200メートルほど離れた先からルシアがこちらをじぃ~っと見つめていた。
……悪い。早足で立ち去った後はすぐに追いかけてやるのがマナーだったな。
なんか、空気読めなくてごめん。だから、そんなに膨れんなって。ほっぺた破裂するぞ。
「ま、待てよ、ルシア~!」
一応、そんな言葉を発してから、足早にルシアを追いかけるフリをする。
こういうのも、接待っていうのかね。
わらわらと細い道を進み、ルシアに追いつき、少々機嫌の悪いルシアと共に路地裏を一度離れる。
大きな通りに面したカフェがすぐそばにあり、俺たちはそこへと入っていった。
店の中は、バーというよりかはカフェに近い造りで、どこかメルヘンチックな内装だった。
イメージ的に、あわてん坊の時計ウサギが紛れ込んできそうな雰囲気の家具やインテリアで統一されている。
ナタリアの言った通り、ここはカフェのようだ。
「エール一つとフルーツのジュースを二つ、あと紅茶を二つお願いする、私は」
ギルベルタがまとめて注文をしている。
あらかじめ決まっていたので、メニューも見ていない。
なので、折角というか、他所の店に来たならその店の商品をチェックしたいという、曲がりなりにも一年以上飲食業に携わってきた者としての使命感により、俺はメニューを開いた。
「あっ!」
メニューを開いて、真っ先に飛び込んできた文字に、俺は思わず声を上げてしまった。
「注文、ちょっと待ってくれ! 変更したい!」
立ち去ろうとしていた店員を呼び止め、俺はメニューを指さして見せる。
俺の指が指示している場所には『コーヒー』の文字が記されていた。
「フルーツジュースを一つ、コーヒーに変更してくれ」
まさか、他の店でコーヒーが置いてあるとは思わなかった。
こんなところでお目にかかれるとはな。
そういや、「取り扱っているお店もある」って、昔ジネットが言ってたっけな。アッスントから聞いたとかって言って。
そうか、その『取り扱っている店』ってのが、ここなわけだ。
ここいらではコーヒーを飲む習慣があるのかもしれないな。
俺が注文の変更を願い出ると、店員は嬉しそうな笑みを浮かべて「かしこまりました」と可愛らしく頭を下げた。
コーヒーに自信でもあるのだろうか。凄く嬉しそうに見えた。
一方……
「なんて顔してんだよ、ルシア」
ルシアの表情が目に見えて曇り、歪み、険しくなった。
そんなに高くもないだろう? ……と、メニューに視線を向けると、『ホットコーヒー、一杯20Rb』ということだった。エールが『50Rb』であるところを見ても、そんなに法外な金額ではない。何をそんな渋い顔をしているんだか。
「カタクチイワシよ……残すなよ?」
失望すらも感じさせる、侮蔑の視線が俺に向けられる。
なんだよ、コーヒーくらいで大袈裟な。
残さねぇよ。ピッチャーで出てくるわけでもないだろうに…………もしかして、一杯も飲みきれないほど激マズなのか?
「お待たせいたしました」
店員が、にこやかな営業スマイルで言う。
真っ先に運ばれてきたのは、ルシアの頼んだエールだった。
エールには、サービスなのか、小皿に盛られた落花生がついてきた。
「食べるか?」
すっと、ルシアが落花生の載った小皿を差し出してくる。
「お、どうした? 随分と気前がいいじゃないか美人のルシア」
「やめろっ、投げるぞ!」
落花生を握り、振りかぶるルシア。
やめろはこっちのセリフだ! 俺は鬼じゃねぇんだぞ! ……鬼に投げるにしてもピーナッツじゃねぇわ。
くれるというので、落花生を一つもらい、殻を割ってピーナッツをカリコリと咀嚼する。
うん、美味い。普通にピーナッツだ。
それからほどなくして、エステラのフルーツジュースがやってくる。
傍らには、落花生。
……ん?
さらにしばらくして、ナタリアとギルベルタの前に紅茶が運ばれてくる。小皿に載った落花生と一緒に。
「…………」
テーブルの空気が死んでいる。
誰も何も言わないまま数分が過ぎ、ようやく俺のコーヒーがやってくる。
もちろん、落花生と一緒に。
「落花生、多いわ!」
どんだけ推してるんだよ、落花生!
「ピーナッツが名産品だったりするのか、この区は?」
「いや、この区で盛んに作られているのはソラマメだな」
「じゃあソラマメ推せよ!」
「なんだ。貴様はソラマメ派なのか?」
「そんな派閥に入った記憶ねぇわ!」
なんだ。豆戦争でも起こってるのか? 何がソラマメ派だ!
ビールのお供ということなら納得も出来る。
だから、百歩譲ってエールについてくる分には違和感はなかった。
だが、フルーツジュースや紅茶、コーヒーに落花生がついてくるのはおかしい。
しかも、名産品でないとすれば、単なるサービスなのだろうが……相性とか考えろよ。
小皿に載った落花生は、一皿一皿がそこそこの量で、五人分を合わせるとスーパー等で売っている落花生一袋分くらいはありそうだった。
……そんな大量に食いたいもんでもないんだけどな、落花生って。
「ちなみにヤシロ」
落花生の殻を割りながら、エステラが声だけを俺に向ける。
視線は落花生に固定されている。真剣に殻を割っている……というより、疲れきって動くのも嫌になっている感満載の雰囲気で……
「食べ残すと、罰金だって」
と、壁に貼られている注意書きを指さすエステラ。
「……こんなに押しつけておいて、そういうこと言うか!?」
なんてことだ……
食べ残しは禁止だが、勝手に食い物をつけて寄越してくる。それは立派なぼったくりだ。頼んでもいないものを大量につけて「残すな」なんてのは悪徳過ぎるんじゃねぇのか?
「良識を疑うな、まったく」
「貴様に言われるようでは、相当酷いということだな」
ピーナッツをカリコリ言わせてルシアが言う。
ルシアの顔にも、うんざりとした色が浮かんでいる。なんとなく、こういう他人が決めたルールに従わされるのが嫌いそうだもんな、ルシアは。
俺は、四粒ほど食べてすでに飽き始めているピーナッツを放置して、コーヒーに口を付ける。
「マッズッ!」
口に含んだコーヒーは、雑味が多く、異様に濃く、偏頭痛を覚えるような不味さだった。
豆の挽き方も、お湯の淹れ方も、抽出の仕方も、濾し方も、すべてが雑なのだろうことが容易に想像出来る落第点の味だ。
この不味いコーヒーを片手に、落花生をポリポリ食わなきゃいけないのか……地獄だな。
うんざりして、さっさと店を出たくなった。
痛むこめかみを押さえつつ、くっそ不味いコーヒーを飲み干す。
……カップの底に粉が溜まってんじゃねぇか。なにドリップだよ、このコーヒー。
苦行を乗り越え、俺は空になったカップをソーサーに置いた。
その瞬間――
「おかわりをお注ぎしますね」
「えっ?」
いつの間にか背後に立っていた店員が、にこやかな営業スマイルで俺のカップにコーヒーのおかわりを注いだ。それもなみなみと。
……わんこそばかよ。
「『BU』にあるカフェはみんなそうなのだが――」
ルシアが硬い表情で淡々と説明をする。
「コーヒーだけはおかわり自由なのだ。……いや、『自由』ではないな……おかわり強制なのだ」
「なんだ、その傍迷惑なシステム!?」
しかも、そのコーヒーが不味いときた。
さらに、食べ残しは罰金……
「おい。この店、潰そうぜ」
「ふふ、残念だったな、カタクチイワシよ……この区の店は、だいたいがこんな感じなのだよ」
なんということでしょう……
街を挙げてのぼったくりとは……
この街、腐ってやがる!
「だから私が前もって確認したのだ。『この店で何を頼むつもりなのか』とな」
なるほど。
もしそこで俺が「コーヒー」と言っていれば、その段階で止めるつもりだったのだろう。
どういうわけか、コーヒーだけはおかわり自由……もとい、強制のようだからな。
日本でも、コーヒーだけはおかわり自由って店が多かったし、そんな感じなのかもしれないな。……ただし、客の意見や意思などは完全無視するのがこの街のスタイルのようだが。
「飲み干したらひっくり返してソーサーに戻すのだ。落花生も、食べ終わったら皿をひっくり返してやるといい」
「すげぇ汚れると思うが、テーブルが」
「構うものか。そういうルールにしたのはこの店の方なのだ。清掃まで責任を持って取り組むさ」
言いながら、手元のピーナッツをすべて平らげ、素早く小皿をひっくり返した。
落花生の殻や薄皮がテーブルの上に散乱する。
だが、ルシアは構う様子も見せずに、口に放り込んだピーナッツをエールで流し込む。
「こうしなければ、エンドレスでおかわりを持ってこられる。食べ残しの罰金は高いぞ? 上手くやることだな」
どうやら、罰金は自腹になるらしい。
……意地でも阻止してやる。
俺は、再び偏頭痛を引き起こしそうな不味いコーヒーを一気飲みし、落花生をすべて平らげて、カップと小皿を素早くひっくり返した。
落花生の殻と、コーヒーカップの底に沈殿していた粉がバラまかれる。
…………なんだ、このルール。誰も得をしない。
「ねぇヤシロ……ピーナッツって、好き?」
エステラが、そんなことを言いながら、俺の前へと六粒差し出してくる。
行きの馬車で、二十九区の飯の話をしていた時に、エステラの表情が曇っていた理由が少し分かった。
この区では、どこでもこんな感じなのだろう。
そんな『こすい』商売で売上を伸ばしているのか? それとも、他に何か理由があるのか…………
なんにせよ、この区での飲食には十分な注意が必要そうだ。
「貸しな」
そう告げて、差し出された六粒のピーナッツを口へと放り込む。
……口の中の水分がどんどん奪われていく。
それに合わせて、エステラが小皿をひっくり返す。
そして、それに続くようにナタリアとギルベルタも小皿をひっくり返した。
ジュースや紅茶はおかわりがない。
これでようやく、ゆっくり出来るわけだ。
…………つか、俺。全然ゆっくり出来てねぇ。
ピーナッツのせいで渇いてしまった口の中と、強制的に二杯飲まされたコーヒーが腹部で融合してちゃぷんちゃぷんのたっぽたぽだ。
……二十九区、メンドクセェ。
俺は、強制的に飲まされた不味いコーヒー(×二杯)のせいでちゃぷちゃぷのたっぽたぽになった腹を撫でつつ、他の連中がドリンクを飲み終えるのをただ待つことにした。
いつもありがとうございます。宮地です。
レビューをいただきました!
それも、二つも!
もう優しくされ尽くしたかと思ったのですが、
まだまだ優しい方はいるようで、ありがたい限りです!
まず、2016/08/19 21:50の方は感想欄で幾度となく遊んでくださっている方で、遂にレビュー進出です!
出始めは本作の内容を初見の方にも分かるように丁寧な文章で説明がされていくのですが、『ペタパイ』あたりから加速度的に内容がおっぱいに浸食されていくという、本作の構成によく似た作りになっていました。一度おっぱいが出てきたら、もうおっぱいは止められない! 分かります!
WEBで初見の方にも、書籍既読の方にも分かりやすく、本作の楽しみ方を伝えてくださっている、そんなレビューでした!
(」゜□゜)」< おっぱい祭りじゃー!
ありがとうございました!
そして、2016/08/20 01:22の方は、レビューでお初の方ですね。
ついに、レビューが言語の垣根を超えた……っ!
初めて遭遇する言語なのに、なぜか内容が手に取るように分かる! そんな不思議な体験が出来ること請け合いです!
人は、たった四文字の言葉で分かり合える……「おっぱい」その言葉には無限の可能性が秘められているんです! それを分からせてくれる画期的かつ、言語への挑戦とも呼べる革新的なレビューが降臨っ!
遊び心満載で、とても楽しいレビューでした。ありがとうございます!
そんなわけで、厄年の42を飛び越えて、一気に43件です!
私が43歳になる頃には、一体どんな大人になっているのでしょうか……
きっと、小学校のそばに引っ越して、犬とか飼って、登下校の際に可愛い女子小学生がいっぱいウチに来て「犬触らせてー」って言ってきて、「おじさんにも触らせてー」って……はっ!? 捕まる!? このままいけば捕まってしまう!
住む場所を変えましょう。
幼稚園のそばに一軒家を立てて、犬を飼って……え? いえ、大丈夫です。さすがに幼稚園生にはそんなことはないですので。
で、犬を飼って、小さな子供の相手でくたくたになった美人保母さん(巨乳)が帰宅する際に、「あ、かわいい……動物って癒されるなぁ……あの、触ってもいいですか?」って言って、私も「私も触っていいですか!?」って! ……捕まるな、これも。
いや、でもですね、動物と同じようにおっぱいもかなり癒されますよ? いや、もうかーなーり、癒されますから! アニマルセラピーとおっぱいセラピーを同じ日に隣り合う会場で開催したら絶対おっぱいセラピーに人殺到しますから!
「動物と触れ合って疲れた心をリフレッシュ」
「爆乳・普乳・貧乳・無乳、いろんなおっぱいを揉んで突いて挟まって、疲れた心をリフレッシュ」
ね! どっちのセラピーに人が集まるか、一目瞭然ですよね!?
これはつまり、ストレス社会と言われる今の日本を生き抜く現代人を救済する画期的な、そして愛に満ちた、素晴らしいことなのです!
なので、触らせてくださいっ!
……と、誠心誠意お願いしても、結局捕まるんでしょうね…………くぅ……世知辛い。
――というくらい、凄い数です43!
(そうだ、レビュー数の話の途中だった!)
もう少し分かりやすく、43という数字がいかに凄いか、いかに多いかということを語りましょう。
例えば、
ケンシロウの胸の傷が7つではなく43個だったら……
服破っても、パッと見で「お、お前は!?」ってなりにくいですよね。
「え、え……っと、2、4、6…………42、43……お、お前は!?」
出てくる敵が全部驚くタイミングを逸してしまうほど大変な数なんです、43。
ドラゴンボールも、7個じゃなくて43個あったら、フリーザ編で十年くらいかかってたはずです! もしかしたら、最初のドラゴンボール集めの時にサイヤ人来ちゃってたかも!
地球が滅亡してしまいますね、そうなれば。
それくらい多いんです43。
剣心の頬の十字傷が43本あったら。
大惨事です。「ひぃっ!?」ってなります。ブラックジャック先生もビックリです。
街のチンピラさんも黙って道を開けちゃうレベルです。
凄まじい数です43!
波平さんの頭頂部の髪の毛が1本ではなく43本だったら……わびしさが募ります。
1本だから愛らしいのに、微妙に残っていて、けどやっぱり少ない、こう、「ふぁさ~」みたいな結果になっていたら……誰も弄れないし、なるべく視線を向けないようにしますよね。
あんなに温かい一家団欒の空気をも凍りつかせかねない。
そんな威力を持った数なんです、43って!
もしドラえもんの手がまん丸ではなく、43本の指があったら!
単純に気持ち悪いです!
戦慄すら覚える多さなんです、43というのは!
お分かりいただけたでしょうか?
皆様の優しさが積み重なって、一歩一歩進んできて、
今こうしてたどり着いた43件といういう数字は、
日本を代表するアニメーション作品を根底から覆しかねないほどの凄い数なんです!
それだけの愛に包まれて、私は幸せ者です。
感激過ぎて、胸に43個の傷を付けて、銭湯で「たこ焼き器か!?」とか言われてもいいくらいです!
ありがとうございます。
おっと、嬉しさのあまり語り過ぎましたね。
レビューのお話だけで随分と長く書いてしまいました。
まぁ、途中におっぱいとアニメの話を挟みましたが……まぁ、本来ならおっぱいを挟むのではなくおっぱいに挟まりたいのですが……今回はこの辺で失礼させていただきます。
レビューのおかげで、ブックマークも地味に上昇中です!
目指せ総合評価30000pt!(まだまだですが)
今後ともよろしくお願いいたします。
宮地拓海




