後日譚46 再結成
「絶対イヤさねっ!」
ノーマが駄々をこねている。
「そう言うなよ。お前リーダーだろ?」
「好きでリーダーになったわけじゃないさねっ!」
「ぁの……でも、新しい服、かわいい、よ?」
「確かに……確かに可愛いさね……けど……っ」
「……ノーマが着れば、この可愛さも卑猥さに変換される」
「それは褒めたつもりかい、マグダ!?」
「年齢とのギャップにグッとくるですっ!」
「よぉし、ロレッタ! よく言ったさね! 拳で語り合おうじゃないかぃ!?」
「もう、やめなさいよ。二人とも!」
「そうだよ! あたしたちは、歌の練習もしなきゃいけないんだからね!」
「その歌がイヤなんさよっ!」
イヤだイヤだと暴れるノーマに、ネフェリーとパウラが苦言を呈するも……効果はないようだ。
今現在、ここにはノーマ、デリア、ミリィ、マグダ、ロレッタ、ネフェリーにパウラが揃っている。
木こりギルド四十二区支部の完成お披露目パーティーぶりに再結成した、アイドル・マイスターのメンバーだ。
マイスター(特殊な技術を有する職人)のアイドルであって、決して何かのパクりではない。オリジナリティ溢れる四十二区のアイドルたちだ。
で、何が原因でこんなことになっているのかというと……
「なんでアタシが、年下の結婚を祝って歌を歌わなきゃなんないんさねっ!?」
年上独り身女の怨嗟だ。
祝ってやれよ。仲間だろう?
「でもね、ぁの……今回の歌はね、てんとうむしさんが作ったんだよ? ぇっと……さくしさっきょく……とかぃうのしたんだって。ね?」
ミリィが確認のために俺へ視線を向ける。
いかにも!
今回の曲はプロデュースドbyオオバ・ヤシロなのだ。
各ギルドに伝わっているズンドコズンドコした歌は、俺の思い描く結婚式にはそぐわない。
なので、俺自らが相応しい曲を書き下ろしてやったのだ。
「……いくつもの没作品を踏み越えて、ようやく完成した一曲」
「ホント……あの没作品は酷いもんだったです」
俺の作った曲をことごとく没にしたマグダとロレッタ。こいつらに加えて、今はいないがジネットとエステラも嬉々として人の作った歌を没にしやがった。
ったく。制作者の苦労も知らずに、横から口を挟みやがって…………
「没になったのはどんな歌だったんだ?」
「……『結婚すると揉み放題』『毎晩楽しくおっぱいルンバ』『部屋とYシャツとボイン』などなど」
「ぁう……それは、結婚式じゃ、歌えない……よね?」
「結婚式じゃなくても歌いたくないわね」
「まったく……ヤシロは…………」
ミリィとネフェリーとパウラから、冷ややかな視線が送られてくる。
なんだよなんだよ。結婚の一番のメリットって揉み放題だろ!?
ケータイだって、パケ放題とか好きじゃねぇかよ!
家族割りみたいなもんだよ。家族限定の特典だな、うん。
「お前たちには難しいかもしれんが、歌詞ってのは秀逸な比喩表現が活きるんだよ。つまりは、揉み放題を通して家族を持つことの素晴らしさをだな……」
「そんなことより、ノーマさんを説得するです!」
おいロレッタ。
俺のありがたい解説を『そんなこと』呼ばわりすんじゃねぇよ。
頬袋に甘酒をパンパンになるまで流し込むぞ。
ファーストキスは甘酒の味。って、微妙な顔されろ。
………………その前に、そんな不届きなヤツは俺が許さん。
結婚するまで禁止だ禁止っ!
…………ロレッタも結婚したら揉まれ放題なのかっ!?
「ロレッタ、エロい!」
「なんでですか!? 急にビックリするです!?」
くっそぉ……成人したくらいじゃ結婚なんか認めないからな。
最低でも、俺を納得させられるヤツでなければ接触は禁止だ!
お兄ちゃん権限で!
「ヤシロが、分かりやすく拗らせてるみたいねぇ」
「なんだかんだ、大切にされてるよね、ロレッタも」
ネフェリーとパウラのイマドキ女子コンビがよく分からんことを言い合っている。
なに言ってんだよ、まったく。
ダメに決まってんだろ。当たり前じゃねぇか。
証拠だって示せるぞ。
「なぁ、ノーマ。もし今ロレッタが『あたしも明日結婚するです』とか言い出したらどうする?」
「この前一緒に陽だまり亭に泊まった時の、とても男子には言えない、聞けば百年の恋も冷めるような恥ずかしい秘密を暴露してぶっ潰してやるさね」
「ちょっ!? なに言ってるですか!? そのことはもう忘れてですっ! いないです! そんな相手いないですから、あたし!」
ほら見ろ。
反対者が俺以外にもいるじゃねぇか。
これはもはや世論を形成したと言っても過言ではないのだ。
……つか、ロレッタ。お前、何したんだよ?
「ノーマはちょっと過剰にアレなだけだよねぇ」
「なんだいネフェリー!? 『アレ』ってなんさね!? はっきり言ってもらおうじゃないかぃ!?」
「まぁまぁ。そう興奮しないで。パウラだったら、ちゃんと祝福してあげるよね、ロレッタの結婚」
「潰すわね」
「パウラさん、目がマジです!?」
「あたしより先に幸せになろうなんて十年早いし、絶対認めない。……もしそんな話が持ち上がったら、ウチで働いていた時の、家族にも聞かせられない痴態の数々を大通りの掲示板に張り出してやるわ」
「ちょぉーっと! なに恐ろしいこと言い出してるですか!? ないですから! そんな相手、影も形もないですから!」
「あぁ……パウラも、『ソッチ』側なんだ……」
ネフェリーの口元が歪む。クチバシなのに、器用なヤツだ。
……で、ロレッタ。お前はこれまで何をしでかしてきたんだよ、マジで?
「……マグダは、そのどれよりも凄い秘密を握っている」
「むゎぁあああっ! マグダっちょのは本気でシャレにならないからやめてですっ!」
……だから、ロレッタよ。お前は一体何を…………
「うん。まだまだ嫁には行きそうもないな」
「うんうん。いいことね」
「こういうのは順番が大切さね」
「なに満足げな顔してるですかお兄ちゃん、パウラさん、ノーマさん!?」
ロレッタの尊い犠牲により、ノーマの機嫌が幾分戻ったようだ。
お前の大火傷は無駄にしないぞ。
「ノーマ。こんなロレッタですらウェンディを祝ってやろうって頑張ってるんだぞ」
「そうさねぇ……こんなロレッタでさえ頑張ってるんなら、アタシもわがまま言えないさね」
「こんなロレッタが役に立ったわね」
「なんか酷いです、お兄ちゃんもノーマさんもパウラさんもっ!」
こんなロレッタのおかげで、アイドル・マイスターは無事再結成出来そうだ。
「しかし、今回の衣装はまた…………ウクリネス、頑張ったさねぇ」
「ウェディングドレスの合間に、嬉々として作ってたらしいぞ」
「ぁのね、前にうくりねすさん、『のーまさんにお洋服着せるのがたのしい』って言ってたよ?」
「なんさね、ウクリネスのヤツ。アタシは着せ替え人形じゃないさよ」
「……そしてその後でヤシロは、『俺は脱がせる方が楽しいけどな。ぐっへっへっへっ』と」
「『ぐっへっへっへっ』は言ってないよな、俺!?」
「……『脱がせる方が楽しい』は言ったんかぃね…………まったく、ヤシロは」
おかしい。
身の潔白を証明しようとして逆に立場を悪くしてしまった。
正直者がバカを見る世界はやるせねぇよな。
「それじゃあ、ノーマもやる気になったみたいだし、練習を始めましょうよ」
ネフェリーが話をまとめる。
こいつは早く歌を歌いたいって顔をしている。
ホント、こういうの好きなんだな。日本にいれば、アイドルのオーディションくらいは受けていたかもしれないな。…………まぁ、書類審査の段階で審査員が驚愕するだろうけどな。『鶏ぃ!?』って。
「よし、それじゃあノーマ。手伝ってやるからさっさと着替えちまえよ」
「それじゃあ、着替えるから誰かヤシロを取り押さえといておくれでないかぃ?」
なぜだ!?
折角人が親切にっ!
「ヤシロ……『なぜだ』みたいな顔しないの」
「当たり前じゃない……バカ」
ネフェリーとパウラにがっしりと両腕を拘束される。
……くっ! かくもこの世は不条理なものよ……っ!
こうして、木こりギルド四十二区支部のそばに建つ、旧・木こりギルド四十二区支部完成記念パーティー実行委員会館――現・多目的会議館にてアイドル・マイスターの新曲練習は始まった。
「ところで、ジネットは?」
ノーマを待つ間、ネフェリーが世間話を持ちかけてくる。
「披露宴の料理を練習してるよ」
「ジネットが考えたの?」
「いや。俺とエステラ、あとベルティーナとルシアとデミリー、リカルドで大まかなメニューを決めたんだ」
「なに、その濃いメンバー……」
領主連中は式典やパーティーについて少なくない知識を有しているので参考にさせてもらったのだ。
ベルティーナは呼んでないのに、いつの間にかいた。
俺が大筋のメニューを提案して、そこへジネットが細かなアイディアを追加していった感じだ。
珍しくジネットが率先して意見を述べていた。
シラハのところでアゲハチョウ人族と過ごし、何か感じることでもあったのだろうか。
もとより、料理に関しては人一倍強い思い入れのあるジネットだ。今回の料理にも並々ならぬ情熱を注いでいるようだ。
「凄い料理になりそうね」
「あぁ。期待しておけよ」
ここ最近、ベルティーナの機嫌がすこぶるいいのも、その料理のおかげだからな。
ベルティーナの通常移動手段が歩行ではなくスキップになっているのだ。そこからも料理の美味さが分かるというものだ。
「き、着替えてきたさよっ!」
「おぉっ!」
多目的会議館から姿を現したノーマの姿に思わず息をのむ。
「デカいっ!」
「それ以外の感想はないんかぃ!?」
いや、だって、真っ先に目が行って、そこに釘付けになっちまったからよぉ。
今回の衣装は、春めいた陽気に誘われて花園で恋の花を咲かせるテントウムシがイメージなのだ。カラフルな衣装が春の柔らかくて温かい雰囲気を表現し、同時に、ひらひらふわふわした短めのスカートが嬉し恥ずかしい恋の楽しさを強調している。
春と恋。そのどちらもが持つうきうきするような楽しさを見事に表現している。
何より、胸元ガッツリ! 太ももババーン! で、もう最高なのだっ!
「生きててよかったぁー!」
「大袈裟さねっ!?」
いやいや。
これはもう、純粋に発せられた魂の叫びといっても過言ではない。
「さ、さっさと歌の練習するさよっ!」
声だけは不機嫌さを装って、ノーマがメンバーに発破をかける。
「ノーマ……チョロいわよねぇ」
「うんうん。ちょっと心配になるよね……」
ネフェリーとパウラに心配されるくらい分かりやすく、ノーマの周りにお花が咲き乱れる。……いや、比喩だけどな。
ノーマの機嫌が、目に見えてよくなっていた。
こんなもんで機嫌を直してくれるんなら、いくらでも褒めてやるぞ。
称賛は無料だからな。
どれ。他のメンバーのやる気も注入しておくか。
女子は新しい衣装を褒めてもらうのが好きだからな。
「ネフェリー。お前はスタイルがいいからなんでも似合うな。ウクリネスが特別気合い入れて作るのも頷けるよ」
「へっ!? な、なによ、急に!? も、もう! これから練習なんだから、変なこと言わないでよねっ! ……でも、ありがとう。嬉しい!」
「パウラ。お前はカラフルな色がよく似合うな。お前の元気を見てるヤツらに分けてやれよ」
「うん! 任せてっ! ……だからね、ヤシロもちゃんと見ててよね! あたしの元気、分けてあげるから!」
「ミリィ」
「は、はぃ……ぁ、なに?」
「大丈夫、ちゃんと可愛いからな。自信を持って、楽しもうくらいの気持ちでやればいい」
「ぅ、ぅんっ! ……ぁりがとう。実は緊張してたんだけど……てんとうむしさんにそう言ってもらえたから、ちゃんと楽しめる気がする。ぁの……みりぃ、がんばるねっ」
「ロレッタ、は、普通」
「だと思ったですっ!」
「冗談だ。よく似合うぞ。ちょっと来い。リボンを直してやるから」
「ふわぁぁ!? お兄ちゃんが普通に優しいですっ!? あたしが普通だから、普通に優しいですかね!?」
「普通じゃなくて、すげぇ可愛いって」
「にょわぁぁあ! あたし頑張るですっ! 出なくていいところまで出まくるです!」
「いや……それはやめろ。ちゃんとやれな?」
「ちゃんとやるですっ!」
「マグダ」
「……ここにいる」
「うん。お前は無敵だな」
「……むふー。当然」
「…………可愛いぞ」
「………………わ、わざわざ言わなくても……知っている」
「そっか」
「……でも、もう一回くらいなら、言ってもいい」
「最強に可愛いぞ」
「……むふー! マグダがみんなを引っ張って、必ず成功させる」
「デリア」
「あ、あたいにもなんか言ってくれんのか?」
「今日も可愛いな」
「今日『も』ってなんだよぉ、もう! もう! やめろよなぁ! 百歩譲っても、今日『は』だろう!?」
「デリアはいつも可愛いぞ」
「……ほんと?」
「おう」
「にははっ! あたい、なんか頑張れる気がしてきた!」
「んで、最後に……ベルティーナ。ここには食い物はないから陽だまり亭に帰れ」
「酷いですよ、ヤシロさん。みなさんの応援に駆けつけただけですよ」
さら~っと隣にいると、飯の催促にしか思えないんだよ、お前は。
「しかし、本当に人を喜ばせるのがお上手ですね、ヤシロさんは」
「あいつら、単純だからな」
「いいえ。ヤシロさんがみなさんのことをよく見て、本当に大切に思っているから、だから、どんな言葉を伝えれば喜んでもらえるのかが分かるのでしょう?」
「……ふふ。人を結婚詐欺師みたいに言うんじゃねぇよ」
「ヤシロさんになら、騙される人が多いかもしれませんね。けど、ダメですよ」
しねぇよ。
そんなことしたら、半日で命が無くなるからな。
「ちなみに、私を喜ばせることも可能ですか?」
おねだりするように、ベルティーナが首を傾げて俺を見上げてくる。
……しょうがねぇな。
「夕飯にゼリーをつけてやる」
「嬉しいですっ! ……けれど、そういうことではなかったんですよ?」
「じゃあゼリーは無しで……」
「いいえ。とても嬉しかったので、そのままで」
まったく。
どいつもこいつも単純なんだっての。
お前ら、ホンット……詐欺師に騙されんじゃねぇぞ。
「よぉし! それじゃあ新曲の練習をするさねっ!」
ノーマが仕切り、新曲の練習が始まる。
今回、バックバンドにはロレッタの妹たちが参加している。
竪琴と横笛を覚えてもらったのだが……あいつらはマジで何をやらせても吸収が早い。
もはや、プロの楽団のようなレベルに達している。
そして、四拍子の軽快な音楽が流れ始めると、華やかな衣装を揺らしてアイドル・マイスターたちが一斉に踊り出す。
スロー、スロー、トット。スロー、スロー、トット。
ジルバのリズムだ
「ヤシロさん、この歌は?」
「結婚する二人を森の虫たちが祝い踊る様を歌った、『テントウムシのジルバ』だ!」
サンバではないっ!
歌詞もメロディーもまるで似ていない!
まったく新しい、結婚式の定番ソングだ!!
「愉快な音楽ですね。聞いているとうきうきします」
隣でベルティーナが体を揺すって無邪気に笑う。
あぁ、そうか。
「緊張してるのか?」
「ふふ。敵いませんね、ヤシロさんには」
こいつも、初めての結婚式で重要な役割を任されて少し緊張しているのだ。
普段の結婚ではなく、結婚式だからな。
厳かに、厳粛に。失敗すれば、新郎新婦の門出に泥を塗るかもしれない。
そんなプレッシャーでも感じているのだろう。
「大丈夫だよ。お前は普段通り、我が子を見守るような目で二人の門出を祝ってやれば、それでいいんだ」
「はい……分かっています。ですが、そうやって言葉にしていただけると、とても落ち着きますね」
そう言って、静かに俺の肩へ頭を載せる。
「ほんの少しだけ、甘えても?」
「……事後報告じゃねぇか」
「うふふ。そうですね。では、もう少しだけ」
俺にもたれかかるように、ベルティーナは身を寄せて陽気に歌い踊るアイドル・マイスターを見つめていた。
微かに、震えているのが伝わってくる。
みんな、緊張してるんだな。
歌い踊るあいつらも、緊張するから必死に練習しているのだ。
ジネットも、きっと緊張しているのだろう。必死に料理に打ち込んでいる。
馬車を作るためにウーマロやイメルダも走り回っている。
ウクリネスも、ここ最近まともに寝ていないとか。
エステラはエステラで、連日他区の領主たちと会談して各区の大通りの出店に関して話を詰めている。というか、ノウハウを根こそぎ聞き出されているというべきだろう。
「連日しつこいくらいに教えを請われてホント参ったよ」などと漏らしていた。
そして。
セロンとウェンディはその緊張のど真ん中でカッチコチになっている。
周りが騒げば騒ぐほど、頑張れば頑張るほど、あの二人に大きなプレッシャーがのしかかる。
もしかしたら、気軽にモデルケースを引き受けたことを後悔しているかもしれないな。
ま、その分いい式にしてやるから我慢しろ。
「ヤシロさんは、緊張などしないのですか?」
額を肩に載せたまま、ベルティーナが聞いてくる。
控えめな声は、別に答えなくても構わないと言っているようにも思えた。
だが、一言で済む返事だ。これくらいはしてやるさ。
「するに決まってんだろ」
緊張してるっての。
俺はいつだって、不安を抱え込んでんだよ。臆病なんだよ、俺は。
「やらなきゃよかった」なんて思われるんじゃないかって、いつだって不安なんだよ。
だが、やってみなきゃ分かんないことは多いし、俺の場合、やってみりゃなんとかなることの方が多かった。
何より、何も手を打たずにチャンスを逃すってのが、俺は大の苦手でな。
目の前にエサがぶら下がってりゃ、それが罠だと分かっていても食いつかずにはいられないんだよ。
「もし、つらくなったら……教会は、いつでもあなたを受け入れる準備がありますからね」
教会は……と言いながら、ベルティーナは自分がそうするつもりなのだろう。
要するに「何かあったら頼ってくださいね」ということだ。
気持ちだけもらっておくよ。
俺には必要ないからな。
だって、俺には――
「おにーちゃん! シスターとイチャついてないで、ちゃんと練習見てですっ!」
「……ヤシロ、ギルティ」
「見てるっつのっ!」
そうやって賑やかに、何度も繰り返し繰り返し練習をして、少しずつ前に進んでいく。
空は暗くなり、今日の終わりが近付いてくる。
もう一度、もう一度だけ、と、夜の帳が下りてもなお練習をやめようとしないアイドル・マイスターの面々。
あ~ぁ。こりゃ、夕飯ご馳走コースだな。ハラペコで家まで帰れないヤツが出てきそうだ。
「お~い! 気が済むまで練習したら、帰りに陽だまり亭に寄れよ! 飯作っといてやるから!」
「やったぁ! 鮭だぁ!」
「ぅん! ぁりがとう、ね」
「よぉし、もうひと頑張りするさねっ!」
「「「おぉー!」」」
まだまだ頑張るつもりのアイドル・マイスターを残して、俺はその場を離れる。
ベルティーナは日が落ちる前に帰っていった。
光るレンガが照らし出す夜道を一人で歩く。
広くなった道は平らで、足に優しい。
教会を越えて、モーマットの畑を越えて、さらに歩くと……とてもいい香りが漂ってくる。
陽だまり亭の香りだ。
気持ち速まる足で庭に入り、ドアを開ける。
「おかえりなさい、ヤシロさん」
そんな言葉で、ジネットが出迎えてくれる。
――そうだ、
緊張したって、くたくたにくたびれたって大丈夫なんだ。
なにせ俺には、ジネ…………陽だまり亭が、付いているからな。
「あれ? ヤシロさん、どうかしましたか?」
「なんでもないっ」
「でも、なんだかお顔が、赤……」
「腹が減ったからかな!? あ、そうそう! この後アイドル・マイスターのメンバーが来るから」
「はい! では、たくさんご飯を用意しますね!」
うんうん。
いいところだな、陽だまり亭は!
陽だまり亭最高!
陽だまり亭落ち着くわぁー!
……別に、そこの特定の誰かとか、そういうことじゃないから……な?
ご来訪ありがとうございます。
『異世界詐欺師のなんちゃって経営術』最新情報~!
ゲーマーズ様でご購入された方には店舗特典として、
【オリジナルブックカバー】が付きますっ!
イラストとかまだ出てないですけど、
素敵な仕上がりになること間違いなしです!!
……っていうか、イラストはいつ発表になるんだー!?
もう少しお待ちくださいって言わなきゃいけない私がもうそろそろ待てないにょ~~~ん!!
どうか、
もう少しばかりお待ちください。
告知ここまで!
少し前に、とある場所に行ったら、
私は存じ上げていない方々だったのですが、アイドル? ダンスグループ?
のような方たちのイベントに遭遇しました。
なんでも新曲のイベントで、CDを買うと握手とかハイタッチとか写真撮影とか出来るのだとか。
今はあれなんですよね、通常版とか初回版とか初回盤Bとかいろいろ出して、
引換券とか入ってて、三枚で一緒に写真とかやるんですよね?
まぁ、ライトノベルではそういうものはあまり見かけませんが、
複数買いではなく、
抽選で1名様にプレゼント! みたいなことなら出来るのではないかと思うんです。
ただ、何をプレゼントするかなんですが……
例えば……
作者のグラビア生写真
……どうしよう、最初から激しくいらない。
とはいえ、握手とか、私の場合なんの価値もありませんしね。
ツーショット写真……は、もれなく半目になるので無理ですし……
あっ!
『ジネットのフリルパンツ』とかどうでしょう?
まぁ、正確に言うと、『ジネット(が持っているのと同じ形)の(作者の)フリルパンツ』になりますが。
……訴訟レベルだな、この詐欺。
もっとメリットのあるプレゼントはないものか……
そうだ!
『異世界詐欺師~』でメリットと言えばおっぱい以外にないじゃないか!
というわけで、
『担当編集様が今後のミーティングでずっとパイスラしてくれる券』とかどうでしょう!?
……あ、それ、嬉しいの私だけで読者様にメリットがない…………
せめて私が、
すれ違う女子が漏れなく振り返るような……
さらに言えば、コーヒーを飲んでいた女子が鼻からバナナオレを吹き出すような……
そんなレベルのイケメンだったら、何かしらメリットを提供出来たかもしれないのですが。
もしくは巨乳美女だったら……
いっそのこと、合わせて巨乳イケメンだったら…………え、それどういうこと!?
やはり、面白いお話を書いて満足度を上げるくらいしか我々には出来そうもありません。
………………ハードルが高いっ!
とりあえず、読後にほんわかしてもらえるような、
そういう作品を目指して頑張りますっ!
ぃえ~い! 続いてはSSのじかんだよ~ぅ!(CDTV風に)
2016年 04月 10日 09時 19分のS様より
大雨の後の応急処置に駆り出されたハムっ子たち。
まだ『スラムの子』として見られていた時に出会った可愛い帽子の女の子と、
その子の涙を止めてあげた妹のその後のお話…………ですっ!
――パレード前日の大通り。祭りの準備が進められている
パウラ「さぁ、あんたたち。明日のパレードまでに素敵な飾り付けをするのよ! 見に来るお客さんがあっと驚くようなヤツを!」
妹「「「おー!」」」
弟「「「まかせとけー!」」」
帽子っ子「ハムちゃ~ん!(可愛い帽子を被り駆けてくる)」
妹「あ~! 帽子ちゃ~ん!(ぴょんぴょん跳ねて手を振る)」
帽子っ子「またお店するの?」
妹「うんー! あのね、ウェンディさんの結婚パレードを見ながらおいしい物食べるんだよぉ。きっと楽しいよぉ」
帽子っ子「うぇんでぃさん?」
妹「知らない? すっごく綺麗なお姉さんなんだよ」
帽子っ子「そうなんだぁ。楽しみだねぇ~、パレード」
妹「うん!」
パウラ「ねぇ、妹。その子、知り合い?」
妹「お友達ー!」
帽子っ子「ハムちゃんね、大きな水たまりに落ちたこの帽子をね、拾ってくれたんだよ」
弟「あぁー! 大雨の時の子かー!」
弟「いまさらながらに思い出したー!」
妹「仲良しさんなのー?」
妹「仲良しさんなのー!」
帽子っ子「たまに遊びに来てくれるんだよ」
パウラ「あんたたちって、ちゃんと友達とか作ってるのね。ずっと働いてるのかと思った」
妹弟「「「「「「パウラさんが、お兄ちゃんが来た後妙に落ち着かなくてそわそわしながら髪の毛とかいじったり尻尾の毛並み気にしたりするくらいの時間は自由に遊んでるよー」」」」」」
パウラ「そっ!? ……そんなに、そわそわとかしてないわよ。ただちょっと、仕事中にばっかり来るから、もうちょっとちゃんとオシャレしてる時に来てくれればいいのにって…………そ、それだけよっ!」
妹「「「おとめー!」」」
パウラ「う、うるさいっ!」
弟「「「わかめー!」」」
パウラ「あんたらは本当にうるさい!」
帽子っ子「わかめのお姉ちゃ~ん!」
パウラ「違うっ!」
帽子っ子「ひぐっ!? …………ぅう…………こゎい……」
パウラ「あ……いや、ごめん。つい、ハムっ子たちと同じノリで……」
妹「いじめちゃだめー!」
妹「ぷんぷん!」
妹「あやまってー!」
パウラ「う……わ、分かったわよ。あ、あの、ごめんね。全然、怒ってないからね?」
帽子っ子「…………ぅん」
パウラ「そ、そうだ! お姉ちゃんがベビーカステラご馳走してあげる! お姉ちゃんの友達が作ってる甘くて美味しいお菓子なんだよ」
弟「ネフェリーさんに、たかる気やー!」
弟「代金の踏み倒しー!」
弟「啜れる甘い汁は啜り尽くす所存ー!」
パウラ「そんなんじゃないわよっ!」
弟「「「こゎ~い!」」」
パウラ「あんたらにはこれくらいで調度いいのっ!」
弟「ひどい扱いやー!」
弟「キレる若者やー!」
弟「お兄ちゃんがいる時とは雲泥の差やー!」
パウラ「あんたらはそれでも楽しんでんじゃないのよ!? ホンット、そういうところばっかりロレッタそっくりなんだから!」
弟「あっ、おにーちゃん!」
パウラ「えっ!? ヤシロ!?(バッと振り返る)」
弟「――に、お願いしたいことあったの、忘れてたー」
弟「うん、忘れてたねー」
弟「あとでお願いしに行こー!」
パウラ「…………あんたら、そういうことを悪意なくするの、ホンットやめてくれない?(拳『ぷるぷる……』)」
帽子っ子「くすくすくす……お姉ちゃん、おもしろ~い」
妹「うん。パウラさん、すごくいい人なんだよ~」
パウラ「へ? あ、……まぁ、この子が笑ってくれたなら、別にいっかな」
弟「それじゃあ、みんなでベビーカステラ食べに行こうー!」
弟「パウラさんの奢りでー!」
弟「ふとっぱらー!」
パウラ「ちょっと!? なんであんたたちに奢らなきゃいけないのよ!?」
弟「『会話記録ー!』
弟「『お姉ちゃんがベビーカステラご馳走してあげる』ー!」
弟「誰にとは明言していないー!」
パウラ「……あんたら、そんなとこばっかりヤシロに似るの、ホンットやめてくれない?」
妹「あのねぇ、ベビーカステラってねぇ~、みんなで食べるとおいしいんだよ~」
帽子っ子「そうなの? わぁ~、楽しみ~!」
パウラ「う…………この、無邪気な小悪魔たちめ…………分かったわよ! ご馳走してあげるわよっ!」
弟「やったー!」
弟「仕事なんかやってられるかー!」
弟「切り上げて食べに行こうー!」
パウラ「仕事はちゃんとやらなきゃダメよ! ベビーカステラは終わってから!」
妹「じゃあ、これまでの三倍頑張るー!」
妹「急ピッチできりあげるー!」
妹「やっつけ作業ー!」
パウラ「ちゃんとやりなさいっ!」
帽子っ子「あたしも、手伝うっ!」
妹「うんっ! 一緒にやろう!」
パウラ「ちょっ、そんな子供に…………って、ハムっ子も似たようなもんか。しょうがないわねぇ。あたしがちゃんと教えてあげるわよ!」
妹・帽子っ子「「わ~い!」」
――こうして、一部手作り感満載の出店が出来上がったのでした。
ハムっ子も、実は各々個性を持っていたりするんですね。
友達とか、いるんです!
……私には、いませんけどね、友達なんて…………ふふっ……くすん。
次回もよろしくお願いいたします!
宮地拓海




