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異世界詐欺師のなんちゃって経営術  作者: 宮地拓海
後日譚

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後日譚45 花嫁にも準備期間を

「野郎どもぉ! 宴の準備だぁー!」

「「「ぃぃぃぃいいいいっやっふぅぅうううういっ!」」」


 バカがいる。

 物凄い数の、バカの群れが。


「触角を揺らせぇ! 羽を揺らせぇ! 大きなおっぱいは遠慮なく揺らしまくれぇ!」

「「「ぃぃぃぃいいいいっやっふぅぅうううういっ!」」」


 その先頭に立って民衆を煽っているのは……まぁ、俺なんだけどな。


「凄い熱気だね」

「そりゃ、久しぶりの祭りッスからね!」

「違うです、ウーマロさん! 初めての結婚式ですっ!」

「……認識を改めるべき」

「はいッス! マグダたんの意のままにっ!」

「あれ!? あたしが先に同じこと言ったですよ!? ねぇ、ウーマロさん!? ちょっと、こっち向いてですっ! も~ぅ!」


 邪魔なものはすべて取っ払った。

 あとはただ、盛大に盛り上がるのみっ!


 結婚式をやろうと言い始めてから、散々駆けずり回って、時間もそれなりに費やした。

 ここからは巻きで、急ピッチに準備を進めていく。


「ウクリネス! ドレスと触角カチューシャはどうだ?」

「滞りなく進んでいますよ。ウェディングドレス、ちょっと気合い入れて作っちゃってますので、期待していてくださいね」


 うふふと、ウクリネスが静かながらも心強い笑みを浮かべる。

 よし、ドレスは問題ないだろう。


「ただ一つ問題が……」

「あるの!?」


 ウクリネスがそんなことを言うのは珍しい。

 一気に不安が湧き上がってくる。


「半裸タイツマン……失礼、チボーさんの服なんですけど」

「え……ウクリネスって結構裏表ある人? なら今後接し方に気を付けるけど……」

「うふふ。服を愛する方なら平気ですよ」


 チボーは服を冒涜する人間らしい。


「チボーさんにどんな服を着せても、ウェンディちゃんが爆笑してしまって……」

「そこはもう仕方ねぇだろ」

「でも、このままじゃ、終始新婦が半笑いということに……」


 えぇいくそ! どこまでも足を引っ張りやがってあの変態タイツマン!


「仕方ない! 結婚式までの間、着衣のチボーとウェンディを同じ部屋に閉じ込めて強制的に慣れさせろ!」

「えぇっ!?」


 喚声を上げるウェンディ。

 何をそんなに驚く? 家族だろ?


「あ、ああ、あのあのあの、英雄様!? そそ、そんなことをされますと、私……たぶん……」

「表情筋が崩壊して、にやけっぱなしになるってのか?」

「いえ、あの………………前科が……」

「何する気だよ!?」


 素で怖ぇよ!

 俺、ウェンディだけは怒らせないようにしよう。そうしよう。


「わ、私、頑張ります! 自分の父親を見て笑わないように、血の滲むような努力をいたします! ですから、何卒寛大なご処置をっ!」

「……すげぇ言われようだな、お前の父親」


 まぁ、服を着るだけで娘に爆笑されるって時点で大概だと思うが。


「じゃあ、ウェンディ。花嫁修業だと思って、頑張れ」

「花嫁修業って、こういうものなのでしょうか……ですが、はい。頑張ります!」


 どうせウェンディのことだ。

 炊事洗濯とかは既に完璧なんだろう。そういうタイプだ、こいつは。


 …………と、思ったのだが。

 セロンの様子がおかしい。


「どうした?」

「い、いえ……出来れば、他の花嫁修業も、ちゃんとしてもらえると、僕としても嬉しいなと……」


 なんだこいつ?

 こんな美人を嫁にもらうのにまだ不満があるのか?


「英雄様は、メドラさんを覚えていますか?」

「アレを忘れるようなことがあれば、きっと脳がすべての記憶をデリートした時だろうよ」


 きっと、最後の最後まで海馬にこびりついてるタイプだ、あいつの記憶は。


「彼女の手料理がどのようなものか、ご存知ですか?」

「あぁ、『魔獣のちぎり焼き』だろ? 前に一度ご馳走になったぞ」


 もう二度と口にすることはないと思うがな。


「僕も以前、機会があり御相伴にあずかったのですが…………ウェンディの手料理はアレに近いんです」

「マジでか!?」

「そんなことないですよ!? もう、セロンってば。大袈裟に言い過ぎです。さすがの私もあそこまで壊滅的ではありませんっ」


 毒、毒!

 ちらっと毒撒いちゃってるよ!?


「ちなみに、ウェンディの得意料理はなんだ?」

「はい。『新鮮ちぎりレタスののっけ盛り』です」


 お前それ……レタスちぎって皿に載せただけだろう?

 料理じゃねぇよ、それ。


「この前のは凄かったですよ」


 セロンが薄く引き攣った笑みで言う。


「『新鮮焼き魚のお刺身の香草包み焼かず』です」

「なんか色々おかしいな!?」


 最早『特異料理』になってんじゃねぇか。

 生の香草に切った焼き魚包んであるだけだもんな、それ。


「……話は聞いた」

「ばっちり聞いたです!」


 にょんっ! と、突然現れたマグダとロレッタ。

 振り返るとジネットとエステラ、それにデリアとノーマがいた。


「……ウェンディには花嫁修業が必要」

「必要です! 今からでも特訓するです!」

「え、でもっ。私の料理は、セロンが頑張って食べてくれますし」

「いや、ウェンディ……頑張らなくても食べられる料理を作ってあげなよ」


 エステラがもっともな意見を言う。


「それに、美味しい物が食べたい時は、セロンが作ってくれます!」

「家事の分担は助かるさね」

「んでもよぉ。美味い手作り鮭とか食ってもらいたいと思わないのか?」


 手作り鮭ってなんだよ……


「それは……出来れば、私の手料理で喜んでもらいたいですけど…………でも、私、料理を教えてくれる人がいなかったもので……」


 そうか。

 こいつは子供の頃から一人暮らしをしていたんだっけな。

 母親に料理を教わる機会がなかったんだ。なら、料理下手も納得だ。


「なぁ、ノーマ」


 デリアが純粋な瞳をノーマに向ける。


「お前、花嫁修業のプロだろ? 教えてやれよ」

「プロじゃないさねっ!? ふ、普通に、女の嗜みとして、家事全般が得意なだけさねっ!」


 デリア。

 真実だからって、なんでもかんでも口にしていいもんじゃないんだぞ。


「アタシは絶対教えないさねっ! 他を当たっておくれ!」

「そういうケチくさいことを言うから、もらい手が……」

「無いわけじゃないさねっ! 今ちょっといないだけでっ!」


 その『今ちょっと』が何年くらい続いているのかは、あえて聞かない。


「……質問。その『今ちょっと』は何年……」

「はい、マグダストップ!」


 マグダを抱き上げて口を押さえる代わりに耳をもふもふする。

 ノーマの泣く姿なんか、見たくねぇんだよ、俺は。…………すげぇメンドクサそうだから。


「……むふーっ」

「アレを狙って、わざと危険な発言を…………マグダっちょ、また腕を上げたです!」

「着々とヤシロを操れるようになってるね、マグダは」


 ロレッタとエステラが戦々恐々フェイスをさらす。

 誰が操られてるか。

 …………ない、よな?


「それじゃあ、ジネットちゃんに料理を教わったらどうだい?」

「……それはいい案」

「そうです! 結婚式まで、あたしたちは比較的暇になるですし」


 式の準備は、主にウーマロたちトルベック工務店の連中と、ベルティーナ他、教会の寮母たち、そして、ウクリネス率いる服屋たちが大忙しとなる。

 食い物関係の人間は、メニューの試作くらいしかすることがない。

 前日からが修羅場になる予定だけどな。


「では、僭越ながら、わたしの知り得る範囲でお料理のお勉強をいたしましょう」


 シラハの家の連中にも料理を教えていたし、ジネットは料理の先生に向いているのかもしれない。


「……ついでにマグダも教わる所存」

「あっ! はいはい! じゃああたしもです!」

「ボクも教わっておこうかな……いざという時のために」

「んじゃあ、あたいもだ! 鮭以外も作れるようになってヤシロを驚かせてやる!」

「なんだか楽しそうさねぇ。それじゃあ、アタシも参加させてもらおうかぃねぇ」

「「「「えっ、まだ足りないの、花嫁修業?」」」」

「い、いいじゃないかさっ!? もっと料理が上手くなりたいんさよっ!」


 ジネットの腕前はプロレベルだからな。まぁ、プロなんだけど。


「それでは、今から陽だまり亭で、お料理のお勉強会です!」


 なんだか嬉しそうな顔で、ジネットが開会宣言をする。

 折角だから、俺も教わっておこうかな。

 そして、一同は陽だまり亭へ。





「さぁ、みなさん。張り切ってお料理しましょう」


 場を仕切り声を上げたのは、やはりというか……ベルティーナだった。

 こいつの嗅覚は神の域に達したんじゃないだろうか? 第六感が思いっきり嗅覚に寄っている気がする。


「じゃあ、お料理処理班も来たことだし、思いっきり作ってくれ」

「……ヤシロが前向き」

「何か裏がありそうです……」


 そうじゃない。

 こうなることは予想済みなんだ。下手に抗って時間を割くのは得策ではないし、料理に使う食材は陽だまり亭にあるお安くまとめ買いしたものだ。

 それで料理を作って、ベルティーナに満足して帰ってもらえれば…………その後で結婚式用の料理の試作が出来る。

 こいつは味も値段も一級品の食材を使うからな。ベルティーナに無双されては敵わんのだ。


 今のうちに腹いっぱいにさせて追い返してしまおう。


「それで、なんの料理を作るんだ?」


 ウェンディよりもノリ気のデリア。ジネットの隣という特等席に陣取っている。……って、こら。


「デリア。ハウス」

「なんだよぉ、ヤシロ!? あたいも料理上手くなりたいんだよぉ!?」

「……いいこにしていれば、終了時にキャラポを贈呈」

「あたい、端っこでも平気だ! 目、いいからな!」


 マグダのナイスフォローで、デリアが作業台の端へ移動する。

 偉いぞマグダ。……で、『キャラポ』って、キャラメルポップコーンのことか?


「では、今日はウェンディさんを中心にお料理の練習をしましょう」


 ということは、違う日にだったらデリアを主体にしてもいいし、マグダを中心にしてもいい、というジネットの計らいだろう。

 甘いなぁ、ジネットは。誰に対しても。


「ではウェンディさん。どんな料理を覚えたいですか?」

「なんでも構いません。どんな新鮮野菜ものっけ盛ってみせますっ!」


 なんでのっけ盛り限定なんだよ!?

 火を使え、火を!


「ジネットがおすすめの料理を教えてやれ」

「え? わたしが決めるんですか? …………え~っと」


 ジネットはレパートリーが多過ぎてこういうのは決めにくいのかもしれない。

 そもそも、料理が出来ない人間の気持ちは理解出来てないだろうしな。何が難しくて何からやれば覚えやすいかとか、苦手な人間にしか分からないことはある。


「……提案」


 悩むジネットに、マグダが救いの手を差し伸べる。


「……たこ焼きがおすすめ」

「それ、お前が『他のヤツより上手く出来る』ってドヤ顔したいだけだろ!?」

「……むぅ。ヤシロは鋭過ぎる」


 いやいや、分かるわ!


「はいはい! それじゃあコーヒーにするといいと思うです!」

「マグダ以外で、リクエストあるヤツはいるか~?」

「お兄ちゃん、あたしを完全スルーするのやめてです!?」


 ロレッタ、お前な。

 どこの新婚家庭が夕飯のおかずにコーヒーを出すんだよ。

 ご飯と合わないよね!? コーヒー茶漬けにして食わせるぞ。


「それじゃあ、アタシがリクエストしてもいいかぃ?」


 すらりと、妖艶な手つきでノーマが挙手をする。

 そうか。ノーマなら、初心者向きの料理とか、分かりやすいヤツを提案してくれるかもしれない。

 なにせ、花嫁修業のプロだからな。


「ではノーマさん。何を覚えたいですか?」

「ヤシロの好物さね」


 全員の視線が俺に集まる。

 ……ん? 俺の好物?


「お、……おぉ。確かに、あたいもそれが覚えたいかもっ」

「……ふむ。さすがノーマ。一分の隙もなくイヤラシイ」

「悪女ですっ」

「う、うるさいさねっ!? 別に、含むところなんかないさよ! ……ただ、ウチに来た時に、美味いもんでも食わせてやりたいだけさね」

「……あざといっ」

「したたかですっ!」

「おいおい。マグダもロレッタもそう言ってやんなよ。単に年の功ってだけだろ?」

「何気にあんたが一番酷いさよ、デリア!?」


 賑やかになる厨房。

 ……えっと。俺はどんな顔をしてりゃいいんだ?


「人気者だねぇ、ヤシロは」


 包丁を弄びながら、エステラが俺に冷ややかな視線を向ける。……んだよ。なんか怖ぇよ、刃物とその視線のコラボ。


「では、ヤシロさんの好きな料理を、みなさんで作りましょう」


 ぱんっ! と、手を叩き、ジネットが明るい声で言う。

 俺の好物って……何を作る気だ?


「……ふむ、ヤシロの好きな料理といえば……」

「あぁ、アレですね」


 マグダとロレッタがピンッときたって顔で言う。


「……おっぱいプリン」

「間違いないです!」

「あの英雄様。夕飯にプリンは……」

「お前らの決めつけは、時に人を傷付けるから気を付けろ?」


 ここでジネットがおっぱいプリンを作り始めたら俺は家出するぞ。

 まったく……イメージが先行し過ぎてあらぬ誤解を受けている。

 ここはビシッと否定しておくか。


「俺が好きなのはおっぱいプリンじゃない! 生おっぱいだ!」

「は~いみんな、手を洗ってね~。あ、ヤシロ。そこ邪魔だからどいてくれる?」


 粛々と、エステラに撤去されてしまった俺@厨房のすみっこ。……ひどくない?


 なんだかやるせない気持ちになったので、厨房の隅に椅子を持ってきてそこで独りぼっちで座っててやる。ぬらりひょんの如く。


「それで、店長さん! 何を教えてくれるです!?」

「……マグダにも作れるレベルの物を希望」

「のっけますか? 店長さん?」

「鮭は美味いが、今回は鮭以外な? な?」

「出来ればこう……心憎い隠し味とかを教えてほしいさね」

「なんでも構いませんので、早く作りませんか? 私ずっと待ってますよ?」

「あの、みなさん、落ち着いてください! すぐに! すぐに始めますから!」


 ジネットに詰めよる面々と、詰め寄られてあたふたするジネット。

 こうも濃いメンツをさばくのは大変だろうなぁ。


「ホント……大人気だよね、ヤシロは」


 ナイフを弄びながら、エステラが俺に冷ややかな視線を向ける。……って、おーい。得物が変わってるよ~、より殺傷能力の高い物に。


「では、クズ野菜の炒め物を作りましょう!」

「「「「「クズ野菜?」」」」」


 エステラとベルティーナ以外のメンバーが小首を傾げる。

 陽だまり亭がクズ野菜の炒め物くらいしか出せなかった時代を知らない者たちだ。

 ゴミ回収ギルドが出来、モーマットから野菜をもらうようになってからは普通の野菜炒めがメインとなり、その後の行商ギルドとの和解以降はクズ野菜を客に出すことはほとんどなくなっている。

 今でもメニューの片隅には残っているのだが、最近ではほとんどお目にかかれない。


「ボクとしては、懐かしいメニューだね」

「私も、好きでしたよ、アレは」


 ベルティーナの言う『私も』の『も』が、妙にくすぐったかった。


「ヤシロ、そんなのが好きなのか?」

「意外さね」

「……ヤシロは、意外と貧乏くさい物が好き」

「あたし知ってるです! 皮に栄養があるですよね!?」


 まぁ、そう言われればそうなのだが…………


 初めて食ったジネットの手料理がそれなのだ。


 ……えぇい。くすぐったい。

 それを好物とか…………あぁ、くすぐったい。


「この料理は、簡単そうに見えて下ごしらえが大変で、調理にも細心の注意が必要なんです。練習にはもってこいではないかと思いますよ。材料費も、お安く済みますしね」


 確かに。

 野菜ごとにそれに合った調理法をしなければ、生焼けや黒焦げが出てしまう、何気に難易度の高い料理だ。


 ふむ。

 まったりお料理教室になるかと思いきや……ジネット先生は結構スパルタかもしれないな。


「では、まずは大きなものから順に下ごしらえしていきましょう」


 ジネットの号令とともに、四十二区ガールズの花嫁修業が始まった。


「……これ、結構な時間待たされそう……ですよね?」


 ただ一人、俺の隣で花嫁になる気のまったくないシスターが泣き言を漏らしていたが……まぁ、それは無視しておこう。


「あぅっ! …………うぅ、指を切っちゃったです」

「……ロレッタはドジっ子」

「はぅ……面目ないです」

「いいや、ロレッタ! それでいい! そいつは新妻の必須スキルだ! 高ポイントだっ!」

「な、なんか褒められたですよっ!?」


 指を切って人差し指を「かぷ」っと咥える……いいねっ!

 この際、唾液だとか衛生面だとか、細かいことは言わない! だって新妻だぞ? 唾液だって素敵な調味料さっ!

 ……まぁ、出来たおかずに「だばぁ~」っと垂らされたらぶっ飛ばすけど。


「理想としては、男の方が『バカだなぁ……大丈夫か?』とか言いながら人差し指を『かぷ』っと舐めてやるのがベストだけどな」

「はぅっ!? そ、そう……なんですか?」

「まぁ、お約束だな」

「ふぅぅ…………で、では……っ、ど、どうぞですっ!」


 と、ロレッタが薄く切れた人差し指を差し出してくる。……指先がほんのり濡れている。


 ……うん。いや、違う違う。


「『新婚の二人なら』そうするべきだという、一つの例だ……今は、違う」

「にょぅっ!? そ、そそ、そうですね!? あたしとお兄ちゃん、新婚さんじゃないですもんね、今は!?」


『今は、違う』の『今は』を拾うな。

 意味深になるだろうが。


「よしっ! あたいも切るぞっ!」

「食材をなっ!」


 思いっきり指を切ろうとしていたデリア。……お前、その威力で行くと完全に切断されちまうぞ……『あはは、ドジだなぁ』では済まない大惨事になるぞ!?


「……メドラママは、以前このような状況で…………ナイフを壊したっ」

「相変わらずエピソードが濃いな、メドラは!?」


 指とナイフが接触してナイフが負けたのか!?

 鋼かよ!?


「アタシも、未熟なうちはよく指を切ったさねぇ」

「若い頃の話か?」

「……っ」


 おい、デリア。

 ノーマがわざわざ『未熟なうち』っつってんだから、それでいいじゃねぇか。


「ま、まぁ。指を切るのは最初のうちさね。その傷も、舐めてりゃ治るさよ」

「ノーマもよく自分で舐めてたのか」

「…………っ」


 デリア~。

 今の、わざわざ『自分で』って言葉つける必要あったかなぁ?

 その時は相手がいたかもしれないだろう?

 まぁ、ノーマの反応からして、いなかったんだろうけど。


「ご、ごほん……料理なんてのは、要は慣れさね。やってりゃどんどん上手くなっていくさよ」

「ってことは、ノーマレベルになるには相当時間がかかるんだなぁ」

「デリア、あんたアタシにケンカ売ってんのかぃ!?」

「なんだよぉ? あたいは素直な感想を……!」

「素直な感想だから性質が悪いんさねっ!」

「あの、厨房で暴れるのは危険ですよっ!」

「君たち、どっちも包丁持ってるからねっ!」


 睨み合う獣人族を、ジネットとエステラが止めに入る。

 本気を出されたら手に負えないな。

 しょうがない……


「あ~、早く食べたいなぁ。ノーマの落ち着く味とか、デリアの初挑戦のご飯とか」

「さぁ、店長さん。サクッと作っちまうさよ!」

「そうだぞ。ヤシ……客が待ってんだからなっ!」

「え……あ、はい。では、急ぎましょうか」

「……君らは、まったく…………単純なんだから」


 エステラの視線が俺へと向けられる。

 ……んだよ。

 暴れる二人を大人しくさせただけじゃねぇか。そんな『君も大概だけどね』みたいな目で見んじゃねぇよ。


「あの、ヤシロさん」


 俺の隣に座り、一連のゴタゴタを静観していたベルティーナが、落ち着いた声で言う。


「『四十秒で作れ』とか、みなさんに言ってみてくださいませんか?」

「『もうちょっと待ってろ』」

「うぅ……ヤシロさんは、たまにとても厳しいです……」


 しょんぼりする食いしん坊シスター。

 この中で、一番の問題児はお前だからな。こと、食い物に関してはな。


「早くしないと、ヤシロさんとジネットがこの後作る結婚式用の美味しい料理を食べている時間がなくなってしまいますね……そわそわ」


 くっ!

 こいつ、どこでその情報を!?

 つか、そっちもしっかり食う気でいやがるのか!?


「ウェンディさん。作業は順調のようですね」

「はい。お料理って、やってみると楽しいですね」

「うふふ。そうですよね」


 ジネットがウェンディに話しかけている。

 ウェンディも楽しんでいるようで何よりだ。


「ですが、野菜を切る時は包丁を使いましょうね」

「またちぎってたのかウェンディ!?」


『料理って、やってみると楽しい』とか言うなら、まずは基本を覚えろっ!


「す、すみません英雄様。私、ほんの少しだけ、握力に自信がありまして……」

「いや、自信があるのはいいんだけどさ…………ジネット、教えてやってくれ」

「はい」


 まぁ、料理教室だからな。

 最初はこんなもんでいいんだろう。

 最終的に、それなりの物が作れるようになればな。


「なぁ、店長~」

「はい。なんですかデリアさん?」

「野菜が無くなったんだけど?」

「……細かく、切り過ぎましたね」

「どこまで細かく切ったの!?」


 ……いくら最初でも、これはない。

 誰が野菜を粉にしろっつったか。


「……店長」

「はい。どうしました、マグダさん?」

「……美味しかった」

「食べてんじゃねぇよ!?」


 何を満足げな顔をしてんだ!?


「店長さん!」

「は、はい。どうしましたロレッタさん!?」

「何かハプニングが起きてほしいのに、普通に出来ちゃうですっ!」

「それでいいんだよ、ロレッタ!?」


 お前は『普通であること』に怯え過ぎだ! いいんだよ、普通で!

 普通がいい時だってあるんだ!


「ねぇ、ジネットちゃん」

「あ、はい」

「この包丁、刃先が綺麗だね。……どこで売ってるの?」

「刃物に興味を示すな、このナイフマニア!」


 誰か真面目に料理してぇー!


「店長さん。こんな感じでどうかぃねぇ?」

「わぁ! ノーマさん、とても上手です! 完璧な包丁捌きですねっ!」

「さすがノーマだな」

「ふふん。アタシにかかれば、こんなもんさね」

「「「あれで、どうして嫁のもらい手が……」」」

「うっさいよ、そっちの獣っ娘三人っ!」


 だから、ノーマ。包丁は振り回すな。な?



 そんなこんなでにぎにぎしく、料理教室は数時間に亘って開催された。

 途中途中やって来た客(主にウーマロとその関係者)に、試作品を食わせてみたりして、夕暮れが迫る頃には、ウェンディもそれなりの物が作れるようになっていた。


「披露宴で、新婦が作った一品をお出しするというのも面白いかもしれませんね」

「おぉ、それはいいな。少し早く来てもらって、セロンの飯に一つ混ぜておこう」

「えぇっ!? わ、私に出来るでしょうか?」

「出来るようにするよ。ジネットがな」

「はい! 任せてください!」

「では……よろしくお願いします」


 結婚式まであと二週間あまり。

 四十二区は再び祭りの前の賑わいを見せていた。



 ちなみに。

 後日セロンから聞いたところによると、ウェンディは料理教室の後、セロンに手料理を振る舞ったらしい。


「ちぎり野菜の炒めもの、とても美味しかったです!」……だ、そうで。


 …………ウェンディ。まだ包丁使いきれてないのか。再教育が必要だな。



 あぁ、そうそう。もう一つ。

 アッスントが――


「ここ数日、野菜ではなくクズ野菜を欲しがる方が増えましてねぇ……ヤシロさん、何したんですか?」


 ――とか聞いてきたのだが……俺のせいじゃねぇよ。

 たぶんな。







まはろ~ぬい、ろあ~!



あっ、すみません、言語を間違えました


いつもありがとうございます。


いや~、ちょっとヤシの実ブラのことを考えていたもので、

挨拶がハワイアンに、頭の中が「イヤんバカん」になってました。



どうしていつもおっぱいの話ばかりしてしまうのか……

それは、止めてくれる大人がそばにいないからですっ!


みなさん。

友達は大切にしましょう。

第三者的な意見を言ってくれる得難い宝ですよ。


あぁっ!

友達が欲しいっ!



女神様「(ブクブクブク……ザバァー!)あなたの願いを叶えましょう」

私「斧とか落としてないのに、泉から女神様が!?」

女神様「(濡れてペッタリ張りつく白っぽいローブ的な衣服)(←エロい)あなたが欲しいのは、心を砕ける友人ですか? 自由に揉めるおっぱいですか?」

私「おっぱいです!」

女神様「(ジャブン! ……ブクブクブク)」

私「あぁっ!? おっぱいが! 私のおっぱいがぁぁあっ!」


――みなさん。友達は大切にしましょう。

ひと時の気の迷いで失ってしまうには、惜しい存在ですよ。



……おっぱいの次にねっ!




さて、おっぱいと言えば、

初めてお食事をさせてもらう方によく「左利きなんですか?」と聞かれるんです。(おっぱい関係ない!?)


私は子供の頃左利きだったのですが、

その当時は左利き用の文房具とかもあまりなく、あっても高価で、

直せるなら右にしておいた方がいい、みたいな空気があったんですね。

我が家もそんな感じで、右利きへの矯正をされたわけですが……


お箸だけはいまだに左なんです。

他は全部右なんですけども。


ですので、普段「利き腕は?」と聞かれれば右と答えるのですが、

食事の時は「左です」と答えてるんです。


今ではサウスポーも珍しくありませんしね。

左利き用のあれこれも、百円均一で手に入りますし。


ただ一点、問題があるとすれば……


蝶ネクタイの見た目は子供な探偵に目を付けられやすいということですかね?

「あれれ~? でも、オジサン。さっき左手でお箸使ってたよね?」とか言われちゃいそうで戦々恐々です。

ファミレスとか、料亭とか、そういう場所って、銭湯の「入れ墨お断り」みたいな感じで、「蝶ネクタイお断り」とかにしてくれませんかね?

落ち着いて飯も食えやしない。

店内に蝶ネクタイの男の子がいたら、無理して右手でお箸使う羽目になりそうです。


俳優さんでも、左利きなのにお芝居では右で食べてる方、いますよね?

小●旬さんとか、二●和也さんとか、山●智久さんとか。

ですのでまぁ……


大きな括りで言ったら、私、そこのグループに含まれ……すみません、ちょっと言ってみたかっただけです。石を投げるのはやめてくださ……だからって岩にグレードアップしないでくださいっ!?



みなさん、口は禍の元です。くれぐれもご注意を!


というところでSSですっわっふぅ~いっ!


2016年 04月 07日 11時 31分のR様より。

本編でも弄られていましたが、もう少しだけ、ノーマ姐さん弄りです!




――ノーマの工房


ヤシロ「やっぱ、板金って面白いよな」

ノーマ「そうかい? そう言ってもらえるのは嬉しぃねぇ。ヤシロは腕もセンスもいいから、ウチのギルドに欲しいくらいさよ」

ヤシロ「親がそういう仕事をしていたからな」

ノーマ「そうなんかい。そりゃあ、さぞかし腕がよかったんさねぇ」

ヤシロ「なんで分かんだよ?」

ノーマ「ヤシロに基礎を教えた人が、生半可な腕前なワケないさね」

ヤシロ「ふふ……べた褒めだな」

ノーマ「こういう作業に関して言えば、あたいはヤシロを評価してるんさよ」

ヤシロ「そりゃどうも……熱ぃっ!?」

ノーマ「大丈夫さねっ!?」

ヤシロ「はは……悪い。鉄板、まだ熱かったんだな(自分の耳たぶをつまむ)」

ノーマ「当たり前さね。熱いうちに打つのが基本さね。…………で、それ、何やってんだぃ?」

ヤシロ「ん? あぁ、これか?(耳たぶ『ぷにぷに』)耳たぶって、他のところよりちょっと冷たいだろ? だから冷やしてんだよ」

ノーマ「そんなんで冷えるんかぃ?」

ヤシロ「全然。気休めだよ。まぁ、癖みたいなもんかな」

ノーマ「アタシの耳は全然冷たくないけどねぇ……(自分の耳を『もふもふ』)」

ヤシロ「そりゃ、そんなもふもふしてりゃあな」

ノーマ「ちょっと触らせておくれでないかぃ?(ヤシロの耳たぶを摘まんで『ぷにぷに』)…………ぁはあ……なんか、気持ちいいさね」

ヤシロ「こらこら。人の耳で遊ぶな。つか、急に触んなよ。ちょっとドキッとしたろうが」

ノーマ「ヤシロがドキッと? ……ふふん。ヤシロも可愛いところあるんさねぇ(Sっぽい笑み『にやり』)」

ヤシロ「なんだよ。耳、モフり返すぞ?」

ノーマ「くふふ……そんな虚勢も可愛いもんさよ(調子づいてグッと身を寄せる)」

ヤシロ「ノーマ……お前……酔ってる?」

ノーマ「酒なんか飲んでないさよ……ただ、熱のこもった工房で一心不乱に鉄板を打っていたから、ちょ~っと疲れただけさね…………疲れたから、ちょっと癒しがほしい……それだけさね」

ヤシロ「お、おい……悪ふざけはよせよ……?」

ノーマ「(くふふ……ヤシロにはいつも照れさせられているからね。たまには仕返ししてやるさね)」

ヤシロ「と、とりあえず、指を冷やしたいんだ……退いてくれるか?」

ノーマ「冷やすなら……(舌をペロリと覗かせる)……アタシが舐めてあげるさね」

ヤシロ「いや、さすがにそれは……」

ノーマ「くふふ……ヤシロは可愛いさねぇ……(ヤシロのアゴを人差し指で『つぃ~』)遠慮しなくてもいいんさよ?(……くふふ。さぁ、大いに照れるさよ、ヤシロ)」

ヤシロ「……そうか」

ノーマ「……へ?」

ヤシロ「……(ぐぃっとノーマの肩を押し、ノーマを作業台の上に押し倒す)」

ノーマ「ひゃぅっ!?」

ヤシロ「『遠慮するな』って……言ったよな?(ノーマの上に覆い被さり、顔を接近させる)」

ノーマ「やっ……あの、ちょっ…………待……待つさょ……(心臓『バクバク』)」」

ヤシロ「舐めてくれるんだよな? 俺の火傷…………(火傷した指をノーマの口元へ持っていく。唇に触れそうな距離)」

ノーマ「そ、それはその……(唇に指が触れそうで、上手くしゃべれない)」

ヤシロ「さぁ、もう一回舌を出してみろよ……」

ノーマ「あ、あの……さっきのは、じょ、冗談……っていうか……」

ヤシロ「それとも……(唇付近をさまよっていた人差し指をノーマの頬に当て、這わせるように撫でてアゴを掴む)…………指じゃないもの、舐めてみるか?(キスしそうな程の急接近)」

ノーマ「あ、ぁぁああああの、しょのっ、えと、ちょ、ちょいと、まままままま待っておくれくおくおくおくおくれでなななな……っ!?(パニック)」

ヤシロ「ふふ……可愛いな、ノーマは」

ノーマ「きゅふぅうっ!? ご、ごめんさっ!? ちょっとヤシロを困らせてやりたかっただけさね!? あの、実は、その、アタシ、こういうの全然その、無くて…………だからっ、ごめんさねっ!(ヤシロを全力で突き飛ばす)」

ヤシロ「のぅっ!?(吹き飛ばされて棚に『どがすっ!』用具『ガンガランゴロン!』頭に『がーすがすがすがす!』)」

ノーマ「そういうのは結婚してからじゃなきゃダメなんさねぇー!(走って工房を出ていく)

ヤシロ「…………てて……ったく、ピュアなくせに柄にもないことやるから…………あぁ、くそ。めっちゃ心臓どきどきしたっつの…………バレてなきゃいいけど…………あぁ……舐めてほしかったなぁ……ちょっとだけ」



――結局、どっちもヘタレな二人の駆け引きなのでした。



ノーマの舌って、……なんだか、ねっとりしてそうですよね。まぁ、いやらしい。

どこかに純情な巨乳キツネ美女、落ちてないかなぁ?



今後ともよろしくお願いいたします。


宮地拓海

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