後日譚43 木こりと勝負
「おいおい……」
ハビエルと話をした翌日。
対決当日の四十二区街門前にて、俺は唖然としていた。
「野郎ども! オースティンやゼノビオスに後れをとるんじゃねぇぞ!」
「「「おぉぉおおおっ!」」」
四十区の木こりどもが暑苦しい筋肉を盛り上がらせて咆哮している。
「おい、ハビエル。確かお前は一人でやるんじゃなかったか?」
「いやぁ、それがよぉ」
苦虫を噛み潰したような表情でハビエルは髭をいじくっている。
その後ろから、ホクホク顔のデミリーが顔を覗かせた。
「私の差し金だよ、オオバ君」
この頭部露出狂が何かを仕出かしたらしい。
自分で『差し金』とか言うかね。
「折角面白そうなことをやるからさ、木こりのみんなにも話をしてあげたんだよ」
「まったく、アンブローズは……余計なことをしてくれおって」
どうやら、ハビエルの意向も聞かずにデミリーが勝手に木こりを焚きつけたようだ。
「私も、百年に一度の木材を四十二区に持っていかれたのが悔しくてねぇ」
と、全然悔しそうではない顔で言う。
「今回、木こりたちの力を借りて、アレを上回る木材を手に入れたいと思ったんだよ」
聞けば。今回、最も品質のいい木材を用意した者には、領主から金一封が授与されるらしい。
しかも、品質のいい木材を入手したという認定証を発行し、その栄誉を区全体で称えるのだという。
名誉と金。そりゃ、この暑苦しいオッサンたちは飛びつくだろうよ。
「もちろん、君たちの対決の邪魔はしないよ。オオバ君がスチュアートよりも品質のいい木材を用意出来れば、たとえそれ以外の木こりよりも見劣りしたとしても、オオバ君の勝ちでいい。こちらはただ便乗するだけだから」
「だとよ、ハビエル。お前が一番しょぼい木材しか取れないって思われてるぞ」
「なんだと、アンブローズ!?」
「そんなことは言ってないだろう!? オ、オオバ君、煽るのはやめておくれよ」
ふん。
こっちの意見も聞かずに便乗した罰だ。
他のヤツらが根こそぎ品質のいい木材を持っていってしまったら、俺やハビエルが見つけられる可能性が落ちる。そこんところを考慮していない時点で、すでに迷惑はかかっている。
……けどまぁ。それでも俺は負けないけどな。
「イメルダ」
「分かりましたわ」
イメルダの背中をぽんと押すと、イメルダは一歩前へ出て、美しい姿勢でよく通る声を発する。
「みなさん。本気は出さないでくださいまし」
「「「卑怯だぞ、オオバヤシロー!」」」
吠えるがいい、木こりども。
卑怯なんて言葉は、俺のために開発されたようなものなのだ。
「プロの木こりに、その手は通用しないと言ったろうが」
ハビエルはまったく動じず、余裕の笑みを浮かべている。
なので、もうひと押ししてみる。イメルダの背中をぽん。
「本っ気で嫌いになりますわ」
「ど、どどど、どうしよう!? どうしたらいいんだぁぁああ!?」
「スチュアート、落ち着いて。オオバ君の手中に面白いように嵌っているから」
イメルダがいれば、木こりたちには負けないんじゃないだろうか。
よし! 勝ちの空気が流れているうちに宣言しておこう。
「さぁ、みんな! 正々堂々戦おうじゃないか!」
「ヤシロ、お前。さっきの今で、よく恥ずかしげもなくそういうこと言えるよなぁ……」
「本当、領主としてちょっと見習いたいよ、その面の皮の厚さ……」
オッサン二人が俺を称賛している。
ふふん! まいったか!
「それで、ヤシロよぉ。オースティンとゼノビオスはどこだ?」
挨拶でもしたいのか、ハビエルがきょろきょろと辺りを見渡す。
「もう森に入ってるぞ」
「なにぃ!?」
「いや、だって。期限は決めたけど、開始時刻は決めてなかったじゃねぇか。勝負はもう始まってるぞ?」
「お前……っ! ホンットそういうところズルいよなぁ!?」
肩を揺すり、ムズがるガキのように地面を足でグリグリするハビエル。
うわぁ……可愛くな~い。
「まぁいい! それくらいのハンデでちょうどいい! ワシも行くぞ!」
大砲のようなハビエルの大声に、給仕たちがピシッと姿勢を正す。
そうして、ハビエルは他の木こりよりも先に門へと向かって歩き出した。
「日没を楽しみにしていろよ、ヤシロ! 吠え面かかせてやるからな!」
右腕を高々と掲げ、勝利宣言とともに門を超えて森へ入っていく。
ハビエルが出発したことで他の木こりも俄然気合いが入ってきた。
「よぉおしっ! 滅多にない、ギルド長に挑戦出来る機会だ! テメェらぁ! ぬかるんじゃねぇぞぉ!」
「「「ぅぉおおおおおっ!」」」
「ギルド長をあっと言わせてやろうぜぇっ!」
「「「ひゃっはぁぁぁあーっ!」」」
鈍器のような筋肉を振り回し、凶器にしか見えない斧やマサカリを担いで木こりたちが門へとなだれ込んでいく。
……主人公に瞬殺されるザコキャラのようだ。
「ヤシロさん。ワタクシたちもそろそろまいりませんこと?」
「まぁ、待て。まだ揃ってないんだ」
「誰が来ますの?」
「……待たせた」
イメルダの問いに答えるようなタイミングで、俺の待ち人が雁首揃えて登場する。
「心強い味方と、偉大なるスポンサー様さ」
「まぁ……」
そこにいたのは、外行きの完全武装をしたマグダと、ニッカポッカみたいな形状の作業服を着たロレッタ。そして、いつもよりも動きやすそうなスポーティな格好をしたエステラがいた。
「この方たちでしたの」
さらに、みんなより少し離れた位置に、ジネットが立っていた。
大きなバスケットを持って、遠足にでも行くような活動的な格好で。
「……それにしても、装備がバラバラですわね」
「まぁ、俺らは外行きの装備とか持ってないからな」
門の外でも通用しそうな装備は、マグダとイメルダが身に着けているものくらいだ。
さすが本職とでも言うべきか、イメルダもそれなりに強そうな装備を身に纏っている。木こりの出で立ちだ。
てっきり、こいつなら森の中にまで日傘を差して優雅に歩いていくものだとばかり思っていた。なので、ちょっと意外だった。
「森は死と隣り合わせの危険な場所ですわ」
「……うむ。特に、四十二区の門は森の深層に出るため魔獣のレベルも凶悪」
「その通りですよ、お兄ちゃん! 店長さんも! 油断し過ぎです!」
俺とジネットの服装にダメ出しをするロレッタ。
……いや、お前も大概だろう?
「どっから持ってきたんだよ、そんなニッカポッカ?」
「ウーマロさんに借りたです!」
「あぁ、トルベックの作業服なのか」
しかしなんだな……普通に似合うな、お前。
陽だまり亭をクビになってもそっち方面で食っていけそうだな。
「ちなみに! 今回だけ特別に借りて着ているだけですからねっ!」
「なんだよ。何も言ってないだろう」
「言ってなくても『陽だまり亭をクビになってもそっち方面で食っていけそう』みたいな顔したです! 絶対やめないですからね、あたし!?」
こいつはエスパーか。
それとも、俺の顔はそんなに分かりやすいのか?
試しに……ロレッタの左の下乳、ロックオン!
「にょはぁ!? 左の下乳だけをガン見しないでですっ!」
ふむ。
分かりやすいらしいな、俺の顔。気を付けよう。
「あの……、わたしの格好は、問題あるでしょうか? 持っている服の中で一番動きやすそうな物を選んだんですけど……」
不安げな顔でジネットが聞いてくる。
ジネットが武器や防具を持っているはずもなく、コレでも精一杯頑張った方なのだろう。
しかし、気になるのはバスケットだな。
「弁当か?」
「はい! みなさんで召し上がりましょうねっ」
完全にピクニックだな。
まぁ、ジネットはそれでいいだろう。
剣を振り回して魔獣をバッサバッサと切り倒していくところなんか見たくもないし、想像も出来ん。
「店長さんは森の外どころか、お出かけにも慣れていないでしょうし……仕方ありませんわね」
「ふぇっ!? あ、あの。ここ最近は、割と、出掛けている……方、ですよ? さ、三十五区とか、行きましたし! お泊まりもしましたし!」
安全な三十五区と外の森では比較にならないんだろうが……ジネットにしては活動的になった方だ。
「……大丈夫。店長とヤシロは、マグダが守る」
「あたしも守ってです、マグダっちょ!?」
「…………………………え?」
「その『間』が地味に心を抉るですよ!?」
涙目で訴えるロレッタ。
まぁ、心配すんな。マグダのことだ、ロレッタを危険な目に遭わせることはまずないだろう。
「ボクも、深層の魔獣相手だとちょっと自信ないかもなぁ……」
マーシャに付いて、たまに門の外へ行くエステラだが、いつもは三十五区側ばかりで、森へ入ることは滅多にないらしい。
いつもよりも物々しいナイフなんかを腰に差してはいるが、果たしてどこまで通用するのか。
「まさか、イメルダがツートップの片翼を担う時が来るとはね」
「おほほほっ! 森に関してはワタクシの方が何枚も上ですわ」
そりゃそうだろう。本業なんだから。
「ですが、エステラさん」
「ん、なに?」
「胸に鉄板を仕込んできたことは褒めて差し上げますわ」
「残念だけど、自前なんだ、コレ! ……誰の胸が鉄板だ!?」
果たして。
こんな騒がしいメンバーで森へ入って無事でいられるだろうか……うん、考えるまでもないな。無理だ。
つーわけで。
俺は頑張らないことを選択する。
「んじゃ、適当に森の入口をうろついて、弁当食って帰ってくるかね」
「えっ!? ヤシロ、木材は取りに行かないのかい?」
「……マグダがいれば安全」
「あたし、逃げ足だけは自信があるです!」
「お弁当、楽しみですね」
などなど、感想はばらけたようだが……
「俺らが必死になっても、ハビエルたちに太刀打ち出来るわけないだろう。危険を冒してまで頑張る必要はねぇよ」
「じゃあ、勝負はどうするのさ?」
どうにかして勝ちたいとでも思っているのか、エステラは焦れたような口調で言う。
「勝負は、もう既についてるんだよ」
「え……?」
作戦を知っているのは、俺とイメルダだけだ。
他のメンバーはきょとんとしている。
ただ一人、ジネットだけが、「みんなでお出かけ、楽しいです」みたいな顔でルンルンしている。
「でも、外に行くことに変わりはない。頼りにしてるぞ、マグダ」
「……まかせて」
「それから、ロレッタも」
「あ、あたしにも期待してるですか!?」
「お前は鼻と耳と調子がいいからな。頼りにしている」
「わほ~い、です! 任せてで…………『調子がいい』は悪口な気がしてきたです!?」
お、なんだ。気が付いたのか。
成長したんだなぁ、お前も。
「それじゃ、行くぞ。今日の入門税は領主持ちだ。何往復でもするがいい!」
「なんで何回も通るのさ!? 一往復で十分だろう!?」
バカモノ。
他人の金なら無駄遣いしたくなるのが心情ではないか!
「みんなっ! ヤシロに毒されないようにねっ!」
「……マグダは何度か『うっかり』忘れものをするかもしれない」
「あたし、一度、門の下で反復横跳びしてみたかったです!」
「では、ワタクシの分も領主の館に請求しておきますわ」
「敵だぁ! 君らは揃いも揃って敵ばかりだ!?」
こんなメンツが揃ってるんだ。
そりゃ面白い方に乗っかるだろう、こいつらなら。
「みなさん。あまりいじめちゃ可哀想ですよ。ねぇ、ヤシロさん?」
ジネットがエステラの頭を撫でながら俺に問いかけてくる。
が、答えは『NO!』だ!
「エステラ。……いじめられてるお前は、可愛いぞ」
「嬉しくないよっ!?」
なんだよ。折角イケメンボイスで言ってやったのに。イケボだぞ、イケボ。
「それでは、『ルール』に則って、森へ行きますわよ」
イメルダの号令で、俺たちは門の外へと踏み出した。
「わくわくしますね」
「あたしはドキドキするです」
ジネットとロレッタが感じている高揚感は、きっと種類の違うものだろう。
ロレッタの緊張には若干の恐怖が滲んでいる。
「ジネットはのーてんきだなぁ」
「な、なんですか急に!? なんだか酷いです!」
外の森の深層。
プロの狩猟ギルドでも身構える危険地帯だ。
そこへ、ピクニック気分で行こうってんだから……ある意味大したヤツだよ。
かくいう俺も、さほど緊張はしていない。
いくら獣といえど、街門のそばまではそうそう出てこないのだ。
門番が常駐しているし、何度か争いが起こると、魔獣はそこを避けるようになる。
向こうは向こうで、平穏に暮らしたいんだろうよ。
そんなわけで、門のそばにいれば比較的安全であると言える。いざという時は門番も駆けつけてくれるしな。
「……ここからはおふざけは禁止。命に関わる」
一歩門を出ると、マグダの耳が「ピンッ!」と立った。表情も心なしか険しくなった気がする。
門の前は木々を伐採し、それなりの範囲を開拓してある。
門を出ていきなり潜んでいた魔獣にザックリやられる……なんてことはないだろうが。
まぁ、気を引き締める必要はあるよな。なので――
「エステラ、冗談みたいな胸はやめてくれるか?」
「君こそ、顔だけじゃなくて思考回路まで冗談になっちゃったんじゃないのかい? 謹んでくれないかな」
「どこに行ってもフザケますのね、あなた方は……」
エステラのせいで冷ややかな視線を向けられてしまった。
まったく、これだからエスペタは……
「……エスペタ」
「この前『オオバヤシロ』って書いたら『オオバカシロ』っぽくなっちゃったんだけど、修正しないでおくね。結構重要な書類だったんだけど、あえてね」
なんだよ、その地味な嫌がらせは。
つか、エステラの使用してる文字も『ヤ』と『カ』って似てんのかよ。
「お二人とも。ほどほどに。マグダさんが拗ねてますよ」
「……マグダの忠告が無視された……」
マグダが地面の小石を蹴っている。
「あぁ、すまん。緊張感持っていこうな。危険だもんな!」
「きょ、恐怖心から、ついだよ、つい! 深く反省して言うこと聞くから、ね? 機嫌直してよ、マグダ」
「…………ふん」
へそを曲げたマグダを宥めつつ、耳をもふもふしたりしながら森へ入る。
……緊張感ねぇなぁ。
「今頃木こりの連中は、『もっと奥まで行くか?』『木を切る時間と運搬のことも考えるとあまり奥までは行けないぞ』『しかし、奥に行ったらもっといい木があるかもしれん』『立派になればなるほど切り倒すのに時間がかかる!』……とかなんとか考えながらあっちこっち動き回っていることだろう」
「日没までに戻ることを考えれば、時間的にはかなり厳しいですわね」
森の奥へと入っていけば、百年に一度の木材をも超える素晴らしい木があるのかもしれない。
だが、そうそう見つからないからこそ価値があるわけで……今日森へ入ってすぐに発見出来るようなものではないだろう。
だからこそ、俺たちに勝機はあるのだ。
「マグダ、イメルダ! 周辺の安全を確認してくれ!」
「……心得た」
「しょうがありませんわねぇ」
森に慣れた二人が、少し奥の方まで行って魔獣がいないかを確認してきてくれる。
その間に、こっちは門番から少し離れた外壁沿いの適当なポイントにシートを広げる。
「ちょっと、ヤシロ。森の奥へは行かないのかい?」
「あの、お兄ちゃん。ここで何するですか?」
「ピクニックだが?」
「「ふぁっ!?」」
エステラとロレッタが揃って面白い声を上げる。
ジネットだけは嬉しそうにお弁当の用意を始めていた。
「イメルダは明確に俺のチームだからな。これで森に入ったというアリバイも出来た」
もっとも、四十二区支部の連中は全員こちらのチームなので、オースティンとゼノビオスが森で頑張ってくれてるから、すでに問題はないのだが……まぁ、一応俺も行っとくかなぁ、みたいなな。
「……この付近に魔獣はいないもよう」
「こちらも、脅威になり得ることは何もありませんでしたわ」
「おう、サンキュウ」
この街の外壁には、『魔獣が嫌う魔力を発する石』が使われている。
ここにいればそうそう危険な目に遭うこともあるまい。門番も見えるところにいるし。
というわけで、街門の外ではあるが、多少騒いでも大丈夫だろう。
「んじゃ、昼飯にはまだ早いが……宴と行こうか!」
「うたげぇ?」
「おう! 祝賀会だ」
「いやいやいや! まったく意味が分からないんだけど!?」
エステラの眉間がうねうねと波打ち始めた。
そろそろ種明かしでもしてやるか……飯でも食いながらな。
そんなわけで、街門の外でピクニックをしたり、ロレッタが調子に乗ってちょっと森の方へ歩いていったり、その結果お約束のように魔獣に襲われかけたりと、色々なことがありつつ、俺たちは日が暮れるまで時間を潰した。
太陽が傾き、木こりの連中がぞろぞろと帰ってくる。
そして、一番最後にハビエルが戻ってきた時、タイミングを見計らったかのように太陽が沈んだ。
日没だ。
「がはははっ! ヤシロ! 悪いが、今回はワシの勝ちだぞ!」
それはそれは見事な大木を抱えてハビエルが豪快に笑う。
凄まじい太さだ。この木一本で馬車が二台くらい作れそうな、実に見事な大木だ。
それを片腕で抱えてるこいつは、やっぱりバケモノなんだろうな。
「百年に一度の木材にはちぃと及ばねぇかもしれないが、こいつを超える木はそうそうねぇ! そういう木だぜ、これは!」
ハビエルの言うことは正しいのだろう。
出掛ける前は鼻息荒く『打倒、ハビエル!』を掲げていた連中が、み~んな小さくなっていやがる。自信満々で持ち帰った自分たちの『獲物』が、途端にしょぼく見える。そんなレベルの木なんだろうな、ハビエルの『獲物』は。
「いやぁ、さすがスチュアートだ。若い彼らも、もう少しくらい喰らいついてくれると思ったんだが……そう簡単には行かないねぇ」
若手の木こりをけしかけたデミリーがテカテカの頭を撫でながら言う。
こいつはきっと、ハビエルの後釜を探そうとしていたのだろうな。
ハビエルもそろそろいい歳だ。イメルダが継ぐにしても、実力でハビエルに並び立てる者が現れるのを待ち望んでいるのだろう。
なにせ、木こりギルドは、四十区を支える屋台骨だからな。
「さぁ、ヤシロ! お前の『獲物』を見せてもらおうか!? ん? どうした? どこにも見当たらんが、小枝すら拾えなかったのか? がははは!」
どこぞの神社のご神木みたいな大木を抱えて豪快に笑う様は、大江山に棲む酒呑童子を彷彿とさせる。江戸の日本にいたら、間違いなく退治される存在だろうな、こいつ。……侍の刀がこいつに通用するならば、だけどな。
「イメルダ」
「承知しましたわ」
バカ笑いをするハビエル。だが、そろそろ近所迷惑を考えなきゃいけない時間帯だ。
少し黙らせてやろう。
「ワタクシたちの用意した木材は、コレですわ!」
イメルダの合図に、木こりギルド四十二区支部の連中がそれはそれは見事な木材を運んでくる。
とても見覚えのあるその姿は、まさに、今話題騒然の、百年に一度の木材だ。
「おいおいおい! こいつはどういうことだ!?」
「だから、コレが、俺たちが用意した木材なんだよ」
「森に取りに行くんじゃねぇのかよ!?」
「ん? 誰がそんなこと言った?」
俺はにんまりと笑い、『会話記録』を呼び出す。
呼び出した途端、ハビエルとデミリーが「ぅわぁ……」みたいな表情を見せるが、知らん。一切無視する。
「今回の勝負のルールは、『四十二区の門を通り』『品質のいい木材を用意する』ってことだったよな?」
「……あぁ、そうだな」
もう完全に諦めモードのハビエルが投げやりな感じで返事を寄越す。
なんだよぉ。最後までちゃんと聞けよぉ!
「だから俺たちは、『四十二区の門を通り』、森の前でピクニックをし、帰ってきてから『品質のいい木材を』支部の保管庫からこっちに運んで『用意』しておいたわけだ」
俺の言うことに間違いがないことは、『会話記録』が証明してくれる。
……の、だが。だ~れも確認しようともしない。
おいおい、張り合いがねぇなぁ。
「まぁ、確かにね。『森の中から取ってこい』とは言っていなかったよね」
デミリーが苦笑混じりに補足してくれる。
そういうことだ。
だから言ったろう。
この勝負は既についているって。
この百年に一度の木材を超える物なんか、手に入りっこないんだから。
「あ~ぁ……っとによぉ。そんなこったろうとは思ったけどよぉ……ワシ、かなり頑張ったんだぞ…………それを、こんな」
ぶつぶつと、ハビエルが恨み節を垂れ流す。
負のオーラが物凄いことになってるな。
やれやれ。『しょうがない』なぁ……
「イメルダ」
「なんですの?」
「もういいぞ」
「はい?」
「もう、勝負はついたから、普通にしてていいぞっつってんだよ」
「なんのことか、よく分かりませんわ」
かぁ~、白々しい。
今すぐ飛びつきたくてムズムズしてるくせに。
「ハビエル」
「んだよ」
俺の呼びかけに、拗ねた声で返してくる。
そんな顔すんなって。周りを見てみろよ。
「お前って、やっぱギルド長なんだな」
「なんだよ、今更?」
「いや、なに。『これだけ卑怯なマネをしなけりゃとてもじゃねぇけど敵わねぇなぁ』と、思ってな」
俺が悪びれるでもなくそう言うと、ハビエルを取り囲む木こりたちに微かな変化が表れた。
「……だよ、なぁ?」
「あぁ。一日でこの成果だもんなぁ」
「いや、つうか、こんな大木どこに生えてたんだよ?」
「そうそう! 俺たち結構奥まで行ったけど、こんな厳つい木は見なかったよなぁ?」
「いや、そもそも……こんな巨大な大木、よく一人で切り倒してきたよな……」
「バケモンかよ……」
「何言ってんだよ、お前ら! ギルド長は、バケモンなんだよ」
「「「「「だよなぁ~!」」」」
「聞こえとるぞ、お前らっ!?」
「「「「ぎゃー! バケモノが吠えたー!」」」」
若手の木こりに吠えるハビエルは、少しだけ元気を取り戻したように見えた。
そうやってる方がお似合いだ。
要するにだ。
今回のハビエルの成果は、ここにいる誰もが認めている。認めざるを得ないほどのすげぇことなのだ。
百年に一度の木材を手に入れ、大いに湧いた木こりギルド。
それを手に入れたオースティンとゼノビオスは確かに凄い。
とはいえ、オースティンたちを丸一日森へ放り込んでも、このレベルの木材はなかなか手に入れられないだろう。
だが、ハビエルなら、森へ入れば確実にこのレベルのものを、毎回手に入れてくるのだ。
やはり、ギルド長は伊達じゃない。
何よりも、周りの人間を圧倒するだけの迫力がある。引きつけるカリスマがある。
デミリーも言っていたが、ハビエルの年齢的にも、そろそろ世代交代を考えるような時期なのかもしれない。
おそらく、イメルダもそんなことを考えていたのだろう。
百年に一度の木材を自慢しに来た時、イメルダが何か思うところがあるような、なんともはっきりしない表情を一瞬見せたのは、そういうことが引っかかってのことだったのだろう。
若手が力をつけた今、父親の時代はそろそろ終わりを迎えるのではないかと……
ところがどっこい。
バケモノは健在。まだまだ最前線で活躍出来ることを見事に証明してみせやがった。
時間をかけ、あれこれ策を巡らせれば、ハビエルに肉薄することは可能かもしれない。
しかし、こういう制限付きの特異な状況では、ハビエルがやはり頭一つ、いや、体一つ抜きんでている。いざという時に頼れるのは、この男をおいて他にはいない。
まぁ、アレだな。
「若いヤツにはまだまだ負けん」とか、そういうことなんだろうな。
うっわ、オッサンくせぇ。
だが――
百年に一度の最高傑作よりも、毎日毎日、何十年も傑作を作り続ける方がはるかに凄い。
組織の長は、そうあってほしいものだ。
「褒めてやったらどうだ。年寄りが精一杯頑張ったんだからよ」
盛り上がる木こりたちを眺めるイメルダに、そんなことを言ってやる。
「ふん……お父様なら、これくらいのことが出来て当然ですわ」
それは、最大級の賛辞だ。
当たり前と思われることがどれだけ凄いか。
「ですが……そうですわね」
くるりと――俺に背を向けて、涼しげな声で言う。
「たまには、褒めて差し上げても構いませんわね」
そう言って、小走りでハビエルのもとへと駆けていった。
俺に見られたくなかったのだろうな、嬉しさのあまり緩みまくった顔を。
「さすが、お父様ですわっ!」
「ぅぉお!? なんだ、イメルダ!? どうした!?」
小走りするうちに感情が抑えられなくなり、結局イメルダはハビエルに飛びついていた。
直立したクマみたいなデカい体にぶら下がり、楽しそうに声を上げる。なんだ。ちゃんと娘っぽいとこもあるんじゃねぇか。
「なるほどね。これも君の狙いの一つだったってわけだね、オオバ君」
柔和な声で言いながら、デミリーが俺の隣へやって来る。
はしゃぐ友人を見て、顔をほころばせている。
「あれ……日の出?」
「エステラー! おたくの領民、再教育しといてくれるかなー!?」
笑顔のまま額に血管を浮かべるという器用な技を披露しつつ、デミリーは相変わらずの人畜無害フェイスで俺を小突く。
「まったく、憎いことをしてくれるね」
「お前だって、若手を焚きつけて、ハビエルに発破をかけてたじゃねぇか」
「おや、気付かれていたかい?」
「そんなに率先してお節介を焼かないオッサンが自発的に動く時は、何か裏があるんだよ。たぶん、ハビエルも気付いてるぞ」
「ふふふ。だろうね」
その時のデミリーの顔は、領主のそれではなく、古くからの友人を見つめるただの男の顔だった。
「まだまだ若い者には負けてられんよね。彼も、私もね」
「そういうこと言い始めると、いよいよオッサンだよな」
「はっはっはっ! いいよ、オッサンは。心が大らかになる」
デミリーはぽんぽんと自分の腹を叩き、次いで俺の肩をバシッと叩いた。
「ありがとうね。今日取れた木材は好きに使うといいよ。代金はウチが持つからさ」
「やったね~! 思ってもみないご褒美だ~」
「ふふふ。冗談が下手だねぇ、オオバ君は」
「それじゃ」と手を振り、デミリーは去っていった。
時間も時間だ。そろそろお開きだな。
「うぉおお! 今日は最高の一日じゃーい!」
娘にデレデレな筋肉オヤジの雄叫びを聞きつつ、今日という日は終わりを告げた。
後日、ほくほく顔のハビエルから盛大に木材を提供してもらい、木材の代金が浮いたからと馬車の製作費をデミリーが負担してくれることとなり、ウーマロが「むはぁぁ! なんていい木材ッスかぁー!? 腕が鳴るッスー!」と張り切って製作に取りかかってくれた。
四十区、張りきりまくりだな。
こうして、パレード用の馬車はかなり豪華な物が出来上がった。
それも、無料で。
おまけに、約束の馬たちは、上機嫌のハビエルが惜しみなく貸してくれることとなった。
もちろん、無料でな。
やっぱ日頃の行いなんだろうなぁ~。うん。
いつもありがとうございます。
私ですっ!(ふんすっ!)
ちょっとすみません。
なんか、やること溜まっちゃって感想返しがなかなか出来ないでおります。
来週までにちょこっとストックを作っておかないと更新止まっちゃうぞ☆
という状況に追い込まれまして、現在、鋭意執筆中です!
感想返しはごめんなさい、しばらくお返事出来そうにありません。でも見てますよっ!
活動報告も!
ありがとうございます、本当に!
更新だけは止めないように、私、頑張りますっ!
あぁ、時間が欲しい。
時間が出来たら、平日の昼間にシャレオツなパスタ屋さんでスマホを弄り倒したい。
……じゃあまずはスマホを買わなきゃ…………え? 電話? 折り畳みですが?
ですので、この春入社の新入社員のみなさん、並びに研修生のみなさん。
「ライン教えてください」と言うのはやめてください。
「え? なんでスマホ持たないんですか?」もやめてくださると嬉しいです。
難しい機械とか、無理なんですよ。
だって、私、アレですよ?
今使ってる折り畳みの携帯電話(意地でも『ガラケー』とは言わない)、もう結構長いこと愛用してますが、
これの前、ハトですよ? 主な連絡手段。
基本のろしで合図して、どうしても必要な時は伝書鳩飛ばしてたんですよ。
――って、真顔で言ったら、何人か「そうなんですかぁ」ってちょっと信じてましたね。
純粋ですね、若者って。
私、普段冗談とか言わないんですよ。
……あの、みなさん。腕を真っ直ぐ伸ばして人差し指をこちらに向けるのやめてくれません?
日本では『精霊の審判』は無効ですよ?
職場では実は無口なんです。
ずっっっっっっっっっっっっっっっと黙って話のネタ考えていますので。
――なんだか重苦しい雰囲気のミーティング
社長「我が社の株価が、うんぬんかんぬん」
部長「新製品の販売が、どーしたこーした」
私「……(株価……販売…………あ、そうだ! おっぱいにお好み焼き挟んで食べる話を書こう!)」
社長「宮地君、何か意見はあるかね?」
私「はい。火傷には注意した方がいいと思います」
社長「ん?」
私「ん?」
吉田「にゃー」
部長「君は誰だっ!?」
……みたいな感じなんです、いつも。
なので、たまに冗談を言うと、
「え? これ、冗談? 真面目な話? え?」みたいな空気になります。
ただ、この前、
休憩室でアツアツのコーヒーを飲もうとして、勢い余って顔に「バシャー」ってしちゃった先輩がいまして――
先輩「アチャッ!? アチャチャチャチャチャッ! アッチャーッ!」
私「お前は北斗の拳か!?」
社員とオバさま方「「ドッ!」」
……あれは気持ちよかったですね。
ただ、その後メッチャ怒られましたけど……
先輩「お前さぁ。俺が大変なことになってる時にさぁ……見てたよな? 俺がどうなってたか?」
私「はい。顔が濡れて力が出なかったんですよね?」
先輩「アーンパンチ!」
私「ばいばいきーん!」
……割と、強めのグーでしたね。
みなさん。冗談を言う時は周りの空気を読みましょうね。
さて、毎日のお楽しみ(←私が)!
SSです!
2016年 04月 02日 18時 04分のH様より、
久しぶりにハム摩呂以外のハムっ子登場です!
――大通り・カンタルチカ前に陽だまり亭七号店が店を開いている
妹「いらっしゃー!」
妹「お姉さんおっぱいおおきいねぇー」
妹「サービス決定ー!」
ヤシロ「おい、ちょっと待てコラ!」
妹「「「あー、おにーちゃんだー!」」」
ヤシロ「なんでおっぱいの大きいお姉さんにサービスしようとしてんだよ? お客は平等に扱わなきゃダメだろう?」
妹「でもでもー」
妹「おにーちゃんから学んだー」
妹「経営方針ー!」
ヤシロ「教えてねぇわ、そんなこと!」
妹「「「おねーちゃんから聞いたー!」」」
ヤシロ「……ロレッタ、帰ったら足つぼ決定」
弟「タコスちょーだい!」
弟「おっぱいないけどおまけしてー」
弟「ウーマロ棟梁のツケでー!」
ヤシロ「おぉ、弟(年中組)か。今日はトルベック工務店の手伝いか?」
弟「うんー!」
弟「おっぱい率ゼロの職場ー!」
弟「基本、タダ飯ぐらいー!」
ヤシロ「いや、働けよ!? で、二番目のヤツ。お前はさっきから何を言ってるんだ?」
弟「お兄ちゃんに憧れてー! 真似っこー!」
ヤシロ「へぇ~、俺どういうイメージなのかな? 詳しく聞かせてくれるかなぁ? ん?」
弟「お姉ちゃん情報によると、一日百回『おっぱい』って言うとお兄ちゃんみたいになれるー!」
弟「お兄ちゃんは日々パイトレしてるってー!」
ヤシロ「……ロレッタ、足つぼレベル『MAX』決定!」
ハム摩呂「おぉっ!? ウチの家族の、大集結やー!」
ヤシロ「お、ハム摩呂か」
ハム摩呂・弟・妹「「「「「「「はむまろ?」」」」」」」
ヤシロ「お前ら、ホント仲いいな……誰も認識出来ないのか」
ハム摩呂「今日はカンタルチカの、手伝いやー!」
ヤシロ「ホント、色んな仕事してんな、お前ら」
ハム摩呂「おにーちゃんほどではないー!」
ヤシロ「いや、俺より明らかに仕事してんだろ」
ハム摩呂「お兄ちゃんは食堂店員でありつつー」
妹「領主様の参謀ー」
弟「トルベック工務店の仕事の仲介ー」
妹「陽だまり亭新商品の開発ー」
弟「川漁ギルド副ギルド長の警護ー」
妹「金物ギルドのキツネのおねーさんの愚痴を聞く係ー」
ヤシロ「関係ないのがいくつか混ざってきたぞ!?」
弟「蝋像のモデルー」
ヤシロ「それを引き受けた覚えはねぇよ!」
妹「ヤシロ教のご神体ー」
ヤシロ「誰がご神体だ!? つか、ヤシロ教ってなんだ!?」
ハム摩呂「大忙しの、お兄ちゃんやー」
弟「大忙しの」
弟・妹「「「「「お兄ちゃんやー」」」」」
ヤシロ「卒業式みたいになってる! なにそれ!? 練習したの!?」
年少組の妹「「「おにーちゃ~ん!」」」
ヤシロ「お、年少組か。教会から出てきて平気なのか?」
年少組の妹「シスター、いいって言ったー」
年少組の妹「ついでにお兄ちゃんにおいしいもの食べたいって伝えといてってー」
ヤシロ「よし、聞かなかったことにする」
年少組の妹「そうなるだろうからって、お手紙預かったー」
ヤシロ「用意周到か!?」
妹「あんたたちー、どの面下げてここまできやがったかー」
妹「そうやすやすと歓迎されるとおもうなよー」
妹「とかいって大歓迎するけどもー」
年少組の妹「あーおねーちゃんたちだー」
妹「「「はたしてそうかなー?」」」
ヤシロ「いや、その通りだろうが、年中組。お前ら何がしたいんだよ?」
年少組の妹「あたしたちもお仕事したいー!」
年少組の妹「したいー!」
年少組の妹「第一発見者ー!」
ヤシロ「『したい』の意味が変わってるな!?」
弟「お仕事は年中組になってからー!」
弟「僕らも結構待たされたー!」
年少組の妹「「「あー、…………えっと、あの……」」」
ヤシロ「お兄ちゃんな、お兄ちゃん! 忘れてやるな、な!?」
ハム摩呂「存在感は、大事やー」
年少組の妹「えびまよー」
年少組の妹「つなまよー」
年少組の妹「めんたいこまよー」
ヤシロ「ハム摩呂だよ!?」
年少組の妹「「「はむまろ?」」」
ヤシロ「だから、なんでそこだけ認識出来ないんだって!? で、何しに来たんだよ。俺に何か用か?」
年少組の妹「おにーちゃんに頼まれてたやつ、描いたー!」
年少組の妹「見せにきたー!」
年少組の妹「かくにん、よろー!」
ヤシロ「頼まれてたヤツ?」
年少組の妹「「「これー!(ヤシロに紙を渡す)」」」
――年少組の妹たちの描いた不思議な物体の絵。ハビエルらしい
――絵の横に歪な文字で『はびえるおじさん、かっこいい』
ヤシロ「あぁ……これ、ハビエルとの勝負の時に、念のために頼んでおいたやつか……俺が勝ったから要らなかったんだが……」
年少組の妹「渾身の力作ー」
年少組の妹「一世一代の傑作ー」
年少組の妹「なんだかんだでぬけ作ー」
ヤシロ「お前らって、三段落ちしないと気が済まない人種なの!?」
年少組の妹「「「折角なのでお差し上げー!」」」
ヤシロ「しかし……必要ない時にこれをやると、この次同じエサで釣れなくなるからな……なかったことにするか?」
ハビエル「見たぞ見たぞ、ヤシロォ!?(ぬっと現れる)」
ヤシロ「のゎぁああっ!? ビックリしたぁ!?」
ハビエル「妹たんの『ろりかわいい』オーラが四十区まで漂ってきてたぞ! 飛んできたわっ!」
ヤシロ「瞬間移動か!? どんどん人間離れしていくな、元から人間のカテゴリーから逸脱してたってのによぉ!」
ハビエル「さぁ、渡してもらおうか! 妹たんたちが、ワシのために描いたその百年に一度のトレジャーを!」
ヤシロ「俺の要請で書いたんだよ。あと、こんなの毎日描いてるぞこいつら、教会で」
ハビエル「ワシ、教会の子になるっ!」
ヤシロ「ベルティーナに叩き出されろ!」
ハビエル「食費はたっぷり入れる!」
ヤシロ「くっそ、なびきそうだ、あのシスター!」
ハビエル「これから先、ワシに出来ることなら協力は惜しまん。だからくれっ!」
ヤシロ「必死だな、お前!?」
ハビエル「くれなきゃ陽だまり亭の前でわんわん泣くぞ!?」
ヤシロ「なんの脅しだそりゃ!?」
年少組の妹「はびえるおじさんー!」
年少組の妹「おじさんのこと描いたよー」
ハビエル「むはぁ! 死ぬ! 可愛過ぎてワシ死んじゃう!」
ヤシロ「ははっ、遠慮せず死ねばいいのに」
ハビエル「ふふん! 妹たんたちはお前と違って心根が優しいんだ! 少しは見習え!」
ヤシロ「しょうがねぇな……じゃあ、次何かあったら無条件で協力しろよ」
ハビエル「任せろ! だから早く寄越せ!」
ヤシロ「妹たち~、この絵をハビエルおじさんに渡してやれ。ここに書いてある文字を読みながらな」
年少組の妹「「「うんー!」」」
――年少組の妹たち、絵を受け取り、ハビエルへ差し出す
年少組の妹「「「はびえるおじさん、かっこいい」」」
ハビエル「むはぁ! もう死んでもいいっ!」
イメルダ「……では、その願いを叶えて差し上げますわ(大きな斧『キラーン』)」
ハビエル「のぉぉぉおっ!? イメルダ!?」
イメルダ「お父様……いえ、見ず知らずのオジサン……ちょっとお話が」
ハビエル「ち、違うんだ! これはそうじゃなくて、えっとその……」
イメルダ「へぇ……何が違うと言いますの? 『妹さんに会いに来た』以外にあなたが今ここにいる理由がおありなら、是非説明いただきたいものですわねっ!」
ハビエル「えっと……あの……その…………(汗『ダラダラ……』)」
ヤシロ「はぁ……ったく。(妹とハム摩呂の背中を『ぽん』)」
妹「おいしいタコスのご販売ー!」
ハム摩呂「カンタルチカのビールは、頑張る体のエネルギーやー!」
ハビエル「そ、そう! 今日はここでタコスパーティーを開くんだよ! な? ヤシロ? そうだよな!?」
――ハビエル、ヤシロにばっしばしウィンクを飛ばす
ヤシロ「あ~、そうだったなぁ。ここいらにいる連中を巻き込んで盛大に盛り上がろうぜ、ハビエルの奢りで」
ハビエル「なっ!? ……えぇい、背に腹は代えられん! 暇なヤツは全員寄ってけぇ! ワシの奢りじゃー!」
通行人たち「「「「うぉぉおおおっ! ロリコン最高!」」」」
ハビエル「誰がロリコンじゃいっ!?」
パウラ「ちょっ、なんなの!? ハム摩呂に手伝いを頼むといつも大繁盛するんだけど!?」
ヤシロ「ハム摩呂は招き猫みたいなもんなんだな。……また需要が増えそうだ」
ハム摩呂「お仕事いっぱいで、楽しいのやー!」
妹「「「お仕事ー!」」」
弟「「「楽しいー!」」」
イメルダ「本当に、ヤシロさんは甘いですわね」
ヤシロ「知らなかったか? 俺は、権力者にはいい顔をするタイプの人間なんだぞ」
イメルダ「ふふ……今後ワタクシには最大限優しくすることをお勧めしますわ。今の嘘を糾弾されたくないのでしたらね」
ヤシロ「何が嘘だよ。俺は金持ちには優しいだろうが」
イメルダ「年少組のご弟妹にも出来る仕事を探して走り回っているくせに……よく言いますわね」
ヤシロ「…………その方が、経済が回るんだよ。うっせぇな」
イメルダ「ふふふ。では、そういうことにしておきますわ。ただし……ワタクシ、フレッシュグレープフルーツが飲みたいですわ」
ヤシロ「へいへい。御馳走させていただきますよ(ハビエルの金で)」
イメルダ「よい心がけですわ」
パウラ「なぁあ! 人手が足りないよぉ! ヤシロ! 妹たちもっと追加して! この際年少組でもいいから!」
年少組の妹「「「わーい! お仕事するー!」」」
ヤシロ「……この街には社畜が多いなぁ、まったく」
イメルダ「そんな嬉しそうな顔で悪態を吐いても、説得力がありませんわよ」
ヤシロ「うっせぇなぁ……グレープフルーツを皮ごと丸飲みにしたいんだっけ? ちょっと待ってろ、用意してやるから」
イメルダ「違いますわっ!? ジュースですわ! ちゃんと絞ってくださいましね!? ねぇ、ヤシロさん!?」
――ハムっ子のお話のつもりが、なんか色々出てきちゃいましたね。まぁ、それだけ浸透しているんですね、ハムっ子たちは。
次回もよろしくお願いします。
宮地拓海




