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異世界詐欺師のなんちゃって経営術  作者: 宮地拓海
後日譚

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後日譚21 三十五区の領主と領民

 馬車が停まり、ドアが外側から開かれる。


「昨日ぶりの再会だな、友達のヤシロ」


 ドアを開けてくれたのはギルベルタだった。

 自宅の玄関先まで迎えに来てくれた室内犬のような目をしている。


「ちゃんと寝たか?」

「大丈夫、私は。寝なくても平気」


 つまり、寝てないのか。

 昨日は泊まる気満々なところを連れ帰られて、しかも、ほっぽり出した仕事を終わらせ、そして今朝は早くから今日の準備に追われていたことだろう。ゆっくり眠れるような環境と心情ではなかったはずだ。


 少し目が赤い。


「ちゃんと寝なきゃダメだぞ」

「うむ。友達の言うことはちゃんと聞く、私は」


 そう言って、馬車の中へと乗り込んでくる。

 ドアの前、俺の隣の一人分あいた席に腰を下ろすと俺にもたれるように体を寄せて肩に頭を載せた。


「おやすみなさい」

「いやいやっ! 今寝るなよ!?」


 降りるんだよ、これから!

 こいつはこれを冗談ではなくやっているからな…………って、もう寝息立ててんじゃん!?


「うふふ。ヤシロさんは、誰とでもすぐに仲良くなりますね」

「変に懐かれてるだけだよ……」


 ギルベルタの頬をぺしぺしと叩き、目を覚まさせる。

 と、突然、胸ぐらを力任せに掴まれた。


「…………ワタシノネムリヲサマタゲルノハダレダ」

「寝起き悪過ぎるだろ、お前!?」


 今寝たところで、もうそれか!?

 一泊させるの不安になってきたよ。


「ギルベルタ。今日、ボクらはルシアさんに呼ばれて来たんだ。起きて案内をしてくれないかい?」

「む……そうだった。職務をきちんとこなすと約束したのだった、私は、ルシア様と」


 職務をきちんとこなすという条件で、休みをもらう約束でもしたのだろう。

 急にきりっとした顔つきを見せる。


「案内する、ルシア様のもとへ」


 馬車を降り、ドアを開けて俺たちの降車を手伝ってくれる。

 こういう時の仕草は、さすが給仕長と言うべき凛々しさを感じる。

 ……まぁ、だから、ナタリアと変なところでよく似てるんだよな。


 馬車を降りた俺たちは、一度館の中へと招き入れられルシアに会いに行く。

 この後すぐに出掛けることになるのだが、領主が外で待っているなんてことは考えられないことらしいのでわざわざ迎えに行くのだ。

 面倒くさいが、貴族ってのはそんなもんなんだろう。

 何かある度に庭先でわくわくそわそわ待ち構えている貴族なんてのはエステラくらいのもんだ。むしろエステラはそっちから出向いてくることの方が多いからな。


 前回押しかけた私室ではなく、広い応接室へと通される。

 執務室のように書類が積まれているようなこともなく、天井の高い広々とした空間だった。ただ、開放的かと言われれば……むしろ、整い過ぎていて息が詰まりそうな感じを覚えた。


「よく来たな、エステラ。そして四十二区の諸君にカタクチイワシ」

「俺だけ仲間外れにしてんじゃねぇよ」


 四十二区の諸君に含めとけよ、俺も。


「ウェンたん、ミリィたん、やほ~」

「砕けるなっ!」


 身に纏った威厳が台無しだ。

 こいつ、貴族社会にいなければ本当にダメ人間になりそうだな。

 むしろ、貴族社会にいるせいで抑圧された反動かもしれないけれど。貴族は人間ばかりで、獣人族との接点が少なそうだもんな。


「今日は、少し難しい相手に会ってもらおうと思う」

「難しい……というのは?」


 ルシアの言葉に、俺たちを代表してエステラが問いかける。

 難しいといえば、気難しい頑固者を思い浮かべてしまうが……果たして。


「かつて、貴族と結婚をし……酷く傷付けられてしまったアゲハチョウ人族の女性だ」


 招待された全員が息をのむ。

 貴族――つまり、人間との結婚によって傷付けられた虫人族。

 想像していたことではあるが、改めてそう言われると、なんつうか……心につまされるものがある。

 やっぱり、俺が人間だから……だろうか。


「カタクチイワシ」


 言葉だけを拾えば、こいつは何をふざけているんだと思いがちだが……ルシアは至って真面目な顔で俺を見つめてくる。

 まるで試されているような、そんな緊張感を覚える。


「その目で見るがいい、この街にはびこる目に見えぬ呪縛を」


 見えないものを見ろとか、無茶ぶりが過ぎる。

 将軍様に無理難題を押しつけられる一休の気分だ。


 人間に対し恨みを持つ者に直接会い、その目で見てみろというわけか。

 この街の住人の、心の奥底に深く食い込んでいる、恨みの根を。


「……ヤシロ」


 無言でルシアと睨み合っていると、エステラがそっと耳打ちをしてくる。


「アゲハチョウ人族って……」


 そこで言葉を切ったエステラ。

 しかし、それだけで十分俺の記憶を呼び起こしてくれた。


 アゲハチョウ人族といえば、以前ウェンディの両親がぽろっと漏らしたことがある名だ。

「亜種のアゲハチョウ人族でさえあんな目に遭わされたんだよ」――きっと、虫人族の間では有名な話なのだろう。

 人間との結婚によって傷付けられた、悲劇のヒロインとして……


「では、出向くとしよう。ギルベルタ」

「はい」


 ルシアの合図を受け、ギルベルタが先頭を切って歩き出す。

 その後にルシアが続き、俺たちは固まってルシアの後を追う。


「馬車は使えない、花園へ行くには。なので我慢してほしい思う、徒歩で向かうことを」


 花園には虫人族が大勢いる。

 そんな場所へ貴族が馬車で乗りつけでもしたら、きっと虫人族を怖がらせてしまうに違いない――という発想から馬車を禁止しているのだろう。

 それは少し考え過ぎな気もするが……そういう『配慮』が、虫人族たちを安心させているのかもしれない。

 この街にはこの街のルールがあるのだ。


 いささか、気を遣い過ぎているような気もするけどな。


 以前歩いた道を進み、俺たちは花園へとやって来た。


「ゎあぁっ」


 ミリィが瞳をキラッキラさせる。

 念願の花園を見てテンションが上り詰めるところまで上り詰めたらしい。


「すごぃ……すごく、きれぃ…………」


 感激で言葉が出てこないようだ。

 口を両手で覆い、大きな瞳に涙が溜まっていく。


「そこまで感激してもらえると、領主冥利に尽きるというものだな。いっそ、ウチの子にならないか?」

「さらっととんでもないこと抜かしてんじゃねぇよ、誘拐犯」


 ウチのミリィを連れ去ろうとすんなっつの。やらねぇよ。


 花園には、相変わらず多くの虫人族が思い思いに時間を過ごしていて……人間が花園に近付くと、一様に顔色を変える。緊張が伝わってくる。


「皆の者。よい日和だな」


 ルシアが手を上げて声をかけると、虫人族たちの間に安堵の空気が広がる。

 慕われているんだな。……てっきり、花園に来るなり暴走して、手当たり次第触角をぷにぷにして回るんじゃないかと危惧していたのだが。一応、自制心ってヤツはあるらしい。


「おっ!? あんたら、あん時の?」


 花園の中を突き進んでいくと、俺たちに声をかけてくる者がいた。

 頭に立派な角を持った二人組のオッサン。カブトムシ人族のカブリエルと、クワガタ人族のマルクスだ。


「また会えて嬉しいぜ」


 握手を求められたので応じておく。

 ごつごつとした、頼りがいのありそうな分厚い手だ。

 さすがガテン系ってところか。


「お前らは、いっつもここにいるな。サボってないでちゃんと仕事しろよ」

「仕事の合間に来てんだよ、俺たちは。なぁ?」

「そうですよ。サボってなんかいませんって」


 今はまだ午前中だ。

 昼前から休憩を取ってる時点でサボりを疑われても仕方ないだろうに。


「領主様。本日もご機嫌麗しく……」

「よい。改まるな。ここではそなたたちの方が優位であると言ってあるだろう」

「はい。ありがとうございます」


 片膝をついて尊敬の念を表したカブリエルとマルクスに、ルシアは楽にするよう伝える。

 花園では、虫人族が最優先されるらしい。

 なんとも豪儀なルールを作ったもんだな。場所限定とはいえ、領民を自分より優位に立たせるなんてのは、なかなか出来るもんじゃない。


「ゎあ……わぁ、ゎぁあ……っ」


 花園の中できょろきょろと辺りを見渡し、今にも花に誘われて飛んでいきそうなミリィ。あの花もこの花も全部見たい。顔にそう書いてある。


「喜んでくれるのは嬉しいが、散策は後にするのだぞ」

「ぁ……はぃ…………ごめんなさい」


 ルシアが優しい口調で諭すと、ミリィは身を縮め大人しくなった。

 恐縮しまくりだな。


「俺たちはもうしばらくここにいるからよ。用事が終わったら、今度こそ飲み明かそうぜ」

「酒みたいに言うなよ」


 花の蜜を手に格好をつけて、カブリエルが嬉しそうに言う……が、その前に働けよお前ら。午前中から飲み明かすこと考えてどうすんだよ。


「面白そうな話だな。出来ることなら、私も混ぜてもらいたいものだ」

「そっ、そんなっ!? ル、ルシア様とご同席させていただくなんて……っ、め、滅相もないですっ」

「そ、そそ、そうです!」

「おいおい。ここではそなたたちが優位であると言うておるだろうに」

「そ、それでもですね……っ」

「ふふふ……冗談だ。真に受けるでない」

「ほっ…………人が悪いですよ、領主様」


 カブリエルがほっと胸を撫で下ろす。

 まぁ、いくら花園内においては優位性があるとはいえ、領主相手に無礼講ってわけにはいかないだろう。

 会社の忘年会が無礼講だったとしても、社長相手に非礼を働けるヤツはそうそういない。

 カブリエルたちが顔を引き攣らせる理由はよく分かる。


 だが……


「冗談だ」と言ったルシアの顔に、わずかばかりの寂しさを、俺は確かに見た。

 こいつは、本当は一緒になって飯でも食いたいのだ。大切な領民と。そして、大好きな獣人族、虫人族とな。


「なんなら、俺が相手してやってもいいぞ。無礼講で構わねぇってんならな」


 領主といえど、たまには羽目を外したくもなるはずだからな。


「…………」


 ルシアが何か言いたげな目で俺を見ている。

 感謝の言葉でも述べたくなったか? 行き届いた心遣いの出来る俺に。だったら、少しは接し方を柔らかくしてもらいたいもんだな。


「貴様が私に礼を尽くしたことがあったか?」

「よぉし、分かった。お前は嫌なヤツだ」


 こんなにも礼儀正しく接してやってんだろうが、この俺様ともあろうお方がだっ! 感謝しろ、領主風情がっ! かぁぁあー……ッペ!


 ……うむ。『礼』って、なんだろう?


「ふふん……まぁ、考えておいてやらんではない」


 ぽつりと呟かれたその言葉は、どことなく愉快さを感じた。

 ……ちっ。すぐに顔を背けやがって。どんな顔して今の言葉を言ったのか、確認出来なかった。掴みどころのないヤツだ。


 出会った当初のエステラもそうだったが、どうも領主ってのは自分ってもんを見抜かれるのを嫌うようだな。……見せてみろよ、素の顔を。ちょっと見せりゃ、全部見抜いてやるのによ。


「ヤシロ。エロい目でルシアさんを見ないでくれるかい?」

「これのどこがエロい目だ!?」

「その目のどこにエロくない部分があるのさ?」


 う~っわ、質問に質問で返すとか……お前は売れないホストか?

 キスチョコゲームでもさせるぞ、コノヤロウ。


 カブリエルたちを残し、俺たちは花園を進んでいく。

 会いに行く人物は、花園の向こう――虫人族のテリトリーの中にいるらしい。


 花園の端まで来て、「さぁ、出ようか」という時、向こう側からモンシロチョウのような羽を生やしたカップルが花園に向かって歩いていきた。……飛ばないんだ。

 大きな羽をひらひらとさせ、仲睦まじく手を繋いで歩いてくる。


「あ、領主様よ」

「本当だ。今日もお綺麗だね」


 などと、楽しそうに笑っていたモンシロチョウ人族カップルだったが……ルシアが一歩、花園から外に出た途端、道に片膝をつき頭を下げた。


 えっ!?

 なに、その態度の豹変ぶり!?


「よい。そんなにかしこまるな」

「いえ。ルールですので」

「領主様に対する当然の姿勢でございます」


 先ほどの砕けた口調と雰囲気は一瞬で消え去り、上官の前に連れ出された新兵のような所作で敬意を表するモンシロチョウ人族カップル。


 花園の中では虫人族が優位。

 しかし、花園を出れば領主と領民…………いや、領主と『亜人』という感じか……

 一瞬で空気が張り詰める。

 まるで、生殺与奪の権をルシアが握っているかのような、そんな雰囲気だ。


 ルシアは無表情にその二人を眺めている。

 だが、確実に…………寂しがっている。そんな目をしている。


「ルシア。ちょっと来い」

「むっ、な、なんだ!?」


 俺はルシアの腕を引き、もう一度花園へと引っ張り込む。

 突然後ろへ引かれ、バランスを崩したようにルシアがふらつきながら花園へと足を踏み入れる。

 と、途端にモンシロチョウ人族カップルは立ち上がり、また大きな羽をひらひらと楽しげにはためかせた。


「今日は何色の花の蜜を飲みに来たんだ?」


 俺が投げかけた問いに、男の方が優しげな笑みを浮かべて答える。


「彼女が、薄桃色の花の蜜が好きでね。僕たちはいつもそれを……」


 と、ここでルシアを花園の外へと押し出す。


「……飲ませていただいております」


 うわぁ……なんて極端で…………なんて面白い。


 ルシアを花園へ引き込む。


「んで、その花の蜜は甘いのか?」

「そうだなぁ。どちらかといえばフルーティーな感じかな。甘さは控えめで……」


 押し出す。


「……口当たりは非常にまろやかなのでございます」


 イン。


「こんな美味しい物が毎日飲めるんだから……」


 アウト。


「麗しき領主様には感謝の言葉もございません……」


 イン。


「ありがとぷー!」

「ぁ、ぁれっ? もんしろちょうさん、なんかおかしな言葉遣いになった、ょ?」

「反動だな」

「ルシアさんで遊ぶんじゃないよ、ヤシロ!」


 敬愛と友好。尊敬と砕けた雰囲気を繰り返したことで、どんどん反動が大きくなっていったようだ。

 なんというか、砕けた感じも『領主様がそうしろと言ったから、何がなんでもそのように実行しなければいけない』みたいな義務感があるようだな。


「随分と、領民たちから慕われているようだな」

「……貴様には軽んじられているようだがな」


 押したり引っ張ったりされたせいで、ルシアの髪の毛が少々乱れている。

 まぁまぁ、よかったじゃないか。ほつれ毛って割かしセクシーだって言うしな。ポジティブに受け取っておけ。


「しかしながら……」


 乱れた髪をかき上げて、領主特有の威厳を放ちつつルシアが口を開く。


「そなたたちも、もう少し柔軟な対応を覚えるべきだな。几帳面にルールを遵守してばかりでは息が詰まる。お互いにな」

「はっ。……申し訳ございません、領主様」


 ルシアは現在花園の中にいるのだが、モンシロチョウ人族のカップルは地面に片膝をついて頭を垂れている。

 こういう場面では、優位性云々は解除されるらしい。


「よい。立て」

「はっ」


 しかし……「はっ」って…………軍隊かよ。


「向こうが花園に入ってなくても、このルールは有効なんだな」

「『私が花園にいる時は』と、説明してしまったからな……素直な者が多いのも困りものだな」


 自虐とまではいかないまでも、当時の自分を皮肉るような言い回しだ。

 譲歩したつもりが、かえって相手に負担をかけている。だからと言って、新たなルールを設ければさらに相手をがんじがらめにしてしまうことにも気が付いている。だから、これ以上何もしないし、今は出来ないのだ。


 それなりに、苦労はしているんだな。


「呼び止めてしまったな。素晴らしいひと時を楽しんでくれ」

「は、はい。……あ、ありがとうございます」


 色々テンパッたせいでルールがぼやけてしまったようだ。モンシロチョウ人族のカップルはルシアとどう接したものか戸惑っていた。

 気負い過ぎなんだよなぁ。

 領主なんか、アゴで使うくらいでちょうどいいのに。


「なぁ、エステラ」

「なんだい?」

「疲れた、おんぶ」

「……刺すよ?」


 なんて反抗的なヤツだ!?

 領民あっての領主だろうに!

 クーデターだ。クーデターを起こしてやる!


「私が代わりにやろうか、おんぶなら?」

「あ、いや。冗談だから」


 ギルベルタがエステラの代わりを申し出てくれるが……この先、俺だけ負ぶわれて進むなんて御免だ。羞恥プレイにもほどがある。

 断ると、ギルベルタは少ししゅんとしてしまった。……そんな、楽しいもんじゃねぇぞ。

 まぁ、どこか別のところで力を貸してもらうからよ、だから、な? そんなしょげるな。


 心持ち沈んでしまった三十五区の領主とそこの給仕長。

 ……えぇい、じめじめしい!


「頭からブナシメジでも生えればいいのに」

「えっ、何それ!? なんか可愛いっ」


 キノコ好きのエステラが変な食いつき方をする。そう思えるのはお前だけだ。

 まぁ、レジーナみたいに卑猥な発想に行かないだけマシだが。


「頭から……ブナシメジ? ……ん? 何かの冗談か、カタクチイワシ?」


 物凄く真顔で聞かれてしまった。

 思いつきの冗談に意味を求めるなよ、恥ずかしいだろうが。


「もし、ブナシメジが生えたら、ルシア様の頭に……」


 ギルベルタが前髪を上げてルシアを見つめる。


「お揃いになる、私と」


 ギルベルタの額で、短い触角がぴこぴこと揺れる。

 そこはかとなく嬉しそうだ。


「お揃い…………か」


 ルシアがギルベルタを愛おしそうに見つめ、そして……


「よいなそれはっ!」


 鼻息を『すぴぃーっ!』と噴き出す。

 ほっぺたが真っ赤に照り輝き、てっかてかになっている。


「よし、生やそう、ブナシメジを! カタクチイワシ、湿気を持ってまいれっ!」

「ムチャ言うな」


 ノリノリじゃねぇか。

 生えねぇよ、ブナシメジ!


「喜んでくれるのはルシア様だけ、私とお揃いで。そういうところが、好きと思う、私は」

「ギ……ギルベルタァー!」


 ルシアが感激に目を潤め、両腕を広げてギルベルタに抱きつこうと突進していく。

 が、ひらりとかわされる。


 ガバッ!

 ひらり。

 ガバッ!

 ひらり。


「なぜだ、ギルベルタ!?」

「現在職務中、私は」

「よいではないか、少しくらい!」

「職務を全うすると約束しました、私は、ルシア様と」

「細かいことを言わずに!」

「約束は守る、私は、何があろうと」

「むぉ~ぅ! よいではないか、よいではないかっ!」


 悪代官か!?

 帯をくるくるして「あ~れ~」か!?


 どんなに飛びかかろうとも、ギルベルタはルシアの腕を紙一重のところでかわしていく。

 ギルベルタは、ルシアに忠実なのか反抗的なのかまるで分らんな。


「カタクチイワシッ! 今すぐ私の頭にブナシメジを植えつけろっ! 貴様が言い出したことだ、責任を持てっ!」

「なんの責任もねぇよ、俺には!」

「ブナシメジさえあれば、ギルベルタも分かってくれるっ! 公衆の面前であろうとも、あんなことやこんなことまでやらせてくれるに違いない!」

「自重しろ、変態領主!」


 小鼻が広がりっぱなしだ。……一体、どんなアウトな妄想を脳内で繰り広げているのやら…………一切知りたくないけどな。


「ぁの……」


 花園を出て追いかけっこを繰り広げるルシアとギルベルタに、ミリィが控えめに声をかける。


「ぉ揃い……喜んでくれたょ、じねっとさんも……。ね?」

「はい。とても嬉しかったですよ」


 前回三十五区へ来る際、ジネットはラベンダーを加工した疑似触角を髪につけていた。

 とても楽しそうに、ミリィやウェンディと盛り上がっていたっけな。


「そなた……頭からブナシメジを生やせるのか?」

「い、いえ! そのような特技は、残念ながら持っていませんが……」


 ジネット。そこの危ないお姉さんの言うことは真に受けるな。耳を傾けるな。視界に入れるんじゃない。

 何ひとつ残念なことはないからな。むしろ、頭からブナシメジが生やせる特技ってなんだよ。……呪いじゃねぇか、それはもはや。


「ヤシロさんが、ラベンダーを加工して作ってくださったんです」

「ヤシロ…………はて?」

「俺だよっ!」


 名前を忘れてんじゃねぇよ!

 カタクチイワシって呼んでんの、お前だけだからな!?


「貴様は、キャルビンという名前ではなかったか?」

「あんな気持ちの悪い半漁人と一緒にすんじゃねぇよ」


 なんだ、お前の中で俺とキャルビンは『気持ち悪いヤツ』ホルダーにでもまとめて保存されてるのか? 名前も付けずに『新しいファイル( 2 )』みたいな扱いか?

 誰が『気持ち悪いヤツ』か!?


「では、カタクチイワシよ。作れ」

「……カタクチイワシで作ってやろうか、コノヤロウ」


 なんて横柄な領主だ。

 俺は今回、領主直々に招待されたお客様だぞ!?

 お客様は神様やろがぃ! 敬ってしかるべきやろがぃ!?


 いい加減、腹いせでルシアのケツでもまさぐってやろうかと……いやほら、さすがに女子を殴るのはアウトじゃん? けど、ケツをもそもそするくらいはセーフじゃん? ……そんなことを真剣に考えていると、ギルベルタが俺の服の裾をきゅっと掴んできた。

 なんとも控えめな自己顕示だが……


「お揃い、嬉しいか、友達のヤシロも……?」


 期待に満ち満ちた瞳が俺を見ている。

 俺が疑似触角を作ったという事実が、ギルベルタの琴線に触れたらしい。

 何かのスイッチが入ったかのように、ギルベルタの雰囲気が変わる。

 なんというか、こう……甘えん坊チックな雰囲気に。


「あぁ……まぁ、な」


 こういう顔をされると、相手の望んでいるであろう回答を無難に口にしてしまうのは……きっとマグダの影響なんだろうな。

 無言のおねだりに対する抵抗力が弱まっている気がする。

 これがウーマロだったら、ぶっ飛ばしてやれるのだが……


「今度、お揃いする、私と、是非」


 えぇ……俺が頭に触角生やすのぉ…………なんか、昭和の時代にそんなカチューシャ流行ってなかったっけなぁ……なんか、先端が星の形をしててピカピカ光るヤツなんだけど…………ああいうのをつけるのか、俺が? えぇ……


 なるべく傷付けないように、物凄く丁寧にお断りを入れよう。そう決心した時……


「はい。是非、みなさんで一緒にお揃いをしましょうね」


 ジネットが満面の笑みで約束を交わしてしまった。

 あのさ、ジネット。お前、『精霊の審判』って知ってる?

『みなさんで一緒に』なんて言葉をつけちまった以上、俺もやらなきゃいけなくなっちまったじゃねぇか! お前がいないと陽だまり亭は店を開けられないんだからな!?

 店番はマグダとロレッタで出来るが、仕込みはお前にしか出来ないんだぞ!?


 ……あ~ぁ。俺も触角つけるのかぁ……


「あ、あの、ヤシロさん……どうかされましたか?」

「……別に」


 どうかしてるのはお前だよ……


「ありがとう、友達のジネット! とても嬉しい思う、私は!」


 ギルベルタがジネットの腰に腕を回してギュッと抱きつく。

 まぁ、こんな嬉しそうに喜ぶ様を見せられちまったら…………触角くらいいいかな、とか、思っちまうんだけどさ……


 ちなみに、ギルベルタがジネットに抱きついた時に、「あぁっ!? 私の方が先なのにっ! ズルい! ズルっこいぞ!」とか、遠くで悔しがっていた虫フェチ領主のことは見ないフリをしておく。関わっちゃいけない人種だ、あれは。


 しゃ~ない。ギルベルタが泊まりに来た時に、触角パーティーでもするか。

 ウーマロとかベッコも道連れにしてな。



 そんな悶着がありつつ……、俺たちは花園を超えて静かな細道を進む。

 俺たちが会うべき人物のいる場所を目指して。


 ……この街に巣食う、負の一端を垣間見るために…………


「ギルベルタ。手! せめて手を繋ごうではないか!」

「職務中ですので、私は」

「むぁゎあああっ! なんとかしろ、カタクチイワシッ!」

「うっせぇな!? 俺が今シリアスな雰囲気醸し出してんのが見えねぇのかよ!? 神妙な気持ちで歩かせろよ!」


 ……遊びに行くんじゃねぇっつの。







いつもありがとうございます。

歌丸です。



…………あ、違いました。宮地です。


先日、編集様から、

「新刊情報に載せる作者コメントください」

と言われたので、



『一度くらいは見てみたい、美人がパイポジ直すとこ。歌丸です』



って送ったら、ボツでしたね。

まぁ、ボツでしょうね。

奇跡のワンチャンスにかけたんですが、どうやら編集様は常識人だったようです。


あ、一応、


※作中に登場する歌丸さんは、実在する歌丸さんとは一切関係ありません。


って注釈も入れておきましたよ?

でも、そういうことじゃなかったようです。


奥が深い……っ!


そんなわけで、

上↑↑↑で書いたようなこともしつつ、

ようやく情報解禁です!!


解禁といえば、

最近のTVショウは『A地区』と『C地区』の間のワンダーポイント(二つあるからワンダーポインツ)を解禁しないのはなぜなんでしょう?

バブルの頃は、ゴールデンタイムに出てたのになぁ『B地区』……


そもそも、私が思春期を迎えた頃というのは…………あ、書籍情報ですか?

すみません。

ちょっともったいぶっちゃいました。


もったいぶったと言えば…………はい、すみません。ちゃんとやります。



では、

皆様が一番気にしていらっしゃるであろう、



『異世界詐欺師のなんちゃって経営術』を出版してくださる、出版社様は!


スニーカー文庫様 ですっ!! (わー! パチパチ~)


……ちょっと、あの、その「知ってた」みたいな顔やめてもらえないですかね?

ここは、ほら、みなさんご一緒に「わ~!」って、ね?




ちなみに、連載開始当初、

あらすじに書いていたのですが、


「なんちゃって経営術」で、「コンサルティング」と読みます。

ですので、読みは、

『いせかいさぎし の こんさるてぃんぐ』となります!

そんな感じのルビが振られることでしょう。


皆様は、気軽に略して、「おっぱいのヤツ」とかって呼んでください。



そして、

ヤシロやジネット、エステラたちを可愛く、素敵に描いてくださる

イラストレーター様は……



ファルまろ様 ですっ! (わー! パチパチ~)



アレとかアレのイラストの方です!

そして、皆様より一足早くラフ画とか見せていただいたのですが…………


ジネット、



ナイスおっぱいですっ!

可愛い!


こちらは、情報が出次第即お知らせします!

早く見ていただきたい!

他のキャラも、もう! もう!


間もなくカバーとか公開になると思いますので、もうしばらくお待ちください!




そしてそして、

発売日も決まりました~!



5月1日発売 です! (わー! パチパチ~)


でも、GWがありますので、4月28日辺りから書店さんに並ぶそうです。


ゴールデンウィークは、『異世界詐欺師のコンサルティング』を読んで、

世界の中心で「ナイスおっぱいっ!」と叫んだりしちゃいましょう!!


世界の中心ですか? ……秋葉原ですっ!(キリッ!)




そんなわけで、

発売日までもうしばらくお待ちください!



あぁ、すっきり。

ずっと言いたくて言いたくて仕方なかったんです。

一仕事終えた気分です。



あぁ、それにしても、

三十五区の領主がポンコツ過ぎますね。

ギルベっちゃんもいい感じに砕けつつ、真面目なお話しに行くって時に雰囲気を壊してくれてます。


こんな感じで、結婚式まで突き進みたいと思いますっ!!


明日からまたリクエストSS書かせてもらいますっ!

今日は告知の日でした!


告知と歌丸さんの日でしたっ!



次回もよろしくお願いいたします。


宮地拓海

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