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異世界詐欺師のなんちゃって経営術  作者: 宮地拓海
第一幕

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14話 虚ろな目の少女

 魚を確保したら、次は肉だ。

 そんなわけで、川漁ギルドに出向いた日の翌日、今度は狩猟ギルドに来てみたのだが……


「お前らか、ギルド間の軋轢を生んで商売を滅茶苦茶にしてるってヤツらは!?」


 狩猟ギルドの詰所である建物内の応接室とは名ばかりの狭い部屋の中で、狩猟ギルドの代表者と名乗る男が姿を見せるなり物凄い剣幕で怒鳴ってきた。

 これ、子供なら泣くし、お年寄りならポックリ逝っちゃうかもしれんぞ……

 ジネットなんか、怖がってしまってぷるぷる震えている。可愛いもんだな。


「なんとか言えよ、コラ!?」

「……もう少し落ち着いて話さないか?」


 ちょ~~~~~怖ぇぇぇぇぇええ!


 なんだよ、こいつら、めっちゃ怖いじゃん!?

 ガタイはいいし、顔は怖いし、声は低いし、これ見よがしに顔に傷とかあるしさ!?

 筋肉なんかムキムキを通り越してカッチカチじゃん!

 川漁ギルドのデリアが可愛く見えるくらいだよ。

 さすが、外壁の外まで行って獣を狩ってくる強者ども。迫力が桁違いだ。

 こんなのに凄まれたらビビって当然。


 もっとも、俺くらいのレベルになるとそんな弱い心のうちはおくびにも出さずに対応出来るんだけどな。


「……ヤシロ? なんか震えてない」

「気にするな。いま急に冷え性になっただけだ」

「それはそれで物凄く気になる案件なんだけど……?」


 さりげなく、エステラが俺の背中をさすってくれる。

 お、なんだ?

 いつになく優しいじゃないか。

 やっぱアレか?

 俺も、ぷるぷる震えてると可愛く見えるのか?


「へっ! なんだよ、ビビってんのか? 根性無しが、大きな組織に盾突くとどういう目に遭うか、よく勉強しとくんだな!」


 根性無し……だと?


「おい、……今なんつった?」

「あん? やるってのか、兄ちゃん?」

「上等じゃねぇか…………表へ出やがれっ!」


 俺が応接室の机を殴ると鈍い音がして、同時に狩猟ギルドの代表者が立ち上がった。


「……来な」


 短く言って、狩猟ギルドの代表者は外へと出て行く。

 それに付き従うように、応接室にいた複数のギルド構成員が部屋を出て行った。


 部屋に残されたのは、俺とエステラ。そして不安そうな顔で俺を見つめるジネットだけだ。


 とりあえず、出されたお茶を啜る。


 ズズゥ……………………あぁ~、お茶が美味い。


「「「いや、出てこいよ!?」」」


 狩猟ギルドの代表者と構成員が一斉に応接室へ戻ってきて、一斉にツッコミを入れた。

 誰が出て行くなんて言ったよ?

『表へ出ろ』って言っただけじゃねぇか。


「お前、ナメてんのか、こら!?」


 完全に輩である。

 この手のタイプは謎の『俺理論』を振りかざすから交渉がしにくい。

 苦手なタイプのひとつだ。


「そんなことよりも、聞きたいことがあるんだが」

「んだよ!?」


 物凄く怖い顔で睨んでくる狩猟ギルドの代表者に向かって、俺は右腕を差し出す。

 先ほど、テーブルを叩いた手が、割と洒落にならないくらいに腫れている。


「…………痛いんですけど、救急箱ないっすかね?」

「……お、おぅ…………おい。持ってきてやれ」


 こういうタイプは、困っている相手を目の当たりにすると意外な優しさを見せたりする。

 義理人情に厚いところがあるのだろう。


 持ってきてもらった救急箱を借り、ジネットが俺の手当てをしてくれた。

 あぁ、包帯の巻き方が優しい。……この包帯、返さなくてもいいよな? よし、また洗って使おう。


 それはさておき、相手の気勢を削いでやったまではいいが、この先どうやって交渉を進めたものかなぁ。

 なんてことを考えていたら――

 

『テメェ! また獲物を持って帰ってこなかったのかっ!?』


 応接室の外から物凄い怒号が聞こえ、その直後、聞く者に痛みを連想させるような打撃音が響いてきた。

 そして、何かが倒れる音と、複数の男たちがぼやきながら遠ざかっていく音が続く。


「ヤ、ヤシロさん……一体、何があったんでしょうか?」

「俺に聞くなよ……想像したくもない」


 ここの連中はやたらと「コラ!」とか「おう!?」とか言いたがる。

 血気盛んと言えば聞こえはいいが……少々乱暴で粗野だ。


 しばらくすると、応接室のドアがゆっくりと開いた。


「んだよ、マグダ。接客中だぞ」


 狩猟ギルドの代表者があからさまに嫌そうな顔をする。

 開いたドアへ視線を向けると、そこからのそり……と、小さな少女が顔を出した。


「……帰還、した」


 オレンジ色のぼさぼさの髪は伸び放題で、小柄な少女の身長と同じくらいに長い。

 身長は140センチあるかないか、体つきにもまだ幼さが残っている。

 尻からは、細長い尻尾が伸びている。オレンジと黒の縞模様……トラ人族……だろうか? よく見れば、ぼさぼさの髪の中にちょこんとネコ耳がついている。

 目は大きいのだが、どこか虚ろで、瞳は深く沈んだ色をしていた。

 パーツや造形は非常に可愛らしく、美少女と呼ぶのに異論は無い。の、だが……どうにも表情が乏しい。というか、こいつには感情があるのかと疑いたくなるレベルで、喜怒哀楽のどれ一つとして感じられない。


 そこにいるのに、どこにもいないような。そんな希薄な存在感しか持たない少女は、見ているととても不安な気持ちになってくる。


「で、成果は?」


 突き放すような物言いで、狩猟ギルドの代表者が言う。

 その言葉を、何も感じないかのように聞き、そして淡々と答える。


「……ない」

「ちっ!」


 狩猟ギルドの代表者は盛大に舌を打ち鳴らし、テーブルに置かれていた湯呑を蹴り飛ばした。


「消えろ、無能! 目障りだ!」

「……了解した」


 それだけ言うと、マグダという少女は入ってきた時から一切変化を見せない虚ろな表情のまま部屋を出て行こうとする。


「あ、あの! 待ってください!」


 それを呼び止めたのは、ジネットだった。

 ……また、こういう厄介そうなことに首を突っ込む…………


「マグダさん……でしたよね?」


 呼び止められたマグダは、虚ろな目でジネットを見つめ、そしてこくりと頷いた。


「傷の手当てをさせてください。特に、お顔の傷は早く処置しないと……女の子ですものね」

「…………」


 マグダは答えず、ジッとジネットを見つめていた。

 そして、そっと、頬についた傷に触れる。


「……いいの?」

「はい、もちろん」


 ジネットが救急箱を掲げて見せると、マグダはゆっくりとジネットの方へと歩いていく。


「おいおい! それはウチの薬だぞ!? 無駄遣いしてんじゃねぇよ!」


 しかし、すんでのところで狩猟ギルドの代表者が口を挟む。

 ジネットが肩をすくめ、マグダが虚ろな目で、その声を聞いていた。


「では買い取らせてくれないかな、この薬箱?」


 絶妙のタイミングでエステラが割って入ってくる。

 そして、テーブルの上に金貨を三枚出した。


「これで足りるかな?」


 涼しい顔で言い放つエステラ。


 金貨を目にしたのは初めてだが、あのクオリティからすると、少なくとも銀貨の10倍の価値はあると見ていいだろう。

 となると、銀貨一枚が100Rb、つまり千円だから……少なく見積もっても金貨三枚で……三万ってとこか?


 この世界の救急箱の価値は分からんが、いささか出し過ぎなんじゃないか?


「……まぁ、いいだろう」


 狩猟ギルドの代表者の浮かべたあの笑み……やはり、価値以上の金額と見た。

「しめしめ、儲け儲け」と顔に書いてある。


 それにしても……

 エステラのヤツ、よくそんな金持ってたな……しかも払っちゃうし。


 俺の視線に気が付いたのか、エステラはちょいちょいと指を差す。

 その先では、ジネットがマグダの傷の手当てをしていた。

 ジネットは慈しむような表情で。

 そして、マグダは…………ジッとジネットを見つめていた。その表情は、虚ろながらもどこか嬉しそうで……


「なんか、無性に抱きしめたくなるな……」

「ダメですよ、ヤシロさん!?」


 ジネットがマグダを、まるで俺から隠すかのように抱きしめる。

 いや、そうじゃないぞ、ジネットよ。そんなちんちくりんな幼女に邪な感情は抱かんぞ、さすがに俺でもな。

 これは保護欲とかそういう類いのものなのだが……説明しても信じてもらえなさそうだ。


「……目覚めたのかい?」

「お前がこれ見よがしに俺に見せたんだろうが!」

「ボクは、二人の笑顔を守りたいと思っただけさ」


 笑顔……

 エステラは、あのマグダの虚ろな表情を『笑顔』と表現した。

 なるほど、確かに言われてみればそう見えなくもなかった。


 ホント、よく見ているなこいつは。……つくづく油断ならないヤツだ。

 俺のことはあんまり見んじゃねぇぞ。


「なんだ? 気に入ったのか、兄ちゃん?」


 下卑た声で狩猟ギルドの代表者が言う。


「そいつと専属契約を結ぶってんなら、許可してやってもいいぜ?」


 ニヤニヤと、こちらを見下すように薄ら寒い笑みを浮かべている。


「こいつと契約した場合、いくらギルドに支払えばいいんだ?」

「いらねぇよ」


 いらない?


「そいつは使えねぇお荷物なんでな。引き取ってくれるなら好きにこき使ってくれりゃあいいぜ。ただし、食費はそっち持ちだ」

「それで、狩猟の許可は?」

「継続でいいぜ。こっちに迷惑かけなきゃ、今後も狩猟ギルドの会員証で狩猟すりゃあいい」


 おかしい。

 条件が良過ぎる。

 このマグダというヤツの腕が悪く、一匹も獲物を捕らえられないと仮定しても、この条件は破格だ。

 なにせ、ギルドの権限を、このマグダを通して自由に行使出来るという契約なのだから。


 つまり、こいつの魂胆は…………厄介者を手放したい。ってとこか。

 このマグダってヤツは何かしらの問題があり、ギルドに永続的に『損失』を出しているのだ。

『利益がない』ではなく『損失が出ている』だ。だからこそ、破格でもなんでも売り払ってしまいたいと、そういうわけだ。


 食費がどうとか言っていたから、きっとこいつは…………


 と、隣から物凄い視線を感じた。

 顔を横に向けると、ジネットが今にも泣き出しそうな悲哀感たっぷりの表情を浮かべて、睨むように俺を見つめていた。

 ……あぁー。

 見るんじゃなかったと、すぐさま後悔がよぎる。

 言われなくても分かる。こいつは俺にこう求めているのだ。「マグダさんを助けてあげられないでしょうか!? ヤシロさん、どうかお願いします!」と。

 だがな、ジネット。この誘いに乗るのはリスクが高過ぎるってこと分かってるか?


 しかし、ここでマグダを拒否すれば、損害を被らなくていい分、なんの利益も得られないことは確かだ。狩猟ギルドとは交渉決裂、俺たちは肉を手に入れることが出来ない。


 しかもだ。

 ギルドの規約によるところなのかは分からんが、狩猟ギルドはマグダをクビには出来ないらしい。使えない上に損失まで出されているにもかかわらず、こうして置いてやっているのが何よりもの証拠だ。

 日本でも、一度正社員にした者を会社はそう簡単に解雇出来ないからな。この世界でも労働者を保護する取り組みがなされているのだろう。

 が、だからこそより不遇な扱いを受けることになるのだ。

 今はまだこの程度と呼べる範囲だからいいが、時を経るごとにエスカレートしていくことは想像に容易い。そして、それがどういう結果をもたらすか……

 

 俺はマグダへと視線を向ける。と、虚ろな目が俺を見ていた。

 なんて感情のない娘だ。

 怒っているのか悲しんでいるのかまるで分からん。

 お前、今まさにギルドの連中に売られようとしてんだぞ? 分かってんのか?


 その虚ろな目をジッと見つめていると、ジィィッと見つめ返されて……根負けした。

 こいつににらめっこで勝つことはまず不可能だろう。まぁ、負けることもないが。


「ヤシロさん!」


 耳元で叫ばれ、体が思わずビクッとなる。

 再度そちらに顔を向けると、鼻先数センチの距離にジネットの顔が迫っていた。


「うぉっ……!」


 喉の奥から呻くような声が漏れ、体が自然と仰け反る。

 しかし、及び腰になる俺を絶対に逃がしはしないとばかりに、潤んだ大きな瞳が訴えかけてくる。食いしばられた歯が次第にカチカチと音を立て始め、その振動でジネットの顔が小刻みにふるふると震え出す。もはやその目から涙が零れ落ちるのは時間の問題だ。

 

 怖い怖い怖いっ! なんだよ、この精神攻撃は!


 ダメだ……なぜだかよく分からんが、これはダメだ……


「分かった……専属契約を結ぼう……」


 無意識に口を突いて出た己の敗北宣言に、悔やんでも悔やみきれない。

 バカな……俺ともあろう人間が…………


 しかし、そんな俺の言葉を聞いた瞬間、ジネットの表情が花を咲かせたようにパァッと明るくなる。そして、止めていた呼吸分を取り返すかのように思いきり酸素を吸い込むと、口に手を当て歓喜の声を上げた。


「ヤシロさんっ……! ありがとうございます……っ!」


 ……別に、感謝されるようなことじゃない。そもそもこれは、ジネットのためでも、ましてやマグダのためというわけでもない。

 俺の詐欺師としての本能が、この不利な状況を覆せば必ずや金になると踏んだまでのことだ。

 だから、さっきまで胸を占めていた焦燥感がきれいさっぱりなくなっているのは、安堵するジネットの顔を見たせいでは決してない。


 と、不意に「ふふっ」という笑い声が耳に届く。

 

「んだよ?」


 振り返ると、エステラのしたり顔が視界に入った。


「いや、明日は雹でも降るのかなと思ってね」

「ふん」


 どうせ降るなら金にしろ。そのためなら諸手を挙げて善人ぶったことしてやるよ。ま、あくまで『ぶる』だけだがな。


「でも、可愛い娘だからって、変な気を起しちゃダメだからね」

「アホか、俺はロリコンじゃねぇよ」


 エステラは分かって言っているのだろうが……こいつはないな。

 十二~三歳というところか。

 あまりにも幼過ぎる。

 小学生にしか見えない。

 乳もない。エステラといい勝負だ。

 そのくせ、子供のような溌剌さもない。

 ホント……動く人形のようだ。


「んじゃあ、宿と飯の面倒はよろしく頼むぜ」

「ちょっと待て」


 狩猟ギルドの代表者がさらりと言った言葉に待ったをかける。


「『宿』が追加されたぞ」

「使えねぇヤツを置いとくスペースは、ウチにはねぇんだよ」

「だとしても、無条件でこちらに負担を強いるのは看過出来ないな」

「じゃあどうしろっつうんだよ?」

「そうだな……」


 俺は考える。

『専属契約』という形で俺たちにマグダを押しつけた手前、狩猟ギルドもここで中途半端に引き下がるわけにはいかなくなっただろう。

 食事の世話からは解放されたが宿の世話はこれまで通りでは、心情的にかえって損した気分になるかもしれない。負担が半減したことよりも、残留したことの方に意識が向くのが人間だからな。

 ならば、ここで少しくらい強気に出ても問題はないはずだ。


「マグダが狩った獣の肉が余った時は、このギルドで買い取ってくれ。もちろん、適正価格でな」


 マグダは狩猟ギルドの権利を有しているので行商ギルドへの売却が可能だ。

 だが、方々に圧力をかけ始めている行商ギルドが、陽だまり亭に間借りしているマグダと正当な取引をするとは到底思えない。

 そうなれば、マグダは陽だまり亭で使う分の肉しか捕れなくなり、それ以外の日はタダ飯ぐらいになるわけだ。

 ナンセンス。

 そんなもん、見過ごせるか。働け。毎日、お天道様が空にいる間はな。


 なので、ウチで使う分を確保したら、残りの肉は売ってしまうのが一番だ。で、その買取額と、売却ルートをここで確保しておく。これで、多少はこちらの損失を抑えられるだろう。ともすれば、利益を上げられる可能性すらある。


 と、そんな条件を提示したところ……


「がっはっはっはっはっ!」


 狩猟ギルドの代表者は大口を開けてバカ笑いを始めた。


「ふひぃ~っひっひっひっひっ! 肉が……くくく……余ったら……がはははは!」


 なんだ?

 何がそんなにおかしいんだ?


「あ~、いいぜ。持ってきな。行商ギルドと同じレートで買い取ってやるぜ」

「いいのかい? それではギルドに利益は発生しないと思うのだが?」


 エステラが忠告をする。

 余計なことを……と思わなくもないが、これをあらかじめ言っておくことで、あとになって「話が違う」とか「そんなこと言ってない」とか、そういう煩わしい目に遭わなくて済むのだ。

 念を押して確認した。その事実は何よりも説得力を生む。

 何より、この世界には『会話記録カンバセーション・レコード』なるものがあるのだから、尚更な。


「いいとも。利益度外視で、頑張る我らが後輩を応援しようじゃねぇか! ぐははは!」


 ……なんだか、こいつムカつくなぁ……


 マグダを見ると、相変わらずの虚ろな目で、ジッと俺を見つめていた。

 ……お前、なんか思うことないのか? これだけバカにされてるってのに。

 それとも、ぐぅの音も出ないほど的を射た事実だってのか?


「よし! 交渉は成立だ! 当ギルドはゴミ回収ギルドとの取引は一切しない! 代わりに、ウチから派遣しているマグダが…………くくく……狩ってきた肉を、いつだって行商ギルドの買取額と同額で買い取ってやる。その代わり、マグダの宿と飯はお前たち持ちだ。これでいいな?」

「…………分かった。商談成立だ」


 裏は……あるのだろう。


 問題になるのは、このマグダという少女。

 こんな幼い娘なのだから狩猟が苦手だということは想像に難くない。

 だが、狩猟をする権利は有している。それはデカい。

 仮に、こいつの狩猟の腕が驚くほど低くて使いものにならないのであれば、食堂で手伝いでもさせればいい。

 宿と飯。

 幸い、陽だまり亭にはどちらも余っているのだ。


 ……うん。損はない。ないはずだ。


 俺は狩猟ギルドの代表者と握手を交わした。

 交渉、成立だ。


「それじゃ、みんな。帰ろうか」


 真っ先に立ち上がったのはエステラだった。


「そうですね。では行きましょう、マグダさん」

「…………」


 ジネットの言葉に、マグダは黙ってこくりと頷く。

 そして、ジッと俺を見つめてくる。

 ……なんだよ?

 俺に惚れると火傷するぜ……


「…………」


 結局、マグダは何も言わなかった。

 視線を落とし、ジネットに続いて部屋を出て行く。


「せいぜい、食い潰されねぇようにな」


 俺が部屋を出る間際、狩猟ギルドの代表者がそんな言葉を寄越してきた。

 ……食い潰される…………食費……ね。

 育ち盛りの子はよく食う。……というレベルを逸脱した食欲の持ち主なのだろうな、きっと。

 どんなことになるのか、見てみないと分からんが……恐ろしいわ。


 嫌な予感は拭えないが、ここで粘っても情報は得られないだろう。

 俺は軽く会釈をして、応接室を出た。



 狩猟ギルドを後にした俺たちは、マグダが現在入居している狩猟ギルドの寮へと来ていた。

 このまま陽だまり亭へと引っ越すことになったマグダの荷物を取りに来たのだ。

 荷物は小さなカバン一つと、大きなマサカリだけだった。

 マサカリデカッ!? 金太郎か!?


 いや、それよりも荷物の少なさに驚くべきか?


「これで全部か?」

「……そう」

「あんまり物持ってないんだな」

「……替えの下着がいくつかだけ…………いる?」


 わぉ!

 思ってもみない弾が飛んできた。


「ヤシロ……君という男は……」

「待て! 俺は何も言っていないだろうが!」

「で、でも、ヤシロさんは、『もらえる厚意はありがたくいただく主義』なんですよね……?」

「おい、ジネット。俺をそんな変質者を見るような目で見るんじゃない」

「変質者であることは否定出来まい?」

「出来ますけど何か!?」


 まったく。マグダが急におかしなことを言い出すから、俺が変な目で見られたではないか。

 こいつは一体何を考えているんだ?

 まさか、本気で俺に惚れてアプローチしているつもりか?


「マグダさん。女の子がそんなことを口にしてはいけませんよ」

「……なぜ?」

「はしたないからです」

「……分かった」


 ジネットがマグダに言い聞かせている。母というより、姉という雰囲気ではあるが、なんだかこういうのには向いていそうだ。よし、マグダの教育はジネットに任せよう。


 そんなわけで、俺たちは陽だまり亭へと向かう。

 本当は、この後他のギルドにも顔を出したかったのだが……マサカリ担いだマグダを連れて行くのはちょっとな……


 狩猟ギルドは、四十二区の東寄りに拠点を構えていた。割と栄えている場所だ。ってことは、結構儲かっているってことだろう。

 そこから大通りへ出て、繁華街を歩く。

 すれ違う人がみな、マグダのマサカリを見てギョッと目を丸くする。

 しかし、注目を集めている当のマグダは我関せずを貫いており、終始ぼ~っとした顔をしてとぼとぼ歩いていた。


 こいつはちゃんと前を見て歩いているのだろうか?

 向かいから人が来ても避けることすらせず、ふらふらと広い道をジグザグに歩いている。

 危なっかしいことこの上ない。


「ジネット」

「はい」

「手でも繋いでやったらどうだ?」

「そうですね。マグダさ~ん!」


 ジネットがマグダの名を呼び駆けていく。


「随分親切じゃないか。保護欲でも掻き立てられたのかい?」

「いや、単純に危ないだろ?」

「なるほど。君でも、幼い女の子に対しては無条件で優しくなるというわけだね。新発見だ」


 エステラが嬉しそうに笑う。

 が……


「何言ってんだよ。危ないのは通行人の方だよ。見ろ。一歩間違えればマサカリで頭がパッカァ~だぞ」


 ジネットに呼び止められてもなお、マグダはふらふらと体を揺らしている。

 それに合わせて、巨大なマサカリもあっちへふらふらこっちへふらふらと揺れている。

 ここまで流血事件が起こらなかったのは奇跡だ。


「怪我人でも出そうもんなら、賠償責任を取らされるのは俺たちだ」

「……君は…………金勘定の絡まない発想は出来ないのかい?」


 わざわざそれをするメリットがないじゃねぇか。

 金の『種』はそこかしこに転がっているんだからな。


 エステラが俺にジト目を向けている頃、ジネットはマグダと手を繋ごうとしていた。

 しかし、マグダを見たジネットの表情が曇る。


「両手が塞がっていますね」


 マグダは右手にマサカリ、左手にカバンを持っている。

 あれでは手が繋げん。

 手が繋げないとマサカリがふらふらで通行人の頭がパッカァ~だ。

 ……ったく、しゃ~ねぇなぁ。


「マグダ」

「…………」


 名を呼ぶと、返事の代わりに静かな瞳が俺を見上げてくる。


「荷物を貸せ。持ってやる」

「…………」


 俺が手を差し出すと、マグダはしばらく考えた後で……小さなカバンを手渡してきた。


「こっちじゃねぇよ!」

「ヤシロ……それが欲しいがために親切なフリを……」

「違う!」

「ヤ、ヤシロさん、ダメですよっ!?」

「だから違うっつの!」


 俺はパンツ入りのカバンをマグダへ突き返し、奪うように巨大マサカリを取り上げた。


「……んずぉっ!?」


 取り上げた瞬間、そのあまりの重さに俺は地面に顔面から突っ込んでしまった。

 鼻を強打し、すげぇ痛い。


 ……なんだ、これ?

 滅茶苦茶重いじゃねぇか!


「……無理」


 地面に座り、鼻をさする俺を覗き込むように見下ろし、マグダが言った。

 そして、たっぷりと間をあけて次の言葉を追加する。


「……普通の人間には」


 何者なんだ、このちびっ子は……

 こんな重いマサカリを片手で持っていたのか……


 へたり込む俺をジッと覗き込むこの小さな少女が、なんだかとてつもなく恐ろしい正体不明の獣のような、そんな気がしてきた。


 こいつと、一つ屋根の下で暮らすなんて可能なのか?

 背筋にうすら寒いものが走る。


 と、目の前に小さな手が差し出される。

 マグダが俺に手を差し伸べているのだ。


「……え?」


 意味が理解出来ず、マグダを見上げる。

 するとマグダは虚ろな目で俺を見つめたまま呟くように言った。


「……ありがとう」


 行動と言葉と表情がバラバラだ。

 さっぱり意味が分からん。


 とりあえず、俺を起こそうとしているようなので、差し出された手を取り立ち上がる。

 尻についた砂を払おうと、マグダの手を離そうとしたところ、その手をキュッと握られた。


「……初めてだった」


 …………な、なんだよ。その妙にドキッとするワードは……?

 俺、何か責任的なものを取らされるのか?

 何もしてないぞ、俺?


「……マグダの荷物を持とうとしてくれたのは、あなたが初めて」


 握る手に力がこもる。

 俺を見つめる目に、力がこもる。


「……だから、ありがとう」


 真っ直ぐに見つめられ、そんなどストレートな言葉を向けられて……なんとも居心地が悪い。


「いや……つか、結局持ててねぇし」

「……持とうとしてくれた」

「サービスは提供されて初めて価値が発生するものだ。『やるつもり』に、料金は発生しない」

「…………?」

「……分かんねぇならいいよ、別に」


 何が言いたいのかというと……要するに、礼を言われるようなことは何もしていないってことだ。


 俺は、こけた拍子に落としたマグダのカバンを拾い上げる。


「……マサカリは、マグダが持つ」


 そう言って、地面にめり込んだマサカリをひょいと持ち上げる。

 ……こいつ、狩猟ギルドでいじめられてたのって、この力のせいもあるんじゃないのか?

 こんな規格外の力を持っている者はいじめの対象になるだろう。


 単純な力比べ……要するにケンカだが……では、絶対に負けないはずだ。

 だが、『個』は『群』には勝てない。

 特に、狡猾な『群』には。


 こいつの居場所は、狩猟ギルドにはなかったのだろうな。


「お前、自分のこと『マグダ』って呼ぶんだな」

「…………他の人が、そう呼ぶから」


 自分という個体が希薄なのだろう。

 少し分かる気がする。

 こいつの視線はいつも誰かにすがろうとしている。

 こいつは言ってほしいのだ。「こうしなさい」「これはしちゃダメだ」と。


 少し、可哀想なヤツかもしれんな……


 いまだ繋がれたままの小さな手が、なんだか儚く思えた。


「マグダさんは、ヤシロさんがお気に入りのようですね」

「では、ヤシロにはこのまま手を繋いでいってもらおうか」


 性質の全く異なる笑みを浮かべて、ジネットとエステラが言う。

 ジネットは微笑ましそうに、エステラは面白いものを見るように。


 あのなぁ。俺に子守りなんかさせんじゃねぇよ。

 子供は天敵なんだよ。理屈が通じないからな。


 何度かジネットに押しつけようと試みたのだが……マグダが手を離してくれないので、結局俺が手を繋ぐことになってしまった。

 ……なんだろう、このやりにくい感じ。


 マグダが持つ大きなマサカリに自然と視線が集まってくる。

 なんだか俺までジロジロ見られているようで落ち着かない。

 ……少女と手を繋いで歩く不審者的な目で見られてないだろうな?


 大通りを歩いていると、どこかからいい香りが漂ってきた。

 焼きたてのパンの香りだ。

 そういえば腹が減ったな。


「エステラ。マグダがどうしても焼きたてのパンを食べたいんだそうだ」

「君は……使える者は子供でも躊躇いなくダシにするんだね。食べたいなら食べたいと素直に言ったらどうだい?」

「エステラの奢りの焼きたてのパンが食べたい!」

「……いい度胸してるよね、ホント」


 こいつは薬箱に価値以上の大金をポンと出したのだ。

 きっと子供をダシに使えばいくらでも金を出すに違いない。


「マグダ、おねだりすればきっとこの美人なお姉さんがパンを買ってくれるぞ」

「取ってつけたようなお世辞をありがとう、ヤシロ」


 お、お世辞攻撃は効果ありか?

 じゃあ、もっと言ってやろう。


「よっ! エステラの巨乳!」

「イヤミかな、それは!?」


 うむ。少し言い過ぎたかもしれんな。


「……おぉ、精霊神よ。俺は今罪深い虚言を吐いた……どうかこの懺悔を聞き入れたまえ……」

「よぉし、そのケンカ買った! どこからでもかかってくるがいいよ!」


 鼻息荒く身構えるエステラ。

 そんなのはいいからパンを買ってくれ。腹が減ったんだ。


「ほらマグダ。お前からもお願いしろ。パン、食べたいだろ?」


 エステラに威力を発揮しそうな子供砲を発動する。

 子供のおねだりは、それに抗えない者に対しては絶大な効果を発揮するのだ。

 俺には一切分からない感覚だがな。

 もし俺に対して子供がおねだりしてきやがったら「働いて買え!」と言ってやることだろう。


 だが、エステラは違う。

 こいつは子供には甘い!

 毎朝、嫌になるほど通っている教会で得た数少ない有益な情報だ。


「さぁ、言ってやれマグダ! 美味しいパンが食べたいと!」

「おのれ、卑怯だぞ、ヤシロ!」

「…………いい」

「聞いたかエステラ! 幼い少女がお腹を空かせてパンが食べたいと…………え?」


 聞き間違いか?

 俺はマグダの顔を覗き込んで首を傾げる。

 すると、マグダは俺の目を見つめ、はっきりとした口調で言った。


「……いらない。お腹は、空いていない」


 ……いや、この場合、お前のお腹のことはどうでもよくて、俺の腹が空いているってことに気が付けよ。というか……


「お前、大食いキャラじゃないのかよ?」

「…………きゃら?」


 不思議そうに聞き返されてしまった。


 いや、だってよ。

 狩猟ギルドの代表者……あ、結局名前聞き忘れたな、あいつ。まぁいいけど……が、言っていたじゃねぇかよ。『食い潰されないようにな』って。

 それって、お前がアホみたいに飯を食って家計を圧迫するってことじゃないのか?


「……マグダは、普段一日一食」

「それはいけませんよ、マグダさん!」


 ズダダと、ジネットがマグダの前に駆け込み、そして力説する。


「育ち盛りなんですから、一日三食きちんととらないと!」

「……お金がない」

「大丈夫です! ウチにもお金はありませんが、食材ならたくさん余っています!」


 ジネットよ、それは自慢していいことではない。

 あんま外で言うなよ。食堂の格が落ちる。まぁ既に底辺ではあるが。


「……分かった。頑張って食べる」

「はい。頑張りましょうね」


 飯を食うのに頑張るも何もないだろうに。


「しかし驚いたな……」


 エステラが俺の隣へやって来てマグダを見つめる。


「ボクもてっきり、彼女は常識の範疇外の大食漢なのだと思っていたよ」


 狩猟ギルドでのやり取りを見ていれば誰だってそう思うだろう。

 だが、違った。

 ……じゃあ、なんだったんだ?

 まさか、あの強面のオッサンたちは実は凄く優しい人々で、厳つい顔で怒鳴りながら俺たちに有利な条件を提示してくれていた……とか?

 ないな。それはない。


 ますます分からなくなる。

 こいつは、なぜ厄介払いをされたのか…………


 と、俺が真剣に悩み始めたまさにその時。


「暴れ牛だぁ!」


 誰かの叫び声が聞こえ、あちらこちらから悲鳴が上がる。


「なんだ!?」

「ヤシロさん、アレ!」


 ジネットが指さす方向に目をやると、一頭の大きな牛が大通りで暴れていた。

 近くの商店が滅茶苦茶に荒らされている。

 遠くに車輪が外れて横転している大きな荷車が見える。おそらく、あれで運搬中に脱輪して逃がしてしまったのだろう。


 今や大通りは阿鼻叫喚の巷と化し、怒れる暴れ牛は傍若無人の限りを尽くしていた。

 建物を壊し、人を弾き飛ばし、店の食い物を勝手に貪る。

 まさに野生。

 まさに動物。


 こうして生で見る牛は迫力満点で、とても恐ろしい。

 スライスされてパックに詰められていれば好感も持てるというものだが……アレはダメだ。

 獰猛、狂暴、残忍、傍若無人。仲良くなれる気がしない。


「ヤシロさん、逃げましょう。ここにいては危険です」


 ジネットはそう言うが、こちらにはこちらの事情というものがあるのだ。

 すなわち…………ちょっと、怖くて、動くのとか、無理。


「俺たちが逃げたら、街の人はどうなる?」

「ヤシロ。痩せ我慢が顔に滲み出ているよ」


 うっさい、エステラ。

 さっきから膝がガクガクいってんだよ。

 負んぶでもしてもらわなきゃ逃げられないんだよ!

 せめて格好くらいつけさせろよ!


 と、そんな中、動きを見せたのはマグダだった。


「……狩る」


 短い囁きを残し、マグダは巨大なマサカリを担いで暴れ牛へと接近していく。

 速い……っ!

 先ほどまでのぼ~っとした言動がウソみたいに、人智を超える速度でマグダが駆ける。


 あっという間に、300メートルほどの距離を駆け抜け、暴れ牛の懐にもぐり込む。と、マグダの全身が赤く燃えるような光に包み込まれた。オーラとか闘気とか覇気とか、そういう類いの言葉で表現されるものがマグダの全身を包み込む。

 遠く離れたここにまで、ビリビリとその圧迫感が伝わってくる。……漫画の世界だ。

 そして、巨大なマサカリを腰だめに構えて一気に振り抜く。

 空気が切り裂かれたような轟音が轟き、マグダの三倍はあろうかという大きな暴れ牛が一刀両断された。

 先ほどまで傍若無人の限りを尽くしていた暴れ牛はたったの一撃で大人しくなり、地面へと倒れた。一目でそれと分かる、狩りの成功。暴れ牛はマグダに狩られたのだ。


 ……スゲェ。

 強いなんてもんじゃない。

 こいつ、デタラメな強さじゃねぇか。


 なんでこんなヤツが無能扱いされていたんだ……と、そんなことを考えていた時――



 ぎゅぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉきゅるるるるるるるるるるるるぅぅぅぅううううううっ!



 ――地獄の亡者の嘆きかというような、けたたましい『腹の虫』が鳴いた。


「……なぁ、今のって」

「マグダさん……でしょうか?」


 隣で事の成り行きを見守っていたジネットに尋ねると、俺と同じ意見のようだった。

 マグダの腹から、凄まじい音が鳴り響いている。


「頑張ったからお腹が空いたのでしょうか? でしたらすぐに帰ってお食事の準備を……」


 などと、ジネットが言い終わる前に、マグダは動いた。

 おもむろに暴れ牛の前にしゃがみ込むと……その肉に齧りついた。


「マグダさんっ!?」


 一瞬目を疑った。

 マグダが、仕留めた牛に齧りついているのだ。

 それは、日本で見た動物番組の捕食シーンによく似た光景で……ライオンや虎を思い起こさせた。


「ダ、ダメですよ、マグダさん!」


 ジネットが駆け出す。

 マグダを止めに行くようだ。


「生で食べるとお腹を壊しますよっ!」

「いや、そこじゃないだろう!?」


 まるで観点がズレているジネットに代わり、俺が忠告してやる。


「人の所有物に手をつけると損害賠償が発生するだろうが!」

「……そこでもないと思うよ、ボクは」


 エステラが見当違いなツッコミを入れてくる。

 損害賠償が一番怖いだろうが。まぁ、もう避けられないだろうが……


 とにかく、少しでも肉を残して賠償額を減らそうと、俺はマグダに駆け寄り、無心に獲物に齧りつくマグダに手をかけた。

 次の瞬間――俺は、空を飛んでいた。


 マグダに触れた瞬間、驚くような力で投げ飛ばされた。

 それも、こちらをチラリとも見ないで、後ろ手でだ。


 地面へと墜落し、再び鼻をしこたま打ちつける。……鼻が低くなりそうだ。


「……なろぉ。人のもんを勝手に食うなつってんだろうがっ!」


 再びマグダに飛びかかる。が、またしてもあっさりと俺は弾き飛ばされてしまった。

 しかも、飛距離が伸びた。

 50メートルほど飛ばされて、地面に激突……背中を強打し、呼吸を止めて一秒ほど真剣に悶絶してしまった。


「どうやら、彼女の欠陥が見えてきたようだね」


 悶絶する俺を、エステラが真上から覗き込んでくる。


「彼女はその凄まじいパワーを発揮すると、その代償として抑えきれない食欲にのみ込まれるのだろう。そしておそらく……狩った獲物はその場で綺麗に食べ尽くしてしまうんだ。だから、いつも獲物は持ち帰れない……収穫は無しだ」


 なんてこった。

 ついさっき、おなかが空いてないって言ったばかりじゃねぇか……

 本当に、力を使った瞬間腹が減るんだな……


「これは、狩った肉が余るなんてことは……なさそうだね」


 くそ……なんて燃費の悪い体質してやがんだ…………

 何か対策を立てなければ……なのだが…………背中が痛くてそれどころではない。


 対策は後日改めて考えることにしよう……今日はもう帰って不貞寝したい気分だ。


 あ~ぁ……やっぱ、とんでもないもの掴まされちゃったんだなぁ…………







いつもありがとうございます。




「……そう」


とか言うキャラ大好きっ!



そんなわけで、出してしまいました、無表情幼女。

追々、もう少し表情豊かになっていくのではないかなぁと思います。



あぁ……幼女と暮らしたい。



……はっ!?

いや、違いますよ!?

そういう意味ではなく、……そうですね…………そう! 世界平和の観点で、です!

世界平和の観点から見て、幼女と一緒に暮らしたいと…………あぁ、全く誤魔化せていない……っ!?



「おなか空いてない?」

「…………」

「何か食べる?」

「…………」

「…………とりあえず、ミルクでも温めるか」

「(きゅるるる)」

「……ん?」

「…………(無言。でもちょっとほっぺが赤い)」

「くす……ちょっと待ってなよ」

「……(こくり)」

「…………(ミルク温め中)」

「…………(その様をジッと見つめる)」

「はい。熱いから気を付けてな」

「……(こくり)」

「…………」

「ふぅ……ふぅ…………ごくごく……」

「美味しいか?」

「……(こくり)」

「そっか。ゆっくり飲めよ。今何か食うもの作るから」

「あ……」

「ん?」

「…………………………ありがと」




とか!

そういうの!

そういうのがしたいの!



でもこれ、

今の日本でやると、



逮捕なんですよねっ!?




ひょっとしてですが…………



私が総理大臣になる日も、そう遠くないかも、しれませんよ…………




次回もよろしくお願いいたします。



宮地拓海

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[良い点] やっぱり主人公ツンデレでは……?
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