表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界詐欺師のなんちゃって経営術  作者: 宮地拓海
第一幕

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

149/781

130話 ハチミツ

 ベッコの家は、中央広場から延びる細い道を、ニュータウンの方へ向かって進むと見えてくる小高い丘の上に建っていた。ニュータウンを見下ろせる高台って感じだ。


「へぇ~、いい眺めだな」


 デリアがニュータウンを見下ろして鼻をひくひくさせる。風の匂いでも感じるのか?

 くんくん……あ、デリア、なんかいい香り。……くんくん。


 俺は何度か訪れたことがあるが、そういやこいつらは初めてだったか。


「こんなところに住んでたですか、ござるさん。知らなかったです」


 ロレッタがエステラの横を歩きながら言う。


「まぁ、用事が無いと絶対に来ない道だからね」


 今回はエステラの先導でここまで来ているのだ。……だって、俺が先頭を歩くと、まるでベッコと知り合いみたいじゃん? 俺は少し離れたところをとぼとぼ歩いている。


 エステラは、領主代行の仕事で何度かここを訪れたことがあるらしいのだが……ベッコはタイミングを見計らったように外出していたのか?

 陽だまり亭で会うまでお互いに面識がなかったようだが……


「やーーーーほぉぉぉぉおおおーーーー!」

「おぉ! あたしもやりたいです!」

「……乗るべき、このビッグウェーブに」


 崖に向かって大声で叫ぶデリアを見て、ロレッタとマグダも真似をする。


「いーーーーーぇーーーーーーーい、でぇーーーーーす!」

「……へいへーい」


 ……いや、マグダ。おまえのそれは、それで正解なのか?


 騒ぐ連中を見ながら、エステラにこそっと尋ねる。


「お前、この場所知ってたんなら、蝋像の犯人に思い当たってもよかったろう?」


 俺がどれだけ探し回ったと思ってんだよ?

 蜜蝋なんて、養蜂場で採れるに決まってるじゃないか。当時、養蜂場があることを知らなかった俺はともかく、エステラなら気付けたはずだ。


「いやぁ……蜜蝋っていうのにあまり馴染みがなくて」

「ロウソク使うだろう?」

「ウチ、ランタンだから。あと、全部ナタリアが用意してくれてたし」


 ……知識不足かよっ!


 まぁ、だったら仕方ないかなぁ。


「ヤシロさん。素敵なところですね」


 話が終わったタイミングで、ジネットが俺に歩み寄ってくる。

 柔らかい風が吹いて、微かに花の香りが漂ってくる。


「これで、近くにベッコが生息してなければ最高の場所なんだがな」

「ふふっ……それは、ちょっと酷いですよ?」


 あははと、困り笑顔を浮かべるジネット。

 酷いもんか。美しい風景と暑苦しいベッコでプラマイゼロなんだからな。


「ここいいなぁ! なぁ、ヤシロ! 今度お弁当持って遊びに来ようぜ!」


 デリアは高台が気に入ったようで、にこにことしている。

 崖を覗き込んでは、前髪を揺らす風に目を細める。


「ん~! 気持ちいいなぁ~! ホント、いいとこ住んでんじゃねぇか、ベッコのくせに」

「割とおウチも大きいですよ、ござるさんのくせに」

「……広大で美しい花の咲き乱れる土地を持っているとは……生意気、ベッコのくせに」

「あの、みなさん。ベッコさんが聞いたら悲しまれますので、その辺で……」


 高台の上に立つ大きな古い木造家屋。なんだか、江戸時代の地主の家みたいだ。

 大きな藁ぶき屋根が、なんとも言えない威厳を放っている。


「それにしても、立派過ぎないか?」

「養蜂には、広い土地が向いているからね。あと、近くに人が住んでいない方がいい」

「人を刺すような危険なヤツでもいるのか?」

「安全面は問題ないって、ベッコの父親が言っていたよ」


 父親いたのか……何度か来てるのに、会ったことないなぁ。

 いつも、すぐにベッコのアトリエに向かっちゃうからな。

 ……どんな変態なんだろうなぁ……変態でない可能性は限りなくゼロに近い。


「エステラさんは、ござるさんのお父さんまで知ってるです?」

「ん? あぁ。何度か会ったことがあるからね」

「ふ~む……こんな辺鄙な場所にある実家を知っていて、親御さんにまで面識があるなんて…………はっ!?」


 何かに気付き、驚き、おののいたロレッタ。

 やや青ざめた顔でエステラを見つめる。


「も、もしかして…………ご婚約を!?」

「はぁっ!?」

「えっ!? なになに、エステラ結婚すんのか!?」

「……意外な組み合わせ」

「ち、違うよ! するわけないじゃん!」


 ロレッタのあさってな勘違いにより、エステラが凄まじい勢いで取り囲まれた。

 デリアの食いつき方が異常だ。へぇ……そういう話、好きなんだぁ……


「待ってよ! 待ってって! しないから! そんな話全然ないから!」


 当然、エステラとベッコが結婚するなんて話はあり得るはずもないのだが、領主代行ということを隠したままそれを否定するのは至難の業だな。


「……フラれたことにすれば?」

「……ボクのプライドが許さないよっ」


 こそっと耳打ちすると、メッチャ怖い目で睨まれた。


「あら、なんだか賑やかだと思いましたら……」


 その時、よく知る声が聞こえてきて……「あぁ、面倒くさいことになりそうだなぁ」と、俺は直感した。


「みなさん、こんなところになんの御用ですの?」


 そこには、日傘を差し、少し不機嫌な雰囲気を放つイメルダが立っていた。

 どうも、ベッコの家から出てきたらしい。


「「「修羅場っ!?」」」


 デリアたち三人がヒートアップする。


「あ、あの……あのあのっ、ヤシロさん、ど、どどどど、どうしま、どうしましょう!?」

「落ち着け、ジネット。どうもしなくていい」


 第二の女の登場に、事態は風雲急を告げる。……わけもなく、勝手な勘違いが加速していく。


「まさか、あのベッコをエステラとイメルダで取り合っていたなんてっ!?」

「意外にヤル男です、ござるさん!」

「……やはり、土地持ちは強いのか…………っ」


 以上、デリア、ロレッタ、マグダの感想なわけだが……ベッコがそんなにモテて堪るか。

 この二人から求愛されるような男、そうそういねぇっつうの。


「なんなんですの? なんだか不愉快な視線を感じますわ」

「珍しくイメルダと同じ気分だよ。まったく、いい加減にしたまえよ、君たち!」


 イメルダとエステラが並び立ち、デリアたちを睨みつける。

 珍しく共闘しているな。


「ヤシロさん。これはなんの騒ぎなんですの?」

「お前とエステラがベッコを取り合って修羅場っているのではないか……という疑惑だそうだ」

「……それは、四十区に対する宣戦布告と取ってよろしいんですの?」

「やっ、待ってくれ! ボクも被害者だから!」


 ベッコよ。お前、戦争の火種になってるぞ。


「とにかく、ボクは仕事で何度か訪れただけだから!」

「ワタクシも、ベッコさんに依頼しておいた食品サンプルを取りに来ただけですわ!」


 二人が懸命に身の潔白を訴えている。

 ……ベッコ。不憫だな、お前。


「でも、食品サンプル持ってないです、イメルダさん」

「それは、ベッコさんが……」


 そこでイメルダが、木造家屋の向こうに広がる花畑を睨みながら、険しい表情を見せる。


「厄介なハチの魔獣に襲われて死にかけていらして、受け取れなかったからですわ」

「はぁ!?」


 ベッコが死にかけてる!?


「まったく。折角ワタクシがこんな遠いところまで足を運んできたというのに……無駄足でしたわ!」


 そう言って、さっさと帰ろうとするイメルダ。


「いやいやいや! なにサラッと帰ろうとしてるんだい!?」


 すたすた歩き出すイメルダの腕をエステラが掴まえる。

 それに対し、イメルダは澄ました顔で答える。


「何か?」

「ベッコが、死にかけてるんだよね!?」

「まぁ、……もってあと二日……いや、半日……」


 見積もり、アバウトだな!?


「ベッコが危ないんだろう? 何かしてやれることとかあるだろう!?」

「エステラさん。ワタクシの街にはこういう言葉がありますわ。『なぜ、ワタクシが?』」

「いや、そういう言葉があるかは知らないけど! 助けてやろうよ!」

「エステラさん……まさか、本気でベッコさんのことをっ!?」

「違ぁああーうっ!」


 再燃する疑惑に、エステラが髪の毛を掻き毟る。


 まぁ、イメルダの反応を見るに、『死にかけている』という表現は間違ってはいなくとも正確ではないのだろう。

 もし本当に命が危ないのであれば、イメルダはもっと必死になっているはずだ。ツンケンしているように見えるが、人を見殺しに出来るような女ではない。


「おやおや。これはこれは」


 藁ぶき屋根の木造家屋から、まん丸い顔をした小柄なジジイが一体現れた。


 どうする?

    攻撃

    防御

  → 魔法

    逃げる


「ヤシロ・ビィィィィムッ!」

「何をやっているんだい、ヤシロ!?」

「俺の魔法が効かないだとっ!?」

「何も出てなかったよ!?」


 エステラがツッコミを入れてくる。……遊び心が分からんヤツめ。


「ふむむっ。その突拍子の無さ! そなた様がヤシロ殿でござんすねっ!?」


 ジジイが俺を見つめてニカッと笑う。

 ……今ので分かられてしまうような伝聞の仕方をしてるってわけだな、ベッコのヤツは。なるほどねぇ……ふ~ん。……あとで覚えてろ。


「せがれの作る像にそっくりでござんす」


 あぁ、それで顔を知っていたのか。

 で……地味にイラッてするなぁ、その語尾。


「それがし、ベッコの父、カーレ・ヌヴーでござんす。以後お見知り置きを願うでござんす」

「よし、断る!」

「じゃあ、あたしも!」

「……同意」

「んじゃあ、あたいも断っとくかぁ」

「あ、あの、みなさん!? カーレさん。冗談ですからね!? みなさん、冗談が好きな方たちで!」


 ジネットがカーレとかいう『ござんすジジイ』に微笑みかける。

 やめろ、もったいない。なんかが減ったらどうする?


「ところでカーレ。ベッコが死にかけているって話なんだけど……」


 エステラが神妙な面持ちでカーレに尋ねる。


「あぁ、ありゃ死ぬでござんすな。ま、諦めるでござんす」


 一方のカーレは緊張感の一切ない声でけらけらと笑う。

 なんか、こいつはこういう妖怪なんじゃないかという気がしてきた。


「どういう状況か、見せてくれないかな?」

「あぁ、どうぞどうぞでござんす。裏の花畑に回ってくだせぇでござんす」


 カーレに言われ、俺たちは木造家屋を壁伝いにぐるりと回り、花畑へと踏み込んでいった。


「あっ!? ヤシロ氏っ! みなさんも! 拙者を心配して来てくれたでござるか!?」


 花畑の真ん中に大きな囲いがあり、その中にベッコが入っていた。

 よく見ると、その囲いは全面を目の細かい網で囲われている、立方体の形をした網戸の塊、みたいな物体だった。一辺の長さが3メートルくらいある、割と広い囲いだ。


 そして、その周りを夥しい数のハチがブンブンと飛び交っている。


「……うわぁ」

「これは凄まじいね……」

「これは……近付きたくないです」

「……一匹一匹が、それなりの魔力を持っている…………強敵」

「数が厄介だよなぁ……まぁ、負けないとは思うけど」

「えっ!? あの、マグダさんにデリアさん。戦うつもりですか!?」


 腕まくりをするデリアに、呼吸を整えるマグダ。マグダのあれは『赤モヤ』を出すための準備だ。


「カーレ。ベッコはいつからあそこにいるんだい?」

「一昨日の昼からでござんす。囮槐おとりえんじゅを、うっかり触ってしまったでござんす」

「おとりえんじゅ?」

「今、せがれを取り囲んでいる魔獣、『エンジュバチ』をおびき寄せる匂いを放つ、特殊な蜜のことでござんす」


 エンジュと言えば、針槐はりえんじゅってのがハチミツの原料になってたりするが、その一種が、あの魔獣『エンジュバチ』を驚異的に引きつけてしまうようだ。

 で、ベッコはうっかりその囮槐おとりえんじゅを触ってしまったと……


「自業自得か?」

「養蜂家失格でござんす」

「なんだ。じゃあ、しょうがねぇか」

「世の中、諦めるのも大事です!」

「……来世で頑張るべき」

「あの、みなさん! 冗談ですよね!? ですよね!?」


 諦めの早い面々に、ジネットは真剣にハラハラしているようだ。

 大丈夫だよ。ちゃんと助けるから。


「匂いを取るにはどうすればいいんだ?」

「三日あれば自然と匂いは取れるでござんす。もしくは、エンジュバチのテリトリーから離れれば、もしくは……」

「そのテリトリーの範囲は?」

「半径5メートルでござんす」

「狭っ!?」


 ミツバチの行動範囲は半径2キロほどだと聞いたことがあるが……エンジュバチは呆れるくらい出不精なようだ。近場で済ませたい派らしい。近所のコンビニしか活用しない引きこもりのような魔獣だ。


「全力で逃げればいいんじゃねぇのか?」

「それは無理でござんす。エンジュバチは時速120キロで飛べるでござんす」

「無駄だな!? 行動範囲5メートルのくせに!?」

囮槐おとりえんじゅの香りを嗅ぎつけると、どこまでも追いかけるでござんす」


 ……えぇ、めんどくさ~い。


「ボクたち、こんな近くにいても平気なのかい?」

「エンジュバチは、囮槐おとりえんじゅの香りと、自分に向かってくる者以外には興味を示さないでござんす。なので、せがれを見殺しにすればみんなハッピーでござんす」

「拙者、全然ハッピーではござらんのだが!? 父上、なんとかしてほしいでござる!」

「だまらっしゃいでござんす! 蝋像作りにうつつを抜かし、日頃から仕事の手伝いをしていないからこういう目に遭うでござんす! 少しは反省するでござんす!」


 家業を継がず、蝋細工に勤しむベッコは、どうも父親に疎まれているらしい。


「それで得たお金で、父上は高級な酒を買って上機嫌だったではござらんか!」

「それはそれ、これはこれでござんす!」


 ……でも、ないらしい。


「とりあえず、あの囲いから出なければ安全なんだろ?」

「いかにも、でござんす」

「んじゃあ、匂いが取れる三日目……明日まであそこで我慢すればいいわけだ」

「そうでござんす。我慢するでござんす!」

「そうは言っても、拙者腹が空いて、今にも意識が途切れそうでござるゆえ……」


 閉じ込められているせいで、飯が食えないのだそうで……それが『ベッコが死にそう』な理由だそうだ。


「……マグダは、ハニーポップコーンを持っている」

「おぉ! マ、マグダ氏! 何卒! 何卒、そのハニーポップコーンをお譲りいただけないでござろうか!? この通りでござる!」


 平身低頭。ベッコは誠心誠意お願いをする。


「……了解。進呈する」

「恩に着るでござる、マグダ氏!」

「……では、取りに来て」

「申し訳ないでござるが、それはちょっとばかり無理でござる!」


 つか、あいつが出てきたらこっちまでとばっちりを受けそうだ。


「マグダ。放り投げてやれ」

「……この距離では、さすがに届かない」


 ポップコーンが入った、軽い紙袋。投げたところで5メートルも飛ぶとは思えない。


「諦めるか」

「ヤシロ氏! 何卒温情をっ!」


 涙目で訴えるベッコ。しょうがねぇなぁ……


「なんか長い棒とかないか?」


 棒に載せて渡してやろう。

 と、思っていたのだが。


「……マグダが行く」

「え? 大丈夫かよ?」

「……平気。数は多いけど、さほど強い魔獣ではない」

「まぁ……マグダが平気って言うんなら……」


 行かせても……いいのか?

 マグダが危険にさらされることになるのか? ベッコのために?


「なんかもったいないな」

「うん……ボクもなんだかそんな気が……」

「後生でござるぅ!」


 なんだかベッコが物凄く必死なので、危険だとは知りつつも、マグダにお願いをする。

 怪我をしないことだけを懸命に祈る。


 ……防護服とかねぇのかよ、ここ?


「……では、行ってくる」


 じり……っと、マグダが一歩を踏み出す。

 エンジュバチはマグダを気にする素振りも見せずに、網に囲まれたベッコに群がっている。


 気を付けろ、マグダ……エンジュバチは近付く者にも襲いかかるらしいからな。

 マグダがもう一歩踏み込み、エンジュバチのテリトリーへ入った。

 その瞬間――


「あっ! マグダっちょ! 危ないですっ!」


 ロレッタの叫びと、俺の視線がその物体を捉えるのはほぼ同時で、一匹のエンジュバチがマグダに向かって一直線に飛びかかっていく様を、俺は目撃していた。


 世界がスローのようにゆっくりになり、エンジュバチが鋭い針を尻から突き出してくる様まではっきりと見える。

 親指ほどの小さな魔獣が、鋭い針をギラつかせ、マグダに襲いかかる――


「……遅い」


 しかし、スローの世界の中でただ一人通常と同様、いや、若干早送りなくらいの速度で動くマグダ。

 ゆらりと、右腕から赤いモヤモヤしたオーラのようなもの――『赤モヤ』が立ち上ったかと思うと、一瞬のうちに飛びかかってきていたエンジュバチを弾き落とした。親指に引っかけた中指を勢いよく弾き出す、デコピンで。


 改めて、マグダの強さを目の当たりにした瞬間だ。

 速く、そして、強烈な一撃が炸裂する。


 だが……



 ぐきゅるるるるるるるるるるぅぅぅうううっ!



 直後に盛大に腹の虫が鳴き、マグダは手に持っていたポップコーンを一気食いしてしまった。


「あぁーっ! ポップコーンが! 拙者のライフラインがぁ!?」


 うん。『赤モヤ』使ったら、こうなるよね……


「マグダ、食ったら戻ってこい」

「……了解」


 ハチ一匹落としただけなので、今回はポップコーン一人前程度で腹が収まったらしい。

 カーレの言った通りエンジュバチは、その場を離れるマグダには見向きもしなかった。


「ヤ、ヤシロ氏ぃぃいいっ!」

「あぁ、分かった分かった!」


 まぁ、たぶんなんとかなるだろう方法は、ある。

「ウチ、遠出は好かんから、おウチ帰るわぁ~」と、一人でさっさと帰ったあいつを頼れば。


「ジネット。今から陽だまり亭へ戻って、弁当を作ってきてやってくれないか?」

「はい。任せてください」

「じゃあ、デリアとロレッタはジネットの手伝いに行ってくれ」

「おう! 任せとけ!」

「了解したです!」


 そして、残った三人に向き直り話をする。こいつらには色々と用意してもらいたいものがある。


「エステラ。エンジュバチを閉じ込められる厚手の大きな袋を用意出来ないか?」

「う~ん……すぐにとなると……」

「ワタクシの屋敷にありますわ、おがくずを詰め込むための大きくて頑丈な布袋が」

「よし! じゃあ、それを頼む」

「分かりましたわ。マグダさん、荷物持ちをお願い出来ますかしら?」

「……了解した」


 イメルダとマグダが連れだって歩いていく。


「じゃあエステラはカーレと一緒に火を起こす用意を頼む」

「火?」

「前にレジーナの薬品棚を見せてもらった時に、あったんだよ。害虫駆除に使える香草が」


 草を燃やして煙を焚き、エンジュバチの動きを止めるのだ。

 そして、動きの止まったエンジュバチはみんな袋の中にしまっておく。……使えるかもしれないからな。


「んじゃ、俺はレジーナのところへ行ってくるな!」


 高台を駆け下り、大通りを抜け、見慣れた薬屋のドアを開けると……


「ホコリちゃ~ん! 一緒にオヤツ食べへんか~……ん? あれ? どないしたん自分?」


 相変わらずホコリと会話してやがった。

 こいつ、自分の薬で心の病治せればいいのにな。


 事情と経緯を説明し、レジーナに虫除けの薬草を分けてもらおうとしたのだが……


「そんなら、おすすめのもんがあるわ!」


 手を打って、レジーナが取り出してくれたのは…………ネームーリークーサー!

 ……なんだか、未来の世界のネコ型ロボットを彷彿とさせる取り出し方だった。



「これな、『ネムリクサー』いうて、害獣・害虫駆除のお役立ちアイテムなんやで」


 ネムリクサーを燃やすと催眠効果の高い煙が発生するらしい。

 なるほど、駆除にはもってこいだ。


 ……つか、エリクサーのバッタもんみたいな名前だな。







 養蜂場に戻り、早速ネムリクサーを試すと、その効果は抜群で……


「……ベッコが爆睡しているね」

「まぁ、この位置からじゃあベッコを避けて煙浴びせるの不可能だしな」


 風上で火を焚いて煙を送る。

 あれほど騒がしく鳴り響いていた羽音はピタリとやみ、飛び交っていた数百匹のエンジュバチは皆地面の上に落ち、動かなくなっていた。


「今のうちに袋へ」


 俺とエステラ、戻ってきたマグダとイメルダでエンジュバチを袋へと詰め込んでいく。


「ワタクシ、虫には触れられませんわ!」

「……威張って言うことかな、それ」


 訂正。イメルダは一切役に立っていない。

 俺に必要とされる云々は、こういうところでは発揮されないらしい。


「ヤシロさ~ん!」


 エンジュバチを捕獲し終えたあたりで、ジネットたちが戻ってきた。

 折角弁当を作ってきてくれたのだが……肝心のベッコが眠ってしまっている。

 無駄にするのは惜しいなぁ……


「任しとき」


 ネムリクサーを安全に使うために連れてきたレジーナが、ここでも役に立ってくれた。


「ミントの仲間で、覚醒効果の高いヤツがあってな。そのエキスを絞り出して作った目覚めの薬、『メッチャ臭ぅてお目々ぱっちりんX』やっ!」

「名前がもう使用を拒絶させるに十分値するろくでもない薬だな」


 結果がはっきりと想像出来る謎の薬をベッコの口へと流し込むと……


「クッサッ!? 臭いでござるっ!?」


 ……と、想像通りのリアクションで飛び起きやがった。


「お前さぁ……もうちょっと意表を突いたリアクションしろよぉ」

「寝起きに無茶苦茶な要求されたでござる!?」


 なんだか不満そうにしながらも、エンジュバチから解放され飯にありつけたベッコは、俺たちに大袈裟なほど感謝の念を述べ、そして弁当をぺろりと平らげた。……こいつも大食いイケんじゃねぇの?


「いやぁ、かたじけないでござる。このご恩は何かしらの形でお返しするでござる!」


 そんなベッコの言葉に、ジネットは少し「もじっ」と体を揺する。

 ん? ダメだからな? 俺の蝋像は作らせないからな? 期待しても無駄だぞ、ジネット。


「いやぁ、それがしのせがれのために、みなさんにはご迷惑をおかけしたでござんす」

「なぁに、養蜂家のくせにハチ対策がまるで出来てないプロ失格のヤツの尻拭いをちょっとしてやっただけだから、まぁ気にすんな」

「まったく。お恥ずかしいせがれでござんす」

「いや、お前のことだよ?」


 こういう事態に備え、ハチを大人しくさせる方法の一つでも確保しとけっての。防護服くらいあってもいいだろうに。


「いやしかし! それがしのせがれのために、こんな美しい女性たちが一所懸命動いてくださるとは……もしや、この中にせがれの『いい人』でもいたりするのでござんすか?」

「「「「「それは無い」」」です」ですわ」

「あの……ご期待に添えず、すみません」


 エステラ、マグダ、デリア、ロレッタ、イメルダが声を揃えて即答し、ジネットですらも困り笑顔でやんわり否定した。


 視界の隅でベッコがへこんでいたが、まぁ、無視する。


「それより、ハチミツを分けてくれないか?」

「せがれの恩人の頼みとあらば、いくらでも、でござんす」


 にこにこと、カーレは特大の瓶に詰まったハチミツを持ってきてくれた。

 これだけあれば、色々なことに使えそうだ。


「あ、それからもう一つ……」


 俺は花畑を指さして言う。


「そこらの花、いくつかもらっていっていいか?」

「えぇ、構わんでござんすよ」


 俺の記憶が正しければ、ここに咲いている何種類かの花は、花屋では見たことがない。

 観賞用にするには少々見劣りするからな。

 だが……色合いを考えて花束にすればちょうどいい物が出来るだろう。


 明日、ミリィへ贈るオリジナルの花束がな。







いつもありがとうございます!



いつもより更新が早かったため驚かれた方もいらっしゃるかと思います。

ビックリさせてすみません。


ちょっと年甲斐もなく徹夜をしてしまいまして(・ω<)てへぺろ

このあといつまで起きていられるか自信がなかったため、少々早目の更新となりました。


予約更新でもよかったのですが、それもそれで「あれ?」と疑問に思う方もいるかなと思い、手動更新での早目の公開とさせていただいた次第です。


明日はいつもくらいの時間に公開出来ると思いますのでご報告まで。




と、いうわけで、ベッコのお父さん、カーレ初登場!

そして、カーレは、今回が最後の登場になります!


(」゜□゜)」 < もーオッサンはいらないんじゃー!


セロンの父ボジェクと同じ扱いです!

ウチにも捨てキャラはいます!(主にオッサン!)

まぁ、彼らが普段働いているおかげで、息子たちはヤシロの元に集まれるんだなぁ、と思っておいていただければいいかなと。

家を継いだら遊んでいられないでしょうしね。


……いや、遊ぶなぁ、あいつらなら。



ちなみに、カレー回だからカーレという名前にしたのではなく、たまたまなんです。

本当はもっと早く(お祭り付近で)登場するはずだったんですが、その機会を逃し、ようやく日の目を見たキャラなのです。


だから、別に安直に決めたわけじゃないんだからねっ!



あ、そうそう!

前回のカレーなんですが、あれは『失敗作』ですので、決して真似をされませんように!

食えたもんじゃないですよ!

ちゃんとレシピを見て作ってくださいね。


そして、今回のハチの駆除も、素人判断では決して行わず、行政かプロの方にお願いしてください。



本作は、異世界を舞台にしたフィクションであり、ヤシロたちが行っていることを現実世界にて実行しても成功する可能性は極めて低いです!


くれぐれも、フィクションと現実を混同させないようお願いいたします!!

くれぐれも!


ハチは、マジで危ないので! 絶対ダメですからねっ! 



次回は、可愛くてパイオツなSSとか挟み込みたいなぁと……むしろ挟まれてみたいなぁ、パイオツに! という感じでお送りします! 出来れば! したいな! 挟まりたいな!



次回もよろしくお願いいたします。


宮地拓海



追伸:

金曜日から、感想返しをちょこちょこと始めさせて頂いております。

返す順番が前後してしまい間が抜けてしまっておりますが、

1つずつお返ししていきますので、気長に待っていてもらえると嬉しいです。


また、個別に頂いているメッセージについては、

現在更新を最優先とさせて頂いておりますため、

お返事が遅くなる、または出来ない可能性がありますことをご了承ください。



いつもお気遣いくださる皆様、ありがとうございます。

要らぬ気を遣わせてしまっていることを大変申し訳なく思うと同時に、皆様の存在にとても助けられています。


本作を通し、皆様と楽しく交流したい。

それが私の唯一の願いです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ