122話その1 密室の会談・前編
「お前は、バカか?」
リカルドが顔面を引き攣らせんばかりの勢いで歪めている。
バカはお前だ。
――と、言ってやりたいが、まぁ、さすがにそれはマズいだろう。今回のキーパーソンつうか、とにかくこいつが首を縦に振らないと話が始まらないんだ。機嫌を損ねるのはマズい。
「バカはお前だ」
あ。
我慢出来なかったや。
「んだと?」
ほら、もう。
リカルド、バカなんだからすぐに食いついちゃうのにぃ……分かってたのになぁ。ついぽろっと。だって、あまりにもバカだから。
「お前は武器屋を儲けさせたいのか?」
「あ?」
もう完全にヤンキーである。
転校した先にこういうのがいたら学生生活を早々に諦めちゃうレベルだ。
もっとも、今は諦めちゃうわけにはいかないんだけどな。
「おそらく、お前は『勝負』と聞いて武術大会や模擬戦なんかを想像したんだろう。いや、むしろそれしか想像出来なかったんだろう」
「…………それがなんだよ?」
「血が流れたら、その後でわだかまりが残っちまうだろうが」
「勝負ってもんはそういうもんだろうが!」
「そういう一面的な物の見方しか出来ないから、四十一区は経済が回ってないんだよ」
「………………んだと?」
あ……。マジのトーンだ。
相当痛いところを突かれて逆切れするしかなかったんだな。
「経済が回ってねぇってのは、どういう意味だ?」
「そのまんまだ。まさか気付いてないわけじゃないよな? 俺は一度視察に来ただけで色々気付いたぜ?」
「…………」
リカルドが口を閉じる。
説明してほしそうだな。聞きたいか?
「一本目と呼ばれる、大通りの脇の通り。どういうわけか、ここには武器屋や防具屋が並んでいた。大通りにも随分それ系の店が多かったように思うが、それはなぜだ?」
「……ふん」
俺の問いかけに、リカルドは顔を顰め、面倒くさそうに答える。
「大通りは街の顔だからな。その区、そしてその区の領主に相応しい店を置くべきだろう。四十一区は狩猟ギルドの街だ。武器屋が並ぶのは当然だろうが」
顔、ねぇ……
「確かに並んでいたな。歴史だの威厳だのが胸やけ起こしそうなくらいてんこ盛りの武器屋や防具屋がな。……だが、客はいなかった。なぜなら、この街でそれらの武具を使うのは憲兵と狩猟ギルドくらいなもので、その二つは領主から武具を提供してもらっているからだ」
「武器や防具は絶対に必要な物だ。支給し一定以上の精度を保たなければ命に関わる。個人に任せておいて、金の無いヤツがろくな装備も出来ないなんて状況は看過出来ねぇからな」
もっともな意見だ。だが、だからこそ行き詰まっているのだ。
「なら、武器屋はなぜ店を開いている。作るだけ作って、お前のところへ卸せばいいじゃねぇか。なぜわざわざ店を開けている?」
「……もっと売りたいんだろう」
「そうだ。それはなぜか…………」
指を立てて、注目を集める。
たっぷりとシンキングタイムを取ってやり、解答を口にする。
「金がないからだ」
武器屋は定期的に領主のもとへ武器を卸している。だが、リカルドにしてもそう頻繁に武具のような高価な物を買い替えるほど余裕があるわけではないのだ。
結果、狩猟ギルドや憲兵は支給された武具を大切に使い、武器は売れなくなる。
だから、武器屋は店を開けているのだ。外部からの顧客を得るために。
「だが、武具を買う者など、憲兵を除けば狩猟ギルドくらいのもんだ。まぁ、木こりギルドも護身用の武器なんかは必要かもしれんが、四十一区に『わざわざ』買いに来る理由はない」
一本目に店を構える武器屋のオヤジは、俺に「狩猟ギルドか?」と尋ねた。それ以外に客がいない証拠だ。
「見ろ。経済回ってねぇじゃねぇか」
「それと、大食い大会と、なんの関係があるんだよ!?」
「マジで分からないのか?」
少しオーバーに、驚きの表情をリカルドに向けて見せつけておく。
これで、面倒くさい茶々は挟みにくくなるだろう。あまり細かいことに口を挟むと、自分の理解力が低いと言っているようなものだからな。くだらない質問はするな。自分で考えろ。分からないなら、とりあえず最後まで話を聞け。
途中で茶々を入れると話が長くなり、内容がぼやけるだけだ。
「お前は、大食い大会を『ふざけている』と、そう思ったんだよな?」
「…………あぁ」
「それはつまり、試合といえば剣と盾を取り、屈強な男たちが意地と誇りをかけてぶつかり合う武闘大会こそが相応しいと思ったからだよな?」
「…………だからなんだよ?」
「じゃあ聞くぞ」
よく考えろ。
慎重に言葉を選んで、そして答えろ。
「武闘大会が終わった後、そこに何が残る?」
リカルドが眉根を寄せる。
一度発言しようとして、止める。
顔を顰める仕草から見て、口にするのが憚られたようだ。だが、黙っていても埒が明かないと覚悟でも決めたのだろう。軽く咳払いを挟んで、リカルドはこう答えた。
「ほ……誇りと、名誉だ」
「ぷぷぷー!」
「うっせぇな! 笑うなよ!」
「男の子だもんねぇ。そういうの、欲しいよねぇ」
「テメェ、バカにしてんのか!?」
「あぁ、してる。お前はバカだ。それも、見下げ果てるレベルの大バカ野郎だ」
はっきり言ってやると、リカルドは怒りを通り越してぽかんとしてしまった。
真剣に意味が分からない。そんな顔で俺を見ている。
「今は経済の話をしてんだろうが。考えろよ。誇りと名誉で腹が膨れるか? 職にあぶれて路地裏に座り込んでるヤツが金を得られるのか? 回らない経済を放置して、一時の勝利に酔いしれてる場合かよ」
「け、経済の話をしてんなら、最初にそう言えよ!」
「その話しかしてねぇよ。俺は、ずっとな」
負けず嫌いなんだろうが、そんな反論は唾棄すべき愚かな言い分だ。
切迫した状況で、ささやかなプライドを守ってんじゃねぇよ。
「俺悪くないもん、お前が言わなかったのが悪いんだもん」てか? ぷぷぷっ、バーカ。
「武闘大会を開催したとして、儲けが出るのはどこだ? まぁ、武器屋と防具屋だろう。宿と飯屋も多少は実入りがあるかもな」
だが、実入りがあるのは会場そばの店だけだ。そうなれば、どこで開催するかでまた揉める。会場真ん前の飯屋なんか、連日大入りでウハウハだろう。イベント会場のそばの店は、たとえクッソマズい料理がふざけんなってくらいぼったくり価格だったとしても売れてしまうのだ。
だが、イベントがなければ当然見向きもされない。リピーターなど出来ようはずもない。
「武器屋を儲けさせて、それでどうする? 新しく強力な武器を作らせて、もっと上の区に戦争でも吹っかけるか?」
「バカか! 誰がするかよ、そんなこと!」
「なら、武器屋が儲けた金はどこに還元されるんだ? 武器屋の懐が温かくなっただけじゃ、経済は回らない。街は復活しないぜ?」
「…………」
武器屋が悪いとは言わんが、今は必要ない。何より、これ以上同じ街の中で格差を広げるのは避けるべきだ。今でさえ、一本目二本目というくだらない選民意識が芽生えてやがるんだ。悪化させてどうするよ。
「考えるべきは、試合の内容じゃない。それが与える恩恵だ」
「試合は、どうでもいいってのか?」
「バッカヤロウ。試合で手を抜きゃボッコボコに叩きのめしてこっちの要求全部のませてやるぞ」
「じゃあどこに重点置けっつうんだよ!?」
「全部だ!」
試合と、経済と、それらがもたらす恩恵の分配と、その他もろもろ、全部に神経を使って完璧に、非の打ちどころなく、とことんまで大成功させるんだ。
「大食い大会をやるメリットを挙げてやろう。これを聞きゃ、俺のアイデアがいかに素晴らしいかがよく分かる。頭の悪いお前でもな」
「ほぅ…………話してみろよ、バカ面」
負け惜しみを挟んでくるあたり、相当悔しかったんだな。ぷぷぷーっ。
「会場はここ、四十一区に作る。手が余っている領民をかき集めて街中を綺麗にさせろ。ゴミ一つ落ちていない最低限の見栄えを確保しろ。悪臭なんてもってのほか、反抗的なヤツは投獄してでも、このイベントに向けて前向きに参加させろ」
「投獄って……お前、ウチの領民をなんだと思って……」
「きったねぇんだよ、四十一区! あと、臭い!」
「な……っ!?」
俺がきっぱり言うと、イメルダとハビエルがうんうんと頷き、デミリーが控えめに笑った。
その反応を見て、リカルドがまた目を見開く。……気付いてなかったのか。慣れんじゃねぇよ、この悪臭に。
「期日までに綺麗に出来なきゃ、まぁ、しょうがねぇから四十二区を貸してやるよ。貴族も呼べる、美しい街並みだからな」
……まぁ、イメルダは貴族みたいなもんだし、ラグジュアリーのお得意さんの貴族たちもたまに陽だまり亭に来るし、うん、嘘じゃない。
「どうせ仕事してねぇんだから働かせろよ」
「あのなぁ! そのためには賃金が必要になるんだよ! 街全体を整備するような一大公共事業に出す金なんか、どこにあるってんだよ!?」
「四十区が出す」
「えぇー!?」
デミリーが奇声を上げる。
なんだよ、ハゲた頭でうるせぇな。急に立ち上がんじゃねぇよ。日の出かと思うだろうが。
「正確には、四十区と四十二区が準備金を出す。四十一区も多少は金を出せ。お前んとこが綺麗になるんだからな」
「あ、あの、オオバ君。それは寄付しろってことかい? このイベントを成功させるために?」
「違うな。投資……いや、広告費だ」
四十一区は人手を集め、四十区と四十二区はその費用を負担する。その代わり、イベントまでの期間、四十一区の大通りに店を出させてもらう。
「いくつか空きになってる店があったろう?」
「大通りにはねぇよ。あるとすりゃ、二本目以降だ」
「じゃあ、大通りの店をそっちに移して店舗を明け渡せ」
「はぁ!? お前、バカだろう!?」
「でなきゃ、費用は四十一区の税収で賄え。領民から巻き上げてな」
「…………テメェ」
これも重要な計画の一つなんだよ。
あの大通りには必要の無い店が多過ぎる。外部の人間が真っ先に訪れる大通りに武器屋を置いてどうする。
飯屋と酒場、それから宿屋だ。
名物の魔獣の肉すら、大通りでは買えない。じゃんじゃん焼いていい匂いで来訪者の財布の紐を緩めさせてこそ収入を得られるんだろうが。それも出来ないで、なんのための大通りだ!
立ち食いや歩き食いが増えると品性が落ちるとでもいうのか?
格式とか見栄えばっかりにこだわりやがって。
「立ち退き云々に関するいざこざは領主がなんとかして抑え込んでくれ。金でも武力でもなんでも使って納得させてくれりゃあいい」
「……サラッと難題を押しつけやがって」
楽していい思いが出来るなんて思ってんじゃねぇよ。
お前には、イベントまでの間一番動き回ってもらうからな。
「四十区と四十二区は、資金を出す代わりに一等地に店が構えられる。インフラ工事の間行き来する大量の作業員相手に飯だの宿だのを提供すればある程度元は取れるだろうし、上手くすれば別の区の新規顧客を獲得することも可能だ」
「ふむ……だが、やはり損失が大きいか……」
細かい金勘定を始めたデミリーが渋い表情で呟く。
表面上だけ取ればそうかもしれない。だが……
「それだけじゃないぞ、デミリー」
「ちょっと、ヤシロ。オジ様を呼び捨てとは、どういう了見だい?」
俺の発言に、エステラが厳しい顔をする。
話の腰を折るなよ、エステラ。
まぁ、気になるってんならそれ相応の呼び名で呼んでやるけどさ。
「しょうがねぇなぁ。言い直せばいいんだろ」
「親しき仲にも礼儀ありだよ」
俺は襟を正して、デミリーへと向き直る。
「それだけじゃないですよ、つるりんエンジェル・デミリー」
「呼び捨てでいいかなぁ!? オオバ君と私の仲だしね! フレンドリーな関係で行こうじゃないか。だから二度とその名を口にしないでくれるかい!?」
「……ヤシロ…………あとでお説教だよ」
なんだよ、エステラ。
だいたい、リカルドにタメ口利いても文句言わなかったクセによぉ。
「俺は、相手が誰であろうと、差別せず平等に付き合うんだ」
「……それは自分より立場が下の者に対して言うセリフだよ」
「呼び名なんざどうでもいい! もとより、テメェに礼儀なんか期待しちゃいねぇんだ。話を続けろ」
リカルドが足をバンバン踏み鳴らして言う。
ま、これで全領主の許しを得たわけで、今後は心置きなくタメ口で話させてもらおう。
「四十一区の道が綺麗になれば、四十区から四十二区まで、すべての道が整備されたことになる。移動がかなり快適になるぞ」
「ふむ。なるほどな。確かにここの道路は酷いからなぁ」
と、ついこの間まで道がボッコボコだった四十区の領主が言う。どの口が言ってんだ。
「何より、大きなイベントが大いに盛り上がり、大成功を収めれば多額の金が動く。利益以上に、この人と金と物の流れを重視するべきだ」
「イベントの後も、交流が盛んになる可能性もあるってことだね」
エステラがいいことを言う。
イベント中に出来た新たな関係は、その後も持続されるだろう。
行きつけの店が増えたり、同業種での交流がきっかけで共同作業をしたり、異業種間でコラボしたり。可能性は無限にある。
ウチも盛大に宣伝するつもりだ。
四十二区は、今や食文化の発信地なのだ。四十区や四十一区の連中が知らない食い物が大量にある。
それを存分にアピールすれば、四十二区に客を引き込める。
最果ての地、用がなければ行かない街、終の土地。
そんな四十二区に、人が押し寄せるようになるかもしれないのだ。やる価値は十分にある。
「デミリー。トルベックに追随するような大工はいるか?」
「ふむ……腕のいい大工なら他にもいくつか知ってはいるが」
「よし。なら、大工どもを総動員して道と会場を作っちまおう」
「ハムっ子たちを総動員すれば、かなり早く道が整うだろうね」
「なんだか、いよいよ盛り上がってきたねぇ」
エステラとデミリーも食いついてきたようだ。出資者が楽しそうなのはいいことだ。失敗して赤字が出たって「まぁ、楽しかったしね」である程度は有耶無耶に出来る。
「おい、バカ面」
少しずつ盛り上がってきたテンションに水を差すように、リカルドが口を挟んでくる。
「条件が良過ぎる」
「いいことじゃねぇか」
「舐めんな。上手い話にはきっと裏がある。ここまで露骨にウチが優遇されてりゃ、何かあると勘ぐれと言ってるようなもんだ」
こいつはきっと、色んな汚い連中を見てきたんだろうな。
自然と相手の腹を探る癖がついている、可哀想なヤツなのだ。
「あぁ……俺がボインだったらお前を抱きしめてやるのに」
「全力でお断りだ、バカが」
愛に飢えているんだな。だから、あんな性根の悪さが滲み出たような顔になってしまったんだ。
「醜い顔だ」
「ケンカ売ってんのか!? いいから答えろ! 何を企んでやがる!?」
自分に有利であると、途端に不安になるヤツがいる。
だからといって、自分に不利な状況だと不公平だと文句を言う。
こいつはまさにそんなヤツだ。
つまるところ、こいつはヘタレなのだ。
騙されたくない、失敗したくない、恥をかきたくないってことばかり考えているからいつも思い切った決断が出来ない。だから改革が出来ない。だから、ジリ貧になるのだ。
そんなヤツには、メリットよりほんの少し軽めのデメリットを示してやるのがいい。
「なるほど、そんなデメリットがあるのか。だが俺なら上手くやれる」……と、それくらいのくすぐりを入れてやると途端に燃え上がる。
まぁ、見てろ。
「企んでいるのは、ずっと言い続けているが、街門の設置だ。そのために、お前を勝負のフィールドに引き摺り込もうとしている」
こちらが参加を乞う立場だからな、多少はサービスをして「おいしい」と思わせないと食いつかないだろう。
「デミリーは、元から四十二区と四十一区の諍いを回避したいと言ってくれていた。今回、四十区にはかなり甘えてしまうことになるが……そこは経験も度量も俺たちとは年季が違う大物ってことで、胸を貸してもらうつもりだ」
「はっはっはっ! そうまで言われちゃ断れないよなぁ、アンブローズ」
「はははっ、まったくだ。しかもあのオオバ君の口からってのがいいね。彼はめったに人を褒めない男だからねぇ」
豪快に、デカいオッサン二人が笑い合う。
今回の一件はデミリーにとってはあまりうまみのない話なのだ。
デミリーは下位二区を無視してしまえば、大きな損害は出さなくて済む。だが、デミリーは自ら首を突っ込んできた。エステラを救うために。
四十区の領主はバカがつくほどに面倒見のいいお人好しなのだ。
「正直な話、オオバ君のおかげで収益が上がってね。砂糖の件では本当に感謝しているんだ」
「ワシの木こりギルドも、下水のおかげで仕事が増えて、嬉しい悲鳴を上げてるところさ」
だから、投資には前向きだとデミリーは言い、ハビエルもそれを後押ししてくれると言う。
「ただし、そうだな……うむ、四十区が勝利したら、オオバ君を参謀として迎え入れさせてもらおうかな」
「えっ!?」
突然のデミリーの発言に、エステラが声を漏らす。
だが、デミリーは毒気の無い顔で笑い、手をパタパタと振った。
「四十二区から取り上げたりはしないよ。四十区がどうすればもっとよくなるか、再開発案をいくつか出してもらいたいのさ。もっとも、そうなれば数年間に亘り四十区に通いつめてもらうことにはなるけどね」
えらく買い被られたものだ。
四十区の再開発に携わるばかりか、その陣頭指揮をとれなど……四十二区の一般人なら大喜びをする大抜擢だろう。……俺は御免だが。
何が悲しゅうて何年間もあんな筋肉と薄毛の街で……
「おい、アンブローズ。ヤシロを籠絡するなら、巨乳美女をたくさん用意しなきゃならねぇぞ」
「はっはっはっ。もちろん、考慮済みだよ。巨乳な美人秘書を三名ほどつけようじゃないか」
行こうかな、四十区!?
……いやいや。巨乳如きにつられるわけが………………いや、待て……だがしかし……
「……クズが」
「人を勝手に蔑んだ目で見てんじゃねぇよ」
オッサンどもの会話を聞いて、リカルドが俺に侮蔑の視線を向けてくる。
まったくもってお門違いだ、その非難は。
「残念だったね、スチュアート! ダーリンはアタシみたいな適度な巨乳が好きなのさ! 数を揃えりゃあいいってもんじゃないんだよ! ねぇ、ダ~リン?」
会心のウィンクを寄越してくるメドラ。……その誤情報どこで発信されたの?
「……テメェ…………マジか……」
「汚物を見るような目で見てんじゃねぇよ」
酷い濡れ衣だ。べっちゃべちゃで風邪引きそうだぜ。
「エステラさんは、その会話には割り込んでいきませんの?」
「発言権を得る前に勝手に発言しないでくれるかい、イメルダ?」
視線も合わせずエステラがイメルダをバッサリと切り捨てる。
「乳の大きさと人としての価値は比例する……それがヤシロさんの基本スタンスですわ」
「ねぇ、お前ら。いつから『精霊の審判』怖くなくなったの?」
俺が発動させないと思ってんのか? 俺、やる時はやっちゃう男だぜ?
「………………」
「無言でこっち見てんじゃねぇよ、なんか言えや、こら」
リカルドが体を椅子に預け、路傍のブタのフンに群がるコバエでも見るような目で見てきやがる。
そういう冷たい視線は美女以外がやっても相手をイラつかせるだけなんだぜ。殴るぞコノヤロウ。
「そんなわけで……」
そろそろまとめてもいい頃合いだろう。
「こっちはやる気十分なわけだが…………」
真正面に立ち真っ直ぐに目を見つめて言ってやる。
「あとはお前次第だぜ、リカルド。…………どうする?」
独断は出来ないと持ち帰るか……まぁ、それが普通の判断なのだろうが……こいつはそうはしない。
目がギラギラしてやがる。まるで狩人みたいだ。
ここまでお膳立てされて敵に背を向けるのは、狩猟を誇りとするお前らには出来ないよな?
「いいだろう。テメェのくだらねぇ提案に乗ってやる」
あくまで横柄に、リカルドはこの話に乗ってきた。
エステラの負けず嫌いとは質の違う、プライドの高さが見え隠れする確固たる意志の元に。
お前、領主やめたら狩猟ギルドに入れよ。
メドラの影響を受け過ぎてんだと思うぜ。
もっとも、俺を狩ろうとして、俺の罠にまんまとかかっちまったのはお前だけどな。
「三区で大食いを競い合い、最も多く食べた者がいる区が優勝。各区が最強の一人を選出し衆目の元正々堂々勝負をする。勝った区は、負けた区へ一つだけ強制権を発動出来る。――そういうことでいいんだな」
「ルールはこれから俺が提案するものを聞いてもらいたい。気になる点があれば言ってくれていいが、まずは聞いてほしい。それと一つ……一番重要な部分だけ予め訂正させてもらうぜ」
大筋はリカルドの言った通りで構わない。
だが、一ヶ所だけ、大きく違う部分がある。
「選抜する人数は、一人じゃない」
「は?」
俺は一歩前に出て高らかに宣言する。
「大食い大会は、選抜メンバーによる団体戦で行う」
まんまとリカルドをフィールドに引き摺り込めた。今回の会談は成功だと言えるだろう。
さぁ、リカルド、これから馬車馬のように働いてもらうぞ。
俺たちのために、な。
いつもありがとうございます!
ご心配おかけしましたが、更新再開ですっ!
そして、
このページは上書きになりますので更新情報が飛ばないかと思います。
ですので、今日は『前後編』という形で更新させていただきます。
引き続き後編をご笑覧くださいますよう、よろしくお願いいたします。
宮地拓海




