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異世界詐欺師のなんちゃって経営術  作者: 宮地拓海
第一幕

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99話 雪の中の作業

「死ぬかと思いましたわ……」


 教会の前で拾ったイメルダが、陽だまり亭の薪ストーブに当たりながらお汁粉を飲んでいる。

 まぁ、連れてきたわけだ。


 教会へ食料をお裾分けに行ったところ、道にイメルダが倒れていた。そして、微かに埋まっていた。

 聞けばイメルダは、「こんな天気の日は陽だまり亭に行けばきっと面白いことがあるに違いありませんわ!」と、根拠のない確信を持って陽だまり亭に向かう途中だったらしい。

 だが、そこにきての降雪だ。

 ホワイトアウトとまではいかないまでも、視界は悪く、体力も必要以上に浪費させられ、教会のそばまで来たところで力尽きたらしい。


「ホント、デリアが見つけてくれたからよかったが、発見が遅れてたら死んでたぞ」

「その点は大丈夫ですわ」

「何がどう大丈夫なんだよ?」

「ワタクシ、運はいい方ですの」

「遭難しかかって何が幸運だ……」


 揺るぎない自信を浮かべ、イメルダはお汁粉を飲み干す。

 デリアがクマ人族の勘で「何かいる」って言い出してなきゃアウトだったという自覚はないのだろうか。……ないのだろうな。


「美味しかったですわ。ベッコさん、これの食品サンプルをお願いしますね」

「またでござるか!?」

「陽だまり亭で出される料理は、すべて、食品サンプルにしてくださいと、以前お願いしましたでしょう?」

「……では、雪がやみ次第作業にかかるでござる」


 イメルダとベッコの間にはどんな契約がなされているのか。

 見た限り、完全に不平等条約を結ばされてるようなんだがな。


「こちらも、なかなか暖かいですわね」


 薪ストーブに手のひらを向け、イメルダは満足そうに言う。

 教会には暖炉があり、談話室はかなり暖かかった。そこと比較しての発言だろう。


 イメルダを拾った後、凍えるイメルダを教会へ運び込み、レンジでチンする勢いで冷えきったイメルダの体を温めた。暖炉の前に連れて行き、デリアに抱きしめてもらいつつ、その体をガキどもがタオルでこすりまくったのだ。

 一応、男子は全員外に出されていた。


「……デリアさん。ワタクシのあのような姿を見たからといって……な、馴れ馴れしくしないでくださいましね」

「するか、バカ!」


 頬を染め、襟元をキュッと握りつつイメルダが言う。

 とんでもないのに勘違いされちゃったな、デリア。


「ですが、ワタクシと出会えたおかげで布団と薪が手に入ったのですから、感謝してほしいですわ」


 教会で毛布を拝借しようと考えていたのだが、思ったより借りられる数が少なかった。

 数ヶ月前よりロレッタのとこの弟妹が増えたことと、今日から豪雪期が終わるまでの間、寮母たちも教会に寝泊まりするからというのがその要因だ。

 そんなわけで、すっかり当てが外れて困っていたところ、イメルダが「毛布でしたらウチにたくさんありますわよ?」と、申し出てくれたのだ。

 ……ま、そのせいでイメルダというお荷物まで引き取ることになったのだが……背に腹は代えられない。


 その後、俺たちはイメルダの家に行き、食材を降ろして空になったソリに布団を積み込んだ。

 そこで状態のいい薪を発見した俺は、ついでにそれも拝借することにした。


 女子の居候が増えるということは……男連中が食堂で雑魚寝になるということだからだ。

 せめて一晩中火を絶やさないようにしなくては凍死者が出てしまう。


 さすがは木こりギルドというか……薪のストックは呆れるくらいにあり、大量に持ち出しても減ったことに気が付かないほどだ。もちろん承諾は取ったぞ。事後承諾だったけど。


「まぁ、そんなわけで、男はここで寝起きすることになった」

「酷いッスよ! 食堂でなんて!」

「拙者、これで割と敏感肌でござって……!」

「うっせぇ! 嫌なら帰れ!」


 一番の被害者は俺だ。

 なんで俺が自分の部屋を追われなければいけないのか……


 部屋に人を詰め込めば、全員が二階で寝ることは可能だろう。

 だが、こうも女が増えてしまうと、男が同じ階に寝るのはどうだろうと、そう思ったわけだ。

 男は俺とウーマロ、ベッコ、弟たちが三人の計六人。

 まぁ、食堂で寝るにはちょうどいい数だ。部屋でギュウギュウ詰めよりかはな。


「こんなことでしたら、ネフェリーさんやノーマさんもお誘いすればよかったですね」


 無邪気な顔でジネットが言うが……


「やめてくれ。ネフェリーが来ればパーシーが来る。これ以上面倒くさいヤツは増やしたくない」

「まさか。四十区からはお越しになりませんよ。きっと」


 甘い。甘いよジネット。

 お前は変態の底力を過小評価している。

 ヤツなら、来るぞ。こんな雪などものともせずにな。


「そういえば、雪かきどうする?」


 退屈になってきたのか、デリアがそんなことを言い出した。

 この街の住民は、『豪雪期の初日には雪かき』みたいな感覚が染みついているのだろう。

 俺たちも、当初は教会から戻ったら雪かきをしようと話していたのだが。


 窓の外を見ると、先ほどよりも雪が強くなっている。

 こりゃ、雪かきしても無駄だな。


「雪かきしても、すぐにまた積もるだろう? やむまで待とうぜ」


 無駄な労力は払わない。それが俺のスタイルだ。

 だが。


「いやいや。屋根の上の雪降ろしはしないと危ないッスよ」

「そうでござる。雪が降っているなら尚のこと、倒壊の危険があるでござるよ」

「……あ、そうか」


 何も、雪かきは邪魔だからするだけではないのだ。

 つーことは、この大雪の中、外に出て、梯子なりを使って屋根に上って、雪を降ろして、で、邪魔にならない場所に雪を運ばなきゃいけないのか…………


「メンドクセッ!」

「でも、やっておかないと、陽だまり亭が潰れちゃうッスよ!?」

「軟弱な設計をしやがって!」

「雪の重さに耐えられる建物なんてそうそうないッスよ!?」


 降り積もれば何トンにもなるのが雪だ。しょうがないか。


「それって、俺みたいな素人がやっても大丈夫なもんか?」

「……ヤシロは危険。マグダがやる」

「マ、マグダたんがやるくらいなら、オイラがやるッス!」

「「「とーりょうは、わりとおっちょこちょいー! ぼくらがやるー」

「弟がやるくらいなら、あたしがやるです! 姉として!」

「いやいや、ロレッタ氏! ロレッタ氏のようなうら若き乙女には荷が重いでござる。ここは拙者が!」

「変態が屋根に上るとなに仕出かすか分かんねぇからな。あたいがやってやるよ。力仕事なら、あたいの領分だ」

「そんな! お客様にそんな重労働をさせられません。ここは家主のわたしが」

「ジネットちゃんがやるくらいならボクがやるよ! お世話になるわけだし!」

「お嬢様に雪降ろしのような危険な仕事をさせるわけにはまいりません。ここは私が!」


 と、ナタリアが胸を張って発言し、会話は途切れる。

 そして、一同の視線が自然と一点に集まる。

 その先には、薪ストーブのそばに座り、一人優雅にお汁粉の後のお茶を嗜むイメルダの姿があった。


「なっ……なんですの? みなさん、よってたかってワタクシを見つめて……」


 全員からの視線を浴び、イメルダがいつになく狼狽している。

 大方理解はしているのだろうが、ここは親切に教えておいてやるとするか。


「なぁ、イメルダ。『協調性』って言葉、知ってるか?」

「無理だよ、ヤシロ。イメルダにそんな難しい言葉が理解出来るわけないだろ?」

「聞き捨てなりませんわね、エステラさん!?」


 エステラの挑発的な言葉に、イメルダは立ち上がり自慢気に胸を張る。


「ワタクシが本気を出せば、あなたよりも上手に雪を降ろせますのよ!? ワタクシに降ろされた雪も『わぁ~い、イメルダ様に降ろされて幸せだなぁ~』みたいな落ち方をしていきますわ!」


 それは是非見てみたい現象だな。……どんなんだよ。


「そんなの、ボクだって……」

「あなたがやったのでは、『え~、どっちが胸か背中か分からないよぉ……』と落ちていきますわ!」

「確かに!」

「『確かに』じゃないよ、ヤシロ!?」


 なぜいつも俺が怒られるのか……


「よし分かった! そこまで言うのなら勝負をしてあげようじゃないか!」

「望むところですわ!」


 睨み合う二人。

 ……う~ん、これはよくないな……


「とにかく、みんなで協力してさっさと終わらせちまおうぜ」


 そう言って、全員を引き連れ建物の外へ出る。

 雪は強さを増しており、数歩先が見えないほど一面真っ白だった。


「この雪は危ないな。本当に自信のあるヤツだけで屋根に上って、さっさと終わらせよう」

「んじゃ、あたいが行くよ。あたいなら、落ちたって大丈夫だ」

「落ちない人選をしたいんだが……」

「だったらオイラが行くッス! 建築物の構造は知り尽くしてるッスから、落ちないように雪降ろしをする方法も分かるッス」

「「「ぼくらもいくー!」」」

「……じゃあ、マグダも」


 マグダが名乗りを上げたことに、俺は驚いた。


「マグダ、大丈夫か?」

「……平気。マグダが行けば、ウーマロは人間のレベルを超えられる」

「当然ッス! 100%を超えたオイラの力、見せてあげるッス!」


 あぁ……こりゃ早く終わりそうだ。


「んじゃあ、下にいる連中は庭の雪を退けておいてくれ」

「え? 雪かきをするんですか?」


 ジネットが驚いた声を上げる。

 これだけ雪が降っていると、雪かきをしても無駄になる……というのは俺の意見だったのだが。


「雪かきがメインじゃない。かまくらを作るスペースを確保しておいてほしいんだ」

「あぁ、かまくらですか!」


 屋根に積もった大量の雪を降ろすのだ。これを使わない手はない。


 風が吹いても大丈夫なように、かまくらは四個、入り口が内に向くように作る。

 お互いの様子が各かまくらからも見えるような配置だ。


「あとでチーム分けしてかまくら作ろうぜ」

「……かまくらと七輪は最強の組み合わせ」

「では、七輪で焼いて食べられる物を用意しておきますね」


 そんなわけで、役割分担を終え、俺たちは屋根へと上った。

 エステラとイメルダの二人はナタリアに丸投げだ。得意だろ、お嬢様のお相手は。

 ……すげぇ面倒くさそうな顔をされたが……まぁ、頑張れ。こっちだってこの雪の中屋根に上がるんだ。おあいこでいいだろう。


「高っ!?」


 梯子で上った屋根の上は、想像以上に高かった。

 積雪が1メートル以上あるので落ちても死にはしないかもしれんが……風が強くてマジ怖い。

 今度ウーマロに、煙突を屋根の下に這わせ、ストーブの熱を屋根に伝えて雪を溶かす仕掛けでも作ってもらおうかな。


「こうして、ある程度の大きさに切り込みを入れて、下に落とすッス。こっから、こっちに向かって落とせば安全ッス」

「あ、ごめん。聞いてなかった。どのタイミングでウーマロを突き落せばいいって?」

「オイラは落としちゃダメッスよ!? ………………ホントにダメッスよ!?」


 う~っわ、すげぇ『フリ』に聞こえる。うずうず、うずうず……


「おにいちゃん、悪魔の顔やー」


 おぉっと。ハム摩呂に悟られるようでは俺もまだまだだな。


「……早く済ませるべき。寒い」

「そうだな。じゃあ、足場に気を付けて、作業開始!」

「「「おぉー!」」」

「ベッコに命中させると十点だからな」

「「「おぉー!」」」

「聞こえてるでござるよー!」


 ベッコめ……屋根の上の会話まで盗み聞きしているとは……

 雪の量が増えて音が伝わりにくくなったと思ったのに。


 屋根の上は危険なので、作業中はふざけることなく黙々と、慎重に仕事に励んだ。

 雪は多いが、休むことなく動いていたおかげか凍えることはなかった。


 雪降ろしを終え下へ降りると、入り口の前に広いスペースが出来ていた。

 頑張ったなぁ、こいつら。


「見ましたこと? ワタ……ワタクシの均した、この美しい……平面……」

「ボ、ボクが退けた、この快適なスペースを……見てから言ってもらいたいね……」


 敵対心を上手く煽って、こいつらに作業をさせたわけか。……ナタリア、やるな。


「で、かまくらってなんだ?」


 一人だけずば抜けて雪まみれになっているデリアがにこにこ顔で尋ねてくる。

 一番頑張ったの、絶対こいつじゃん。

 そして疲れ知らず。……今度、なんか『頑張ったで賞』的なものをやるよ。


「雪で出来た小屋みたいなものだ」


 俺はかまくらについての説明を始める。

 基本的な作り方は、雪を山のように盛り上げて、その後、中を削り空洞を作る。大きさは……2メートルくらいの物にするかな。雪も大量にあるし。


「なんだ、簡単だな!」


 デリアは余裕の笑みを浮かべる。


「でっかい雪玉を作って穴を開けりゃいいんだろ?」


 ふっふっふっ、そう思うだろ? だがな、雪玉を大きくすると、転がすだけでもかなりの力が必要になる。

 楽な作り方は、1メートル程度の中サイズの雪玉を三角形に並べて、その上にもう一つ雪玉を載せる。このピラミッド型の雪の塊に、雪を被せ、穴を掘っては上から被せ……と繰り返していくのだ。昔学校でやったことがある。子供でも、そこそこの物が出来る作り方だ。


「んじゃ、チームに分かれて作業開始だ!」


 チームは、俺、マグダ、ロレッタの陽だまり亭チームと、デリアと弟たちのチートパワーチーム、イメルダとベッコとウーマロの芸術家肌チーム。エステラとナタリアの領主チームとなった。


 まずは各々で雪玉を作り三角に配置する。入り口の向きを考慮して、掘る量を減らせるように雪玉を置く。


「絶対優勝して、豪華賞品をゲットするです!」


 どこで吹き込まれた情報なのか知らんが、ロレッタがやたらと意気込んでいる。

 賞品ってなんだよ……


「……一番いい出来のところには、店長がいい物をくれる」

「パンツか!?」

「……それを欲しがるのはヤシロだけ」

「じゃあおっぱいか!?」

「……以下略」


 なんだよ!? ジネットがくれるいい物って……もしかして、エロくない物なのか?

 まぁいい。勝てば分かることだ。


 どうせ、他のチームは大したものが出来ない。経験と知識に差があり過ぎるからな。

 俺が優勝間違いなしだ。


 ……つか、他のチームは完成するかどうかも怪しいね。


「どっせい!」


 腹に響く重低音に思わずそちらを向くと、デリアがあり得ないような巨大な雪玉を作っていた。直径3メートル級の、バカでかい雪玉だ。


「あとは穴を開ければ終わりだな」

「「「それはお任せー!」」」

「ははっ。なんだ、簡単だな」


 ……あいつら、パワーがマジでチート過ぎんだろ!?


「ではお嬢様、我が一族に代々伝わる秘伝の雪かき術、とくとご覧に入れましょう! 秘技……『雪集め』!」


 体が分裂して見えるような速度で移動し、周りからどんどん雪を集めていくナタリア。

 つか、雪かき術なのに雪集めってなんだよ?


「ベッコさん、ウーマロさん。やっておしまいなさい」

「……まぁ、そうなるッスよね」

「拙者も、分かっていたでござる」


 あの尊大な態度の金髪お嬢様は戦闘力が五十三万くらいあるのか?


「あ~、イメルダがデザインしたかまくらなら、そりゃあ綺麗な出来栄えなんだろうなぁ」

「……わぁ、それは楽しみ」

「楽しみです!」

「あ、妨害やめてッス!」

「煽るのは勘弁願いたいでござる!」


 俺たちの言葉に、イメルダの『ワタクシ、期待されていますわ』魂に火が点いた。


「よろしいですわ! ワタクシによる、ワタクシのための、素晴らしいかまくらを作ってご覧に入れますわ!」


 よしよし。お前もちゃんと作れ。

 ウーマロとベッコばかりにやらせるんじゃない。


「手を出さないでいてくれた方がきっと楽だったッス」

「同感でござる」


 まぁ、肩を落とした二人には、ほんのちょっとだけ同情をしてやらんでもないけどな。


 そんなこんなで数時間。

 俺は、獣人族パワーで大活躍のマグダと、普通に手伝ってくれるロレッタの協力を得て、日没前になんとかかまくらを完成させた。

 一番に完成していたデリアと弟たちは、また分散して他のチームを手伝っている。

 デリアはイメルダのチームに駆り出され、弟たちはエステラのチームに助っ人に向かっていた。……なぜ、ウチには来ない。


 そんな過程を経て、全部のかまくらが完成した。

 みんなどれもなかなかにいい出来だ。

 ウチのはオーソドックスなかまくらで、デリアのところは球体をしている。元が雪玉だからな。そしてエステラのところは入り口がハートの形をしたオシャレな感じで、イメルダのところは、なんかもう、凄かった。もうちょっとした小屋じゃん、というような外観なのだ。


 各々のかまくらに七輪を設置する。

 念のため、空気がこもらないように換気用の小窓を開けておく。これで、中で何かを焼いても煙が充満することはないだろう。


「みなさん。お餅とお魚です」


 ジネットが食材の載った盆を持って出てくる。


「わぁ、みなさんどれも綺麗ですね!」


 かまくらを見たジネットが声を漏らす。


「で、どれが優勝だ?」

「優勝?」

「優勝者にはいい物をくれるんだろ?」


 何か、とてもエロいものを。


「あぁ、そうでした。わたし、すっかり賞品の説明をしていませんでしたね」


 食材の載った盆をマグダに預け、ジネットは再び食堂へと入っていく。

 そして、出てきたジネットの腕に抱かれていたのは…………


「賞品の、ヤシロさん蝋像です!」

「まだあったのか、それ!?」

「お祭りの時に、ベッコさんが取り扱っておられた蝋像を譲り受けたんです!」

「折角みんなで作ったかまくらだ。優劣を競うなんて真似はやめよう。よって賞品は折半。四つのかまくらの中心で明かりになってもらう」


 有無を言わさず、俺はその蝋像を向かい合うかまくらの中心部に立て、頭に火を点けた。


「きゃあ!? 蝋像が!?」


 溶けてしまえ、こんな忌まわしい像。


 夜になり、雪はほぼやんでいた。

 少しくらいかまくらで遊んだって、風邪を引いたりはしないだろう。


「この中で飯でも食おうぜ」

「「「「賛成!」」」」


 どのかまくらに入るかは自由とし、食材は平等に取れるように蝋像の足元に置かれた。

 ……供養されてるみたいで不愉快だけどな。


「……お餅……うまうま」


 マグダが頬張っているのは、ほとんど焼きおにぎりと呼べる代物だ。

 お餅ってのを知らないこいつらには、もち米を蒸して形を整えたものが『お餅』として認識されてしまうのだろうか。

 それは由々しき事態だ。いつかちゃんとしたものを食わせてやりたいものだ。


 そんなことをボーっと考え、俺は焼けた魚を頬張る。



 こんなに遊び呆けた夏と冬は久しぶりだなぁ。

 ……なんて。

 そんなことを考えながら、今度、海漁ギルドのマーシャにハマグリをおねだりしようと、心に決めたのだった。







いつもありがとうございます。



感想欄などでたま~に、

前作のタイトルから「ダークドラゴンの人」なんていう呼ばれ方をすることがあります。

認識していただけていると思うと非常にありがたくも、少々気恥ずかしい思いです。


…………で、ふと思ったんですが……


今作は、ありがたいことに前作より多くの方にご覧いただいており、

代表作は、と問われれば、おそらくこちらの名前が挙がるのではないかという現状……


私、今後……


「詐欺師の人」


って呼ばれるんでしょうか?


いや、ありがたいような……でも、う~ん…………やっぱりありがたいことですね。はい、喜びます。

町中で見かけた際は、「お~い、詐欺師~!」とお声掛けください。全力で逃げますので。



街角の幼女「ままぁ。さっきからすれ違う幼女をぎらついた目で舐めるように見つめているあのオジサンだ~れ?」

美人若ママ「あぁ、あの人はね、詐欺師の人よ」

街角の幼女「詐欺師の人、幼女好きなの~?」

美人若ママ「そうよ。詐欺師の人は、幼女と大きなおっぱいが好きなのよ~」



……なんでしょう、このご褒美……これもひとえに皆様の応援のおかげです。

ですので、皆様にも責任の一端があると、わたくし、このように解釈しておる次第であります。




――四十二区、大通り


どこかのガキんちょ「あ~、陽だまり亭のお姉ちゃんだぁ~!」

どこかのお子様「ほんとうだぁ~!」

愛くるしい幼女「ひだまりていのおね~ちゃんだねぇ~」

ジネット「ぅええ!?」

ヤシロ「なんだよ?」

ジネット「あ、……いえ。わたし、あんな風に呼ばれるのが初めてだったもので……驚いてしまいました」

ヤシロ「そうだな。いつもは『爆乳のお姉ちゃん』だもんな」

ジネット「そんな呼ばれ方はしませんもん!」

ヤシロ「それだけ陽だまり亭が浸透してきたってことなんじゃないか?」

ジネット「ありがたいことですね」

ヤシロ「そのうち、マグダたちも言われるようになるのかな? 『陽だまり亭のちっちゃい娘』とか」

ジネット「うふふ……そうかもしれませんね」

ヤシロ「ロレッタだったら……『普通の子』」

ロレッタ「せめて『陽だまり亭の』って付けてほしいです!」

ヤシロ「なんでお前がここにいるんだよ? 店はどうした?」

ロレッタ「マグダっちょに言われて伝言に来たです。『買い出しのついでにベッコから蜂蜜もらってきてちょ』だそうです」

ヤシロ「……それ、一言一句あってんの?」

ロレッタ「もちろんです! 会話記録カンバセーション・レコードに書いてあるです」

ヤシロ「……『もらってきてちょ』って」

どこかのガキんちょ「あ、普通の人だ!」

どこかのお子様「ほんとだ、普通の人だ!」

愛くるしい幼女「え、わたし知らな~い」

ロレッタ「こらぁ! お子様ども~! あたし結構特徴的ですよ~!」

どこかのガキんちょ「わぁ! 普通の人がこっち来た!」

どこかのお子様「逃げろ~!」

愛くるしい幼女「普通がウツる~!」

ロレッタ「ウツりませんですし、ウツたって別にいいじゃないですかー! 普通、いいじゃないですかー!」(走り去る)

ヤシロ「まったく。他人のイメージなんぞ、こっちがどうこう出来るもんじゃないんだ。好きに言わせておけばいいものを」

ジネット「そうですね。呼んでいただけるだけでも、凄いことですよね」

清楚な町娘「あ、すっぽんぽんオジサンだわ」

ヤシロ「それ、まだ有効なの!? マグダが獣化した時の話だよね!?」

清楚な町娘「積極的に、その名前を流布している人がいるから……」

ヤシロ「え、それどこの薬剤師?」

清楚な町娘「あっちの、いつも真っ黒な服を着ている、変な言葉使いの」

ヤシロ「すまんジネット。買い出しのついでにレジーナのところに寄ってもいいかな?」

ジネット「あの……ほどほどに、してあげてください……ね?」



――やはり、他人からどう見られているかって気になりますよね。


私も、立派なジェントルマンだと思われるように、街角で見かけたパイスラはチラ見程度に留めておきます。心で泣きながら! ……ガン見したいよ~…………



次回もよろしくお願いいたします。



宮地拓海

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