98話 大雪の日の来訪者
「…………一着」
「ズ、ズルいです! 今、スパートの前に雪を投げてきたです!」
「……かけっこは、食うか食われるか」
「そんな命がけだったですか!?」
「まけたー」
「くわれるー」
「敗者は肉となるのみやー」
雪の上を、マグダとロレッタが駆けていき、その後ろを弟たちが追いかけていく。
……元気だなぁ、こいつらは。
「よかったですね。マグダさんが元気になって」
「まぁな」
教会で飯を食い、鍋いっぱいのお汁粉をみんなで飲み干して、俺たちは陽だまり亭へと帰ってきた。
マグダはすっかり元気を取り戻し、寒さに震えることもなくなっていた。
やはり、特別寒さに弱いということではなかったようだ。
陽だまり亭の前でマグダが勝者のガッツポーズを決めている。
なんとなく見つめていると、ふと視線が合う。
「…………ぉふ」
視線が合うや否や、サッと逸らされてしまった。
……う~ん。やっぱり避けられてるなぁ。
飯の後から、なんとなくマグダが俺を避けるような素振りを見せ始めた。
飯の時は普通だったのにな。時間が経って冷静になった途端、急に照れくさくなり始めたのだろう。
「ほわぁぁああっ!?」
庭に向かったロレッタが奇声を上げる。
なんだ?
何かあったのか?
「お、おにっ、おに、おにーちゃ、おにーちゃぁぁあん!」
バタバタと、四足歩行で戻ってくるロレッタ。腰でも抜かしているのか?
「ひ、ひひひ、人が倒れてるですっ!」
「大変です!」
ロレッタの言葉にジネットが駆け出す。……そして雪に足を取られて盛大に転ぶ。
「…………痛いです……」
かんじきでダッシュとかするから……かんじきは真上に足を上げて、真下に降ろすように歩かなきゃそうなるんだよ。
転ぶジネットを助け起こし、俺は陽だまり亭の庭へと回り込む。
店の入り口。
ドアの前に一人の男が倒れていた。
ドカッと積もった雪に体の大半が埋まっている。
その男の周りには、男のものと思われる足跡と、かんじきを履いた者の足跡だけが残されていた。
「犯人は、かんじきを履いていたのかもしれんな……」
「それ、あたしの足跡です!」
「ロレッタ…………お前……」
「犯人じゃないですよ!? さっき見に行った時の足跡です!」
「ヤシロさん! 見てください、その方の指先……何か文字が書かれています」
ジネットの言う通り、雪に埋まった男の手元に文字らしきものが書かれていた。
ダイイングメッセージというヤツだ。被害者が最後の力を振り絞って犯人の手掛かりを書き残すというアレだ。
そして、そこに書かれていた文字は……『マグダたん』
「…………マグダ」
「……濡れ衣」
マグダは犯行を否認する。だが、ダイイングメッセージはハッキリとマグダが犯人であると告げている……
「けど、マグダっちょはずっとあたしたちと一緒にいたです」
「くっ、そうか……マグダには完璧なアリバイがあるのか……」
まさか、俺自身が容疑者のアリバイを立証することになるとは…………いや、しかし、なんらかのトリックを使って………………そうかっ!
「分かったぞ!」
俺は拳を握り、そこにいる者すべてに向かって断言する。
「犯人は、この中にいる!」
ざわっ……と、空気が波立つ。
全員の注目が集まる中、俺は脳内で組み立てた完璧な推理を語り出す。
「犯人は、なんらかの方法で被害者をこの場所に呼び出し、なんらかの方法で教会から一瞬でこの場所へ来て、なんらかの方法で殺害、そして、なんらかの方法で何食わぬ顔をして教会に戻ったのだっ!」
「何一つ分かってないですよ、お兄ちゃん!?」
「えぇい、うるさい! トリックなんてのはそんなもんだ!」
不可能を可能にするのがミステリーだ!
「つまり。犯人は、マグダ…………は、今日ちょっと頑張ったから……ロレッタだ!」
「ちょっと待つですっ!? そんな決め方、あんまりです!」
「あ、あの、ヤシロさん……その前に、倒れている方を助けてあげませんと……」
「おぉ、そうだな。一理あるぞ」
「一理、ですか……」
困り顔のジネットに言われ、俺は雪に埋もれた男を助け起こす。
そいつは、……大方の予想通り……ウーマロだった。
「うん。事故だな」
被害者がウーマロなら、わざわざ推理とかする必要はない。不審死とかでも全然不思議じゃない。むしろ「あぁ、いつかそうなるだろうなって思ってました」ってインタビューで答えちゃうレベルだ。
「おい、ウーマロ」
寒さでパシパシに凍りついたウーマロの頬を軽く叩く。
「……ん…………んんッス……」
あ、そこにも「ッス」付くんだ。
「……あれ、ヤシロ…………さん?」
ウーマロが瞼を開ける。
心なしか頬がコケているように見える。
俺はウーマロの瞳を覗き込みながら、はっきりとした口調で言ってやる。
「店の前に不法投棄してんじゃねぇよ」
「オイラ、ゴミじゃないッスよ!?」
うん。元気が出たようで何よりだ。
「……ウーマロ」
「あ……マグダたん…………会いたかっ……」
「……危うく犯人にされるところだった」
「あぁっ!? なんだかマグダたんが怒ってるッス!?」
「……ぷんぷん」
「怒ってるマグダたんも、マジ天使ッスゥゥウ!」
はは、連れてってもらえばいいのに。天使に。パトラッシュくらい隣に置いといてやるぞ。パウラでいいかな、代用品? あいつ、イヌ人族だし。
「なんでマグダっちょの名前なんか書いてたです?」
「え? …………あれ、オイラなんでこんな文字を……?」
無意識で書いたらしい。
極寒の中、薄れゆく意識の中で最後の力を振り絞って書いたのが『マグダたん』…………うん、手遅れだな、こいつは。
「よく覚えてないッスけど、死ぬ時はマグダたんのそばがいいと思ったんッスかね」
「文字でもいいのかよ……」
こいつのこの感情は恋愛じゃなくて信仰だな、もはや。
「とにかく、中に入ってください。すぐに温かいスープをお出ししますから」
「あ……すいませんッス」
ジネットがいそいそと食堂へ入っていく。
素通りするような素振りは、ウーマロが緊張して下手に体力を削られないようにだろう。
「すみません。まだストーブを出していないもので……寒いようでしたら毛布を持ってまいりますが……」
「あ、お気遣いなくッス」
「それが、マグダの毛布でもか?」
「………………ごくりッス」
「店長さん! ここに変態が二人もいるです!」
「あぁ、違うッス、違うッス! オイラだけはそうじゃないッス!」
おいおい。俺は満場一致で変態認定されてるってのか? はは、雪の中に放り出すぞ、コノヤロウ。
「……七輪」
マグダが厨房から七輪とニワトリを持ってくる。……食うわけではなく、ニワトリも温めてやろうということだ。こいつはずっと寒い食堂で留守番をしていたわけだからな。今はワラに包まって丸くなっている。
「なんッスか、これ? しちりん?」
「……マグダのお気に入り」
「素晴らしい物ッス! オイラも好きッス!」
単純でいいなぁ、ウーマロは。
「おい弟たち」
「「「あいあいさー!」」」
「まだ何も言ってねぇだろ!」
「「「だいたいのことはきくー!」」」
「じゃあ、ウーマロに蹴りを入れてこい」
「「「あいあいさー!」」」
「そういう悪いことは聞いちゃダメッスよ! 再教育するッスよ!?」
「「「棟梁には逆らえないー!」」」
なるほどな。師弟関係なんだっけな、こいつらは。
じゃ、その師匠を助けるために精々頑張ってもらおう。
「ストーブを組み立てるから手伝え」
「「「あいあいさー!」」」
「ストーブがあれば、みんな温かいし、ウーマロからは金が取れる」
「有料なんッスか!?」
七輪の炭に火が点き、ほんの少しずつ炭が赤みを増していく。
もうちょっとそうして待ってろ。
俺は弟たちを引き連れてストーブの設置に取りかかる。
マグダはウーマロと一緒に七輪に当たり、ロレッタはジネットの手伝いだ。
「やっぱ来たな。『客』」
「そうですね。うふふ」
厨房を抜ける時、ジネットに声をかけるとおかしそうに笑っていた。
こんな雪の日でも来るんだな、ウーマロは。まぁ、来ると思ってたけどな。
約二十分ほどかけてストーブを設置する。煙突はストーブの中にしまわれていた。三つに分けられた鉄製の筒を繋げて、壁の穴へと固定する。
リフォームの際、以前と同じ場所に穴をあけてくれていたようで、煙突の長さはピッタリだった。さすがウーマロだ。
「薪が燃えるまで、まだ少し時間がかかるかもしれませんが」
ストーブの設置が嬉しかったのか、ジネットが厨房から出てきてその様子を見守っていた。心なしかわくわくしているように見える。
体力の有り余っているロレッタに薪を持ってきてもらい、ストーブに火を入れる。
…………うん。時間かかりそうだな。
「その間、これを飲んで温まっておいてください」
そう言ってジネットが持ってきたのはお汁粉だった。
陽だまり亭でも出すことになるだろうと、少し多めに下ごしらえしておいてよかった。
ウーマロから離れたテーブルにお汁粉を置く。ストーブに近い席だ。
「あぁ……助かるッス……ありがとうッス…………」
ウーマロはのろのろと立ち上がりテーブルへと移動する。
そのうち温かくなってくるだろう。
「あ……」
窓を見て、ジネットが声を漏らす。
つられるように視線を向けると、雪が降り始めていた。
教会へ行っている間は降ってなかったのだが。結構な降雪量だ。
「今年は本当に雪の多い豪雪期になるかもしれませんね」
ジネットが呟くように言い、ウーマロがそれに賛同する。
「ッスね。昼間に降るなんて珍しいッス」
どうやら、豪雪期の雪は夜間に降るのが一般的らしい。
また積もりそうだな……
「もしかしたら、明日から教会へは行けなくなるかもしれないですね」
「そうなのか?」
「はい。雪が多くなると方向感覚がなくなって、通い慣れた道でも遭難してしまうことがあるんです」
ホワイトアウトというヤツだ。
吹雪のように前が見えなくなる雪に見舞われたりすると世界が真っ白に見えてしまう。降雪がなくとも光の乱反射によって、積もった雪と雲の境目がなくなるなどの錯覚を起こすのだ。高低、遠近の認識が出来なくなり、雪に慣れた人でも遭難してしまうことがあるのだとか……
「日の高いうちにもう一度教会へ行って、食糧をおすそ分けしておいた方がいいかもしれませんね」
「教会にも蓄えはあるんだろ?」
「もちろんです。けど、何かをしたいという……わたしのわがままです」
寄付をするのは自分のわがままなのだと、ジネットは言う。
お節介だなどとは、誰も思わないのだろうが。
「あ、じゃあ、オイラ手伝うッス! このスープのお礼も兼ねて」
お汁粉が気に入ったのか、ウーマロが勢いよく手を上げる。
つか、店先で遭難しかかってたヤツが何を偉そうに……
しょうがないから俺も付き合ってやるか。
「マグダたちは留守番しててくれな。ストーブを消したくないから」
「…………」
マグダがジッと俺を見つめてくる。
……そういう意味じゃねぇよ。
「ここで俺たちの帰りを待っててくれ」
ケモ耳をもふもふとしてやると、目を細め「むふー」と息を漏らす。
「……そういうことなら」
なんとか納得してくれたようだ。
しかし、またあの雪道を行くのか…………ため息が出るね。
「とにかく、もうしばらくは雪の状態を見ましょう。やんでくれればいいのですが」
雪が降っている間は様子見ということになった。
静かに落ちてくる雪は、美しくも……どこか不気味に感じられた。
「ま、のんびりしようぜ。さすがに、こんな雪の中やって来る頭の悪い客もいないだろう」
「……オイラ、今サラッとディスられたッスかね?」
まぁ、こんな雪の中やって来るのは、マグダ中毒のウーマロくらいだ。
他に、そうまでしてここに来たいヤツなんか……
「ご、ごめんくださいっ!」
「……さ、さむい……」
…………いたよ。
陽だまり亭のドアを開け、二人の美女がなだれ込んでくる。
真っ黒いメイドドレスを雪で真っ白にしたナタリアと、そんなナタリアにおんぶされるような格好のエステラだ。
「ど、どなたか、お嬢様に温かい物を!」
「ちっぱいにも人権はあるぞー」
「……需要はきっとある」
「女は愛嬌です! 胸が無くてもドンマイです!」
「いえ、みなさん。温かい言葉ではなくてですね……!」
「ちょっと待って、ナタリア……今のは温かい言葉ですらないから……」
ガタガタと震え、肩で息をしながらナタリアとエステラが最後の力でツッコミを入れてくる。
こいつらにどこにそんなパワーが……そうかっ! 生命力を燃やしてツッコミをしているのか!?
なんて、バカなことをやっている間に、ジネットが二人分のお汁粉を持ってやって来た。
「はい。温まりますよ」
「ジネットちゃん……君だけだよ、優しいのは」
エステラがナタリアの背から降り、ジネットの腰に抱きつく。ストーブのそばにお汁粉を置いていたジネットは、抱きついてくるエステラの頭をぽんぽんと撫でた。
立ち上がったナタリアが、ジネットのそばへ行き、慇懃に頭を下げる。
「ありがとうございます。私のためにこのようなスープを二杯も……」
「一個はボクのっ!」
こいつら、またなんかいさかい起こしてきたな……やたらと雪だらけだし……雪かきをするしないで揉めたりしたんじゃないだろうか。
ウーマロが席を退き、徐々に温まり始めたストーブのそばにエステラとナタリアが座る。
「なんでこんな雪の中来たんだよ? 家で大人しく仕事でもしてろよ」
「今、ボクのウチ誰もいないんだ……豪雪期を前に父も母も避難してしまうし、その他のみんなも里帰りしちゃって……」
「計画性無しかっ!?」
何してんだ、こいつら?
なんで全員一斉に休ませてんだよ? 何人かは置いとけよ。
「でしたら、お食事とか大変じゃないですか?」
「はい。大変です」
「……ナタリア。誰のせいだと思ってる?」
真顔で答えるナタリアを、エステラがジト目で見つめている。
なるほど。給仕長のナタリアが給仕たちに休暇を与えてしまったがために起こったトラブルなんだな。……分かりやすいな、お前んとこは。
「でしたら、豪雪期の間ウチにいませんか? 快適な場所とは言えませんが」
「本当? 助かるよ……ごめんね、ジネットちゃん」
「ご厚意、感謝いたします」
なんだか、居候が増えてしまった。
まぁ、一部屋あいてるしな。
「「「僕らもここにいるー!」」」
「あ、あたしもいたいです!」
弟とロレッタが言う。
「ロレッタがイタいのは知ってるが……」
「そういうことじゃないですよ!?」
「ニュータウン程度なら帰れるだろう? と、暗にウーマロにも言っておく」
「……なんか、そんな空気は察したッス」
ここにいたいという気持ちも分からんではないが、部屋がさほどあるわけではない。
エステラたちはともかく、ロレッタと弟まで抱え込むわけには……
ドンドンドンッ!
突然、陽だまり亭のドアが乱打され、その場にいた者が全員「びくっ!?」と体を震わせた。
「な、なんだ……」
「お客さん……でしょうか?」
「待て、ジネット!」
ドアを開けに行こうとするジネットを呼び止める。
「何がいるか分からん……ここは何が起きてもいいように……ウーマロ、出てくれ」
「いい加減、泣くッスよ?」
などと言いながらも、ウーマロはジネットに代わりドアを開けてくれた。
ドアが開くと同時に寒風が舞い込んでくる。
そんな中、氷像のように突っ立っていたのは…………クマっ!?
「あ…………あまいもの………………」
デリアだった。
なんか、大泣きでもしたのか、目や鼻の周り……いやもはや、顔面全体に氷が張っている。
「き、昨日…………遊び過ぎて…………甘いもの、買い忘れて…………グズッ……夜、目が覚めたら……眠れなくて………………ヒック……」
デカい体を丸めて、少女のようにしゃくりあげながら号泣している。
とりあえず、ストーブの前に連れて行く。
「デリアさん。甘いお汁粉です。どうぞ」
「んはっ!? いい匂い! 食べていいのか!?」
「はい。熱いですので、気を付けてくださいね」
「分かった! いただきます! あっつい!?」
……何も分かってねぇじゃねぇか。
デリアの話を聞くと、川遊びが楽しみ過ぎて、豪雪期の準備のことをすっかり忘れていたらしい。当然、甘いものを買い溜めておくのも忘れたようで、そのことに気が付いた時にはもう雪が積もっていた、と。
いるんだなぁ、どこの世界にもこういう計画性の無い娘……
「なぁ! 豪雪期の間、ここに置いてくれないか?」
「はぁ!?」
「なんだってする! 部屋だってヤシロと同じ部屋でいいから!」
いやいや。俺と同じ部屋はダメだろうよ。
で、そんな状況で「なんだってする」は危険過ぎるっつの。
「いや、さすがにそれは……」
「甘いものがないんだよぉぉうう…………」
デリアの瞳から大粒の涙がボロボロと零れ落ちていく。
捨て犬に見つめられている気分だ。……すげぇデカいけど……
「ヤシロさん。いいじゃないですか。お部屋なら、わたしと一緒でもいいですし。デリアさんさえよろしければ」
「いいのか!? さすが店長! 心と乳がデカい!」
「ち、乳は関係ないですよ!?」
ジネットに抱きつき尻尾をぴこぴこさせるデリア。
「……で、結局何人泊まることになるんだよ?」
ため息交じりに尋ねると、八人の手が上がっていた。
……って、こら。
「ウーマロ。お前も泊まるつもりか?」
「だ、だって、どうせ三食食べに来るつもりッスから……往復はちょっとつらいッス……」
……野郎を泊めるとなれば、俺の部屋確定ってわけか……やれやれ。
「お前だけ別料金な」
「なんでッスか!? ……いや、それで泊めてもらえるなら…………いいかもッスね。ヤシロさんなら平気で雪の中放り出しそうッスし……」
こいつも、虐げられキャラが板についてきたな。「それはそれであり」って判断を下してやがる。
まったく。ジネットのお人好しにもほとほと困ったものだ。結局、希望者全員を陽だまり亭に泊めるつもりなんだからな……
えっと、エステラとナタリア、ロレッタに弟が三人、それからデリアとウーマロにベッコか…………
「って! お前はいつの間に紛れ込んできた!?」
「拙者、恥ずかしながら冬ごもりの準備を怠ってしまった故……何卒寛大な処置を……」
しれっと混ざって図々しいことを抜かしやがる。
これで居候が九人か。
空き部屋にエステラとナタリア、ジネットの部屋にデリア、マグダの部屋にロレッタと弟たちも放り込んでしまうか。もしくはマグダの部屋をロレッタ姉弟に提供し、マグダはジネットの部屋へ……で、野郎は結局俺の部屋か…………あぁ、煩わしい。
「布団の数が足りませんね……二人で一つをシェアしてもらうことになるかもしれませんが、大丈夫でしょうか?」
「大丈夫だ。ウーマロとベッコは布団など必要としない」
「するッスよ!?」
「この寒さの中布団なしでは凍えてしまうでござる!」
「人肌で温め合え!」
「男同士は嫌ッス!」
「拙者も勘弁でござる!」
なんてわがままな!?
なんとか布団を都合してこなけりゃいけないかもな……
「教会に余っている毛布があるかもしれませんね」
「そうだな。食料と引き換えに借りてこよう」
「んじゃ、あたいも手伝うよ。世話になりっぱなしじゃ悪いからな」
「おぉ、デリア。お前は頼もしいな」
「あれ……オイラもさっき同じこと言ったんッスけど?」
窓の外では雪が降っている。少し弱くなってきているか。
「行くなら早い方がいいか?」
「そうですね……やみそうにもありませんし……」
「この雪は、昼過ぎには強まりますよ」
ナタリアが自信たっぷりに言う。
「ナタリアの天気予測は割と当たるんだ。一族に伝わる観測法みたいなのがあるらしいんだよ。ボクも詳しくは知らないけれど」
「一族の秘密です。ですが、的中率には自信があります」
「ってことは、行くなら今、か」
「では、準備をしてきますね」
さっき帰ってきたばかりだが、まぁ、もう一往復くらいなら行けるだろう。
数日分の食料を寄付しておこう。さすがのベルティーナも、子供を飢えさせてまでドカ食いはしないだろうが……まぁ、腹は膨れた方がいいからな。
ジネットが厨房へと向かい、食糧庫から食材を運んでくる。
デリアがそれを手伝い、俺とウーマロは食材を店の外へと運び出す。ソリへと積み込むためだ。
そのソリを見たウーマロがこんなことを言い出した。
「このソリっていうヤツ、足の部分をもうちょっと改造すれば安定性が増すッスよ?」
「すぐ出来るか?」
「五分もあれば余裕ッス」
「よし、やってくれ」
朝食だけを運んだ時とは載積する量が違う。
頑丈になるならしておいた方がいいだろう。
と、そこへ――
「おいコラ、ヤシロ!」
見知ったワニがやって来た。
モーマットが、背負い籠に野菜をいっぱいに積んでやって来たのだ。
「お前だろ、ウチの畑に変な文字書いたのは!?」
「お前は、すぐそうやって人を疑う……」
「違うんッスか?」
「いや、違わないが?」
「大当たりじゃないッスか!?」
当たり外れは今はどうでもいいんだ。
俺は、こいつがすぐに人を疑うという点について話をしているわけであって……
「ったく。ほれ、これをジネットちゃんに渡しておいてくれ」
そう言って、カゴいっぱいの野菜を雪の上に降ろす。
「いいのか?」
「あぁ。ウチの分は十分過ぎるほど確保してある。陽だまり亭には、こんな時でも客が来そうだからな……って、やっぱ来てたか」
モーマットが店内を覗いて苦笑を浮かべる。
「足しにしてくれ」
「悪いな」
「いいってことよ。こっちは、お前らのおかげで生活が安定したんだ。これくらいはお安い御用さ」
「そうか、んじゃ遠慮なく」
俺はモーマットの持ってきた野菜を受け取り、モーマットにきちんと向かい合って笑顔を向ける。
「おかわり!」
「遠慮なさ過ぎんぞ、お前!?」
タダでもらえるもんはもらっておきたい! それが、何をしても一切心が痛まない相手なら尚更!
「ん? つか、こりゃなんだ?」
「ソリだ」
「ほ~……雪の上を、荷物を載せて移動するためのもんか……」
「欲しいか?」
「いや、そりゃ欲しいけどよ……」
材料はまだあったかな?
…………う~ん……古い樽とか木箱を利用すればいけるか…………よし。
「雪の上を歩きやすくするかんじきとこのソリをセットでくれてやる。だから野菜を寄越せ!」
「おっ!? いいのか!? ……で、かんじきってなんだ?」
「弟たち!」
「「「はーい!」」」
俺の声を合図に、弟たちが飛び出してくる。足に装着したかんじきで、雪の上を器用に歩き回る。
「おぉっ!? 足が沈んでねぇ!? なんだあれ!?」
「いいもんだろ?」
「くれ! 野菜、大量に持ってくるから!」
よしよし、これで居候どもの飯は賄えるだろう。
「つーわけでウーマロ。よろしく」
「作り方知らないッスよ!?」
「そこは、弟たちが教えてくれる」
「へ? お前ら知ってるんッスか?」
「もちのろんー!」
「蓄積された知識ー!」
「ベテランの域やー!」
「ほんじゃ、作り方を教えるッス」
「それが物を頼む態度かー!」
「図が高いぞ棟梁ー!」
「下っ端大工の下剋上やー!」
「……お前ら、いい度胸ッスね…………」
尊大な弟たちにウーマロが青筋を立てる。
まぁ、仲良くやってくれ。
「準備出来たか?」
デリアがひょっこりと顔を出す。
「なんだよ、全然終わってねぇじゃねぇか」
「ソリを補強してんだよ。ウーマロ、あとどれくらいだ?」
「あ、もう出来たッス。これで、かなり頑丈になったッスよ」
補強されたソリに食材を積んでいるところで、ジネットが表に出てくる。
モーマットを見つけ挨拶をし、これまでの話を聞いてソリと食材の交換を了承する。むしろ歓迎していた。
というわけで、結局のところ、教会へ向かうのは俺、ジネット、そしてデリアということになった。
まぁ、行って帰ってくるだけだから問題ないだろう。
「じゃあ、行ってくるな」
「……気を付けて」
「毛布よろしくです!」
マグダたちに見送られ、俺たちは出発した。
……まさか、道の途中であんなものを拾うなんて、思いもしないで…………
ま、もったいぶるほどのことでもないか。
拾ったのは、木こりギルドのお姫様、イメルダだった。
いつもありがとうございます。
すっかり丸くなり、まるでみんなのお父さんのようになってしまった異世界詐欺師・オオバヤシロ。
「ちょっとまったりし過ぎかな」と思われている方、きっといらっしゃると思います。
以前にも言いましたように、
この雪がなくなった頃、少し状況が変わり始めます。
今はその前の「まったり」期間となりますので、もうしばらくこんな感じでお遊び回が続きます。
……というか、豪雪期に入ってまだ半日くらいしか経ってないんですよね。
早朝、教会へ行く、帰ってくる、で三話も使っちゃいました。てへっ☆
さすがにこれを十日間分細かくはやりませんが、あともうしばらくは雪遊び回になります。
ですので、もうしばし! もうしばしお待ちをっ!
読者様「こんなまったりした話は『異世界詐欺師』じゃない!」
私「だったら……一週間後、もう一度ここへ来てください。その時に、本物の『異世界詐欺師』をご覧に入れますよ」(キリっ!)
―― 一週間後
読者様「さて、『異世界詐欺師』がどれほど変わったのか、見せてもらおうか……」(クリック)
ヤシロ「おっぱ~い!」
読者様「んんっ!?」
…………あれ?
あんま変わってないぞ? むしろ悪化してる?
なんだったんだ、あのグルメ漫画風な大見得は……
と、とにかく! 今の甘々ヤシロも、今後意味を持ってくる状態というか、フリ……というほどのものでもないんですが……通過点のひとつなので、もうしばしご辛抱いただければと思います。
ですので「あ~、このままネタ無くなって適当にハーレムして、最終的にエタるんだろうなぁ」みたいなご心配には及びません!
まぁ「適当にハーレムして」は当たらずとも遠からずですが……
とにかく、最後の最後まで全力で揉みしだきますっ!
……あ、違った。
全力で駆け抜けます!(キリッ!)
今日はちょっと真面目な話をしてもいいですか?
感謝の話なんですが、
感想欄。本当にありがとうございます。
書き込んでくださる方がみんな温かい方たちばかりで、
皆様のおかげで楽しい場所になっております。
素晴らしい場所です。
しかも、マクロを見渡せる視野の広い方が多くいらして、
絶妙にあの場所の均衡を保ってくださっていると……なかなか、凄い気遣いの上に成り立っているんです。
文章にセンスを感じる方もいらっしゃいますし……まぁ、そんな方にもいつものふざけ切った返信をしてしまっているわけですけども……
あの場所があのような状態で保たれているのは、皆様のおかげです。
とてもありがたいです。
どれくらいありがたいかというと、
ちょい込みの電車で、電車が「がたん!」って揺れた時にそばに立ってた美人におっぱいをぎゅんむりと押しつけられて、「ほぉぅっふ!」って心の中でガッツポーズしてしまった私に対して、その美人さんが「すみません」って言ってくれたくらいにありがたいと思っています。すみませんなんてとんでもない! むしろ目的地までずっとぎゅんむりで…………
いけない……感謝の念をこんな話で例えてはいけない……もっと綺麗な例えをしなくては……
綺麗なちょい込みの電車で、電車が綺麗に「がたん!」って揺れた時にそばに綺麗に立ってた綺麗な美人に綺麗なおっぱいを綺麗にぎゅんむりと押しつけられて、「綺麗にほぉぅっふ!」って綺麗な心の中で綺麗にガッツポーズしてしまった綺麗な私に対して…………違う、そういうことじゃない。それくらいは分かる……うん、分かるんです……綺麗に分かっているんです。
とにかく、皆様ありがとうございます!
と、そういうことが言いたかったんです!
あと、ちょっとおっぱいの話もしたかった!
今後ともよろしくお願いいたします。
宮地拓海
追伸
昨日の感想返信内に余分な空白と改行が含まれている箇所がございました。
大変失礼いたしました。お詫び申し上げます。




