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閑話09 妖精のいたずら

完結と言ったな……あれは嘘だ。

お風呂入ってたらネタを思いついたので。

アトランティス帝国の神都、アクロポリスでは『妖精のいたずら』と言われるものがある。

ああ、ほら……そこのお屋敷がいたずらされたようだ。




「ん? あっ……」

「どうしたの?」


とあるお屋敷の一室。

奥様のご友人とのお茶会で出す予定だったお菓子が乗っていたはずの所には……何やら黄色い液体の入った小瓶がポツンと置いてあった。


「あちゃー、やられたー」


苦笑気味で小瓶を摘み、もう同僚へと見せる。


「その瓶は……あー、やられたかー」


それを見た同僚も似たような反応を返し、どうしようかと話す。

奥様のご友人とのお茶会で出すお菓子が盗まれた時の反応ではない。苦笑はしているものの、声はどことなく嬉しそうなのだ。

そこへ1人の男性が入ってきた。


「どうかしましたか?」

「お茶会のお菓子を持ってかれちゃいました」

「ふむ、それは困りましたねぇ」


旦那様が留守の間、家を担当する執事であるはずの者すら、どことなく嬉しそうだった。


「では早速、新しいのを買いに行かせましょう。なので、奥様とご友人に知らせておいてください」

「はい」


執事が小瓶を受け取り、部屋を出ていく。

そこで侍女も部屋を出てお茶会をしているところへ移動する。


「奥様」

「あら、どうしたの?」

「妖精さんにいたずらされてしまいまして。今新しいお菓子を買いに行かせていますので、しばらくお待ち下さい」

「あらあら、そうなの。分かったわ。ということだから、少し待って?」

「ふふ、妖精さんなら仕方ないものね」

「申し訳ありません。用意でき次第お出しします」


奥様達も特に怒った様子は無く、変わらずニコニコ話していた。

そして買ってきた物を出した時、キラキラした目で見ていた。結構有名なお店の、中々いい値段するお菓子だ。


「ふふふ、待った甲斐があったわ」



『妖精のいたずら』

それは、アクロポリスに住み着く妖精種の仕業である。

人の作るお菓子を狙い、見てないうちにこっそり持っていく。

代わりに、黄色い液体。妖精種特有の魔法、《妖精魔法》によって作られた極上の蜜の入った小瓶を置いていく。

直接舐めても良し、紅茶などに入れても良し、お菓子として加工しても良し。更に傷口に塗っても良い。非常に優れた蜜である。


この妖精の蜜は特殊な小瓶……この国の女帝、シュテルンユニエールの作った魔道具に入っている。落としても割れないし、完全密封されている。一度でも開封したらひと目で分かるようになっている。


妖精達には敢えてお金を渡さず、こうして小瓶を渡し蜜で物々交換するようにしていた。

妖精達からしたらなんの大した事もない蜜だが、人類からしたら非常に貴重で、美味である。小瓶でも結構な取引額になるぐらいである。

ただ、妖精種は割りと気分屋なので、お金での取引は不向きである。そこで蜜との物々交換をすることにした。

突然お菓子が無くなったりするが、代わりにお菓子より遥かに高価な小瓶が置かれるのだ。また買いに行く手間を考えても、小瓶の方が嬉しい。


そして当然これにはシュテル……つまり国が絡んでいる。よって、小瓶は数カ所の高級お菓子屋で、固定額買い取りをしている。

お菓子屋は買い取った蜜を使い、お菓子を作れる。それを使ったお菓子は数は少ないが結構な値段になるし、使い終わった小瓶は大神殿に持っていけば決まった額で引き取ってくれる。

そして、小瓶を売った客は大体売ったお店でお菓子を買って帰るのだ。食べようと思っていたお菓子が無くなり、小瓶を売れば高級店で買ってもそれなりに余る額になる。だから代わりのお菓子をそのお店で買って帰るのだ。


妖精達はあまり姿を見せず唐突なので『妖精のいたずら』と言われている。


ちなみに、予約して長い間待って漸く手に入れた貴重なお菓子などもあると思う。

例え『妖精のいたずら』が嬉しい事でも、食べたい物はあるだろう。そう言った物には専用の物がある。それがある物は持ってっちゃダメと、女帝に言われているので、妖精達も持っていかない。女神に怒られるのは怖いに決っている。

と言うか、シュテルの持つ『契約と断罪』の能力により、即座に罰が飛んでくるので絶対に持っていかない。



おや? とある一家もいたずらされたようだ。



「おかーさんおやつどこー?」

「テーブルの上って言ったでしょー?」

「ないよー?」


幼女のおやつの時間。食べるはずだったお菓子が行方不明のようだ。

母親がやってきて黄色い液体の入った小瓶を見つけた。


「あれ……これって……? ふふ、妖精さんに持ってかれちゃったみたい」

「えー!」

「ほらこれ、妖精さんが持っていった時に『ありがとう』って置いていくの」


子供に小瓶を見せて、覚えさせる。そして開けちゃいけない事も教える。

開けると一目で分かり、使用済みとされるため買い取って貰えないのだ。

とは言えシュテル製魔道具なので、ちゃんと開けようとしない限り外れないが。


「おやつ、買いに行こっか」

「行くー!」


子供を連れて買い取ってくれるお店に行き、小瓶を売り、そのお金で子供が選んだお菓子を買って帰る。余ったお金はそのまま家に回す……と。


妖精種は基本人目を避ける。

だから直接お菓子屋ではなく、一般家庭やお屋敷を狙う。

まあ、何事にも例外はあり……直接店に突撃する強者もいなくはないが。


どの道この国の法として、精霊と妖精に危害を加えようものなら女帝が出張り、そのまま重犯罪奴隷へと落とされるので、店に行っても安全ではあるのだが。


そんなわけで、このアクロポリスに『妖精のいたずら』で怒る者はいない。


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― 新着の感想 ―
深夜、小腹が空いた時に置いていたお菓子がなくなれば怒る人もいるかも知れない。
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