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転生先は現人神の女神様  作者: 子日あきすず
ぽっと出は気に入らない?
68/88

61 EXの実力は……

1つ前に閑話を上げています。

ファーサイス新年祭から約半年が過ぎようとしていた。

学園も問題なく……教師側の不足問題はあるが一応回ってはいた。

とりあえず後は学園長と4大国に丸投げである。


そして丸投げしたルナフェリアはと言うと、"ドラゴンブレス"にさらされていた。


「ふむ……"ドラゴンブレス"も魔法の一種……霧散させることが可能だが、当たって強制レジストした方が楽だな」


保有魔力量による強制レジストの方が、女神の能力を使用して霧散させるより楽である。なぜなら何もしなくていいから。まあ、1人の場合と言う前提だが。


「にしても、生物じゃないだけあって楽な体だ。生身だったら絶対こんなところに来たくは無かったな……」


ルナフェリアのいる場所……それは創造のダンジョン火山地帯だ。

バリッバリの活火山であり、有毒ガスが吹き出ている場所まで存在し、道らしい道は無く、大きい岩から小さいのまでゴロゴロ転がっている。

そして当然気温は非常に高く、マグマが流れている所まであるのだから勘弁して欲しいものである。

これで出てくる敵が火属性の純正竜だったり、亜竜だったりするのだから殺意が高い。ワイバーンはここでは癒やしである。ワイバーンも食われる側。


普通に攻略するなら大量の水分と、何らかの方法で有毒ガスを防ぎ、更に竜種に通用する対空手段が必要になる。

正直無理ゲーな気がするが、そもそもこのダンジョン自体が攻略考えてない物なので、何の問題もない。

では何かというと倉庫扱いで、最高級食材を望むならこのぐらいの難易度を要求されるだけだ。

一般的な肉なら1層目から手に入るし、鉱石だって基本的な物は下の方で採れる。

最高級の肉を目指すなら竜種などになるので上の方になり、当然土地が竜種に最適化されるので人類には辛くなる。海とかもう最悪。陸な分火山の方がマシか。



「さて、大体確かめたかった事は終わったから、食材になって貰おうか」


先程ブレスをかましてきたのは中位炎竜のヴォルケイノドラゴン。

シードラゴンと同じランクの火属性バージョンだ。


月杖・エーレンベルクを手に持ち、魔力を流し槍として構える。

そして、首元に転移して切り飛ばす。


「おっと、勿体無い勿体無い。竜は血も使えるんだ」


その場でバラして"ストレージ"にしまっておく。


純正竜は狩れる者が非常に少ない。その為需要はあるが供給がほぼ皆無である。

お肉は美味しく、鱗や皮は防具に、骨や爪は武器に、血や内臓は調合で薬になる。

ルナフェリアは基本的に純正竜……と言うか、生物をそんな狩らない。

『必要な時に、必要な分だけ』だ。人類は『魔物』と言い敵としているが、この世界に住んでいる生物には変わりない。よって、積極的に狩って回る事はしない。


今回も確認と、肉の補充のため狩りに来た。

流石にシードラゴンの肉が枯渇したのだ。食い過ぎである。

肉以外は使う予定がないので売る予定だ。

きっと生産ギルドが小躍りしながら持って行く事だろう。


一匹じゃ足りないかなぁとふらふら飛んでいるルナフェリアの元へ、縄張りに入ったのが気に入らないのか、咆哮しながら飛んできた。


「グルアアアアアアア!」

「うるせぇ!」


開けてる口の目の前に転移して、口の中に槍部分を突っ込み上顎から頭にかけて貫いた。

遠くてもうるさかったのに、自分から目の前に転移したもんだから余計にうるさく、イラッとして即座に殺された哀れなドラゴンは泣いていい。


「よし、2匹分あれば今回は良いか。サイズもそれなりだったし」


杖に纏わせていた魔力が霧散し、ルナフェリアの姿が掻き消えた。

そして冒険者ギルド本部にある、ダンジョンへの入り口へと帰ってきた。


国のトップで、現状冒険者のトップでもある人物が突然現れた訳だが、他の冒険者達は慌てふためく事は無かった。


「お、陛下だ」

「ほんとだ、陛下だ」


など口々にしながら立って軽く頭を下げるものだったり、その場で跪く者だったり、座ったまま軽く頭を下げるだけだったりと様々だった。

ルナフェリア自身冒険者登録してあるし、ギルマスだダンジョンだと結構出入りするためいちいち跪いたりしないで良いと言ってある。冒険者達に礼儀とかを気にするのもなんか違うし。

それ故、喧嘩売ってきた場合は容赦なくしばき倒すとも言ってある。冒険者には冒険者の対応をだ。

割と目立つところに張り出されているし、初めてきた奴らは受付に行ったら聞くだろう。


そして現状はそれぞれ好きな方法となっている。

そもそもちゃんとした作法を知っている者自体が冒険者には少ない。しかも故郷がてんでバラバラ。中央出身じゃない者も普通にいるので、自分達が好きな方法で敬意を払う事に落ち着いたようだ。

この辺りは別にルナフェリアが言った訳ではなく、冒険者達の間で決まった事だ。

見た目から嫉妬の対象にもなりやすいが……精神生命体で自分達より倍ぐらい年上という事を知ると大体大人しくなる。


「うむ。何か問題は?」


周囲を見渡すが特に何もなさそうであった。

冒険者達に見送られ、ロビーの方へと向かう。


「無いならば良い。死に急ぐなよ」



すっかりブリュンヒルデに更正された……と言うか、正直生前の口調に戻しつつ、少々偉そうな……命令形になった。

どちらかと言うとこちらの方が楽だな、となったため甘んじて受け入れた。割りとひゃっはーしても違和感がなくなったのだ。それも考えての更正なのだろうが。

そのおかげ? で、人形の様な少女から『あ゛?』って言葉が聞こえるようにもなったのだが。ブリュンヒルデは苦笑していたが、ストップがかからなかったから許されたのだろう。

ちなみにその声を引き出したおっさん(冒険者)は魔力付きの睨みにより腰を抜かしていた。周りにゲラゲラ笑われたのは言うまでもない。

周りの冒険者達は知っているのだ。

強面のちんぴらに声かけられてビクビクオドオドする少女……な訳がなく、張り倒す側だと。むしろ吹き出さないのに必死だった。何人か耐えきれずにプルプルしてたからな。よもやあれが冒険者最強のEXだとは思わんだろう。見てる側からすれば最高の娯楽である。見てる側からすれば。



ロビーの方はいつもと違う……何だか騒がしい感じがしていた。

ダンジョンに潜っている間に問題でも起きたかと思いつつ、変わらぬペースで歩いて行く。この土地で起きた問題は最終的に自分のところにやってくるのだ。だったら最初から突っ込んだ方が早い。早い方が対処が楽だったりするしな……。



「EX認定されたのがいるとか聞いたんだが、冗談だよな?」

「いえ、半年ほど前に認定された方がいます」

「おいおい、SSすらいなかったんだぞ?」


聞こえてきた会話から察するに、どうやらEXにご不満のご様子だ。

まあ確かに、SやSSをふっ飛ばしたからな。

とは言え正直、この問題は想定済みで対処も楽だ。力を示せばいいのだから。冒険者も基本的に実力主義だからな。と言うか実力がなければ人知れず死ぬだけだし。


とりあえず何か抗議している男を無視して、ダンジョンの受付だ。

売り捌くものがあるからな。


「あ、陛下。お帰りなさい」

「ただいま。今回はいいお土産がある」

「お土産ですか? カニがいいです」

「……残念ながら海エリアは行ってない」


すっと……数枚の鱗を差し出す。


「…………ま、ままままさか!」

「中位炎竜、ヴォルケイノドラゴンの鱗」

「ついに純正竜の素材ですか!」


ルンルンで走っていった。置いてけぼりである。

ヴォルケイノドラゴンの肉は渡すつもり無いので、ついでに狩ったと言うか、襲い掛かってきたから狩ったワイバーンを提供しようかと思ったのだが……。



「あれがEX? あれがなれるなら俺らもとっくになってるだろ!」

「はぁ……陛下をあれ呼ばわりですか……」


ため息を隠す事もなく、あからさまに受付嬢は呆れていた。

どうもSランクにはなったが、辛うじて……って感じのようだな。

ぶっちゃけギルド側的には『失敗』扱いらしいが。何でこいつらをSランクにしたんだ? という意味で。

そう、このSランクは3人のPTである。


「ああ? いやいや勘弁してよ……。折角この国に着いて街並みに感動して、ギルド本部が中央に来て喜んでたのに君らがいるのかい……」


新たにギルド本部に入ってきたイケメンの男が入って早々に嘆きだした。

そして明らかに向けられたSランク3人が男を見て上げた声は……。


「「「げぇ……」」」

「人を見て『げぇ』とは随分な挨拶だね?」


お前も人のこと言えない嘆きっぷりだったが……と言う突っ込みは無粋だろうか?


「おい、あれってまさか?」

「……だろうな。炎魔剣のシルヴァン」


炎魔剣のシルヴァン。

Sランク冒険者で、火を纏う魔装具を愛用している。

魔装具はアーティファクトであり、かなりのレア物。

ルナフェリアが簡単に作っているが、本来魔装具自体が超の付くレア物だ。純粋に製作が難しい。"ルーン"で作成しないとほぼ実用性皆無の代物になる。

そして現在この世界に"ルーン"を使えるものは……という事でシルヴァンが持っているのは天然物だ。

なお、シルヴァンの強さはSランクで上位の方になる。そして3人組は下位だ。


「君達の相手は時間の無駄だし……ああ、ブルーナさん。ギルマスに顔出しておきたいんだけど?」

「そろそろ来るのではないかと思うのですが……」

「うん?」


ルナフェリアが帰ってきて、純正竜の素材を持ち帰った。ダンジョンの担当をしている受付嬢がルンルンで呼びに行ったのをばっちり見ている。

そしてギルマスがやってきた。


「おう、ついに狩ってきたって? ……なんだ、お前も来てたのか」

「さっき到着したよ」

「「「おい! ギルマス! これがEXってどういうことだ!」」」

『はぁ……』

「……てめぇらも来てたのか。Sランクの問題児共……」


最初こっちに話しかけてきたギルマスだが、イケメンに気づいた。

そして3人の叫びにより受付嬢……と言うかギルド員がため息をつき、ギルマスも微妙な顔をしていた。


「まあ……お前らは後でいいや。それでどの部分売ってくれるんだ?」

「肉以外全部。後はワイバーン全身」

「まじか。肉がないのは惜しいが……元々肉目当てか?」

「うむ」

「そうか。まあ、ワイバーンの肉でも高級食材だからありがたいもんだな。一気にっつうのは厳しいから、小分けでもいいか?」

「うむ、構わん。それと数だが、ヴォルケイノドラゴン2体分とワイバーン4体分になる」

「まじか!? 一体ずつかと思ったが……。それなら商業と生産で綺麗に分けられそうだな。戦争に為らずに済みそうだ」


生産ギルドは素材として使いたい。商業ギルドは他に運んで稼ぎたい。だからな。

貴族とかがコレクションとして竜のうろこを飾っておいたりするらしい。まあ、確かに綺麗だから分からなくもないが。


「っておい! スルーすんなギルマス!」

「うるせぇ! 大事な商談中だ!」


ギルド職員がちらちらとルナフェリアを見ているが、先程から特に変化はない。

そもそも眼中にないのだ……。どうでもいいことにいちいち反応はしない。


「ふむ……この子が噂のEXなのか……」


シルヴァンが興味を持ったようで、わりと行われる『威圧挨拶』をルナフェリアに仕掛ける。


『威圧挨拶』とは、お互い威圧を向け合い強さを図る。初めて同士の冒険者がたまにやっているが、Sランクは基本的にやらない。自分達の強さに自信がある者達だし、同じ数十人以外格下だからだ。


威圧を向けられたルナフェリアは目線だけちらっと向け、挨拶されたので挨拶してあげた。徐々に強くしていくにつれ、シルヴァンの顔が引き攣っていった。

そしてついに両手を上げ降参的に首を振った。それを見たルナフェリアは視線を戻し、それによって威圧から開放される。

シルヴァンは問題児3人に呆れた顔を向けつつぼやく。


「自分で言うのもあれだけど、君達良くこんな化物に喧嘩売る気になったね……。まあ、何も考えてなさそうだけど……」


その問題児3人は変わらずギルマスに詰め寄っていた。


「ぽっと出がEXで何で俺らがSのままなんだよ!」

「「そうだそうだ!」」

「うるせぇ! ぽっと出だろうが何だろうがその実力があり、てめぇらとは比べ物にならない程に器がでけぇからだよ!」

「「「うぐっ……」」」

「そもそもこの国の王だぞ! 陛下だからな? 不敬罪で死にてぇのか?」

「「「ぐぬぬ……」」」

「このギルド本部自体陛下からの借りもんだからな? 冒険者代表であるSランクのてめぇらの行動のせいで追い出されたらどうしてくれんだ? あ?」

「「「…………」」」

「別に塵芥が騒いだところで追い出すつもりはない」

「「「……塵芥ってなんだ?」」」

「じんかい、ちりあくた。つまり、とるに足らないどうでもいいゴミですね」

「「「なんだと!」」」


受付嬢の解説により意味を知った3人がまたも騒ぎ出した。


「上等だ! 勝負しろ勝負! EXってんなら逃げねぇよな!?」

「ふむ。1対3か、良かろう。たまには違う者達との模擬戦もいいだろうしな」

「「「1対3だとぉ!?」」」

「む? 当然だろう? Sランク3人程度相手にできずになにがEXか。訓練場はこっちだ、ついて来い」

「「「上等だぁ!」」」


4人が冒険者ギルド本部からでていき、訓練場へ移動した。

その後に続いてぞろぞろと冒険者達もでていった。


「……良いのかい? ギルマス」

「陛下が良いってんだから良いんだろう。お前は行かないのか? 見学してきたらどうだ」

「確かに、気になるから行ってこようかな?」

「しばらくここにいるのか?」

「その予定。ダンジョンあるんでしょ?」

「おう、あるぞ。あっちがダンジョン用の受付だ。後うちは宿にもなってるぞ。3階がそうだ」

「じゃあ一室よろしく!」

「言っとくから部屋入る時はあそこで鍵貰えよ」

「了解。じゃあちょっと見てくる」

「おう」




ギルド通りの一角に新しく建設された訓練場。

現在その場に結構な人数が集まり、見学者に囲まれた中央には女帝とSランクの3人が向かい合っていた。


「へっへ、降参するなら今のうちだぜ?」

「そうそう。女……しかも子供を甚振る趣味はねぇからな!」

「そうだ―――」

「ぬかせ。ルールは特に無い。好きにすると良い。貴様らに合わせて近接で相手をしよう」

「「「上等だ! 後悔すんなよ!」」」


叫びながら3人が駆け出した。



「あいつら、陛下相手に強気だな」

「模擬戦云々の前に、この国じゃなかったら不敬罪でもう死んでるぞ」

「ほんとにな」

「と言うか、あの近衛組が怖いから誰か鎮めて来いよ」

「馬鹿言うな。お前が行って来い」


近衛組……それはつまりルナフェリアの眷属達である。

基本的にルナフェリアに付いてない者は訓練場で訓練か、見回りをしている。

そして、近衛達の模擬戦を日々目にしている冒険者達。

見た冒険者達の感想は『この国やばくね?』だ。

あの3人が勝てるとは微塵も思ってない見学者達である。



ルナフェリアに"テレパス"で止められて無ければ、とっくに眷属に張り倒されているであろう3人組はそれぞれ武器を構える。

直剣と盾、両手斧、メイスと盾と言う脳筋PTだ。



さて、一応私は魔法がメインだからな。たまには攻撃魔法縛りもいいだろう。

エーレンベルクかウロボロスか……今回はエーレンベルクにするか。


後ろで待機していた月杖・エーレンベルクを手に取り、魔力を流す。

本来月杖というだけあって杖だが、杖は魔法触媒である。

魔法触媒とは所持者の魔力操作や魔力増幅を助ける、行う物だ。

つまり、杖に魔力を流し増幅させ、その魔力を刃とすれば立派な近接武器の出来上がりだ。剣やら何やら作っているが、自分で使う分には月杖1本で十分だったり。


とは言え、あくまでこれは理論上は可能と言うレベルの魔法技術なため、一般的ではない。

杖本体が助けてくれるとは言え、魔力を維持しないと当然形を保てない。本来ない刃を魔力操作で維持しつつ近接戦闘しなきゃ為らないので、普通にミスリル製の剣に魔力を込めた方が遥かに実用的とされるからだ。

炎魔剣のシルヴァンも魔力を流すだけで炎を纏う魔装具を使用している。ルナフェリアのやり方だと、炎を剣の形にしなきゃならない。どちらが大変かは言うまでもないだろう。まあそれを息をするように行うのがルナフェリアなのだが……。



槍、斧、鎌……はたまた薙刀か……両手鎚……場合によって変えればいいか。

とりあえず槍でいいな。

先端に浮いている水晶が基点になり、水晶の周りを回っている2つの輪っかが回転を止め、大きい輪っかが根元側、小さい輪っかが先端側で補助となる。

杖自体が大体2メートル後半で、更に槍として刃が伸びるため結構なサイズだ。


「では初めます。準備はよろしいですか?」

「「「おう!」」」

「では―――」


開始の合図は眷属であるフリードリヒが担当する。

そのフリードリヒは3人組にのみ準備が良いか聞いた。


この3人は似た者同士で仲が良いPTだ。実力は確かにSランクで連携もしっかりしている。少々子供っぽいのが問題と言えるが。

その為、今回もしっかり連携をして仕掛けてきていた。

絶妙に対処のしづらいタイミングで三方向からの攻撃だ。


「「「おらぁ!」」」

「ぬるい」


神である身体能力と"プレスティージオ"を存分に活かし自分の倍ある武器を操る。

これが普段の近接戦闘スタイルだ。眷属の騎士達との模擬戦の場合、これに魔法攻撃も加わる。


こちらからは攻撃を仕掛けず、その場から動かず武器をクルクル回して全て弾く。

こいつらまだ本気じゃないな。まだまだ様子見状態のようだな。

という事で、煽っておこうと思う。こいつらなら簡単に釣れそうだ。


「その程度ではあるまい? せめて1歩でも動かしてみせよ」

「「「このやろう! 泣いても許さねぇからな!」」」

「ははははは」


更にスピードが上がり熾烈化するが一切変わらず全て弾いていた。



「いやいや、Sランクでも下の方とは言え3人同時で1歩も動かないのか……。とんでもないね陛下……」

「ああ、この国は初めてだったな。普段の模擬戦の方が激しいからなぁ……」

「普段の模擬戦? 僕達以外にSランクがいるのかい?」

「いやいや、この国の……と言うか、陛下の個人的な護衛達だ。扱い的には一応近衛兵」

「近衛兵なのに個人的な?」

「仕事内容的には他の国で言う近衛兵なんだけど、彼らの給料は税じゃなく、陛下のポケットマネーからでてるんだと。そもそもこの国自体軍がないからな。ほら、あそこにいる人達がそうだ。あの紋章は覚えておいた方が良いぞ」

「あの人達もヤバそうだね……。あれ、国章とは違う?」

「今日来たのによく分かったな、違うぞ。国章は神霊樹……あの木と精霊様だ。でもあの人達が付けてるのは通称ルナ印。女神様と精霊様のマークだな。陛下の個人的なマークみたいなもんだ」

「なるほど、私兵なんだね?」

「まあな。ただ、確実にあの人達は騎士だぞ。動きや仕草を見れば俺らとは違うことがすぐに分かるからな」

「それより殺気立ってる事が気になるんだけど?」

「そりゃああれだ……。奴らの陛下に対する態度が気に入らんのだろう……。まあある程度わかったとは思うがその辺り陛下自身はかなり緩い。代わりにあの人達にめっちゃ睨まれるな」

「ああ、うん。なるほど……。彼らはいつもあんなんだからねぇ……」


見学のシルヴァンとこの国に来てそれなりになる冒険者が話している最中も、模擬戦は続いていた。


「ふむ、お手上げか? では今度はこちらからだ。防御能力の確認といこうか。ゆくぞ? 凌いでみせよ」


右足を一歩だし、重心を動かすとともにメイスを持っている男の前に移動。槍なのでシンプルに突きを繰り出す。

左手に持っている盾でギリギリ弾かれるが……弾かれたままくるっと周り、横薙ぎに振り抜く。

とっさにメイスで防ごうとするが、そのまま吹っ飛んでいった。


「なっ……ぐふぅ……」

「なにぃ!?」

「よそ見とは余裕ではないか」

「っ! ぐっほぉ……」


飛んでいった男に気を取られた隙に近づき、大鎌の形にした物で足元を払う。

とっさに下がらず、ジャンプしてしまった男……。

左腕で右から左に振り抜いたので、フリーになっている右で空中にいる男にそっと触れ、魔法で吹き飛ばす。思いっきりぶん殴るのは絵面的にあれなので。


「ジャンプなんぞするからだ、うつけめ」


そして残った最後の1人も簡単に吹っ飛んでいった。


「貴様らたかが1回防いだだけで油断しすぎだ。全員2発目で沈むとは何事だ。不完全燃焼もいいとこだ。……フリードリヒ、たまにはサシでどうだ?」

「ええ、喜んで」


Sランク3人組に代わり、眷属纏め役のフリードリヒが反対に立ち、構える。

こちらはルナフェリア特製の片手剣と盾だ。


「行きます!」

「うむ、こい」


どちらが先か、開始の合図なんかは不要である。弱者から、挑戦者から動くのだ。

そもそも自分達の主をどうこうできるとは思っていない。


模擬戦もよくするので様子見なんてこともしない。いきなり消えるように斬り込んで行くが当然のように防がれる。

魔導剣と月杖がぶつかり合い、風が巻き起こる。そんな打ち合いが続く。

下級の冒険者は目ですら追えないような打ち合いだ。1回振ったように見えても音は3回とか聞こえる。しかし、このぐらいならまだ上級の冒険者なら見える。

ただ、ぶつかりあった時の音と、ぶつかった際に揺れる髪や服からどれぐらいの力が込められているか、それを考えるとヤバさが分かる。

しかも、2人の表情を見る限りあたかもそれが当然の様に変化がない。

挙句の果てには魔法まで飛び交い始めた。正確にはフリードリヒの魔法をルナフェリアが対抗魔法……逆属性の魔法をぶつけ相殺している。火には水、風には土、光には闇。的確に相殺させている。


この対抗魔法での相殺は高等技術になる。

対抗魔法は魔力の多い、攻撃力の高い方が低い方を打ち消す魔法法則だ。《防御魔法》は《攻撃魔法》に強い事になる。

火の攻撃魔法にはそれ以上の水の攻撃魔法を重ねるように放てば良い。そうすれば相手の火の攻撃魔法を打ち消しつつ、自分の水の攻撃魔法が相手に届くだろう。

そう、相手に届くのだ。つまり相殺させるには同じ攻撃力の対抗魔法をぶつける必要がある。

これをしているのは後から魔法を放つ方。つまりルナフェリアである。これにはSランク4人も真っ青。

相手が放つ魔法を属性から込めれた魔力量まで把握し、それに合わせ逆の魔法を同じ量でぶつける。

これを近接戦闘しながら行っているわけだ。余程魔法に無知でない限りヤバさが分かるというもの。

しかし、どうも驚いている者が少ない。それはつまり……。


「まさかこれが、普段の光景かい……?」

「ああ、そうだ。最初は目を疑ったが、サシな分まだマシだな。ハハハハ」

「サシな分まだマシ……?」

「そうだぞ? 大体陛下対騎士達だからな。達だ、た・ち。それであれやってる」

「んな馬鹿な……」


シルヴァンは恐る恐る話していた冒険者に問うが、それ以上の事が返って来た。


「マジだマジ。いやもう、俺はあの人達が本気で戦ってる所を見てみたいね。俺はあくまで訓練だから確実にセーブしてると思ってる」

「俺は見たくないぞ? あの人達が本気で戦うとかどんな状況だよ……」

「いやまあそうなんだけどよ。逆に気になるじゃないか」

「怖いもの見たさってやつか? 分からなくもないが……うーむ……」


この国に来てそれなりになる冒険者達が話しているのを聞きながら、目の前で行われている模擬戦を呆然と眺めるSランクでも上位の方なシルヴァンであった。



「―――むぅ……参りました」

「うむ、満足。さてSランク、不満があるなら聞くが?」


ブンブンブンブンと勢い良く横に振るSランクであった。


「わらわはギルマスとの商談に戻る。邪魔したな。ヒルデ、ギルド本部だ」

「畏まりました」


模擬戦中に帰って来た事を察しやって来たブリュンヒルデと、護衛の眷属2人を連れてギルド本部へと戻る……前に。


「おっと、シルヴァンといったか。君もきたまえ」

「えっ、僕?」

「そうだ、行くぞー。ちなみに付いてくれば君の悩みが1つ解決するだろう」

「悩み……?」

「まあ、ルナ様が言った時点でほぼ命令となるのですが」

「…………元々戻るつもりでしたしいいですけどね」


ここ半年でルナフェリアはブリュンヒルデをヒルデと呼び、ブリュンヒルデはルナフェリアをルナ様と呼ぶようになった。正直フルネームでは長いのだ。


ギルド本部はすぐそこだが、ギルドに向かっている最中に要件を済ませる。


「まあ、用があるのは君が持っている武器の方だが」

「えっ? あっ!」


"プレスティージオ"でシルヴァンの腰にある剣を引き寄せ、眺める。

そして、本人へ返す。


「別に奪ったりなどしない。ほれ」

「見せるぐらいなら言ってくれれば……」

「アーティファクトで貴重品だから預けるのは不安。技術的にもアーティファクトの手入れを任せていいのかも判断しかねる。更にどういう手入れをすれば良いのかもはっきりせず、もし壊れたらと思うと……で、手入れを一切していない。と言ったところだろう?」

「うっ……はい……」

「まあ、分からなくもないがな。酷使しすぎだ。近いうちに機能しなくなるぞ」

「ええっ!? そ、それは本当ですか!?」

「そもそも刃もボロボロだ。お世辞にもいい状態とは言えん。とは言え下手に手を加えなかったのは正解だろう。少しでも"ルーン"を削ったらそれでオジャンだ」

「……この魔導文字ですよね?」

「うむ。まあ、何が言いたいかと言うと修理ぐらいならしてやるぞ。それなりの修理費を出してもらうが」

「むむむ……」

「用はそれだけだ。わらわは生産ギルドにも登録しているからな。修理ならそちら経由か直接言え」


つまり腕に関しては生産ギルドで調べろということだ。

さて、商談商談。


やっとジェシカとエブリン、ブリュンヒルデにワルキューレ隊、エインヘリヤル隊の髪型や髪の色、目の色を決めました。

そのうち出します。そのうち。

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