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転生先は現人神の女神様  作者: 子日あきすず
ベリアドース 冒険者ギルド本部
47/88

43 古代種?

さくさく行こう!

そう言えば米。米がない。しかし、この辺りにないのは確認済みだ。

欲しいのが何もないじゃないか。残念だ。

いくら《月の魔眼》と言えど、森の中を探すのは難しい。《透視の魔眼》の透視加減もまた難しい。世界はそこまで甘くない。


ちっ。


……あれ? カカオの苗木とか《物質創造》できるんじゃ……。食べ物作れたんだからできるよな? チョコをそのまま作るより、精霊に育ててもらって加工した方が遥かに美味しい。そうなると、実じゃ意味はない。作るなら苗木だな。

あれ? 《物質創造》で全て解決するじゃないか。米もこれでいいじゃん。何してんだ私。今まで探してた時間の無駄さよ……。流石創造神様の力の一部……頭おかしすぎて思いつかなかった。

自家栽培が捗るな。捗りすぎて外部から買う必要が一切なくなったが。


「…………」

「どうかしましたか?」

「いや、今までの悩みが全て解決して何とも言えない気持ちになっただけよ」

「……良いことでは?」

「力……能力……それらは使いこなせなければなんの意味もないのだよ……」

「それは、そうですが……」

「はぁ……テンション下がるわぁ……」

「だだ下がりですね……」


《物質創造》でできる食べ物は極普通であり、精霊の加護のあるこの世界からしたら不味い分類である。しかし、《物質創造》で作った物を精霊達に育てて貰えばいい話じゃないか。なぜそんな簡単な事に気づかなかったのか。

これが《物質創造》でできた食べ物は不味いという思い込み、決めつけというものか……。


「はー……食料にもう用は無いわ」


魔道具やらなんやらを見るとしよう。何か参考になるか面白いのがあると良いけど。



ルナフェリア一行が街を歩く時、先頭がルナ。ルナの後ろ左右にジェシカとエブリン。2人の後ろにアストレートとマハが続く。

普通に考えると、ルナの後ろ左右に護衛のアストレートとマハ。侍女のジェシカとエブリンがその後ろになるだろう。何故かと言うと、どう見ても護衛対象はルナであり、メイドの命はそこまで重要じゃないのがこの世界での基本だからだ。

しかし、この一見護衛対象のルナ本人がこの中で最強である。ルナとアストレートとマハで、ジェシカとエブリンを挟んだほうが安全だ。ちなみにシロニャンはルナの頭上でグデっとしている。


ルナは星晶装備で腰にデュランダル、そして月杖が後ろを追尾している。そしてメイドの2人は腰にメイス。アストレートは腰にレイピア、マハは本を持って密かに周囲の警戒をしている。シロニャンはルナの頭上で手足を投げ出し完全寛ぎモードだ。


この一行が非常に目立つ。歩いてると人が避けていく程度には目立つ。巨乳美女2人、美少女2人、小動物を頭に乗せた巨乳美幼女1人だ。目立たない訳がない。

だからといって、これに釣られて近づくと物凄い睨まれる。顔が整った5人から睨まれるもんだから堪ったものではない。それでも近づくと護衛の2人から威圧が飛んできて、更に近づくと幼女から後ろ以上の威圧が飛んでくる。

3人共並の《魔力操作》じゃないので、他の奴らは威圧に気づかない。周囲からすれば近づいていった奴が突然腰を抜かすか一切動けなくなる。

そして一行は何事もなかったかのように歩いて行く為、近づいていった奴は周囲から笑われる。周囲からはただ美女達に睨まれて腰を抜かす軟弱者。本人からすれば威圧され、明らかな強者であることに気づく。それと同時に周囲には一切威圧が漏れてないのも周囲の反応で察してしまう為、より寿命が縮む思いをする事になる。


美しい薔薇には棘がある。

と言うよりこいつらは植物系モンスターだ。薔薇の棘なんて優しいもんじゃない。場合によっては普通に狩られる。尚、思考が筒抜けの為まともな用なら威圧はされない模様。



そんな目立つルナフェリア一行だったが、数々の店を冷やかし、ルナのテンションも戻らず、不貞寝した模様。


「結局テンション戻らなかったね」

「うん……」


◇◇◇◇


「依頼なんか知らねー! 出発だー!」


ドラゴン倒せるルナからしたら、護衛依頼の報酬……どころか大半の報酬が大したものではない。そのくせ護衛依頼は護衛対象に移動速度を合わせねば為らず、守らなきゃ為らずで非常に面倒だ。

ルナからしたら守るのは別に良い。良いんだが……移動が遅すぎてダレると言う結論が出た。

よって、そのまま東門へ行き自分達だけで出発することに。脳筋は辛抱強くない。自分の事だから余計に。自分の用事がなければお爺ちゃんを発揮していくらでものんびりする模様。

要するに、自分の用事はさっさと済ませたい性分である。


マースト東門から出てしばらく……。


「あ、商業ギルド忘れてた……。はー……まあいいや、それよりマハ」

「なんでしょう」

「貴女の持ってる魔導書が気になっていたの」


まはの まどうしょを てにいれた。


「……あげませんよ?」

「…………」


まあ、構造と言うか原理が知りたかっただけだ。

《月の魔導》はこういった物の解析もできるからねー。《魔導工学》にある"アナライズ"の上位互換の様な物だが。


ふぅん……これは使えそうだな。使えそうだが、使い手がいないのが問題か。

魔導書は魔法の紙……そのまま魔法紙で良いだろう。それに魔法陣を刻む事により、保存しておくことが可能のようだ。つまりオリジナル魔法を魔法陣にして本として保存しておく事ができる。

逆に言うと、オリジナル魔法を魔法陣にする知識が必要である。今のこの世界じゃ使い手がほぼいないという訳だ。魔法紙は作るだけ作っておいて、放置かな。



魔導書をマハに返し、土地の整地に思考を回す。

《物質創造》で必要……と言うか好きな植物系を生成して、植えていく。マナ濃度は徐々に上がっていっているので、精霊達を一足先にお引っ越しさせておく。この際本体の方からグノームも分身体の方へ来ていてもらう。

植えては育てて大きさを見て、それに合わせて場所などを調整する。流石に苗木からすぐ収穫レベルまでは育たない。物にもよるが大体1週間もあれば実をつける。それもだいぶおかしいのだが。

そして、今回の土地には御神木もある。こいつがどんな影響を与えるか……だな。恐らく今の私の土地より成長が早い……と思うのだが。1週間きるやもしれんな。木が育ってしまえば実はかなり早い。今の土地より木を減らし種類を増やす事もありそうだ。数日様子見。


御神木と言えば、これがあるなら森の妖精や花の妖精とか、生まれてもいいと思うんだがな?

というか、御神木のあるこの辺りが1番生まれる可能性が高く、生まれやすい状況下にあるはずなのだが……。

精霊の数が激減していたからだろうか? アンデッドのせいだな。しかし、今回精霊達をお引っ越しさせたから、生まれるのも時間の問題か? 比較的近い地の精霊、グノームも今はいるしわんちゃんあるな。

森の妖精ドライアド、花の妖精ピクシー。どっちかでも生まれんかねぇ……? 両方生まれれば最高なのだが……果報は寝て待てとも言うか。



自動車並みに、爽快に爆走する白いプチ豪華に見える馬車を、ギョッとした様子で見送る商人や冒険者達をよそに、ルナフェリア一行は快適な旅を続ける。

そんな馬車は車より遥かに優れたサスペンションを発揮し、中は非常に快適であった。魔法って凄い……としみじみ感じるルナであった。

そもそもの話、車輪の付いているシャーシ部分と部屋となっている箱部分が繋がってないんだから揺れる訳がなかった。二重構造で空間拡張と重力魔法が駆使された非常識馬車だ。


走るとこれらの維持に使われている"メディテーション"の効果が増すが、同時に重力魔法によるサスペンションの消費が増える為正直どっこいどっこいである。

よって、車輪部分にもサスペンションが一応組み込まれており、重力魔法による消費を多少抑えている。多少。結局出前機システムはボツだった。



ルナに小さくて何もねー村と判断された村は外側を爆走してスルーして行った模様。

宿? 馬車の方が優秀。

風呂? こんな村にある訳がない馬車のでいい。

食料? "ストレージ"に沢山ある。

最早引き篭もりが家ごと、部屋ごと移動しているような物だった。

皆が一度は思ったであろう、『寒いから布団から出たくない』『このソファー動かねぇかな……』といった究極である。

まあ、皆が寝ている時間に《思考加速》と《並列思考》を駆使し設計した物で、ベリアドースまで大体2ヶ月と言われている期間をこれだけ快適に過ごせるなら元は取れてるだろう。2ヶ月どころか、1ヶ月きりそうな速度である。


◇◇◇◇


そして、小国群最初の王都。

王都の門で下半身に正直な騎士を威圧して縮こまらせ、何事もなく入る。何事もなく。


この体になってから、こういう奴には慣れたし、元男として分からなくもない。ないが、こちとら思考が読めてしまうのがまた問題だ。威圧して黙らせるに限る。キャーキャー騒ぐ気など毛頭ない。そんな歳はとっくに過ぎた。いやむしろ、元々歳的に若くないというのもあるが、神となって拍車がかかった感じか。


王都の中央にはそこそこ立派なお城がどんと構え、周囲には貴族達のお屋敷、更にその周囲に平民達が住む家が乱雑に並ぶ。全体的に石造りの町並みだ。


「魔眼である程度見ていたから知っていたけれど、ファーサイスはかなり進んでいるわよね」

「進んでいる……ですか?」

「私ファーサイスで貧民達……いわゆるスラム街というのを見ていない」


今いる王都は平民達の住む家の影となるように貧民達、スラム街が存在していた。

だが、ルナの言う通りファーサイス王都にはスラム街が存在しない。スラム街……簡単に言えば貧民達が集まった所だが、要は何らかの理由により仕事を失った者達だ。更に何らかの理由で親を失った孤児もそこに加わるだろう。


ファーサイスではこういった者達を纏めて農民としている。ファーサイスは農国だ。人が増えたら畑を増やせばいい。そして、消費しきれない野菜は他国に売ればいい。野菜はいくらあっても困るものではない。最悪肥料にもなるだろう。

幸い資金にはそこまで困っていないのだ。野菜は沢山採れ、港町があるため塩も採れる。

孤児だって幼い頃から少しずつ農業を教えていき、将来立派な農家となる。自分が死にそうな時、死に物狂いでファーサイスへやって来た時、寝る所に食べる物、住む所……衣食住を用意してくれて仕事まで貰える。

他の国では基本的に無視だ。パトロールしてる騎士何かに声掛けようものならその場で切り捨てられる場合すらある。そもそもパトロールしている騎士という時点で珍しいだろう。


孤児院もあるにはあるが、孤児院と言えば教会だ。つまり法国の関係者だ。この世界の教会が孤児など相手にする訳がない。それこそ一部だけだろう。

ファーサイスはとりあえず農業をさせる。それによって多少の出費はあるが、働き手が増えれば最終的にはプラスになり、街の治安も良くなる。ファーサイス上層部が法国を信用していないので、孤児院なんかも存在しない。農業に放り込んだ方が国的にも、子供的にも遥かに良いだろう。中には人間以外の者達も普通にいるのだ。

農家からすれば草むしりだけでも十分役立つ。幼い子供には草むしりをさせ、体力を付けさせる。人手が多いに越したことはない。農業は必須だが重労働だ。しっかり食事や睡眠を取り、元気になった時に農業しながら今後を決めればいい。


そういう意味で、ファーサイスは進んでいるだろう。


「その子供が実はスパイだったりしないんですかね?」

「あるらしいわよ。その場合は喜んで外交官が搾り取りに行くらしいけど」

「…………」

「上層部からはファーサイスは実力者の国と呼ばれているのよ? 身元のチェックはしっかりしてるようね。暗部も優秀だこと」

「平和な国なんですがね……いえ、裏でそういう人達が頑張っているからこその平和ですか……」

「そうね。逆にそういう者達がいないとああはいかない。国は綺麗事では回らないってね」


この世界で平和なのはテクノス、マースト、アエスト、ファーサイスの四大国だと思う。

テクノス技術大国はドワーフの国で鍛冶やら採掘やらが盛ん。マースト商業国はそもそも商人達の集まり。アエストは若者達の集まる学園都市だが……国としてはちょっと怪しいか?

まあ、アエストがどうなろうが私からしたらどうでもいい事だが。権力争い好きだな人間は。


問題があるとすれば、小国群は観光するような所じゃなく、元々観光で感動するような感性を持ち合わせていないお爺ちゃんには何の魅力も感じなかった。

なんで馬車の旅してんだ? って状態だが、馬車の旅を初めて数日して気づいたんだ。そう言えば観光なんかする質じゃねぇなと。前世とは違った町並みで最初は目新しく、キョロキョロしていたが、そんなもんファーサイスで見慣れたのだ。しかもファーサイスは水の都とも言われるだけあって綺麗なのだ。後の祭りである。


結局何が言いたいかというと……。


「帰りてー」

「「ええ?」」

「騎士達と訓練してる方が遥かに有意義……」


これである。

元・お爺ちゃん、現・幼女は飽きっぽい。

今世で半年、前世だと1年ちょっと。化けの皮が剥がれ始めていた。大体慣れたせいである。


「中に篭ってるのが悪いのかね? 屋根の形変えて外でティータイムを……いや、ティータイムから離れるべきか。お嬢様と言えばティータイムという偏見だった訳だが……」

「大体招いて招かれてのティータイムが貴族だから間違ってない」

「……流石にバリエーションの問題で飽きるのよね。新しい土地の早く実をつけないかねぇ? 読書しようにもこの世界、紙は普及してるが本が怪しい。書く人物がそうそういない……むむむ」


仮に読書した場合、速攻で読破してしまう挙句に忘れないので読み直す必要もなく、記憶から掘り返せばいい為そんな続きそうもない。

スペックが高すぎるのも考えものである。天才というのはこういう苦労があるのだろうか。



……宿はここでいいか。普通にいい宿にしよう。治安悪そうだし、この国。わざわざ絡まれに行く趣味は流石に持ち合わせていない。どうせ外歩いたら向こうから寄ってくるんだろう? 知ってる。

この半年ちょっとで私も学んだんだ。大人モードだろうが、幼女モードだろうが、絡まれる事に変わりはないとな! 女ばっかだからか? いかつい男でも仲間にするか? ……そう言えば、ワンコ呼ぶとか言って呼んでねーな。でもあの子は逆にな……。

まあ、既に夕方だし一泊してすぐに出るか?


「一泊して明日には出ようと思うけど、観光とかしたい?」

「我々は来たことありますので」


ジェシカとエブリンは来たことがあり、アストレートとマハはそもそも興味がない。という事は、用はないな。さっさと次行こうか。


◇◇◇◇


王都を出て、各村々を周りながら旅を続けるルナフェリア一行。最短ルートではなく小さい村を回っているので、ファーサイスを出発して一月が過ぎようとしていた。

現在とある村から出発して道……と言えなくもないところを走っている。


「しかしすごい人気ね。聖女御一行は伊達じゃない」

「村を巡って《回復魔法》使ってたからね~」

「王都とか大きな街より、ああいった村を中心に回ってましたからね」

「教会のない村々をわざわざ回ってたら聖女とも言われるか」

「私がやりたいからやっているだけの自己満足なのですが……」


ジェシカやエブリンからすれば、自分達がやりたい事をしているだけであり、本人達からすれば自分達の欲を満たすためにしているだけにすぎない。

自分達がそう思っているだけに、周囲から聖女御一行とか言われるのはどうも居心地が悪いようだ。だが、人間の行動原理何か誰もそんなもんだろう。いかに『欲』を他人の迷惑にならないよう満たすか、人間として生きるうえで重要なのはそこである。迷惑とならず、むしろ感謝される方法ならなお良いだろう。

2人は感謝される方法であり、しかもこの世界は移動がそもそも命懸けなのだ。別に気にする必要はないのだが……。


「でもなんか悪い気がするんですよ……」

「母国が《回復魔法》持ちを抱え込んだりしなければ、こういう村々にも《回復魔法》持ちが1人はいるんじゃないか……ってね……」


この2人と真面目な話をすると、そら聖女御一行言われるわなって。


「貴方達は気にしすぎなのよ……そもそもその辺りは国のトップである王族達が考える事であって、ただの……1人の聖職者が考えることじゃない」

「分かってはいるんです……でも、生まれた国が……」

「たとえ抱え込んでいなくても、好き好んで辺境の村に住み着く人間は極一部でしょう。《回復魔法》を持った者が村で生まれたとしても、確実にお金になるなら村から出て大きな街に行く者も多いでしょう。ただでさえ辺境の村に住む若者は都会に憧れる」

「むぅ……」

「人類全てから《回復魔法》を没収する。もしくは人類全てに《回復魔法》を持たせるのが正直1番楽ね」

「……人類全てに持たせるなんて可能なんですか?」

「無理ね。我々の力が云々より、受け止め先の問題で無理ね。一片とはいえ神々の奇跡の力。全員が受け止められる訳がない。無理にやれば普通に死ぬ。生まれ持った適性が必要」


宗教国家はまあ、いいだろう。人が生きる上では必要なのかもしれない。が、冒険者ギルドや商業ギルドなどがあるように、回復ギルドでも作れば良かったんだよ。回復ギルドが管理して各国に特定人数滞在させるような組織をな。1つの国が丸々抱え込むからこうなる。小国だったならまだしも大国だから尚の事悪い。バランスが崩れてるんだよ。

《回復魔法》は命に直結する魔法だ。医学が発展していないこの世界では生命線である。そんな力を持つ者を一国が抱え込んだらそりゃ崩れる。しかもそれを自覚した上で他国に強気に出てるもんだから周りは敵だらけだ。この世界はまともな聖職者の肩身が狭い。


『《回復魔法》を使える者は神々に選ばれた優れた者だ!』

ぬかせ。んなわけあるか。たまたま《回復魔法》を受け止められる枠を持って生まれただけだ。神々が選んだわけじゃない。そう生まれてくる『可能性』がこの世界に与えられているだけだ。


調合による魔法薬、所謂ポーション系も存在はするがこっちの問題は素材だ。大体未開の地に行く必要があるから確保の時点で命懸け。冒険者がよく取りに行って帰ってこない。


「一応考えているんだけどねー……」

「難しいですか?」

「正直天罰として国ごと消えてもらった方が早いし楽。それっぽく見せる為に私がこの場から高高度から打ち下ろしタイプの魔法を使うとか。光属性っぽい色をした光の柱を落としまくったりね」

「それは……」

「反対でしょう? 慈愛と成長の神が乗り気じゃないしねぇ……。3柱全員賛成だったら今頃吹き飛ばしてたわ」

「「ええっ!?」」

「権能を使ったもう1つの方法が無くもないのだけれど、十分とは言えないし……。完璧にやるなら創造神様と相談が必要になる可能性が高いのよねぇ……。はぁ、面倒くさい……でも我々4柱じゃ権限足りないっぽいし……1人ずつ《回復魔法》を回収するなんて面倒くさすぎる……」


そもそも私の仕事じゃねぇし! しかし、利用されるのはムカつくわけで。


「あ? 精霊達を法国にいる事を禁止すればいいんじゃね?」


ボソッと呟いた言葉が聞こえたらしく、ジェシカとエブリンがギョッとこちらを見た。


「不毛の地の完成だ。そうすれば勝手に滅びるし? 滅んだ後に精霊達戻せばいい。そもそも神託として警告は行われていたそうじゃないか。それを無視しているんだ、覚悟はできてんだろ」


神託を受ける巫女さんがこの世界には存在する。こちらは熱心な信仰者がなるようだ。

とは言え、神々が人類に伝えたいことなどほぼ無い。神とて未来は分からんのだ。ただ、気まぐれに熱心な信仰者に助言をしたりするぐらい。だが、神々の名を使い好き勝手やっているから警告を2回ほどしたらしい。無駄だったようだが。

天罰とか一切の干渉は権限が無く不可能だった為、無視されても変わらず見ているだけしかできなかったが、そこへ私という存在が現れた。干渉が一応可能になったのだ。



それはそうと……奴隷商の馬車か……。とりあえずスピード落とすか。


ルナフェリア一行の少し前に大き目の馬車が走っていた。普通の馬車の後ろに牢屋の様な物が繋がって運ばれている。中には奴隷達が乗っていた。


この世界、奴隷は普通に認められている。

何かしらの犯罪を犯して捕まった犯罪奴隷。お金が無くなり身を売った借金奴隷。

この2つの奴隷が存在するが、犯罪奴隷は兎も角借金奴隷は人権がある。

簡単に言えば『お前借金返すまで逃さねぇからな!』というのが借金奴隷だ。衣食住は保証され、住み込みでお仕事となる。暴力も禁止だし、同意のない性行為も禁止だ。これらを破った場合は主の方が罰せられる。そのまま主が奴隷落ち、なんてこともあり得る。借金を返しきれば奴隷からは解放される。


そして、この辺りの決まりがないのが重犯罪奴隷だ。衣食住保証なし、暴力に同意のない性行為も全て認められる。それらを全て含めて罰とされる。殺そうがなんだろうがどうでもいい、いわゆる終身刑の1つとして扱われる。何をしても当然奴隷から戻ることはない。


犯罪奴隷は重犯罪奴隷と軽犯罪奴隷が存在するが、軽犯罪奴隷の方がイメージする奴隷に近いだろう。主人の所有物と見なされ、他の者は基本口出しができない。

犯罪者とはいえ人類なので値段が高く、早々使い捨てる者はいないが……どうなるかは主次第と言ったところだ。



さて、ここで問題がある。少し前を進む檻の中に1人だけ不当に捕まった、所謂見た目がいいから、需要があるからと拉致られた者がいるということか。

テンプレですねー。まあ、金にはなるだろうさ。こういう者は大体でっち上げで軽犯罪奴隷にされる訳だ。そうじゃないとな?


運が悪いですねと素通りしたいところだが、少々その対象が気になる訳で。と言うか超気になる。


「むむむ……」

「どうかしましたか?」

「いやぁ、少し前を奴隷商の馬車が走ってるんだけど、中に拉致られたのが1人混じってるようでねぇ。このまま見なかったことにするか、連れて行くか……」


ジェシカとエブリンが非常に不愉快そうな顔になるが、まあ当然か。


「えっと、子供ですか?」

「子供ね、6歳ぐらいの」

「それは……」


やれやれ……まあ、見なかったことにするという選択肢はほぼなかったんだがな。拉致し返すのはちょろいし。何より気になるんですよ。


「じゃあちょっと拉致ってくるわ。向こうがそれを望むなら……ね」

「え? はい」


拉致するのは簡単なんだよ。そう、《空間魔法》ならね。方法は簡単だ。檻の中に直転移。以上。

檻は周りを布で囲まれていて一応対策はされているようだ。ご苦労様だな。だが無意味だ。



正方形の狭い檻が更に中で仕切られているため余計に狭い。年齢は関係なく男女別で分けられており、犯罪奴隷の男女数人がドナドナされていた。

大半が20以上の大人の中に1人だけぽつんと耳の尖った幼女が膝を抱えて座っていた。ちゃんと綺麗にし栄養を取っていれば、間違いなく将来は美人になると思われる顔をしている。

だが、今は見る影もなく頬は痩せ、綺麗だったと思われる金髪も薄汚れボロボロ、四肢は骨と皮のような状態をしていた。

全てを諦めたかのような顔は、とてもその年でするような顔ではなく、幼女の瞳には何も映っていなかった。


そんな絶望した幼女の前に、不意に装飾はシンプルだがかなりの値だと思うドレスを来た少女が現れた。背は幼女より少し高いぐらい……だろうが、纏う気配がとても少女とは思えぬものだった。

何かしらの犯罪で捕まったボロボロの者達がおり、周囲は黒い布で覆われ外は見えず、ただ覆われていない上部分から太陽の光ぐらいは入る所だ。そんな所に突然貴族、下手したら王族ぐらいの身なりをした少女が1人で現れた。明らかに場違いである。


そして、その少女から言葉が発せられる。

その声もまたやけに落ち着いた、とても年相応には思えぬ声だった。


「他の者達は自業自得だけれど、貴女は違う。付いて来たいなら連れてってあげる。どうする?」


その言葉を聞いた耳の尖った幼女の瞳が揺れ、微かに光が差し込んだ。


「食べ物を探すために森に出て、奴隷商に捕まったようね。このまま奴隷として生きるか、この手を取るか……選びなさい」


スッと差し出された小さな右手。

骨と皮だけの様になった細い腕……細い手に、確かに意思を、力を込めて手を取った。

耳の尖った幼女が掴むのは確かな未来。今この時が、この子にとっての大きな分岐点。耳の尖った幼女はこの日手に取った温もりを忘れない事だろう。


痩せ細った手を確かに握り微笑み頷いた場違いな少女は、その直後に耳の尖った幼女と姿を消した。唖然と見ていた他の奴隷達はいなくなった事で動き出したが、何だったのかは理解できない。



耳の尖った幼女が瞬きした瞬間に周囲の景色が一変していた。何が起きたのか理解できずキョトンとしており、瞬きしながらキョロキョロしだした。


「おかえりなさいませ。付いて来たのですね」

「まあ、この子からしたらそれしか選択肢が無いでしょうよ」


ジェシカに返しつつ、首についている輪っかを外してあげ《魔導工学》で素材へと変え、"ストレージ"に放り込んでおく。


奴隷の首輪は魔道具の一種でそう簡単に外れない。簡単に外れてはいけないものだから当然だ。無理やり外そうとすればそのまま死ぬ可能性があるため、ちゃんとした手順を踏む必要がある。

だが、ルナからすれば魔道具なので関係ない。魔道具を解析し、確実に安全に無理やりぶち壊す力技である。

魔道具の動力源は当然魔力。奴隷の首輪は付けている者の魔力を使用している。だが、魔道具が魔道具である為の魔法陣をピンポイントでぶち壊してあげればいい。そしたらもう機能しないので、外すだけだ。


「さて、この子の名前はセラフィーナ。6歳」

「エルフかぁ……。奴隷商なら喜んで捕まえる……」

「ふふふ……」

「この子……ハイエルフですね?」

「「えっ!?」」

「そう、マハの言う通りハイエルフよ」


耳の尖った幼女。名前はセラフィーナと言い、6歳である。エルフ同士の子供で先祖返りだろう。

金髪にエメラルドグリーンの綺麗な瞳で白い肌。まさにエルフといった外見をしている。まあ……今はボロボロだが。しばらくすれば健康体になるだろう。


エルフやドワーフの上位として、ハイエルフとハイドワーフが存在する。より精霊に近く保有魔力が非常に多い。20歳程で肉体の成長が止まりそのまま生き続ける不老種だ。不死ではない。

古代種とも言われ非常にレアであり、現状先祖返りで生まれた者達しかいない。


「エルフは肉より野菜。特に果実が好きだったっけ?」

「森に住んでいるのでそう言われてますね」

「ふむ。とりあえず"ピュリファイ"」

「んっ……」


"ストレージ"からペルシア(モモ)を取り出すとキラキラした目で見つめている。さっきまでの死んだ目が嘘のよう。子供が幸せそうな顔でパクツイているのは良い物だ。

「聖域の果実なら誰でもああなると思います……」と言う呟きはスルーさせていただく。


「さて……子供用の家具と服か。部屋は流石に今は無理ね……」


椅子、皿にコップ、スプーンやフォークを子供サイズでサクッと作る。

ほとんど喋らないが、最初はこんなもんだろう。《魔導工学》で作っている間も興味津々だったし。この様子ならすぐ元気になるだろう。



夜を越すために道から外れた奴隷商の馬車を抜き去り進む。

セラフィーナが夕食を食べた後船を漕ぎ出したので、ジェシカが自分の部屋で寝かせ帰ってくる。


「あの子はどうするのですか?」

「普通に両親に育てられたけど目の前で亡くし、ハイエルフのせいで村でも浮き、1人で頑張ってたけど結果奴隷商に捕まった……。身寄りもないしこのまま連れて行くつもりよ」

「あの……私が面倒見てもいいですか?」

「ジェシカ子供好きだしねー。私も嫌いじゃないけど」

「私が育てるつもりだったけど、まあいいでしょう。やりたいと言うならやりなさい」

「子育て頑張りましょう、エブリン!」

「私はあまり自信がないのだけれど? 経験なんて無いし」

「私だってありません」


そらそうだ。お前ら未婚じゃないか……。孤児院なんかも担当してなかったようだし。まあ、見守ってるとしよう。そういえばこの2人、この世界だと既に結婚しててもいい年齢だったな。する気無さそうだけど。


忘れる前にベアテにセラフィーナ用の服一式を頼んでおいて。靴はこっちで作るか。

これから行く街で買おうかと思ったけど、ハイエルフだからな……あー、誘拐対策しておくか。GPS的なの用意しておこう。後は種族をエルフに偽装しておこう。とりあえずこんなもんだろう。


◇◇◇◇


あっ! 野蛮な 盗賊が 飛び出してきた!


轢き殺す 轢き殺す

轢き殺す 轢き殺す


選択肢なんかねぇよなぁ? ひゃっはー!


「どっちが野蛮か分かったもんじゃない」

「ハハハ、馬車って急には止まれないのよ?」

「明らかに加速したと思います……」

「最早話すことすら無くなったね……」

「盗賊とは会話するだけ無駄だと知ったもの。というか会話にならない。わざわざ馬車止めて降りるだけ無駄。どうせこのメンツ見たら襲ってくるのよ。戦っても技術無いからつまんないし」

「「…………」」


ジェシカとエブリン、反論できず。盗賊ほいほい。

今はそこそこ開けた草原。魔法を使い伏せて待っていたようだ。魔法使ってる時点で私からしたら『ここにいるぞぉ!』って自己主張してるようなもんだからな。喜んで追いかけ回してやったわ。

草原なのが運の尽き。《結界魔法》によりどんどん狭くなる逃げ場。馬車はどんどんスピードを上げていき、最初のうちは直進だけだったのに曲がり始める。さぞ恐怖しながら死んでいった事でしょう。盗賊に慈悲はない。人権もない。私の愛馬は凶暴です。馬車だけど。


「今回ほいほいされたのは23人か。大量ね」


終わった後には赤黒く染まった草と肉片が残されていた。ついでに馬車にも『色々』こびりついていた。うわきちゃない。

セラフィーナは座ったジェシカの膝の上に乗って、抱き付いていたから見ていない。モザイク必須。見せられないよ。


ただこれ、問題がある。

後処理が面倒くさい……。放置する訳にもいかない。人類だろうと魔物だろうと、余裕があれば死体は焼き払うのが基本。じゃないとアンデッドだったり病気の元になるからだ。更に肉食の魔物も寄ってきたりする。どちらかと言うと病気と肉食対策だ。焼いても骨残ればアンデッドになる時はなるからな。

しょうがない、やるか……。


「じゃあ処理してくるから……」

「はい。ルナ様がはしゃいだ結果ですからね」

「くそう……」


まあ、ヴルカンとウンディーネにやってもらうんだけどね! 私は焼いた後にステータスリングの回収だ。冒険者ギルドにでも渡さんとならんからな。

馬車の扉を開けたと同時に……。


「「「「な、なんじゃこりゃあ!」」」」


という叫び声が聞こえた。

冒険者の様だ。少し後ろに馬車がある。商人の護衛だな。面倒だから放置に限る。わざわざ相手する理由もない。


「ウンディーネ。馬車を綺麗にしてくれる?」

「はーい」

「ヴルカン、残らず焼却。ウンディーネの水も」

「わかったー」


ウンディーネの《水魔法》と液体操作リキッドコントロールにより馬車が包まれ綺麗になる。

ヴルカンの《火魔法》と火炎操作フレイムコントロールで色々赤黒かった部分全てが燃えていく。他の部分には一切燃え移ったりせずにだ。馬車を綺麗にした水はそのまま炎の方に放り込まれ即座に蒸発する。

ヴルカンが火を消すとステータスリングだけ残るので、"プレスティージオ"で全て回収し作業完了だ。ヴルカンとウンディーネにお礼を言って、ぽかんとしてた冒険者達を放置し、馬車に乗り込み出発する。ガチな放置である。

そもそも出てきた盗賊を馬車で轢き殺して《精霊魔法》で処理しただけだし? 何か問題でも?


「もうすぐベリアドースに入りますね」

「次の街が既に領地だったっけ」

「そうなります」

「冒険者の数が随分増えてきたわね」

「冒険者ギルド本部があるからねー」

「この国ではあまり外を出歩かない事をお勧めしますが……」

「そんな治安が悪い?」

「冒険者は男が多いから、この国に来た時は大変だったなぁ……でも稼ぎ時ではあった」

「怪我人多いですからねぇ」

「つまり私が楽できそうな国と言う訳だ」

「「はぁ……」」


とりあえずぶん殴って黙らせればいいと言う超簡単な手段を取れる訳だ。素晴らしい。大体話を聞かないからな、こういう手段が取れるのは非常に楽だ。


という事で、ベリアドース大国西の街に到着だ。一ヶ月半ばだから、遠回りした割には早いな。


新しい子は無難にエルフっ子。

だんだんルナの行動が活発に。開拓も順調に進む。

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― 新着の感想 ―
ドライアド、って言うか木の精霊は木の種類ごとに名前が違っていた気がするな。 ドリアードは樫の木だっけ?
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