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転生先は現人神の女神様  作者: 子日あきすず
ベリアドース 冒険者ギルド本部
45/88

41 女神様、旅に出る?

今回から一応新しい章へ。

この物語は基本的にのんびり異世界で過ごす平和なお話。

たまに盗賊がバラバラになって飛んでったり、魔物が肉片になったりするかもしれませんが、ファンタジーではよくあること。

馬車から出ながら、思わず笑いが込み上げてくる。


「フフフフ、傑作だ」

「えっと、ルナフェリア様?」

「おはよう、ブリュンヒルデ」

「おはようございます」

「これから旅をするからね、馬車を作っていたの。引くのは馬じゃないけど……」

「は、はぁ……」


馬車の全体にマナタイトクォーツが使われ、外側に塗装された木、車輪部分にはゴムと一応偽装されていた。こっそり可動部分はボールベアリングと呼ばれる技術も使われていたりするが。

だが、完全に隠すつもりは無いのか面倒なだけなのか、マナタイトクォーツがちらちら見えているところもあるので、正直あまり偽装しきれていない。

ブリュンヒルデからしたらよく分からない物だらけだった。だが、本人は非常に満足気なので、ブリュンヒルデは何も言わなかった。その本人は馬車に満足したのかルンルンでベアテの方に向かっていった。

馬車の問題は外見よりその中身だったのだが、中を見なかったブリュンヒルデは気づかなかった。



ベアテの作っている服の進捗を確認し、とりあえず朝ご飯を作り、皆で食べる。

シロニャンはまだ最適化中のようだ。旅に出るのは起きてからかな。明日になるかな?



朝食も食べ終わり、のんびりしているわけだが……エブリンがベアテのところにいるのが非常に不安を煽る。あいつ着るのが他人だからって調子乗るのよな。やたら露出高いし。

ベアテは人類の服装に詳しい訳が無く、言われたまま、思いつくがままに作るからな。

かく言う私も、羞恥心とやらが行方不明なんだが。神になって半年ちょっと。前世の時間計算では既に一年ちょっとだ。女性の形をしているだけで無性だからなぁ……。スライムに裸でいて恥ずかしくないの? って状態。


まあ、そんな事はともかく、ギルドに顔を出すとするか。渡すもんがあるとか言ってたな。


「あ、ルナフェリア様おはようございます。そのサイズ久々ですね」

「ええ、おはよう。これが基本なんだけどね。それより渡すもんがあるとか聞いたのだけれど?」

「少々お待ち下さい」


今はデフォルトサイズ。つまり10歳時である。身長的に見ると8歳ぐらい。

何で小さいんですか? 聞いたら『あなた子供好きでしょう?』言われた。自分の息子に娘も育て、孫も軽く世話したし、確かに好きだが、自分がなるのとはまた別だと思うのだが?

胸だけ好みに合わせてでかいのは悪意を感じる。

まあ、自分の姿は自由に変えられるとは言え、最近は別にどうでもいいなとか思い始めた。


「おう、渡したいのはこれだ。これを向こうのギルドで受け付けに渡せばいい」

「なにこれ」

「まあ、万が一にも間違えがないように、だな。ステータスリングとそれの両方見るだろう」

「ふぅん……リングだけで十分な気もするけど、まあいいわ」

「で、頭に何乗せてんだ?」

「んー……ペット? 恐らく精霊に分類されるんじゃない?」

「となると……リングはいらないのか」

「んあー……付けてみようか」


従魔用のステータスリングを受け取って、最適化中で眠っているシロニャンの左前足に付けようとすると、くっついた。

どちらかと言うと精霊だと思うが、従魔用言っても、連携できるだけのステータスリングだから、別にいいんだろう。

出発は恐らく明日、もしくは数日後だろうと伝えて帰る。



「主様、後は金属です」

「流石に早いわね」


ベアテが持ってきた物にマナタイトクォーツを《魔導工学》で加工し、固定していく。

お昼前には完成したので、早速着替えてみる事に。



星晶のドレスアーマー アーティファクト

 ルナフェリアと従魔ベアテと契約精霊達の作品。

 全属性軽減、魔力増幅、衝撃吸収、皺防止、清潔、体温調整、自動調整、自動修復。

 金属はマナタイトクォーツが使用され、布は聖魔布が使用されている至高の一品。

 マナタイトクォーツが衝撃を吸収し、聖魔布が魔力を増幅し、魔法攻撃は軽減する。

 サイズは自動調整され、布部分の軽い破損は自動的に修復される。

 魔力を流せば修復速度上昇。

 現在の所有者:ルナフェリア

星晶のドレスマント アーティファクト

 星晶のドレスアーマーとセットのマント。

星晶のドレスグリーブ アーティファクト

 星晶のドレスアーマーとセットのグリーブ。



ベアトップのドレスで、胸部分は正面を少し開け、下と外側から寄せるようにマナタイトを加工。

スカートが珍しくふっくらしており、長さも脛ほどある。下の方は軽くフリルになっている。

横は太もも辺りまで、後ろは座るのに邪魔にならない程度にお尻上ぐらいまでマナタイトで補強されている。


更に、別装備の『星晶のドレスマント』。

これはベアトップで空いている肩から腕をカバーする物で、上着のようなもの。

袖を通し胸下でマナタイトを使用し固定する。スカートのボリュームもあって、前までは来ない。

このマントは肩の部分と手首から肘までをマナタイトで覆っている。

マントの長さはスカートより長く、足首ぐらいまで。こちらもそこそこふっくらしている。


そして、収穫祭の時に着けていた、ルナクォーツとルミナイトのチョーカーを首に着ける。

靴はグリーブで、マナタイトの膝ぐらいまでのシンプルな靴になっている。


色合いは布部分は全て黒だが、スカートは表が膝ぐらいまで黒、それから下は白。更に内側を見ると聖魔布は全属性使わないと拗ねるのでカラフルだが、見ることはほぼ無い。

マナタイトクォーツの金属部分は透き通った白をしている。黒の聖魔布とマナタイトの水晶の透き通った白で、つや消しされた様な白になる。

チョーカーは黒いルミナイトと青白いルナクォーツの網目状。


マナタイトクォーツを使用した金属部分だが、ゴテゴテしてなく、薄い水晶体が覆ってる様な感じになっている。ダイアモンドのような加工がされているが、下地になっている闇の聖魔布の黒で光は吸収される為、眩しさは感じない。


ちなみに聖魔布だが、マナタイトクォーツで作られたデュランダルで切れた。

軽く振っただけじゃ問題なかったが、しっかりやるとかなり抵抗あるが切れる。その対策も込めてか、このドレスアーマーはかなり布が重ねられている。

そもそも私、物理無効なんだが……? 私のことを思ってやってくれたようだし、言わないが。



早速デュランダルを左側に吊るす。


「どうよ」

「マナタイトクォーツといいましたか。実用性も、見た目も兼ね備えているとは凄いですね……。その格好で普通にパーティー出ても問題ない出来かと」

「後は私がこのスカートの長さに慣れるだけか……まあ、ずっと着てれば慣れるでしょう」

「うんうん、ふっくらしてるドレスもやっぱり似合いますね!」


デュランダルで云々じゃなくて、ただのエブリンの指矩だったわ。どうしてくれようこの気持ち。

露出は胸元だけか。胸こそ隠せとか思うが、私心臓無いので……。

まあ、このドレスアーマーは良い物だ、うん。割りとお気に入りの一品。

ちなみにショーツも作ったらしく、ちょっとサイドにフリルが付いた白でした。




どうせ最適化は1日だろう? 思ってたんだが、シロニャンが起きない件について。

ステータスを見る限り、特に変化はない模様。眷属契約だから時間かかってるのかね。いつ起きるんだろうか。ずっと頭の上なんだが。


とりあえず皆で旅用の物を買って"ストレージ"に放り込んで行く。この準備というのがまた、これから旅だよ! って感じがしていい感じです。……え? この世界の旅は命懸けだ? 知らんな。

正直転移すればいつでも買いに来れるんだがな。そんなこと言ったらベリアドース大国に転移しろってなっちゃうので。

……馬車の旅をしてみたいんだよ! ただそれだけだよ! 戦う力はあるんだし、1回ぐらいは体験しとかないとね。……そのうち空の旅もいいかと思っている。



夕食は鍋だな!

布団作る時に犠牲になった鳥を"ストレージ"から出して、鶏ガラスープに。

白菜と肉を重ねまくってスープに漬ける。ミルフィーユ鍋!


白菜も肉もとろっとしてうまい! ……んだが、精霊達鍋の中に入って食べるの止めない?

スッと白菜と肉掴んで持ち上げると、齧り付いてる精霊が釣れるの笑うから止めよう?

精霊の出汁(加護)たっぷりの鍋だよ。


結局皆が寝る時間になっても、シロニャンは寝たままだ。

布団で仰向けになり、シロニャンを胸元に置いていつも通り《月の魔眼》で世界を眺める。



今日も世界はいつも通り。

戦争してる国もあれば、魔物と日々戦っている国、都市もあり。

道端で野営している商人や冒険者達もいる。夜襲を難なく跳ね除ける人達もいれば、飲み込まれ死ぬ奴らもいる。良くも悪くも、ここはそういう世界で、私の『役目』とは関係ないのでスルーだ。

数匹の霊長類が、数匹の魔物に殺られた。ただそれだけの事。所詮この世は弱肉強食。

元々見ず知らずの者達がどうなろうと、知ったことではなかったが、流石に目に入れば何かしらの行動はしただろう。だが、今は全くそんな気もない。女神としての価値観だろうか。

視点のせいもあるだろうか? 助ける分には転移して片付けるだけだが。

この世界に来て半年ちょっと。……今更な話か。この光景は今日が初めてなんて事は無い。

むしろ日常茶飯事だ。ここはこういう世界なのだから。


と言うか、前世から思ってはいたが『神なのだから人間を助けるのは当然』という発想がそもそも間違いである。今は『神』としての考えと『人間』としての考えを持っているからよく分かる。

まあ、人間……人類からしたらそうあって欲しいというだけなんだろうが。

残念ながら所詮人類などただの動物でしかない。神々からしたら人間だろうがゴキブリだろうが変わらん。どちらも等しく世界に存在する生命の1つだ。

だからなぜ苦しんでいるのに助けない! とか言われても、なぜ助ける必要がある? となってしまう。人間同士ならそら、助けるかもしれない。仲間意識や同族だ。知り合いなら尚更だろう。

しかし、こちらは神だ。種族が違えば価値観が大幅に違う。同じ人間ですら価値観が違う。同じ獣人ですら価値観が違う。だからなぜ助けないと言われても、正直反応に困る。物差しが違うのだ。

そもそも、お前ら人間同士で助け合わない癖に、他種族に助けを求めるのはどうなんだ?

結局は『自分の思い通りになればいい』だろう? 人類の『理想の神』と『実在する神』が違うだけだ。人類の理想は『困った時に手を差し伸べてくれる、都合のいい神』。実在する神はそんな事なかっただけだ。勝手に作った理想像を押し付けられても殺意しか湧かん。寝言は寝て言え。

我々は運命など操ってはいないし、決めてもいない。全てお前達の選択だ。自分で決めてなかろうが、流された結果だろうが、それが自分の選択だ。自己責任。我々神々すら未来は分からん。


前世はともかく、今のこの世界には実在する。ちゃんと祈ってる者や捧げ物などを用意してる者達は感知できる。そう、分かるのだ。だから暇な時に見てはいる。

この世界には神々の奇跡と言われる《回復魔法》という便利な物がある。これの在り方を考えるべきか。法国には喧嘩売られてる気しかしない。建国当時は超級を使えるのがそれなりにいたらしいが、今じゃ私を抜いてジェシカだけじゃね?

この世界、国王の名を使っての犯罪行為はバレたら当然即死刑である。国王程度で即死刑なら、神々の名を使っての犯罪行為はどうなるでしょうねぇ? ま、私が動くのはもう少し後だ。建国後かな。


前世の記憶は確かにある。あるが、今の世界とは違う世界の話。前世の世界でも国が違えば常識は変わる。世界が変われば前世の常識はほぼ役に立たん。

前世の自分は『知識の一部』と思っていた方がいい。実際にこの世界で半年、前世にして1年暮らしたが全然違うのだから……。前世の常識の部分は投げ捨て、この世界の常識を覚えていく。


人間の価値観と神の価値観。正直最近面倒になってきたが、人間の国に紛れ込むならこれを怠る訳にはいかん。いっそさっさと建国して投げ捨てたいと思わなくもない。



……ふむ、この時間は色々考えてしまうな。思考速度も早いから余計に。1人というのも原因だろうか。考えたところで答えはでず、結局は自分が納得できるかどうかでしかないというのに。

結局は自分のしたいようにするのだ。


む……?


「ちゅい?」

「シロニャン起きたか」

「ちゅい!」



名前:シロニャン

種族:サクラートゥスヘッジホッグ

身分:側近

称号:神の眷属

スキル

【???】

 《Unknown》

【種族】

 《半神体》

【固有】

 《スタイルチェンジ》《変化の秘術》《神の代行》

 《忌月の魔眼》《闘気の魔眼》《霊魂の魔眼》《解析の魔眼》

【所持称号】

 一般


 固有

  [転生者][神の眷属]


サクラートゥスヘッジホッグ

 神と眷属契約したハリネズミ。能力は地上の者を遥かに凌駕している。

 体は白く、青銀色の毛を持ち、目は紫。

 主に補充してもらう必要があるが、少量の神力を持つ事ができる。

 サクラートゥス:聖別された・神聖なものとして崇められた。

 青銀:銀に青を混ぜた色。軽く金属の様な反射をする青みがかった白。



ああ、やっぱ種族変わったか。

色合いもちょっと豪華になったというか、神々しくなりましたね。ハリネズミだけど……。

そして、速攻で[月の民]じゃなくなると。


シロニャンは神力を分けてあげたら、早速《変化の秘術》で喧嘩売りに行った。

ハリネズミ状態だと喋れないっぽいし、喋れる人形ひとがたに变化したいようだったな。なんでもいいからとりあえず早い内になれるようにはしておきたいようだ。

とは言え、喋れる人形って何がいるんだ? 《変化の秘術》に人間いるのかね? 今のシロニャンだと瞬殺だろうな……。


《神の代行》は……主の力の一部を使用するか。となると、主によって効果が変わるんだな。

主が月神だと……魔法系ブースト……マナ操作も多少可能なのか。月神と月の民の間か。


相変わらず胸元を陣取ってたシロニャンがビクッとして……「ちゅいー! (くそー!)」と鳴いたと思いきや、すぐに《変化の秘術》で抜け殻になった。

……もしかして負けたんですか? いったい何と戦ってるんです? ハリネズミの見た目してるけど神の眷属だぞ……? 経験不足で負けるとしか思えんな……。

……シロニャン、お前馬鹿か? 何でいきなり熾天使セラフィムクラスと戦ってるんです? いや、確かに喋れるし、人形としては最強クラスだけどよ? ……まあいいか、好きにやらせよう。どうせ死なん。


"オーディール"などの異次元戦闘は精神的に疲れるだけで、デメリットはない。1人での修行には丁度いいと言えば丁度いい場所だ。例え向こうで頭吹き飛ばされようが、ミンチになろうが問題ない。そういう修行の使い方もありかね。


ビクッ!


「ちゅいー! (くそー!)」


……負けたか。やっぱ対空が辛いようだな。魔法ぶっ放しても当たらなきゃ意味がない。

ハリネズミ状態では飛べないからな。精々浮くぐらいか。


「シロニャン、まずは普通に天使アンケロイをぶちのめして、飛べるようになってから順番にいきなさい。そうすれば普通に空中戦よ」

「ちゅい! (分かった!)」


これでよし……と。



さて、後は馬車を何に引かせるかだな……流石にあの狼に引かせるわけにもなぁ……。ツキノワグマに引かせてもいいけど……《召喚魔法》より《人形魔法》で引かせた方が良いか? 《人形魔法》の方が形が自由だし、馬も可能か。うん、そうしよう。


◇◇◇◇


「必要な物は買ったし、これ食べたら冒険者ギルド寄って、旅に出るわよ。ブリュンヒルデは城に戻るのよね?」

「はい、戻らせていただきます」

「ベアテが残るって言うから、用あったらベアテに言うように。《従魔魔法》の"念話テレパス"があるから、私に連絡できるわ」

「分かりました。そのように伝えておきます」

「ということだから、ベアテよろしく。防衛に関してはうるさければ簀巻にして転がしておくなり、どっかに吊るしておいて。力ずくでこようものなら別に始末しても構わない」

「分かりました」

「まあ、蜘蛛系の最強クラスであるアラクネに、喧嘩売るとは思えないけど」

「想像を絶する馬鹿と言うのはいるものですからねぇ……」

「馬鹿しか絡んでこないのはなんとかならないものか」

「『絡む』という時点で馬鹿がする行為ですからね……」

「……確かに。事故に遭ったようなもんね」


朝食をサクッと食べ、予定を決めて、そそくさ行動開始。

えっと、"マジーアボディ"で馬を作り、馬車に繋いでる間にジェシカとエブリンを馬車に乗せる。すると中から「なんですかこれー!」と言う2人の叫びが聞こえたが、とりあえず放置して馬を繋げる。

バタバタと出てきたエブリンにブリュンヒルデが連行されて行ったが、変わらず放置する。繋ぎ終わったのを確認し、私も一先ず馬車へ入る。


「フフフフ。どうだ、私の傑作は!」

「どうだも何も、いったいどうなってるんですか!」


エブリンは今日も元気である。

騒いでる理由は単純だ。馬車の見た目と中の広さが一致していないからだろう。中に入るとあら不思議、それなりの広さの部屋が存在する。


「単純な話よ。《空間魔法》があるんだから、空間拡張出来ても不思議ではあるまい?」

「……えっ?」

「いえ、不思議です……」

「《空間魔法》と言えば空間拡張と転移でしょ! 空間拡張魔法と魔法定着させるやつを凄い必死に開発した」

「おおー……」

「《魔法工学》の"マギフィクサティ"とは違うのですか?」

「違う。"マギフィクサティ"はあくまで『魔法陣の定着』。今回開発したのは『魔法の定着』。魔道具や魔装具で例えると、ある程度品質が約束されるのが前者。性能が完全に製作者次第なのが後者。使用した魔法を定着させる為、使用した魔法がそのまま魔道具や魔装具になる。主に魔法陣が存在しないイメージからのオリジナル魔法に使用する」

「では、この空間も空間拡張魔法を定着して出来た、魔道具によるものですか?」

「そうね、核となるルナクォーツが中心に埋めてあるわ。"マギフィクサティ"と今回の魔法付与……まあ"エンチャント"としておこうかしら? 微妙に違いはあるのだけれど、専門知識だからね」


テンションの高いジェシカとエブリンを馬車に乗せ、先に東門に行かせる。私は冒険者ギルドに寄っていく。

ブリュンヒルデとは暫しお別れ。名残惜しいとか言ってたが、聖域だしな。空気が違うし、聖域果実が食べれて、お風呂もフリー。決まった時間に就寝できるし、そもそも仕事がほぼない。侍女からしたら夢のような職場だろう。流石に旅にまで連れ回す訳にはいかん。



「あ、ルナフェリア様。これから出発ですか?」

「そうよ。一応聞くけどマースト方面の護衛はある? 無いなら無いでこのまま出発するけれど」

「えーっと……確かマースト方面は無かったはずですね」


そう言いながらテアさんは魔道具を操作している。依頼板と連携されているようだ。「検索……護衛、マースト……」とか言ってるし、中々高性能そうだ。


「やっぱり無いですね。マーストへの護衛は人気依頼の1つでもありますし。後はこの時間なら唐突に来るのがいるぐらいですかね」

「唐突に……ねぇ……」


冒険者ギルドに1人の身なりのそこそこ良い男が入ってきた。男は真っ直ぐ受け付けに向かう。


「ようこそ冒険者ギルドへ。ご用件は?」

「商人の者ですが、マーストまでの護衛依頼をお願いしたい。7時に出発予定で、2パーティーほど募集して欲しい。荷馬車が6台になります。途中の街で一泊予定です」


という感じで別の受付嬢と話している。


「……と言うように唐突に依頼が入る事があるんですよ。早朝に採れた良い出来の野菜や魚介類の加工品などなど、出来る限り早く持っていきたい新鮮な物など、我が国ではありますからね。それらの理由がある商人達が、この時間に急いで依頼をする事が結構あるんです。この国特有ですけどね。基本的には護衛依頼の場合1日前とかになります」

「なるほどね……」

「どうします? あの依頼受けますか?」

「こっちは3人だから、依頼内容的に合わないでしょう?」

「いや、ルナフェリア様なら1人で十分でしょう……荷馬車6台1人でカバーできちゃいますよね?」

「……まあ、やれるかどうかならできるわね。む……? そうか、《召喚魔法》で護衛を召喚すれば私もサボれるわね……」

「では1枠取っちゃいますねー」


依頼に関してはテアさんに任せ、念話でジェシカとエブリンに伝える。出発の時間を伝え、それまで東門手前の空き地に止まらせる。ここがどうも、商人達や冒険者達の最終準備場所になってるようだ。《人形魔法》の馬だから、操作は私だけどな。


「では、商談は奥の部屋で構いませんか?」

「いえ、ここで構いませんよ。すぐ終わりますし」

「ではあちらでお願いします」

「ええ、分かりました」


依頼人の商人の男が隅のテーブルと椅子がある方に移動した。


「ルナフェリア様、あちらで最終確認をすることになります。お互いに話して問題ないようなら正式に依頼を受注します。細かな条件や人柄を確認する段階ですね。護衛では基本的な流れになります。本来は1日前に受けて、ギルド側が依頼人に連絡、ギルドの一室で確認になります」

「なるほど、分かったわ」


まあ、確かに。信用でき無さそうな奴を護衛として雇うわけにもいかんだろうしな。


「あ、アクトさん!」

「ん?」


ふと、商人の男が入ってきた男に声をかけた。


「これからマースト行くのですが、護衛依頼どうです?」

「いつです?」

「この後7時には出ます」

「ふむ……まあ食料買うぐらいですが……どうする?」

「良いぞ。あの人の所は報酬良いしな」

「うんうん」

「……と言うことなので受けますが、我々はAランクですが?」

「それについては揃い次第お話します」


ふむ、アクトか。欠損した腕を治してやったPTのリーダーだったな。ランクはAだから申し分ない。が、逆に過剰でもある。ファーサイスマースト間の交易路は比較的安全とされている。例の不死者騒動によりもぬけの殻となった森もある為、余計にだ。

まあ、揃ったようなので行くか。直接話しを聞けばいいだろう。


「もう1つのパーティーは私よ。よろしく」

「……姉さん!?」

「えっと、アクトさんお知り合いで?」

「え、ええまあ。うちのタンク……グラズの恩人です」

「私に加えて侍女が2人。どちらもCランクね。私を含め全員《回復魔法》持ちよ」

「なんと!」

「ファーサイス冒険者ランク詐欺筆頭です……」

「これからベリアドース行ってランク上げるか、ギルド脱退するのよ」

「えっ! 脱退するんですか!?」


テアさんがガタッてしてる。

条件次第では脱退余裕です。国作ったら冒険者どころじゃないだろうし。


「条件次第ではね」


何か祈り始めたテアさんをスルーして護衛の話を進める。

ファーサイスマースト間は本来は安全だが、なんでも不死者騒動があった森に人工物らしき物が出来ていて入れないらしいよ? それで警戒態勢らしい。


……おかしいなー? 心当たりが凄いある。今国予定地は壁で囲んでるんだ。中にある巨大な湖を利用して魔導水路を作るのに、何かが入ってきても面倒だから入り口作ってない。

大通りも決めて、ギルドなどの公共施設を建てる場所も決め、住宅区や商業区なども分けたりしている。《土魔法》で大型重機真っ青の作業してるから、他の生物いると邪魔なんだわ。


さて、どうするか。ネタばらしするべきか。知らんぷりするべきか。

そもそもあそこは未開の地で、どこの領土でも無いし、開拓できるならやってみろ状態の場所だから、文句言われる筋合いは無いのだが。国王にはあそこ開拓するからって言ってあるし?

ふむ……。


「それって、森に入ってしばらくすると黒い壁がある所の事?」

「え、ええ。そうですね。知っているんですか?」

「……知ってるもなにも、現在進行形で私の分身体が開拓してる場所ね」

「「えっ!?」」

「私の引越し先を開拓してるのよ。《土魔法》で調整してるから、生物いると邪魔なのよね」

「…………」

「流石姉さん。規模がでかい」


商人の男はポカーンとし、何故かアクトは感心している。


「えっと……では警戒する必要はない……と?」

「その壁の事で警戒しているなら不要ね。中も私の分身体しかいないし」

「……証拠のようなものはありますか?」

「証拠ねぇ……。あー、なんなら中に行きましょうか。"ゲート"」

「えっ」


《空間魔法》自体が難しいとされ、使えても初級が大半のこの世界。しかし、いともたやすく上級の"ゲート"を使用した事に商人の男は驚愕していた。

アクトを含めた冒険者達は普通だった。なぜなら普段ギルドから帰るのが転移だからである。

《月の魔眼》を使用した、目視の短距離転移魔法"ジャンプ"を使用している。だが、他の者からしたらそんなことは分からないので、超級の長距離転移魔法"テレポーテーション"を使用しているように見える。しかも魔法陣の展開すら見えず、瞬時に、唐突に帰るのだ。上級の"ゲート"ぐらいじゃもはや騒がないように訓練されていた。

不死者の森の時に、転移で突然現れたルナフェリアに助けられた経験のある冒険者もそこそこいる。そのせいもあるだろう。冒険者ギルドでルナフェリアに絡む馬鹿はいない。いた時点でよそ者確定である。



"ゲート"を潜るとそこは森の中だった。

はるか遠くに壁らしき物がぐるっと囲っているのが見える。超巨大な大木が存在し天を覆っているが、大木と大木の側にある巨大な湖は青白い光を微かに発している為、暗くは無い。湖から伸びている水路も光を発し、至る所へと伸びている。非常に幻想的な光景が広がっていた。


「この大樹は御神木。永い間存在し、大量のマナを放出するように変化した、森の神と言えなくもない存在。植物達にとってマナは栄養となる。そして御神木の葉がこの湖に落ち、溶け込む。故にこの森は豊かだった。不死者のせいで見る影もないが、それを修復し精霊達の棲家とするつもり」

「これは……なんとも……」

「ま、見ての通りこんな状態だから中は安全ね。私の分身体だけよ」


指差す先には軽く浮いた状態で飛び回るもう1人の私が存在する。順調に整地されていっている。

正直出発までそんな余裕は無いので、さっさと帰る。こっちは準備万端だが、アクトPTはそうでもないだろう。


「さ、帰るわよ。準備必要でしょう?」

「貴女は何者ですか……」

「なんであろうが私は私でしかない。私は私のしたいようにする。……そろそろ結界張ってマナ濃度上げようかしら……」

「……冒険者相手に詮索するのはあれですか。良いでしょう。では護衛よろしくお願いします」


商人は早々に考えを破棄し、私と好意的である事を望んだか……。まあ、商人とはそういう生き物だし敵対しない限りは別にいい。頭の悪いやつと回転の遅い奴は商人などできん。

アクト達は流石姉さん! としか思っていなかった。最早信者とも言える状態である。そんな信者(アクト)達から目を逸らし、ギルドに戻る。


ギルドで正式に護衛依頼を受け、各自準備に入った。警戒する必要はなくなったが、もうこの際だからとそのままアクト達を雇うらしい。まあ、比較的安全とは言え、盗賊はどこでもいるからな。

一応私も馬車がある事を伝えておいた。馬車計7台の大所帯だ。アクト達をそれぞれの馬車に配置し、私は1番後ろを馬車で付いていく。

馬車に対して明らかに護衛が少ないと、盗賊に狙われやすい。まあ、当然の事だろう。その為もう1PT雇うかと言う話も出たが、《召喚魔法》で嵩増しするから私が却下しておいた。



《召喚魔法》では1番弱いが、1番消費が少なく伸びしろがある。そして、術者の影響が一番出るのが初級だ。

初級では騎士を召喚する。この騎士は戦えばじわじわと経験を積む。追加されてからファーサイスの騎士と遊ぶ時は、この騎士を召喚して手合わせさせたりしていた。

騎士はAIがクラウド的な物で、肉体は魔力のある限り作れる。故にそれぞれが積んだ経験は全て蓄積され統合される。上級だとワイバーンとか呼べるが、あの辺は個がある故1体しか呼べない。

ファーサイス騎士100人Vsルナフェリア召喚騎士100体のプチ戦争訓練。これが中々悪くない。私としてもファーサイスとしてもお互いの騎士が経験を積むため、非常に良い訓練だった。


召喚騎士は戦え、待て、座れ、付いてこい、対象を守れなどの簡単な命令を実行する自立型だ。

このAIが使えば使うほど優れていき、より複雑な、融通の効くAIとなっていくようだ。騎士の肉体的な戦闘力は術者の召喚次第だが、中身のAIはどのぐらい使用し、どれだけ濃厚な戦闘をしたかで同じ召喚騎士でも遥かに変わる。

いくらマナを注ぎ込み召喚しても、力や耐久、素早さは優れるが、AIが馬鹿なら技術を持たない力任せの騎士になる。力のゴリ押しが効くのは一定までだ。それ以降はよくて囮だろう。


新人騎士Vs召喚騎士、一般騎士Vs召喚騎士、ベテラン騎士Vs召喚騎士とみっちりやって、プチ戦争訓練も数回やったから、うちの召喚騎士はそれなりにやるぞ。ついでに《人形魔法》の人形Vs召喚騎士とかな。収穫祭まで暇だったし、なんでも良いからとりあえず経験させてった。

結果が多分、現状冒険者のCランクぐらいはあるんじゃないかな……? 肉体的にはぶっ飛んでるけど。まあ、技術的にはCランク程度だろう。護衛として嵩増しするなら十分。見た目も目立つしな……。



さて、我々は既に準備できてるので東門で待ってるとしますかね。

揃い次第出発する事をジェシカとエブリンに伝え、馬車の中でのんびり過ごす。シロニャンは当分《変化の秘術》で抜け殻だろうから、頭の上に固定。変化できる選択肢が増えれば増えるだけ、シロニャンの戦闘力が上がっていく訳だからな。


少し離れた所に馬車が6台並んでいるから恐らくあれだろう。忙しなく人が行き来し荷物を乗せ、確認やらなんやらしている。

しばらくしてアクト達もやってきて、程なくして商人側も準備が終わった為出発する。この馬車の事はジェシカが東の防衛部隊の人に言ったらしく、すんなり通過する。


この世界に来てから初めての……馬車の旅が始まる。


軍服風ドレスも好きですが、ドレスアーマーも好き。

前話の後書きで星晶シリーズをネタバレしてた間抜けが私です。

_| ̄|○

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― 新着の感想 ―
ゲートを見た商人さんは「これで連れて行ってください」とは言わなかったんだね。
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