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幕末最前戦の戦士たち  作者: コトハ
はじまりは夢の中で
21/54

睦月と雪二

夢の中でも風邪は辛いらしい。



いつ救護室に帰ってきたのか、朝、沖田さんの布団を畳む音で目が覚めた。


「具合は………悪そうだな。今日から鍛えようと思っていたのに」


「残………念でしたね………」


昨日よりも喉はがらがら。


まだ、熱があるな。これは………


今日は一日静かに寝ておこう。





と、思っていたけど、藤堂さんの声で、たたき起こされた。


「福田ー!また、倒れちまった!!」


障子を開けて、寝込んでいるのに気付くと


「あ?だったな!福田熱あるんだったな!馬越はどこだ!?」


「今朝は………まだ会っていないので………分かりません」


「お前、今頃声変わりか?しゃあねぇな………」


藤堂さんは障子を勢いよく閉めた。


もう一度目を閉じると


「救護室はこちらですか?」


外から声が………


もう寝たふりしようかな………


髪の毛ぐちゃぐちゃだし、着替えてないし………


「どうしました?」


外から馬越さんの声がした。


「腕を捻ったようで、ここで診てもらうようにいわれたので」


「………ああ、福田さん寝込んでますから………」


しばらくして、馬越さんが救急箱を取りに来た。


「借ります」


「すみません………今日は休みます………」


「はい。分からないときは、吉川先生紹介します。凄い声………」


ちょっと眉を上げて、部屋を出ていった。



寝よう………


「福田君!」


近藤局長がやって来た。


「大坂へいっている間の預け先が決まったよ!」


「………はい」


「酷い声だな?熱もまだあるのかい?」


局長は額に手を置いた。


「私………どこ………預けられるんですか?」


「会津のつてで、下女があってそこに三日だけお世話になりなさい。本当は一日のつもりだったが、それじゃ無理だと言われて………人手がいるらしいよ」


下女って、家事手伝いかな?


私、竈の火も上手く付けられないのに………


何だか不安が押し寄せてきた。


「ここで………待っていては駄目ですか?」


がらがら声で聞くと


「わしも総司もいないんだぞ!………昨日だって、井上君だから良かったものを、他の隊士だったらと思うと………」


近藤局長はぽんと拳で手のひらを叩いて


「心配だから、井上君にも行ってもらおう!」


と、頷いた。


「………ところで、馬越君は大丈夫だろうな?」


はい。全然気付かれていません。


こくり頷いた。


「馬越君と並んでいると、二人ともかわいい顔しているから目立たないからな」


馬越さんが聞いたらぶちギレそうだな。


「後で、滋養のつくものでも持たせる。ゆっくり休むといい」




局長が帰って目を閉じる。


ゆっくり寝たい………



「福田!馬越どこ行ったよ?!」


藤堂さんが勢いよく障子を開けた。



本日休診って、誰か貼っといてよ………








うつらうつら頭痛と戦いながら、人の気配で何度か目を覚ました。


馬越さんにお茶や白湯を飲まされたり、井上さんがお粥を持って来たり………


ああ………風邪って、こんなに苦しかったかな


頭が痛い


喉が痛い


鼻水も止まらない


関節も痛い


もう全部痛い!







「………井上さん。そんなに覗き込まなくても、生きてますよ」


「………え?」


「何かあったのですか?いやに福田さんにつきっきりではないですか?」


「局長に頼まれましたから、様子を見てくるようにと………」


「男の面見ててもつまらないでしょう?でも、よく寝てるな………」



二人の話し声で目を開けた。


部屋はすっかり暗くなっていた。


井上さんが心配そうに見下ろしている。


「気分はどうですか?」


「…………!?」


大分良くなりましたと答えようとして、声が出ないのに気付いた。


馬越さんも寄ってきて


「あれ?声が出ないのですか?」


こくり頷くと


「口開けて下さい。あーん」


え?ちょっと恥ずかしいんですけど!


「喉が腫れていないか診るのですよね?診察間違ってますか?」


間違ってないけど………


仕方なく起き上がって口を開けた。


馬越さんは顎を支えてもう一方の手で、唇の端に指をかけて口を広げた。


「………あ。喉が真っ赤だ。ふーん。こうなると声が出なくなるのか………」


恥ずかしいから早く診察止めてください………


ふと、井上さんを見ると、ぽかんと口を開けたまま固まっている。


「で、どうしたらいいのですか?ああ、話せないのか。書くもの………」


聞かれても、薬飲んで、うがいして安静にしかわかんないよ。


本気で医者の見習いなんて言ったのを後悔してきた。


頭痛が………


馬越さんに筆と薬の足りないものリストを書く帳面を渡された。


『うがい』


ひどい字だ。筆で書くって難しいよね。


「うがい?それで?」


それだけだよ!多分………


口パクでもう一度『う・が・い』と答える。


「では、うがいを」


とお茶の入った湯呑を渡された。


えー、だるいから、外行きたくないんだけど。


こういう所、不便だよね。


水回りが、外って。


髪を手櫛で直して結んで、布団の中で着物を直す。



外は夕餉の時間で、雑魚寝の部屋からは隊士達の声が聞こえてきた。


ご飯の準備、かよさん一人で大変だったんじゃないかな………



井戸端でうがいをしていると、かよさんに怒られながら御膳を運ぶ隊士が二人、目の前を横切った。


こないだ給金いつ出るって聞いた杉山さんと馬越さんとケンカした人だ。


「ズウタイばっかり大きゅうて、さっさとしいや!」


かよさんはこっちに気が付いて、


「おかげんはどうどす?福田はんおらんと大変で大変で………あ!汁こぼれますやろ!!」


………すごい。こき使ってる。


「福田はん、しばらく留守にされるんでっしゃろ?局長はん達も大坂行かれるそうやな。うち一人で大変やわ………井上はんも行かれますの?」


そういえば、局長が私と一緒に行かせるとか言ってたな。


こくり頷いた。


「あの人、手際よろしゅうて、江戸の味も教えてもろうて………ここの料理人されたらええのにな。刀より包丁のがお似合いやわ」


そんなに料理上手なんだ。井上さん。


「はい。食事の支度、楽しかったです。また、近藤局長にお許しを頂いたら手伝わせて下さい」


「?!」


いつの間に、後ろにいた?!


「もう、今すぐお手伝い頼みたいわ。あの二人福田はんより使いもんにならへん!」


井上さんはにっこり笑って、かよさんを見送っていた。


いつも、気配がないんですけど、忍者か?この人は??


「声まだ出ないんですね」


こくり頷く。


「私も、福田さんと一緒に行くことになりました」


頷く。


井上さんの手を取って、手のひらに指で『ごめんなさい。ごめいわくをおかけします』と書いた。


井上さんはにっこり笑って


「どうして、気が付かなかったのかな。どう見ても、福田さんは娘さんにしか見えないのに。まだまだ、修練が足りませんね」


修練?


もう一度井上さんの手を取って書いた。


『いのうえさんはにんじゃですか』


「忍者………違います………」




「井上君と福田君。手と手を取って何やってんの?そういうのは、陰でこっそりやんなさい」


井上源三郎さんが咳払いをして歩いてきた。


「申し訳ありません」


井上さんは手を放して平然と詫びた。


ええ!ちょっと、否定してよ!!変な風に思われるじゃん!!!


「近藤さんといい、福田君はもてるね~」


思いっきり首を横にぶんぶん振った。


「冗談はさておき、君は芹沢局長と親しいのかね?」


井上源三郎さんは空を見上げて言った。


………親しいという程では


「あの、福田さんは風邪で声が出なくて」


「そうなのかい?では率直に聞くが、近藤さんと芹沢局長どちらか選べと言われたらどちらにする?」


井上源三郎さんは、右手と左手を交互に出した。


どうして、こんなことを聞くのだろう?


どっちも、浪士組の局長でしょう?


あれ?もう一人いなかったかな?


井上源三郎さんを見つめていたら、ふうとため息をついた。


「………最近、苦情が多くてね。頭が痛い。考えの違う人が集まって、立場も違ってくると、なんでこう変わっていくのかな………」


井上さんは真っ直ぐ源三郎さんを見ていた。


私は、源三郎さんの右手をとった。


『だいじょうぶですか』


そんなことしか言えない。


源三郎さんは、頷いて


「大丈夫に決まっているだろう………風邪が治ったら、二人とも遊びにでも連れて行こう」


ニヤリ笑った。


「井上君は今夜お供するのかい?」


「いえ、井上さんがご一緒なら私は不要でしょう」


「井上同志で紛らわしいな。源さんでいいよ。お供なんて付けるから、偉くなったと言われんのか?」


井上さんは一瞬眉間にしわを寄せた。


「お前さんのせいじゃないよ。気にしなさんな」


ぽんと源さんは井上さんの肩を叩いた。



井上さんがお共って、近藤局長の事だよね?


偉くなったって、近藤局長は局長だから偉いんでしょう?


それっていけないこと?



救護室に戻ると、馬越さんが三つの御膳の前であぐらをかいて待っていた。


「遅い」


私たちが席に着く前に手を合わせて、さっさと煮物に箸をつけた。


「………不味い………誰だこれ作ったのは………」


杉山さんと、馬越さんがケンカした人だよ。


隣に座った井上さんも口に入れるなり、飲み込んだ。


「………福田さんが作った方がまだましです」


誉めてないだろそれは………


どれどれ、私も一口………


「!」


煮物なのに、何か酸っぱい………


ゴクリ大根の煮物を飲み込んだ。


喉が痛い。


「俺もう風呂入って寝ますね。福田さんが寝込む日に限って、怪我人多いから疲れた」


ごめんなさいと頭を下げた。


「井上さんはまだ福田さんを見張ってるのですか?」


「はい。沖田さんがお帰りになるまではここにいます」


「………何故?」


馬越さんの質問で、井上さんは明らかに狼狽した。


「何故?局長命令だからです」


「だから、何故?福田さんは逃げ出したりしませんよ。最近脱走者が多いから、見張ってるのではないのか………何か変だよな、昨日から………」


そういえば、女だってばれてから、ずっと井上さんは側にいる気がする。


寝ていたから、ずっとではないかも知れないけれど………


「やっぱり何かありましたか?」


「局長命令です」


馬越さんはちらり、こっちを見た。


私は首を傾げる事しか出来ない。


「………俺だけ仲間外れか………」


馬越さんは膨れっ面でお膳を持って部屋を出ていった。


か………可愛い………何?今の顔!


井上さんはお茶を入れながら


「………私、不自然でしたか?今まで通りにと気を付けているのですが………」


帳面と筆をとって返事した。


『ずっと側にいるからじゃないですか?』


「それは局長命令だからです」


『側にいろと言われたの?』


「局長や沖田さんが留守の間は、なるべく目をかけるようにと……」


『それじゃ井上さんが大変でしょう?私は大丈夫ですから』


「いえ。務めですから」


………だめだこりゃ


明日、近藤局長に話して今まで通りにしてもらおう。


『真面目ですね』


そう書くと、井上さんはきょとんとした。


少し風邪も良くなって、眠たくないけど、井上さんに寝るように言われた。


布団で天井の模様を見つめていた。


井上さんは、刀を点検したり、明かりを見たり………


部屋を出ていったと思ったら、雑巾と桶を持ってきて、畳や柱を拭き始めた。


私の近くまで畳を拭いてきて、目が合うと


「あ、うるさかったですか?埃が酷いなと思いまして」


そう?全然気にしてないけど。


井上さんの広げた雑巾は真っ黒だった。


汚っ!


そういえば、この部屋掃除したことないな。


風邪治ったらちゃんとしよう………


十二畳の部屋を拭き終わっても、沖田さんは帰って来ない。


起きて帳面を取った。


『沖田さん遅そうだから、先に休みましょう。井上さんは隣の部屋で寝たらどうですか?外してある襖付けて』


「気にしないで下さい」


気にするだろう………


『井上さんが起きているのに私だけ眠れません!お願いだから寝て下さい!!』


帳面を目の前に突き出す。


井上さんは雑巾を持ったまま、きょとんとしていた。


布団から立ち上がって、部屋の隅に立てかけてあった襖を運ぶ。


でも、溝にはまらない………上からはめるのかな?下から?


何とか一枚はめた。


あと、三枚。


「分かりました。休みます。実は昨日から寝ていなくて、動いてないと寝てしまいそうなんです」


井上さんは残りの三枚の襖をはめて、隣に布団を運んだ。


「何かあったら起こしてください」


頷くと襖を閉じた。


これでゆっくり眠れる………





明け方物音で目を覚ますと、隣に寝ていた沖田さんの上に襖が一枚倒れていた。







声も少しは出るようになった。


朝稽古も今日まで大事を取って休んだ。


朝餉の支度にかよさんの所へ行くと、杉山さんとケンカした人が鍋に味噌を入れようとしていた。


杉山さんの手にはおたまにすくった醤油が………


「ちょっと待った~!」


大きな声を出して咳き込みながら、おたまをを取り上げる。


「何………げほ………入れてんですか!」


声が掠れて聞こえなかったのか、杉山さんは


「おう。福田さん俺にまかしとき!」


いやいや!任せとけないから!!


「あら、福田はん良くなられたんどすな」


かよさんが前掛けしながら入ってきた。


「かよさん!醤油入れようとしてます!!」


聞こえなかったのか、え?と、かよさんは鍋を覗き込んだ。


黒い液体が目の前で注ぎ込まれた。


「は?!何したん!!ちょっとお味見てみい!!!」


慌ててかよさんが、おたまで小皿に取った。


「………しょっぱい」


だろうね。あんなに味噌も入れて醤油も入れたらね。


「しょっぱい?!砂糖入れよか?」


ケンカした人がつぶやいた。


もう、この二人、料理担当クビにしてください。



その後、おかよさんがお湯を入れて味を調節したことは黙っとこう。






馬越さんと一緒に足りないものリストを作る。



「包帯、湿布、消毒液、それから………」


昨日から夢見っ放しだ。


やっぱり頭おかしくなってるのかな………


「福田さん?ため息ばかりついてますよ」


「え?すみません!えーっと、足りないものは、湿布と……」


「さっき聞きました」


馬越さんはいつもの無表情で帳面を突き出す。


達筆すぎて読めない……


「あの…こういう楷書で書いてもらえません?読めないんです。このひょろひょろ字」


筆を借りて楷書で〈湿布薬〉と書く。


「でも、書けないと何かと不便ですよ?ひょろひょろ字。手解き致しましょうか?」


馬越さんは文机を持ってきて私の前に置く。


帳面の紙を一枚破いて


「湿布薬……こうです」


「こうですか?」


ひょろひょろーっと


「ここは、つなげた方がいいです」


なるほど……


「どうでしょうか?先生!」


顔を上げると、馬越さんが私の書いた文字の隣に、さらさらとひょろひょろ字を書く。


「なんて書いてあるんですか?」


「ため息のわけは、なんでしょうか」


「え?」



顔を上げるといつもの無表情でこちらを見つめている。


「恋わずらい………でしょうか?」


「誰がですか?」


「あなたしかいないでしょうが………」


「………馬越さんて、最初から、素っ頓狂なこと聞きますよね」


「……そういえば、一度も当たりませんねぇ~」


そうそう衆道だの妾だの



「福田さん昼飯まだでしょう?」


「ひぃっ……!!」


振り返ると井上さんが笑顔で立っていた。


この人は本当に気配がないからびっくりするよ。


やっぱり忍者なのではなかろうか?


「近藤局長から、福田さんを一人にするなと言われましたから、誘いに来たんですが………」


忘れてた!近藤局長に話して、今まで通りにしてもらうの………


井上さんは声を落として


「芹沢局長と何かあったんですか?」


「別に?ああ、前に食事に誘われたことがありましたけど、断りましたよ。まだその事で、近藤局長は心配されてるんですか?近藤局長って、お父さんみたい」


井上さんの顔が疑問形になってる。


「手込めにするとでも思ったか!って、芹沢局長も不機嫌になるし……手込めって何?井上さん知ってます?」


「………え?それは………」


口ごもってしまった


「それはですね。無理矢理襲って……」


「わーーー!!!」


馬越さんの答えを、井上さんが慌てて遮ってしまった。


「何で大声出すんですか?私変なこと聞いてます?」


「全然。一般常識です。他にも色々お教えしましょうか?手込めってのは………」


いつもの無表情の馬越さんが耳打ちして教えてくれた。


井上さんが顔を抑えてやれやれと頭を振った。


「!!!それって、犯罪じゃないですか!」


何事もなかったように


「芹沢局長に手込めにされなくて、よかったではありませんか。気に入られているご様子でしたからね」


「芹沢局長は、そんな人ではありません!心配しすぎです!」


馬越さんは井上さんを見て


「この人はあほですか?」


あほ?!


「もういいから、昼飯にしましょう。食いっぱぐれますよ」


井上さんが困った顔で提案した。


「もう一つ確認したいことが………」


馬越さんはこほんと咳払いをして


「昨日から二人の様子がおかしいのは、井上さん………」


「はい?」


「福田さんに懸想しているわけでは………」


「ないです」


井上さんは即答した。


「そうか、良かった。もしそうだったら、俺居づらいなと思って。腹へったなぁ~」


けそう?


「あの………けそうって、何ですか?」


私の質問に馬越さんが呆れたように答えた。


「福田さんは何も知らないですね。箱入り娘みたいだな………失礼」


どうせ私はあほですから!




夕刻を迎え、八木家の女中のかよさんと夕餉の準備をしていると、土方副長が顔を出した。


「福田君。預け先が決まった」


大阪へ行っている間死ぬ気で働く所?だよね。


「夕餉が済んだら、八木邸へこい」


「………はい」



どこへ行くことになるんだろう……


急に心細くなってきた。



大丈夫


夢だから大丈夫………


しかし、いつになったら覚めるんだろう?





夕餉を終えて八木邸へ向かうと、奥の部屋に井上さんも呼ばれていた。


他には近藤局長と土方副長だけ。


他の皆さんはどこへ行ったのだろう?


とりあえず井上さんの隣に正座する。


「………しばらく福田君には、東町奉行の永井殿の所に行ってもらう。そこの公事宿で女中の仕事してくれるかい?」


近藤局長が困った笑顔で続けた。


「何の心配もしなくていい。なぁ、歳?」


「ここにいるよりは、安心だろうよ」


「………はい」


近藤局長が風呂敷包みを差し出した。


「これに着替え行きなさい」


「井上君には、不逞浪士の偵察も兼ねて、福田君の様子を見に行かせるから」


「………はい」


女中の仕事………


どうしよう


私家事は超!苦手なのに。


大丈夫かな。


知らない家でかよさんみたいに、竈でご飯炊けないよ……


不安な気持ちで土方副長を見ると涼しい顔で


「死ぬ気で働け。以上」


はあぁぁ……


どうしよう!





救護室に戻ると灯りがついていた。


「沖田さん!お帰りなさい!」


障子を開くと


「酒臭っ!」


羽織袴のまま沖田さんは布団に仰向けになっている。


「お酒飲み過ぎたんですか?着替えて布団被って寝ないと、風邪引きますよ!」


沖田さんは目を閉じたまま


「………寒い。お前どこ行ってたんだ………」


「土方副長に呼ばれて、隣に。沖田さん達が大阪行ってる間、東町奉行の永井殿の所に行くんです」


風邪引いたらいけないから布団被せとこう。


「………なんで……?」


「それは、こっちが聞きたいです!」


しかし布団が重い!


よろけて布団ごと沖田さんの上に


コケた!


舞った布団の風で灯りが消えてしまった。


真っ暗………………



「………ぐぇ!」


「わっ!大丈夫ですか?!」


変な声した!


沖田さんの胸に手をついたからあばら骨が折れたかも!


「………沖田さん?………あれ?」


ぎゅってお腹の上で抱きしめられて、起き上がれないんですけど………


「あったかいな……」


「………どうせネコだと思っているんでしょう?離して……」


「………嫌かな…人を斬った手で………触られるの……」


「………沖田さん?」


「………嫌だよなぁ………きっと………」


腕の力が緩んで規則正しい寝息が聞こえてきた。


沖田さんの胸に顔を埋めたまま


「………もう、本当に酒臭いってば……」


私のいた所では殺人犯だけど


「………嫌じゃないよ」


ドクンドクン………


沖田さんの心臓の音


誰かに嫌だって言われたの?


「ねえ…沖田さん?寝たんですか?」


ドクン………ドクン……………


心臓の音


「………お光さんに言われたの?」


また泣きそうになって、沖田さんの頭をよしよし撫でた。



























「………ごめん。起きないみたい」


沖田さんの声がする。


「課題のプリント持って来ただけですから。明日は学校来れそうですか?」


!?


久美ちゃんの声がする。


「どうかな?こいつちゃんと授業ついていけてる?」


「………ごめんなさい。私のせいで」


「久美ちゃんのせいじゃないよ。昔からぼーっとしてたろ?」


「あの!もし、授業分からない所あったら、私でよかったら全力で教えますから!もうすぐ中間テストもあるし!!」


中間テスト!?


ヤバイよ。


全然勉強してないよ。


特に英語とか全然暗記してないよ!


寝てる場合じゃない………起きて勉強しないと………

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