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幕末最前戦の戦士たち  作者: コトハ
はじまりは夢の中で
20/54

睦月と雪

話し声が聞こえて、暖かい布団の中で寝返りを打つ。


喉が痛い………頭も痛い………




「大丈夫か?すごい熱だな………」


近藤局長の声がする。


もう新選組はいいってば!


「馬鹿も風邪ひくんだな」


沖田さんの声!


お光さんの事ばらすぞ。




なんとか目を開けると、井上さんが額に濡れた手拭を置いてくれた。


慌てて、目を閉じる。



何でいるの?


私嘘ついてたのに。




「近藤さん、やっぱりここに置いておくのは無理なんじゃないですか?そのうち馬越君にもばれますよ」


沖田さんがあきれたように言う。


「頑張ってくれているじゃないか。救護室もいてくれるだけで隊士達も心強いしな」


「あの………」


井上さんが口を開いた。


「何故男の振りをさせるのですか?女では何か不都合があるのですか?」


近藤局長のかわりに沖田さんが答えた。


「福田がかわいいから心配なんだって。井上君。信じられないだろ?」


「かわいいだろう福田君は!不器用で飯も焚けなんだが、一生懸命働いているだろう!八木家からも福田君は評判良いんだぞ。段取り悪いが、大分マシになったって。あの芹沢さんだって気に入ってしまって………心配だ………」


「………かわいいって意味違いますよ。近藤さん………」


悔しいけど沖田さんに賛同。


それはただ私が役立たずだと遠巻きに言っているだけでは?


………っていうか、周りの皆さんに私はそんなふうに見られていたんだ………へこむな………


「俺なんか変な誤解されて、嫁にもらえとか言われるし………こいつだけはお断りだ」


絶対!お光さんの事ばらしてやるから!!!!



井上さんが口を開いた。


「失礼ですが近藤局長。福田さんは局長の妾ということでしょうか?」


めかけって何?


「いやいやいやいや!そんな気は毛頭ない!!何というか、娘のような感じというか、何とも言い難のだが………」


うん。私もたまにお父さんみたいに思えるよ。



「それで、どうするんですか?近藤さん」


沖田さんの質問に、近藤局長がうーんと黙ってしまった。



「………もう少し頑張ってみたいと福田さんは言われてました」


「そうなのか?」


井上さんの言葉に近藤局長はうれしそう。


「しかし、このままでは局長の体面にかかわります。どうしても、このまま置かれるというのであれば、それなりの理由が必要です」


井上さんの提案に沖田さんが答えた。


「たとえば男もなぎ倒す剣の達人とか?だったら、誰も文句言わねぇな………」


「こんな細い腕で無理だろ」


近藤局長が呟いた。


うん。無理。


「じゃあ………凄腕の医者ですか?でも、こいつ、見習いも見習いで、傷も縫えないみたいなこと言ってたなぁ………」


何だかみんな黙ってしまった………


私って、何もないじゃん。


「しょうがねえなぁ………剣の方は俺がしごきますから、医者の勉強はこいつの努力次第ということで」


沖田さん………珍しく優しいじゃないですか………


「次ばれたら追い出しましょう」


前言撤回!



「では、今まで通りという事ですか?」


井上さんの質問に、近藤局長は


「そうしてくれるとありがたい」


「分かりました。局長の命令であれば………一つ提案があるのですが」


目を開けると、井上さんが見下ろしていた。


「目が覚めましたか?もう少し、小汚くされた方が良くないでしょうか?」


沖田さんと近藤局長も上から覗き込んだ。


「うちの姉達より、肌は白すぎますし、指だって華奢すぎます。首だってこんなに細い」


近藤局長は頷いて


「そこが、かわいい所なんだが………大丈夫か?福田君?」


沖田さんがかわいいって?とうんざりした顔をした。


「はい。かわいすぎます」


「ええ?!」


さらりと言った井上さんの方を沖田さんが信じられないという顔で見た。


私も頬の体温が上がって咳き込んだ。


「もっと鍛えて体つきもたくましくして下さい。そこは沖田さんお願いします」


「えー………」


近藤さんはまじまじ見下ろして、


「覆面でもさせるか」


井上さんが真面目な顔で意見した。


「それは別の意味で、皆に興味をもたれるかと………」


「近藤さんってたまにツボだよな………」


二人の突っ込みがおかしくて笑ってしまった。


笑った拍子に咳が出た。






「失礼!近藤局長。芹沢局長らが遅いとご立腹でお待ちです」


馬越さんの声で、三人はさっと視界から消えた。


「どれ、出かけるか。後は井上君、馬越君頼んだよ!」


近藤局長は沖田さんとあたふた出て行ってしまった。


「あれ?福田さん具合悪いのですか?」


「はい。風邪のようです」


井上さんは、普通に答えて


「粥でも作ってきます」


そういって、出て行った。



「薬飲みましたか?」


馬越さんは救急箱から風邪薬を取り出して、白湯と一緒に渡してくれた。


体を起こして薬を飲む。


外は薄暗くなっていた。


「何かありましたか?」


「え?」


がらがら声で返事すると、また咳が出た。


馬越さんが背中をさすってくれたけれど、避けるように布団に潜った。


井上さんは柔らかかったから気付いたと言った。


残念だけど、私の胸なんて標準だ。


ちゃんとさらしで巻いていたのに………


これ以上ばれたら追い出すと、沖田さんは言っていたし……


「怒っているのですか?娘さん送って行ったから?」


「………怒ってません」


「さちさんと言うそうです。近くの武家のお嬢さんでした。そうか………福田さんはあんな人が好きなのか………」


全く検討違いな解釈をしているけれど、頭が痛いから放っておこう。


頭が痛いなぁ………


痛い…………………



『姉の許嫁を斬りました』



目を閉じて頭痛と戦っていると、井上さんの辛そうな顔が浮かんだ。


ため息をついて寝返りを打つ。



『私が間違っていたのでしょうか』



………井上さんごめんなさい


私には分からないんです



『あなたは間者なのですか?』



ごめんなさい


お願いだから


そんな泣き出しそうな顔で見ないで………




「ごめんなさい………井上さん………」


涙が頬を伝って耳に入った。






「………ずっと、うわ言で、井上さんに謝っているのですが………けんかでもしましたか?」


「ずっと?え?なぜ謝るのだろう?」


呑気な馬越さんの声と、焦る井上さんの声。


「………俺あっちで寝ていいですか?後は頼みました」


「え?馬越さん、どうしたらいいんですか!?」


「それ食べさせたらすぐ機嫌なおりますよ。食い意地張ってるから」


すっと、障子の閉まる音がした。


………食い意地張ってるからって何?


でも、頭痛いけどお腹空いた………


タイミングよく大音量でお腹が鳴った。


「………食べますか?」


恥ずかしくて返事が出来ない………


とは言っても、空腹には耐えきれず食べるんだけどね。


井上さんのお粥は、とろりやさしい味がした。


灯りが風でゆらゆら揺れた。


すっかり夜が来ていた。


「おいしい………」


一口食べてさじを置いた。


「あのね、井上さん………私………ごめんなさい。嘘ついていてごめんなさい!」


「なぜ謝るんですか?局長に言われての事でしょう?私の方こそ、知らなかったとはいえ、失礼しました」


え?


井上さんは頭を下げた。


「何で井上さんが謝るんですか!?悪いの私なのに!」


「いえ、悪いのは私です。あの確認の仕方はなかったなと………嫌な思いをさせました。先に局長に確認するべきでした」


あの確認?


胸に手を置いた事!?


「………あれで分かりましたか?さらしできつく巻いてるんだけどなぁ………」


「………いえ、何と言うか、身体が全体的に柔らかい気がして」


「じゃあ、さらしの効果ないじゃん………」


「いえ、巻いた方がいいです」


………怒ってないの?


いや、そんな事はないよ。


面倒な事に巻き込まれたとか、沖田さんみたいに絶対思ってるよ………


前みたいには、仲良くしてくれないよ………


「まだ機嫌直りませんか?そうですよね……」


井上さんは申し訳なさそうに立ち上がった。


「あんなことをして、二人きりでいるのも嫌ですよね。すみません。気が付かなくて………」


「え?ち、違います!胸触られたの怒ってるんじゃないです!女だって分かったら、前みたいに仲良くしてはくれないんだろうなって思って………ちょっと、悲しくて………しようがないんですけど………」


お粥を一口食べた。


井上さんは座り直して


「前の様には無理ですが、努力はします」


「本当に?」


「ですから、福田さんもばれないように努力を………今流行りの同盟でも作りましょうか」


「はい!何同盟?」


何故同盟なんて言い出したのか訳分からないけど、井上さんの言葉が嬉しかった。


「えーっと、ばれない、ばらさない、今まで通り。井福同盟ではどうでしょう?」


すごい名前の同盟だ。


「じゃあ、同盟成立と言うことで!」


手を差し出すと、不思議な顔で眺めていた。


「握手です!手を出して!」


井上さんの差し出した右手をぎゅっと握った。


「………ほら、柔らかすぎます」


「明日から鍛えます………」



































怪我をして私は主役の沖田総司を辞退した。


裏方の仕事に回してもらった。


今日は熱っぽいので、部活は休むと久美ちゃんに伝えた。


久美ちゃんは言いにくそうに話し出した。


「沖田総司を私がやることになったの」


「頑張ってね!」


別に沖田総司役を やりたかったわけでもなかったし、久美ちゃんに誘われなかったら、演劇部へ入ろうなんて思いもしなかった。


全然未練もない。


「うん。ありがとう………」


久美ちゃんは元気無さげ………?


校門でお母さんの迎えを待ちながら、今日山ほど出た、英語と数学の課題を思い出してため息をついた。

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