雪降る夜に。
クリスマスに何か書きたかった……。
「おばあちゃん、ケーキ買いに行ってくるね~!」
「気ぃ付けて行くんよ~!」
「は~い!」
玄関を出ると、風がすっかり冷たくなっていて、思わずぶるりと身震いしてしまう。
寒くないように再度弟の服を整え、可愛いクマの帽子をしっかりと被せた。
「悠人、寒いねぇ」
「ね、ちゃむぃねぇ」
二歳になった弟の悠人は、最近僕の言葉を真似してよく喋るようになった。
そのせいか、僕も優しい言葉を使おうと心掛けるようになった。
その小さな手を握り、坂道を二人、ゆっくりゆっくりと下っていく。
「ケーキ、楽しみだね」
「ん!」
予約するときに悠人が選んだ苺のケーキ。
サンタクロースにモミの木と、クリスマス仕様になっている。
きっとお店に行ったらはしゃぐだろうな。
そんな弟の姿を想像し、自然と笑みが浮かんだ。
すんと冷える空気を吸うと、少しだけ磯の香りがする。
「あ、雪だ……!」
ふと空を見上げると、ひとつ、ふたつ。
はらはらと白い雪が降ってくる。
母の田舎に戻ってから初めての冬。
僕はこの海辺の町で、十二歳になった。
「お母さん、今日も遅いかなぁ……」
今日はクリスマス。ケーキも買ったし、悠人と一緒に小さなツリーも飾り付けた。
和風の家にクリスマスツリー。少し合わないかも知れないけど、これはこれで趣があっていいと思う。
正直言うと、僕も少しばかり心が弾んでいる。
いつもより少し豪華な食事に、悠人も嬉しそうにはしゃいでいた。
「そうやねぇ。もうすぐ帰って来ると思うけど、悠人ちゃんもお腹空いてるやろし、先に食べとこか」
「うん……」
母がパートを始め、一緒に過ごす時間は少しだけ減ってしまった。
寂しいと思う事もあるけど、こっちで友達もできたし、何より母の笑顔が戻ってきた事が嬉しかった。
「悠人、先に食べよっか」
「ちゃきぃ……? おかぁしゃんはぁ……?」
「お母さんね、ちょっと遅くなるかもしれないから」
今日は十八時には終わるはずだけど、時刻は十九時を回ろうとしている。
人手が足りないと言っていたから、今日もまた残業かもしれない。
「ん~……。おかぁしゃん、いっちょ……」
「一緒?」
「ん……! ぼく、みんなで、たべたぃ……」
もじもじと恥ずかしそうに俯く悠人に、僕もおばあちゃんも顔を見合わせ笑みを浮かべた。
「わかった! じゃあ、もうちょっとだけ待とっか」
「……ん!」
小さい弟を抱き寄せ、そのふわふわの髪に頬を寄せる。
「……でも、おにいちゃんお腹ペコペコだから、ケーキ先に食べちゃうかも!」
「……! だめぇ!」
少し揶揄うように言うと、悠人は慌てて僕の両頬をその小さな手で挟み込んだ。
その慌てように、僕もおばあちゃんも思わず声を出して笑ってしまう。
すると、そんな笑い声が響く部屋に、玄関を開ける音が聞こえてきた。
「ただいま~!」
その声に僕は思わず悠人を抱え、玄関まで駆けて行く。
「お母さん、おかえりなさ……」
そして玄関に立つ母の姿を見て、僕は言葉を失った。
「じゃ~ん! 今日は特別に、サンタさんが来てくれたよ~!」
「こんばんは~! いい子にしてたかな~?」
そこには、サンタ帽を被る母と、真っ白な髭をたくわえたサンタのコスプレをするおじさんの姿が……。
ご丁寧に白い袋まで肩に担いでいる……。
突然のことに呆気に取られていると、小さな手が僕の肩を忙しなく叩く。
「しゃんたしゃん……! おにぃちゃん! しゃんたしゃん、きたぁ!」
悠人は本物のサンタクロースだと信じたのか見るからに大興奮で、きゃあきゃあと嬉しそうにはしゃぐその様子に、なぜかサンタさんのほうが感激しているようだった。
「……お母さん、これ、どうしたの……」
悠人をサンタさんに任せ、僕は母に小声で訊ねる。
「えへへ……。伯父さんに頼んじゃった!」
どうやらおばあちゃんも知っていたらしく、「よかったねぇ、悠人ちゃん」とニコニコと笑っていた。
「……ふふ」
「ん? 結人、どうしたの?」
「サンタさん……、日焼け、してるね……」
「……! ホントだ……!」
母の今気付いたというハッとした顔に、僕は我慢できなくなり大きな声で笑ってしまった。
海でこんがり焼けた肌に、逞しい腕。このサンタさん、絶対強い……!
このサンタさんなら、もしかしたらトナカイも……。
逞しいサンタさんに筋肉隆々のトナカイ……。
想像したらもうダメで、僕はしゃがみ込んで笑ってしまった。
その後すぐにおじさんたちの家族も来てくれて、僕たち兄弟三人にもプレゼントをくれた。
悠真はサンタさんに驚いたのか、大泣きしてしまったけど……。
久し振りに家族で賑やかなクリスマスを過ごすことができた。
少しだけ寂しかったここ数年のクリスマスも、この町に来て楽しい思い出に変わるかもしれない。
はらはら舞う雪と一緒に、この気持ちも空に溶けていく。
十二歳の冬。
僕はやさしいこの町が、もっと好きになった。
異世界じゃなくてすみません。
あちらではまだ冬を迎えていないので……!
ユイトたちにとって、クリスマスの日が楽しい思い出であるように。




