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あの大地へ、君と  作者: ふんばり屋太郎
二章 村での生活
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十四話 遺跡の森へ

 昔から何かに熱中して部屋から出ないことはあった。もしネトゲなどに出会っていれば、アスロは廃人になる素質があったかも知れない。


 地下での数日。彼は新たに入手した時空の力や、いつの間にか追加されていた影人の機能を探りながら過ごす。

 銀色の精霊紋を強化した時に負った傷は、回復魔法や治癒気功のお陰もあり、今はもう完治している。しかし治療するのは事が終わってからなため、あの激痛を思いだすとまたやるのは勇気がいる。


 

 本来なら祭りまで小屋にこもる予定だったが、今日は予定があるようで、朝食を終えるとアスロは身支度を始めた。


 普段着の上から鎖帷子をまとい、腰に革のベルトを巻く。武具のホルダーを装着すると、動いているうちに下がってしまうので、肩から吊ることによりずり落ちを防止する。


『下半身が心持たないんだよな』


 股間は一応プロテクターを装着しているし、鎖帷子も膝上あたりまでは守ってくれている。


 脛当てなどは村の雑貨屋で頼めば、町から取り寄せてもらうこともできるが、リアに直接行ってから買った方が良いと言われた。

 

『あとは胸当てか』


 鎖帷子はもともと鎧の下に着るものであり、急所と呼ばれる位置はしっかりと揃えたい。


『兜とか』


 目指すは探索者なため、あまりの重装備は向かないが、アスロ本人としてはプレートアーマーなど好きだったりする。



 最近は短剣を主に使っていたが、遺跡森を歩くとなれば使い慣れている鉈が良いようで、直接身体に装備するのはそれだった。


『武器類は精霊の力借りれてるけど、防具はまだなんだよな』


 盾は応急処置で止まっているので、実戦で使うのは難しい。


『あとはどうすっかな』


 ホルダーに魔人頭の短剣を通し、革ベルトの右側に取り付ける。

 片手剣となれば右手で抜くなら左側に差した方が良いのだが、アスロの選んだ武具は両者共に短いので、いざという時この方が早かったりする。



 雑貨屋で以前買った小さな鞄は腰の裏側に固定する。所有空間があるため本来は要らないのだが、一々魔法で取りだすというのも面倒なので、汗拭き用の布や水筒など、動作の邪魔にならない物を入れてある。


『よし、忘れもんはねえかな?』


 などと言っても、この小屋には机と農具くらいしか見当たらず、自分持ちの物は所有空間に詰め込んであった。

 アスロは全身を動かして身体の調子を確かめると、扉を開けて久しぶりに外へでる。


『太陽を浴びんのも久しぶりだな』


 ここは地下空間のため、うす暗いことには変らない。


『そういえば、太陽はないんだっけ』


 光の精霊たちが世界を照らし、夜間も月はないのに真っ暗闇ではなく、目が慣れてくればうっすらと見えてくる。さらに言えばリックのように精霊の力を借りれば、魔法で視界を確保することも可能。


 この地下空間もゲーリケの魔法により照らされていた。


『綺麗だよな』


 警戒時の村でも夜間はこれと同じ光の玉が浮かんでいたが、ここのそれは数が違う。


 大樹の根っこの上を歩きながら辺りを見渡せば、森人たちが畑作業をしているのがうかがえる。


『土いじりも大変だよな』


 アスロは主に個人宅の手伝いが中心だったので、村周囲の畑で作業したことはあまりない。それにここは外の光に頼らず育てているので、何かしらの特殊な技術を使っているのかも知れない。


『大樹に守られた土や湧き水は栄養豊富だろうけど』


 もともとは狩が中心だった。畑をおこすには木々の伐採なんかもしなくてはいけないので、躊躇(ちゅうちょ)でもあったのだろうか。


 掟というのは結束を高められるが、不自由だというデメリットもあるのだと感じる。



 その後は地上付近の広場をめざすが、どうやら他の者たちの方が早く集まったようで道中に合流した。


「おはようございます。 ってリックも来るんすね」


「まあな兄弟。あまりにも暇なんで頼んでみたんだ」


 いつもの物資運搬だけであれば基本は日帰りで、場合によっては一泊することもあるようだった。今回は祭りの客人ということもあり数日滞在しているが、不用意な外出は遠慮するよう村長から言われていた。


「不自由させてるお詫びついでだ、兄ちゃんらはお守りの必要もなさそうだが」


 盗賊などは無断で遺跡森に入っているが、ここはダンジョンと位置付けられているだけあり、相応の危険が待ち受けている。

 村人だけでは危険なため、ララツだけの特権として根路隊が護衛していた。


 今回同行してくれるのはテオだけではない。アスロは改めてその人物と向かい合うと、頭をさげながら。


「よろしくお願いします」


 盗賊討伐で共に斥候をした守人の男性。


「こちらこそ。特に予定がないなら、案内する場所は俺たちで決めさせてもらうが、それで大丈夫かい?」


 正直に言えば、三十年前に魔人たちが住処としていた山城跡に興味があったが、先代のアスロに引き寄せられるなとテオから注意を受けたばかりだった。


「前に数日暮らしてたのは確かなんすけど、自分も森に関してはよくわかってませんので。セルジュさんたちにお任せします」


 どちらかと言えばララツ近場の山中のほうが、最近では詳しくなっている。


______

______


 そこからは守人二名についていく。やがて一行は今回通る予定の根路に到着した。

 セルジュはすでに待っていた犬のもとまで進むと、片膝をつけてから姿勢を整える。


「ゲーリケさま、おはようございます」


 リックも慣れた様子で同じ形をつくる。


「よろしくお願い致します」


 テオは二人より少し遅れたが、ゆっくりとした動作で。


「お待たせしました」


 アスロは見様見真似で地面に膝を持っていく。


「お世話になります」


 ゲーリケは返事もなく大樹の根へと振り向き、そこに入口を出現させる。


「すごい」


 初めて根路を見たのだから、実家がお金持ちとはいえ、リックも口を開けたまま呆けていた。


「精霊さまが居ないと無理らしいけど、それでも凄いよな」


 守る面でも攻める面でも有効に使えるはず。


 犬が大樹の根に足を踏み入れろば、皆がその後を追っていく。


______

______


 暗闇の中。ゲーリケが出現させた明かりを頼りに、皆が根っこの内側を進んでいく。


 アスロとリックは真ん中で、先を進むテオの動きに合わせて斜面をくだる。一番後ろを受け持つセルジュが狭まっていく背後に気を配る。


 戦団に追われていた時のことを思いだす。そして森から抜けてララツを目指したあの日を。


『もうすぐ一年か』


 それは口の中だけで発した言葉だった。



 感傷に浸っていたアスロとは違い、リックは少し緊張した面持ちで。


「俺この先は探索者を目指していますので、もしかしたら貴方がたからすると不快かも知れませんが、個人としては有難いです」


「まっ 気にすんな。俺らは元探索者のハインツを受け入れてる訳だしな」


 魔王の揺りかごはもともと発見されていなかった遺跡森。


「テオさんの意見には賛同しますよ、我々だけではすべての遺跡を管理するのも無理な話しだからね。ただし、あくまでも個人的な意見だということを忘れないでくれ」


 人が集まれば考え方の違いは起きる。ハインツを良く思ってない者は、ゲーリケの里にも存在している。

 里の重役。少なくとも里長とテオはララツとの友好関係に積極的。


________

________


 砂時計などで測っていないので正確な時間は不明だが、やがて先頭を進んでいた犬は動きを止めた。

 少しずつ上っていたので、恐らく地上に出たのだと思われる。


 出口が開かれると、外の光が差し込んでいた。


「感謝します」


 ゲーリケにお礼を言うと、テオは根っこから外に出る。アスロも後に続くが眩しさに立ち止まり、手で目もとを隠す。


「ずっと地下にこもってるからそうなんだ兄弟」


 空は木々の枝葉が覆っているので、リックからすれば驚くほどの眩しさはなかったのだろう。


「俺たちも大樹の下で待機してるから、出てすぐはきつかったりする」


 最後尾のセルジュが出た頃には、すでにゲーリケはいなくなっていた。



 アスロは森の空気を吸い込んだのち、ゆっくりと吐きだしてから。


「とりあえず、警戒しときますか?」


「そうだな、頼めるか」


 リーダーであるテオの許可が出たので、心臓部の紋章に魔力を送り忠道を呼び出す。もう慣れたがこの魔法は足もとに紋章が出現したのち、アスロの全身に影が伸びるので落ち着かない。


「やっぱ珍しい魔法だね」


 セルジュは興味深そうに術者から分離した忠道を眺めていた。


「数を増やせるんすけど、やればやるほど弱体化します」


 忠道は五体の影人に分裂すると、そこからさらに十体の影小人が現れた。


「これ以上増やすともう木陰に隠れるとか、弓で矢を放つなんかの動作もできなくなります」


「ほう、彼らは弓を操れるのか。これは良いことを聞かせてもらった」


 セルジュはどこか嬉しそうだった。


 自分の情報を人に教えるというのは危険も伴うのだが、今回は協力して戦うのだから、やはり最低限のやり取りは必要だった。


 リックはテオたちに盾を見せると、そこから戦輪を外す。


「俺はこの飛び道具と精霊術を少々できます。属性は闇と水ですが、後者の方はまだ未熟ですので、あまり実戦には活かせません」


「へえ、兄ちゃんも大したもんだな。魔光石で精霊を呼ぶときは、俺らの護衛は必要か?」


 戦輪を盾に戻す。


「集中して狙われなければ、守りは要らないと思います。もし厳しかったらお願いしますので、その時はお願いします」


「はいよ。そんじゃ次は俺らだな」


 テオはセルジュを見る。


「俺は……僕は精霊術と弓が主だね。風との相性しかないが、なんとか契約はできている」


 防具は守人として一般的なものだが、弓使いとのこともあり視界を広げるためか、兜ではなく額当てとなっている。腰には短剣を差し、矢筒は背負っている。


「最後は俺だな。一応だが精霊様と契約しているが、もともとそんな魔法は得意じゃないんだ」


 立場上の契約であり、本来はそれができるだけの技量はない。それでもこの遺跡森内であれば、問題なく扱えるとのこと。


「本来はこっちだ」


 テオは使い古された片手剣を鞘から払う。良く手入れされたその刀身には精霊文字が刻まれていた。


「長年の相棒でな。この剣には雷の精霊が宿ってる」


 アスロだけでなく他の面子も複数の武器を扱っているが、テオの得物は片手剣だけだった。兜はしていないが、彼が頭に巻いている布には精霊が宿っており、それが全身の防御機能を高めてくれているらしい。



 その後は戦闘時の役割などを話し合ったのち、彼らは森の奥へと足を踏み入れていく。

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