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あの大地へ、君と  作者: ふんばり屋太郎
二章 村での生活
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四話 再会と正否


 女性の手を後ろで縛ると、傾斜をくだって道にでる。


 予定では村の者がくるはずだったが、馬車に乗ってきたのは予想外の人たちだった。


 ベルは地面におり、リックと話していた。


「アスロっ!」


 小走りで駆け寄ると、怪我をした肩らへんを軽く叩いて。


「よかった、もう大丈夫みたいだね」


「お久しぶりです」


 兄と妹とも動作のみで挨拶をする。このままでは居心地が悪いと思うので、女性の方をみて。


「彼女をララツに送りたいんだけど、ベルさんたちで良いのか?」


「うん、大体の話は村長さんから聞いてたから。自衛団も皆そろって武装してるし、余裕ないみたいだったから、私たちが引き受けたってとこかな」


 捕縛した女性を一瞬みると、今度はアスロを睨みつけてきた。


「隠れケダモノさんは、なにもしなかった」


 どうやらあの失言を覚えていたらしい。だがリックが上手い返答をしていたので、それを真似る。


「ララツの姓を貰いたいんで、下手に印象さげるような真似はしませんよ」


「そういう理由がなければしてたの?」


 頭を掻きながら、すこし嫌味な口調で。


「俺そんなに信用ないっすか」


「ごめんなさい」


 ベルとしては身に覚えがあるので、そこら辺は敏感なのだろう。


「兄弟も俺も後先くらい考えてますんで、一時の欲求で村の信用を失うことはしませんよ」


「少なくとも私に用があるから生かしてるんだろ。ずっと眠ってたから覚えてないが、この通りだ」


 処置した足を見せる。盗賊にまで言われてしまい、余計に落ち込んでしまった。


「でもベルさんも元気そうで良かった」


 ばつが悪そうに相手を見あげると。


「私が知ってるアスロはそんな喋り方じゃないもん」


「いや、これでもかなり練習したんすけど」


 子供が駄々をこねるような仕草で。


「あの喋り方だったら、私だって信じられました」


 苦笑いを浮かべるしかなかったが、少しして落ち着いたのか、再度アスロとリックに頭をさげて謝罪する。


 ベルは女性の方を向き。


「じゃあ、村に送りますんで。抵抗しないと約束するなら、縄は外しますが」


「もう助けてくれる仲間も居ないんでね。今さら足掻かないよ」


 本人から聞いただけの内容であり、それが事実かどうかはわからないが、昨夜のあれが全員だったらしい。


「自分の身を守るために、前もって伝えるべきことは、今の時点で言わせてもらいます」


 ベルは短剣で腕の縄を切る。


「では馬車に案内しますので、お話はそちらで」


 女性はうなずくと、兄妹に向けて歩きだす。そのまま馬車に乗るのかと思ったが、立ち止まると。


「用を足したいんだけど、できれば見張りは女性にお願いしたい。二人でも構わないので」


 ベルは笑顔でうなずき、アイーダと共に対象をつれて行く。


_____

_____

 

 もし実際にアスロが怪我人だった場合。


 正規の村人であれば、ララツと交渉して食料や武器などと交換。


 姓を得るため町から来た若者であれば、人質としての価値は薄いので、独自のルートをつかい売る。ララツが村としては一等地だというのは、盗賊側でも理解していたらしく、仲間に引き入れることはしない。


 例の村を襲ったのは、自分たちとは別の盗賊。

 あそこは遺跡が近くにあるため、森人の許可をもらうことにより、遺跡での活動が制限つきで可能。

 ララツとゲーリケほどの繋がりはないが、それでも経済的に余裕があるので、町の子供もそこまで酷い扱いは受けていない。



 荷台を引く馬という生物。アスロも良く知っているのだが、骨格というか何かがどことなく違う。大樹の精霊であるゲーリケは一目で完全に犬だとわかる形だったが、こちらのそれは馬らしき動物。


 それでも馬は馬なので、馬なのだろう。


「ポーションすんませんでしたね」


 リックとベルが女性の対応をしているので、その邪魔をしないように、馬を操るドリノの側へ寄っていた。


「気にすることはない。もともと我々が謝罪すべきことだ」


 兄は身動きが取れないので、かわりにアイーダが頭をさげ。


「もっとやりようはあったかと思うのですが、あのときは時間も限られていましたので」


「いや、かなり困ったのは確かなんすけどね。良い経験をさせてもらいましたよ」


 ゲオルグ。


「二人掛かりでも、全然歯が立ちませんでした」


 正確には忠道もいたので三対一だった。


「上には上がいるものですな。世の中」


 少なくともテオや現団長は同列と考えるべきか。


「アスロさんに師匠などはいなかったのですか?」


「えっ どうなんすかねぇ。あまり覚えてませんが、色々と教えてくれたのはいました」


 今の自分よりも腕は立ったと思うが、こちらに来る前は一緒に逃げ回った記憶しかない。


 その飛び道具の名を思い出せない。


「矢の切先とか向けられたら怖いじゃないっすか。でもその状況で平然とできる人だったから、度胸はあったんだと思います」


 銃口。


「そうですか」


「今の貴殿を育て上げたのは、その御仁なのですな」


 集中力が続く限り戦い続ける。痛みも感じず、感情すら削り落とし、目前の敵を破壊する。


「実際に命のやり取りをするようになってからは、もう無我夢中だったんで。特にこれと言ってなんも教わってないっすよ」


 そうなった彼をどう思っていたのかは、今となっては知るすべもない。


「なるほど。私も現状に慢心せず、取り組んでいかなくてはいかん」


「旅の方はどうなんすか、ちょっとは慣れました?」


 ドリノは唸りながら。


「どうだろうか」


「まだ旅というほどの経験はしてませんね。近い位置にある集落へお邪魔したくらいです」


 祭壇があるのは国内でも二カ所のみ。地中に埋もれた建物だけの遺跡は規模も小さく、そこを管理する森人もゲーリケに比べれば少ない。


「まだ練習って感じなんすね」


「だが我ら兄妹、やはり人込みは好かんな」


 リアの町には寄ったらしい。


「今はララツの方が物を運んでくれるし、私たち村に行った経験すら、ほとんどないんですよ」


「このままではいかんかも知れんな」


 情勢は繋ぎ役が伝えてくれるものの、耳からの情報だけでは理解できないこともある。


「森人も色々と大変なんすね」


 町で暮らす人々の営み。実際に目でみたことで、なにか思うものがあったのだろう。


______

______


 やがて畑が広がり、その中道を馬車が走る。時々ベルはお疲れ様ですと手を振って、挨拶を交わしていた。


 居住区の周りは木製の柵で囲われていたが、出入のできるその一角は自衛団の数名が守っていた。


 リックは馬車からおり、繊細を彼ら彼女らに伝える。


「村の連中に知られたら混乱するかもだから、ここで待っててくれる。今村長に聞き行ってきますね」


「よろしく頼みます」


 彼女は姓を貰いに町からきた人物。


 この場に残った自衛団の男性は、馬の頬をなでながら。


「でっ そいつがそうか?」


 アスロたちが壊滅させた盗賊の頭だった者。


「名前はソフィアだそうです」


 未だに村の女性とは上手く喋れないが、男性であればなんとか会話もできる。


「お疲れさん」


 ソフィアはうつむいているので、アスロを労うだけで終わらせておく。

 ベルはどうすれば良いかわからず、とりあえず彼女の隣に座っていた。




 会話もなく十数分が経過すると、自衛団の女性が村長をつれて戻ってきた。


「二人共ありがとな、報酬は後日でも大丈夫か?」


 リックもアスロも動作で了承を示す。次にハインツは森人一行を見て。


「助かりました、これは僅かですが収めてください」


 ドリノは馬車からおり、村長と向かい合う。


「いや、我々が申し出たことですのでな」


「ついでと言っちゃなんだが使いをお頼みしたい。この書状を里長殿に」


 その手間賃という名目で、ドリノに紙幣の入った封筒を渡す。妹に受け取って良いかを伺う。


 何度も断るのも失礼とのことで。


「では有難く」


 感謝の姿勢をとったのち、両手で頂戴する。


「馬車にお邪魔しても構いませんか?」


「どうぞ」


 ベルが手をだし、ハインツは礼をいって荷台にあがる。


 ソフィアのもとに行くと、その場でゆっくりと座り。


「この度はうちの者が失礼をした。すべては私の指示でしてな、できれば二人を恨まんでやってほしい」


「謝罪はそこの彼からも頂いたよ。こんな時世だ、一々呪ってたら切りがありません」


 ハインツは頭をさげる。感謝か謝罪かの判断はソフィアに任せるのだろう。


「立場上、歓迎はできませんが、相応の対応はさせてもらう」


「感謝する」


 顔色は悪いが、彼女は両足で立ち上がった。


______

______


 村長宅に向かうが、他の村人に気づかれないよう慎重に進む。もともとこの時間は農作業に出ている者も多い。


 先頭はリックと自警団の女性。ベルがソフィアに寄り添い。その後ろにも自警団の男性二名。


 兄と妹は馬車を村に入れ、馬も休ませるために別行動。



 話があると伝えたので、アスロとハインツは少し離れて肩を並べていた。


 盗賊の情勢と引き換えに、書状での約束を交わす。


 誠意をもって交渉するように言った。


 口約束だが嘘はつかないとの返事はもらった。


 自分が夜になったら、契約書を預かる。


「なるほどな。でっ、それを俺に言って良いのか?」


「たぶんバレると思ったんすよ。だって彼女、なんかもう覇気がないっつうか」


 こんな状況でもそう言ってくれる人がいるから。現状だと恐らく、彼女はアスロの自己満足に付き合っているだけ。


 もしこのまま裏切られても、抗うことなく死を受け入れる。


「惚れでもしたのか?」


 それとも境遇への同情か。


「わかんねえっすよ。気づいたらこうしてたって感じなんで」


 感情に理由がつけられない時もある。


「そんでお前は俺にどうして欲しいんだ」


「彼女が生き残る道を用意してください」


 ハインツはそうだなと考えて。


「なんかあった時の責任はお前には背負えない」


「そうっすね。いずれは町に出てくんで」


 揺りかごの後。もしかすれば戻ってくるかも知れない。受け入れてもらえるのなら。


「嫁さんは元々この村の出身だがな、俺は違うんだ」


 町の孤児。村の姓を貰う前に、遺跡で森人に救われた経験を持つ。


「隠しても元は盗賊だからな。仮でもララツを名乗らせるのは難しいぞ」


「居候の身分で出しゃばって申し訳ない」


 悪魔側の渡り人。


「とりあえず事が収まるまでは、しばらく家で過ごしてもらう。自衛団と母ちゃんの監視付きでな」


 明日の夜。その役目はアスロに回してくれるとのこと。



 この行動が正しいかどうか。


 少なくとも相手は犯罪者。


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