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あの大地へ、君と  作者: ふんばり屋太郎
二章 村での生活
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二話 依頼と捕縛


 日中の見回りついでに寄れば、奥さんがお茶を出してくれた。二人で飲みながら待っていると、外で作業をしていたらしき村長が扉を開けて入ってくる。


「悪い、待たせたか」


 裏の畑でもいじっていたのだろう。年齢は五十代前半ほど、体格は一般男性より大きいかも知れない。


 リックは机にお茶を置き。


「んで、話ってなんですか?」


 奥さんが村長のぶんも持ってきたようで、手を上げて礼をする。椅子を引くと、二人に向かい合って座る。

 一口お茶をすすったのち。


「近隣の村が盗賊に侵入されたそうだ。全部じゃないが、祖先の遺産も持ってかれたらしい」


 村に保管されている魔光石というのは、一種の墓地ともいえる。すこし残酷な話かも知れないが本当に困ったとき、最後の手段として町に売る。買い手も出所を理解しているため、その場合は自然保護以外での使用は国から禁じられている。


 保管庫の鍵は村長を含めた重役が持っており、その全員が揃わなければ入ることはできない。しかし所詮は人が作りだした物なので、物理的な手段であれば扉の破壊もできてしまう。


 アスロは言うか悩んだが、正直な気持ちを伝える。


「こう言っちまうと悪いけど、最初に狙われたのが他村で良かったすよ」


「今夜あたりから、自衛団総出で警戒ってことになりますね」


 畑などの作業効率は悪くなるが、事が事だけに仕方ないだろう。村長はうなずくと、交互に二人の青年をみて。


「正規兵も動いてくれるとは思うが、まだ何時くるかは不明だ。それに直接、ララツを守ってくれるとは限らない」


「頼みってのはなんすか?」


 自衛団にはすでに所属しているため、村を守れという依頼ではないのだろう。


「森人を含めて他村との話し合いをしたい。だがその前に下調べも済ませるべきなんだが、実力的にそれをできそうなのが、うちの村ではお前らくらいでな」


 守人の力を借りるというのは、ララツの防衛ではなく、敵方をこちらから攻めるのだろう。もしそうなれば住処の位置を探らなくてはいけない。

 近隣の村を襲った盗賊の規模。侵入してきたのは二十名ほどだが、他の人員を残しているかも知れず。



 お茶の入ったコップを両手で握りながら、リックは少し不安そうな表情で。


「俺は別に良いのですが、そのなんていうか……大丈夫なんですか?」


「揺りかごを目指している時点で今さらだろう」


 親と大喧嘩をして飛び出した。もし意思を通したいというのなら、一から全て自分でやれ的な実家だと予想する。


「言われてみると、まあその通りですね」


 過程で死ぬのなら、それはリックの責任。厳しい家だとも感じたが、それでもアスロは羨ましいと思う。


 ララツはここらの村では一等地。突き放しているようで、何だかんだで道は整えてくれている。


「んでっ 兄弟はどうするよ?」


「発見された場合は交戦もしますし、必要であれば俺らから仕掛けるかも知れねえ。もしララツの者だってバレたら、報復される可能性もあるんすけど、そこら辺は大丈夫っすか?」


 ハインツ = ララツ。彼の顔面には傷痕がいくつか。


「場合によっては、こっちから仕掛ける予定だしな」


 自衛団の長にして、もともとは揺りかごに夢を見た若者だった。


「いざという時は、家の母ちゃんにも出てもらう」


 離れた場所で聞き耳を立てていたらしい奥さんは、裁縫をしながら苦笑いを浮かべていた。


「もう引退して長いんだけどねぇ。まあ戦えってんなら準備でもしとくよ」


 ララツの二強とでも呼ぶべきか。




 そのあとは詳しい内容を聞く。


 盗賊団と言っても、一つとは限らない。もし規模が小さければ、ねぐらを数か所転々としている可能性もある。


 では村長が求めているものは何かと言えば、賊側の情勢だった。先ほどリックから聞いた内容だが、ここらを縄張りとしている賊たちのなかで、今なにかが起きている。

 予想であれば立てられるが、結局は予想でしかない。そのために確かな情報が欲しい。


 方法はこちらに任されたが、依頼の内容が内容なので、個別に報酬をくれると約束された。支度金も渡されたので、雑貨屋によって必要物品を揃え、自室にて準備をしてから出発する。


 この三カ月。自衛団の訓練や村での手伝いだけでなく、アスロも色々と実力向上に努めていたので、彼としても良い機会だった。


___________

___________


 二人は遺跡森に向けて道ぞいに進む。ララツからは二時間ほどで、例の襲われた村までは三時間くらいの位置。


 道からそれて二十分ほどの森中。守人が管理するあの場所とは違い、神秘的な雰囲気はあまりない。木々も人の手は加わっておらず、どこか鬱蒼としている。


 そろそろ日が暮れる時間帯。野宿の準備はしているが、寝袋などは所有空間から出していない。


 近くの草を抜き浅い穴を掘ったのち、石を数個ならべた簡単な焚火をこしらえる。雑貨屋で購入した小さめの鞄は外に出しておく。


 アスロは左足に枝を当て、そこに布を巻いていた。木皮で編まれた(かご)には、ここいらで採取できる野草類が半分ほど。


「こんくらいなら、怪我した状態でも準備はできるよな?」


 すこし不安そうな青年の肩を叩く。


「悪いな、危険な方を頼んで」


 盗賊。もし大規模になったとしても、普段から大勢で動くとは思わない。村や荷馬車を狙う時など、計画した内容を実行に移す時だけ。


「適材適所だろ」


 魔人の残党は弱体化したと言っても、ベルを襲ったあの十数名が全員ではないだろう。


 水分を補給したのち、水袋をアスロの傍らに置くと、そのまま伏せて地面に耳をつける。


「まだ周囲に気配はないな」


 従属魔法は夜まで使えない現状。盗賊の痕跡を発見したのはリックだった。あまり自信はないが、斥候の真似事くらいならできるらしい。


「んじゃ兄弟、俺は離れてるぞ」


「もう少し暗くなったら、こっちも影人を展開させておく」


 両者うなずき合い、成功を祈る。


_____

_____


 森中は完全に闇に包まれ、焚火の灯りだけが近場を照らす。集めた枝を火にくべる。


 瞼を閉じて、一番(影人)の視界を映す。あまり動き回らず、木や草に身を隠しておくよう指示を出していた。今のところ盗賊らしき存在の発見信号はない。


 砂時計が全て落ちたので、ひっくり返す。地面には小石が並べられており、そこに一つ加えれば。


「二時間半か」


 しばらくすると、木々の闇から声が聞こえる。


「見回りの数名が焚火を発見したみたいだな。多分だけど、お仲間呼びに戻ってる」


「そうか」


 すでに戦闘態勢に入っていた。


「予定通り頼む」


「了解」


 移動したみたいだが、草などがこすれる音はなかった。


 影人たちを呼ぶと、所有空間を発生させる。枝で固定していた状態を再確認する。


_____

_____


 砂時計が半分ほど落ちた。


「数は十以上、二十は居ない」


 返事はしない。砂時計を所有空間に入れるが、鞄と籠はそのまま残しておく。雑貨屋で買った安物の短剣は手直に置く。


『消えて良し』


 リックもいつの間にか消えていた。



 数分が経過する。


「なんだ兄ちゃん、怪我しちまったのか。運がないねえ」


「あんたらは盗賊か?」


 リックに聞いたよりも人数は少く、せいぜい十前後。恐らく何名かにわかれ、周囲を見張っているのだろう。


「ご名答。じゃあ俺らが何しに来たかも、わざわざ説明する必要はねえよな」


 数名がニタニタと笑っていた。


「あいにく渡せるのはこの野草くらいだ」


 小さな鞄を持ち上げると。


「大した物は持ってないが、それで勘弁してくれんなら」


 安物の短剣と水袋も一緒に相手へ投げる。会話をしていたのとは別の者がそれを拾う。鞄の中には紙幣数枚と食料などを適当に詰めておいた。


「兄ちゃんまだ若いだろ」


 もし独自のルートがあるのなら、アスロ自体をどこかに売る。


「俺らも悪いとは思うが、不運を恨むんだな」


「そうか」


 木にもたれて腕を組んでいた盗賊が一名。なにを思ったのか、そいつは片手剣を鞘から抜くと、怪我を装う青年に数歩近づく。


「嵌められたかも知れない。いくら何でも、こいつ冷静すぎる」


 布で顔を隠していたが、その声は女のものだった。


「もう遅い」


 言い終えると緩めていた足の固定を外し、棒の先に布を巻き付けて火に突っ込む。


「てめえっ!」


 これまで会話をしていた男は、怒鳴りながら剣を抜いてアスロに斬りかかる。


『放てっ!』


 木々の間から矢が飛んでくれば、剣を振りかぶったその肩に刺さる。怯んでいる隙をつき、身体を起こしながら燃える枝を顔面に持っていく。


 会話をしていたのは下っ端だったようで、女は放たれた矢を見切って切り払ったのち。


「見張りは何してんのよ! 敵が隠れてるぞっ!」


 四方から矢は放たれていた。山賊たちは負傷をしているが、戦意はともかくまだ動ける様子。


「このガキに近づけ、そうすりゃ容易に攻撃もできないはず!」


 奪った片手剣で男に止めと刺した青年は、近場にいた者もすでに斬り殺していた。


「一々武器だすのも面倒くせえんだよな。もっと良い方法考えるか」


 青い光をまとってアスロのもとへ向かおうとしたが、女はその光景に足を止めてしまう。

 次の瞬間だった。数名の賊が悲鳴を上げた。


「どうした?」


 そちらに目を向ければ、彼らの鼻から上が黒い何かで覆われていた。手で払おうとしても、掴むことができない様子。


 火の灯りに照らされ、その場を丸い物体が通り抜けた。悲痛の叫びに驚いて見れば、視界を塞がれた仲間の腕が切断されていた。


「くっ 来るなーっ!!」


 錯乱状態に陥り、そいつは短剣を振り回し、近場の味方に傷を負わせる。


「落ち着けっ! 周りには俺らしか……」


 丸い物体が戻ってきて、宥めようとした仲間の首を跳ねる。


「どうする、投降するか?」


 丸盾を上に掲げながら、リックが姿を現した。精霊の宿る戦輪はガチャっと音を立て、盾の溝に吸い込まれて固定される。


 しかし出てきたのは失敗だった。


「ふざけるな」


 彼の声は震えており、顔色も悪かった。女はそこに勝機を見出す。 


「そいつの指示に従え」


 アスロは視界を塞がれた男を拘束し、その首に所有空間から取り出した短剣を当てていた。


「好きにすれば良い」


 どうやら人質は通用しないらしい。短剣の刃で首を引き裂く。


 女は逆にリックを人質に取ろうと、闘気をまとって駆けだすが、意識をそちらに向けすぎていたのだろう。矢が足に命中して転倒する。


 もう勝敗は明らかだった。


 御頭かどうか不明だが、指揮を採っていたのはこの女。他の者は全員殺す。


「一緒に村へ来てもらう。明け方には迎えがくる段取りだ」


 アスロが刃で脅しながら、リックが縄で縛る。


「犯したあとはそのまま殺せばいい」


 拘束の作業を終えると、育ちの良い青年は女性に笑いかけ。


「俺らは姓をもらいたいんでね。そういう印象さげる真似はできないんだよ」


 へらへらするリックに唾を吐きかけ。


「村なんて御免だね。そうすんなら私は自殺するよ」


 彼女の目はギラついていた。人の社会に、もしくは村そのものに恨みがあるのだろう。


「死なれちゃ困るな」


 リックは魔光石を取りだすと、短剣で砕いて闇の精霊を呼ぶ。


 今は夜。魔力と引き換えに上位の存在を呼んでもらう。


「くそが」


 この魔法は戦闘中に成功させるのは難しい。やがて女は眠りに落ちる。


「他に仲間がいるかも知れねえ。この場を離れるぞ……大丈夫か?」


「悪いけど、少しだけでいい。休ませてくれ」


 わかったと返答すれば、リックはその場に座り込む。水を渡そうとするが、手で拒否をされる。



 四体の影小人から弓と矢筒を受け取り、そのまま周囲の警戒を頼む。


「ごめんな、兄弟」


「気にすんな」


 アスロは背中腰のホルダーから闇のナイフを取りだし、賊の死体を片付けだした。



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