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レベル1からやり直してこい!?  作者: 参星
呪われた宝石編
99/109

99.曰く、天獄の黒蛇。


 ジークのその一言によって、小波(さざなみ)のような動揺の気配が、両者の間に漂った。


 ()()()と呼ばれた彼が、一体どう思ったのか。愉快そうな笑い声が、静かな空間で大きく響く。


 顔の半分を覆っていた仮面が、(おもむろ)に取り払われると、その素顔が、ようやく朧気に照らし出された。


 ジークに負けず劣らず美しい造形の、美青年と評すに相応しい顔。

 切れ長の瞳と長い睫毛が月の光を写し取り、ふわりと優しく、青白く輝く。

 だが、そこに甘い柔らかさはなく。シキミはなんとなく、野生の猛獣を前にしたような、妙な威圧感すら感じていた。

 あえて言葉にするならば、王者の気配──とでも言うべきもの。王座に腰掛け、冠を戴くに相応しい風格が、彼にはあった。


「久しぶりだな、()()。まさか、こんな風に再会するとは思ってもみなかった」

「えぇ、()()()……とは思っていましたが。御立派になられましたね」


 ジークが静かに膝をついたのを皮切りに、テオドールとエレノアが、異を差し挟むこともなく従った。一拍遅れ、シキミも慌てて膝をつく。

 騎士ごっこみたいだ、と他人事のように考えて。混乱も収まらないまま、ポーズだけの礼儀を示す。


 おうたいし、だなんて。馴染みがないにも程がある。よく聞くのは物語の中ぐらいのものだ。



 そして、唐突に。床に伸びた八つの影のうち、椅子に寄りかかっていた影が、ゆらり、と揺れた。

 こつり、こつり。床を叩く靴の音だけが聞こえる。


「これが噂の白銀の糸(アルゲントゥム)……? でも──なんか、変なの混じってなァい? 野良犬臭いんだけど」


 揶揄(やゆ)するような、侮辱の言葉。

 こつり──足音は真っ直ぐ、シキミの方へと向かってくる。

 黒い影が、覆うように目の前に立ちはだかった。


 ──のらいぬ、とは。わたしのことか。


 突如、下げていた頭が持ち上げられる。

 前髪が鷲掴まれ、鋭い痛みが額に走って。無理やり開かされた視界に、見覚えのない顔が入り込む。


 ふわふわと柔らかそうな毛並みをした、一見すれば甘く優しい顔の青年の瞳が、値踏みするようにシキミの瞳を覗き込んでいた。


 クリームソーダの色だ、とシキミはどこか遠くの方で思う。

 一体どうしてこんなことになっているのか、理由もわからず。痛みに呆然としたまま「なに……?」と小さく呟いた。


「……ふーん。……ま、()は綺麗じゃん。──良いよ。合格にしたげる」


 興味は失せたと言わんばかりに、パッと手を離されて、腰が抜けたようにへたり込む。


 あんまりと言えば、あんまりな物言いと態度である。


 そりゃあ、まぁ、レベルは1だし。白銀の糸(アルゲントゥム)の中では一番新参で、異世界初心者だから何も知らない。その無知さには赤子も真っ青だろう。

 ──だが、だがしかし。


 しかしである。シキミにとてプライドはある。

 だから、ふつふつと湧き上がる腹立ちを、思わずぽろりと溢してしまったのだ。


 それは、考え無しの、意図せぬ一言。

 意趣返しの、反撃(カウンター)


「王太子だがなんだか知りませんが、()()の躾もできないんですか」

「……はぁ?」

「エティやめろ」


 制止の声も聞かず青年が駆け出すのと、()()は同時に起こった。

 声を振り切るように、彼が一歩踏み出したその瞬間。


 そこにいたのは、人ではなく一匹の()()()()だった。


 ついさっきまで、シキミの髪を引っ掴んだり、侮蔑の言葉を投げかけた青年はおらず。あとかたもなく消え失せ──四足(よつあし)の獣だけが、そこにいたのだ。


 走ることに特化した、狩りの脚が床を蹴る。

 次の瞬間、シキミの背中は、地面に叩きつけられていた。


 ──押し倒されるのは、これで二回目だ。嬉しくもない。


 覆い被さる黒い影が、ぱかりと口を開ける。

 ずらりと揃った獣の牙が、染み出した月光に照らされ、純白に輝いていた。


 そのまま、喉笛を噛みちぎろうとする牙は、しかし直前でピタリと動きを止める。

 咄嗟にナイフを握りしめたシキミの手は、獣の前脚に確りと抑えられてしまっていた。


 そのまま、永遠とも思える時間が過ぎて──小さく鼻を鳴らす音と共に、牙はシキミから離れてゆく。


「……()()()になるのは()()()になってからにしな」


 (みどり)の瞳を爛々(らんらん)と輝かせ、獣はそう言い捨てた。

 一歩、二歩。──三歩。後退したソレは、いつの間にか人の姿を取り戻し。また再び、何事もなかったかのように王座の(そば)へ侍りに向かう。


 知らず知らず、詰めていた息を吐く。

 酷い目に遭った…………本当に、酷い。


「全く……エティ。止せと言ったはずだ。これから協力しようという時に、喧嘩を売るやつがあるか」

「でも、でもさぁ…………ヴィーだって、足手まといは(いや)でしょ」

「お前相手に、咄嗟にナイフが出せる時点で、お荷物じゃないことぐらいわかるだろう?」


 宥めるような王太子の声に、そうだけどさぁ……と、不満げに返して、彼は黙りこくってしまった。


「俺の部下が失礼した。許せ。……獣人は気性が荒い──特に、純血種は主人以外に手厳しい」


 獣人──獣人、なのか。彼は。

 獣人と言われ、脳裏に浮かぶのは猫耳を生やした女の子や、顔だけ獣のお兄さんや、尻尾を揺らす子供……などなのだが。

 少なくとも、王座の(そば)の影に、耳や尻尾といった特徴はない。


「なんだ? お前、純血種の獣人は初めてか。……まぁ、数は少ないし、普段は人と変わらないからな」


 それは、なんだか聞き覚えのある──というか、割と最近まで聞いていた声。


 怪訝そうな顔をしたシキミに気がついたのか、また一つ、揺れた影が前へ出る。

 月光に顕になったその顔は、いつの間にか消えていたシェダルの物で。あっと言う間に、彼は猫へと姿を変じていた。


 彼の髪色と同じ、灰ががった青色の、ずらりと美しい猫である。


「ね……ねこ……!?」

「諜報向きだ。……と、言うわけで。この秘密を知ったお前は、問答無用で協力しなければならなくなった」

「……悪魔ですか?」

「猫だ」


 猫が(きびす)を返せば、尻尾のひと振りの間に、また姿は人へと変じていた。


 ずらりと居並ぶ影に戻る彼を追って、よくよく彼らを見てみれば、知った顔ばかりが並んでいる。


「う、え……? ルイさんに、『箱庭』のバーテンさん……シェダルさんにシャウラさん。……天使君とリーンハルトさんまで!?」

「運がいいな、エティを除いてほとんど既知か」


 王太子は、仮の王座から立ち上がり、芝居じみた仕草で彼らを示す。

 パチン、と指が鳴らされれば。今度は付き従っていた者達が膝を折る。


天獄の黒蛇(マウロフィディ)の集会へようこそ。マスターのヴィクトルだ。────どうかこの国を守る、手助けをしてほしい」



今まで比較的好意的なやつのほうが多かったシキミちゃんにとって、エティは珍しい部類だろうな、と書いていて思いました。

敵愾心バチバチやないか。


まぁシキミちゃん、パッと見どころか何度見しても強者の気配とは無縁なので仕方ないですね(エッ?)


そしてまたレビューいただいてしまいました…………ありがたいことです…………。


ぜひぜひ皆様ブクマ評価等よろしくお願いします!!元気になります!(笑)


ここまで読んでいただきありがとうございました。

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