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レベル1からやり直してこい!?  作者: 参星
呪われた宝石編
78/109

78.曰く、見えぬ相棒。


「あ~……これは竜と戦り合ったときのダメージが蓄積されていて、最後に何かの衝撃で欠けちゃった、ってトコかなぁ? 全体的に、(ドラゴン)のせいって感じがするよ」

「超激戦だったんじゃないですかヤダ……」


 片目に着けたルーペの、青いレンズをぎょろつかせながら、カイユはウンウンと唸る。


 精霊の腰を痛めるドラゴン恐るべし。

 あんな気軽に「大したことないお土産だから」とかいう雰囲気を出しておいて、これはあまりにも詐欺である。あまりにも詐欺。


『ほら、早く治してちょうだい。みっともないったらありゃしないのだわ!』

「はいはい。じゃあ、()()くれるかな」


 カイユの指差した先をふと見れば、机の上に置かれていた素材たちが、いつの間にかドロリとした赤い液体へと、すっかり姿を変えていた。


 少女(サラマンダー)が両手を翳せば、彼女を取り巻く液体が生き物のように、小さくざわりと(うごめ)く。

 やがて不定形な物質達は、彼女が(かざ)す手のひらの間、その一点へと集まりだした。


 無重力の中で浮かぶ水滴のように、集まり、(まと)まり、丸く形作られた()()を、少女はカイユへと差し出す。


『よろしくね、()()()さん』

「は~い、お任せを」


 カイユは、空の丸底フラスコを、液体の方へと向ける。

 細い口を通って中へ。液体は吸い込まれるように入ってゆく。


 フラスコの中で波打つ液体は、じわりと色を変え。暫くすると、まるで熱した鉄のように白く輝き出した。


「じゃあ、始めるから真ん中を開けてくれるかな」

『アンタ、お弟子ちゃん。この剣持ってちょうだい。私、自分では触れないのだわ』

「弟子じゃないですってば……って、重ッッッ!?」


 柄はカイユさんの側にある。それなりに重いだろうと踏んだから、わざわざ回り込んで、カイユさんの横から手を伸ばしたというのに。

 それなりの重量を覚悟をして、両手で掴んで力んだものの。到底金属の塊とは思えないほどの重さに、慌てて手を離した。


「無理……!!!」

「あー……嬢ちゃんには無理かもな。なんだ?退()かせばいいのか?」


 シキミとは反対、回り込まずとも伸ばされた手は、易々(やすやす)と柄を掴み、大剣は片手で軽々と持ち上げられる。

 重さなど存在しないかの如く、机に置かれたペンを退()かすスムーズさで(もっ)て、かの剣は取り払われた。


『私が入ってないから結構重いと思うのだ……わ……。ま、テオには関係なかったわね』

「今ちょっと、テオドールさんが人外である可能性を見出しました」

「はァ?」


 「何言ってるんだコイツ」と言わんばかりのテオドールと、「腕力ゴリラかよ……」とドン引きをキメているシキミを置いてけぼりに、修理の作業は進んでゆく。

 ジークやエレノアはといえば、いつも通りの自然体。慣れている。


 素材も失せ、大剣が退かされ。随分とスッキリした作業台の上に、カイユが白いチョークで円を描き始めた。

 迷いの無い動きが、(いく)つもの円を描き出す。


 やがて、その手は円を描くのを止め。縦横無尽に駆け抜けるようになった指の軌道に合わせて、粉の線が引かれる。その線は、作業台を埋め尽くさんばかりに広がっていた。


「うん。これで良いかな」


 カイユは両手を叩き、粉を落とす。

 描かれたのは幾重(いくえ)にもなった円。その中に描かれた文字には、翻訳機能が働かない。浮かぶ見慣れた文字はなく、ただ幾何学的(きかがくてき)な文様は、まるで芸術のようだ。


「魔法陣…………?」

「ご名答! じゃあ、ここに剣を置いて。サラマンダーは、中央に立ってね」

『いつでも良いのだわ』


 不思議な魔法陣を舞台に、役者は揃った。


 カイユが息を吸い、瞳を閉じた。

 その瞬間、この場の空気が変わる。

 チリチリと肌を刺すようなそれは、多分、魔力の高まりを感じているから。


「──我、汝を癒やす者(アルスクーロー)


 じわり、魔法陣が薄紅色に輝く。


万物(オムニス)()傷ついたものへの(デルタリオンス・)安寧を(モーリス)


 剣の上に、そっとフラスコが傾けられる。

 一滴、二滴と、仄白く輝く薄黄色が落ちては、剣の上で橙の火花を散らして飛び散る。


時は過ぎ(リベロス)()駆け抜け(リベロス)


 ばしゃん、と一気に振りかけられた液体は、一層美しい火花となって燃え盛った。

 サラマンダーの(まと)う炎が、一気に力を増す。


「──今再び此処に(レスタッキオ)


 (ごう)と唸る空気が、少女を包み込んだ。

 一際(ひときわ)強く輝いた魔法陣を最後に、視界は再び白く染まる。


 (まばた)きをして、緩やかに晴れた視界。

 輝きを増した大剣と、満足そうな少女(サラマンダー)が、変わらず机の上に、堂々とした様で立っていた。


「さて、調子はどうかな?」

『天才なのだわ! バッチリよ!』


 くるりと一回転。まるで踊り子のように、軽やかに回ってみせた少女は、ふわりと宙に浮く。


「テオくんは? 確認してみて、どうかな?」


 またしても軽々と持ち上げられた剣は、テオドールの手元で鋼の色を(きら)めかせる。

 光にかざすように刃を眺め、彼は一つ頷いた。


「問題無い。むしろ、前より状態がいいかもしれねぇ」


 そう言うテオドールの首元に、背後からサラマンダーの腕が伸びる。

 重力など、文字通り関係ないのだろう。羽もないのに浮かぶ姿は、彼女だけ宇宙旅行をしているようだ。

 肩口からにゅっと顔を出した少女は、テオドールの肩の上でニンマリと笑う。


『当たり前なのだわ! だって私なのだもの!』


 擦るように寄せられた頬を、果たして彼は感じているのだろうか。


 頬擦りする美幼女に、素知らぬ顔をして剣を眺める美丈夫。本当なら、なかなかに危ない絵面のはずなのだが、美形二人だとこうも絵になる。

 ……やっぱり、顔面偏差値が高いのはズルくて得なのだ。間違いない。


「……テオドールさん、やっぱり見えないんですか? サラマンダー」

「うーん。ぼやっとしたヒトガタ……なら、ちょっと。……ま、何となく感じる程度だけどな。今ここ、首元に抱きついてんだろ」


 ここらへん、と示すように向けた手のひらに、サラマンダーがチャンスとばかりに頭を押し付けに行った。セルフ撫で撫でである。

 セルフではあるが、しかし、大層ご満悦のようで。彼女の髪は、パチパチと喜びの火花を散らしている。


「──見えても見えなくても、コイツが大切な相棒であることに、変わりはねェからな」

『ふふん。当然なのだわ!』


 そう言って、大変満足そうな精霊は、蕩けるように笑ってみせた。



拙者、美丈夫に懐く幼女が永遠に好き侍と申すもの………。

精霊ちゃんが可愛い可愛いな回でした。

話数増やすなよって思った読者の方、許してください。描写の我慢ができませんでした。悪い作者です…………悪い作者めに靴下をください。(????)


ここまで読んでいただきありがとうございました。

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