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レベル1からやり直してこい!?  作者: 参星
呪われた宝石編
76/109

76.曰く、魔道具と鍛冶の店。

 

 白銀の糸(アルゲントゥム)の面々は、揃って大通りを歩いていた。

 昼食も済ませ、膨れた腹を擦りながら、未だ見慣れぬ道を行く。

 本日も晴天なり、良い気候である。


 どうやらこれから、アズリルの西部──職人街(しょくにんがい)と呼ばれる地区へと向かうらしい。


 べネット商会での戦闘のアフターケア……つまりは武器の整備と、そのついでに "お土産の鱗" の加工を頼んでくれるという。

 シキミの武器は何ともなかったのだが、テオドールは「微妙に刃毀(はこぼ)れした」と不満顔だ。


 賑やかな町並みは徐々に質素に、飾り気なくなってゆく。すれ違う人も、戦士風の屈強な男やら、冒険者と(おぼ)しき一行が多くなってきた。むくつけき戦闘職の巣窟といったところか。


 呼び込みの声は消え、やや煙たい空気と共に、鉄を打ち付けるような高い音が時折響く。


 一概に "職人" とは言っても、武器から装飾品まで。その種類は多岐に渡るわけだが、此処(ここ)は『冒険者の街アズリル』。需要的にも供給的にも、武器屋やそれに類する道具屋が多いのだ。



 暫く歩いた先、ジーク達が足を止めたのは一軒の瀟洒(しょうしゃ)な家の前。

 真っ白な外壁に(ツタ)が這い、深緑の扉は年月を感じさせるものの、決して襤褸(ぼろ)ではない。


 花屋か? と思うほどに大量の、(あで)やかに咲き誇る花々が鉢に植えられ、置かれたり吊るされたりしていた。その艶やかな色彩は、殺風景な職人街では(いささ)か浮いている。


 窓から覗けば、そこには貧弱な想像力で思いつく限りの、ありとあらゆるファンタジーな道具が所狭しと陳列されていて。風に揺れる吊り下げ看板には『魔道具屋 ミネルヴァ』と記されていた。


 どうやら花屋ではないらしい。


「ここ……ですか?」

「はい。俺達が良くお世話になる、魔道具と武器のお店です」

「はぁ…………何とも可愛らしい外観ですねぇ」


 惚けたように、その独特な佇まいを見つめていれば。窓の向こうで、何かが動いたような気がして、はっと我に返る。


「あっ、お久しぶりです! ジークさん」

 

 ドアベルの軽やかな音と共に、背の高い、優しそうな青年がひょこりと顔を出した。

 水色の瞳は、眼鏡の奥で甘く緩み、柔らかそうな杏色(あんずいろ)の髪の毛先が、好き勝手あちこちを指差している。

 身だしなみはおざなりだが、不潔さや不快感は感じない。


「皆さんお揃いで、ちょっと懐かしいですね。……あれ? 一人増えました?」

「ルイさん、お久しぶりです。……増えました」

「増えました! シキミです! よろしくお願いします!」

「相変わらず、不思議な子を拾いますねぇ」


 その親しげなやり取りに、彼らの付き合いの長さを感じる。

 勢い良く頭を下げれば、元気があるのは良いことだよねぇ、と笑われてしまった。陽だまりのような、暖かい声だ。



 立ち話も何だし、用があってきたんでしょう?


 そう言って、迎え入れられた店内には、溢れんばかりの物、モノ、もの。

 見るからに高そうな皿や壺の隣に、どう足掻いてもガラクタの(そし)りを(まぬが)れなさそうな、ひしゃげたスプーンが三つ。その隣、少し錆びたようなブリキのコップには、怪しげな羽根ペンが一本寂しく入れられている。


 陳列棚には、もはや遠慮も秩序もない。文字通り「雑多」なモノの洪水で、目が回りそうだ。

 不用意に触れれば、呪いか何かで死にそうな予感がして、思わず身を縮こませながら、先を行くジーク達のあとに続く。


 店内は、魔法のランプで明るく照らされ、不気味さを感じる事はない。だが、それはそれ、これはこれ。無害そうな顔をしておいて「実は、触っただけで呪われるアイテムでしたー!」などということは、無きにしもあらずなのだ。私はよ~く知っている。

 

「聞きましたよ、パーティーを組んだんですね」


 少し早足で、カウンターに回り込んだ彼は、また揃ったお顔が見られてよかったです、と笑う。


「父は今、作業中で……差し支えなければ俺が用件を聞いても?」

「はい。構いませんよ。()ずはテオの剣を……」


 差し出された、銀に朱線の大剣。

 相当の重さがあるだろうそれを、ルイは(うやうや)しくも(しっか)りと受け取った。

 刀身を見つめる柔らかな瞳は、途端、真剣なものへと変わり、長い指がゆっくりと刃先をなぞる。

 光に当てるように透かしたり、関節で叩いたり、()めつ(すが)めつの点検は、流れるようにスムーズだ。


「ん~……あ~……(かす)り傷ってトコロですね。俺が直しちゃっても?」

「おう、親子揃って腕がヨロシイことで。……頼むぜ」

「光栄です。──あ、『()ず』って事は他にも何か?」

「ええ。……シキミ、出してくれますか?」

「はいっ!」


 空間収納──を装ったインベントリから、抜き出すのは銀の鱗。置いてけぼりという名の留守番をした、シキミへのお土産の品だ。

 透ける銀色に、ランプの光が反射する。


 テオドールの剣と同じように、至極丁寧に鱗を受け取ったルイは、団扇(うちわ)程の大きさのそれを、じっくりと検分してゆく。


「うわぁ、凄い……。銀竜の……喉元の鱗ですね? 大振りで……うん、魔力の保有も超一級ですね! 金貨十枚は出せますよ!」

「じっ……!? じゅう!?」

「喉元はブレスなんかでよく使われるので、筋肉も鱗も良質なんです。おまけに硬い。──ご要望は?」

「存外に良いものでしたね、僥倖(ぎょうこう)です。ナイフに加工していただいても良いですか? 使い手は彼女です」

「わかりました。……うーん。そうだなぁ……細かいデザインの指定があれば別ですが、だいたい一週間で作れるかなぁ」


 何かありますか? と聞かれても、武器など素人のシキミには、何が良くて何が悪いのかわからない。

 現段階で軽くて薄い、これ以上何を付与するのかという感じなのだが、こだわりがある人にはあるのだろう。


「お任せします。あ、でも、シンプルな感じがいいかも……です」

「わかりました! お任せを! 一週間後に来てくだされば、ご用意できてると思います」



 オーダーメイドなんて相当高いだろうに、と内心ビクビクしていたのだが。加工した際に出る、鱗の削り(カス)や破片で十分元が取れるらしい。

 譲渡してくれれば実質無料(タダ)でやりますよ、という申し出に、シキミは胸に溢れる感謝の涙と共に頷いた。


「せっかくだから中も見ていってください」

「随分品揃え増えたわねぇ……魔窟みたい」

「半分趣味なので……」


 なんとも商魂(たくま)しいお誘いに、エレノアが目を輝かせて棚の向こうへと消えていった。

 色っぽい魔女姿が、異常にこの雰囲気に似合っていて。いっそ店の主のようである。


 ルイはそれを見届けると、鱗を持って、カウンターの奥へと消えた。多分、作業場があるのだろう。


「下手に触ったら爆発とかしそうで怖いなぁ……」

「昔、テオが()()()()()()鎖に巻かれていましたね……」

「さらっと俺の恥ずかしい記録を漏らすな」


 棚の中、陶器でできた可愛らしい(かえる)の置物に、シキミは恐る恐る触れようとして──


「ジーク君たち来てたの!? なんだぁ~僕も呼んでよぉ~! 仲間はずれじゃないかっ」

「──!?」


 突然響いた大音声(だいおんじょう)。その耳慣れぬ声に、心臓が口から飛び出したのを感じた。

新キャラだぁ~!!!!!!!!!!!!!!!(笑顔)

というか巻き込まれ事故でサラッとドジ記録を晒されたテオドール可哀想すぎるな。


ここまで読んでいただきありがとうございました。

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