59.曰く、嘘も真も紙一重。
折角ですから、一緒にベネット商会に行きませんか? と言う話になったのは、だからまぁ、流れ的には正しいというか……いや全く正しくはないわけだけれども。
行かないと言いながら、半ばテオドールに絡まれ引きずられ。苦虫を百匹は噛み潰しましたという顔で、シャウラは渋々と付いてきていた。
目指すはエイデンとの接触。。
自殺した先代の跡を継いだ、現在のベネット商会代表である。
マッティアの生前から彼の補佐を努め、支店の半分を任されるという有望株。
子供すら死に絶え、血の絶えたベネット商会で、その辣腕を振るうことになったのは、当然の流れだったのだろう。
「ベネット商会に突然行って、会って話なんかしてもらえますかね……?」
「最悪カメオをちらつかせましょう」
「えぇ…………??」
アポ無し突撃は社会的ルールに反するだろう、と頭の片隅では思うものの、「社会的ルール」という単語を尽く破壊し、蹴散らしてゆくのがAランクである。
しかし、ベネット商会も暇ではない。
先代の事件関連とはいえ、胡散臭い冒険者に「自殺した先代について教えてください! ほらこのカメオ、先代が作ったものでしょう!」とカメオをちらつかせて言われたとて、何を今更言えるというのか。
先代が死んだのは、何も昨日今日の話ではないのだ。
「まぁ、確かに? ちょっと考えてみれば彼が怪しいのはわかりますけどぉ……」
「殺す理由はありますからね。できるかどうかは別として、ですが……」
「わざわざ当主殺さなくったって妻と子供の皆殺しで済むのよね」
「まぁ俺ならそうすんなぁ……」
物騒なことを呟くエレノアとテオドールを横目に、シャウラまでもが「言われてみれば確かにな」などと言い出したので、この場においてシキミのみが「マジか」という顔を衆目に晒していた。
「彼が疑われなかったのは、事件当時は別の所にいたという証拠がきちんとあるからだそうですよ」
「そんなの、何かに反応する魔導具使えば一発じゃないのよ?」
「何かに反応して、起動した相手が凶暴になる……みたいなモンか?」
「長く傭兵やってあっちこっち飛んじゃいるし、それなりに危ねェ事してン自覚あるけどよ。その、なんだ? 遠隔操作的かつ凶暴にするみたいな類の魔導具の話は聞いたことねぇぞ」
飛び交う意見に頭を悩ませながら、しかし何か有益な案が出るはずもなく。シキミ達の足は、商会への距離を縮めてゆく。
「まぁ今回出向くのも、何か思い出すことがあれば、とか。何かヒントがあれば、程度のものですからね」
「なーんもわかんねぇんだもんなぁ……自殺なら自殺の理由。他殺なら他殺の理由。どうやって殺したのか、とかな」
「事件解決してどうするのよ……って感じはするけれど、自殺ならともかく他殺なら他の人間にも被害があるかもしれないし。リーンハルトからしてみれば、他の一般人が死ぬより大事なことなのかも知れないわねぇ」
──他の人間にも被害が及ぶ。
そう、例えばこの事件が何か精神錯乱系の魔導具を使ったモノだとしたら。
ある日突然、何かに偽装された魔導具を手に入れて、大事な人を殺してしまう人間が出るかもしれないということだ。
もちろん、それは最悪中の最悪の話ではあるけれど。限りなく低い可能性であるだけで、ゼロでは無い。だから、存外シキミ達がやっている "探偵ごっこ" は、大切な──ひょっとしたら何十人、何百人という人間の命を背負うものなのかもしれない。
「……考えすぎですかねぇ?」
「嬢ちゃん、何が?」
「いや、一瞬 "秘密結社の陰謀説" が頭を過りまして……」
「ハァ? ……いや、ロマンはある。採用」
「採用!???!?」
採用された「秘密結社陰謀説」は、面白がったテオドールとシャウラの手によって、魔王復活を待ち望む世界の暗部組織の陰謀説にまでのし上がった。成長している。
道中王都へ向かう馬車を使い、ガタガタと揺れる車内で子供のお遊びのような議論が繰り返されていた。マッティアはいつの間にか、組織の秘密を知ったから消された男という設定になっている。
「それ、強ち間違いじゃなかったらどうします?」というジークの揶揄いを含んだ言葉に「まずは潰してから考えるかな」と応えたシャウラの瞳が、冗談とは思えないほどの真剣な光を宿していれば、思わずシキミの喉も鳴る。
──嘘から出た実。なんて。
すぐさま霧散した、殺気にも似た空気の張りは、馬車を降りるまでシキミの心に、懐かしい諺を重く投げかけていた。
ウッウッ遅くなりました…………。
今週があければだいぶ楽になるんで………ハイ!!
お風呂に入っていたら思いついた展開が私の性癖がいい感じにぶち込まれた感じになったので早く先が書きたいですがんばります。
ここまで読んでいただきありがとうございました。





