45.曰く、奇妙な依頼。
シキミは正直な話、幽霊というものを信じていない。
それは見たことが無いからであったし、物質的に存在しない以上、認識の問題だと思っているからだ。
だからまぁ、選んだのは「面白そうだったから」の一言に尽きるのだが。
「幽霊屋敷ィ!?」
嬢ちゃん幽霊怖がらないタイプかぁ、と素っ頓狂な声を上げたテオドールの横で「あなた時々変な所で勇気あるわよね」と若干呆れたようなエレノアが手にしているのは、ギルドの依頼書であった。
依頼内容は簡単──というより奇っ怪で。
自分の店が管理するとあるお屋敷から「毎晩悲鳴のような不気味な声が上がる」のだという噂が広まってしまって、買い手もつかずに困っているらしい。
しかも、それは「とある貴族の一家無理心中が原因で売りに出された屋敷」なのだというから、そんな噂が立つのもさもありなん。
しかしそれでは自分が困る。
本当に噂通り悲鳴が上がるのか、上がるのであれば原因は何か。原因があるのであればその排除を頼みたい──という、わかっているんだかいないんだかよくわからない依頼である。
「要するにこれ……幽霊見つけたら方法は何であれ退治してね、ってことよね」
「……まぁ、そう、ですかね?」
「見つけてきた本人がわからないんじゃ世話ねぇな……」
苦笑いのテオドールがためつ眇めつした紙に、残念ながらそれ以上の情報はない。
「……で? リーダーのご意見は?」
「面白そうなので許可します」
「マジかぁ〜」
まさに鶴の一声。
仮にもAクラスがお化け屋敷かよ、と不満そうなテオドールに「もしかして怖いんですか?」と聞いてみれば、即座に真顔で否定された。
傍でそのやり取りを聞いているジークとエレノアといえば、生暖かい視線を送るだけで何も言わない。
「怖いんだぁ……」
「怖くねぇよ」
「絶対怖いんですって、顔強ばってますよ」
「オウ嬢ちゃん、表出な」
キャンキャンと子犬の戯れ合いのような二人の有り様に、傍観を決め込んだ二人はそっと目を見合わせて苦笑した。
短いけれど導入なので許してください(土下座)
ここまで読んでいただきありがとうございました。





