第九十六話 魔王ベルゼネウス
連続投稿二日目だす
今回はティアーヌさんの基本視点です
もうすぐ夏アニメ終わって秋アニメ始まりますが、皆さんは期待してるアニメありますか?
ティアーヌに付き添われ、魔物たちのひしめく村の中を静かに移動する。
どの家も無残に朽ち果て、中は蜘蛛の棲家となっていた。
村を囲う森側から大きく迂回してバルメルド家を目指す。
バルメルド家の屋敷は蔦に覆われ窓ガラスが割られてはいるが、建物自体は半壊していない。
でも、とても人が住んでいる雰囲気ではなかった。
「俺……あの家に、住んでたんです」
幽霊屋敷のようになってしまっている我が家を見て呟く。
ティアーヌはそれに何も言わないが、肩を叩くと屋敷へと促す。
屋敷の周りは魔物の巣にはなっていないようで簡単に屋敷の中に入れた。
しかし屋敷の中は長年誰も掃除をしていないからか、蜘蛛の巣や埃まみれとなっている。
調度品は散乱し、廊下には割れた窓ガラスや花瓶の破片が散らばっている。
変わり果てた我が家を見て言葉が出てこない。
メイドたちが集まっていた談話室、家族で一緒に過ごしたリビング、ジェイクが仕事場にしていた一室、ユリーネが化粧をしていた両親の寝室──そのどこにも家族の姿はない。
あるのは朽ち果てた家具ばかり。
自室に赴くと、他の部屋と同じように朽ち果てる見慣れた家具が出迎えてくれる。
洋服を仕舞っていたタンス、勉強する時に向かっていた机、一日の始まりと終わりを過ごすベット。
全てが見慣れ、使い続けていた物だ。
でもその全てが腐食し始め朽ちている。
だけど、見慣れた部屋に見慣れない物があった。
ベットの上に鞘に収められた剣が一本、枕の上には写真立てが一つ、置かれていた。
枕の上に置かれた写真立てを手に取ると、そこに映っていたのはジェイク、ユリーネ、メアリーを含むメイド三人、そして俺。
バルメルド家の集合写真である。
だが、俺はこんな写真を撮った覚えがない。
それに写真に映っている俺の姿は、俺がルディヴァに襲われた時よりも、少しだけ背が高いように見える。
ベットの上に眠るように置かれていた剣を手に取ると、柄の部分に白い魔石が埋められているのに気付く。
もしかしてこの剣って──初めて王都に行った時にジェイクが鍛冶屋に頼んだ特注の剣じゃ……
まさかと思い鞘をよく観察して見ると小さく文字が彫られている。
そこには『クロノス・バルメルド』と、俺の名前が刻まれていた。
俺の知らない家族写真、受け取った覚えのない剣、崩壊し魔物の棲家となった村──もはや、疑いようのない事実が次々と目の前に現れる。
「バルメルド君……」
「ティアーヌさん。教えてください。十年前に……何があったのか」
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ティアーヌ視点
かつて彼が住んでいたと言う屋敷を目にして、ようやくクロノス・バルメルド君は私の話を信じようとしてくれている。
出会ったばかりの彼と私の話はまるで噛み合っていなかった。
まるで魔王も戦争のことも知らないみたいに。
でも廃墟と化した故郷を見て、彼はようやく私の話に耳を傾けてくれる。
だから私は彼に全てを話す。
この十年で、私が見てきた地獄を──
魔王ベルゼネウス。
それがこの大陸を支配している悪魔族の長の名前。
奴は今から十年前に復活したと言われている。
でもその復活を直接見た者は誰もいない。
魔王復活を感知したのは、当時魔王を封印した巫女たちの子孫だったわ。
巫女たちが魔王復活したと周囲に説明したけど、その言葉に耳を傾ける者はいなかった。
魔王など数千年も前の存在……いたのかどうかも定かではない。
それも復活したかもどうかも分からない存在のことを信じる者なんて、ほとんどいなかった。
けれども各国の国王たちは巫女の言葉を無碍にはできず、調査隊を派遣し魔王を封印していた神殿が崩壊したのを見つけたの。
報告を受けた国王たちは、国民が恐怖の渦に飲み込まれないように隠密で魔王捜索を行ったわ。
復活した直後なら倒すことができると考えたの。
だけど──復活した魔王ベルゼネウスは狡猾だった。
魔王は復活した直後は決して人前に姿を見せず、力を蓄える為に身を潜めていたの。
でも身を潜めるだけではなかった。
魔王が復活した十年前から、各国の国内で小さな戦争が起きるようになり始めたわ。
部族による戦争から種族による戦争へ、やがてそれは規模を増して貴族と平民による戦争、そして国内を二分する戦争へと発展し、次第に国同士による世界大戦へと激化していったの。
「なんで、たった十年でそんな……」
「これは魔王復活から三年内の話よ。本当に酷くなるのは、四年目からだったわ。当時私は、旅人として各国を渡り歩いていたの──」
世界大戦が始まって一年が過ぎた頃、既に国同士による行き来を船で行えなくて、私は魔法を使って海を渡るようにしていたわ。
でもある日異変に気付いた。
日常生活で何気なく使っていたマナが、徐々に薄くなり始めていたの。
この世界の魔法を操る為に必要なマナは世界樹である『ユグドラシル』が生み出しているのは知ってるわよね?
世界樹ユグドラシルがマナを生み出し、私たちはそのマナを体内に吸収し魔法を発動できる。
そこに目をつけた国があったの。
ユグドラシルは世界中を一定周期で移動するわ。
だからその習性を利用して、マナを独占しようと自分の国に移動してきたところを捕獲したのよ。
「世界樹を捕獲するって……あぁ、そういやユグドラシルって獣の姿になれるんでしたっけ」
「あら、よく知ってるわね。その事実を知っている人はなかなかいないのよ」
「子供の頃に見たことあるんです。その時は鹿に似た姿でした。でも、よく捕まえられましたね」
「普通に捕まえるのは無理よ。悪魔族しか使えない闇の魔法がないとね」
「待ってください……それってまさか」
世界樹ユグドラシルを捕獲を目論む国があると聞いて、私は旧知の魔法使いたちと一緒に止めに行ったわ。
でも時遅く、私たちは捕獲作戦を阻止することができず、目の前で悪魔たちに世界樹を燃やされてしまったの。
そして、ユグドラシル捕獲作戦で世界樹が燃やされた瞬間から地獄が始まった。
国の重役のほとんどが気づかぬ内に悪魔族と入れ替わっていたの。
戦争を長引かせ拡大させる為に裏で操っていたのよ。
悪魔族の力の源は"人々の恐怖心"。
魔王は自らの力を蓄える為、配下の悪魔を使って戦争と言う恐怖を世界中に広めた。
そして私たちから魔法を奪う為に世界樹ユグドラシルを排除したわ。
マナの供給源であるユグドラシルを失い以前のように魔法を自由に使えなくなった私たちと、恐怖によって力を増大させていく魔王軍。
戦争になればどちらが勝つかは、誰の目にも明白だった。
加えてこちらは、世界大戦の影響で国力が大幅に減少した状態での戦いを強いられ、まるで赤子の相手をするかのように私たちは敗北した。
戦争に敗北した各国は王を討ち取られ、悪魔族の手に堕ちた国がほとんどよ。
戦争に勝った魔王ベルゼネウスはこのゼヌス大陸を拠点とし、生き残った人族や自分に従わない異種族たちを排除しているわ。
この世界の全てを悪魔族が支配する。
おそらくそれが、魔王ベルゼネウスの目的なのよ。
台風近づいてますけど明日も仕事です
次回は明日22時に公開されます!




