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第九十三話 闇に沈む

今日から新番組で仮面ライダービルドが始まりましたね!

まだ見てないので、仕事帰ってから見るつもりで楽しみにしてます!


 川で成長した姿を見て混乱した俺は、何度も顔を洗って確認したが子供の姿に戻っている……なんて夢オチにはならなかった。

 何がどうなってこんな姿になってしまったのかわからないが、十中八九時の女神ルディヴァの仕業だろう。

 まぁ考えようによっては、もう子供の姿ではないのでこれで合法的に童貞を捨てられると考えられる。

 つまり、これは俺にとっては最高なのでは?


「んな訳あるか!いつまで歩けばいいんだよこれ!」


 また一人寂しくツッコミを入れながら、俺は広い平原を歩いている。

 川の流れに沿って移動し、森の外に出るまでは何とか計画通りになった。

 しかし、歩けど歩けど村なんて一つも見えやしない。

 だだっ広い平原がどこまでも続いているだけで、人っ子一人見つけられもしない。

 曇ってはいるがまだ昼間のはずだ。

 なら商行人の馬車ぐらい走っていてもおかしくないはずなのに。

 見かけるのと言えば魔物の群れぐらいなものだ。

 その度に俺はどこかに隠れたり、土魔法で壁を作って見つからないようにやり過ごしている。

 空に向かって叫ぶが当然人の返事は返ってこない。

 代わりに返事をするのは俺の虫の腹だった。


「はぁ……腹減ったぁ」


 森を出てから何も食べていない。

 川で小魚を見つけた時に何匹か捕まえて食べておけばよかった。


「腹は減ったし、人は見つからないし、村もどこにもないし……だぁ、イラッとくるゥゥゥゥ!!」


 これもあのルディヴァって女神のせいだ!

 チックショウあの性悪女ァァァァ!

 様々な事態に我慢の限界がきてしまい、近くに落ちていた石を思い切り蹴り飛ばす。

 蹴り飛ばされた石は放物線を描きながら落ちて行き、小高い丘の向こうへと消えていく。

 すると数秒遅れて、馬の鳴き声が響き渡る。

 もしかして、誰かいるのか!?

 期待に胸を躍らせ丘へと駈け出す。

 丘の下では鎧を身に纏う兵士二名、黒い馬に跨り赤いマントに身を包む人物の計三名の姿があった。

 どうやら俺が蹴った石が馬に当たってしまったようで、黒い馬が興奮して暴れている。


「すいません!大丈夫でしたか!?」


 それを見て俺は慌てて飛び出した。

 まさか小石を蹴った先に人がいるなんて思っていなかった!

 謝りに出て行くと馬に乗る赤いマントを着た男がこちらをギラリと睨んでくる。

 その睨みに俺は少し怯んで足を止めてしまう。

 よくよく見たら赤いマントを着た男の風貌は異様だ。

 毒々しい紫色の髪、黄色い眼に黒い肌と初めて見る亜人種の特徴。

 赤いマントの下には黒い鎧を着ており、そのせいか禍々しさを感じる。

 初めて見る亜人種の特徴と男の威圧に数歩後退りながらも俺は謝罪する。


「す……すみませんでした。人がいるとは思ってなかったので」

「その石を飛ばしたのは貴様か──ならば死ね」


 しねって……死ね!?

 そんな、石を蹴飛ばしただけで死ねなんて言われるなんて!

 男に反論しようとするとお供の兵士二人が腰の剣を抜き斬りかかってきた!

 大振りの斬撃を咄嗟に後方に飛び退き回避する!


「危ないだろ!石を蹴飛ばしたことに関しては謝ったじゃないか!!」

「許さぬ。貴様が人族である時点で殺すことは決定なのだ」


 もしかしてこいつら、人族に排他的なのか!?

 人族を嫌う亜人種はいると聞いてはいたけど、その実物に出会って殺されかけているなんて……冗談ではない!

 兜で顔を隠した兵士が連続で斬りかかって来る。

 だが死ねと言われて言う通りにするつもりはない。

 手元に武器はないが魔法を使えば撃退はできる!

 攻撃を避け続ける俺目掛け単調な動きで兵士二人が迫ってくる。

 それに合わせて俺は土属性の魔法を発動させる!


「土よ!壁となれ!」


 地面にマナを流し込み土を壁として突出させ、俺と兵士を隔てた。

 足元から飛び抜けた地面の土が兵士二人の斬撃を受け止める。

 そして今作った土壁に俺は手を当て、


「弾けろ!!」


 再びマナを込めて反撃に転じた。

 作り上げた壁を炸裂させ、腕ほどの太さの槍の形に変化させ兵士二人に浴びせ、硬い鎧に土の槍が激突した衝撃で兵士二人が吹き飛ぶ。

 手応えを感じ心の中でガッツポーズをとる。

 兵士たちが転倒している間にここから逃げてしまおう!

 そう考えていたのだが──


「……え?」


 土壁を炸裂させた際に吹き飛ばした兵士の姿を見て足を止めてしまう。

 土の槍を全身に受け止めた兵士の鎧が身体ごと空中でバラバラに分解されたのだ。

 もちろん殺すつもりで撃ったつもりはないし威力も相当低くしたはずだ。

 だというのに兵士の身体は鎧共々吹き飛んでしまっている。


「そんな、嘘だろ!?」


 四肢がバラバラになり吹き飛ぶ兵士を目の前にかつての悪夢が蘇る。

 王都に赴いた時にインスマス教の司教の死に際が脳裏にフラッシュバックする。

 また俺は人を殺してしまったのか!?

 だが、それは間違いだと気付いた。

 分解された兵士の鎧が地面をカラカラと転がる。

 鎧の中身が見えた時、その鎧が空であることに気づく。

 そう、先程まで動いていた鎧に中身がないのだ。

 地面を転がる鎧から黒い液体の飛沫が見えた。

 あれは人が入っていたんじゃないのか?

 なら、一体どうやってあの鎧は動いていたんだ!?

 中身のない鎧を前に狼狽えていると赤いマントの男が馬から降りてこちらに近づいてくる。


「貴様、魔法を使役する程のマナを有しているのか」


 強大なプレッシャーを感じる。

 マントの男から放たれる威圧感に怯み、その場から逃げることができない。


「ならば、益々生かしておく理由はない」


 そう言って男が黒い手を伸ばす。

 伸ばされた手に黒い瘴気のような物が集まり始める。

 あれは、魔法なのか?

 見たことない輝きを放つマナの気配。

 黒い輝きを放つ瘴気──まさかあれは、闇属性の魔法!?

 初めて見る魔法だが、あの黒い瘴気はまともに喰らってはいけないのだけは直感でわかる!

 だが背を向ければ確実に後ろからやられる……なら、迎え撃つしかない!


「くっ!こお

「遅い!!」


 マナを込めて氷の礫を生成しようとするも男の動きが速い。

 男の手から放たれた黒い瘴気が未だマナを込める俺を直撃した。


「ぐ、があああァァァァ!!」


 目の前が漆黒に染まる。

 瘴気に身を揉まれ、俺の中の何が黒く染まる。

 俺の身体は宙に浮くと後方に吹き飛ばされ、地面の上に受け身も取れず転がり落ちた。


「がっ!かはっ!」


 全身に黒い瘴気を受け激痛が走る。

 今の俺じゃあの男には勝てないと悟る。

 力量差が違いすぎる!

 あの男は──普通の亜人種とは違う!

 逃げなければ……ここから逃げなければ!


「ぎっ……うっ……かぁっ……」


 立ち上がろうとするが全身に力が入らない。

 まるで糸の切れた人形のように思ったように身体が動かせない。

 なんでだ!?

 なんでこうも動かないんだ俺の身体は!?

 背後から足音が聞こえる。

 あの男が俺にトドメを刺す気だ!

 嫌だ、こんな意味の分からないまま死にたくない!

 逃げないきゃ逃げなきゃ逃げなきゃ逃げなきゃ逃げなきゃ逃げなきゃ逃げなきゃ逃げなきゃ逃げなきゃ……!!


「ふん。愚かな人間め」


 男が俺のすぐ傍に立ち、こちらを見下ろしてくる。

 俺の身体は僅かに上半身が動く程度で、倒れた場所から全く移動できていない。


「あっ……うっ……」

「もはやお前は逃げられない。この俺様に歯向かったことを後悔しながら死ぬがいい」


 後頭部を男に掴まれ、片手で軽く持ち上げられる。

 待って、待ってくれ……まだ死にたくはないんだ……!

 俺はまだ、この世界に来てから何一つして目的を……!


「死ぬがよい」


 男が後頭部を握る力が込められ、後頭部を締め付けられる痛みが徐々に増していく。

 だが──本当の苦しみはそれからだった。


「がっ……あっ……あ、ああ、あああああ、ぐああああああああああァァァァァァァァァァ!!」


 頭部が何か得ないのしれない暗闇に支配される!

 全身に激痛が走る!

 骨が砕け筋肉に突き刺さるかのような感覚が這いずりまわる!

 頭の中に何が入ってくる……俺の内側から何が胸を食い破るかのように暴れ回る!

 絶叫が止まらない……!

 手足の感覚がない……!

 なのに全身を引きちぎるような激痛だけが終わらない!!

 俺が無くなる……俺が俺じゃなくなる……壊れる、壊れる、壊れる、壊れる!

 消える、俺が消えて無くなってしまう!

 怖い、怖い……!!

 怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない!!


「ぐあああああああああああ!!がああああああああああ!!」


  もう嫌だ、もう耐えられない!

 何でもいい、誰でもいい!

 俺を、俺をこの苦しみから解放してくれ!

 もう俺を殺してく


 ──────プツン。


 と、自分の中で何が切れる音が聞こえた。

 もう痛みも、苦しみも、悲しみも、何も感じない。

 あぁ……俺は、解放されたんだ……

 もう苦しまなくていいんだ……

 俺は……もう……

 音も、色も、この世界の全ての何もかもが自分から隔離されていく。

 最後に両眼に映ったのは、色のない空と、色のない大地。

 そして──


 悪意と愉悦に満ちた、男の顔だけだった。


────────────────


 ドサリと、力無くクロノスが草原の上に倒れる。

 先程まで恐怖と激痛に苦しんでいた姿とは裏腹に、その顔には小さな笑みが浮かんでいた。

 彼はもはやクロノス・バルメルドとして起き上がることはできない。

 そこに横たわっているのは、クロノス・バルメルドと呼ばれていた男の肉体だけだ。

 自らに歯向かった男の哀れな末路を見届け、黒い肌の男は満足気に見下ろしクロノス・バルメルドだったものを蹴り飛ばす。


「愚かな男だ。俺様に楯突いた報いだ。そのままそこに横たわり、魔物の餌となるがいい」


  男が踵を返し馬の元へと戻ろうとすると、先程クロノスに倒された兵士の残骸に変化が起きる。

 鎧の中から飛び散った黒い液体がバラバラとなった空の鎧の中に集まり始めたのだ。

 そして黒い液体が入り込んだ鎧は一人でに動き始め、組み合わさり元通りの一つの個体として再生した。

 再生した兵士二体に男は指示を出す。


「捜索範囲を広げろ。あの女がこの地に身を寄せているのは間違いないのだ。何としても探し出せ」


 男は黒い馬に乗り上がり、暗雲で太陽を隠す空に手を伸ばす。

 そして拳を強く握りしめ、


「あの女──ティンカーベル・ゼヌスを殺し、俺が……魔王ベルゼネウスがこの世界の支配者となるのだ!」


 己の中に渦巻く渇望、果てしなき欲望を高らかに宣言し高笑いしながら男はその場を離れていく。

 残されたのはクロノスだったモノだけ。

 それは地面に転がったままピクリとも動かない。

 やがて──一粒の滴が空から降ってきたり

 滴は次第に勢いを増し、雨となって大地に降り注ぐ。

 大粒の雨に打たれ続けるクロノスだったモノは、身を濡らしこのまま魔物の血肉となるか腐り果て骨となるのを待つだけだろう。

 そんな……ただ腐敗を待つだけの存在の近くを通る一つの影があった。

 大雨の中何も雨露凌ぐ物を持たず、使い古されたかのような色褪せた小豆色のとんがり帽子に同じく色褪せたローブを身に纏い、顔以外の素肌を一切見せないように隠している。

 背丈は然程高くはない。

 顔を隠そうと深めに被ったとんがり帽子から覗かせる顔は女性だとわかる。

 とんがり帽子を被った女性は雨に濡れるのも構わず平原を歩き続ける。

 そして、地面に横たわる男の存在に気がついたのだった。

またRT企画やってます。詳しくはツイッターにて!


次回投稿は来週日曜日22時です!

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