第九十二話 土の中にいる
毎回最新話投稿するとブクマ数より3倍近い人がアクセスしてるっぽいんですけど、一体この人たちはどこから来てるんだろう……っていつも不思議に思ってます
慈愛の神ギルニウスと時の女神ルディヴァは、光に飲まれ消えたクロノスの姿を最後まで目にしていた。
光が消えた時、そこにクロノス少年の姿はなかった。
「クロノス!クロノス・バルメルド!」
「呼んでも無理ですよ。もう彼はここにはいません」
「ルディヴァ!クロノスを……彼をどこへやった!?いつの時代に飛ばしたんだ!?」
「さぁ?それは私にも分かりませんよ」
惚けるルディヴァを前に怒りが込み上げ、ギルニウスは胸倉を掴む。
無理にでも吐かせようとギルニウスが考えていると、胸倉を掴まれていたはずのルディヴァの姿が消えており、ギルニウスの背後に回っていた。
「そんなに自分を殺すかもしれない存在を野に放たれるのが怖いんですか、先輩?」
「……」
後輩の質問にギルニウスは答えない。
沈黙するギルニウスを見てルディヴァは満面の笑みを浮かべ、両手を広げてくるくると回り出す。
「見届けるとしましょうよ。あの少年が自我を保つか、はたまた喰われるか。と〜っても楽しみですね!」
笑いながらルディヴァはくるくると回る。
その笑い声はどこまでも響き渡るのだった。
────────────────
クロノス視点
暗闇の中で誰かが叫んでいる気がする。
とても聞き慣れた声で、今にも泣き出しそうで……
「ん……?」
声が遠いていき手足の感覚が戻ってくる。
瞼を開けるとどこか真っ暗な場所に寝そべっていた。
ギルニウスもルディヴァもいない。
俺はさっきまで、ニケロース家の近くの森の中にいたはずなのに。
「どこだ……こ、痛ッ!」
起き上がろうとしたら頭打った!
ちょっと頭上げただけなのにゴンッ!って思い切り打った!
「いってぇ……!なんなんだよチクショ……!」
ぶつけた額を手でさする。
恐る恐る手を伸ばして見ると、どうやら俺は狭い場所に閉じ込められているみたいだ。
暗いと何も見えないので試しに濃褐色の右眼にマナを込めて発動させる。
暗闇だけだった視界に別の物が見えてくる。
まず見えたのは木の木目。
さっき頭をぶつけた天井、左右のどちらにも木目が見える。
どうやら俺は木箱か何かの中に閉じ込められいるみたいだ。
他には萎れた花が体の周りに散りばめられているぐらいしか見えない。
でも箱の中に花で周りを飾られてるってこれじゃあまるで……
「いやいや、まさかそんな。それよりもここを出ないと」
こんな密封された場所に閉じ込められてたら息ができずに死んでしまう!
手を伸ばして天井を開けようと試みる。
だけど上に重しでも乗っているのか、どれだけ押してもビクともしない。
「だぁぁぁぁ重い!こうなったら……!」
両手にマナを込めて天井に触れる。
「土よ!」と叫び岩石を撃ち出す。
衝撃で天井が吹き飛び、天井を抑えていた大量の土も一緒に遥か空へと吹き飛んだ。
土が吹き飛び砂埃が舞う。
「ゴホッ!ゴッホ!オェ!なんだよごれ!」
降ってくる砂埃を手で払いながら咳き込む。
俺が押し込まれていた場所は地面の中みたいで、見上げる先には土と曇り空が見える。
なんとか木箱から抜け出して地面の中から這い上がり能力を解除する。
周りを見渡すと見知らぬ森の中に俺は居た。
「一体どこなんだよここ……」
こう木と草むらだらけでは現在地も分からない。
ふと、穴の傍に木で作られた十字架が立てられているのに気づいた。
木箱の中に添えられた花、この十字架、それに地面に埋められていたことといい、これじゃあまるで……
「まるで……俺が死んだみたいじゃないか」
まさか、あの時の女神ルディヴァに殺されたのか?
いやいや、そんなはずはない。
だってあの女は俺を歴史から消すと言っていた。
だったら今俺はこうしてここにいないはずだ。
「それにしても、なんか変だな……体がおかしい」
穴から這い上がってから妙な違和感を感じる。
いつもより視点が高いような……気のせいか?
「とりあえず、どうしよう。村でも探そうか」
ここがどこの森なのかは分からないが、墓の近くにいつまでもいるのは薄気味悪い。
森を出れば近くに村があるかもしれないし、もしかしたらここら辺で狩猟をしている狩人に鉢合わせするかもしれない。
そうと決めると俺は歩き出す。
無闇に歩き回ると迷うかもしれないなで、今度は左眼にマナを込める。
眼球が熱くなり、少し遠くの物も見えるようになった。
「おーい、誰かいませんかー!ギルニウス出てこーい!おーい!」
歩きながら声を上げる。
もしかしたら誰か気づいてくれるかもしれないし、神様なら呼べば反応ぐらいはするだろう。
なんて思っていたのだが……
「おーい!……返事がない」
神様の声も人の声も全く聴こえやしない。
ったく、あの神様はホントいざって時にしか来てくれないんだから困る。
俺が光に包まれ、あれからどうなったか知りたいというのに。
神様に文句を垂れながら森の中を歩いていると、微かだが何かの音が聞こえる。
近くが、今いる場所からでは視認できないので何の音か分からず警戒する。
魔物とかだったらどうしよう、俺丸腰だぞ……
「どうか魔物じゃありませんように」
祈りながら左眼の瞼を細く閉じる。
更に遠くの風景が見えるようになると、左眼に音を出している正体を見つけた。
音を出していたのは水面を跳ねる小魚。
そしてそこに見えたのは、
「川だ!川がある!助かった!」
何もないと思っていた森の中で川を見つけた。
これは僥倖だ!
すぐさま走り出して川へと近づく。
全く汚れてもいないし、小魚たちが泳ぎ回っているからこの川の水は飲み水として使われてるはず。
ならば川の流れる先に進めば、この川を生活水として利用している村に辿り着けるはすだ!
「少し希望が見えたぞ。と、その前に水飲んでいこっと」
さっきから声上げ続けてたから喉が渇いてしまった。
またこれから歩くだろうし、今の内に水分補給しておこう。
川に近づくと腰を屈め、水面を覗き込む。
水面は程よく綺麗で、そこに映る俺の顔もいつも通り……
「え……?」
水面を覗くと知らない顔の男が映り込んでいた。
白髪にボサボサ頭、両眼は色が違うオッドアイ、そして凛々しく整った顔立ち。
え……誰これ、なんで知らない顔の人が映ってんの?
ちょっと待って、誰このイケメン?
てか、この世界にも俺と同じ白髪オッドアイの人なんているんだ〜。
この川に住んでるのかな?
「んな訳あるかよ!!」
一人でツッコミながら手を伸ばして水面を叩く。
それでも映った顔は消えず、じっとこっちを慌てた様子で見つめ返してくる。
手で自分の顔に触ると、水面に映った男も自分の顔を触った。
間違いない、やっぱりこれは俺の顔だ!
水面に映ってるのは俺自身だ!
でも俺の知っている子供の顔ではない、明らかにこれは成人男性の顔立ちだ!
立ち上がり全身を見下ろす。
手が大きい、腕も足も長い、胴体も幼児体型ではなくちゃんと成長している!
ムスコも大きい!
「なんで、どうなってるんだ!?どう見ても九歳児の身体じゃないぞこれ!?」
俺の身体、成人男性並みに成長しちゃってるよ!
どうしてこんなことになってんのコレェェェェ!?
今わかりました、宇宙の心は彼だったんですね……
次回投稿は来週の日曜日です




