第八十九話 別れの時
風邪引いてしまってここ三日ぐらいダウンしてました。しかも執筆も全然やってねぇ!
オッドアイズの方はストックあるから問題ないんですけど、新作の方が進んでない!
夏休み中に一括投稿するの無理かも…
坂田にサンクチュリア学園への推薦状を受け取った次の日。
授業を聞き流しながら俺は頬杖をついて昨日のことを考えていた。
『サンクチュリア学園に行くのなら、卒業まで戻ってこれないと思った方がいい』
ジェイクにそう言われ、俺はずっと悩んでいる。
ニケロース領の村から学園のあるモルトローレまでは馬車で五日程かかるそうだ。
とてもじゃないがここから通える距離じゃないし、気軽に往復できる距離でもない。
そうすれば、三年間はレイとフロウとは会う事ができない。
その問題が、俺にモルトローレ行きを鈍らせている。
坂田は三日間はニケロースに滞在するので、それまでに決めてほしいと言っていた。
期限は後二日──それまでに俺は、答えを出さなければならない。
授業が終わり昼食の時間となる。
基本生徒は弁当持参で校舎内なら好きな場所で食べても良いことになっている。
俺はレイとフロウと待ち合わせると、普段と同じ中庭の一角で弁当を広げる。
「いっただっきまーす!」
「いただきます」
レイとフロウが手を合わせて食事を始める。
俺も同じように手を合わせて小さく「いただきます」と呟き、ちまちまと弁当を食べる。
「……クロ、どうかしたの?今日元気ないよ?」
あまり食の進まない俺を見てレイが尋ねる。
フロウも同じようで、食べかけたサンドイッチを離してこちらを見る。
「クロくん、今日ずっと元気ないよね?何か悩みでもあるの?」
二人はじっとこちらを伺い、俺が話すのを待っている。
どのみち……この二人には話さないといけないんだ。
弁当を置いて一呼吸する。
しっかりと、全てを打ち明ける。
「俺、別の中等部への推薦状を貰った」
「推薦状って……クロ、もう進学する学校決まってなかったっけ?」
「成績を管理してる王都の方で手違いがあったんだ。それで、昨日俺の所に推薦状がきた」
「クロくん、その学校は……?」
「Aランク『サンクチュリア学園』」
ランクと学園名を聞いて二人とも驚く。
いや、正確には二人の驚き方は全く別だ。
レイは学園のランクを聞いて驚いているが、フロウは学園名を聞いて驚愕している。
フロウは学園がどこにあるのか知っているのだろう。
「Aランクって……進学する所より高いよ!やっぱりクロはすごいよ!そんな学園に推薦してもらえるなんて!ボクなんてDだもん」
感心しながらレイは弁当の木の実を手に取るが、
「クロくんは──この村を離れるの?」
フロウの一言に木の実を落とす。
その一言で楽しげだったレイの表情から笑顔が消える。
「フ、フロウ、クロが村を離れるって、どういう……」
「クロくんが推薦をもらったサンクチュリア学園は、モルトローレって町にあるの。でも、すごく遠くてここからじゃ毎日通えない。だから」
「ああ。もし進学するなら、俺は……ニケロース領を出ることになる」
長い沈黙が訪れる。
今は昼食時だと言うのに、周りの喧騒がどこか遠くのように聞こえる。
二人とも食事を止め、俺がいなくなると言う事実に切なげな表情をしていた。
「で、でもさ!クロに会いたくなったら、そのモルトローレって町まで馬車で行けば」
「無理だよレイリスちゃん。言ったでしょ、モルトローレは遠いって。すぐに行ける距離じゃないし、町に行くまでの馬車の乗車賃だってとても高いの。ワタシたちじゃ、そんなお金……払えないよ」
フロウの返答で更に空気が重くなる。
食事中に話したのは失敗だった。
せめて食事が終わってからすればよかった。
しかし後悔してももう遅い。
校舎から昼食の終わりを告げる鈴の音が聞こえる。
生徒たちが校舎に戻るのを見て、俺は食べかけの弁当を袋に包むと立ち上がる。
「クロ!」
校舎に戻ろうとする俺の背をレイに呼び止められる。
「クロは……いなく、なっちゃうの?」
「まだ、決めてない」
背中越しにそう答えると安堵の声が聞こえた。
だけど、離れるかのどうかの答えはすぐに出さなければならない。
少なくとも、今日中には……
✳︎
学校が終わり帰る途中、馬車の中はいつも以上に静かだった。
俺もレイもフロウも、全く会話をせずに村へと着く。
「じゃあね……」と元気のないレイと別れ、フロウを家まで送る為に一緒に歩いている。
「クロくんは、さ……モルトローレに、行きたいの?」
ずっと会話がなかったのにいきなり質問された。
フロウの顔を見るが、そこには不安はない。
ただ純粋に俺の答えるを聞きたがっている。
「俺は……」
「ワタシは行くべきだと思う。ううん。行くべきだよ。クロくんは」
はっきりとした口調で断言される。
かなり意外だった。
フロウもレイと同じように俺が村から離れるのを嫌がるかと思ったのに。
「クロくんってさ、普通の子と違うってワタシ分かるんだ」
まぁ、転生者ですから?
むしろ転生者の子供が周りにいっぱいいたら驚きだよ。
「クロくんはきっと、ワタシを助けてくれたみたいにもっと多くの人を助けることができる人だって、ワタシ思ってるんだ」
「止せよ。俺に英雄願望はないぞ」
「そういうのじゃなくてね。なんて言えばいいのかな?うーん」
上手く言葉に表現できないようでフロウは唸っている。
しかし、フロウにそんな風に思われてたとはもっと意外だ。
俺ってそんな人助けをする人柄に見えるか?
「と、とにかく!クロくんはすごいんだってこと!」
「曖昧だなぁ」
「ごめん」
「いいよ。言いたいことはなんとなくわかった」
フロウの後押しで少しだけ気持ちは軽くはなった。
だけど、それだけでは──
「心配なんでしょ。レイリスちゃんのこと」
図星だった。
最近フロウの感が鋭くなってきている気がする。
それとも俺が分かりやすいだけなんだろうか?
「レイリスちゃん。クロくんとは一番の友達だし、いつも一緒にいるもんね」
「ああ、だから困ってるんだ。俺がいなくなった後、レイやお前が上手くやっていけるのか」
「過保護だなぁ。ワタシは大丈夫だよ。レイリスちゃんは……すごく悲しむだろうけど」
俺だってまだここを離れるかどうか決めていない。
でももし離れると決めた時、俺はレイリスを説得できるのだろうか?
あの調子だと絶対泣かれる。
さっき村を離れると話題にしただけで今にも泣きそうな顔をしていたのだ。
間違いなくモルトローレ行きを決めたら泣かれる。
その時になって俺は、レイリスを突き放せる自身がない。
この世界に転生してから一番長い付き合いはレイなのだ。
もしレイに「行かないで」と懇願されて、俺は首を振ることができるのだろうか?
「それを決めるのはいつまでなの?」
「明日まで……けど、今日中には答えを出さないといけない」
「そっか」と短く答える。
フロウはどんな答えを出しても、きっとそれを尊重してくれるだろう。
これで男じゃなかったら、いい女なんだけどなぁ。
話をしている内にニケロース家の屋敷の前まで着いていた。
「じゃあここで、送ってくれてありがとね」
「ああ。また明日な」
「うん。しっかりね」
しっかりね、とはレイを説得できるいい方法考えろってことだろう。
ウィンクしながらフロウは屋敷の中へと消えた。
ほんとあれで女の子じゃないのが残念だわ。
いや、男の娘としてはいい友達なんだけどね?
「しっかりね……か」
できたらこんな悩まないって……あー、もう帰ろ帰ろ!
帰ってから考えよう!
一人でウダウダ考えても仕方ないし、ユリーネかメイドのメアリーさんたちにでも
「あのー、もし?」
踵を返し家に帰ろうとすると声をかけられる。
腰まで伸びた青い髪に美しい顔立ち、身体のラインがよく分かるほどの白いドレスを着た女性がいつの間にか立っていた。
手に持った杖は幾つもの装飾品が飾られており、特別な杖だとわかる。
一人だと思ってたところでいきなり声をかけられたからびっくりして俺は飛び上がる。
「ふぁい!?え、あ、ごめんなさい。なにか?」
「クロノス・バルメルドさん……で、間違いないですか?」
「え、ええ。そうですけど」
俺を探してる?
あれかな、坂田さんの遣いとかか?
女性は「あぁそうですか〜!よかった〜!」と安堵の声を漏らし、
「じゃあ、死んでください」
ニッコリと笑顔で告げる。
「は?」と俺が聞き返すと、それに答えず彼女は杖を掲げた。
すると空から白い光の柱が降り注ぎ──時が消えた。
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次回投稿は来週金曜日の22時にしようかと思います。で、金土日で三日連続します。そん時に第四章のサブタイも変更します。




