第八十七話 友人の来訪
今日から始めます第四章!
話数的には87なんですけど、総合話数的には90話目だそうです。
何も存在しない暗闇の中を一人の女性が歩いている。
「あふ、ふぁ〜……よく寝ましたぁ」
腰まで伸びた美しい青い髪を揺らしながら女性は欠伸をする。
誰もが見惚れるであろうその美貌は欠伸によって大口を開けているせいで台無しだ。
その身に着付けた衣装は細かな宝石が散りばめられており、何かの儀式に使用される物かと連想される。
その手には身の丈よりも長い金属の杖を持ち、それを軽々と持ち歩いている。
彼女は立ち止まるともう一度大きな欠伸をした。
「ふわ〜……さてさて、お仕事しますか〜」
まだ抜けない眠気に耐えながら気持ちを切り替える。
手に持った金の杖を暗闇しかない足元に叩く。
コンコン、と二回地面を叩くと闇の中に音が響き渡り波紋が広がる。
闇しかない空間に音が響き渡り波紋が遥か彼方まで渡った。
すると足元の闇から次々と何が飛び出す。
闇から飛び出した無数の何かは広がり映像を映し出す。
その映像とは、ゼヌス大陸のあらゆる場所であった。
人族も亜人種も、動物や魔物も、草木や花さえも、この世界に存在する全てが青髪の女性の周りに映し出される。
映し出された映像を眺めながら彼女は一人頷く。
「うんうん。前と変わりなしっと」
以前見たのと同じ映像。
それが彼女にとっては平和の証。
何も変わらぬ事象を観測することが、彼女にとっては仕事の一環である。
前回から変化無しと判断し映像を消そうとし──
「ふわぁ〜、それじゃあもう一眠り……ん?んん〜!?」
目的を終え浮かび上がる映像を消そうとしかけ、以前と違う映像が流れている箇所を見つける。
彼女はその映像をよく見ようと杖を振るい引き寄せた。
そこには三人の少年少女が馬車に乗っている姿が映されている。
一人はエルフの少女、一人は女性物の服を着た少年、そしてもう一人は、
「こんな子供、前見た時はいなかった……一体、誰が……」
見知らぬ存在に彼女は眉をしかめる。
そこに映っているのは白髪に左右の眼の色が違う少年──クロノス・バルメルドだった。
────────────────
冬が過ぎ、この異世界に来てから四度目の年が明けた。
俺、クロノスは無事九歳を迎えて現在初等部三年生である。
もうすぐ初等部も卒業となり、俺も晴れて中等部に進学する。
「長いようで短かったなぁ。この三年間」
学校から出ている送迎馬車に乗り、村へと帰る途中で馬車に揺られながら感傷に浸る。
初等部一年目は酷かった。
何せ成績が良かったからと王都に連れて行ってもらったら事件に巻き込まれたのだ。
今でもあの時の光景を思い出すことはあるが、なんとか折り合いをつけてやっている。
その事件のおかげか、今でも王都にいるティンカーベル王女とは交流は続いていた。
数ヶ月に一回ベルから手紙が届くのだ。
内容は些細な物で、どの花が咲いたとか、学校で何があったとか、父親の国王様と何をしただのそんな内容だ。
たまに文部大臣の坂田の近況や、科学者のセシールが離れの研究棟で爆発騒ぎを起こしたのかとかも教えてくれる。
本当はベルやバルメルド本家の親戚たちに直接会いに行きたかったのだが、最近は新種の病気の蔓延や魔物の大進軍などイベント目白押し過ぎてニケロース領から出られなかったのだ。
なのでこの二年は一度も王都には行ってない。
あまりの事態の多さに「恐怖の大魔王が復活する!」なんて噂も王都で流行っているそうな。
どこの世界に行っても噂好きはいるんだなぁ、なんて思いながらも俺は特に心配はしていない。
何かあればギルニウスがまた夢に現れるだろうと、慌てずに普通の生活を送っている。
「クロ、どうしたの?」
「ん? いや、もうすぐ卒業だなぁって思って」
同じように馬車に揺られていたレイが夕陽を見て黄昏る俺を不思議がる。
彼女もこの二年で少し背が伸び、顔立ちも美少年から美少女へと変化し始めていた。
中身は変わってないけど、だいぶ女の子っぽく見えるようになってきている。
もしこの時に出会っていれば、俺も初見でレイリスを見た時に男の子だとは思わなかっただろう。
オシャレ好きのフロウに影響された結果だろう。
「クロくん、最近そうやって夕陽を眺める回数増えたよね」
更に隣からフロウが会話に加わってきた。
フロウはと言うとこの二年で更に可愛くなってきた。
いや、フロウは男の娘なんだけどさ?
同世代の女の子よりオシャレに敏感で薄いながらも化粧もできるようになっている。
初対面の後輩たちがフロウを見た時にお姉さんとか言ってた時は笑うと共に戦慄を覚えた。
多分俺の周りで一番女の子してるのはフロウだろうよ。
突き抜けるように男の娘道真っしぐらでこの子の将来が不安で仕方ないんだけど。
「そんなに夕陽眺めてるか俺?」
「うん。学校から帰る時はいつもだよ」
「ワタシたちが話しかけるとちゃんと受け答えはしてくれるんだけどね」
普段から一緒にいるこの二人が言うのならばそうなのだろう。
あんまり自覚ないけど。
「いやな、もうすぐ卒業だなぁって思って」
「そうだよね。もう3ヶ月ちょっとしたらボクたち中等部に入学するんだよね」
「学校の場所も変わっちゃうし」
この世界では学校毎にランク分けされており、初等部から中等部までにF〜Aが割り振られている。
王都を中心にAランク学校、王都から離れ地方になるとFランク学校と格付けられる。
まぁ要するにランクが低い所は田舎、ランクが高い所は都会みたいな扱いだ。
もちろんランクが高い学校は地位が高く金持ちが通う学校、地位が低くて金がないとランクが低い学校となる訳だ。
ちなみに、この制度を作ったのは異世界人らしいのでおそらく俺の同郷だろう。
何を思ってこんな制度を作ったのやら……
「クロくんは王都に近いランクCの学校に行くんだよね?」
「先生のおかげでな」
転生者の俺は当たり前と言うか成績は学年トップだ。
いやさすがに二回目の人生で勉強できなかったらヤバイんだけど。
成績優秀者は上位の学校への入学を推薦してもらえる。
今俺はEランクの学校に通っているのだが、担任の教師が推薦をしてくれたおかげで中等部からはCランクの学校に行ける。
やっぱり勉強はちゃんとやっておくもんだな。
「ボクとフロウはDランクだから、別々になっちゃうね」
レイとフロウは俺とは別の学校に進学する。
レイは魔法と運動神経はいいのだが勉強があまり得意ではない。
逆にフロウは勉強はできるのだが運動神経があまりよくない。
それ故二人とも俺と同じ学校への推薦は貰えなかったのだ。
「そんな落ち込むなって。学校は変わるけど住む場所まで変わる訳じゃないんだがら。朝の訓練は変わらずできるし、休日だって会えるんだから」
「そう、だよね。クロはずっとこの村にいるもんね」
落ち込み気味のレイを励ます。
最近この手の話題を振るとすぐに落ち込んでしまう。
それだけ三人でいる時間が長かったから、俺だけ離れてしまうのが不安なんだろう。
もぉ〜可愛いんだから!
そんなレイを励ますとフロウも同じようにレイを元気付けようとしてくれる。
「そうだ!卒業したらワタシの家でパーティーやろう?他のみんなも呼んでね!」
「いいなそれ!な、レイリス?」
「……うん。おいしいケーキ食べたいかな」
卒業したらフロウの家でパーティーを開催する。
そんな予定を立て話し合いながら馬車に揺られて村に戻ってくる。
「また明日」とレイとフロウと手を振りながら別れた。
「卒業かぁ……」
改めて口にしてみると少し不安もある。
先程初等部から中等部にはF〜Aのランクが振り分けられると言ったが、高等部になるとそこにSランクが増える。
Sは勉学、体術、魔法、あらゆる部門で好成績を残した者のみが入れる学校だ。
その門は狭いが入学し卒業すれば、後に高い役職に就くことができる。
父親であるジェイクにも希望としてはSランク高等部に入学して欲しいと言われているのだ。
血は繋がってないが、孤児として転生した俺を養子に迎え入れてくれた恩人。
できる限り両親二人の希望は叶えてあげたい。
それが俺を家族として迎えてくれた二人に対する俺なりの恩返しなのだ。
「目指せSラン高校か……口で言うだけなら簡単なんだけどなぁ」
好成績を残すって言っても、高等部に入る後三年で一体何をすればいいのやら……基準が分からないと不安が募るなぁ。
一人空にぼやきながら村を歩く。
すれ違う人たちと挨拶を交わしながら家に帰ると、屋敷の前に馬車が一台止まっているのが見える。
ジェイクかユリーネにお客でも来ているのだろうか?
そう思いながら近づくと馬車の扉が開き、
「クロノス君!久しぶりだな!」
聞き覚えのある声が出迎えてくれる。
その声の人物は忘れもしない、
「え、なんで?坂田さん!?」
現れたのは俺と同じ地球の日本からの転移者坂田だった。
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次回投稿は来週の日曜日22時の予定です。




