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間話 謎の少年


 白い鎧に身を包んだ男は、自分の腕の中で安心した表情を浮かべ眠る少年を見て微笑んだ。

 男は、各街で行方不明となった子供たちの捜索を任された騎士団の団長だった。

 誘拐事件が起きたのは五日前。

 最初は貧民街の子供たちが数名行方不明になり、騎士団本部は貧民たちの捜索願いを受理せず門前払いにしていた。

 だがその次の日、貧民街ではなく一般街や上流階級の子供、果ては亜人の子供たちまでもが次々も誘拐されていったのだ。

 この事態に騎士団本部も重い腰を上げざるをえなくなり、彼らが動いたのは事件後から三日後となる。

 調査を開始するも発生から既に三日も経っている。

 子供たちを攫った一団を捜すには手掛かりがほとんどなかった。

 攫われた子供たちの全員が、親の目を盗み少し離れた隙に誘拐されてしまっていたのだ。

 目撃情報もほとんど無し。

 どうしようもないかと思われたが、盗賊団は自分たちの足跡を残してくれていた。

 盗賊団は移動しながら他の街でも子供を誘拐し続けていたのだ。

 おかげで彼らは盗賊団の跡を追うことができ、根城にしているであろう場所に当たりを付け捜索することができたのだ。

 しかし、根城のある場所に当たりを付けてもすぐには見つけることはできない。

 一箇所ずつ地道に候補を周り見つけ出さなければならない。

 だがここで転機が訪れる。

 昨夜に渡って降り続いた雨の影響で、最初の候補であった場所に行けなくなってしまったのだ。

 彼らは少し遠回りになる山道を迂回し、二箇所目の候補を確認したのち最初の目的地に行こうとしたのだが、その山道に入る途中で誘拐された子供たちが現れたのだ。

 早期に子供たちを見つけることができ、騎士団は喜んだ。

 だが一人の子供が「自分たちを助けてくれた子がいない。まだ中にいるはずだがら助けて欲しい」と言ってきたのだ。

 男はすぐさま部下を引き連れ、子供たちが出てきた抜け穴に入りその子供を探した。

 男は先行しその子供を見つける。

 だがなんとその子供は大蛇の魔物を相手に戦っていたのだ。

 何と無謀な事をする子供なのだろうと思い助けるが、魔物を斬り捨て子供が眠りに落ちたのちに大蛇を確認して見ると、大蛇の左眼に石が突き刺さっていたのに気づく。

 まさかこの子供が?と思い手の平を見てみる。

 そこには血がついていた。

 この子供の血ではなく、大蛇の血が。

 それに気づいた瞬間、男は驚き胸に抱いた少年が何者なのかが気になった。


 その後少年の言葉通り、大蛇の腹の中から子供たちを誘拐した盗賊団のメンバー四人と頭のゲイルが助け出され逮捕された。

 根城である塔にいた他のメンバーも捕まえることができたが、ゲイルたち盗賊団に今回の依頼を持ちかけたのが一体誰なのか?

 その背後関係までは分からず仕舞いとなってしまったのだ。

 しかし、誘拐された子供たちは無事保護された。

 話では一人犠牲になってしまった子がいるらしいので手放しで喜ぶことはできないが、親たちは子供の無事が分かり安心するだろう。

 これでめでたしめでたし……だったのたが、子供たちを親の元に返した後また一つ問題が浮かび上がる。

 団長である彼が助けた、今回脱出を企て実行した白髪の少年の身元が分からなかったのだ。

 少年の名前はクロノス。

 そう教えてくれたのは、少年と一緒に誘拐されたエルフの子供だった。

 だがエルフの子は、クロノスと言う少年の名前だけしか知らず、いつどこのどの街で誘拐されたのかは知らないらしい。

 盗賊たちの根城である山の中腹でいきなり外に向かって叫び出し、その時に互いに自己紹介をしたのだそうだ。

 人攫いに捕まり、見せしめとして目の前で子供を一人殺害され、逃げる気力を無くした子供たちの中で、少年だけは逃げる意思を強く持っていて本当に脱出経路を見つけ出したと言うのだ。

 しかもその後はあの洞窟内で外に繋がる出口を見つけ、子供たちを逃がす為に追ってきたであろう盗賊たちを自分一人引きつけ、魔物の相手までしていたのだ。

 これだけ聞くと、まるでお伽話に出てくる主人公のようだ。

 魔物相手には窮地に陥っていたが、他の子供たちの為に動き続けていたのだから。

 何にしても、あの時少年と大蛇の戦いに自分が間に合って本当に良かったと思う。

 子供が成長した魔物相手に勝てる見込みなどほぼ無いに等しいのだから。

 今回はこの子の運が良かった。

 だが今思うと少々出来すぎていた気もする。

 足跡を残す盗賊団もそうだが、雨により最初の候補に行けず山道を迂回したことも。

 その途中で誘拐された子供たちを見つけたことも。

 その子供たちを助けようと勇敢に立ち向かっていた少年を助け出せたことも。

 まるで全てがそうなるように仕向けられ都合良く動いていたとさえ錯覚してしまう。

 だがそれでも構わないと男は考える。

 神様の意志だろうが何だろうが、子供たちは助かったのだから。


 男は白髪の少年以外の子供を各街の親に送り終わると、身元の分からない少年を自分の家へと連れて行くことにする。

 あれから一日経つが、白髪の少年はずっと眠り続けている。

 エルフの子は彼を心配し、親の元に帰るまでずっと彼の看病をしていた。

 しかし彼が目覚めることは一度もなかった。

 この少年は一体何者なのだろう?一体どこから来たのか?一体どうやって誰にも気づかずに盗賊団の檻の中に紛れ込んだのか?

 色々と尋ねたいことがあったが、まずは少年が目覚めてから詳しく聞くとしよう。

 彼はそう考え、少年が目覚めるのを待ち続ける。

 そうして、少年が眠ってから一週間が経とうとしていた。

 もうすぐ夏が来る。

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