第八十一話 刻まれる光景
連続投稿三日目です。
最近職場行く途中でシティーハンターのアニメ見てるんですけどやっぱり面白いですね!
主人公のキャラがカッコいい。
あんな主人公を自分も書きたいです。
「一体何がどうなってんだ!?」
状況が理解できず俺はただそれだしか叫ぶことができない。
司教が撃った光弾を杖の宝石に打ち返したら、突然杖を中心に眩い光と衝撃波が発生した。
「ぐぉ、おお!?おおおおォォォォ!?」
杖の光を中心に強力な閃光と衝撃波が波のように広がり続ける。
結果周囲の壁や邪神の像、天窓に亀裂が走る。
このままだとこの建物が崩壊してしまう!
しかもここは深海だ。
天窓が割れたら海水が流れ込んくるし、生身の俺は水圧で死ぬ!
もしくは外で待機してるディープ・ワンに襲われて死ぬ!
中心に立つ司教は悲鳴を上げながら肉体が不自然に歪み始めていた。
肢体が揺らぎインスマス面が歪む。
この事象が何なのか分からないけど、このままだと俺もあの司教も光と衝撃波で死ぬのは間違いなく分かる!
早くあの杖を捨てさせなければ!
俺は襲い来る衝撃波に逆らい司教へと近づこうとする。
一歩、また一歩と足を進め、輪郭を失いつつある司教へと手を伸ばす。
「つ、杖を……捨てるんだ!」
衝撃波の流れに逆らい、閃光に眼を細めながら進み続ける。
そして伸ばした手がもう少しで杖に──
「がぁ!ガ、ガ、ガァァァァァァァァ!!」
突然司教の悲鳴が大きく響き渡る。
それに呼応するように杖の光が増し、より強力な衝撃波が生まれる。
あまりの強さに俺は吹き飛ばされてしまう。
強力な衝撃波によって俺が吹き飛ばされるとの同時に周囲の壁や天窓にも大きな亀裂が走った。
もちろん、司教の背後の邪神像にも……
ピシリ、と何が割れる音が聞こえる。
音に気付いた時には既に像の一部に綻びが生まれ、タコの邪神像は崩壊してしまった。
「像が!危ない、逃げろ!」
崩壊し瓦礫となった像が司教の頭上へと降り注ぐ。
俺の叫びも虚しく、司教は悲鳴を挙げるだけでその場から動くことも叶わず、眩い光と共に瓦礫の下敷きとなってしまった。
瓦礫に埋もれあの光も消えると共に衝撃波も無くなった。
俺はすぐに瓦礫まで走ると、埋もれてしまった司教を助けようと瓦礫を退かし始める。
「おい大丈夫か!?返事しろ、おい!」
子供の身体では重い瓦礫は退かせないので土魔法で砕きながら司教を探す。
何度も呼びかけるが返事はない。
心の中で俺の囁き声が聞こえる。
「きっともう生きていない。だから助けるのを止めて脱出する方法を考えよう」と。
しかしその声に俺は従えない。
もし助けられるのなら助けたい。
そう思い必死に瓦礫をどかし続け、ようやく司教を見つけ出すことができた。
できたのだが──彼はもう、死んでいた。
「あ、あぁ……!」
瓦礫の下敷きになり息絶えていたのだ。
悲鳴を上げた時のまま、あの歪んだインスマス面が瓦礫の隙間からこちらを見上げていた。
その面が恐ろしくて俺は瓦礫から転げ落ちる。
お、俺が……殺したのか?
俺があの光弾を打ち返したせいで光の暴走が起きた。
じゃあ、この司教が死んだのは……お、俺のせいなのか?
「ひ、人を……殺した?俺が?人を、殺したのか!?」
恐ろしい事実に頭が痺れ、手足が震える。
いくら襲ってきたのが相手からだとは言え、俺は殺すつもりなんてなかった。
殺すつもりなんてなかったんだ!
なのに、俺は……俺は……!!
俺はこの世界で──人を殺してしまった。
人を命を奪うと言う行為に心の奥底から何か黒い感情に押し潰されそうになる。
直後、轟音と共に天窓が割れ海水が部屋の中に流れ落ちてきた!
「て、天井が!」
天窓が割れる音と流れ落ちる海水の音で現実に引き戻される。
さっきまで感じていた手足の震えはもう治っている。
だが頭は違う意味で痺れを感じていた。
司教が死んでしまったら、もうあの光の門は創れない。
つまり、俺にはここから脱出する術がないのだ。
どうする、どうすりゃいい!?
ここは深海、しかも外にはディープ・ワンがいて、俺は普通の人間だから寒さにも水圧にも耐えられない!
風魔法で空気の部屋を作り、海面まで上昇しようかとも考えたけど、それまでマナが持つかも分からないし海上までどれほどの距離があるかもわからない。
「やばいやばいやばいやばいやばいやばいやばい!!どうやって外に出たらいいんだよこれ!?」
天窓から海水が滝のように流れ続けている。
その中にディープ・ワンたちの姿が見え、海水と一緒に部屋に流れ込んで来る。
徐々に増して行く海水から顔を出して俺が沈むのを待っている。
「クッソ、雷よ!」
水から上がって来ないように雷魔法を撃って感電させておく。
電撃を受けて海面でビクビクと跳ねながらディープ・ワンたちは水中に逃げた。
これで時間は稼げるだろうけど、何の解決にもならない。
こんなことなら、泳ぎの得意な海人族にでも知り合い作っておくんだった!
『相棒!』
どこからか神様の声が聞こえる。
いや、直接頭に声が響いてきた感じだ。
こういう時は本人は近くにいなくて、テレパシーを送っている時だ。
「神様だよな!?俺このままだと海水で溺れて死ぬんだけど、どうしたらいい!?」
『今その場所とインスマス教会の門を繋げるから待ってて!』
神様の声に頷くとまた海面からディープ・ワンが顔を出してきた。
もう一度電撃を食らわせようと魔法を撃つと、海面から飛び上がり俺の立っている瓦礫の上に着地した。
おいおい勘弁してくれよ、もうディープ・ワンたちの相手をするほど余力ないぞ!!
ディープ・ワンに唾を吐き捨てると剣を構える。
「 頼む神様、早くしてくれェェェェ!!」
じりじりと瓦礫を登って迫るディープ・ワンを前にして神様に懇願する。
すると願いが届いたのか、背後に人一人が通れるぐらいの大きさの光が現れた。
俺がここに来る時に通ったのと同じやつだ。
また頭の中に『飛び込め!』と神様の声が聞こえる。
俺はその声に従い、襲いかかってくるディープ・ワンたちを無視し、躊躇無く光の中へと飛び込んだ。
視界が白く染まり、意識が遠のいた行く。
一度目に入った時に見た光景は、二度目では見なかった。
✳︎
光の中に飛び込んで、どのくらいの時間が経っただろう?
白く染まっていた視界がだんだん色を取り戻して行く。
遠くから人の声が断片的に耳に届く。
「──が、な──!」
「だが──!」
「いい!私が──!」
男二人が言い争っているのが見えた。
俺はその二人が誰か知っている。
黒髪の男は俺の父親のジェイクで、もう一人は祖父のイルミニオだ。
二人は何を言い争っているのだろうか?
色を取り戻し始めた視界から、ようやく今見てる光景がインスマス教会のあの門の装置が設置されていた場所だとわかる。
何を喧嘩しているのか分からないけど、二人の間に入って止めなければ。
そう思いながら、俺は光の中を抜けインスマス教会『信徒用儀式部屋』へと降り立った。
「クロノス!?」
部屋に降り立つと誰よりも早くジェイクが俺に気づく。
どうやらまたあの門の光を通ってきたみたいだ。
神様め、これを使わずに転移させられなかったのか。
でもようやく帰ってこれた。
このライゼヌスと父親の元に──
無事に帰ってきたとジェイクに伝えようと足を動かすと、足に力が入らずその場に倒れてしまう。
ありゃ、どうしちまったんだろう。
上手く立てない。
「大丈夫かクロノス!?」
「救護兵!こっちだ!」
崩れ落ちそうになるのをジェイクに受け止められ、イルミニオが救護を求める。
「す、すいません。なんか、父さんたちの顔見たら安心しちゃって……もう大丈夫です」
何とか踏ん張って立ち上がる。
教会の内に溢れていた水は抜かれていて、今はもう足元に水はない。
ジェイクたちに連れられ外に向かう。
どこを見渡してももうディープ・ワンの姿が無くて、ようやく戦いが終わったのだと感じることができる。
「クロノス、あの司教は?」
「……死にました。俺が、魔法を打ち返したせいで……」
あの時の光景がまだ脳裏に焼きついている。
俺は人を殺してしまったのだ。
それが、こんなに恐怖を感じることだだなんて……
子供が人を殺したなんて──
「そうか……よくやったぞ」
「え?」
褒め……られた?
なんでだ、俺は人を殺してしまったのに。
「これでもう、インスマス教会は王都には手を出そうとは思わないだろう」
「そ、そうですけど、俺は司教を殺してしまったんですよ?」
いくら相手から仕掛けてきたとは言え、俺が調子に乗って反撃をして司教は死んだんだ。
正当防衛の概念がこの世界にもあるかは知らないが、何か他に言うことが……
「君は騎士の家の子だ。人を守る為に誤って殺めてしまったのだとしても、君が罪に問われたりはされない。それとも、君は明確な殺意があってやったことなのか?」
「いえ、それは違います……絶対に」
「なら問題はない。胸を張りなさい。今回、君の活躍があったからこそ子供たちを救えたのだから」
ジェイクに励まされながら教会の外へと出るが、俺とジェイクの価値観の違いに困惑する。
暗雲の晴れた東の空から明るみが見える。
眩しさに眼を細めると、外で待っていたのだろうベルがこちらに駆け寄ってきた。
ようやく長い夜が明けたと言うのに、俺の心はまだ曇ったままだ。
今回で連続投稿は一旦終わりです。
次回は22日土曜日の22時となります!
第三章も片手で数える程の話数となります。
最後までお付き合いくださいませ!




