第七十七話 光の門へ
昨日 パイレーツオブカリビアン 最後の海賊 を見てきました!
面白かったけど、まだ続くかもしれませんみたいな内容だった。
気絶して水に浮かぶをジルミール引っ張りながら教会一階に戻る階段まで戻ってきた。
地下に降りる前より水かさが減っており、誰かがあの無限に沸き続ける水を止めたようだ。
階段前では負傷した騎士たちが集まって手当てを受けている。
その中にイルミニオの姿を見つけ、俺は大声で呼ぶ。
「イルミニオおじいちゃん!」
「クロノス!?どうしてまだ教会にいるんだ!?外に出たんじゃないのか!?」
あぁそうだった、俺先に脱出したことになってたんだっけ。
まぁそんなことはいい。
俺は気絶したまま水に浮かぶジルミールを引っ張り出しイルミニオに引き渡す。
「うちのバカ兄貴です」
「ジルミール!?一体何があったんだ!?」
「説明は帰ってからしますから、後お願いしますよ!」
それだけ伝えると俺はジェイクたちが向かった『儀式部屋』を目指す。
背後から「待つんだクロノス!」とイルミニオの声が聞こえるが、俺はその制止を無視して先に進む。
奥に進むにつれ騒がしくなり、戦闘音が大きくなる。
しばらくして、騎士団とディープ・ワンの集団がぶつかり合っているのが見えた。
すると突然、集団の中から一人の騎士が宙に浮かびその身を投げ飛ばされたかのようにこちらへと飛んできた!
俺はすぐさま魔法で水を操ると水のクッションを作り飛んできた騎士を受け止める。
「大丈夫ですか?」
「あ、ああ、君が助けてくれたのか?」
投げ飛ばされた騎士は何が起きたのかいまいち理解していないみたいで、まだ少し困惑している様子だ。
「まだ戦闘は続いているんですか?」
「敵の司教がおかしな術を使ってくるんだ。そのせいでまだ拘束まで至れていない。あの魚の化け物も出現が止まらないし……あ、待ちなさい君!」
説明を聞いた俺は騎士を残して走り出す。
倒れていた騎士の剣を拾い上げると戦場へと近づく。
相変わらず騎士とディープ・ワンによる乱戦模様となっているが、先頭に立つジェイクとインスマス教団の司教がお互いに睨み合っているのを見つける。
「ライゼヌス騎士団ニケロース領支部所属、ジェイク・バルメルド……だな?」
「光栄だな。地方の騎士の名前を知っていただけているのは」
「よく知っているよ。あなたの息子から聞かされていたからね」
息子と言う言葉にジェイクがピクッと反応する。
その隙に司教が何かの呪文を唱える。
呪文は聞いたことのない言語だ。
司教が呪文を唱え始まると同時にジェイクの体が宙に浮き始まる。
「な、なんだこれは!?」
突然自分の体が宙に浮き始め驚くジェイク。
ジルミールを追いかける前に俺が見たのと同じ光景が目の前に見え、受け止める為にマナを左手に込める。
「う、うおっ!?」
「水よ!受け止めろ!」
宙に浮くジェイクが放り投げられるのに合わせ、水の中に手を突き出し水魔法を発動させる。
大人一人を包み込む程の水の球体が出来上がり、放り投げられたジェイクを包み受け止めた。
水の球体が破裂すると、中にいたジェイクが水飛沫と共に落ちるがうまく着地してくれる。
しかし司教の攻撃はそれだけで終わりではない。
持っていた杖の先端、白い宝石の部分が光を放つ。
「はぁっ!」
司教が杖を振るうと先端から光の弾が放たれる。
光弾は複雑な軌道を描きながらもジェイクへと迫る。
着地したばかりで体勢の整っていないジェイクが襲い来る光弾を見て舌打ちし──
「風よ!」
突風を足元で発生させ天井ギリギリまで跳び上がる。
さっき拾った剣を両手でしっかりと握り体内のマナをこれでもかと流し込む。
落下していく重力に身を任せ、剣を頭上に振り上げると、
「どりゃァァァァ!!」
ジェイクに迫る光弾を上から真っ二つに叩き割った。
二つに割れた光弾は周りでディープ・ワンと対峙していた騎士団員たちに飛び火してしまい、衝撃波と水飛沫に晒される。
ごめん味方の皆さん、と内心謝りながら光弾を叩き割ったままの姿勢でジェイクと司教の間に割り込む形で参戦する。
真上から現れた乱入者にジェイクも司教も驚きを顕にしていた。
「クロノス!?」「子供!?」
構えを解いて剣を振るい、ジェイクの前に立ったまま司教を見据える。
「大丈夫でしたか、父さん」
「あ、ああ……助かった。いや、それよりも何故まだここにいるんだ!?」
「色々あったんですよ。それを伝えに」
「君を外に連れ出そうと向かった二人は?」
肩越しに会話をし、ジェイクの質問に無言で目を伏せる。
その動作だけで二人がどうなったのか察し、ジェイクはそれ以上何も言わない。
俺はもう一度司教へと顔を向けると、その場にいる全員に聞こえるように声を張り上げる。
「頼みのショゴスならもう来ないぞ。大人しく降伏しなよ」
「……少年、ショゴスと戦ったのか?」
「火だるまにしてやったよ」
ショゴスを最後に見た時は全身を炎で焼かれていたし、さすがに焼け死んでるだろう。
もしあれでまだ生きてたら驚きだ。
俺の答えに司教は「そうか……」と呟き項垂れる。
どうやら、これで諦めて
「ならば、これ以上ここに長居する意味はないな」
諦めていなかった!
嘘だろ、あんな化け物やられても降伏するつもりがないのかよ!
「普通切り札が潰えたら諦めない?」
「浅いな少年。一つの手が潰えて瓦解してしまうのならそれは愚策だ。幾つも手を用意しておいて、初めて策と呼べるのだ」
インスマス面で不気味に笑う司教。
また何か呪文を唱えると水中に落ちていた剣やトライデントが見えない力で宙を飛び交う。
そしてその矛先が同時にこちらを向く!
「クロノス、下がれ!」
「……やれ」
ジェイクが俺の肩を掴み後ろへと引き寄せ前に出る。
司教の一声で宙を漂っていた武器が一斉に襲いかかってきた!
飛来する武器の群れをジェイクは剣一本で止めようとする。
右に左、上に下と忙しなく剣を振るい武器を叩き落としているが、武器の数が多すぎる!
援護しないとジェイク一人では処理しきれない!
「氷よ!」
通路を塞ぐ程の大量のマナを含んだ氷壁を創り出す。
氷壁の向こうで剣やトライデントが衝突し削れる音が聞こえてくる。
「後退だ!クロノス、まだ氷魔法は使えるか!?」
「今の残量なら、後一回ぐらいは同じ壁を創れます!」
よし、とジェイクは頷き俺を連れて氷壁から離れる。
未だに氷壁の向こうからは武器と氷がぶつかる音が絶えず聞こえ、いつか崩れてしまうのではないかと不安になる。
その時の為に魔法を発動できるように常にマナを手に集中させておく。
まだ残っていたディープ・ワンを斬り捨て安全を確保すると他の団員たちと共に後方へ退避する。
いつ氷壁を破り武器が飛来してもいいように全員盾を前面に出し剣を構え……
「……音が……止んだ?」
氷壁を削れる音が聞こえなくなる。
衝突音も、司教のあの不気味な詠唱も……
盾を前面に構えたまま進み、俺が隙間から手を伸ばし氷壁を壊す。
道が拓け通路の先が見えるようになると、そこに司教の姿はなかった。
先程まで宙を飛び交っていた武器だけが水中に沈んでいる。
「逃げたのかッ!」
司教に逃げられジェイクが憤りを顕にした。
「追いかけるぞ!負傷者は重傷者を連れて後方に避難。残りの者は私に続け!」
ジェイクの命令に団員たちは少し疲れた声色で返事をする。
無理もないだろう。
無限に沸き続けるディープ・ワンと休みなく戦っていたのだ。
幾ら鍛えていてもそろそろ疲労がピークなはずだ。
俺も幻惑の香りを広める為に走ったり、ショゴス相手にしたり、今日一日で過去最高記録で魔法を連発している。
さすがにもうマナ切れになってもおかしくないはずなのだが、全然そんな気配はない。
やっぱり以前の俺のマナに関する体内構造がおかしくなってるらしい。
まぁ便利っちゃ便利だからいいけど。
「クロノス、君もいい加減に脱出しなさい」
「そういう父さんこそ、指揮を取らないで下がるべきなんじゃないですか?もう、マナほとんど残ってないんでしょう?」
疲れが見え始めるジェイクに反論する。
さっき宙を飛び交う武器を落とす時、ジェイクはマナの斬撃を使わなかった。
あれを使えばちまちま武器を落とさなくても一度で攻撃は済んだはずだ。
それを使わないと言うことはもう斬撃を撃てないほどマナが枯渇してるのだ。
おそらく緊急時の一回分程しか残していない。
「……君の眼は誤魔化せないか」
「そりゃ、父さんに鍛えられてるんですから。剣はまだ未熟ですけど、魔法のレパートリーは父さんより熟練ですよ?俺は」
「なんせ、お母さんに教えられてるからな」
そのやり取りで二人して小さく笑う。
少しだけ心に余裕が生まれた。
「どうせ君のことだ。返しても途中で引き返してくるのだろう。なら一緒に連れて行った方が心臓にいい」
「じゃあ……!」
「ただし、キチンと私の指示には従え。もう勝手に行動はするな」
「はい!」
ジェイクに同行を許された。
少しだけ自分のことを認めてもらえ嬉しくなる。
隊を半分に分け司教の後を追う。
作戦を開始して数時間、もうすぐ夜が明ける。
だが俺たちはこの時気づくべきだった。
先程からディープ・ワンが一体も出現しないことを。
最近太った気がする。
魚の食べすぎでしょうか?
次回投稿は来週日曜日22時でございます




