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二色眼の転生者《オッドアイズ・リ:ライフ》  作者: でってりゅー
第三章 ライゼヌスを覆う影
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第七十六話 燃ゆる虹

連続投稿最終日です!

最後までお楽しみください!


 ショゴスと呼ばれる化け物に振り下ろした剣が効かずに動揺する。


 テケリ・リ、テケリ・リ、テケリ・リ!


 不気味な鳴き声と共に無数の触手が振り下ろされる。

 剣が効かずに動揺していた俺はその攻撃に反応できず回避が間に合わない!


「うぉぉぉぉ!!」


 突如第三者の雄叫びが響き渡る。

 後方からマナの斬撃が飛来しショゴスの触手と激突した。

 マナの斬撃は弾き消え、触手はコントロールを失うと壁や天井へと吹き飛ぶ。


「大丈夫かい君!」


 声をかけられ振り返ると騎士団の鎧を身に纏った人が二人駆け寄って来る。

 さっきの斬撃はこの人たちのか?

 てか、ディープ・ワンと戦ってた騎士団がどうして反対方向の保管庫まで来てるんだ?


「ジェイク班長の言う通りでしたね。本当に子供がまだいた」

「ん?もしかして君は、バルメルド家の子では?」


 どうやらジェイクの指示で俺を捜しに来たらしい。

 つまり、ジェイクには俺の考えはお見通しだったという訳だ。

 やば、後で怒られるかも……。


「それにしても何なのだ、この化け物は」

「魔物……何ですよね?」


 二人は部屋半分を覆い尽くす程肉体を広げるショゴスを見上げる。

 その体が僅かに震えたのが俺の眼に映る。


「お前はその子供を連れて逃げろ」

「え、先輩!?」

 

 先輩と呼ばれた騎士は剣を構え直すと、こちらに背中を向けたまま話す。


「あの化け物は俺が引き受ける。その隙に逃げろ」

「む、無理ですよ先輩!あんな化け物に勝てる訳ない!」

「俺がこんなところで、死ぬ訳がないだろ!」


 先輩騎士が勢いをつけて駆け出す!

 後輩騎士の制止を無視し、ショゴスへと直進すると触手が先輩騎士へと振るわれる!


「遅い!」


 先輩騎士は鎧を着ているはずなのに素早い動きで触手をかわし、ジルミールに迫る。


「青年です!そいつが持ってる鈴を奪って下さい!それで化け物は止まるはず!」


 大声で俺はジルミールの存在を教える。

 先輩騎士は次々と触手を避け、鈴を鳴らすジルミールを──通り過ぎた。


「…………え?」


 ジルミールの脇を通り過ぎる騎士の行動に疑問符を浮かべる。

 先輩騎士は壁や天井に張り付いているショゴスの元まで駆け抜けると、その肉体に剣で斬りかかる。


「はははは!どうした!?動きが遅いぞ化け物め!」


 高笑いしながら騎士は剣を振り回す。

 彼の周囲を触手が迫り、逃げ場が無くなってしまう。


「何をしてるんですか先輩!その手前の子供がそいつを操ってるって今この子が……!!」

「どうした、早く逃げろ!こんな化け物、俺一人で十分だ!」


 まさか、俺たちの声が届いてないのか!?

 先輩騎士は何かに取り憑かれたか狂ったように剣を振り続ける。

 しかしそれだけで触手を防ぐことはできず、騎士は身体を触手に絡め取られると牙の生えた口まで運ばれていく。

 その間にも先輩騎士は剣を振り回しているが、どの攻撃もショゴスの肉体に傷を付けるには至っていない。


「くそっ!水よ!雷よ!」


 傍観することが出来ず水と雷の魔法を発動させる。

 ショゴスを水で濡らして雷での感電を狙うが、触手に阻まれてしまう上に効果がない。


「なら、氷よ!」


 水と雷が効かないのを見てすぐに別の魔法に切り替える。

 鋭い氷の塊を十発程生成して撃ち出す。

 今度は触手に阻まれることなく肉体に突き刺さるが、全く痛みに動じていない。

 氷もあの化け物には通じないのか……!

 魔法による攻撃がほとんど効かずに狼狽える。

 その間にも触手は捉えた騎士を口元まで運び、無数の牙の生えた口の中へと放り込もうとしている。


「俺は死なん!こんなとこで死な……ギャァァァァ!!」


 悲痛な叫びと共に先輩騎士がショゴスの口内に放り込まれ、その鋭い無数の牙の餌食となる。

 バリボリと耳障りな音が響き、ショゴスの口元から血が溢れ出す。


「ひ、ひぃぃぃぃ!!」


 先輩の無残な死を目撃し、もう一人の騎士が俺を置いて逃げ出す。

 だがショゴスは彼を逃す気はないらしく、触手を伸ばすと上階の階段まで逃げようとした騎士を捕らえると自らの眼前まで引き寄せた。


「う、うわぁぁぁぁ!助けて、誰か助けてぇぇぇぇ!」


 助けを求める騎士をショゴスは口内へと放り投げる。

 悲鳴を上げながら騎士の体は鎧ごと牙に貫かれ、体内へと消えていった。

 その光景に俺は何もできず、ただ黙って見ていることしかできない。

 だがジルミールはショゴスが二人の騎士を体内に取り込んだのを見て楽しそうに笑っている。


「ははは!すごいよショゴス!」

「ジルミール……お前ェェェェ!!」


 人を殺して笑うジルミールの姿に腹の底から怒りが湧き上がる。

 立ち上がるとジルミールに詰め寄り襟首を掴み引き寄せた。


「人を殺して、何が楽しいんだ!?お前は今自分が何をしたのかわかってるのか!?」

「僕たちの邪魔をするのが悪いんだ!教団はただ、大いなる神を召喚して、この世界を救う為に……」

「何が世界を救うだ!命は道具じゃないんだぞォォォォ!」


 ジルミールの顔面を柄で殴ろうと手にしていた剣を振り被る。

 だが怒りに身を任せていたせいで、右足にショゴスの触手が絡まっているのに気づかず、俺は宙に吊るし上げられてしまった!


「くそっ、放せ!」


 身を捩って暴れるが、右足をガッチリと締め付ける触手が緩むことはない。

 眼前に玉虫色の肉体を持つショゴスが迫る。

 不気味な無数の眼と口が視界に広がり、その口からあの鳴き声を奏でている。


 テケリ・リ テケリ・リ テケリ・リ──


 まるで与えられた餌を見て歓喜しているかのようだ。

 吊るされた俺を見てジルミールが楽しそうに笑っている。


「無様だなクロノス君。そのショゴスの肉はほとんど攻撃が通らないそうだよ。だから──諦めて食べられなよ!」


 ショゴスの鳴き声とジルミールの持つ鈴の音が保管庫に響く。

 足を触手で絡め取られたままゆっくりと口元まで運ばれ、真下で無数の牙が生えた口が大きく開き獲物を待ち受ける。


「……肉に攻撃は通らないんだって?」


 吊るされたままジルミールの言葉を確認する。

 ジルミールはそれに頷く。


「そうだよ。ショゴスはどの部位にも攻撃は効かない」

「ふーん。そっか……でも……」


 落とさないようしっきりと握りしめていた剣を両手で構える。

 そして剣先をショゴスの眼に突き立て、


「目玉は別だろ!!」


 思い切り眼球を串刺しにした。

 やっぱり眼球まで刃が通らない訳じゃなかったな!

 眼球に剣を突き刺されショゴスの肉体が激しく脈動する。

 テケリ・リと鳴く声は呻き声に聞こえ、触手が暴れ狂い俺を放り投げる。

 投げ飛ばされた俺は、まだショゴスに侵食されてない部屋の角まで飛ばされ、置かれていた樽に激突した。

 そのせいで樽が壊れた上にまた腰を強く打ってしまった。


「っつぅ!かなり痛い……ッ!つか、臭い!何だこの臭い!?」


思わず鼻をつまむ程の異臭に嫌悪の表情をする。

 自分の周りを確認すると地面が濡れている。

 どうやら激突した樽が壊れ、中身の酒が溢れたみたいだ。

 俺の体も酒でびしょ濡れで全身から磯の臭いがする。


「何をやってるんだショゴス!落ち着いて!」


 俺が酒の磯臭さに嫌悪している間にジルミールはショゴスを落ち着かせようと鈴を何度も何度も強く鳴らしている。

 眼を貫かれた痛みに苦しみながらもショゴスがジルミールの命令で大人しくなった。


「もう一度だ!あいつを捕まえて、全身を縛りあげて、今度こそ食べろ!」


 ジルミールが再び命令を下す。

 テケリ・リと鳴きながら、ショゴスが無数の触手を伸ばしてくる!

 俺の手に剣はもうない!

 もう防ぐ手立てがない!

 眼を閉じて歯を食い縛る。

 触手に絡まれても耐えられるように。

 そして、全身を縛り上げる痛みが……?

 しばらく待っても何も起きない。

 体を触手で締め付けられる痛みも、宙に吊るされる浮遊感もない。

 どうなったのかと恐る恐る眼を開けると、触手が俺を目の前にしながらウネウネと宙を漂っていたのだ。

 まるで捕らえるのを躊躇うかのように。

 な、なんだこれ?

 どうなってんだ?


「何してるんだショゴス!早くあいつを食え!」


 ジルミールが鈴を鳴らすも、触手は近づいては離れ、近づいては離れを繰り返し俺に襲いかかってこない。


「一体、どうして……」


 謎の行動に疑問を感じていると、地面に溢れた青い酒に手が触れる。

 もしやと思い指先についた酒を払うように触手に飛ばす。

 すると水滴が付いた瞬間、触手は暴れ明らかな拒否反応を見せた。

 やっぱりそうだ、ショゴスはこの酒を嫌っているんだ!


「なら、まだ勝てる!」


 勝機を見出し立ち上がると、並べられている樽の蓋を剣で叩き割る。

 蓋の空いた樽から吐き気がする程の臭いが充満するが、ぐっと堪えて樽を倒し中身を床にぶちまけた。

 樽の中身の酒が部屋中に広がり、ショゴスの触手が徐々に本体へと引き下がる。

 その様子にジルミールが焦りを見せた。


「ショゴスがお酒が苦手だったなんて……聞いてない!でも、そんなことをして逃げられると思うなよ!そこから離れたら、すぐに触手で絡め取って

「誰が逃げるかよ。お前をぶん殴るって言っただろうが」

「なら、酒を地面に流して、どうするつもりなんだ?」

「こうすんだよ!」


 酒を溢した地面に手を置く。

 マナを手の平に集中させ、水を生成するのではなく溢れた酒を大蛇の時のように操るイメージを描く。

 そして地面から手を離すと、まるで酒が生きているかのように地面から離れ、俺の周囲を旋回する。

 臭いがより纏わりついてきて正直吐きそう。

 右手を振り上げ酒を球体状にまとめ上げ、


「腹一杯飲めやァァァァ!!」


 ショゴス目掛けて一気に放出した!

 洪水のように酒がショゴスへと流れ込み、その肉体に叩きつけられる。

 酒を浴びたショゴスが鳴き声を上げ、伸びていた触手が縮小しのたうち回り始めた!


「ショゴス、落ち着……あがっ!」


 暴れ狂うショゴスを鎮めようとジルミールが鈴を鳴らそうとするが、振り回された触手に打ち付けられ吹き飛ぶ。

 酒を放出し終わると、ショゴスの全身が青い酒で水浸しとなり、完全に我を忘れて暴れている。


「えーと、アルコールって何度で燃えるんだっけ!?」


 手の平にマナを集めながら前世で得た知識の引き出しを漁る。

 齧った程度の知識だからかなり曖昧なんだけど、とりあえず気温を上げればいいんだっけ?

 ふわっとした認識で集めたマナで火を生成する。

 手の平に付いた火は炎へと変化し、大きく燃え盛る。


「これで……喰らいやがれェェェェ!!」


 ボールを投球するかのように振りかぶり炎を放つ。

 それと同時に地面へとマナを流し込んだ。

 さっき酒を操る時に気がついたが、この地面はマナを通す。

 だから地面でマナを練り上げ、炎を防ぐ防壁を俺とジルミール二人分作り上げた。

 投擲された炎の塊がショゴスに衝突する。

 刹那──炎が縮小し、瞬く間に燃え広がりショゴスを包み込む。

 炎の勢いが強すぎたのか、他の棚に置かれていた樽にも引火し保管庫全体に火の手が広がった!


「やばい、やり過ぎた!」


 慌てて水魔法を発動し炎に被せて鎮火させる。

 だがショゴスを焼く炎まで消すわけには行かず、結局火の手が広がるのを抑えることができない。

 何せショゴスは部屋半分までをその肉体で侵食しているのだ。

 このままでは俺もジルミールも一酸化炭素中毒死するか焼け死んでしまう!

 水魔法で全身を濡らすと口元に腕を当てながら防壁から飛び出す。

 燃え盛る炎を見て怯えているジルミールの元まで走るとその腕を掴んだ。


「逃げるぞバカ!ほら立ってバカ!」


 立ち上がらせると同じように水魔法で全身を濡らして出口まで引きずる。

 背後では燃え盛る炎に身を焼かれ、苦悶の鳴き声を上げ続けるショゴス。

 虹色に輝くその体色のせいか、まるで虹が燃えているかのような錯覚を覚える。

 煙が上階の教会まで昇らないよう出入り口を土魔法の壁で塞ぐ。

 相変わらず浸水した通路に出ると、二人して息を切らし汗を拭う。

 地下から煙は昇ってきてないし、ショゴス独特のあの鳴き声も聞こえない。

 無事逃げ切れたらしい。

 毎回魔物に会う度に死ぬ思いしてるけど、今回は死よりも恐ろしい相手だった。

  まぁ、とりあえず──


「ジルミール」


  隣で息を切らすジルミールを呼ぶと「え?」と顔を上げる。

 その間抜け面に俺は力の限り拳を振り抜いた。

 突然のことにジルミールは避ける間もなく、その顔面が歪み殴られた勢いで水の中へと倒れる。


「まず、父さんと母さんの分な!」


 浮かび上がってきたジルミールは気絶していて、俺の言葉は聞こえていなかった。

 だがバカ兄貴をぶん殴ると言う目的は達したので、とりあえず満足だ。

 気絶したまま水に浮かぶジルミールを引っ張ると、俺はジェイクたちを探しに再び教会内を進み始めるのだった。

連続投稿にお付き合いいただきありがとうございました!

またストック溜まった時に連続投稿やります!


次回投稿からは日曜日22時に戻ります

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