第七十三話 迫る魚
大☆SAN☆チェック☆祭
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大部屋にイルミニオ率いるライゼヌス騎士団が流れ込んでくる。
騎士団はジルミールたちを囲み、瞬く間に状況が一変した。
「クロノス、無事か!?」
「ええ、ナイスタイミングです。おじいちゃん」
「王女様たちは全員避難された。お前のおかげだ」
イルミニオが俺へと駆け寄ってくる。
俺はサムズアップで答えると二人でジルミールへと向き直った。
騎士団の登場にジルミールは完全に狼狽えている。
「インスマス教団、お前たちを誘拐罪で拘束する!全員大人しくしろ!」
「お、おじいちゃん……」
降伏勧告を受けジルミールが一人だけ狼狽えイルミニオに今にも泣きそうにしている。
イルミニオはやるせない顔でそんな孫を見つめていた。
「ジルミール……お前は、本当にインスマス教団に関わっていたのか。騎士の家の者でありながら、国を脅かす者たちと手を組んだのか!」
「こ、この人たちは、家を追い出された僕を受け入れてくれたんだ。僕を必要として、僕に欲しいものをくれた!だから僕は彼らを手伝ったんだ!」
「だからって、自分の親族を巻き込んで生贄にしようなんて、親不孝にも程があるんじゃないですかねぇ!」
俺たちの言葉にジルミールは何も言い返さず目を伏せる。
「一階は既に制圧した。今、お前の父親が地下の制圧に向かっている。投降しろ、ジルミール。これ以上、両親を悲しませないでやってくれ」
祖父の説得にジルミールは爪を噛む。
インスマス面の教団員たちも、大勢の騎士に囲まれて行動を起こす気配はない。
後は残りの団員たちを拘束すれば作戦は終わりだ。
はぁ、これでようやく作戦は終了
「降伏などしない」
背後から声が聞こえ振り返る。
いつの間にかローブに身を包み、先端に宝石の付いた杖を持った老人が立っていたのだ。
インスマス面で狭まった頭には奇妙に光る金属の王冠を被っている。
おそらくあの催眠効果を持つ鈴と同じ金属だ。
と言うか、この老人は昨日俺に対して光の球を撃ってきた教祖じゃねぇか!
全然気配に気づかなかった……一体どこから現れたんだ!?
老人の出現に教団員たちが「司教様、司教様」と不気味に呟いている。
「我々はライゼヌス騎士団だ。お前がこの教会の司教か。児童誘拐の罪でお前たちを拘束する!既に教会内は制圧した!抵抗は無駄だぞ!」
イルミニオの勧告に司教と呼ばれている老人は小さく笑う。
次第にその笑い声は大きくなり、大口を開けて笑い続けた。
「何がおかしい!?」
「王都ライゼヌスを守る騎士団の団長イルミニオ・バルメルド。何故我々が騎士団に動向を探られずにこれ程までに大胆な行動ができたと思う?」
「どういうことだ?何が言いたい?」
「町中を警邏する騎士団の目を盗み、何故我々が王都全域に催眠術をかけられたと思う?何故この風貌の我々が怪しまれず目立たずに活動できたと思う?何故……我々が小さな村ではなくこの王都を狙ったと思う?」
司教の言葉で俺はハッと気づく。
そうだ、催眠効果を持つ鈴は真夜中になるといつも鳴り響いていた。
でもその時間帯は騎士団が巡回していたのだから、鉢合わせてもおかしくないないはずだ。
それにインスマス面の人間が王都全域で鈴を鳴らして歩き回っていれば、必ず人目に触れ不審がられているはすだ。
なのに事件が起きるまでインスマス教会の存在は知られていなかった。
それどころか真夜中に鈴を鳴らしている人物の存在を誰も不思議な思わなかった。
だが俺はそれが何故か知っている。
二日目の夜、インスマス教会の追っ手を振り切り帰路を歩いている時に鈴を鳴らしている二人組とすれ違った。
その二人組は──騎士団の鎧を着て素顔を隠していた!
「まさか……」
ジルミールへと顔を向けるとイルミニオも同じように視線を移す。
俺たちの目を見て、ジルミールはそっと顔を逸らした。
「ジルミール……あんたが手引きしたのか?騎士団の巡回時間やルートや、鎧を用意して、こいつらの手助けをしたのか!?」
俺の問いにジルミールは何も答えない。
だが、その表情は親に悪戯がバレた時の子供のようだった。
「ジルミール……お前と言うやつはァァァァ!!」
俺の質問に肯定も否定もしないジルミールを見てイルミニオが激昂する。
王国に仕える騎士団の家系から仇なす者が出たのだ。
その怒りは計り知れない。
怒号を上げる祖父にジルミールが怯えて身を縮める。
イルミニオが殴りかかろうと拳を振り上げた瞬間、司教が手に持っていた杖で地面を叩く。
突如地面から大量の水が噴出し、部屋の中を水で満たしていく。
子供である俺の膝近くまで水が浸水し、全員が魔法により水を生成した司教へと視線を戻した。
「家族の問題に水を差してしまって失礼。だが親子劇を眺めている程我々も暇ではないのだよ」
何かアクションを起こすつもりなのかと全員が身構える。
司教の動きを見逃すまいとマナを込め
「う、うわぁぁぁぁ!!」
誰かの悲鳴が背後から聞こえる。
続けざまに左右からも悲鳴が上がり、何事かと周囲を見渡す。
「さ、魚!魚の化け物だ!」
「蛙だ!蛙の魔物だぞ!」
魚に蛙と言う単語に嫌な予感がする。
すると水の中からブクブクと泡が立ち、水柱を立てて次々とその姿を現す。
あの魚とも蛙とも言えぬ感情のない顔、白い腹に水に濡れテラテラと光る鱗、水掻きとヒレに首筋で開閉するエラ、そして気分を害する漂う磯の臭い。
ディープ・ワンたちが水の中から無数に立ち上がり現れたのだ!
その手にはトライデントを持ち、相手から敵意を感じる。
おそらく騎士団の面々も初めて見るであろう冒涜的な化け物の出現に困惑し萎縮してしまっている。
その姿もさることながら、一度に大量のディープ・ワンを目撃してしまい誰もが恐怖を感じているのだ。
俺は数十分前に一度あの姿を目撃しているからか、初見の時のような悍ましさは感じない。
だがあまりの数の多さに気後れしてしまう。
その数はなんと──七十体を超えているだろう。
先程まで取り囲んでいたはずなのに、逆にディープ・ワンたちに取り囲まれしまったのだ。
一方、ジルミールたちからは悲鳴が上がらない。
その存在がさも当然のように見ている。
「な、何なのだ……この、化け物は!?」
隣に立つイルミニオはディープ・ワンに釘付けとなり、その体を僅かに震わせている。
俺は鎧を着ている彼の背を思い切り叩いた。
鈍い音がして手の平がじんと痛む。
しかしそのおかげか、イルミニオの視線がディープ・ワンから外れ俺に移った。
「おじいちゃん、しっかりして下さい!あんなんただの魚です!三枚に卸してやればいいんです!」
「……そう、だな。あれは魔物と同じ化け物だ。ならば斬り捨てればいい!」
俺の言葉で気力を取り戻したのか剣を引き抜き構える。
それを見た司教が杖を振り上げる。
「一人残らず──殺せ」
司教の言葉を合図に、一斉にディープ・ワンたちが襲いかかってきた。
最近暑くなってきましたね。
そのせいか最近腹がめっさ痛いです。
次回投稿は明日22時です!




