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二色眼の転生者《オッドアイズ・リ:ライフ》  作者: でってりゅー
第三章 ライゼヌスを覆う影
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第六十九話 深き海に住まうもの

いやー前話では暴走してしまいました。

まぁまだまだ暴走するんですけどね


 インスマス教会内部に潜入することに成功した俺とベルは、透明マントで姿を隠しながら誘拐された子供たちを探していた。

 透明マントの効力で姿を隠せるとは言え、ぶつかったりマナを探知できる奴と遭遇すると見つかってしまうのであまり派手に行動できない。

 インスマス面の教団員とすれ違う度に通路の端に移動して、遠ざかるまでじっと待たなければならない。

 自分たちが今教会のどこにいるのか?

 子供たちがどこに捕らえられているのか?

 イルミニオたち騎士団を誘導する為の出入り口はどこにあるのか?

  調べなければならないことが山ほどある。


「この教会、無駄に広いな……ベル、疲れてないか?」

「まだ大丈夫です。でも、これだけ広いと誘拐された人たちを捜すのに時間がかかりそうですね」


 透明マントからはみ出さないように密着しながら歩いているので、歩幅が小さく思うように探索が進まない。

 加えて人が通る度に立ち止まっているのだ。

 そりゃ移動に時間もかかってしまう。

 どうにか素早く子供たちを見つけなければ、時間だけが過ぎてしまう。


「いっそ、壁に穴でも開けて進むか?」

「駄目ですよ。それじゃあ見つかってさまいます」

「だよねぇ……」


 何かいい案はないかと考えていると、近くの部屋の扉が僅かに開いているのに気づいた。


「ベル、一度あの部屋に隠れよう」


 そう提案し、一度部屋の前で止まり中の様子を伺う。

 誰もいないのを確認してから扉を開け中に入る。

 音が出ないように扉をゆっくりと閉めると透明マントを脱いだ。


「ふぅ、暑かった」

「ここに来てからずっとマント被ってましたからね。ずっと密着してましたけど、においとか大丈夫でしたか?」

「いえ、むしろご褒美でした」


 言っている意味が分からずベルが首を傾げる。

 俺たちが入った部屋は、どうやら書庫のようで多くの本棚が並んでいて迷路のようになっている。

 その数は多く、バルメルド本家の書庫より広い。

 

「ここ、書庫ですよね?」

「扉が開いてたから入ったんだけど、ラッキーだな。ここなら教会内の見取り図とかあるかもしれない」

「手分けして探しますか?」


 ベルの提案に俺は頷き、二手に別れて探すことにした。

 俺は左半分を、ベルは右半分だ。

 本棚に隠れてお互いの姿が見えなくなってしまうが、足音はしっかりと聞こえるし扉は一つしかないので心配はないだろう。

 迷路のように並べられた本棚を進み、背表紙を眺める。

 本棚に並んでいるのは、魔法とか、魔術とか、儀式とか──そう言った物だ。

 別段珍しい物ではない。

 どれも城下町の本屋に行けば買える物ばかりだ。

 本棚を眺めながら進んでいると壁に一枚の絵を見つけた。

 見取り図だ……ご丁寧に額縁に入れて飾ってある。

 壁に掛けられた額縁を手に取ると、枠を外して地図を抜き取る。

 親切にも地図には部屋の名前まで記載されていた。

 ありがたやありがたやと感謝しながら懐に地図をしまう。

 これでもうこの部屋に用はない。


「クロノス君!ちょっと来てください!」


 反対側の本棚を見ていたベルから呼ばれる。

 何事かと俺は慌ててベルが進んだ反対側の本棚へと走った。


「なんだ!?どうしたベル!?」

「これ……」


 ベルが示したのは小さな机と、その上に置かれた二冊の本だ。

 どちらの本にもタイトルはない。

 片方は普通の本で真新しい。

 もう片方は少し色褪せており、何かの皮で装丁されている。


「ただの本じゃないか?これがどうかしたのか?」

「色褪せている方なんですけど、見た事のない文字で書かれているんです。それを眺めていたら、急に怖くなって……」

 「怖い絵本を読んだ子供みたいな理由だな。どれどれ」


 怖くなって俺を呼んだと言う可愛らしい理由にちょっと笑いながら、皮で装丁された方の本を手に取る。

 本を手に取った瞬間、指先に柔らかい弾力を感触を感じる。

 何だろうこの手触り?

 凄く日常的に触り慣れているような……ッ!

 気づいてはいけないことに気づき咄嗟に持っていた本から手を離す!

 本を触った時の手触りが指先に残っている気がして何度も手をズボンに擦り付ける!


「どうしたんですかクロノス君!?」

「こ、この本……!これの表紙……これ人の皮じゃないか!?」


 そうだ、この感触は間違いなく人間の皮だ!

 あの本の表紙は人の皮が使われている!

 衝撃的な発言にベルが驚き本をもう一度見る。

 さっきまで読んでいた彼女もそれに気づいてなかったのか、俺の一言で自分の手を服に押し付けて汚れを落とすように払った。


「な、なんで人の皮を本の表紙になんか!?」

「狂ってるぞこの教会!」


 子供を生贄にしようとしたり、歪な面の皮した人間や、人の皮で本を装丁するなんてどう考えても普通じゃない!!

 キチガイの集まりかここは!!

 恐ろしくなりこの部屋からすぐに出ようかと思ったが、ベルの言っていた見たことのない文字と言うのが気になる。

 恐怖と好奇心が俺の中でせめぎ合う。

 俺はどうしても本の中身を確認したいと思い、透明マントを広げて両手で持つと人皮の本を再び手で持った。


「よくもこんなキチガイ本をッ!」


 布越しに人皮の感触がするが、極力気にしないように努めながら俺は本を開いた。

 人皮の本には元々タイトルがないようだ。

 ペラペラと捲ると、この本は三つの項目に分かれているのがわかる。

 だが本に書かれている文字は、確かにこの世界では見た事がないものだった──そう、この世界では。

 この本に記載されている言語は全て……英語で構成されていた どういうことだ、なんでこの世界に元の世界の言語が!?

 いや、よく考えたら坂田やセシールと言った地球から来た転生者や転移者は数多くいたと聞いている。

 その中の誰かが故郷の言葉で本を書いて残していたとしてもおかしくはない。

 でも、それをこんな形で見つけるなんて最悪だ。

 しかし参った……俺、あんまり英語得意じゃないんだよなぁ。

 読もうと試みるが、意味のわからない単語や理解できない文法が多くてぜんっぜん分からん!

 もしかしたら坂田かセシールが読めるかもしれないし持って帰るか。


「これは持って帰ろう。誰かに解読してもらわないと読めない」

「そうですか……もう片方の本は日記みたいです。私もまだ読んでないんですけど」


 机に置かれている残りの一冊、こちらは普通の表紙なので素手で取る。

 こちらはこの世界の言語で書かれているのでキチンと読める。

 ベルの言った通り、こちらは日記……研究日誌と言った方が近い内容かもしれない。


『私は長らく、ある伝承を調べていた。

 それはライゼヌス大陸の北に位置する『アーカム』と『インスマス』と呼ばれる二つの街である。

 両者はこの世界に存在する街でありながら、その文化形成は大きくライゼヌスと異なる。

 まず彼らの街に亜人種は存在しない、人族のみが住んでいる。

 だがアーカム唯一の大学である『ミスカトニック大学』では亜人種の入学を認めている。

 アーカムは決して亜人種との交流を拒んでいる訳ではないと思われる。

 しかし、後者の『インスマス』は違う。

 彼らは他から来る者を『ヨソ者』として忌み嫌い、村の事を詮索する者には容赦はしない。

 現にインスマスに旅行に行った学生グループが皆行方不明になっている。

 かつてインスマスを訪れた私も村の人間たちから襲われ九死に一生を得た。

 何故私が危険なインスマスに赴いたかと言うと、アーカムに古くから伝わる伝承を調べる為であった。

 その伝承とは『人の姿をした魚』である』

 

 人の姿をした魚……その単語が何故か胸に引っかかる。

 俺はそれを知っているような気がする。

 どこかで見た覚えがある。

 だがそれがどこだったのか、いつだったのかを思い出せない。

 こんな感覚を神様たちと話している時にも感じたはずだ。

 一体どうなっているんだ俺の頭は。

 横で一緒に日記を読んでいたベルが「クロノス君」と俺を呼ぶ。

 その声で奇妙な胸の引っかかりが消えた気がした。


「この『人の姿をした魚』と言うのは、もしかしてインスマス面の人のことなのでしょうか?」

「いや、違うと思う。坂田さんの話では、インスマス面はインスマス村に蔓延する皮膚病に感染した人の顔を示す言葉らしい。もしこの日記の人が『人の姿をした魚』のことを皮膚病に感染したインスマス面の人間だと思い込んでいれば、村の人間のことをそう呼称してるはずだ」


 少なくともこの日記の人物は『インスマス面の人間』と『人の姿をした魚』は別物だと思っているのだろう。

 確かに『インスマス面』は魚に見えなくはないが、俺もあれが『人の姿をした魚』とは思えない。

 伝承の続きが気になり、俺は再び日誌に目を通す。


『インスマス村に近いアーカムの街には、その伝承は誰もが知る物であった。

 アーカムの街中を流れる川や下水では度々その目撃情報が挙がっている。

 だがその正確な姿を見た者はおらず、人によってその容姿はバラバラであった。

 頭部は魚、または蛙だったと言う者。

 口から言葉を発するのを聞いたと言う者がいれば、言葉は話さないと言う者もいる。

 その動きは人と同じだったと見た者がいれば、蛙のように跳ねているのを見た者いた。

 見た誰もが別々の回答をするのだ。

 そのせいか、伝承はただの噂話とされまともに取り合う者はいない。

 だが魔物と言う存在が闊歩するこの世界で、その様な唾棄すべき存在は確かに実在するのではないかと私は考えている。

 調査の末、私はとある教会から古い文献を見つけ、その魚とも蛙とも似つかないと言われる存在の名称を知ることができた。

 彼らは北の海、インスマスの海底深くに住んでいるらしい。

 それは“ディープ・ワン”と呼ばれている』


「ディープ・ワン?それが『人の姿をした魚』の名前?」

「──深きもの」


 日誌の一ページに持ち主が人々に聞いて回った『人の姿をした魚』のイメージを絵にした挿絵が描かれていた。

 そこに『ディープ・ワン 深きもの』と書き足されていた。

 魚と蛙を足したような頭部、長くヒレのついた手足、そして魚類独特の丸く大きな目。

 イメージだけでここまで悍ましい生き物を描けるのか。

 確かにこれは唾を吐き捨てたくもなる。

 しかし、何故この研究日誌はここにあるのだろうか?

 もしや持ち主は、インスマスの人間に捕まってしまったのだろうか?

 日誌の持ち主がどうなったのか想像していると部屋の扉が開く音が聞こえる。

 慌てて日誌を閉じて机の上に戻す。

 身を屈め本棚の隙間から入り口を伺う。

 ヌチャ、ヌチャ──と足音が聞こえる。

 まるで靴底に泥でも付けているかのような音だ。

 そしてヌッとその足音の主が姿をを現す。

 テラテラと光る鱗、猫背にダランと両手をぶら下げた姿勢で、魚とも蛙とも似つかない頭部の生物だった。

 悍ましい生物を眼にし全身に悪寒が走る。

 それと同時に俺の脳裏に先程の日誌に描かれていた『ディープ・ワン』の挿絵が思い浮かぶ。

 挿絵と酷似する点が多い……まさかあれが、本物の『ディープ・ワン』なのか!?

 ディープ・ワンと思しき生物は、感情のない瞳でパクパクと口を開閉させながら俺たちが隠れる書庫へと足を踏み込み、迫ってくるのだった。

できたらでいいんですけど、感想とか評価ポイント増えるとめちゃくちゃやる気出るんで貰えたら嬉しいです


次回投稿は明日22時です

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