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二色眼の転生者《オッドアイズ・リ:ライフ》  作者: でってりゅー
第三章 ライゼヌスを覆う影
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第六十八話 潜入!インスマス教会

またストックが溜まりすぎているので連続投稿しまーす

今日から日曜日の三日間連続投稿です


 下水道に続く穴の中に入って数分程経った。

 ベルに案内されながら低姿勢で穴を進んでいると地下の下水道の通路へと出た。

 下水道の中は鼻が曲がりそうな程強烈な悪臭を漂わせており、あまり長居したいとは思わない。

 濁っているからか、カンテラの光に照らされた下水は気味が悪いほど玉虫色に染まっている。


「酷い臭いだな」

「王都全体の水がここに流れていますから。ですけど、そのおかげで逃げる時は臭いを追われることはありませんし、入り組んでる分追跡を逃れ易いんです」

「まるで内部を全部把握してるみたいな言い方だな?」

「え?もちろん把握してますよ?」


 冗談で言ったつもりなのにさも当然といった表情で返されてしまう。

 だってこの下水道王都全体に広がっているはずだぞ?

 その全体の通路を把握してるなんて嘘だろ?


「物心ついた時から、この下水道の地図を毎日の様に見せられ紙に描いて覚えるように言いつけられてましたから。いざと言う時一人でも逃げられるように」

「地図あるならそれ俺にくれよ!そしたら一人でも行けるのに!」

「毎回燃やしてるに決まってるじゃないですか。緊急脱出用の通路の地図を大事に残すなんてことしませんよ」


 あぁ……確かに、それじゃあ城を攻められた時に地図を見られたら出口に先回りされてしまうだろうしな。

 だから地図に描かせて覚えさせてるのか。

 しかし地図を残さずに燃やすなんて、何という徹底ぶり。

 こう言う時の為に一枚ぐらい残しておいてくれてもいいだろうに。


「でも、私も実際に入るのは初めてです……入り口まではお父様に連れてきてもらったことはありましたが、入ったことはなかったので」

「おいおい、そんなで道案内大丈夫かよベル様」

「大丈夫です。さ、行きましょう。クロノス君も灯りを」

「それはベルが使いな」


 ベルがカンテラを俺に近づけようとするのを手で制する。

 俺には片手が塞がるカンテラなんて必要ないのだ。


「でも、それではクロノス君が」

「俺にはカンテラよりも、もっと便利な物がある」


 右眼を閉じ、マナを込めて再び開く。

 濃褐色の右眼にじんわりと熱を持つと、暗闇しか映らなかった目に下水道全体が見えてきた。

 おぉ、見よ。

 汚く穢れた水面もばっちり見えるぞ!

 正直見え過ぎて気持ち悪い。

 ベルに振り向くと、光る右眼を見て驚かれる。


「な、なんですかその右眼!?光ってますよ!?」

「ふっふっふっ。実はこの眼、マナを込めると暗い場所でも遠くまで見渡せるんだよ。どうだ、すごいだろ?」

「そ、そうですね。ある意味すごいです……」

 

 あれ、ちょっと引かれてない?

 レイやフロウには好評だったんだけど……。

 いや、俺はもう慣れたから感覚が麻痺してただけなのではないだろうか?

 よくよく考えたら、片目だけ光る人間ってちょっとかなり不気味なのでは?

 いやだ、私の右眼気持ち悪すぎ!?


「じゃ、じゃあ行きましょうか」

「まっ、待って!別にこの眼怖くないから!眼がよくなるだけだからぁ!」


 引き気味で先を急ごうとするベルに弁明しながらついて行く。

 その時、背後の水中からゴボゴボと泡が沸き立つ音が聞こえた。

 不気味な音に俺とベルはビクッと身体を強張らせ振り返る。

 泡の音は遥か後方、通路の奥から聞こえきたが俺の右眼では何の姿も見えない。


「い、今……何か聞こえませんでしたか?」

「き、気のせいじゃないかな?だ、だってほら、今は何も


 聞こえないと言いかけると、また通路の奥からゴボゴボと泡立つ音が響き渡る。

 はっきりと聞こえる音にお互い黙り込み、静かに耳を傾ける。

 すると泡が沸き立つ音と共に何かの声が混じって耳に届く。


 テケリ・リ テケリ・リ テケリ・リ──


 呪詛の様な呻き声が何重にも重なり聞こえ、全身の毛穴が逆立つ。

 この暗闇の奥に何かいる……それもとびきりヤバイのが!

 俺の中の本能が今すぐここから離れろと警告している!

くそっ、神様の奴め、この下水道も危険じゃねーか!!

 どうやらこの呻き声はフロウにも聞こえていたらしく、全身を微かに震わせている。

 俺は彼女の手を掴むと努めて笑顔を浮かべる。


「べ、ベル。何か歌を歌いながら行こう」

「え、う、歌……ですか?」


 震えていた彼女の手を掴むと、震えが止まる。

 俺の提案に彼女は疑問符を浮かべていた。


「わ、私、歌なんて、歌えないです……そ、それより、後ろで変な声が」

「気にするな、忘れろ、さっさと先に進もう。よし、なら俺が歌おう。こう見えて歌上手いんだよ」


 でも、と言いかけたベルを無視し息を大きく吸い込む。

 確かにこれから潜入しようってのに大声で歌を歌うのなんて絶対にやってはいけないことだ。

 だがこの耳に響く声を掻き消したい一心で俺は歌い始める。


「デッデレデンデンデッデッデーン!!デーレン!デーレン!デッデレデレデレデーン!!あったまデッカデェェェカ!そぉれがどおしィィィィた!!ぼく

「ク、クロノス君!?」

「ほらベルも歌え!歌えば何も怖くない!」


 大声で歌いだす俺に驚くベルに合掌を促す。

 俺の歌声が下水道内に反響し、あの不気味な音も声も耳に入らなくなる。

 その代わり俺の歌声がやたら響いてうるさいけど……あれ、俺どこまで歌ったけ?

 ええい、適当な所から繋げてしまえ!


「デェマエ、ジンソク、ラクガキ、ムヨウォォォォ!」「う、うぉぉぉぉ?」

「デー!ドラえ──


 大声で謎の声を掻き消しながら下水道を進み続ける。

 たどたどしながらもベルも一緒に歌い、手を繋ぎなから闇の中を進み続ける。

 いつしかあの呪詛の様な声は聞こえなくなっていた。




✳︎




 闇に包まれた下水道を歩くこと数十分。

 ドラえもんを繰り返し歌うこと八回。

 歌うのに集中してどこをどう通ったか分からないが、ベルの案内でようやくインスマス教会が建つ地区までやってきた。

 外に繋がる鉄格子を探すことになり辺りを見回しているとベルが声を上げる。


「クロノス君!あれを見て下さい!」


 彼女が指差す先、そこには天井にカンテラの光が見えた。

 どうやら、下水道の壁に誰かがカンテラをぶら下げているらしい。


「この下水道のことを知ってるのは王族だけって話だったよな?まさか、俺たち以外にも誰か王族関係者が来てるのか?」

「いえ、そのような話は聞いていません。それに下水道内部を完全に把握したいるのは、私とお父様だけのはず……」


 天井からぶら下げられたカンテラを見つけ、近づこうと歩み寄る。

 その瞬間、どこからかギィと音が聞こえてベルを止める。

 石畳の階段を降りる靴音が聞こえ、慌ててベルが持っていたカンテラの火を消し、俺たちはその場にしゃがみ込む。

 右眼を細め、光を抑えて足音の主が現れるを待つ。

 コツ、コツ……靴音が下水道内部に反響し次第に音が大きくなっていく。

 しばらく待つと天井に吊るされたカンテラとは別の灯りが現れた。

 光で見つからないよう、右眼を手で覆い様子を伺う。


「クロノス君、誰が

「しっ。もうすぐ見える」


 小声でベルを制して新たな光源を持つ主を見定める。

 右眼に映ったのは、擦り切れたズボンに背広を着た猫背、そしてあの皮膚病を思わせる不気味な皮膚と狭まった頭部──あの特徴は間違いない、あれは『インスマス面』の人間だ!

 だけど上層区の子供を攫った男たちの誰でもない。

 また別のインスマス面の人間のようだ。

 インスマス面の男は下水道内を手に持ったカンテラで照らして見回す。

 数回それを繰り返すと石畳の階段を登り始め姿を消す。

 やがてバタンと扉が閉まる音が聞こえ、再び静寂に包まれ天井に吊るされたカンテラだけが眼に映る。

 立ち上がりベルと共にインスマス面の男がいた場所まで移動すると、壁を切り崩したかのように階段がそこにはあった。

 数十段階段の先には木製の扉が建てつけられている。


「私、こんな階段は知りません。元々無かったはずです」


 王族のベルが知らない階段。

 おそらく何者かが新たに造ったのだろう。

 それが誰か何て、議論するまでもない。


「……行ってみるか」


 息を飲み階段に足を運ぶ。

 足音が立たないよう、慎重にゆっくりと登る。

 様子を伺いながら木製の扉を開くと、部屋中に樽が敷き詰められた何かの保管庫に出た。

 無人のようで危険はないと判断しベルと踏み込む。


「ここは……何を保管しているのでしょうか?」

「樽だから、ワインとか?」


 厳重に保管されている樽の一つに顔を近づける。

 微かに塩の臭いが鼻を刺激する。

 嫌な予感がするので触らない方がいいだろう。

 樽から身を離すとベルに呼ばれた。


「クロノス君!他にも階段があります!」


 彼女が示す先は上階へと続く階段。

 またしても木製の扉が見えた。

 だが扉の隙間から光が漏れており、上階には人の出入りがあるのだと分かる。


「ベル、カンテラ消して。ちょっと失礼」


 灯りを消させて、着ていたローブを脱いで広げ、一枚の布に戻す。

 広げた布を俺とベルで頭から被る。

 二人の体をすっぽりと布が覆い、足がはみ出ないよう触れない程度の距離までベルに近づいた。

 突然頭から足元まで布に覆われベルは不思議そうにしている。


「あの、このローブは?」

「こうやって使うんだ。ンンッ!透明マント〜」


 秘密道具を出す時みたいなノリで透明マントにマナを流す。

 マナが広がり俺とベルの姿が消え見えなくなる。

 視覚から消えた自分の姿にベルは驚く。


「え、あれ!?見えなくなりました……どうなっているのですかこれ?」

「原理は俺も知らん。神様から貰った」


 よくよく考えたら、このマントをセシールに渡したら喜ぶのではないだろうか?

 俺もどうしてこのマントにマナを流すと姿が消えるのか知らない。

 神様がくれた物だから、変な原理なのは間違いないだろうけど。

 まぁ今はそんなことはどうでもいい。

 よく分からんこの道具のおかげで潜入作戦ができるのだから。


「やっぱり子供二人分を覆うとなると足全部が入りきらないな。ごめんベル、もうちょっと近く。嫌だったら言ってくれ」

「いえ、もう少し近くても大丈夫ですよ」


 足先まで透明マントが覆うようにベルと密着する。

 このぐらいの歳の女の子って、男の子に密着されてもあんまり文句言わないよな。

 まぁ俺もこんな小さな子とくっついても、何とも思わないけ──あれ、何かすげーいい匂いがする。

 なんでベルの奴こんなにファビュラスな香りを……いやいやいやいかんいかんいかん!!

 ベルから漂う匂いに頭がクラッとしてしまう。

 落ち着け俺!

 相手は俺と同じ七歳で小学生だぞ!?

 小学生に欲情しかけるとか俺もうただの変態じゃねーか!!

 思い出せ、前世でロリッ娘には手を出してはいけないとあれ程言われていたではないか!

 あの魔法の言葉を思い出せ!

 己を律するあの言葉を!

 Yesロリータ Noタッチ!

 Yesロリータ Noタッチ!


「……クロノス君?どうかしましたか?」

「ひぃや!?いやなんもどうもしてないよ!?」


 ふぅ、よし、今のやり取りで落ち着いたぞ。

 俺もまだまだ修行が足りないな。

 大きく息を吸い込み扉を見据える。

 一先ずここから出なければ。


「よし、行こう」


 ベルと透明マントを被ったまま階段を上がる。

 木製の扉を開けると、大理石の通路に出た。

 通路の壁は掃除されていないのか汚れが目立ち変色しており、壁には狂った形の造形物が置かれている。

 どうやらこの廊下はどこかの建物内部のようだ。

  おそらくここは──


「誰だ扉開けっ放しにしたのは」


 突然背後から声が聞こえ驚く。

 逃げ出しそうになるのを堪え、ベルと目を合わせてその場に留まる。

 いつの間にか後ろからインスマス面の男が近づいていたのだ。

 だが透明マントを被った俺たちの姿は相手に見えていない。


「教会から子供たちが逃げたらどうするつもりだ……」


 男は俺たちが出てきた扉を閉めると、ぶつくさ呟きながら廊下を歩き離れていく。


「クロノス君、もしかしてここは──」

「ああ、インスマス教会の中だ」


 思わぬ形でインスマス教会内部に入り込んでしまった。

 だがこれはチャンスだ。

 この下水道に通ずる扉は脱出に使える。

 まずは攫われた子供たちを見つけなくては。

お陰様でPVが1万4千を超えました!

いつもありがとうございます!


次回は明日22時です!

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