第六十六話 攻略作戦
連続投稿四日目ですん
そろそろストックキレそう
謁見の間での作戦会議が終わり、俺はライゼヌス騎士団本部に連れられていた。
作戦室に割り当てられたホールに即席の席が作られる。
真夜中にも関わらず、全ての団員が参加しているようで缶詰のようになっている。
俺はそれを横で見ていた。
作戦会議室の壇上に誰もが注目している。
やがて壇上にイルミニオが立ち、団員たちを見渡す。
「既に全員知っていると思うが、本日ライゼヌス王都全域で誘拐事件が発生した。誘拐犯は集団と思われ、一部の区画では住んでいた子供全員が誘拐されてしまった」
イルミニオの説明に周囲がざわつき始める。
きっとこの中にも自分の子供が誘拐された人もいるのだろう。
騒めき始めた団員たちに対しイルミニオが手を挙げると静かになる。
「この中にも自分の子供が誘拐された者もいるだろう。誘拐された子供は『インスマス教会』に囚われていると思われる。よって我々ライゼヌス騎士団は、誘拐された子供たちを救出する為『インスマス教会攻略作戦』を行う!」
『インスマス教会攻略作戦』──その計画立案者はもちろん神様。
そしてその鍵となるのは、何故か俺だった。
騎士団本部に連れて行かれる一時間程前。
「俺がインスマス教会に潜入ぅ!?」
神様のとんでもない提案に俺は素っ頓狂な声をあげる。
謁見の間でこんなに騒いでいるのに衛兵が飛んで来ないのが不思議なくらいだった。
驚く俺を尻目に呆気からんとした表情で神様は続ける。
「そう。君がインスマス教会に潜入、囚われた子供たちを探して保護し、教会の扉を内側から開けて騎士団を誘導。そして子供たちの脱出までを手伝って欲しい」
「無理すぎるだろそれ!俺の責任重大じゃねーか!」
作戦の八割俺の仕事ぶり次第じゃねーか!
単独で潜入してそこまでするなんて無理だろ!
ニンジャじゃねーんだぞ俺は!
「気づいてると思うけど、君の両眼はただ夜目や視力がよくなるだけの代物じゃない。右眼と左眼、その両方にマナを通して発動している間、あらゆる精神干渉を無効化する能力が備わっているんだ」
「なんだそれ、超便利じゃん!」
「両眼が発動している時限定だけどね。もちろん君が教会に潜入し易いように他にも手は打てるだけ打つよ」
「でもそんな大役俺じゃなくても」
「君じゃなきゃ……いや、君にしかできないんだよ」
珍しい真剣な、一切いつものふざけた調子のない声色で神様が俺を見てくる。
その雰囲気に俺はそれ以上何も言えず、神様の提案を断れず引き受けてしまった。
そして今に至ると言う訳だ。
イルミニオの作戦内容についての説明を聞きながら思い返すと、安易に引き受けるべきではなかったと激しく後悔している。
「──と言った作戦となる。別働隊が教会内に潜入、誘拐された子供たちの脱出経路を確保。そして残った本隊と合流し子供たちを保護、その後は教会内を制圧する。本隊は別働隊の合図があるまで陽動作戦を行い時間を稼ぐ。以上、質問は?」
イルミニオの問いに各所から手が挙がる。
その中からイルミニオは一人を選び質問させる。
「別働隊とは、一体何人で構成されるでしょうか?」
「それはまだ選別途中だ。だが数人での潜入を予定している。人選は追って連絡する」
「では、別働隊は一体どこから潜入を?」
「それについては答えることはできない。外部に漏れるのを防ぐ為極秘とする」
騎士団長の答えを聞き質問した団員は頷いた。
他の者もその点だけを聞きたかったのか、「他に質問は?」と問われても手を挙げる者はいなかった。
「では、これより一時間後に作戦を開始する!各員持ち場に着け!解散!」
イルミニオの号令で団員たちが一斉に会議室を慌ただしく駆けていく。
バルメルド家の男衆はその場に残り、イルミニオと対峙する。
「ではクロノス。君の身支度を始めるとしよう」
頷き全員で別室に移動する。
そこでは既にサティーラとメアリーが装備一式を揃えて待っていた。
「クロノス御坊ちゃま、お待ちしておりました」
「お着替えをお手伝いいたします。こちらへどうぞ」
二人に促され、着ていた富裕服を脱ぎ別の服へと着替える。
その間叔父たちは装備のチェックを、ジェイクは不安そうに俺を見つめていた。
「クロノス……本当に一人で行くのか?」
「行くしかないでしょう。ギルニウス様から神託が下ったんですから」
先程イルミニオは別働隊を数人と答えていたが、実際には俺だけしかいない。
それも神様の指示だ。
インスマスの内通者が騎士団の中に居ないとも限らない。
用心の為に潜入するのが子供の俺だとは誰にも知らせず、囮でまた別の潜入部隊を組織するらしい。
それは熱狂的なギルニウス教信者で構成するんだとか。
確かにそれなら内通者の心配いらないだろうな。
まず彼らが囮の潜入部隊として動き、その後に俺が別の場所から潜入するのだ。
俺の潜入ルートも既に決まっているらしく、俺はそれを辿って行くだけ。
簡単そうに聞こえるが、潜入した後に捕まってる子供たち助けて教会に騎士団を招き入れてと色々やることがありすぎる。
正直今すぐにでも断りたいが、神様から「君にしかできない」なんて言われたら、もうやるしかないだろ。
それにクラウラも捕まっているのだ、放ってはおけない。
「着替え終わりました」
「こっちも武器の確認終わったぜ。全部異常無しだ」
サティーラと叔父たちのチェックが終わる。
富裕服から動き易さを重視した簡素なシャツとズボンに着替える。
シャツの下には楔帷子を着込んでいる。
ちょっと重いけど、これで大抵の攻撃は防げる。
その上にローブを着て、内側に小型のナイフやら針金やらと色んな物を仕込む。
これで準備完了、クロノス・バルメルド潜入ver.の出来上がりだ。
着替え終わった俺を見てイルミニオが小さく笑う。
「なかなか様になってるじゃないか」
「ありがとうございます。じゃあもう一度作戦を確認したいので、おじいちゃんと二人きりにしてください。みなさん、ありがとうございます」
頭を下げてお礼を言うと、頑張れよと皆から激励を受ける。
ジェイクだけは終始不安そうな表情を見せていたが、叔父たちと共に部屋を出て行く。
部屋に俺とイルミニオの二人きりとなった。
「……それで、どうかしたのか?まだ不安なのか?」
「なにがです?」
「作戦を確認するのは建前で、私に話を聞いて欲しかったのだろう?」
ありゃ、バレてる。
確かにイルミニオと話がしたいから二人きりにしてもらったのだが、話をしたいのは作戦のことについてではない。
「確かに不安ですけど、そのことではありません」
「ではなんだい?皆には聞かれたくないことかね?」
「ええ、特にジェイク父さんには。ジルミールについてです」
イルミニオの眉がピクリと反応する。
孫の名前を聞いたのに苦虫を潰したかのような表情を見せた。
「ジルミールが……どうしたんだ?」
「彼、たぶんインスマス教会の関係者です」
「え……ちょ、ちょっと待て!ジルミールがインスマス教会の人間!?どういうことだ!?」
「彼がインスマス教会の人間と一緒にいる所を見たんですよ。教会に入る所も」
困惑するイルミニオに噴水広場で演説をしていたことを話す。
おそらくジルミールは教会内でも高い地位にいる可能性がある。
でなければ先頭に立って演説をしたりなんてしないだろう。
身内が敵……それも別の宗教に入信していると聞いて、イルミニオは苦しそうに表情を歪める。
「くそっ……なぜそんな!確かに、それはジェイクには聞かれたくはないな」
「あんなことがあった後ですしね」
「あいつのことだ。ジルミールの顔を殴りに突貫しかねん」
本当にやりそうで笑えないわそれ。
身内が敵教会信者と知り、イルミニオは頭を悩ませる。
しばらく苦悩し、俺を見つめる。
「……クロノス、君は、君の義兄がしたことを──」
「知っています。父さんから直接聞きました」
「そうか……」
「おじいちゃんは、ジルミールのことをどう思っているんですか?」
ジェイクはジルミールが犯した過ちを自分のせいだと思っていた。
子育てに失敗したと思い、そらでもやり直そうと俺を受け入れた。
しかし、この人はジルミールのことをどう考えているのだろう。
ただ単純にそれだけが疑問だった。
「あの子は……ジルミールは、バルメルド家の恥だ」
「恥、ですか」
「そうだ。そして……私の恥でもある。私はあの子を甘やかしすぎていた。同じ家に住んでいながら、怒るのは親であるジェイクとユリーネの仕事だと考え、私は一切あの子を叱ってやらなかった。その結果、ジルミールはああなってしまった。だから、あれがああなったのは私の恥でもある。私はそう思っている」
イルミニオの言葉に小さく吹き出してしまう。
血は繋がってないのに、ジェイクとイルミニオは変な所で思考が似てるな。
小さく吹き出すとイルミニオが不思議にしており、俺は謝る。
「ごめんなさい。父さんも同じようなことを言っていたので、似てるなぁと思って」
「ジェイクが?」
「ええ……。ジルミールを見つけたら、ブン殴って母さんの前に引きずり出してやります。まだケーキのこと、謝らせてないですから」
「そうだな。だが、あまり無理はするなよ?」
はい、とイルミニオに力強く頷く。
俺だってこんな所で無理して捕まるのも死ぬのも御免だ。
だってまだ童貞捨ててないもの。
もうすぐ作戦開始時間になる。
時刻は深夜一時。
夜の闇は深く、雲に隠れた月はまだ見えない。
ネプテューヌの新作がまた出るらしいんでめっちゃ楽しみです!
アプリは延期しちゃいましたけどね……
週末投稿の22時に戻ります
ストックまた溜まったら毎日投稿やりまさー




