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二色眼の転生者《オッドアイズ・リ:ライフ》  作者: でってりゅー
第三章 ライゼヌスを覆う影
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第六十二話 長い悪夢の始まり

夢の世界で私は不思議なことを聞き、不思議な儀式を行い、目の覚める時には恐ろしさよりも抑えの効かぬ昂揚感に包まれている。

いつか私は、仲間たちと共に偉大なる父と母に迎えられ、大いなる神の熱望する貢物を捧げる為に立ち上がるであろう。

いあ・る・りぇー!いあ!いあ!

私は自分の頭を撃ちはしない!

あの驚異と光栄に包まれた永遠にこそ、我らが母なる故郷なのだ!


 両眼がまだ焼けるように熱い。

 しかし、屋敷を抜け出した子供たちを追いかける為そんなことは気にしてはいられなかった。

 バルメルド家以外の家からも続々と子供たちが家を抜け出し同じ方角に集まっている。

 皆が目指すのはあの鈴の音の方角。


「ちょっと君!止まって!止まれって!」


 子供たちを呼び止めようとも試みたのだが、皆虚空を見つめるだけで俺には何の反応も示さなかった。

 どうなってんだこれ……一体何が起きてるんだ?

 声をかけても反応を返さない子供たち。

 鈴の音に向かって集まる彼らと同じように俺も走り出す。

 もしこの不可解な現象が鈴と関連があるのなら、鈴を鳴らすのを止めさせれば子供たちも元に戻るかもしれない。

 そう考え俺は子供たちの間をすり抜けながら足を進める。

 発動したままの両眼で夜の闇を見据え……見つけた!

 貴族たちの住む上層区と城下町の境目に何台もの馬車が停まっていた。

 子供たちは馬車に次々と乗り込んでいる。

 その馬車の荷台の前に立ち、鈴を鳴らしている人影がある。

 その影は子供たちよりも大きく大人だとわかる。

 誰も彼もが猫背で、みずぼらしい背広を着ており、擦り切れたジーンズを履き、よれたキャップ帽を被っている。

 ここら辺じゃ見慣れない服装……なんだ?

 何かあいつらの服装に違和感を感じる。

 背広やズボンなんて姿なんて見覚えがある。

 物珍しくなんてないのに?

 人数はおそよ八人で、その中の一人が手に見たことない金属の鈴を持っていた。

 猫背の大人たちは集まり続ける子供たちの数を数えている。


「三十、三十一、三十二……そろそろこの地区の子供は全員集まるな」

「乗せ終わったらすぐに戻るぞ。鈴は鳴らし続けろよ。音が途切れたら効果が無くなっちまう」


 会話からして、やはりあの集団が子供たちを何らかの方法で操っているのかもしれない。

 おそらくそれがあの鈴なのだろう。

 なら、あの鈴を鳴らすのを止めさせれば……しかし、一体どうやって?

 相手は八人、こちらは一人。

 しかも俺は丸腰な上にたかだか七歳のひ弱な体。

 いくらジェイクにいつも鍛えられているとは言え、あの人数を一度に相手に勝てる見込みがない。

 そうすると奇襲しかない。

 でもどうやって?

 この上層区は舗装された道に等間隔に配置された街路樹しかない。

 隠れる場所の少ないこの場所から奇襲と言ったら魔法を使う以外に考えられない。

 だが使えばすぐに発見されるだろう。


「考えろ……考えろクロノス。俺はやればできちゃう子なんだから」


 自分自身に言い聞かせながら辺りを見回す。

 現在の場所で隠れられるのは街路樹の陰だけだが、発見されたらもう使えない。

 周りの家の塀にも隠れられるが、移動する時に姿を見られてしまう。

 相手が持ってる鈴の音を止めさせ、子供たちを馬車から降ろし逃走する。

 これができれば俺の勝ちだ。

 多分ジェイクや他の大人たちが深い眠りから覚めないのもあの鈴のせいだと思える。

 ならば鈴の音さえ止めてしまえば、異変に気付いた大人たちが加勢してくれるはず。

 問題はどうやって鈴を手放させるかだ。

 ただ手元から落とさせただけじゃダメだ。

 落とさせた鈴を拾わせないようにしなければ。


「よし、これで全員乗り込んだな」

「教会に戻るぞ。他の奴らはもう終わってるはずだ」


 猫背の男たちが馬車に子供が乗り込んだのを確認して出発しようとする。

 マズイ、このままだと子供たちが連れ去られてしまう!

 こうなったら、神に祈るしかない!

 祈る相手がギルニウスなの癪だけど!!

 街路樹の木陰に隠れていた俺はゆっくりと姿を現す。

 洗脳されている子供たちと同じように頭は少し下を向いて、目が光を帯びているがバレないように瞼を細める。

 子供たちの真似をしてノロノロと馬車へ向かって歩いていると、猫背の男たちに見つかる。


「おい待て。まだいるぞ」

「チッ、鈍臭いのが残ってたのか。早く乗せちまえ」


 好き勝手言ってくれちゃって〜、見てろよ見てろ〜。

 目を細め視線を下に向けたまま男たちに歩み寄る。

 一歩一歩ゆっくりと、体内にマナを溜めながら……そして男たちの中心に立ち、馬車を前にして立ち止まり──


「……?おい、こいつ立ち止まったぞ?」

「面倒臭せぇな。おら、さっさと乗れ


 馬車の前で立ち止まった俺を掴もうとした瞬間、俺は身体を翻し猫背の男が持っていた鈴を右手に掴む!

 洗脳状態と思っていた子供が突如動き出したので男たちが驚きを見せた。


「な、こいつ何を!?」

「取り押さえろ!」


 男たちの手が俺に向かって伸びてくる。

 それに対し俺は体内に溜めいたマナを一気に放出するイメージを頭の中で描き、


「風よ!吹き荒れろ!」


 風属性の魔法を発動させた。

 体内のマナが全身、内から外に向かって溢れ出し、風となって俺の周囲に突風を創り出す。

 意表を突いた魔法は猫背の男たちの身体を宙へと浮かし、全員を四方八方へと吹き飛ばした。


「よっしゃ、成功!」


 風魔法の発動を止めながら小さくガッツポーズする。

 右手で掴んだ鈴は……よし、ちゃんと奪えてる!

 次は男たちが起き上がる前に、馬車に乗っている子供たちを逃がさないと!

 鈴は奪ったんだ、洗脳も解けてるはず!

 鈴を片手に複数ある馬車の一台へと飛び乗る。

 蹲っているクラウラを見つけ、彼女の肩を掴むと大きく揺らしながら声をかける。


「クラウラ姉さん!起きて、起きろって!ここから逃げるぞ!ほらみんなも起きて!立ち上がって逃げるぞ!ほら!」


 大声で全員に呼びかけ逃げるのを促す。

 しかし……誰もその声に耳を傾けはしない。

 それどころか反応すら示さない。

 全員蹲ってじっと固まっている。

 どういうことだ、どうして誰も催眠状態から起きてないんだ!?

 鈴の音は止めたし、奪うのにも成功した。

 そうすれば洗脳は解けると思ってたのに、もしかしてこれだけしまゃ駄目なのか!?

 変化のない子供たちを前にして混乱し、何とかして洗脳を解こうと


「何しやがるこのクソガキ!」


 怒声と共に首が締められ強く引っ張られる。

 男の一人が俺の服の襟を後ろから掴んだのだ。

 俺の身体は宙に離され、そのまま後方へと投げ飛ばされてしまい、硬い砂利道に身を転がり倒れる。

 身体を起こし、咳き込みながら正面に顔を上げる。

 馬車を守るように猫背の男たちは俺の前に立ちはだかった。

  男たちは皆四十代前後の見た目で、間の抜けたような無表情の顔をしている。

 首筋に妙に深くたるんだしわがあるのが見え、そのせいで老けていると感じるのかもしれない。

 頭の形は幅が狭く、平べったい鼻に対し額と顎は酷く貧弱で、耳はあるのかないのか分からないぐらい未発達だった。

 長く厚ぼったい唇、蒼ざめた頬、皮膚病なのか顔の皮が歪んでおり、この闇夜の中で見ると悍ましさが増し嫌悪感を覚える。

 泥に塗れたみたいに土気色を帯びた体の割に小さく短い指がこちらを指している。


「オイ、何だこのガキは!催眠が効いてないのか!?」

「もう一度鈴を鳴らせ!堕とせ!」

「鈴がどこにもないぞ!?」

「そいつだ!そのガキが持ってるぞ!」


 男たちが俺が右手に持っている鈴を見る。

 やはりこの鈴を鳴らすと催眠状態になるのか!

 どういう原理か分からないが俺には鈴の催眠効果は効かないらしい。

 でも俺だって普通の子供だ。

 大人相手にリンチされたら気絶してしまうし、もう一度鈴を鳴らされて催眠状態にならないとも限らない。 

 この鈴は絶対に手放しては駄目だ!


「捕まえろ!鈴を奪い返せ!」


 誰かが叫び男たちが一斉に俺に襲いかかってくる。

 だが相手の動きは遅く、目に映る男たちの動きが手に取るように分かる。

 しっかりと観察しながら動けば避けれないものではない。

 今までジェイクに教わった動きの通りに動けば捕まらない!

 一人、また一人と迫ってくる男たちをひらりと躱し距離をとる。

 こいつら体躯の割に動きが普通の大人より鈍い。

 まるで歩くのに慣れていないみたいなぎこちなさを感じる。

 もしかして、こいつら海人族なのか?

 でも肌の色も体の大きさも人族の特徴が見える。

 海人族なら手に水掻きやヒレがあるはずだ。

 じゃあやはり人族?

 あぁもう、紛らわしいなこいつらの外見!

 相手が人族なのか海人族判別しようと観察していると、俺を捕まえ損ねた一人が懐からナイフを取り出す。


「チッ、もう面倒臭え。もうこいつ殺しちまおうぜ。生贄の数が一人少なくても問題ないだろう」


 いや沸点低すぎだろ!?

 面倒になるとそんなに簡単にナイフ出すのかこの世界の大人は!?

 他の男たちも次々と短剣を懐から取り出し構える。

 ナイフの刀身にはどれにも同じ紋様が刻まれている。

 その紋様は奇怪な形をしており、見てただけでは何か理解できない。

 あれ……俺あのナイフと同じ紋様、どこか別の場所で見たことあるような?


「捕まえて殺せ!」


 また男たちが一斉に襲いかかってくる。

 拳や蹴りならまだ落ち着いて対処できるが、さすがにナイフを振りかざす複数人を相手にするのは危険すぎる!

 ユリーネには人に向かって魔法は使うなって言われてるが、防衛しないと俺が死ぬ!

 振り回されるナイフを避けながら空いてる左手にマナを込める。

 相手を殺さないように無力化するなら、多少強引でもマナを抑えれば大丈夫なはず……!


「水よ!噴き出せ!」


 左手を突き出し手の平から水属性の魔法で大量の水を呼び出す。

 噴水のように噴き出る水が男たちを飲み込み、全身を水で濡らす。


「うわっぷ!なんだこれは、水か!?」

「このガキ、一丁前に魔法を使うのか!?」


 全身水浸しとなり男たちが戸惑う。

 その動きを止めた隙に俺は一歩後ろに下がり、水溜りから離れてもう一度左手にマナを込める。

バチリと音が鳴り、手の平に電が走る。

 俺の手に雷属性の魔法のモーションに、男たちは自分の水に濡れた体と魔法を構える俺を交互に見る。

 そして次に俺が何をするのか理解すると大きく慄いた。


「水から離れろ!こいつ、電流を……」


 もう遅い!

 死なない程度の電流ってどのくらいか分からないけど、かなりマナを絞ったからこの威力でも死なないはず!


「雷よ!蜘蛛となり奔れ!」


 左手を振るい雷を放つ。

 放たれた電光は子供の俺と同じぐらいの大きさの蜘蛛の姿を形成し、蜘蛛と同じように脚を動かし男たちへと奔って行く。

 雷魔法を避けようと男たちは宙に飛び逃げるが、蜘蛛の雷は男たちの目の前まで迫り跳躍する。

 すると雷の蜘蛛の身体が一斉に分裂した。

 分裂した雷の子蜘蛛はバラバラに逃げた敵を逃すまいと勢いよく飛び散り、男たちに突進し電撃となって直撃した。


「ぐあああああ!!」


 電撃に襲われる男たちの悲痛な悲鳴が響き渡る。

 空中に逃げるも雷魔法の直撃を受け、男たちは全身を痙攣させながら地面へと落ちた。

 上手くいったぞ、動物魔法シリーズ第二弾の蜘蛛!

 この世界の魔法はイメージの強さで形や威力、出力を変更することができる。

 大蛇と蜘蛛は俺が対峙した魔物だ。

 だからその恐ろしさが強く頭に刻まれており、それを魔法の効力に反映させている。

 正直形にするまでかなり辛いけど、人はトラウマを乗り越えた数だけ強くなるって偉い人も言ってたからな!

 実際魔物の姿をさせるのとさせないのではかなり威力に差が出る。

 それだけ俺の中で大蛇と蜘蛛の恐ろしさが身に染みていると言うことだ。

 雷の蜘蛛に撃たれた男たちも、もう立てないはず……。

 と思い安堵したが、男たちはまた立ち上がってきた。


「く、そっ……このガキ!」

「やってくれるじゃねぇか!」

「え、あれっ!?まだ立てるの!?」


 なんでだ、この一撃で気を失うまで行くはずなのに!?

 もしかして威力低すぎたか!?

 苛立ちよりも怒りを露わにした男たちが睨んでくる。

 相手を失神する程度の威力にしようしようと意識し過ぎたせいで、無意識の内に魔法の威力を下げすぎてしまったみたいだ。

 やっべぇ、どうしよう……。


「おい、早くそのガキをなんとかしろ!そろそろ鈴の効力が弱くなる……これ以上騒いだら催眠効果が切れるぞ!」


 相手の誰かがそう言って仲間を急かす。

 ほう、それは良いことを聞いたぞ。

 つまり鈴を鳴らしていない今の状態なら子供も大人たちも目を覚ますってことだな?

 良いこと考えたぁ〜!


「なんだあのガキ……気持ち悪い面してるぞ」

「あんたらに言われたくねぇよ!」


 妙案を思いつき笑顔を浮かべたら気持ち悪いって言われた!

 悍ましさを醸し出す面した奴らに言われたくはねぇ!

 遺憾の意を唱えながら左手にマナを込める。

 今度は攻撃目的のではない。

 だからこれでもかとマナを凝縮させる。

 左手に凝縮されたマナは次第に熱を帯び、火の玉となって夜を照らす灯りとなる。

 左手で急速に凝縮と誇大を繰り返す火の玉を見て男たちが狼狽え始める。

 

「お、おい……お前、それをどうするつもりだ」

「決まってるじゃないですか〜」


 笑顔で答えると左足を引き中腰になり体重をかけ、左手に生成した炎の玉をフルスイングで空へと投げ飛ばす!


「ヒィィィィウィィィィゴォォォォ!!」


 投げ飛ばされた炎の玉が空高く打ち上げられる。

 遥か頭上の闇夜に赤い光が一瞬煌めく。

 次の瞬間、爆音と共に空一面が炎が広がった。

 爆燃による音が空から地面へと降り注いでくる。

 耳に響く爆発音が王都全体に降り注いだ。

 耳を塞ぐと夜の空が昼間のように明るくなり、爆風により月を隠していた雲を吹き飛ばし消える。

 暗闇に包まれていた闇を月明かりが照らす。

 それと同時に周りに慌ただしい声が聞こえてくる。


「な、なんだ今の爆発!?」「敵か!?魔物か!?」「今何時だと思ってるのよ!」

「ここどこ!?ママ!ママァ!」「暗いよ狭いよ怖いよぉ!」「うわぁぁぁん!」


 同時に馬車からも子供たちの声が聞こえてきた。

 どうやら催眠が切れて皆目を覚まし始めたみたいだ。


「マズイぞ!民家に明かりが!」


 人の声が聞こえ始め男たちが慌て始める。

 屋敷からも何事かと玄関を飛び出しこちらを見ている人もいる。


「チッ、逃げるぞ!これ以上姿を見られる訳にはいかない!」

「このガキは!?」

「放っておけ!生贄を届けるのが先決だ!」


 対峙していた男たちが踵を返し馬車に乗り込む。

 このまま子供たちを何処かに連れて行くつもりのようだ。

 上層区から脱出しようと馬車が走り始める。

 だが……!


「させる訳ないだろうが!」


  馬車の中にはクラウラたちが乗っているんだ!

 見す見す逃す訳にはいかない!

 もう一度マナを左手に込めて地面に手を叩きつける。


「土よ!突き出ろ!」

 

 馬車の真下から地面が壁のように突き出た。

 突然目の前に壁が出現し、荷車を引いていた馬たちが鳴き声を上げて進行を止めた。

 だが発動が間に合わず、三台の馬車が通り抜けてしまう。


「逃げ遅れた奴は馬車を捨てて逃げろ!」


 壁を逃れた馬車から指示が飛ぶ。

 逃げ遅れた男たちはナイフで荷車を引いていた紐を切ると馬に乗って逃走してしまう。

 逃げる馬車を止めようと追いかけるが、すぐにその姿は城下町へと見えなくなってしまった。


「くそっ!逃した!」


 遠ざかる馬車を見て地団駄を踏む。

 せっかく見えていた月はまた雲に隠れてしまい、辺りは暗い闇に包まれてしまった。

攫われたクラウラ、暗躍する不気味な男たち、そしてライゼヌスは大いなる力によって影に覆われる。


次回投稿は来週末投稿予定です。

次回の更新は一回だけ……のはずです。

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