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二色眼の転生者《オッドアイズ・リ:ライフ》  作者: でってりゅー
第三章 ライゼヌスを覆う影
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第六十話 親としての過ち

昨日は「いつも通りに投稿」するの約束したな?


──あれは嘘だ


「それが、六年前にこの家で起きた事件だ」

「……」


 ジルミールが六年前に起こした強姦事件を聞き、俺は何とも言えずに黙る。

 話をしている内にジェイクは「私」から「俺」に話し方が変わっているのに気づいていない。

 

「あの子の日記を見たなら、その後俺やイルミニオさんがどうしたか……大体察しはつくだろう」

「屋敷からジルミールを追い出したんですね。そして彼がいた痕跡を全て消した」

「そうだ。そして二度と我々の間でジルミールの名前を口にしてはいけないと決められた」


 だから誰もジルミールの事を教えてくれなかったのか。

  サティーラもメアリーも、ジルミールがいた当時の事を知ってて俺に教えなかった。

 知られたくなかったのか、バルメルド家にそんな人間がいたことを。

 そして屋敷に置かれていたジルミールに関する物を全て処分した。

 廊下に置いてあった家族が授与されたトロフィーが仕舞われていたショーケース。

 不自然に空だった場所には元々ジルミールの物が置かれていたのだろう。

 それを尋ねた時にクラウラがはっきりとした拒絶を見せたのは思い出したくなかったからだ。

 幼少期に出会った最悪な男の事を。


「四年間……四年間一緒に過ごしていて、息子を殴ったのはあの時が初めてだった。殴られた時のジルミールの顔は今でも覚えている。俺を恐れ、痛みで涙を零し、困惑していたあの顔を忘れたことはない」

「まぁ、お義父さんの全力パンチはメチャクチャ痛いですからねぇ」


 俺も経験あるからどれだけ痛かったかわかる。

 禁断の森で殴られた時は頭吹っ飛ぶかと思ったし、実際身体は吹っ飛んだ。

 もっともジルミールの場合、ただ殴られた痛みだけではなく、実の父親に初めて殴られたという事実に心を傷めたのもあるだろう。

だからと言って、強姦なんかするやつに同情する気なんて微塵も起きないが。


「ジルミールの言っていた『友達』と言うのは、自分の言う事を聞く奴隷のようなものだった。自分の家よりも身分や立場の弱い者を脅して言う事を聞かせていたんだ。屋敷に勤めているメイドにも同様の手口でな。相手も一人二人ではなく、それこそ何十人もな」

「サイッテーのクズ野郎じゃないですか。どうしてそんな事を……つか、どこで覚えてきたんですか。そんなやり方」

「分からない……しかし、誰かから教えられたのは事実だ。それが誰かまでは分からなかったがな」


 はたして十二歳の子供が、他人を脅して従わせるなんてエグい事を考えつくだろうか?

 ましてやジェイクの子供だぞ?

 こんな生真面目の塊みたいな男の遺伝子を持った子が、クズの塊になるのなんて考えられん。


「あ!もしかして、俺がレイリスと友達になったと報告した時、お義父さんが渋ったのって……」

「ああ──ジルミールの時みたいに、君がレイリスちゃんに迫るんじゃないかと危惧したんだ。まぁ、杞憂だったがな」

「あーなるほどね!納得しましたわ」


 あの時の反応がずっと気になっていたんだがスッキリした。

 しかしジルミールは第三者にそそのかされた可能性が高いな。

 このライゼヌス王国では奴隷制度はない。

 そりゃ『亜人種皆家族』とか言う教えを掲げる『ギルニウス教』が主教の国だ。

 奴隷制度なんかを認める訳がない。

 

「しかし、あれだな……」

「なんですか、俺の顔じっと見て」

「話をしておいて何だが、君は私の話した内容の意味を全て理解できていたのだな」

「…………ハッ!」


 そうだよ!

 今の俺はまだ七歳の無知で無垢な少年だった!

 強姦とか言葉の意味を理解できてる訳がねぇ!


「イ、イヤダナァ……意味ヲ全部理解デキテルワケナイジャナイデスカァ」

「白々しいな。そういう時はいっそ開き直った方がいいぞ」

「いやぁ、俺頭いいから理解できちゃうんですよ!参ったなぁ、ハハッ!」

「苦しい上に酷い言い訳だな」


 ジェイクにダメ出しされてもはや乾いた笑いしか出てこない。

 いかんいかん、なまじ前世の知識があるだけに普通の子供が知らないような言葉まで理解できてしまう。

 これでは俺が本当は子供ではないことがバレてしま


「まぁ、君が歳相応の子供ではないことは知っている。様々な知識を持っていたとしても今更驚きはしないがな」


 そんな心配はなかったぜ!

 順応性の高い人で助かるわ。

 しかしこのままではボロが出てしまいそうだ。

 話題を戻そう。


「そ、それで?ジルミールを追放した後はどうなったんですか?」

「ジルミールは別の町に送られた。王都に……バルメルド家に居続けるのをイルミニオさんが認めなかった。二度と屋敷に足を踏む入れるな!とね。どこの町に送られたかは俺とユリーネには教えられてなかった」


 そういやイルミニオ、ジルミールが現れた時にも言ってたな。

 しかしそんなことを言われても屋敷に戻ってくるジルミールの度胸は大したものよ。

 歓迎されないだろうとわかっていただろうに。

 いや、単に馬鹿なだけか?


「その後は俺にとっては地獄の様な日々だった。ジルミールが脅していた子の家に頭を下げに行き、息子が犯した罪を受け止めきれず体調を崩したユリーネは倒れ、俺自身は騎士団内での立場がなかった」

 「じゃあニケロース領に住み始めたのって」

「そう、ジルミールの件があったからだ。イルミニオさんに頼み、ユリーネの療養の為に王都から遠いあの村に移り住んだんだ。しかしそんな俺たちを心配して、メアリーと二人のメイドがついてきてくれたんだ」


 なるほど、ニケロース領に住んでいたのにはそんな訳があったのか。

 跡取り探してる騎士の名家が辺鄙な村に住んでるのおかしいなぁとは思ってましたよええ。

 王都にはバルメルド家の息子が起こした問題を知っている人間がいるから、事情を知らない場所で探した方が都合が良かったわけね。


「メアリーたちの介護と土地のお陰でユリーネは元気を取り戻してくれた。俺も新しい土地で一からやり直そうと騎士団での仕事に専念した。もちろんユリーネの療養もだ。時間がかかったが、ああして元気な妻の姿を見た時は年甲斐もなく泣いてしまったよ」


 年甲斐もなくってことは、ユリーネが現在の状態に戻るまでかなり時間がかかったのだろう。

 二人の年齢は四十七歳だったはずだ。

 十八年前に子供が産まれたのなら、ジェイクとユリーネは当時二十代後半、そしてジルミールが追放されたのは六年前だからその時にはもう四十近くだったはず

 そして俺を養子として迎え入れたのが四十五の時だから、ユリーネの療養には四年近くかかったのだろう。


「でも、ジルミールの事件の傷が癒えた後に、よくまた子供を迎え入れようとなりましたね?」

 

 心に傷を負うほどの事件だったはずだ。

 それなのに、二人は養子を迎えようとした。

 俺だったら、怖くてもう一度子供を受け入れ育てようとは思えないかもしれない。

 俺の質問にジェイクは暫し戸惑うと俯く。


「……やり直したかった。もちろん、バルメルド家の跡取り候補として育てると言う目的もあった。だがそれは建前で、本当は失敗してしまった子育てをやり直したかったのかもしれない」

「つまり、俺は二人の失敗をやり直す為の人柱ってところですね!」

「ああ、君には失礼な話かもしれないが……」

「ええ、全く」


  笑顔で答えるが、失礼だとは思っていない。

 俺はバルメルド家に養子として迎え入れなれなければ、孤児として孤児院に送られていたかもしれないのだ。

 そうしたら、レイリスやニールにフロウ、ティンカーベルに坂田とセシールにすら会えなかったかもしれない。

 下手をすれば孤児院での生活に馴染めなかったり、別の家に引き取られても上手く行かないかもしれない。

 今の俺にとって、ジェイクとユリーネのいるこのバルメルド家が俺の家族であり家なのだ。

 だから──


「もし、君がこの話を聞いて俺を責めるなら……」

「責めたりなんてしませんよ」


 ジェイクの言葉を遮り否定する。

 俺が二人を責める要素なんて一つもない。

 むしろ感謝を口にしなければいけない。


「二人がどう言った理由で俺を受け入れたとしても、今まで一緒に過ごした俺に対しての優しさは本物でしょう?それとも、それも子育てに失敗しない為に自分に嘘をつきながら接してたんですか?」

「い、いや……それはない。それだけは断じて」

「なら、俺が怒る理由なんて一つもないでしょう。もし嘘ついてたって言ったら問答無用でぶん殴ってましたけど」


 まぁそれはないだろうって普段のジェイクとユリーネを見てたら分かるけど。

 もう二年近くも一緒に住んでるのだ。

 二人が自分に嘘をついてまで相手と接する様な人間でないことは知っている。

 それに俺とこの人たちを引き合わせたのは神様であるギルニウスだ。

 つまり俺が怒りの鉄拳を喰らわせるならジェイクにではなく神様にだ。

 どうせあの神様のことだから、ジェイクたちの事情も理解した上で俺を寄越したのだろう。

 ならば誰も悪くはない。

 神様を膝蹴りしてすれば全て丸く収まる。


「食事の時にも言いましたけど、俺は二人の引き取られて幸せだと思ってますよ。理由はどうあれ、身寄りのない俺を引き取ってくれたんですから」

「クロノス……」

「もしそのことで俺に罪悪感を感じるのならば、どっか美味しいお店に連れてってください」

「美味しい、お店?」

「せっかく王都に来たのに屋敷の食事だけなんて勿体無いですよ!だから王都で有名な美味しいお店に行きましょう!家族皆で!もちろんメアリーさんも!」


 ベルと城下町の遊戯店を遊び歩いていた際、気になるレストランをいくつか見つけた。

 帰る前に是非とも一度寄ってみたいのだ

 俺の提案にジェイクは少し混乱している。

 そんな軽い内容でいいのかと言いたそうだ。


「君はそれでいいのか?そんなので、許してくれるのか?」

「息子の俺がいいって言ってるんだから、それでいいんですよ。そん代わり、ちゃ〜んと連れてって下さいよ?約束ですからね。父さん」

「──ッ!ああ、約束だ……!」


 意地悪く笑う俺にジェイクが『父さん』と言う言葉に反応して力強く頷く。

 まだ俺はバルメルド家の跡取り候補には程遠いかもしれないが、少しだけ本当の家族には近づけた気がした。

次回予告


父ジェイクと家族としての第一歩を踏み出すクロノス

その夜少年は不思議な夢を見る

深海に沈む都市、そして冒涜的な生き物の群れだった

次回、『少年は海底都市の夢を見る』

この次も、SANビス、SANビスぅ!

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