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二色眼の転生者《オッドアイズ・リ:ライフ》  作者: でってりゅー
第三章 ライゼヌスを覆う影
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第五十八話 義父と養子

今日で連続投稿七日目だヤッター!

でもストック無くなりましたわガハハ!

また長期休暇の時に連続投稿できるようにストック溜め頑張ります


 ジルミールの乱入により俺の誕生日会はお流れとなり、屋敷の中は先日よりも静かだった。

 クラウラたちから疲れるまで追いかけ回されることもなく、風呂場で大騒ぎするでもなく、ただただ静かな夜を過ごしていた。

 ユリーネはジルミールがいなくなった後、体調を崩してしまい今は自室でジェイとサティーラが看病している。

 イルミニオや他の親類も皆自室に早々に篭ってしまった。

 だから今、談話室にいるのはボケーっとしている俺だけである。

 暖炉の火をじっと見つめながら、何をする訳でもなくジルミールのことを思い出していた。

 あいつが去り際の一言がどうしても気になっていた。


『教団の恐ろしさに気づいて謝っても、許さないからな!』


 教団……は、インスマス教団のことだろう。

 やっぱりジルミールは、昨夜城下町を散策した際に噴水広場で見かけた、インスマス教団の一人だったのか。

 だが教団の恐ろしさに気づくとは何のことだろう?

 仕返しに教団の人間を引き連れて屋敷に襲いに来るとか?

 いや、ここはライゼヌス騎士本部があるしバルメルド家の男は皆騎士だ。

 問題を起こせばすぐに騎士団が来て鎮圧されるのが目に見えている。

 ならば一体ジルミールが言っていたのはどんな意味があるんだ?

 まさかとは思うが、インスマス教団は本当に何かこのライゼヌスで何かをするつもりなのか……?

 暖炉の火を眺めながらジルミールの発言に懸念を抱く。

 そんな時、談話室の扉が開いてメイドさんが現れた。


「クロノス坊っちゃま、まだお休みになられて無かったのですか?」

「メアリーさん」

「私の名前を……そうでしたね。知られてしまったんでしたね」


 メイドさん──メアリーは、俺に名前を知られてしまったのに喜びとも戸惑いとも言えない表情を見せる。


「一年以上同じ家で一緒に暮らしてたのに、使用人の名前を知らないってのがおかしいんですけどね」

「そうでございますね。ですが私たちの場合、旦那様……ジェイク様から、坊っちゃまに名前を教えてはならないときつく言われておりましたので」

「あぁ、やっぱりお義父さんの差し金だったんですね」


 俺がバルメルド家の養子として迎えられた当初から、俺には住み込みで働いている三人のメイドの名前は教えられてなかった。

 『見ざる聞かざる言わざる』が我が家のメイドの鉄則なのだ。

 だからメイドの名前を知る必要はないと、前に言われたことがある。


「最初の頃は話しかけてもまともに返事もくれませんでしたよね」

「申し訳ございません。そうせよと、ジェイク様から言われておりましたので」

「でも半年ぐらいしたら、普通に話しかけても返してくれるようになりましたよね?」

「クロノス坊っちゃまなら大丈夫だろうとジェイク様が判断なされたので……私たちも坊っちゃまを嫌悪しての行動ではなかったのです」

「それは分かってましたよ。でもなんで名前は教えてくれなかったんですか?エルフのレイリスみたいに真名を教えちゃダメってルールでもあるんですか?」

「その理由は、ジェイク様に直接お聞きした方が宜しいかと」

「もしかして、あのバカ息子が関係あります?」


 俺の問いにメアリーは答えない。

 ただ黙って俯くだけだ。

 でもその態度だけでわかる。

 やはり関係があるのだ。

 俺が養子としてバルメルド家に迎えられた当初にメイドの態度が余所余所しかったのも、未だにメイドの名前を教えられてなかったのも、全てジルミールに関することが原因なのだ。

 なら、聞きに行こうじゃないか。

 ジェイクとユリーネ、二人の本当の子供のジルミールが何をしでかし、何故この屋敷から追放されたのか。


「メアリーさん。お義父さんを呼んできて下さい。今夜の内に全部聞いときます」

「聞くのには覚悟が入ります。よろしいのですか?」

「バルメルド家の事情を聞く覚悟なら、養子として入った時からずぅっとできてますよ、俺ァ」

「──かしこまりました」


 そうだ、覚悟ならできている。

 むしろ聞くのが遅すぎたぐらいなのだ。

 だけど、今聞いてもまだ遅くはないだろう。

 メアリーは立ち上がりお辞儀をするとジェイクを呼びに談話室を後にする。

 ジェイクが談話室に現れたのは、それから数十分程過ぎた頃だった。

 いつもの覇気に満ちた表情はなく、憔悴した顔で部屋へと入ってくる。

 やはりジルミールのことでかなり参ってしまったようだ。


「待たせたね……クロノス」

「大丈夫ですか?」

「あぁ、かなり動揺していたが、今しがた眠りについたところだ。もうお母さんは大丈夫だ」

「いや、お義母さんもそうですけど、お義父さんも結構酷い顔してますよ?」

「私が……?」

「ええ、今にもぶっ倒れそうです。やっぱりまた明日にでも」

「いや、気にしないでくれ。それに今話さないと、きっと二度と話す機会がなくなる」


 心配する俺を手で制す。

 だが顔色が優れないジェイクに無理に話をさせる訳にも……


「分かりました。じゃあ……テラスで話しません?」


 気分転換にと思い、俺は談話室の窓、テラスを指差し提案した。


        ✳︎


「いい風ですね。ちょっと潮の匂いがしますけど」


 ジェイクをテラスに連れ出し、肺いっぱいに空気を吸う。

 春の夜風は少し冷たいが、屋敷の中の重苦しい空気よりも何倍もマシに思える。

 だが今宵の風はちと潮の匂いが強いな。

 つか磯臭い!

 どこかで大量の魚を扱ってる屋台でもあるのか?

 それでも屋敷のどんよりした空気よりマシなのは間違いないので、この際気にしないでおこう。

 テラスに出て夜風に当たったからか、ジェイクの顔色が少し良くなった気がする。


「いい風だな……」

「でしょう?顔色も少し良くなった気がしますよ」

「子供に気を遣われてしまうとは……情けないな」

「そんなこと言ったら、俺なんてもっと情けない姿いっぱいお義父さんに見られてますよ?大蛇の時でしょ?レイリスが女の子って分かった時もそうだし、フロウの時もだし、禁断の森から出て泣いた所も見られてますし、まだまだいっぱいありますよ!だから一度情けない姿を見られたぐらいでしょげないしょげない!」

「初めて会った時から思ってたが、君は本当に子供らしくないな。これではどっちが大人か分からんな」


 俺の励ましにジェイクは苦笑いして見せる。

 ようやく表情の変化が見れたので、俺は少しだけ安堵した。

 テラスの手すりに寄りかかると、ジェイクは重い口をゆっくりと開き始める。


「……今日は、すまなかったね。せっかくの誕生日会だったのに、私たちのせいで台無しにしてしまって」

「お義父さんたちのせいではないでしょう。全部あのジルミールが現れたから起きたことです」

「だがジルミールが君にあんな行動をしてしまったのは、私たちに原因がある」


 あんな行動とは、ケーキを床に叩きつけたのと俺をやたら煽ってきたことか。

 あんな子供っぽい煽りで怒るほど、俺は子供ではないので平気だ。


「それこそ気にしないでください。あんなんで怒るほど小さい器じゃありません」

「そう言ってくれると助かるよ」


 なんてたって俺は心が広いからな。

 あんなのに煽られても動じたりしないのだ。


「それじゃ、聞かせてください。お義父さんとお義母さんとジルミール。三人の間で何があったのか」


 ジェイクは静かに頷くと言葉を選びながら、ぽつりぽつりと話始める。


「ジルミールは……十八年前、まだ私とお義母さんがこの屋敷に住んでいた頃に産まれたんだ」


 十八年前、二人はまだ二十代前半か。

 この二人が若い頃の姿とか想像できんな。


「第一子が誕生し、それが長男とわかると私もイルミニオさんも大喜びだった」


 その時の光景が容易に想像できる。

 イルミニオは親バカであり爺バカだ。

 きっとあの厳つい顔を綻ばせて喜んだことだろう。


「君はジルミールの事を知っている風な口ぶりだったね。一体どこで?メアリーさんや他の叔父さんたちにも、その名前を君の耳に入れないようにしていたはずなんだけど」

「この屋敷の書庫、本棚に日記が隠してあったんですよ」

 「そうだったのか……まだ他にも日記が、全部処分したつもりだったんだがな。それで昨日から使用人たちが慌ただしく動いてたのか」


 日記の存在はイルミニオとサティーラ、そしてメアリーには教えていた。

 だがジェイクの耳に入っていないと言うことは、教えたくなかったのだろう。

 昔の嫌な記憶を無理に思い出させる必要もないと気を遣ったのだろう。


「ジルミールの日記には、『色んな子と仲良くしていたのがバレた』って書いてありました。それが原因で追い出されたとも。彼は一体何を?ヤバイ人たちとでもお友達だったんですか?」

「まさか、あいつにそんなのと付き合う胆力はない。あいつは、この王都で同世代の女の子と多く交友関係を持っていた」


 それはつまり、ハーレムを作ろうとしてたってこと?

 何それ羨ましいんだけど、でもそれ自体は何も悪くないような。


「そしてジルミールは──強姦事件を起こした」


 ジェイクの言葉に耳を疑う。

 強姦……あの小物みたいな男が!?

 開いた口が塞がらない。

 そんな俺を見てジェイクが小さく笑う。


「私も最初に聞いた時、君のように唖然としたよ。自分の息子が、それもあんな気の小さい子がそんなことをするなんてな……。でも起きてしまった。最悪な記念日だったよ」


 遠い目をしてジェイクは中庭を見つめる。

 彼の昔話は胃がもたれそうな程ヘビーな内容だった。

次回投稿はいつも通り週末を予定しております。

予定崩さないように頑張ります。

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